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霞ヶ浦導水事業

状況:中止を求めた運動が闘われている。

霞ヶ浦導水事業の最新ニュース

霞ヶ浦導水事業の現状と問題点

  1. 霞ヶ浦導水事業の目的
    霞ケ浦と那珂川を全長43kmの地下トンネル(地価20~50m、内径3.5または4.5m)で結び、次の3つの目的を達成するとして行なわれている大規模公共事業です。

    1. 新規都市用水の開発:毎秒5.2m3の都市用水を開発する
      内訳 霞ケ浦取水 水道用水1.00m3/秒
      那珂川取水 水道用水2.626m3/秒、工業用水1.574m3/秒
      合計 5.2m3/秒
    2. 既得用水の安定化と河川環境の保全
      那珂川に水があって霞ヶ浦、利根川に水がない場合には、那珂川から霞ケ浦利根川へ(最大15m3/秒)、逆の場合には、霞ケ浦から那珂川へ水を送水(最大11m3/秒)し、安定した水資源の管理を行なうとしています。
    3. 水質浄化
      霞ケ浦と桜川へ浄化用水を導水し、水質浄化を図ろうとするものです。那珂川の水を霞ケ浦に送水してCODを0.8mg/l低減するとしています。
      また、那珂川から千波湖へ毎秒3 m3/秒を送水し、千波湖と桜川を浄化するとしています。
  2. 霞ケ浦導水事業に必要な費用
    1. 事業費 総額1900億円、茨城県負担額608億円
    2. 霞ケ浦導水事業等の一世帯当たり負担は21万円

    霞ケ浦導水事業の他に、本県が抱えている水資源開発3事業思川開発(195億円)、八ツ場ダム(219億円)、湯西川ダム(257億円)を加えると、総額は1279億円にも上ります。これに関連する水源地域対策基金等の約1400億円、起債利息を加えると、本県の水資源開発4事業費総額は、約2100億円、一人当たり負担額7万円、一世帯当たり負担額約21万円。

  3. 事業の経緯
    1. 今回、4回目の事業変更
      1985年に7月1日事業が策定され、事業費1600億円完成年度1993年度でしたが、3度の工期延長を経て、国土交通省は、2007年12月13日4度目の変更で工期を5年延長、2015年度完成と変更を発表しました。
    2. 事業は30%、予算80%
      事業はトンネル工事がまだ1/3しか完成していませんが事業には総事業費の78%に相当する約1500億円がすでに使われてしまっています。国土交通省は、事業には変更しないとしていますが、完成にはさらに予算が膨れ上がる心配があります。
  4. 問題点
    4-1 新規都市用水開発は必要ない

    1. 水は、余りに余っている
      2007年3月に茨城県が発表した「新いばらき水のマスタープラン」で、水需要の見直し、水需要の下方修正を行ないました。人口が2000年をピークに減少し始め、一人当たりの水使用量も減少しているので茨城県自ら水余りを認めるかたちとなっています。
      2020年の茨城県の水需要量について、旧いばらき水のマスタープランと新マスタープランを比較すると8.1m3/秒の水余りが生じていることが分かります。
      (旧いばらき水のマスタープラン)―(新マスタープラン)=8.1m3/秒
      すなわち、8.1m3/秒の水余りが生じています。この値に旧プランによる2020年度の余剰水量の1.6 m3/秒を加えた9.7 m3/秒(83.8万m3/日)が、今回の茨城県の水需要の見直しによる下方修正によって明らかになりました。
      茨城県の2020年度の余剰水量:8.1+1.6=9.7m3/秒
    2. 霞ケ浦導水事業等水資源開発4事業から撤退しても、なお水は余る
      本県の新規水資源開発水量は、合計8.402m3/秒(霞ケ浦導水事業5.2、湯西川ダム1.402、八ツ場ダム1.1、思川0.7)です。
      本県の水余りは、前述のとおりで9.7m3/秒ですから、開発4事業から撤退しても、なお、1.3m3/秒の余剰水があります。さらに、本県の人口は現在よりも少なくなることが予測されているので、何ら問題はありません。
    3. 茨城県は、水余りを架空の水需要で演出している
      この水余りを認めてしまうと霞ケ浦導水事業を実施する理由がなくなるので、茨城県は新たに危機管理用水3.9m3/秒、環境用水2.5m3/秒、自己水源の削減(現在使用されている河川水と地下水の削減)3.3m3/秒の合計9.7m3/秒が、新たに必要になったと、数字のつじつまあわせでごまかそうとしています。大幅な水余りがあり危機管理用水は不要ですし危機管理用水を貯める新しいダムが必要になってしまいます。環境用水は何処の浄化を行なうために、どこからどこへ水を運ぶのか実現不可能な空想でしかありません。

