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「石木ダム総事業の工事を停止して、洪水時の流量測定の実行」を提案

2025年6月30日に長崎県知事に下記「2024年度石木ダム事業計画変更に関する提案」を提出しました。

2025年6月30日

長崎県知事
大石 賢吾 様

2024年度石木ダム事業計画変更に関する長崎県への提案

 

石木ダム建設絶対反対同盟を支援する会(共有地権者の会)

代表  遠藤保男

 

「石木ダム総事業の工事を停止して、洪水時の流量測定の実行」を長崎県に提案します。

令和6年(2024年)8月2日に長崎県が「令和6年度 第2回長崎県公共事業評価監視委員会」を開催しました(https://www.pref.nagasaki.jp/press-contents/676249/index.html)。 この会議は、同会議に長崎県が配布した「令和6年度 第2回長崎県公共事業評価監視委員会」(https://www.pref.nagasaki.jp/shared/uploads/2024/08/1722557457.pdf)に沿って進行しました。長崎県が同委員会に諮った内容は上記配布資料の3枚目上段「①石木ダムの総事業費を、物価上昇やリスク対策費の追加などにより、285億円から420億円に変更します。これにより、治水負担分が88億円の増、利水負担分が47億円の増となります。②工期については、付替県道工事の遅れや建設業における働き方改革対応などのため、完成工期を令和14年度(2032年度)まで7年間延長します。」でした。同委員会の審議結果は、諮問内容を承認するでした。長崎県は同年10月4日に同計画変更を決定しました(2025年6月18日長崎県職員への電話聞き取り)。

事業の進捗状況<進捗率>は上記配布資料の18ページに、新事業費ベースで約50.1%〔210.4億円/420億円〕、その内訳は、用地取得率が100%、家屋移転が 54 / 67 戸で80.6%、付替県道 1.70 / 3.16 kmで31.6%、その他付替道路が 0.74 / 3.73 mで19.8%、本体工事は基礎掘削が21 / 19 千m³で11%、コンクリート打設が0 / 157千m3で0%、試験湛水は未実施、としています。  以上のようにダム本体工事は基礎掘削11%以外は未着手状態ですから、今こそが、石木ダム建設事業見直しの絶好のタイミングと考えます。

川棚川水系の治水上、石木ダムが本当に必要なのでしょうか。

石木ダムの治水上の目的は、上の図が示すように、「川棚川の石木川合流点下流域の洪水調節計画規模(治水安全度)を1/100(=基本高水流量1,400m³/秒)対応とする。対象降雨量(計画降雨量)を3時間雨量203mm/3時間・24時間雨量400㎜/24時間とする。この降雨で流出する水量(計画高水流量)1,400m³/秒を河道に1,130m³/秒流下させ、余りの270m³/秒については、既設の野々川ダムで80m³/秒を貯留し、新規ダム=石木ダムで190m³/秒を貯留する。」つまり、河川改修+ダムの併用、としています。右の表は、石木ダムがないときの流下能力は1,130m³/秒なので、基本高水流量に相当する1,320m³/秒が流下しても対応できるように、石木ダムで制御する、と説明しています。

問題は、190m³/秒調節(ダムや遊水地に貯留・放水路で逃がすなど)のために、石木ダムが必要なのか、です

次の二つ、①川棚川水系河川整備計画(変更)が想定している、対象降雨量(計画降雨量)を3時間雨量203mm/3時間・24時間雨量400㎜/24時間とする事態が起こりうるのか、⓶起こりうるとした場合、対応策として石木ダムが不可欠なのか、について検討します。

先ずは、100年に1回起きるとした対象降雨量を24時間最大雨量400㎜/24時間としたことについて、統計学的検討を記します。長崎県が「石木ダム計画検討業務委託報告書(河川整備基本方針)」のⅡ-98ページに「計画対象の実績拡大型9洪水(計画雨量400mm/24hr)を対象として、野々川ダム、石木ダムを考慮した計画高水計算モデルにより、流出量の算出を行った結果、表10-2-1に示すとおりいずれも(筆者注:いずれの地点でも)昭和42年7月9日洪水型(Ⅲ型拡大)にて最大流量を発生し、基準地点山道橋でl,130m3/sとなる。」としています。表10-2-1を下に転載します。

