「流域治水」へ転換を答申 社会資本整備審議会河川分科会
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2か月前にお伝えしたように、7月9日、国土交通省社会資本整備審議会河川分科会の小委員会が、今後の水害対策についての答申を赤羽一嘉国交相に提出しました。「流域治水」への転換を促すものになっています。
国交省「気候変動を踏まえた水災害対策のあり方」をとりまとめ~社会資本整備審議会の答申を公表~
https://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo03_hh_001030.html
この答申の内容を詳しく伝える毎日新聞の記事を掲載します。
「流域治水」への転換は大いに取り組むべきことですが、この答申は総花的で、現場感覚が乏しく、具体性が欠けているように思われます。
「流域治水」と、お題目を言うだけでは現状とさほど変わりません。
毎日フォーラム・特集気候変動に備える
「流域治水」へ転換を答申 社会資本整備審議会河川分科会
民間事業者、住民と共に取り組む
(毎日新聞2020年9月10日 09時59分) https://mainichi.jp/articles/20200909/org/00m/010/022000d
(写真)約30メートルにわたり決壊した球磨川の堤防=熊本県人吉市中神町で7月4日
(写真)最上川が氾濫して浸水した住宅やビニールハウス=山形県村上市で7月29日
この夏も日本列島は豪雨災害に見舞われた。7月4日に九州の熊本県や鹿児島県で気象庁が大雨特別警報を出した豪雨は、数日間にわたり九州北部から中部地方にも範囲を広げ記録的な雨量を観測した。国交省によると、熊本県の球磨川や岐阜県の飛驒川が氾濫した他、同月10日時点で97河川で護岸の損壊や堤防の陥没などが発生した。
同月29日には山形県の最上川が氾濫するなど、梅雨前線の北上とともに被害地域が東北地方にも広がった。総務省の8月7日までのまとめでは、この7月豪雨で人的被害は死者82人、行方不明4人、負傷者28人に及んだ。
このような中で、今回の答申は、気候変動を踏まえた今後の水害対策の方向性と新たな水害対策の具体策についてとりまとめられ、7月9日に赤羽一嘉国交相に手渡された。赤羽国交相は「気候変動で降雨量が増えている。科学的な根拠により優先順位を持ってやっていかなければならない」と強調した。
同審議会は、諮問を受けて河川分科会に小委員会を設置し、気候変動による降雨量の増加などを踏まえた水害対策などについて検討を行い、今回の答申「気候変動を踏まえた水災害対策のあり方~あらゆる関係者が流域全体で行う持続可能な『流域治水』への転換~」をまとめた。
答申はまず、近年の水害による甚大な被害を受けて、ダムや堤防などの施設の能力を超す洪水が発生することを前提に、社会全体で洪水に備える「水防災意識社会」を再構築する取り組みをさらに一歩進めることを提言した。気候変動の影響や社会状況の変化などを考慮して、あらゆる関係者が協働して流域全体で行う持続可能な治水対策「流域治水」への転換を促し、防災・減災が主流となる社会を目指すとした。
防水のハード対策と避難のソフト対策の両面充実へ
その上で、今後も水害が激化し、これまでの水害対策では安全度を上げていくのに限界があるため、防水施設の整備を進めるハード対策と、命を守るための避難対策のソフト面の両面の対策など手法の充実を求めた。
国交省は、日本が人口減少と少子高齢化が進む中で、「コンパクト」な町と「ネットワーク」を基本とした国土形成によって、地域の活力を維持することを目指している。それが水害に強い安心・安全な町づくりにも必要とした。住民の避難に進展が著しい次世代通信規格・5G技術やAI(人工知能)技術などの情報通信技術を活用することも推奨し、これからの対策の方向性や具体策を示した。
被害軽減のための水害対策の考え方として、施設能力を超過する規模の洪水が発生することを前提に、流域のあらゆる関係者の参画により、災害が発生した場合でも人命が失われたり、経済が回復できないようなダメージを受けることを回避して速やかに復旧・復興を進め、以前よりも災害にも強い地域づくりを進めるとした。
