大阪市水道民営化の動きとその問題点
2017年3月10日
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水道民営化の道を開く水道法改正の閣議決定が3月7日に行われました。水道施設に関する公共施設等運営権を民間事業者に設定できる仕組みを導入するというものです。
これを先取りして民営化を進めようとしているのが大阪市水道です。
今年1月に大阪市は「水道事業における公共施設等運営権制度の活用について(実施プラン案)平成27年8月修正版」を公表しました。http://www.city.osaka.lg.jp/suido/page/0000324186.html#2
これはPFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)を活用し、大阪市水道設置条例を改正して、公共施設等運営権制度を導入するというものです。
この大阪市の水道民営化の動きに対してその問題点を指摘する論考「市民に悪影響なのに 大阪市水道民営化のなぜ」がありますので、参考までにお送りします。
これを読むと、公共施設等運営権制度を導入して水道の民営化を進める意味が一体どこにあるのかと思います。
市民に悪影響なのに 大阪市水道民営化のなぜ
(ニュースソクラ 2017/1/6(金) 13:00配信) http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170106-00010002-socra-pol
維新の「大阪都構想」へのこだわりが背景に
今、大阪市では大阪維新の会の市長が打ち出している水道事業の民営化を巡って、市議会が紛糾している。民営化されれば全国初だが、品質の維持や安定供給できるのかなどを巡って議論は紛糾、可決には至らず、継続審議案件となった。「貧乏人は水も飲めんようになるのか」という反発も広がっている。
大阪市の水道民営化の出発点は2008年にさかのぼる。タレント弁護士から転身して大阪府知事に就任したばかりの橋下徹・前府知事が、大阪府守口市の淀川沿いに大阪府と大阪市の浄水場が近接して建っているのを「二重行政」と批判して、水道事業の統合協議が始まった。
大阪府も大阪市も水道施設は水の需要を大きく上回る処理能力があり、数字上は「一つでも賄える」。そのうえ、高度経済成長時に整備が進んだ水道管などの設備が更新時期を迎え、多額の費用がかかることも背景にあった。
しかし、協議に入ると大阪府、大阪市だけでなく、大阪府から水供給を受けている衛星都市も含めて思惑や利害が対立し、2010年に大阪府と大阪市の水道事業統合は破たん。翌年、大阪府で水道事業を担当する府水道部を府から切り離して「大阪広域水道企業団」という一部事務組合とし、市町村は各自の判断でこの企業団に参加することとなった。
一方、大阪市は、2011年12月に府知事からくら替えした橋下・前大阪市長が就任し、水道事業の一本化に再チャレンジする。大阪市水道局を企業団に統合する協議が大阪市と企業団の間で始まった。
しかし、企業団の一員になると「安さが自慢」の大阪市の水道料金が維持できないと予想されることなどから、大阪市議会は2013年5月、企業団との統合を「市民にメリットなし」と否決した。橋下前市長は2010年4月に旗揚げした地域政党「大阪維新の会」の代表であり、大阪市議会でも維新が与党ではあったが過半数はなかったためだ。
すると、大阪市議会が企業団との統合を否決した翌月、大阪市長、副市長以下、市幹部職員らで構成される「大阪市戦略会議」の方針として「水道事業の民営化の検討」が発表された。
これは、同じ頃に閣議決定された安倍政権の「骨太の方針」と成長戦略に歩調を合わせたもの。大阪市議会が大阪市の水道事業は独立路線を選択したため、橋下前市長が「二重行政の解消」と振り上げた拳の下ろし先が「民営化」になったのだ。
そもそも、何のための民営化なのか。大阪市水道局は、高品質の水を安い料金で提供してなお年間約100億円の黒字を確保している。リスクを冒して民営化に踏み切る状況にはみえない。
2015年12月に橋下前市長からバトンタッチした吉村洋文・大阪市長は、民営化によって水道料金が値下がりしたら市民にアピールできる「実績」になると考えているふしもある。