昭和42年7月9日洪水型」は、昭和42年7月9日降雨を100年に1度のⅢ型降雨として変換したパターンです。上記委託報告書Ⅱ-45右下に掲載されているパターン=グラフ(ハイエットグラフと呼びます)を下に転載します。

グラフの黒い部分全体は昭和42年7月9日降雨実績で、白い部分は「Ⅲ型100年に1度」に引伸ばした分の値です。最大1時間雨量実績値は117㎜/時、引伸ばし後の1時間雨量最大値は138㎜/時です。

Ⅲ型引延ばしをおこなったことで、ハイエットグラフの3時間雨量を構成する1時間雨量の中に1時間雨量138㎜/時という突出した雨量があります。この現象に対して、統計学的検討を進める必要がありますが、すでに筆者は嶋津暉之氏と共同で、起こりうる確率の計算を行っていました。気象庁・佐世保観測所の1946~2012年間毎年の年最大時間雨量に0.94をかけて得られた数値を川棚川流域の雨量データ(これらのデータは水文量と呼ばれています)とし、それらの数値について、財団法人国土技術研究センター発行の「水文統計ユーティリティーVersion1.3」を用いて得られた結果を確率水文量確率計算一覧表として下に記します。

確率水文量確率計算結果一覧表

1行目の2列目以降は、確率水文量の生起確率計算方式です。すべて、正式名の略称を表示しました。1列目は、何年に1回なのかの年数を示しています。1列目の確率年80とは「80年に1回」という意味です。

その結果、100年に1回起こりうる1時間最大雨量については、上記表の空色のセル群で、7つの算出方式(Gev・LogP3・Iwai・LN3Q・LN3PM・LN2LM・LN2PM)それぞれが、110.7㎜/時・110.6㎜/時・106.0㎜/時・105.7㎜/時・110.2㎜/時・106.3㎜/時・105.8㎜/時でした。すべての方式が信頼性の指標(SLSCという指標値が0.02以下)を満たしていました。1時間最大雨量の実績値はハイエットグラフ上に記した117m³/秒ですが、引伸ばし後の1時間雨量最大値138㎜/時は、20mm/時以上も多いのです。上記表の中でピンクのセルは、1時間1時間雨量138㎜/時に近い数値は2ケースあり、生起確率が500年に1回が3つの方式(Gev・LogP3・LN3PM)でそれぞれの値は137.1㎜/時・137.2㎜/時・136.4(㎜/時)、1000年程度に1回は4つの方式(Iwai・LN3Q・LN2LM・LN2PM)それぞれが、137.5㎜/時・137.2㎜/時・137.8㎜/時 137.1㎜/時でした。

以上より、S42.7.9洪水型(Ⅲ型拡大)の降雨強度時間変化図(ハイエットグラフ)に示されている引伸ばし後の最大1時間雨量138㎜/時は、100年に1度ではなく、500年ないし1000年に1度起きる降雨であることがわかりました。なお、S42.7.9洪水の最大1時間雨量実績値117m³/秒は上記表で薄緑のセルで、引伸ばす以前に150年から200年に1度の雨量でした。

表10-2-1の「No.4 S42.7.9洪水(Ⅲ型)」は、前述したように、最大1時間雨量138㎜/時は「100年に1度ではなく、500年ないし1000年に1度起きる降雨」に相当します。表10-2-1の最大値である「No.4 S42.7.9洪水(Ⅲ型)」を川棚川計画高水流量とするのは誤りです。表10-2-1 川棚川主要地点計画高水流量算定結果一覧表に従えば、「No.4 S42.7.9洪水(Ⅲ型)」以外の洪水はすべてが、川棚川の流下能力1,130m³/秒以下です。

よって、【川棚川計画高水流量は1,130m³/秒以下で石木ダムは不要】、が結論です。

不思議なことに、長崎県は石木川の石木ダム上流域を含めた川棚川水系全域において、1度も洪水時の流量を実測したことがありません。長崎県の「計画高水計算モデル」には、実績洪水時での検証がないのです。あわせて、長崎県が公表している河道流下能力も流量実測による検証がありません。長崎県は「計画高水計算モデルの検証」「流下能力の検証」をしなければなりません。そのためには、「洪水時の流量測定」が不可欠です。

「石木ダム総事業の工事を停止して、洪水時の流量測定の実行」を長崎県に提案します。

 

