香味よみがえる「江戸前アユ」 多摩川での復活劇
2015年5月30日
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最近注目されている多摩川のアユ復活についての記事を掲載します。
多摩川は昔と比べると、随分ときれいになり、アユが復活するほどになりました。
ただし、多摩川はアユの生産量全国一を誇る那珂川(栃木・茨城県)などと比べると、基本的に違うところがあります。一つはこの記事で取り上げているように、魚道が整備されていない取水堰が少なからずあって、上流域まで遡上できるアユがそれほど多くないことです。
もう一つは河川水に占める下水処理水の割合が比較的高いことです。多摩川は流域面積1240km2、流域人口約380万人、一方、那珂川は流域面積3270km2、流域人口約100万人ですから、1km2当たりで比較すると、多摩川約3,000人、那珂川約300人で、10倍の違いがあります。
多摩川流域の下水処理場は高度処理が導入されているところもあって、処理水はかなりきれいになりましたが、それでも或る程度の栄養塩類が含まれています。
多摩川のアユ復活は4月末に放映されたNHKの番組「ダーウィンが行く」でも取り上げていました。そこで、多摩川のアユは河床の石の付着藻類が豊富なので、縄張りを持たないことが紹介されていました。
その点で、清流の河床の付着藻類で育った那珂川等のアユと比べると、多摩川のアユは味が違うのではないかと思いました。
とはいえ、多摩川のアユ復活は大変喜ばしいことです。
香味よみがえる「江戸前アユ」 多摩川での復活劇
(日本経済新聞2015/5/30 6:00 )http://www.nikkei.com/article/DGXMZO87433490Z20C15A5000000/
東京都と神奈川県を流れる多摩川を遡上するアユが復活している。高度成長期に汚染された川から姿を消した「江戸前アユ」を、再び庶民の身近な存在にしようとする取り組みが始まっている。
(写真)水面から跳びはねるアユ(5月25日、川崎市多摩区の二ケ領上河原堰)
■川面ゆらす無数のアユ
(写真)東京都島しょ農林水産総合センターが多摩川の河口から約11キロ上流の汽水域で行うアユの遡上調査。この日は全長5センチほどのアユの稚魚799匹が東京都大田区側の岸辺近くに設置した定置網に入っていた(5月20日、川崎市中原区)
ピチ、ピチピチ。5月下旬の多摩川で、上流を目指そうと水面から跳びはねる元気なアユの姿があちこちで見られた。
東京湾の河口から約48キロ上流。東京都昭島市にある昭和用水堰(せき)の高さ3メートルほどの急斜面を流れ落ちる水に、体長10センチに満たない小さなアユが体をくねらせる。残念ながら失敗するものが大多数。それでも勢いよく挑戦を繰り返す。「よく見ると、ぎりぎりうまく上るのもいます」。アユの遡上を調査する東京都島しょ農林水産総合センターの橋本浩さん(45)は目を細めた。
同センターの推計によると、調査を始めた1983年の18万匹と比べると、ピークの2012年は約66倍の1194万匹が遡上した。その前後も高水準で推移しており、今年も数百万匹に上る見込み。橋本さんが率いるチームの調査は、河口から約11キロの汽水域で行われている。定置網に入ったアユを手のひらですくい、多い日には1万匹以上、1匹ずつていねいに川へ戻す。これまでの調査から多摩川の支流、秋川でも遡上アユが確認されているが、上流域までたどり着けるアユはそれほど多くはないという。
■待ち受ける難関 トラックで「遡上」も
(写真)二ケ領上河原堰でアユを狙うサギ(5月21日、東京都調布市)
理由は堰だ。多摩川にはアユの遡上の障害となるダムや堰などが19カ所ある。最初の関門の調布取水堰(約13キロ地点)を皮切りに、河口から10関門目にもなる昭和用水堰まで上れたアユはなかなかの優等生。それぞれの堰には魚が行き来できるようにと魚道が整備されてきてはいるが、間口が狭いなど魚にとって見つけにくいものもある。そのため堰の手前で行く当てを失い、カワウやサギなど鳥の餌食となってしまうアユが多いのが実情だ。また、せっかく見つけた魚道を上りきったところには、外来魚のコクチバスなど捕食者が口を開いて待ち構えている。
そんな過酷な状況を少しでも変えられたらと、東京都農林水産部水産課は今年、中流で捕獲した稚アユを上流にトラックで運んで放流する実験を始めた。難関を一気にワープする、いうなれば“飛び級”。東京都世田谷区、調布市、狛江市の3カ所に仕掛けた定置網で捕獲した体長5センチほどの稚アユ約3万匹を上流域2カ所まで運んだ。来年度も捕獲や運搬方法の調査を続け、17年からは漁業協同組合に引き継ぐ計画だ。同課の斉藤修二さん(51)は、「上流でも下流でも江戸前アユの良さが伝わり、いつかは誰でも気軽に食べられるようになれば」と意気込む。トラックに乗ってやってきた天然アユの放流に立ち会った秋川漁協参事の田中久男さん(59)は、川に入れたとたんに元気に上流を目指し泳ぐ稚アユの姿を目の当たりにした。「成魚サイズになるのは8月ごろかな。天然物は養殖と違って引く力が強い。多摩川生まれの江戸前アユ
は売りになるはず」と釣り客の増加を期待する
。
■やっと食べられる味に
川崎市多摩区でそば居酒屋を営む阿佐美善万さん(44)は、アユ釣りの解禁日を楽しみにしている一人だ。川漁師の山崎充哲さん(56)が釣る多摩川のアユを、5年ほど前から天ぷらとしてメニューに加えた。阿佐美さん自身、「子供の頃の記憶の汚れた多摩川のイメージから、最初は半信半疑だった」というが、今では自信の一品だ。多摩川の水辺を子供のときから見守り続けている山崎さんは、多摩川に多く戻ってきたアユがうれしくて、30年来食べ続けては実は裏切られ続けていた。「昔はシャンプーのような臭いがして、食べられたものじゃなかった。それが6年ほど前を境に味がよくなった。多摩川の水がきれいになったことがなにより大きいのでは」と山崎さんは見ている。
(写真)川面で重なり合う稚アユの群れ(5月25日、川崎市多摩区の二ケ領上河原堰)
かつて、多摩川のアユは庶民に親しまれた江戸前の味で、江戸時代には将軍家にも献上される特産品だった。しかし、高度成長期に生活排水などで川面には白い泡がたち、アユは姿を消した。それが、下水道の整備が進んで水質が改善したことや、漁協が産卵場所を整備したことなどがアユの復活につながった。高度成長期前の多摩川を知る人には懐かしく、若い世代には新顔の江戸前アユ。復活劇からさらに、香味の深い庶民の魚として広く定着させられるかはこれからが勝負だ。
(写真部 浅原敬一郎)
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