大滝ダムからの取水低調 流域自治体、事業費負担で得た「枠」余る
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2013年に完成した大滝ダム(総貯水容量が近畿地方で最大)の開発水の大半が使われていないという記事を掲載します。
それも、流域自治体が自己水源の使用量を極力減らし、大滝ダムの開発水を優先して利用してもそのような状態であると推測されます。
大滝ダムといえば、試験湛水の最中に深刻な地すべりを引き起こして、ダム湖周辺の集落(白屋地区)が移転を余儀なくされたダムとして、よく知られています。
この地すべり対策で、大滝ダムの完成は約9年延びました。
大滝ダムからの取水低調 流域自治体、事業費負担で得た「枠」余る
完成まで半世紀、人口減や節水普及が影響
(日本経済新聞 電子版2018/3/23 16:00) https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28485110T20C18A3LKA000/
紀ノ川水系の治水や利水を目的に建設され、近畿最大の総貯水量を誇る大滝ダム(奈良県川上村)が23日で完成から5年を迎えた。流域の自治体は建設費など事業費や毎年かかる維持管理費を負担して河川から水をくみ上げる(取水)権利を得たものの、権利の枠を使い切れず、水余りになっている。和歌山県橋本市は水道水が計画の2割、奈良県の水道水と和歌山市の工業用水は同5割しか使えていないことが各自治体への聞き取りで分かった。大滝ダムは1959年の伊勢湾台風で起きた紀ノ川洪水対策として62年の計画発表から2013年3月23日の完成まで50年以上を要したが、その間に人口減や節水機器の普及などが進み、見込んでいた水需要が減ったことが響いている。
(写真)総貯水量が近畿最大の大滝ダム(奈良県川上村)
ダムは洪水対策のために建設されるケースが多いが、ダムに水をためて計画的に放流すれば下流で取水しても川が枯れる恐れがなくなる。このため、自治体は確保したい取水量に応じてダムの事業費の一部を負担し、水をくむ権利を確保する。大滝ダムの場合、事業費3640億円のうち約757億円を取水する自治体などが負担した。自治体はこのほかにも毎年、国土交通省がダムを維持管理する費用や、立地する川上村への交付金を負担している。
橋本市は事業費106億円を負担して1日当たり8万6400立方メートルを取水する権利を確保した。しかし、16年度に市民へ給水した量は1日平均で約1万7000立方メートルにとどまる。高度成長期以降に市内各地でニュータウンが計画され水需要も伸びると見込んだが、人口減に加えて洗濯機、トイレなど節水型機器の普及で当てが外れた。
市は給水するにあたって取得した権利を行使していない。和歌山県が保有する取水権(1日3万8800立方メートル)の一部(同2万4192立方メートル)を「譲って」もらっているのだ。市の権利を行使した場合は規定によって川上村に毎年、平均約4千万円(市の試算)の交付金を支払わなければならないが、取水権を持て余す県から融通してもらっているため、市として交付金を払う義務は生じない。県が支払うべき交付金やダムの維持管理費を肩代わりするものの、差し引きで年間約1千万円の負担軽減になるという。
県はダム維持管理費や交付金の負担がゼロになり、市・県ともメリットが生まれている。取水権の融通はもともと想定されていなかったが、「特殊なケースで、近畿ではこの1件のみ」を近畿地方整備局が認めた。自治体の財政負担への配慮もあったとみられる。
奈良県は370億円を負担して流域自治体で最大の1日約30万立方メートルの取水権を得て、奈良市を含む奈良県北中部へ水道水を供給している。16年度の1日平均給水量は約14万立方メートルと権利の半分しか使っていないが、取得した権利が大きいためにダム維持管理費は年間8996万円、川上村への交付金は同1億3796万円と流域自治体で最大だ。「高度成長期にダムが計画され、水道水需要も急増すると見込んでいたが、節水技術の進展で水需要は伸びなかった。人口減よりも節水の普及の影響の方が大きい」と県水道局ではみる。
和歌山市は1日13万3000立方メートルの水道水を取水する権利に対して1日平均9万3998立方メートルを給水しており水余りは少ない方だが、工業用水は1日4万4千立方メートルの半分しか使っていない。雑賀崎工業団地への工場立地などを見込んでいたが、進出企業が増えず工業用水の使用量が低調なのが原因だ。
大滝ダムは完成まで半世紀を要したダムとして知られており、52年に調査を始め、2015年に本体工事に着手したばかりの八ツ場ダム(群馬県長野原町)と並び称せられることがある。八ツ場ダムの水利権を使う埼玉県、東京都、千葉県、群馬県、茨城県などは大滝ダム下流域の自治体と人口や財政規模が異なるものの、水余りが起きた場合の対応を考える上で参考になるのかもしれない。
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