決壊メカニズムに違い 「100年に1度」超す雨直撃 国交省、千曲川・阿武隈川など調査へ(千曲川決壊に関する記事3点)
カテゴリー:
千曲川決壊に関する記事を3点掲載します。
決壊メカニズムに違い 「100年に1度」超す雨直撃 国交省、千曲川・阿武隈川など調査へ
(日本経済新聞2019/10/20)https://www.nikkei.com/article/DGKKZO51197660Z11C19A0CC1000/
台風19号は東日本の広い地域で「100年に1度」を超える大雨をもたらし、河川の氾濫や大規模な浸水被害が相次いだ。現地調査などによって、決壊は場所によって異なるメカニズムで起きたことが分かってきた。地球温暖化のため今後、同等以上の大雨は増えると予想されており、防災のあり方を見直す必要もでてきそうだ。
国土交通省は15日、大規模な浸水被害が起きた千曲川の堤防決壊現場に専門家らを派遣して調査した。参加した信州大学の吉谷純一教授は「川の一部の水が堤防を乗り越える『越水』が発生した可能性がある」と分析する。乗り越えた水が堤防の上部や外側の土を削り、堤防の強度を低下させて決壊を招くケースだ。
堤防の決壊メカニズムには他に、川の水によって堤防が川側から削られる「浸食」や、堤防から水が染みだして外側で土砂が崩れる「浸透」などがある。
阿武隈川沿いで浸水が起きた宮城県丸森町では、14日に東北大学災害科学国際研究所の専門家らが調査した。同研究所の森口周二准教授は「堤防上部に川の石や砂が見られず、浸食や浸透で決壊した可能性がある」と指摘する。
国交省は千曲川や阿武隈川など6つの河川について、堤防決壊の原因を調査する委員会を設置した。今後の復旧作業を決めるため詳細な調査をする。まだ計画の詳細を詰めており、しばらく時間がかかる見通しだ。
個別の詳細な調査はこれからだが、大きな要因は想定を超す大雨が降ったことだ。大きな河川の堤防は一般に、過去の記録をもとに100年に1度の大雨が流域内で降っても耐えるように計画されている。
防災科学技術研究所の分析では、千曲川上流や阿武隈川上流の広い地域で、12日の24時間降水量が100年に1度よりもまれな規模だった。気象庁によると、台風の接近から通過までの半日の間に、全国の120地点で観測史上最高の雨量を記録した。
防衛大学校の小林文明教授は「台風は上陸前から日本に大量の湿った空気をもたらしていた。それが山地にぶつかり、強い雨が降り続けた。さらに台風本体による雨が続いた」と分析する。
この先、温暖化が進めば降水量が増える可能性は高い。小林教授は「治水対策は一般に20~30年前の災害状況をもとに作られているが、当時と現在で状況は異なる。この規模の台風を当たり前と捉え対策をする必要がある」と話す
。
巨大台風と治水 「まさか」はもう通用しない
•
(信濃毎日新聞2019年10月20日)https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20191020/KP191019ETI090006000.php
「ぼくらの大事なふるさとを守ってくれてる(略) ぼくらの歩む未来が輝き続けるように」
長野市の長沼小6年の児童たちが2015年3月に上演した創作劇「桜づつみ」の主題歌だ。
歌われているのは長沼地区にある千曲川の堤防。1984年に完成した既存の堤防を、地元の要望を受け再整備した。
4・3キロにわたって国が盛り土をして堤防機能の維持を図り、市が遊歩道をつくった。地元が寄付した約400本の桜も植えた。
15年かけた事業が完成したのは16年。水害に苦しめられてきた地区には待望の堤防だった。竣工(しゅんこう)式では地元役員から「これで安心できる」などの声が出たという。
児童たちは、水害の歴史を地域の人たちから学び、語り継ごうと劇にした。竣工式でも歌い、歌碑も遊歩道に設置された。
今回の台風で決壊した千曲川本流の堤防はこの「桜づつみ」だ。
<83年を超えた水位>
本流の堤防が決壊したのは1983年の飯山市以来になる。この時に決壊したのは整備前の暫定的な堤防だ。完成堤防の決壊は、千曲川では今回が初めてになる。
長野市の加藤久雄市長は記者会見で「破堤しないという安心感があった」と述べた。住民からも「切れると思わなかった」「大丈夫と過信していた」などの声が相次いだ。今回の災害は、堤防やダムに頼る「治水の限界」を改めて浮き彫りにしたといえる。
国土交通省は2014年に策定した信濃川水系河川整備計画を基に、千曲川の改修を進めてきた。
県内で堤防が必要な区間は226キロ。計画通りの堤防が完成しているのは18年度末時点で145キロ、計画より高さや幅が不足している暫定、暫々定堤防が70キロ、堤防がない無堤区間が11キロある。
