福岡県と大分県の豪雨水害は、土砂崩れによる大量の流木が被害を拡大した。被災した集落には根が付いたままの大木が広範囲に横たわり、人工林のもろさを印象づけた。一帯は林業が盛んな地域。流木の原因をたどると、日本の林業が克服できていない課題に行き着く。
福岡県朝倉市の杷木林田地区。安否不明者の捜索現場のそばに、流木が山積みになっている。5日の豪雨では、上流から流れてきた木々が橋桁や欄干に引っかかり、そこに土砂がたまって川があふれた。
中には直径50センチ、長さ10メートルを超える大木もある。枝はなく、樹皮は剥がれている。土砂とともに流れる間にぶつかり合い、丸太になったとみられる。福岡県の推計によると、朝倉市と東峰村の流木は少なくとも20万トンを超える。
なぜ、これほど大量の木々が流出したのか。地元の林業関係者や専門家は複合的な原因を指摘する。
朝倉市や隣の東峰村の山あいは、地表の近くに花こう岩が風化した「まさ土」が堆積しており、大量の水を含むと崩れやすい。
そこに植えられたのは、根を深く張らない針葉樹のスギやヒノキ。種子から成長する場合は深く密集した根を張るが、人工林は挿し木から育てるため、根は浅く、密度も低い。木を真っすぐに育てるにはある程度密集させるため、根は広がらない。
今回は短時間に記録的な雨が降り注ぎ、地表面のもろい地層が木々と崩れ落ちる「表層崩壊」が同時多発的に発生した。面積の86%が山林で、スギの人工林が多い東峰村の渋谷博昭村長は「国策で植林したが、今は伸び放題。雨が降るたびにおびえなくてはならない」と苦境を訴える。
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流木や倒木による災害は5年前の九州北部豪雨をはじめ、何度も起きている。その背景には、長く続く林業の悪循環がある。
国は高度経済成長期の木材需要の高まりを受け、全国で植林を推進した。スギの人工林はその象徴だ。木材輸入の自由化、木造住宅の需要低下などの影響で、1980年代以降は国産材の価格が低迷。伐採期を迎えた木が半ば放置されている地域もある。
今回の被災地の林業関係者も「木材の価格が安すぎる」と口をそろえる。スギ(中丸太)の価格は、1立方メートル(直径50センチの材木4メートル分)当たり1万円強。ピークだった80年の3割程度まで下がった。
価格の低迷は、林業従事者の減少に拍車をかけた。国勢調査によると、60年は44万人だったが、2015年は5万人を割った。高齢化も進む。
人工林は木が真っすぐ成長するように、数年おきに適正な間隔を空けるための間伐が必要だ。シダやササの下草が生えやすくなり、表土の流出を防ぎ、保水力を高める効果もある。だが林業従事者の減少で間伐が行き届かず、樹齢40年以上の木も残されている。
人手不足を補う機械化に合わせ、森林に重機が通れる作業道が整備されたが、朝倉市の林業関係者は「雨水が作業道に流れ込んで川や滝のようになり、倒木や土砂崩れを引き起こす一因になった」とみている。
林野庁は流木災害の構造や減災対策を探るチームを初めてつくり、近く現地を調査する。治山課は「被災地域は林業が盛んで、森林の手入れをしていたので、このくらいの被害で済んだとも言える」との見方を示し、流木を止めるくし状のダム(スリットダム)の設置などを検討する方針だ。
東峰村の渋谷村長は、森林が下流域の水源を養い、川から海に栄養を与える機能があることを強調。「植林を推進した国は現状を改善する手だてを示してほしい」と要望する。
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●防災の観点で森林整備を
九州大大学院の久保田哲也教授(森林保全学)の話 今回は樹齢40年を超えた大木が、豪雨に耐えられずに倒れて被害を拡大させた。一斉に植林すると、根の深さがそろってしまうので、根の下の地層が弱くなってしまう。
いまさら拡大造林の失敗を指摘しても始まらない。国はこれを機に、産業としてではなく、防災の観点で森林整備に取り組むべきだ。伐採した後は自然林を育て、危険箇所には治山公園を設置するなどの対策が必要。そうしなければ同じ惨事を繰り返す。
=2017/07/17付 西日本新聞朝刊=
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