淀川水系の天ヶ瀬ダム再開発事業の虚構
2017年11月14日
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淀川水系流域委員会が2005年に淀川水系5ダムの中止を求めました。その後の国交省近畿地方整備局の反動化により、5ダムのうち、余野川ダム(2008年)、丹生ダム(2016年)は中止になったものの、天ヶ瀬ダム再開発、川上ダム、大戸川ダムは推進になりました。
ただし、大戸川ダムは事業を具体化するためには淀川水系河川整備計画の変更が必要です。
川上ダムと天ヶ瀬ダム再開発は工事が進められていますが、川上ダムは既報のとおり、三重県伊賀市で反対運動が続けられています。
また、天ヶ瀬ダム再開発についても反対の活動が行われています。京都府民が京都府を被告として公金支出の差止めを求めて京都地方裁判所に2015年に提訴し、現在、京都地裁で裁判が進行中です。
この訴訟の原告弁護団から今年春に嶋津に技術的な支援の要請がありましたので、10月に意見書を提出しました。
その意見書を掲載しました。
天ヶ瀬ダム再開発の問題点を皆様にも知っていただくため、そのポイントを下記の通り、まとめてみました。
1 天ヶ瀬ダム再開発について
1964年に淀川支流の宇治川に建設された天ヶ瀬ダム(総貯水容量2628万㎥)にトンネル式放流設備を新設して、放流能力を840㎥/秒から1500㎥/秒に増強する事業です。次の三つを目的としています。、
① 治水:宇治川および淀川において洪水を安全に流下させ、琵琶湖に貯留された洪水の速やかな放流(琵琶湖の後期放流)を実現する。
② 水道:京都府水道の水利権を0.3㎥/秒から0.9㎥/秒に増強する。
③ 発電:関西電力(株)の喜撰発電所の発電能力を110,000kW増強する。
この事業も事業費増額と工期延長の計画変更が繰り返されてきており、今年4月の基本計画変更により、完成予定の工期が当初計画の2001年度が2021年度末に延長され、総事業費が当初計画の330億円が約590億円に増額されました。
今回の計画変更の主な理由は想定外の地質(破砕帯が広く出現)に遭遇したことでした。
2 琵琶湖後期放流1500㎥/秒の非実現性
天ヶ瀬ダム再開発は上記の三つを目的としていますが、主たる目的は①の琵琶湖後期放流であり、そのために天ヶ瀬ダム再開発事業が計画されました。琵琶湖の出口に瀬田川洗堰があって、大雨が降った時は淀川下流部を守るために、洗堰の全閉操作が行われます。淀川の水位が下がり始めたら、洗堰のゲートを開けて琵琶湖の水を放流することになっています。この放流量は現状では最大840㎥/秒ですが、これを1500㎥/秒に引き上げて、琵琶湖の水位を早く下げるようにするというのが、天ヶ瀬ダム再開発の琵琶湖後期放流という目的です。
〔注〕琵琶湖が流れ出た瀬田川が滋賀県から京都府に入ると、宇治川の名称になります。
しかし、琵琶湖の洗堰からの放流量を1500㎥/秒に引き上げるためには瀬田川と宇治川の流下能力も1500㎥/秒以上にしなければなりません。宇治川は流下能力が最も小さいところは1100㎥/秒しかなく、また、瀬田川は全般的に流下能力が宇治川より小さく、1500㎥/秒を下回っている区間の方が多く、流下能力が最も小さいところは730㎥/秒しかありません。したがって、瀬田川と宇治川の全川において1500㎥/秒の流下能力を確保するためには、きわめて大規模な河床掘削等の工事が必要となり、巨額の費用と長い長い年月を要することは確実です。さらに、河床掘削を行う区間には優れた景観を形成している「鹿跳渓谷」が瀬田川にあり、宇治川にも優れた景観が形成されている「塔の島地区」があり、それらの優れた景観を台無しにする河床掘削について市民の同意を得ることが困難です。
したがって、天ヶ瀬ダムだけ、1500㎥/秒の放流能力を確保しても、琵琶湖後期放流1500㎥/秒は実現性がありません。
そして、1997年3月に完了した琵琶湖総合開発事業により、琵琶湖で湖水位が上昇した時の対策工事が行われており、深刻な浸水被害が発生しないようになっていますので、後期放流1500㎥/秒自体の必要性が失われています。
3 京都府水道が天ヶ瀬ダム再開発に参画する必要性は皆無
治水のためのトンネル式放流設備を天ヶ瀬ダムに新設する再開発事業で、なぜか水道用水が開発され、発電量が増強されることになっており、理解しがたいところがあります。真相は、多目的ダム事業にした方が通りやすいことから、この二つの目的も加えたと考えられます。
この問題はさておき、京都府水道が天ヶ瀬ダム再開発に参画する必要性は全くありません。なお、京都府水道は京都府南部の7市3町に水道の卸供給を行う水道用水供給事業です。
① 京都府水道は天ヶ瀬ダム再開発の0.6㎥/秒をすでに暫定豊水水利権として使っています。この水利使用規則(水利権許可書)に書かれている取水条件は実際には守ることができないことが多い非現実的な条件であって、「ただし書き」の適用によって、取水が制限を受けることがない水利権になっており、実態は安定水利権と何ら変わりません。したがって、それを安定化するために、京都府水道が天ヶ瀬ダム再開発に参画する必要はありません。
② 京都府水道には三つの浄水場があり、宇治、木津、乙訓浄水場から各市町の水道に水道水を供給しています。3浄水場全体では、天ヶ瀬ダム再開発の暫定豊水水利権を除く保有水源が17.4万㎥/日もあります。一方、京都府水道全体の2016年度の一日最大給水量は123,580㎥/日ですから、約5万㎥/日の余裕があり、新たな水源は必要でありません。
③ 京都府水道の給水量も減少傾向になっており、今後は京都府の人口の減少に伴って、給水量がさらに縮小していことは必至であり、その面からも新規の水源は不要です。
そのほかにも、京都府水道が参画する必要がない理由があり、どの角度から見ても、天ヶ瀬ダム再開発は京都府にとって無用の事業です。
以上のように、京都府水道が天ヶ瀬ダム再開発事業に参画して0.6㎥/秒の新規水利権を得る必要性はなく、現状のままで今後とも必要な給水を充たすことが十分に可能です。
また、放流能力を増強する天ヶ瀬ダム再開発の治水目的は机上の話に過ぎず、琵琶湖後期放流1500㎥/秒は実現性もなければ、必要性も疑わしいものです。
今回提出の意見書では、このような天ヶ瀬ダム再開発事業に対して京都府が利水分で約51.9億円、治水分で約63.5億円、合わせて115.4億円という巨額の費用を負担することを根本から見直すことを求めました。
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