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進む移転、細る地域 設楽ダムで水没予定の八橋地区(中日新聞愛知版 2012年10月18日)

2012年10月18日
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進む移転、細る地域 設楽ダムで水没予定の八橋地区(中日新聞愛知版 2012年10月18日)

http://www.chunichi.co.jp/article/aichi/20121018/CK2012101802000037.html?ref=rank

(写真)地区外に移転し、解体された住宅跡。水道の蛇口が寂しく残る=設楽町八橋で

民主党政権が三年前に打ち出したダム建設計画の検証で、建設の動きが止まったままの設楽ダム。しかし、設楽町内の水没予定地では住民の移転が急速に進んでいる。
対象世帯が最も多い八橋(やつはし)地区では半数以上がすでに移転し、二十世帯を残すだけ。取り壊された家屋の基礎があちこちで見られ、主を失った田畑に雑草が生い茂る。二十八日は地区の祭りだが、「今年が最後になるかも」との声も出ている。
八橋地区は寒狭(かんさ)川(豊川)の支流や境川に沿って形成された集落。設楽町の中心地から長野県根羽村を結ぶ県道が走る。
◆名簿、消して黒く
区長を務める金田和幸さん(68)の手元にパソコンで打った住民の名簿がある。作成したのは二〇〇二年一月。五十七世帯が名を連ねた。転出のたびに黒インクで消し、名簿は真っ黒になった。
水没が予定されるのは、設楽町内の六地区計百二十四世帯。このうち八橋、川向(かわむき)、大名倉は地区そのものが消滅する。国土交通省設楽ダム工事事務所によると八月末現在、62%に当たる七十八世帯が補償交渉を終えている。
八橋地区では年内にさらに三世帯が移転する。「年が明ければますます加速し、来年末まで残るのは私を含め四、五軒ではないか」と金田さんは言う。
二十八日は八橋神社の祭礼。かつては余興や餅投げもあり、境内に子どもたちの歓声が響いた。最近は神事の後、ビールで乾杯してお開きだが「今年が最後かもしれんなあ」。金田さんは、真っ黒になった名簿を見ながらため息をついた。
◆桜の下で旧交を
一九四四(昭和十九)年まで小学校があった高台に樹齢百年ほどの桜の大木がある。「八橋のウバヒガン桜」と呼ばれ、住民たちが大切に守ってきた。毎年四月には、住民だけでなく、転出した人たちも集まり観桜会を開いている。
設楽ダムの満水時の湖面は標高四三七メートル。桜がそびえる高台は四五〇メートルで、辛うじて水没を免れる。金田さんは先ごろ、設楽町議会に「高台を『ふるさと公園』として整備してほしい」との要望書を提出した。
ダム検証の行方とは関係なく、怒とうのような勢いで進む地域社会の崩壊。
「好きこのんで出て行く人は誰もいない。みんな八橋が大好きなんです。年に一回、桜の下に集まって旧交を温めたい。私たちのささやかな願いです」
(鈴木泰彦)
<設楽ダム> 国土交通省が設楽町内の豊川上流に建設を計画する治水、利水の多目的ダム。高さ129メートル、幅400メートルの重力式コンクリートダムで総貯水量は9800万トン。
計画が提示されたのは1973年で、2009年に町が建設に同意した。計画発表当時は反対運動が起き、近年では建設是非を問う住民投票の動きもあった。民主党政権が09年に検証対象事業にした。

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