    4-2 那珂川が渇水なら、霞ケ浦も渇水
    茨城県、群馬県、栃木県は山で囲まれた山で囲まれた同じ関東平野に位置していて、同じ気候区域内にあるため、干害が起これば、3県とも同時に干害が起こることが次の図で明らかです。ですから、利根川水系と那珂川水系間で相互に水のやりとりをすることは困難で、2つ目の目的である既得用水の安定化にも無理があります。

    4-3 水質浄化の効果はない

    1. 霞ケ浦の浄化は困難
      那珂川から霞ケ浦へ、那珂川の河川水を導水するとCOD(有機物の量、湖沼の環境基準項目)が0.8mg/Lだけ改善されるとしています。霞ケ浦のCODは、現在7~8mg/Lなので、この値は、誤差の範囲です。
      那珂川の水は、見た目はきれいですが、その中には窒素とリンが比較的多く含まれているので、霞ケ浦に送り込まれ滞留している間にアオコ等の植物プランクトンが発生しCODを上昇させます。現在霞ケ浦では、アオコの発生は、ごく限られた水域にしか発生しなくなっているので、導水をすることによってアオコが発生するとう逆効果が起こる危険性もあるのです。こうした状況を理解せずに机上の計算だけで予測を行なっている不誠実な姿勢が問題です。もし本気で浄化を検討しようとするのであれば、現場の調査やフィールドの実験などで十分な確証を得て実施すべきです。
      このような案に対し、導水によってCODが逆に上昇する危険性を指摘する市民側からの試算も行なわれています。
    2. 千波湖・桜川を浄化して那珂川を汚す
      那珂川から3m3/秒の水を千波湖・桜川に流すと、千波湖・桜川は那珂川の水で置き換えられてきれいになります。が、千波湖や桜川の汚れは那珂川へ押し出され、下流の那珂川の汚染を引き起こすことになり、本当の浄化は達成されません。千波湖と桜川の汚染源を断ち切る基本的な対策を実行すべきではないでしょうか。
    3. 霞ケ浦からの導水で那珂川が汚染される
      霞ケ浦の湖水と那珂川河川水の水質の違いは、那珂川に比較して霞ケ浦湖水の方が有機物量が非常に高くCODやBODが高い点です。霞ケ浦湖水中の植物プランクトンが那珂川に送りこなれ河床に沈殿し河床を多い汚染を引き起こします。このことでアユやサケの生育環境に影響がおよびます。

    4-4 最も恐ろしい問題
    現在、国土交通省と那珂川漁業協同組合の間で問題になっているのは那珂川への取水口の建設工事です。この取水口の建設によってアユの仔稚魚が取水とともに河川から導水路に吸い込まれアユの資源が被害を受けるという点です。しかし、見逃されているもっと深刻な問題が幾つかあります。