便益配分率の視点からの検討  治水対策としての代替案

石木ダムによる、治水面での便益配分率を長崎県が当方の資料開示請求に応じて開示した「2 7河第1 4 3 号 費用対効果分析資料 平成2 7年1 0月5日」に基づいて記します。石木ダムの本来の目的は、川棚川の石木川合流点より下流域の治水安全度を1/100にすることでした。しかしながらその手法は、本来の目的である、下記表のA区間(河口から石木川合流点)への便益配分率は、0.259しかないとしています。

これだけ便益配分率が低い石木ダム建設に石木ダム総事業費を使うのであれば、石木ダム建設を中止して、その経費を川棚川水系全体の治水対策=流域治水に要する事業費の1部として繰り込むことを提案します。

川棚川の場合は、沿川に田畑が広がっています。例えば「田んぼダム」の導入、農業用水路に工夫を重ねて田んぼ等を「大雨時の遊水地」として借用し「農業者の不利益を補償する」仕組みの導入、なども考えられます。山間部からの流出制御には、森林の保全活用も大切です。

受益予定者皆さんの合意形成のもとで、流域治水の取組みを提案します。

2025年6月30日

石木ダム建設絶対反対同盟を支援する会(共有地権者の会)

遠藤保男

〒223 0064 神奈川県横浜市港北区下田町6-2-28
090-8682-8610

 

国、川辺川ダム建設事業に「事業認定申請書提出」

2025年5月16日、国土交通大臣は国土交通大臣に対して、川辺川ダム建設事業への「事業認定申請」を行いました。

2008年当時と同様、同ダム建設事業と完成後の同ダムによって侵害される、水没予定地内すべての地上権利と、漁業権の収用・使用を任意交渉だけでなく、法的手段=土地収用法の適用 で確保しなければ、川辺川ダム建設に入れないからです。

このような場合、従来は任意交渉主体でダムによって侵害される諸権利の補償を進め、任意交渉では取得できなかった諸権利を確保するために、土地収用法が適用されていました。今回は川辺川ダム建設事業が令和4年(2022年)8月9日に策定された法定計画(球磨川水系河川整備計画)に盛り込まれてからわずか3年で「土地収用法適用=事認定申請付きでの着工」発表です。

令和7年(2025年)5月16日に国のホームページに以下の記事が掲載されました。
「川辺川の流水型ダムについては、令和2年<2020年)7月豪雨被害からの早期の復旧・復興に向け、球磨川流域の安全・安心を確保するため、早期に球磨川流域の治水安全度の向上を図ることを目的に、令和9年度<2027年度)にダム本体基礎掘削工事に着手し、令和17年度(2035年度)に事業を完了させることを目標としています。」

事業認定申請書 表紙

「事業認定申請書」について詳しくは、https://suigenren.jp/damlist/dammap/kawabegawadam/#a20250605

 

このような異常に急速な進行は、「川辺川ダムでは2020年洪水には対応できない」ことを国自身が認めている中でのカケとしか言いようがありません。「どのような反論があろうとも、事業認定を申請しているのだから、最後は行政代執行。逆らい続けると大損をするよ!!」との「国と熊本県による宣言」=「脅し」ですね。

この暴挙に対する市民皆さんの「川辺川ダム建設事業への想い」を知らせるチラシを掲載します。

 

事業認定申請が、反対から守る手続きであることを示す図土地収用法の流れ20250607を下に掲載します。筆者(遠藤保男)の愚策です。この図が示すように事業認定申請が出されてしまうと反対する上での有効な法的手続きは皆無に等しいのが現実と言えるでしょう。言ってしまえば、「起業者が断念せざるを得ない状況を造る」に尽きると言えるのでは。私が知る限りでは、水没予定地と受益予定地両方で「ダム不要」が一致したところは、ダム中止を勝ち取っています。そういう状況を意識しながら、各級議会議員皆さんの協力も意識して、起業者・関係自治体への「中止要請」を貫きましょう。

参考:川辺川の水質は水質が最も流行な河川です。

国土交通省 九州地方整備局 川辺川ダム砂防事務所のホームページに掲載されています。国自身が自慢する川辺川の水質が、川辺川ダムによって激変することを止めないのはどうしてでしょう?

川辺川が17年連続「水質が最も良好な河川」となりました!

