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荒瀬ダムから考える〈乱流総選挙〉法大・五十嵐敬喜教授( 朝日新聞 2012年12月6日)

2012年12月6日
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五十嵐敬喜法政大教授 が撤去工事中の荒瀬ダムの現場で公共事業のあり方を語る記事です。

荒瀬ダムから考える〈乱流総選挙〉法大・五十嵐敬喜教授( 朝日新聞 2012年12月6日)
http://digital.asahi.com/articles/TKY201212050782.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_TKY201212050782
(写真)五十嵐敬喜さん。「アユがどの程度戻ってくるのか楽しみです」=熊本県八代市の球磨川河口で、郭允撮影
(写真)五十嵐敬喜さん=熊本県八代市の荒瀬ダム、郭允撮影
日本3大急流のひとつに数えられる熊本県の球磨川。林業が盛んだった土地らしく深い緑に包まれている。その中流にある荒瀬ダムで9月、全国初となる大規模ダムの撤去工事が始まった。
人口が減り始めたこの国に、ふさわしい公共事業のあり方とは。公共事業研究の第一人者、五十嵐敬喜さんと「廃ダム」の現場を歩いて考えた。
《八代市中心部から車で30分。球磨川に沿って国道を縫うように進むと、9本の巨大なコンクリートの柱が見えてきた。高さ25メートル、幅211メートルの荒瀬ダムだ。開放されたゲートから勢いよく水が流れ出ている。ゲートはすでに一部が撤去され、6年かけて完全に解体する。》
――高度成長を支えたダムが消えゆく姿に時代のうねりを感じます。
「少子高齢化と低成長に直面する日本にとって、ここは、公共事業のあり方を問う拠点になります。長い年月をかけて巨費を投じるコンクリート事業は、これまで『造る』という概念のみで、『壊す』という発想はありませんでした。
人口減少社会ではダムだけでなく、道路、橋、トンネルなどの老朽化が進み、不要なものがどんどん増える。お金をかけてでも壊さなければ、危険なものさえある。
土砂がたまったダムをそのまま開放すると、ヘドロが吐き出され、海は死ぬ。ダムは原子炉と同じく、20世紀が生み出した取り返しのつかない産業廃棄物になるのではないか、と懸念しています」
「熊本県はダム存廃で判断が揺れました。費用の出し手がいなければ壊したくても壊せない。国か、自治体か、電力などの受益事業体か、それとも地元か。
荒瀬ダムを教訓に、巨大公共事業の撤去費を誰がどう負担するのか、国全体でルールを決めなければなりません。また、今後新たに公共事業を行う場合は、撤去費を含めた費用対効果を考えるべきです。
事故が起きたときの費用を無視して原子力発電のコストを計算してはいけないのと、構図は同じです」
「私は早急に公共事業基本法を制定する必要があると考えています。どのような条件なら新規着工するのか、あるいは中止するのか、維持補修の時期や責任、中止した場合の損害の補償など、公共事業の大きな枠組みを決める。
1988年に長良川河口堰(かこうぜき)(三重県)が、89年に諫早湾干拓事業(長崎県)が着工された際、多くの人が自然を破壊する無駄な事業だと思った。本来はこのときに基本法を作るべきでした」
■人口減少に直面、巨大事業の転換点 「壊すルール」必要
――五十嵐さんは菅直人首相時代の内閣官房参与です。中枢から公共事業を変えられなかったのですか。
「何もできずに申し訳ないと思っています。市民の集会に行くと、『共犯だ』とやじられます。政権内部で公共事業基本法の制定や少子高齢化社会の新たな都市・農村の姿、そして国土のあり方を検討しようと決意していたのですが、就任3日目に東日本大震災が起きてしまった」
「私は家を失った人への対応にあたりました。仮設住宅はいずれ撤去するので、大量のがれきを生む。寒い避難所で仮設住宅ができるのを待つだけでなく、被災者に素早くお金を渡す選択肢を増やせないか、と考えました。
仮設住宅の建設には1戸300万円、撤去には100万円かかるわけですが、同じ費用を被災者がとりあえず自由に使えれば、復興の道筋も見えてくる。何よりも自力。自治の活力が出る。
しかし国土交通省は『厚生労働省の管轄』。厚労省は『前例がない』。財務省は『国民の税金を個人に使うわけにはいかない』。首相は国会やマスコミから『早く仮設を造れ』と責められる。国を動かそうとすると、一事が万事そういう具合になる」
――公共事業ひとつをとっても、霞が関の壁を越えられなかったということですか。政治主導を実現する具体案はありますか。
