迫る緊急放流住民避難 確かな情報共有に課題 日光・川治ダム越流の恐れ
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鬼怒川上流には国土交通省が建設した四つの大規模ダムがあります。これら4ダムの治水容量は1億2530万立方メートルもあり、今回の洪水ではルール通りの洪水調節が行われました。
しかも、鬼怒川では4ダムの集水面積が全流域面積の1/3を占めており、ダムで洪水調節さえすれば、安全だと言われているような河川でした。しかし、鬼怒川下流部の決壊を防ぐことはできませんでした。
このことについて国交省はダムの調節がなければ、決壊時期が早まり、氾濫水量が倍増したと、ダムの効果を宣伝しています。
その計算の妥当性はさておき、少なくとも言えることは、ダムの上にまたダムをつくる、屋上屋を架すような湯西川ダム(2012年完成)の建設を中止し、その予算を使って、流下能力が著しく低く、氾濫の危険性が指摘されていた鬼怒川下流部の治水対策に努めていれば、今回の堤防決壊を防ぐことができたのではないかということです。
そして、ダムに関して怖いのは、満杯近くになった時の緊急放流があることです。今回も四ダムの一つ、川治ダムで緊急放流一歩手前の危機がありました。その記事を紹介します。
参考のため、当時の川治ダムの貯水状況は川治ダムの貯水状況図のとおりです。この記事にある9月10日午前2時半は川治ダムの貯水率が上限目標貯水率を超えつつある時でした。その後、ダム流入量が減ってきたので、緊急放流は回避されましたが、緊急放流もあり得る状況でした。
【栃木広域水害】迫る緊急放流住民避難 確かな情報共有に課題 日光・川治ダム越流の恐れ
(下野新聞 2015年10月9日 朝刊)http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/politics/news/20151009/2107760
(写真)強雨の中、洪水調節で放流する川治ダム=9月9日午後、日光市川治温泉川治
大雨特別警報発表から約2時間後の9月10日午前2時半すぎ。日光市災害対策本部を実質的に取り仕切っていた斎藤康則(さいとうやすのり)総務部長(60)は、届いたファクス用紙の文面に言葉を失った。
「…計画規模を超える洪水時の操作に移行する可能性があります。今後の降雨状況によっては、住民避難等の準備が必要です」
送り主は市内の五十里、川俣、川治、湯西川の各ダムを管理する国土交通省鬼怒川ダム統合管理事務所。4ダムのうち川治が満杯以上となる危険が高まり、「緊急放流」しなければ雨水がダムを越流しコントロールできなくなる可能性を事前に警告した書面だった。
放流量は。増水で鬼怒川が氾濫しないのか-。経験したことのない事態が対策本部に判断を迫る。
「最悪のケースを考えよう」。同本部は地形などを総合的にとらえ、藤原地域の高原、小網地区の浸水被害を独自に想定。午前4時45分、両地区の約180世帯、計350人に「避難準備情報」を発令し、公共施設3カ所に高齢者ら約140人を一時避難させた。
大雨は収まり、緊急放流は見送られた。斎藤部長が神妙な表情で振り返る。「何が起きるのか想定するための情報が、国から得られなかった。一連の豪雨で最も緊張した場面だった」
もし緊急放流した場合、鬼怒川の水位はどれぐらい上昇し、どんな状況が予想されるのか-。切羽詰まった口調で問いただす日光市の課長の電話に、同事務所の担当者の答えは「分かりません」に終始した。
五十里の降水量は10日朝までの24時間に551ミリに達し、1976年の統計開始以来最高を記録した。
豪雨で4ダムが貯留した雨水は計約1億トン、東京ドーム86杯分。これほど水をため、徐々に放流した前例はない。
「放流水だけじゃなく、支川からも川に流入する。予測水位を計算して関係自治体へ連絡するようなシステムは、現時点で構築されていない」。同事務所の中島和宏(なかじまかずひろ)技術副所長(57)はこう説明し、監視態勢や情報共有の在り方を検討する考えを明らかにした。
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