 

 

 

「八ツ場ダム問題と全国のダム問題」の報告

2月4日に「八ツ場あしたの会」の総会があり、嶋津の方から「八ツ場ダム問題と全国のダム問題」を報告しました。

報告の要点を下記に記しますので、長文ですが、お読みいただきたいと存じます。

当日使ったスライドは八ツ場ダム問題と全国のダム問題20230204 -4をご覧ください。

スライドとの対応をスライド番号№で示しましたので、詳しい内容はスライドを見ていただきたいと思います。

今回の報告「八ツ場ダム問題と全国のダム問題」は次の5点で構成されています。

Ⅰ これからの八ツ場ダムで危惧されること

Ⅱ 利根川の治水対策として、八ツ場ダムは意味があるのか。むしろ、有害な存在になるのではないか。

Ⅲ 水道等の需要が一層縮小していく時代において八ツ場ダムは利水面でも無用の存在である。

Ⅳ ダム問題の経過

Ⅴ 国交省の「流域治水の推進」(2021年度から)のまやかし

 

八ツ場ダム問題と全国のダム問題

Ⅰ これからの八ツ場ダムで危惧されること(スライド№2~5)

1 吾妻渓谷の変貌(スライド№3)

2 八ツ場ダム湖の浮遊性藻類の増殖による水質悪化(スライド№3)

3 夏期には貯水位が大きく下がり、観光地としての魅力が乏しくなる八ツ場ダム湖(スライド№4)

写真1 国交省のフォトモンタージュ(打越代替地から見た八ツ場ダム湖)

写真2 2022年7月の八ツ場ダム貯水池の横壁地区の岸壁(湖岸の岩肌が28m以上も剥き出し)

4 八ツ場ダムは堆砂が急速に進行し、長野原町中心部で氾濫の危険性をつくり出す。(スライド№5)

5 ダム湖周辺での地すべり発生の危険性(スライド№5)

 

Ⅱ 利根川の治水対策として、八ツ場ダムは意味があるのか。むしろ、有害な存在になるのではないか。(スライド№6~19)

1 八ツ場ダムの緊急放流の危険性(スライド№7~8)

2019年10月の台風19号で、八ツ場ダムが本格運用されていれば、緊急放流を行う事態になっていました。

2 ダムの緊急放流の恐さ(スライド№9~13)

ダムは計画を超えた洪水に対しては洪水調節機能を喪失し、流入洪水をそのまま放流します(緊急放流)。

ダム下流の河道はダムの洪水調節効果を前提とした流下能力しか確保しない計画になっているので、ダムが洪水調節機能を失えば、氾濫の危険性が高まります。

しかも、ダムは洪水調節機能を失うと、放流量を急激に増やすため、ダム下流の住民に対して避難する時間をも奪ってしまいます。

3 ダムの効果が小さかった2015年9月の鬼怒川水害(スライド№14~18)

4 治水対策としての八ツ場ダムの問題点(スライド№19)

ダムの治水効果は下流へ行くほど、減衰していくので、八ツ場ダムの治水効果は利根川の中下流部ではかなり減衰すると考えられ、八ツ場ダムは利根川の治水対策としてほとんど意味を持ちません。

地球温暖化に伴って短時間強雨の頻度が増す中、八ツ場ダムに近い距離にあるダム下流の吾妻川では、むしろ、八ツ場ダムの緊急放流による氾濫を恐れなければなりません。

 

Ⅲ 水道等の水需要が一層縮小していく時代において八ツ場ダムは利水面でも無用の存在である。(スライド№20~25)

1 八ツ場ダムの利水予定者と参画量(スライド№21)

2 水道用水の需要は縮小の一途(スライド№22~23)

全国の水道の水需要は2000年代になってからは確実な減少傾向となり、その傾向は今後も続いていきます。(減少要因:人口減、節水機器の普及、漏水の減少等)

3 群馬県の例「前橋市等の自己水源(地下水)の削減と水道料金の値上げ」(スライド№24)

4 石木ダム建設の主目的「佐世保市水道の水源確保」の虚構(スライド№25)

 

Ⅳ ダム問題の経過(スライド№26~45)

1 ダムの建設基数の経過(スライド№27)

2 ダム事業見直しの経過(スライド№28~33)

○1996年からダム事業が徐々に中止

○田中康夫・長野県知事の脱ダム宣言

○淀川水系流域委員会の提言(2005年1月)

3 2009年9月からのダム見直しの結(スライド№34~39)

