「耐越水堤防」台風19号被害で18年ぶり復活 川があふれても決壊しにくく
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国土交通省が長年封印してきた「耐越水堤防」を一部区間で復活させる方針を決めました。昨年10月の台風19号で決壊した千曲川の穂保で耐越水堤防の工事が進められています。
その記事を掲載します。
しかし、「耐越水堤防」が今後どの程度導入されるのか、先行きはわかりません。
「耐越水堤防」台風19号被害で18年ぶり復活 川があふれても決壊しにくく
(東京新聞2020年10月13日 06時00)分https://www.tokyo-np.co.jp/article/61415
昨年の台風19号で堤防決壊が相次いだことを受け、国土交通省は、18年前に整備を撤回した「耐越水堤防」を一部区間で復活させる方針を決めた。川の水があふれる越水が決壊原因の大半のため、越水しても決壊しにくい工法で強化する。既に台風19号で千曲川が決壊した長野市で耐越水堤防の工事を実施した。ただ、この工法を20年近くも採用しなかったことについて、国交省OBらから批判が出ている。(宮本隆康)
(写真)昨年10月の台風19号災害で決壊し、復旧工事が進められる千曲川の堤防=今年4月、長野市穂保で
◆250キロの堤防が26キロに
旧建設省は1990年代、白書で耐越水堤防に着目し、「フロンティア堤防」と名付けて全国250キロでの整備を計画した。通常は氾濫しても決壊を防げば、住宅地などに流れ込む水量は堤防を越えた分だけになり、被害を減らせる。
同省は2000年、設計指針を全国の出先機関に通知したが、国交省は02年に設計指針の廃止を通知し、整備を中止。結局、国内9カ所の河川で計26キロの整備にとどまった。
中止の理由は白書などに書かれていない。国交省治水課は取材に「効果がはっきりせず、事業を全国展開するには至らなかった」と説明する。
◆128カ所が決壊し一転
その方針を一転させたのは昨年の台風19号。国管理河川の14カ所、県管理河川の128カ所で決壊が起きた。このうち86%は越水が原因だった。
国交省の有識者検討会は今年6月、川幅の拡張など「川の水位を下げる対策が基本」とした上で、「氾濫のリスク解消が当面は困難で、決壊すれば被害が甚大な区間」で耐越水堤防の整備を目指すよう求めた。氾濫リスクが高い整備対象の区間として、川幅が狭くなる場所や、川が曲がる場所、支流との合流地点などを例に挙げた。
国交省は千曲川の決壊について「越水により、住宅地側の土が削られたことが主な原因」と結論づけ、長野市穂保地区の決壊現場で、住民の要望もあって耐越水堤防の工事を実施。同課は「予算の問題もあるので、場所を選び効率的に取り組みたい」としている。
◆ダム建設でタブー視
複数の国交省OBは「20年前から堤防の改良を続けていれば、ここ2、3年の被害をかなり防げた可能性がある」と悔やむ。整備中止について「ダム建設の妨げになるのを懸念したため」との証言もある。
同省OBによると、01年ごろに熊本県の川辺川ダムの反対派が、耐越水堤防をダムの代案として要望。その直後「省内で『ダムの足を引っ張るな』と、がらっと雰囲気が変わった」という。堤防の越水対策工事で「越水対策の言葉だけはやめてくれ。隣の席で川辺川ダムを一生懸命やっているのに」と指示され、工事の名目を変えたことも。省内で越水対策はタブー視され、禁句になったという。
近年、危惧された越水による大規模水害が発生。15年の茨城県常総市の鬼怒川で越水により決壊。18年には西日本豪雨でも決壊が相次ぎ、多くの死傷者を出した。
耐越水堤防は復活したが、あくまで危険箇所などでの緊急対策とされた。「(耐越水堤防は)決壊しにくいが絶対に決壊しないわけではない」(治水課)。
耐越水堤防の整備を訴え続けてきた旧建設省土木研究所元次長の石崎勝義さん(82)は「他の対策よりも安く、少しの手直しで済む。想定以上の雨が増え、市街地を控えた場所は原則導入すべきだ」と警鐘を鳴らした。
フロンティア堤防
住宅地側ののり面「裏のり」、裏のりの下の部分「のり尻」、堤防の上の部分「天端(てんば)」の3カ所をブロックやシートなどで補強する「アーマーレビー工法」の堤防。越水した時、裏のりから浸食で崩れて決壊するのを防ぐ。国交省は2015年の鬼怒川決壊の後、のり尻と天端だけを全国約1800キロで補強する方針を決めていた。
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