耐越水堤防の経過と現状 「耐越水堤防工法の実施を河川管理者に働きかけよう」
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手持ち資料と最新データを使って、耐越水堤防の経過と現状(封印が解かれつつある耐越水堤防工法)をスライド形式の報告でまとめました。
その報告を水源連のHPにアップしました。耐越水堤防の経過と現状(封印が解かれつつある耐越水堤防工法)2022年12月
詳細はそのスライドで説明しております。
その主な内容を下記に記しますので、長文ですが、お読みいただきたいと存じます。
スライドとの対応をスライド番号№で示しましたので、詳しい内容はスライドを見ていただきたいと思います。
耐越水堤防の経過と現状(封印が解かれつつある耐越水堤防工法)
耐越水堤防は比較的安価な費用で堤防を強化し、洪水時の越水による破堤を防ぐ工法です。
建設省土木研究所での耐越水堤防に関する実験結果を踏まえて、一級水系の河川で、耐越水堤防の施工が1980年代の後半からほんの一部の河川で実施されるようになりました。
しかし、国交省は2000年代になって川辺川ダム等のダム建設設推進の障壁になると考え、耐越水堤防の普及にストップをかけ、耐越水堤防工法は長らく実施されませんでした。
その後、耐越水堤防工法は20年間近く封印されてきたが、2019年10月の台風19号水害で破堤した千曲川の穂保(ほやす)(長野市)などで耐越水堤防工法が導入され、封印が解かれつつあります。
Ⅰ 比較的低コストの耐越水堤防工法(スライド№3~7)
耐越水堤防の工法はいくつかの種類がありますが、代表的な工法は川裏法面(河川とは裏側の法面)を連接ブロックと遮水シートなどで強化し、越水が起きても破堤しないようにする工法です。
堤防1メートルあたり100万円程度で導入が可能で、スーパー堤防(堤防1メートルあたり5000万円程度の例もある)と比べると、はるかに安上がりです。
Ⅱ 耐越水堤防の始まり(スライド№8~16)
旧・建設省土木研究所が「洪水が越水しても簡単には決壊しない堤防」(耐越水堤防)の工法を1975年から1984年にかけて研究開発し、建設省が一級河川の一部で1980年代の後半から耐越水堤防を実施しました。
建設省が耐越水堤防の普及を図るため、2000年3月に「河川堤防設計指針(第3稿)」を発行し、関係機関に通知しました。
耐越水堤防(フロンティア堤防、アーマーレビー(鎧型堤防))は全国の9河川で実施されました(施工開始時期 1988~1998年度)。
Ⅲ ダム推進のために消えた耐越水堤防工法(1)川辺川ダム住民討論集会(2001年12月)の直後 (スライド№17~20)
耐越水堤防が国交省の公式文書から退場したのは、2001年12月の川辺川ダム住民討論集会の直後のことです。住民側は「フロンティア堤防計画を実施すれば、八代地区で球磨川は氾濫せず、川辺川ダムは不要」と指摘しました。
集会で、住民側がは情報公開請求による開示資料を基に、「フロンティア堤防計画を実施すれば、八代地区で球磨川は氾濫せず、川辺川ダムは不要」と指摘しました。
耐越水堤防の存在がダム推進の妨げになると考えた国交省は、2002年7月12日 河川局治水課長から各地方整備局河川部長あてに「河川堤防の設計について」を通達し、「河川堤防設計指針(第3稿)」は廃止する旨を通知しました。
代わって通知された「河川堤防設計指針 2002年7月12日」は耐越水堤防に関する記述が一切消えていました。
なお、熊本県では球磨川水系での川辺川ダムの建設の是非が住民討論集会等で、争われてきました。川辺川ダムは2020年7月の熊本豪雨のあと、「流水型川辺川ダム」という衣をまとって、再登場し、2035年度完成予定で、事業が始まろうとしていますが、ダムの必要性は相変わらず希薄です。
Ⅳ ダム推進のために消えた耐越水堤防工法(2)土木学会からの報告(2008年10月27日)(スライド№21~28)
淀川水系流域委員会は2008年4月の意見書を提出し、淀川水系5基のダム計画中止と耐越水堤防への強化対策を求めました。
国交省・淀川河川事務所は耐越水堤防の実用性を否定することを目的にして、土木学会へ耐越水堤防の技術的評価を委託しました(2008年8月29日)。