2009年9月に発足した民主党政権は早速、ダム見直しを明言したものの、私たちの期待を裏切る結果になりました。

4 八ツ場ダムの検証結果 事業継続  2011年12月 (スライド№40~41)

八ツ場ダム事業推進の真の目的は約6500億円という超巨額の公費を投入することにあった。

5 ダムの検証状況 (2018年10月1日現在)(スライド№42~44)

中止ダムのほとんどはダム事業者の意向によって中止になったのであって、適切な検証が行われた結果によるものではありませんでした。

6 中止になったダムの建設再開を求める動き(スライド№45)

 

Ⅴ 国交省の「流域治水の推進」(2021年度から)のまやかし(スライド№46~54)

1 国交省の「流域治水の推進」のまやかし(スライド№47)

流域治水には治水対策としてありうるものがほとんど盛り込まれています。治水ダムの建設・再生、遊水地整備もしっかり入っており、「流域の推進」が従前のダム事業推進の隠れ蓑にもなっています。球磨川がその典型例です。

2 球磨川流域治水プロジェクト(スライド№48~49)

本プロジェクトは流水型ダム(川辺川ダム)の整備、市房ダム再開発、遊水池整備などに、約4336億円という凄まじい超巨額の公費を球磨川に投じていくことになっています。

また、川辺川ダムはすでに約2200億円の事業費が使われていますので、現段階の川辺川ダムの総事業費は約4900億円にもなる見通しです。

このように、球磨川では2020年7月大水害への対応が必要ということで、球磨川流域治水プロジェクトの名のもとに、凄まじい規模の公費が投じられようとしています。

3 流水型川辺川ダムへの疑問(1)2020年7月球磨川豪雨の再来に対応できない川辺川ダム(スライド№50~51)

川辺川ダムがあっても、2020年7月球磨川水害の死者を救うことができませんでした。球磨川流域の死者50人の9割は球磨村と人吉市の住民で、支流の氾濫によるものでしたから、川辺川ダムがあっても命を守ることができませんでした。

4 流水型川辺川ダムへの疑問(2)自然に優しくない流水型川辺川ダム(スライド№52~54)

「自然にやさしい」を名目にして、川辺川ダムは流水型ダム(穴あきダム)で計画されています。既設の流水型ダム5基の実態を見ると、「自然にやさしい」という話はダム推進のためのうたい文句にすぎず、川の自然に多大な影響を与える存在になっています。

 

5 国の流域治水関連法と流域治水プロジェクト(スライド№55)

国交省は2021年5月に「流域治水関連法」をつくり、全国の河川で「流域治水プロジェクト」を進めつつあります。このプロジェクトは施策がとにかく盛沢山で、ダム建設、遊水池整備、霞堤の保全、堤防整備、雨水貯留施設の整備など、治水に関して考えられるものは何でも入っているというもので、実際にどこまで実現性があり、有効に機能するものであるかは分かりません。それは、基本的には従前の河川・ダム事業を「流域治水プロジェクト」の名のもとに続け、河川予算を獲得していくものであって、そこには「脱ダム」の精神が見られません。

その典型例が「球磨川流域治水プロジェクト」です。このプロジェクトは流水型川辺川ダムの建設等に球磨川に超巨額の公費を投入することを目的にしています。そのプロジェクトで流域の人々の安全が確保されるかというと、実際はそうではなく、更に球磨川の自然も大きな影響を受けるものになっています。

 

 

脱ダムの理念がない「流域治水」のまやかし

2023年1月22日
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手持ち資料と最新データを使って、「脱ダムの理念がない「流域治水」のまやかし」をスライド形式の報告でまとめました。

その報告を水源連のHPにアップしました。脱ダムの理念がない「流域治水」のまやかし 2023年1月25日

詳細はそのスライドで説明しております。

その主な内容を下記に記しますので、長文ですが、お読みいただきたいと存じます。

スライドとの対応をスライド番号№で示しましたので、詳しい内容はスライドを見ていただきたいと思います。

今回の報告「「脱ダムの理念がない「流域治水」のまやかし」は次の4点で構成されています。

Ⅰ 「流域治水」を前面に打ち出した国土交通省

Ⅱ 球磨川水系の「流域治水」の現実(流水型川辺川ダム等の推進の隠れ蓑)

