3日前放流でダム容量2倍 農業・発電用、政府試算
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全国の一級水系ダムで農業、発電用にためている水を大雨が予想される三日前から放流し続ければ、雨をせき止める容量が全体で二倍になるとの試算を政府がまとめたという記事を掲載します。
しかし、そう簡単な話ではありません。ダム集水域の雨量を事前に定量的に予測することは難しく、空振りになることが多いです。
また、2018年7月の西日本豪雨では愛媛県肱川の野村ダム・鹿野川ダムではそれなりの事前放流をしていましたが、緊急放流を行う事態になり、肱川流域の住民に大変な災厄をもたらしました。
今回の試算の発表は「政府がまとめた」という表現になっているので、総理官邸の「既存ダムの洪水調節機能強化に向けた検討会議」https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kisondam_kouzuichousetsu/
からの情報であると推測されます。
この検討会議は菅義偉官房長官の肝いりで設置されたもので、議長は菅氏側近の和泉洋人内閣総理大臣補佐官ですが、どのような思惑で二人が関わっているのか、首を傾げるところがあります。
新聞記事のタイトルにある「3日前放流でダム容量2倍」は、上記の検討会議の資料をもとにしています。検討会議の「第3回 議事次第」を開けると、
参考資料「一級水系のダム一覧」https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kisondam_kouzuichousetsu/dai3/sankou.pdf
があって。955ダムについての試算結果の表が記されています。
955ダムの合計は事前放流により、洪水調節容量が約2倍になっていますが、しかし、これはあくまで機械的に計算した結果であって、実際にどれほど意味がある計算なのか不明です。
個々のダムの数字を見ると、事前放流後の洪水調節容量が有効貯水容量より大きくなっているダムが少なからずあります。これは発電等の放流管が有効貯水容量の下部にある場合、堆砂容量の方まで食い込んで放流を続ける場合であって、そのようなことが実際にできるのか、きわめて疑問です。
3日前放流でダム容量2倍 農業・発電用、政府試算
(東京新聞朝刊2020年5月24日)https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/202005/CK2020052402000105.html
全国の一級水系ダムで農業、発電用にためている水を大雨が予想される三日前から放流し続ければ、雨をせき止める容量が全体で二倍になるとの試算を政府がまとめた。増える容量はダムによって異なるが、国土交通省は下流の氾濫リスクを低減できると判断。月内をめどに水系単位で国や自治体、農家などが協定を結んで放流体制を整え、梅雨期に備える。
ダムは、雨をためて洪水を防ぐ治水、農工業や発電、水道用にためておく利水の役割がある。政府は昨年、台風19号(東日本台風)の被害を教訓に、利水ダムでも大雨が降る前に水位を下げ、治水に活用する方針を決定。今回、国土保全や産業発展に重要な一級水系にある全国九百五十五ダムの能力を調べた。
治水ダム、治水と利水両方に対応する多目的ダムは計三百三十五カ所あり、治水向けの容量は最大計約四十六億立方メートル。底に堆積した土砂分を除くダムの有効容量に対する割合は30・1%だった。
これに、六百二十カ所ある利水ダムにたまった水と、多目的ダムの利水向けの水も大雨の三日前から放流しておけば、追加で計約四十四億立方メートルの治水容量を確保できることが判明。有効容量に対する割合は58・7%に上昇する。ただダムの放流設備は各地で異なり、事前放流で確保できる容量には差がある。
国交省は、実際の事前放流量は予想される雨量によって各地で調整すると説明。下がった水位は雨で回復し、農業などには影響しないと想定しているが、水不足になった場合は国の負担で代替水源を用意する。
協定には、放流を実施する降雨量や関係者間の連絡方法を明記。今後、自治体が管理する二級水系でも同様の体制整備を進める。
<増加容量の試算方法> 利水ダムと多目的ダムで農業、発電用にためた水を3日間(72時間)放流したと想定。各ダムの放流管の大きさなどを考慮し、事前放流で増やせる治水容量を試算した。3日前としたのは大雨の予測精度が高まるといった理由がある。対象は国、自治体、電力会社、土地改良区などが管理する計955ダム。一部ダムは放流管より低い位置にたまった「死水」も点検用の管などで放流する。十分な放流設備がなかったり、水をためずに発電したりするダムでは追加容量を確保できない。
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