同年10月に土木学会から「耐越水堤防整備の技術的実現性の見解」が報告されましたが、その内容は「被覆型工法は耐侵食性、耐候性、耐震性等の長期にわたる実効性が未だ明らかではなく、維持管理上の観点から、現時点での被覆型による越水許容の実現性は乏しい。」というもので、耐越水堤防の実用性を全面否定する報告でした。
なお、淀川水系流域委員会が2008年に中止を求めた5基のダム計画のうち、丹生ダムと余野川ダムは中止されましたが、天ケ瀬ダム再開発と川上ダムは推進されました。そして、大戸川(だいどがわ)ダムは2019年に三日月大造・滋賀県知事がダム推進に変わり、2020年に事業凍結が解除されました。
Ⅴ 耐越水堤防の一部凍結解除(1)2019年10月に大氾濫した千曲川で実施 北陸地方整備局 (スライド№29~31)
国土交通省北陸地方整備局は2019年10月の台風19号水害で大氾濫した千曲川において、決壊した長野市穂保(ほやす)等で耐越水堤防工法を実施しました。
なお、決壊した千曲川の穂保は、千曲川への浅川の合流点付近にあります。浅川ダム(2017年竣工)はその合流点から約14㎞上流にありますが、当時、浅川ダムには洪水がほとんど貯留されず、何の役割も果たしませんでした。浅川ダムの集水面積は15.2㎢で、千曲川の立ケ花地点の流域面積6442㎢の約1/400であり、微々たるものです。浅川ダムの建設に380億円の事業費(国庫補助率50%)が投じられましたが、無意味な治水対策でした。
Ⅵ 耐越水堤防の一部凍結解除(2)国交省が耐越水堤防を一部河川で実施し始めた(スライド№32~35)
国交省は「令和元年台風第19号の被災を踏まえた河川堤防に関する技術検討会」第1回~3回(2020年2月~6月)を開催し、2021年度以降、15河川16箇所で「越水に対して粘り強い堤防」を実施していることを示しました。
裏のり面をコンクリートやブロックで強化する被覆型工法の整備費用は1㍍あたり100~150万円であることを示しました。
国交省が様変わりして、耐越水堤防を一部河川で実施し始めたのは、氾濫が頻発する現状に対応しなければならなくなったこと、河川官僚の代替わりで、従前の膠着した誤った考えが見直されてきたことにあるのではないかと推測します。
今回の国交省の技術検討会の委員のうち、二人は2008年の土木学会からの報告をつくった「耐越水堤防整備の技術的な実現性検討委員会」とダブっています。委員長は同じ人です。2008年の報告は耐越水堤防の全面否定、2020年の答申は耐越水堤防の容認です。同じ人間が180度異なることをよくも言えるものだと、怒りを禁じえません。耐越水堤防の導入の遅れで、命、財産を失った人々がいたかもしれないことを彼らは深く反省すべきだと思います。
Ⅶ 耐越水堤防工法の実施を河川管理者に働きかけよう(スライド№36)
現在の河川は、堤防の高さが確保されたとしても、河道掘削等の遅延により計画規模以下の洪水であっても容易に計画高水位を上回り、さらには越水する可能性を否定することはできない状況となっています。
堤防決壊の7~8割以上は越水による破堤であるので、越水しても簡単に破堤しない堤防に強化することが急務です。
被害の最小化(減災)、特に人的な被害の回避という危機管理上の観点から、必要に応じて越水に対して一定の安全性を有する堤防、耐越水堤防工法を実施する必要があります。
耐越水堤防工法は建設省土木研究所での耐越水堤防に関する実験結果を踏まえて、一級水系の河川で、耐越水堤防の施工がほんの一部の河川で1980年代の後半から実施されるようになりましたが、国交省は2000年代になって川辺川ダム等のダム建設設推進の障壁になると考え、耐越水堤防の普及にストップをかけ、耐越水堤防工法は長らく実施されませんでした。
その後、耐越水堤防工法は20年間近く封印されてきたが、2019年10月の台風19号水害で破堤した千曲川などで耐越水堤防工法が導入され、封印が解かれつつあります。
私たちは国交省等の河川管理者に各河川での耐越水堤防工法の早期実施を働きかけていく必要があります。
以上です。
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