吉村市長は、「人件費削減による効率化」を全面に打ち出している。大阪市の試算では、民営化したら30年間で910億円のコスト削減ができ、一方で法人税や法人住民税で570億円の負担が発生するため、吉村市長は政府に税制優遇措置を求めている。
吉村市長の号令の下、大阪市が検討する民営化とはどんな形態なのか。まず、水道局を市から切り離して「株式会社」に改組し、市の100%子会社にするとしている。3~5年後をめどに株式を売却して民間出資を受け入れる方針だったが、これは議会や市民の反発を招き、吉村市長は株式売却については発言しなくなった。民間出資の方向性をあいまいにしているため、株式「上場」の話には至っていない。
問題は、世界各地では民営化が水質の悪化や水道料金の高騰を招き、巨額のコストを負担して公営に戻す自治体が続出していることだ。パリ、ベルリン、アトランタなど先進国の都市でも再公営化されている。
具体的にどんな問題が生じたのか。アトランタでは人員削減と料金値上げの末、浄化処理のレベルを落としすぎて水道の蛇口から茶色の水が出たこともあった。インディアナポリスでは、何百万人もの市民に対し「水道水は煮沸してから使用するように」という警告が発せられ、学校が休校になるところまで追い詰められた。
既にこれほどに、海外で失敗例があるのに、今更なぜ民営化なのか。市民の間からは「時代遅れの政策」と反対運動もでてきている。
長年にわたって大阪の水道事業をウオッチしているNPO法人「水政策研究所」(大阪市北区)の北川雅之理事は「人口減少などで水道事業を支え切れなくなっている中小の自治体と、水道が優良公営事業である大阪市では事情が違う」と話す。
「安倍政権は成長戦略で上下水道事業の民営化を打ち出しているが、水道供給に負担の大きい中小の自治体が民営化という形で人件費を削減して乗り切る逃げ道を作ったに過ぎない。生命維持に不可欠な水の供給に携わる仕事でむやみに人件費を削っていいのかという問題もあるし、大阪市がそんな方針に乗っかるのは優良な水道サービスを享受している市民の利益を考えていない」と語る。
では、大阪市の水道事業は未来永劫、安泰かと言えばそうではない。人口減少などにより今の水道料金では二十数年後に「赤字」になるという試算もある。しかし、需要の低下は民営化しても避けられず、むしろ、そういう事態が想定されるからこそ、「命の水」は公営で支えるべきものだ。
民営化=コストカット=商品の値下がり=消費者にメリット、という考え方は水道事業にはあてはまらない。水道は洋服を買うように消費者が自由に商品を選べない。民営化=コストカット=水道サービスが悪化=消費者に被害、もしくは、民営化=会社の利益優先=水道料金の上昇=消費者に被害、という結果は海外の失敗例を見ても容易に予想される。
大阪市営事業の民営化を考える上で、松井一郎府知事、吉村大阪市長をはじめ大阪維新の会の政治家たちが、2015年5月の住民投票で否決された「大阪都構想」にまだこだわっていることを忘れてはならない。
大阪市を廃止して東京のような特別区に解体するのが大阪都構想なので、大阪市営事業は邪魔なのである。大阪市がなくなれば、大阪市営事業は混乱が避けられないからだ。
前述の水政策研究所の北川理事が更に問題点を指摘する。「今後、水需要が高まる予測はなく設備過剰は確実なのだから、浄水場の規模を半分にして、土地の販売を売却したら大阪市の収入になる。設備縮小だって10年がかり。早く手をつけるほど早く合理化できるのに、民営化計画が出て来て設備縮小の話はストップしてしまった」と民営化論議が、必要な政策の先送りにつながっているという。
「二重行政の解消」という大阪維新の会の看板に端を発した大阪市の迷走はいつまで続くのだろうか。
■幸田 泉(ジャーナリスト)
立命館大学理工学部卒業。1989年に大手新聞に入社。大阪本社社会部で大阪府警、大阪地検など担当。東京本社社会部では警察庁などを担当。2012年から2年間、記者職を離れて大阪本社販売局に勤務。2014年に退社し、販売局での体験をベースに書いた『小説・新聞社販売局』(2015年9月、講談社)がその赤裸々さゆえにベストセラーに。
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