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報道

漁協、国と和解成立 本格稼働まで意見交換 導水訴訟控訴審(記事の続き3)

2018年4月30日
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霞ヶ浦導水訴訟の和解成立について下野新聞の詳細な記事がありますので、掲載します。
霞ヶ浦導水事業のうち、霞ケ浦と利根川を結ぶ利根導水路は1994年3月に完成しましたが、1995年9月の試験通水で霞ケ浦の水を利根川に送水したところ、利根川でシジミの大量死が起きたため、その後、この利根導水路はほとんど使われておらず、いわば「開かずの水路」になっています。
今後、霞ヶ浦と那珂川を結ぶ那珂導水路が仮に完成しても、那珂川で漁業被害が起きることは避けられず、那珂導水路もまた「開かずの水路」になることが予想されます。

漁協、国と和解成立
本格稼働まで意見交換 導水訴訟控訴審
(下野新聞 2018年4月28日)

アユなど那珂川水系の水産資源に悪影響を及ぼす恐れがあるとして、本県と茨城県の漁連・漁協5団体が国に霞ケ浦導水事業の那珂川取水口建設差し止めを求めた住民訴訟控訴審は27日、東京高裁で和解が成立した。国が漁協側との「意見交換の場」を設けることなどを条件に、漁協側が請求を放棄する。2009年の水戸地裁への提訴から約9年。着工から34年がたつ巨大公共事業の是非を問う住民訴訟が終結した。
この日の口頭弁論で都築政則裁判長は「和解は終着点でなく出発点。双方が率直かつ冷静に意見交換し、納得のいく結論を導くことを希望する」と述べた。
和解条項では、国は事業が本格稼働するまで年1回、原則7月に意見交換の場を設けることを規定。アユの稚魚などが取水口に吸い込まれるのを防ぐため、10~1月は那珂川からの夜間取水を停止することや、霞ヶ浦から那珂川への少量の試験送水(逆送水)を行い魚類への影響をモニタリンクすることも定めた。
本県の那珂川流域4漁協がつくる県那珂川漁協連合会の佐藤文雄会長は和解後の記者会見で「長く裁判が続いたが、今後は国とよく相談ができるので和解を前向きに捉えている。最も被害が懸念されるアユについて特によく話し合いたい」と述べた。漁協側の谷萩陽一弁護団長は「漁業への影響を防ぐという訴訟の目的を達成でき、成果があった」と強調した。

国側の国土交通省関東地方整備局の泊宏局長は「和解条項を踏まえ、引き続き漁業関係者に丁寧に対応し事業の推進に努める」などとコメントした。
事業を巡っては、漁協側が事業による漁業権侵害を訴え提訴。一審水戸地裁は15年7月に請求を棄却し、高裁は今年1月に和解を勧告していた。
(石井賢俊)

和解条項のポイント
●国は原則として毎年7月に漁協関係者と意見交換の場を設ける
●魚類の吸い込みを防ぐため、国は10~1月は那珂川からの夜間取水を停止する
●国は霞ケ浦から那珂川へ少量の試験送水(逆送水)を行い、水質への影饗をモニタリングする
●これらは事業の本格運用の方法が決まるまでの問の取り決めである

和解は苦渋の決断 悪影響あれば中止を 解説
(下野新聞 2018年4月28日)

取水口の建設差し止めを求めてきた以上、漁協側にとって和解は苦渋の決断だった。だが長年をかけて国から引き出した霞ケ浦導水の試験運用時の条件の数々は、今後につながる大きな成果と言える。
「漁業権侵害の具体的危険があるとまでは言えない」(水戸地裁)として2015年の一審判決は、漁協側が全面敗訴した。控訴審では、漁協側はアユに関する独自調査を行うなどして漁業被害の懸念を粘り強く訴え続けた。結果、和解条項に盛り込まれた夜間取水停止期間は、国の当初の主張を上回る内容となった。
今回の和解で漁協側は事業を容認する形となるが、導水の運用開始後の悪影響の有無を見極め、引き続き国と相対する。国は、和解の条件となった「意見交換の場」の設置や、水質モニタリングを早期に始める必要がある。
事業で霞ヶ浦の水が那珂川へ入った時に、何が起きるのかは未知数だ。汚濁した水が水産資源や生態系へ打撃を与える可能性は消えていない。国は和解条項を厳守するとともに、情報開示を徹底し、悪影響があった際には、中止も視野に事業見直しを行うべきだ。
「清流・那珂川を、孫の代まで守る」。今後も揺るがない漁業関係者の思いを国は忘れてはならない。       (手塚京治)

霞ケ浦導水事業
霞ケ浦の水質浄化と那珂川、利根川の渇水対策、首都圏の水道・工業用水確保を目的に、霞ヶ浦と両河川を総延長約46㌔の地下トンネルで結び水を行き来させる計画。総事業費1900億円。2017年度末で1534億円を投入済みだが、完成区間は16.8㌔にとどまる。現在のエ期は23年度まで。