「国民の『政治参加』がキーワードになると考えています。自治体では、住民が無駄な公共事業について監査請求する権利が認められている。これと同じように、国に対し不当な支出を監査請求できる権限を与えるべきです。国民の声を直接届けられるようにすれば、被災地と関係ない事業に復興予算をばらまくような、むちゃな公共事業は消えます」
「注意しておきたいのは、官僚が勝手に復興予算をばらまいたわけではなく、復興基本法に基づいた、ある意味で合法な支出とも言えなくはない。それを可能にしている国会にこそ重大な責任がある。ばらまきがばれたあと、国会があわてて厳重に注意する姿は、漫画チックです」
《荒瀬ダムから約20キロほど下流の球磨川河口。干潮時に訪れると干潟が広がり、地元の人がアナジャコを取っていた。ダムのゲートが常時開いたのは2010年4月。地元の環境カウンセラー、つる詳子さんは「自然が急回復している」。絶滅危惧種のミドリシャミセンガイも増えたという。》
――自然と共生する意味を考えさせられます。しかし公共事業は地域経済を支えてきたはずです。
「そうだとしても景気浮揚効果や雇用は一過性です。そのことは『失われた20年』が証明しています」
「国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によると、日本の人口は2100年に最小で3700万人程度になるといいます。いまの3割ほどです。
これは公共事業だけでなく社会保障、教育、経済、外交、つまり日本社会のすべてに決定的な質の転換を要求する。原発、消費税、TPP(環太平洋経済連携協定)の議論は大切ですが、政策は短期的な視点でなく、人口減少が進んでいくという大きな文脈の中で考えるべきです。
早い話、人口がいまの3割ほどになったら原発は不要だし、食料の自給も難しくない。他方で65歳以上の人が4割になる。地域によっては全員が高齢者、一人暮らしというような社会に備えなければならない」
――それでは縮小均衡に陥りませんか。やはり成長が必要なのでは。
「上げ潮派が言う『成長』は、お金の面から見た成長です。でもお金は、人口減少社会でも豊かさを象徴するものでしょうか。
家族に見守られて自宅で最期を迎えたい、隣近所が介護や子育てを喜んで助ける、そういうふうに社会の価値観が移っていく。共に助け合う社会が大切だ、と被災地のみなさんが教えてくれているではありませんか」
「私は『競争の社会』から『共助の社会』へと国のかたちを変えていくべきだと思います。農業、漁業、商店街、そして町づくり。これらはもう一人ひとりの才覚だけではうまくいかない。
地域の人が参加し、そこで得た利益はその社会で分け合っていく。そんな自治を基本に、人口減少社会の設計図を描くべきです。財政に余裕はなく、国にいつまでもおぶさっていくような政治スタイルは切り替えなければなりません」
■成長か脱成長か 共助の社会にあう設計図を競え
――実現可能でしょうか。
「欧州では、町はみんなのもの、という考え方が定着しています。都市では土地の所有権と利用権が分離され、所有権は個人の手に置かれるが、利用権は自治体が共同管理する。観光などから得た利益は様々な形で市民に還元されています」
「日本にもヒントがあります。たとえば大平正芳内閣の『田園都市構想』。道路や新幹線を引っ張って列島を改造するのではなく、職場と住まいを近接させ、3万~4万人程度の都市を川の水脈に沿って造ろうとした。
エネルギーを含めて自給自足が可能な『環境配慮型』の小さなコミュニティーを大切にする思想は、人口減少時代のモデルになるはずです。成長か脱成長か。そんな大きな構図で国のかたちを見つめ直し、具体的な政策に落とし込んだ設計図を政党・政治家は競うべきです」
■取材を終えて
五十嵐さんと荒瀬ダムを歩いてから数日後、中央自動車道のトンネル崩落事故が起きた。老朽化が指摘されている。このトンネルに限らず、数十年使われたインフラには今後、巨額の撤去費や維持補修費がかかるだろう。
政治家は聞こえのいい新規事業ばかりに目を向けていないか。財源は限られている。公共事業に無関心ではいられない。(高野真吾)

〈荒瀬ダム(熊本県八代市)〉1955年に完成した発電目的の県営ダム。県単独事業で総工費29億円。ダム湖周辺の悪臭や振動などのため、2002年に潮谷義子知事が撤去を決めた。
後任の蒲島郁夫知事は08年、撤去費の試算が見通しより膨らんだことなどから存続を表明したが、地元漁協の反対などでダムに必要な水利権延長の見通しが立たず、10年に撤去を決めた。
撤去費は88億円。国の協力を得た結果、内訳は県68億円、国土交通省13億円、環境省6億円。

いがらし・たかよし 44年生まれ。専門は公共事業論。68年弁護士登録し95年から現職。菅内閣で内閣官房参与。著書に「公共事業をどうするか」(共著)など。

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