Ⅲ 淀川水系における脱ダムへの取組み(本来の「流域治水」は脱ダムの理念から生まれた)

Ⅳ 滋賀県の流域治水推進条例と国の流域治水関連法

 

Ⅰ 「流域治水」を前面に打ち出した国土交通省(スライド№2~13)

Ⅰ-1  国交省「水管理・国土保全局」 2023年度予算(スライド№3~4)

従前の河川・ダム事業は「流域治水の本格的実践」という名称になって予算要求が行われるようになりました。

 Ⅰ-2  国交省の「流域治水施策集」(スライド№5~7)

流域治水には治水対策としてありうるものがほとんど盛り込まれており、治水ダムの建設・再生、遊水地の整備もしっかり入っています。

 Ⅰ-3 流域治水関連法ができたのは2021年5月(スライド№8)

流域治水関連法(「特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律」)ができたのは、2021年5月で、内容は多岐にわたっています。

流域水害対策計画の策定、雨水貯留浸透施設の整備計画の認定、貯留機能保全区域の指定、浸水被害防止地域の指定と建築物の規制、河川法の改正(利水ダムの事前放流の拡大)、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

流域治水関連法は大変わかりづらい法律です。国交省がその後、同法を従前の河川事業を推進する隠れ蓑にしたことは改正当時の予想を超えるものがありました。

 Ⅰ-4 利水ダムの事前放流について(スライド№9~11)

流域治水関連法の関連で位置づけられた「利水ダムの事前放流」は法改正前の2020年度から国土交通省の通達で始まっています。実際にダムの事前放流がどれほどの効果があるかは、疑問です。事前放流をするためには、豪雨の数日前から予測する必要がありますが、気象予測は進歩しているとはいえ、正確な予測はそれほど易しいことではありません。2022年も台風14号に備えて、ダムの事前放流が数多くのダムで行われましたが、ほとんどが空振りであったようです。

 Ⅰ-5  流域治水プロジェクト(2021年3月~)(スライド№12~13)

国が始めた「流域治水プロジェクト」は施策がとにかく盛沢山で、ダム建設、遊水池整備、霞堤の保全、堤防整備、雨水貯留施設の整備など、考えられるものは何でも入っているというもので、実際にどこまで実現性があり、有効に機能するものであるかは分かりません。

時にはダム建設をカモフラージュするための隠れ蓑にもなり、また、住民に移転を迫る遊水地の建設を推進するものにもなっています。

 

Ⅱ 球磨川の「流域治水」の現実 川辺川ダム等の推進の隠れ蓑(スライド№14~35)

Ⅱ-1 球磨川流域治水プロジェクトの内容(スライド№15~17)

本プロジェクトには流水型ダム(川辺川ダム)の整備、市房ダム再開発、遊水池整備もしっかり入っています。

その対策費用はロードマップに河川対策約1636億円と記されていますが、流水型ダムの費用は含まれていません。

流水型川辺川ダムの残事業費は約2700億円ですので、上述の1636億円と合わせると、これから球磨川には約4336億円という凄まじい超巨額の公費が投じられていくことになります。

そして、市房ダム再開発は内容がまだ決まっていないということで、その再開発の事業費は含まれていません。

また、川辺川ダムはすでに約2200億円の事業費が使われていますので、現段階の川辺川ダムの総事業費は約4900億円にもなる見通しです。

このように、球磨川では2020年7月大水害への対応が必要ということで、球磨川流域治水プロジェクトの名のもとに、凄まじい規模の公費が投じられようとしています。

それによって、流域の人々の安全が確保されるかというと、実際はそうではなく、一方で、このプロジェクトは球磨川の自然に大きな影響を与え、住民に移転を迫る遊水地の建設を推進するものにもなっています。

 Ⅱ-2 流水型川辺川ダムへの疑問(1)(2020年7月球磨川豪雨の再来に対応できない川辺川ダム)(スライド№18~23)

球磨川流域の死者50人の9割は球磨村と人吉市の住民でした。球磨村と人吉市の犠牲のほとんどは、球磨川の支川(小川、山田川等)の氾濫が球磨川本川の氾濫よりかなり早く進行したことによるものでしたから、当時、川辺川ダムがあって本川の水位上昇を仮に小さくできたとしても犠牲者の命を救うことはできませんでした。