計画の想定は、83年の洪水と同程度の流量があっても決壊や越水を防ぐこと。堤防が不十分な区間の整備が中心で、完成堤防の強化は予定されていない。
今回の豪雨で中野市立ケ花の水位は12・44メートルとなり、83年の11・13メートルを更新した。流量は分析中だが、整備計画の想定を上回っていた可能性が高い。
<防ぎきれない水害>
千曲川では決壊、越水地点が中野市や上田市など広範囲にわたった。2044年ごろに終了する現計画が完了していても、今回の水害は防げなかった可能性がある。
信州大工学部の吉谷純一教授は「いつか発生するのでは」と危機感を持っていたという。
特に決壊部分の危険性は以前から指摘されていた。千曲川に犀川が合流し、長野市内の水を運ぶ浅川などが流れ込む。流量が増えた先に立ケ花の狭窄部分があり、水位が増しやすい。
近年は台風などの豪雨で全国各地で氾濫や土石流などが発生し、犠牲者が出ている。整備計画も「防ぎきれない大洪水は必ず発生する」と社会の意識を改革する必要があると強調していた。
吉谷教授は「堤防を水が越えればいずれ決壊する。被害がさらに大きくなっていた可能性もある」とする。その上で「水害は起きるという意識を持ち、行政に頼るだけでなく、河川監視カメラを確認するなどして住民が主体的に避難することも大切」と指摘する。
地域のリーダーに対する危機意識の啓発や、子どもへの教育を進めることも欠かせないという。
市町村が作成したハザードマップを確認し、避難先の確認や手段も確かめておきたい。企業も水害への対応を見直す必要がある。
自治体は避難勧告や指示などを出すタイミングを、堤防は完全ではないという意識を持った上で再検討しなければならない。
<災害から何を学ぶ>
国土交通省北陸地方整備局(新潟市)は、今回の災害を受けて、現在の整備計画をどう進めるのか検討していくという。
より大きな流量に対応するには完成堤防の改修、強化なども必要になる。その場合、限られた予算の中で巨額の費用がかかる。
まずは上下流のバランスを取りながら、危険地域の改修を確実に進めたい。支流が本流に流れ込めない内水氾濫を軽減するには、都市部に降った雨を遊水地などで一時貯留する総合治水を、各地で進めていくことも考えたい。
千曲川は、新潟の信濃川を含めて総延長は国内最長の367キロ。山間の狭窄部と盆地で河道が広い部分が連続し、氾濫しやすい。
大型で非常に強かった台風19号は、千曲川の広い流域に豪雨をもたらした。支流を通し本流に集まった大量の雨水は、時間をかけて下流に押し寄せた。温暖化の影響で同じような巨大台風が常態化する恐れもある。
国直轄の千曲川改修工事が始まったのは1918(大正7)年。今年で101年となる。この間にも大きな氾濫が各地で発生し、乗り越えてきた歴史がある。
今回の災害から何を学ぶのか。流域で生きる全ての人たちが考えていかなければならない。
長野市、決壊周知せず 千曲川、被災住民から批判も
(中日新聞 2019年10月22日)https://www.chunichi.co.jp/article/nagano/20191022/CK2019102202000028.html
長野市が、台風19号で千曲川の堤防が決壊したとの情報を把握したにもかかわらず、周辺住民に即座に知らせていなかったことが分かった。市の担当者は「(濁流が堤防を越える)『越水』に関する情報は住民に知らせ、避難指示も出していた」と説明。「解釈上は『越水』も『決壊』に含まれる」としているが、決壊した後に避難先から自宅に戻り、その後再び避難した住民からは「決壊を知っていたら戻りはしなかった」との批判の声が出ている。
国土交通省北陸地方整備局(新潟市)によると、堤防は十三日午前三~五時半に決壊したとみられる。
長野市危機管理防災課などによると、堤防の決壊は千曲川を管理する国交省千曲川河川事務所職員が十三日午前五時半に確認し、午前六時に発表した。市は同じ時間にテレビ報道で決壊を知ったが、国交省側に確認しなかった。
しかし、市は午前七時ごろの防災メールでも「決壊の恐れがある」と発信し、その後も住民向けに決壊したとの情報は公式には出していない。市の担当者は今回の対応は、実質的に問題はなかったとの認識を示している。
ただ、水防法では水防を担う市に対し「堤防が決壊したときは、ただちに関係者に通報しなければならない」と義務付けている。
国交省水防企画室の担当者は「一般的には『関係者』には周辺住民も含まれる」と解説する。
堤防決壊で濁流が自宅に押し寄せた同市豊野地区の無職男性(74)は十三日午前六時半ごろ、避難所から車でいったん自宅に戻った直後、周辺で浸水が始まった。慌てて車で逃げたが、自宅は一階部分が浸水した。
男性は「一歩間違えたら大変なことになっていた。市は、今後の課題として検証をしてほしい」と注文した。
(伊勢村優樹、日下部弘太、我那覇圭)
コメントを残す