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霞ケ浦導水事業の控訴審が大詰めに 那珂川の漁業被害が焦点

茨城・栃木両県の那珂川関係の8漁業協同組合が霞ケ浦導水事業の差止めを求めた裁判の控訴審が大詰めを迎えています。来年1月には最終弁論が予定されています。
霞ケ浦導水事業とは、利根川と霞ヶ浦を結ぶ利根導水路、霞ヶ浦と那珂川を結ぶ那珂導水路を建設して、利根川、霞ヶ浦、那珂川の間で水を行き来きさせるようにする事業で、現段階の総事業費は約1900億円です。
利根導水路は1994年に完成し、那珂導水路は工事中で、那珂川の漁協が2008年にその工事の差し止めを求めて、水戸地方裁判所に提訴しました。
2015年7月の水戸地裁の判決は原告敗訴でしたので、漁協側は東京高等裁判所に控訴し、去る9月19日には証人尋問が行われました。
霞ケ浦導水事業の問題点と、裁判で訴えたことを簡単に紹介します。
なお、那珂川はアユの漁獲高で日本一になることが多い天然アユのメッカであり、最下流で合流する涸沼川はシジミの三大産地の一つです。

1  霞ケ浦導水事業について

霞ケ浦導水事業の目的は次の三つです。
① 茨城県・千葉県・東京都・埼玉県の都市用水を開発する。
② 渇水時に利根川、那珂川へ補給する。
③ 利根川、那珂川からの導水で霞ケ浦等の水質を改善する。
しかし、都市用水の需要が減少の一途を辿り、水あまりが一層顕著になっていく時代において、①、②の必要性は失われています。
③の霞ケ浦の水質改善も国交省の机上の計算によるものに過ぎず、導水で霞ケ浦の水質が改善されることはなく、導水事業の目的はいずれも虚構です。
 

2  霞ケ浦導水事業による那珂川の漁業被害
導水事業による那珂川の漁業被害は那珂川から霞ヶ浦への導水、霞ヶ浦から那珂川への送水の両方で引き起こされます。

① 那珂川から霞ヶ浦への導水による漁業被害
最大で毎秒15㎥という大量の水が那珂川から取水され、時には那珂川の流量が取水地点より下流は急に2/3に落ち込みますので、那珂川を遊泳している魚類の生息に大きな影響が与えます。特に影響が大きいのは秋から冬にかけて降河するアユの仔魚 (しぎょ) 、仔アユです。
仔魚とは、卵から孵化したばかりの稚魚の前段階の幼生のことです。 仔アユは自力では遊泳することができないので、流れに乗って、餌の豊富な河口城に到達し、そこでようやく餌を食べます。
仔アユが河口域に到達するまでの間は、腹部に蓄えている卵黄を消費しながら生存するのですが、卵黄は4日分しかないので、その期間内に河口域に到達しないと、仔魚は餓死することになります。
したがって、導水事業による那珂川からの毎秒15㎥の取水により、自力では遊泳できない仔アユが取水口から吸い込まれたり、取水口付近で滞留して餓死することが予想されます。

② 霞ヶ浦から那珂川への送水による漁業被害
霞ヶ浦の水はアオコなど、植物プランクトンの異常増殖で水質がひどく悪化しています。そのような汚濁水が清流の那珂川に最大で毎秒11㎥も送られるのですから、那珂川の水生生物、魚介類、漁業に対して大きな影響を与えることは必至です。
最も懸念されるのはカビ臭物質です。那珂川ではほとんどないカビ臭物質が霞ケ浦では植物プランクトンによって高濃度で生産されており、それが那珂川に持ち込まれて、那珂川の魚類、涸沼シジミをカビ臭くさせ、それらが出荷停止の事態になることが予想されます。
霞ケ浦からの送水は那珂川の渇水時に行われることになっていますので、那珂川でのカビ臭物質の濃度もかなり高くなり、魚介類への影響が避けられません。
さらに、霞ヶ浦の有機汚濁物質(BOD)は那珂川のそれの7~8倍にもなりますので、送水による那珂川の汚濁進行で、那珂川の魚類がダメージを受けることも予想されます。

3  9月19日の証人尋問
9月19日の第7回口頭弁論では、原告側証人の尋問が行われました。
証人は嶋津、濱田篤信さん(元・茨城県内水面水産試験場長)、石嶋久男さん(元・栃木県水産試験場指導環境部長)の3人でした。
私(嶋津)は、霞ケ浦から那珂川への送水によって那珂川の水質がどのように変化するのか、それによってどのような漁業被害が起きると予想されるのかを中心にして証言を行いました。
この証言に使ったスライドの主要なものを解説付きでに掲載しました。お読みいただければと思います。
霞ヶ浦導水裁判の証言スライド(嶋津)抜粋
裁判の結果は予断を許しませんが、裁判長は導水事業の漁業被害について耳を傾けているようであり、一審判決のような一方的な判決にはならないことを期待しています、
この差し止め訴訟を闘ってこられた那珂川漁協の君島恭一組合長が9月26日にご逝去されました。享年84歳でした。
この控訴審は君島さんの弔い合戦になりました。
裁判の結果が那珂川の漁協にとってよいものになることを祈るばかりです。

 

 

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