気候変動を踏まえた計画へ具体的にどう見直していくのか。答申は、過去の降雨や潮位の実績に基づいて作成されてきた洪水や内水氾濫、土砂災害、高潮・高波などを防ぐ計画を、気候変動による降雨量の増加、潮位の上昇などを考慮した計画に見直すとした。気候変動による影響を盛り込んだ河川整備基本方針や河川整備計画の見直しに速やかに着手することを求めた。
「流域治水」への転換では、河川、下水道、砂防、海岸などの管理者が主体となって行う治水対策に加えて、水が集まってくる「集水域」と「河川区域」だけでなく、「氾濫域」も含めて一つの流域として捉える。流域の関係者全員が協働して「氾濫をできるだけ防ぐ対策」「被害対象を減少させるための対策」「被害の軽減、早期復旧・復興のための対策」を総合的、多層的に取り組むとした。
流域で「ためる」「流す」「減らす」「限定」対策の組み合わせ
これらの対策について、答申は速やかに実施すべき施策も示した。
氾濫をできるだけ防ぐための対策として、流域全体で「ためる」対策、「流す」対策、「氾濫水を減らす」対策、「浸水範囲を限定する」対策を組み合わせた整備を加速させる。都市部の河川、流域を中心に雨水貯留浸透施設を整備し、遊水池の整備やダムの建設・再生の施策を進めて治水容量を確保する。
また、河川改修を上下流、左右岸のバランスを考慮しながら、下流から順次実施して雨水を流す施策を進める。氾濫が予想される場合は、堤防の決壊までの時間を少しでも引き伸ばすように堤防の構造を工夫する。
越水した場合であっても、決壊しにくい「粘り強い堤防」を目指す堤防の強化を実施し、堤防強化の技術開発も進める。さらに都市化が著しい河川で進めてきた流域の貯留対策を全国に展開するという。
被害対象を減少させるための対策としては、流域全体で「水害リスクがより低い区域への誘導・住まい方の工夫」「浸水範囲の限定」「氾濫水を減らす」対策を組み合わせた施策を加速させる。洪水に対する災害危険区域の指定や、建築規制の取り組みはまだ事例が少ないことから、浸水想定区域の指定を推進しリスク情報の空白域の解消を目指す。
コンパクトな町づくりでも防災に配慮し、より水害リスクの低い地域への居住や都市機能を誘導する。水害リスクがあるエリアでは、建物の1階部分を空間にしてかさ上げするピロティ構造にするなど、住まい方の工夫を推進するほか、不動産取引時の水害リスク情報提供や、保険・金融による誘導も検討する。
また、氾濫水による被害を最小限にとどめるために作られる第2の堤防「二線堤」や、特定の区域を洪水から守るために周囲を囲むようにつくられた堤防「輪中堤」など、氾濫水を制御して範囲を限定する取り組みも全国ではまだ事例が少ない。このため、二線堤の整備や既存の自然堤防の保全により、浸水範囲を限定する施策も進める。
被害の軽減・早期復旧・復興のための対策として、避難体制を強化して命を守る政策を推し進める。答申は、最近の災害がリスク情報の空白域で発生していることや、リスク情報が公表されているエリアでも被害が発生し、広範囲で大規模な災害になっていると指摘している。
そのため、浸水想定区域の指定を推進するとともにリスク情報の空白域を解消することを目指す。民間ビルの活用や高台整備によって近くの避難場所を確保し、各地区における個人の防災計画の作成や、防災情報の表現も工夫する。長時間予報や水系全体、高潮などの水位・予測情報の提供も徹底する。
民間企業と一体で経済被害軽減へ
さらに、答申は発災による経済被害の軽減に努めるとしている。公共交通機関などのインフラが被災して経済被害が拡大していることから、さまざまな民間企業などの拠点とネットワークを支える社会インフラを一体化した浸水対策を実施する。被害の広域化・長期化による経済被害の拡大が懸念されるため、より早期の復旧のために、国などに加え民間企業に協力を求める。早期の復興のため水害保険や金融商品の充実によって個人の備えを推進する。
このほか、「流域治水」を推進するための仕組みとして、土地利用などで危険性の高い行為の禁止など、規制的な手法と誘導的手法を組み合わせて、流域治水への参画を促進する仕組みや、異分野・異業種が横断的に連携し新技術を導入する仕組みなどが必要としている。
