頻発する水害で大注目 大雨から大都市を守る「調節池」
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河川の中下流や都市内にある洪水調節池の有効性を取り上げたレポート記事を掲載します。
河川の上流にあるダムはその洪水調節効果が河川の中流下流に来ると大きく減衰してしまいますが、河川の中下流や都市内にある洪水調節池はその効果が直接現れます。
この記事にある渡良瀬遊水地、神田川・環状七号線地下調節池、首都圏外郭放水路は近年の洪水で効果を発揮しました。
しかし、それらを新たに設置することは容易ではありません。
渡良瀬遊水地は100年以上前に谷中村を廃村にし、周辺の村を買収してつくられたもので、広さが33㎢(山手線内側の63㎢の約半分)もあります。このように広大な調節池を新たに設置することは無理です。
また、地下を掘削してつくられた神田川・環状七号線地下調節池や首都圏外郭放水路は膨大な費用がかかっています。
神田川・環状七号線地下調節池の工事費は当初の見込みが1030億円で、実際にはもっとかかっているでしょう。
首都圏外郭放水路の工事費は約2300億円でした。
河川の中下流や都市内の洪水調節池は有効性が分かっていても、新たに増やすことは容易ではないと思います。
頻発する水害で大注目 大雨から大都市を守る「調節池」を知っていますか
(URBANLIFE METRO 2020/7/10(金) 7:30配信)https://news.yahoo.co.jp/articles/30b2e67012d59bef10d02f1e9e441a33f37693ea?page=1
水害が頻発する理由
(写真)環状7号線の真下に整備された神田川・環状七号線地下調節池(画像:東京都建設局)
線状降水帯(線状の積乱雲の集合体)によって引き起こされた大雨が、九州各地で大きな被害を出しています。本州にもその影響はおよび、各地で大雨を記録。あちこちで水害の危険性に直面しています。
2019年にも台風19号が日本列島を襲来し、大きな被害が出ました。その傷跡が癒えていない中での大雨に、またかとうんざりしている人は少なくありません。
台風と線状降水帯は異なりますが、水害の危険性や水害対策を講じなければならないという点では同じです。 昨今、大雨や台風によって、水害は頻発しています。その理由はいくつかあり、特に気候変動が大きいと考えられていますが、「都市化」も水害を頻発させている要因のひとつです。
水害に弱い道を歩んできた東京
昭和40年代前半まで、道路の多くはアスファルトで舗装されていませんでした。雨が降ると、土の道路が水を吸収し、それが水害の抑制に一定の効果があったのです。一方、アスファルト舗装された道路は雨を吸収できません。
また同様に都市化の進展で、街のあちこちで見られた小さな河川、いわゆるどぶ川が次々と消えていったことも水害を頻発させている一因です。どぶ川は雨を滞りなく河川へ、そして海へと流す役割を果たしてきました。
昭和30年代には、悪臭の原因になることやごみの廃棄が社会問題になりました。環境・衛生面、美観の観点から、行政はどぶ川の撲滅に取り組みます。こうして行政はどぶ川に次々とふたをし、暗渠(あんきょ。地下水路)化を進めたのです。
渋谷駅そばの宇田川と原宿駅そばの隠田川(おんでんがわ)は、暗渠化された河川として有名です。現在、宇田川の上には西武百貨店が立っています。隠田川は「キャットストリート」という若者があふれる通りに姿を変えました。
都市化だけが水害を引き起こす要因ではありませんが、戦後の東京は一貫して水害に弱い都市の道を歩んできたのです。
ダム・堤防依存からの脱却に向けて
透水性舗装と雨水処理施設の基本体系(画像:東京都建設局)
昨今、東京都は水害対策に本腰を入れるようになっています。
これまでアスファルト舗装された道路は水を吸い込まず、それが水害を引き起こす要因とされてきた反省から、道路を透水性・排水性のある素材で舗装するように改良しています。
また、ダム・堤防に依存してきた洪水対策も新しい発想による転換が進んでいます。
海や河川の氾濫から街を守るダム・堤防は、長らく水害の備えに有効的な手段とされてきました。もちろん、今でもダム・堤防は水害に有効です。
しかし、河川は流域が長大です。それだけに河川すべてに堤防を整備するには想像を絶するほどの工費・維持費が必要になります。それは現実的に不可能です。海岸線も同様で、すべてに築堤することはできません。
ダムも本来は水をためることに主眼が置かれています。水をためている状態で大雨が降り注げば、ダムは決壊するでしょう。ダムが決壊してしまえば、余計に大きな被害を出しかねません。
かといって、大雨を予測して事前にダムを空にするよう放流計画を立てるのは難しい話です。また、どんなに強固なダム・堤防を築いても決壊の危険性はゼロになりません。
注目が集まる調節池・遊水池
神田川・環状七号線地下調節池の仕組み(画像:東京都建設局)
そうしたことから、近年の水害対策はダム・堤防だけに依存するのではなく、調節池・遊水池なども積極的に活用。それらを組み合わせた治水計画が立てられるようになっています。
例えば2019年の台風19号でも、栃木県・群馬県・埼玉県・茨城県の4県にまたがる広大な渡良瀬遊水地(群馬県板倉町)が目的通りの機能を発揮し、水が市街地へ流れ込むことを防ぎました。これにより、水害の被害を最小限に抑えることに成功したのです。
東京都内には環状7号線の真下に神田川・環状七号線地下調節池が整備されています。
神田川・環状七号線地下調節池は延長が約4.5mあり、神田川・善福寺川・妙正寺川の水を約54万立法メートルを貯水できる能力を有します。
神田川・環状七号線地下調節池の完成により、東京23区の西側ではゲリラ豪雨などによって道路の冠水被害が減少。水害リスクを大きく低減させました。
台風19号で真価を発揮した「首都圏外郭放水路」
地底50mを流れる世界最大級の地下放水路「首都圏外郭放水路」(画像:江戸川河川事務所)
また、ひとつの河川は東京都だけを流れているわけではありません。例えば、荒川や利根川の流域は複数の都県にわたります。そのため、東京都だけで水害対策を講じるのではなく、他県とも連携を強化する必要があります。
埼玉県春日部市には、2002(平成14)年から供用を開始した首都圏外郭放水路があります。その名称からもわかるように、首都圏外郭放水路は春日部市のみならず首都圏全体を水害から守る役割を果たしています。
渡良瀬遊水地と同様、首都圏外郭放水路も2019年の台風19号では大活躍し、被害を最小限に抑え込みました。
水害対策では、ハード面における整備が着実に進んでいます。しかし、ダム・堤防をはじめ遊水池や放水路を整備するには計画段階から着工、そして完成までに長い歳月を要します。
災害はいつ起きるかわかりません。明日、起きる可能性もあるのです。そうしたことからハードだけに頼るのではなく、市区町村は近年、避難訓練の実施やハザードマップ作成による意識の向上といったソフト面にも力を入れています。
小川裕夫(フリーランスライター)
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