    1. 河川水量の減少でアユの資源が減少する
      河川水は河口から海に流出し海水と河川水が混合したフロントと呼ばれる水塊を形成します。この水域は、河川水の影響でプランクトンの多いアユ等の仔稚魚の生育の場となります。河川水が減少することで、この水域におけるアユの成育がわるくなってアユの生残率が低下し、アユ資源に影響がおよぶ心配があるのです。アユに限らず、シラス、スズキ、二枚貝類等への影響も懸念されます。
    2. 涸沼のシジミへの影響
      これと同じように、那珂川の水は、河口で潮汐の影響で涸沼に逆流し、涸沼に入って植物プランクトンの生産を促し、シジミの餌、ひいてはシジミの生産に寄与していますが、霞ケ浦への送水によって涸沼への逆流水量減少でシジミの生産量が減少します。
    3. 外来種の移送による在来種の危機
      霞ケ浦からアメリカナマズ、ブルーギル、オオクチバス、ペヘレイ、オオタナゴ、カワヒバリガイ等の外来生物が導水と共に那珂川に移送される心配があります。これらの外来種が、那珂川固有の生物群集にとってかわり、アユやサケその他の在来種にとってかわる心配があります。逆に那珂川に生息するコクチバスが霞ケ浦に送り込まれ同様の問題を引き起こす危険性があります。
    4. ウィルスや細菌も水と共に交換される
      霞ケ浦ではコイ・ヘルペスウィルスが、那珂川ではアユに深刻な影響を与える冷水病の原因となるバクテリアが猛威を奮った。もし、霞ケ浦導水事業が実施されていれば、これらの病気の原因となる微生物も相互に移動し、深刻な惨事を引き起こすことになる。
      今後、それぞれの水域に、問題となる微生物が発生した場合には、問題が広域化することを防御できない。
    5. 霞ケ浦導水事業は生物多様性の損傷を引き起こす
      以上のように導水事業は、水の移動とともに異なる水系の固有の生物種を交換することでそれぞれの水系に固有の生物群集を破壊します。そのことによってそれぞれの生物群集や生態系を基礎としてなりたっている生活、産業、文化に影響を与えそれらを破壊します。
      このような行為は生物多様性条約や茨城県内水面漁業調整規則等で禁止されている行為で法律に違反するものです。

霞ケ浦導水事業の差止めを求める裁判での証言(2014年7月18日)

最新情報珂川関係の漁協が霞ケ浦導水事業の差止めを求めた裁判で2014年7月18日に水戸地裁で原告側証人4人の証言が行われました。

石嶋久男さん(魚類研究家)は那珂川からの取水が行われば、那珂川のアユ漁業が致命的な打撃を受けること、
浜田篤信さん(元・茨城県内水面水産試験場長)は那珂川からの取水が那珂川および涸沼のシジミ漁に多大な影響を与えること、
高村義親さん(茨城大学名誉教授)は、導水事業の三目的のうちの一つ、「利根川と那珂川からの導水による霞ケ浦の水質改善」が虚構であることを証言しました。

嶋津は主に次の二点について証言しました。

一つは霞ケ浦導水事業の施設が完成しても、導水事業の三目的のうちの二つ、「都市用水の開発」と「利根川と那珂川の渇水時の補給」は機能不全になることです。

「都市用水の開発」と「利根川と那珂川の渇水時の補給」は、霞ケ浦を経由して利根川と那珂川の間で水を融通することを前提としているのですが、利根川、那珂川と比べて、霞ケ浦の水質が劣悪であるため、霞ケ浦の水を利根川や那珂川に入れることができません。霞ケ浦は水質改善の兆しが見えないので、今後とも導水できない状態が続くことは必至です。

霞ケ浦と利根川を結ぶ利根導水路は20年近く前にできているのですが、導水すると、漁業被害を起こす恐れがあるため、今までたった5日間しか開けることができませんでした。それもわずかな導水量でした。

もう一つは霞ケ浦導水事業の利水予定者は茨城県、千葉県、東京都、埼玉県の水道、工業用水道と、多岐にわたっているのですが、いずれも水余り現象で、霞ケ浦導水事業による新規水源を必要としていないことです。

今回、嶋津が提出した意見書と、証言に使ったスライド(説明の文章を加筆)を掲載しましたので、興味がある方はご覧いただければと思います。

今後は9月5日に証人尋問が行われ、12月19日に結審する予定になっています。

9月5日の証人は国交省関東地方整備局の管理職と、国交省側の専門家です。

霞ケ浦導水事業もまた、まったく意味がない、巨額の公費(1900億円)を浪費するだけのばかばかしい事業ですので、何とか中止に追い込みたいものです。

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