具体的には、流域のあらゆる関係者が参画する仕組みとして、新たな宅地開発や地面の舗装などで降雨の流出を防止するための貯留浸透施設の設置の義務化や、水害リスクの特に高い地域での土地利用や建築を制限する。コンパクトシティー施策による防災にも配慮して、より水害リスクの低い地域へ都市機能や居住を誘導する。さらに、氾濫を発生させない対策への協力に必要な費用の補助、水災害リスクを回避・軽減するための住まい方の工夫に要する費用への補助を実施する。
また、浸水被害軽減地区での固定資産税の減免など、既存の施設の機能に着目してその機能を保全するための税制措置を設ける。保険料率や住宅ローン金利の優遇など、水害リスクの高低に応じた水害保険や金融商品の充実が必要としている。 さらに、貯留施設の実施率の公表など地域における対策の実施状況や効果などの見える化を進める。貢献度の高い取り組みや先進的な取り組みに対する表彰制度の創設なども例示している。
答申は速やかに実施すべき施策として、▽河川整備基本方針及び河川整備計画の目標の見直し▽気候変動を踏まえた下水道による都市浸水対策に係る中長期的な計画の策定の推進▽海岸保全基本方針及び海岸保全基本計画の見直し▽施設の機能や安全性の確保のための設計基準等を見直し、などを挙げている。
「大雨特別警報」の「解除」を「切り替え」へ 気象庁
最近では、「これまでに経験したことのない」降水量を記録する異常気象が発生している。7月の九州地方を中心とする集中豪雨は、線状の積乱雲が集合体になって押し寄せる「線状降水帯」によって引き起こされたものだ。本州にもその影響は及んで各地で大雨を記録し、全国が水害の危険性に直面していることを示した。
こうした水害に対して、気象庁は「大雨特別警報」の「解除」の表現見直しなど、ソフト面での対応を急いでいる。同庁は今年5月、防災情報の伝え方の改善策を公表した。記録的大雨による河川の氾濫が全国で相次いだ2019年の台風被害を受けたもので、大雨特別警報を解除する際も引き続き警戒を呼びかけ、氾濫が予想される河川名を臨時の記者会見で発表している。住民への注意喚起を行い、適切な避難につなげる狙いがある。
国交省によると、19年10月の台風19号では、5段階の「大雨・洪水警戒レベル」で最も警戒度が高いレベル5に当たる大雨特別警報が出された。その解除後に阿武隈川(福島県)や千曲川(長野県)など8河川で水位が上昇し、氾濫が発生した。降った雨が河川に流入するまでに時間がかかり、大雨が去った後に河川が増水したためだ。
このため、気象庁は今年の大雨の時期から、特別警報を解除する際も「解除」という文言を使わず、「警報に切り替え」や「注意報に切り替え」と表現し、危険が去ったと誤解されないようにしている。河川の最高水位の見込みや到達時間などについてもホームページで発表し、解除とともに住民が情報収集をやめないように、切り替え前に臨時会見を開いて氾濫の恐れがある河川名を公表するなど、引き続きの警戒を求めている。
昨年の台風19号では気象庁が上陸前日の会見で「狩野川台風」を例示して警戒を呼びかけた。こうした過去の台風を引き合いに規模の想定を伝える場合は、被害が特定の地域で発生すると誤解されないように、どの地域で危険が高まっているかを丁寧に伝えている。
気象庁が1月に公表したアンケート結果によると、台風19号の被害を受けた7県の住民の約3割が、大雨特別警報の解除後に「安全な状況になったと考え、避難先から戻った」と回答したという。気象庁は「特別警報が解除されても油断はできない状況にある」と説明する。
昨年の台風19号では関東・東北地方を中心に計142カ所で堤防が決壊するなどして広範囲が浸水した。総務省消防庁によると、死者は災害関連死を含め13都県で101人、行方不明が3人に上った。昨年は台風15号などによる甚大な台風被害が相次いだことで、気象庁の有識者会議が対策を検討していた。
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