2020年7月豪雨による球磨川大氾濫の最大の要因は球磨川本川と支川の河床掘削があまり実施されてこなかったことにあります。

国交省は川辺川ダム事業の必要性が損なわれないように、すなわち、川辺川ダムの推進のために、球磨川は高い河床高の状態が据え置かれてきました。そのことが主たる要因になって、2020年7月洪水で球磨川が大氾濫し、凄まじい災厄がもたらされました。

 Ⅱ-3 流水型川辺川ダムへの疑問(2)(自然に優しくない流水型川辺川ダム)(スライド№24~29)

「自然にやさしい」を名目にして、川辺川ダムは流水型ダム(穴あきダム)で計画されています。現時点で既設の流水型ダムは5基ですが、それらの実態を見ると、「自然にやさしい」という話はダム推進のためのうたい文句にすぎず、川の自然に多大な影響を与える存在になっています。

  1.  生物にとっての連続性の遮断
  2.  ダム貯水域は流入土砂、土石が堆積した荒れ放題の野原へ
  3.  ダム下流河川の河床の泥質化、瀬や淵の構造の衰退
  4.  河川水の濁りが長期化
  5.  けた違いに大きい流水型川辺川ダム

Ⅱ-4 「遊水地の整備」への疑問 (スライド№30~31)

先祖代々の土地、現在の生活、コミュニティを喪失させる遊水地は安易につくるべきではありません。遊水地の洪水調節容量は合わせて約600万㎥ですから、その治水効果は小さなものです。そのために90世帯も移転しなければならないのでしょうか。

 Ⅱー5 「市房ダム再開発」への疑問(スライド№32)

市房ダムは再開発ではなく、環境問題(下流河床の軟岩露出)と緊急放流の常態化問題から考えて撤去すべきダムです。

 Ⅱー6 問題だらけの球磨川流域治水プロジェクトは根本からの見直しが必要(スライド№33)

球磨川流域治水プロジェクトは、「流域治水」を名乗っているものの、必要性が疑わしい流水型川辺川ダムの整備などに超巨額の公費を投入するというもので、大規模河川事業が中心になっており、「流域治水」という言葉が受けるイメージとは大きく異なるものになっています。

このプロジェクトの最大の目的は、2020年7月熊本豪雨の再来に対して人々の命を守ることであるはずなのに、超巨額の公費を球磨川に投入すること自体がこのプロジェクトの目的になってしまっています。

そして、これらの大規模河川事業によって、球磨川の自然が損なわれることは必至であり、そして、流域住民の生活も多大な影響を与えるものになっています。

私たちは「流域治水」という言葉に惑わされることなく、球磨川において流域住民の命と生活を守る真に有効な治水対策、球磨川と川辺川の自然を損なわない治水対策を追求していかなければなりません。

【参考】蒲島郁夫・熊本県知事と潮谷義子・前知事(スライド№34~35)

蒲島郁夫・熊本県知事は2008年に川辺川ダムの白紙撤回を求めた知事として評価されていますが、もともと、蒲島氏は決して脱ダム派の知事ではありません。蒲島氏は当時、推進の方向に舵を切ろうと考えていたと思われますが、その見解を発表する前に、ダムサイト予定地の相良村長と、ダムの最大の受益地とされていた人吉市長が川辺川ダムの白紙撤回を表明したことにより、蒲島氏は予定を変え、「球磨川は県民の宝であるから、川辺川ダムの白紙撤回を求める」との見解を発表したと推測されます。

一方、前知事、潮谷義子さんは川辺川ダムを中止させるため、2001年から懸命の努力を続けました。川辺川ダムに対して懐疑的な姿勢をとり続け、荒瀬ダム撤去の路線を敷いた潮谷義子・前知事は信念の人であると思いますが、蒲島氏はそうではなく、所詮はオポチュニストではないでしょうか。

 

Ⅲ 淀川水系における脱ダムへの取組み(本来の「流域治水」は脱ダムから生まれた)(スライド№36~57)

Ⅲ-1 淀川水系流域委員会の脱ダムへの取組み(スライド№37~40)

淀川水系の脱ダムへの取り組みは、宮本博司氏が中心になって進められました。宮本氏は国交省近畿地方整備局淀川河川事務所長として淀川水系流域委員会(2001年~)の立ち上げに尽力し、2006年に退職してからは、新淀川水系流域委員会(2007~2009年)には一市民として応募し、委員長に就任しました。