霞ヶ浦導水事業を巡る経過
1984年4月▶着工
91年3月▶霞ヶ浦と利根川を結ぶ利根導水路がほぼ完成
99年1月▶霞ヶ浦と那珂川を結ぶ那珂導水路の一部約6.8㌔がほぼ完成
2008年1月▶栃木、茨城両県の漁協が那珂川取水口建設中止を求める共同声明を発表
3月▶両県漁協が、取水□の建設中止を求める仮処分を水戸地裁に申し立て
09年3月▶漁協側が取水口建設差し止めを求め水戸地裁に提訴
10年3月▶取水口工事(陸上部)完成
14年8月▶ダム事業の見直し検証で国土交通省が事業継続を決定
15年3月▶漁協側が、差し止め判決を求める署名約1万3千人分を水戸地裁に提出
7月▶地裁判決で漁協側の請求棄却、漁協側は月内に控訴
16年1月▶東京高裁で控訴審第1回口頭弁論
3月ごろ▶国交省が事業の工期を2023年度まで延長
17年7月ごろ▶高裁が水面下で漁協側に和解を打診
18年1月▶高裁が口頭弁論で和解勧告、和解協議始まる
3月▶高裁が和解案提示。応じるかどうか、国と漁協側双方に4月25日までの回答求める
4月27日▶和解成立

アユ守る 決意不変  控訴審和解成立
敗訴なら何も残らない 今後見据える漁協関係者
(下野新聞 2018年4月28日)

約50席の傍聴席が埋め尽くされた812号法廷。和解条項を読み上げた都築政則裁判長は、漁協と国側に諭すような口調でこう語り掛けた。「今後、双方が(和解案で決めた)意見交換の場で意見を述べ合っていくことになる。和解は終着点ではなく出発点でもある」
提訴から約9年間、法廷闘争を続けた原告5団体のうち4団体の代表が記者会見に臨んだ。那珂川漁協(茨城県)の添田規矩組合長(76)は「これからが本当の協議の場。自然と環境を守っていく」と力を込めた。
本県那珂川漁協連合会の佐藤文男会長(73)も「これからも那珂川を守っていくために一生懸命頑張っていく」と報道陣に訴えかけた。漁協側の意見を国に伝え、問題点を話し合う協議の場ができる和解条項自体は評価している。『特にアユの遡上環境や稚魚の保護は厳重に訴えていく』と強気の姿勢に変わりはない。
一方で「国が強引に事業を進めず、最初から話し合いをしていればこんなに長くかからず、もっといい(解決の)方法が見つかった」との思いも拭えない。
和解は苦渋の決断だった。本県の大木一俊弁護士は会見で「完成しても無用の長物になる可能性もある」と疑問を呈した。事業が本当に必要なのか、国が言うとおり環境への影響は軽微なのか。疑念は消えない。
一方で「敗訴すれば何も残らない。それより、事業は遂行されてしまうが、我々の意見を取り入れさせる方を選んだ」と谷萩陽一弁護団長は苦悩をにじませた。記者会見には出られなかったが、これまで本県の反対運動をけん引してきた同連合会の金子清次参事(83)は和解を受け「国は我々の意見を取り入れて、きちんとした手続きで進めるべきだ」とくぎを刺した。

国側反応 「課題クリア」工事再開へ 事業費、工期変更せず
霞ケ浦導水事業を巡る住民訴訟が終結した27日、国側は「施工に向け、一つの課題をクリアした」と胸をなで下ろした。訴訟で中断していたエ事は再開へかじを切る。1984年に着工した事業は、総事業費の8割を費やしながら、水が行き来する地下トンネルの完成は4割にとどまる。国は「事業費や工期の変更は考えていない」としているが、予定通り5年後完成するどうか疑問が残る。
和解を受け、国土交通省関東地方整備局は今後の事業の見通しについて「和解直後であり、具体的な事は言えない」とした上で「工事はすぐ再開できるものではない。課題や条件を整理し適切な施工計画を立てることになる」と話した。
現在の工期は2023年度までで、地下トンネル約30㌔などの整備を進める予定。費用は総事業費1900億円のうち、残り360億円余りとなっているが、担当者は「着工当時と比べ施工技術は向上しており、現在の事業費で完成できると考えている」「今のところ工期を延長する議論はない」と話した。
一方、事業の進め方に関しては「強引な進め方が訴訟を招いたという批判を受け止め、漁協関係者とは丁寧に協議していく」と強調した。ただ和解の条件の一つとなった国と漁協側との「意見交換の場」の設置時期については「協議していく」として明苔を避けた。       (手塚京治)

(写真)和解成立後の記者会見で「那珂川を守る」と語る本県那珂川漁協連合会の佐藤会長(左から2人目)=27日午後、東京・霞が関の司法記者クラブ

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