淀川水系流域委員会は2005年1月に淀川水系の五つの新規ダム計画(大戸川(だいどがわ)ダム、丹生(にう)ダム、川上ダム、余野川ダム)を原則として中止することを求める提言をまとめました。

さらに、新淀川水系流域委員会が2008年4月に、国交省が中止を決定した余野川ダムを除く4ダムについて原則中止を提言しました。

 Ⅲ-2 4府県知事、大戸川ダム反対の共同意見を発表(共同意見を主導したのは滋賀県の嘉田由紀子知事)(スライド№41~42)

淀川水系流域委員会の提言がベースになって、大阪、京都、滋賀、三重の4府県知事は2008年11月、大戸川ダムを「計画に位置づける必要はない」とする共同意見を発表しました。

4府県知事の大戸川ダム反対の共同意見を主導したのは滋賀県の嘉田由紀子知事(現・参議院議員)です。嘉田さんは環境問題に取り組む研究者として、淀川水系におけるダム建設の見直しを主導しました。

 【参考】淀川水系5ダムのその後(スライド№43~46)

淀川水系流域委員会が中止を求めた5ダムのうち、余野川ダムは2008年に、丹生ダムは2016年に中止されました。しかし、残りの3ダムは中止されませんでした。

大戸川ダムについては嘉田氏の後継として滋賀県知事となった三日月大造氏が2019年4月、淀川水系の大戸川ダムの建設を容認する方針を正式発表しました。

天ヶ瀬ダム再開発と川上ダムに対しては住民による反対運動が続けられてきました。残念ながら、両ダムとも事業が進められ、終盤の段階になっています。

 Ⅲ-3 流域治水の推進で模範となるのは滋賀県の条例 (嘉田由紀子知事が制定)(スライド№47~59)

流域治水の推進に関して模範となるのは、2014年3月に制定された「流域治水の推進に関する条例」(当時の知事は嘉田由紀子・現参議院議員)です。

この流域治水は流域全体で洪水を受け止め、水害を最小限にしていく治水対策を進めなければならないという理念のもとに、河川整備だけでなく、土地利用や建築の規制によって、地域の浸水被害の低減を図るものです。

この流域治水推進条例で特筆すべきことは、浸水警戒区域(200年確率の降雨が生じた場合に、想定浸水深がおおむね3mを超える土地の区域)を指定し、住居の用に供する等の建築物を建築しようとする建築主は、あらかじめ、知事の許可を受ける必要があるとしたことです。この指定区域が徐々に増えてきています。

そして、浸水警戒区域内で既存住宅を建て替える場合、2階が浸水しないようにするための嵩上げなどの費用の一部を支援・助成する制度が2017年6月につくられました。400万円を上限として、嵩上げなどの費用の1/2を県が補助するもので、この補助制度も画期的なものです。

浸水警戒区域の指定は、滋賀県の「地先の安全度マップ」に基づいて行われています。「地先の安全度マップ」は「頻繁に想定される大雨(1/10)」から「計画規模を超える(一級河川整備の将来目標を超える)降雨規模(1/100, 1/200)」までを想定し、降雨規模1/10、1/100、1/200の三つがつくられています。そのうちの1/200の「地先の安全度マップ」の範囲が浸水警戒区域の指定対象になります。

「地先の安全度マップ」は滋賀県が独自に➀ 複数の河川の同時はん濫を考慮、② 内水はん濫を考慮、➂未完成堤防の破堤条件を厳しく考慮して作成した画期的なもので、国、他の自治体も大いに参考にすべきです。

滋賀県の上記の浸水警戒区域への取組みに対して、国の流域治水関連法の浸水被害防止区域の記述は極めてあいまいであり、実効性が不明です。

 

Ⅳ 滋賀県の流域治水推進条例と国の流域治水関連法(スライド№60)

滋賀県の流域治水推進条例はダム等に頼らずに、流域全体で洪水を受け止め、水害を最小限にしていく治水対策を進めなければならないという理念のもとに策定されたものです。

一方、国の流域治水関連法は基本的には従前の河川・ダム事業を「流域治水プロジェクト」の名のもとに続け、河川予算を獲得していくものであって、そこには「脱ダム」の精神が見られません。だからこそ、浸水被害防止区域の記述は極めてあいまいであり、実効性が不明になっているのです。

 

以上です。

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