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霞ケ浦導水の住民訴訟 高裁が和解案提示 4月25日までに回答求める

2018年4月9日
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那珂川の漁協が霞ヶ浦導水事業の工事差し止めを求める控訴審において東京高裁での和解協議が大詰めを迎えています。その記事を掲載します。

霞ケ浦導水訴訟で高裁が和解案 「意見交換の場」など提案、回答に期限も

(下野新聞 2018年3月31日)http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/local/news/20180331/3011880

栃木・茨城両県の漁連・漁協5団体が国に霞ケ浦導水事業の那珂川取水口建設差し止めを求めた住民訴訟控訴審の7回目の和解協議が30日、東京高裁(都築政則(つづきまさのり)裁判長)で開かれた。漁協側弁護団によると、高裁は、事業が本格運用されるまで国と漁協側との意見交換の場を設けることを柱とする和解案を示した。また原告、被告双方に対し、受け入れるかどうか4月25日までの返答を求めたという。双方が受け入れれば、次回口頭弁論の27日に和解が成立する。
弁護団によると、和解案は国が事業を行う上で漁業への影響に配慮し、各漁協の意見を尊重することを目的として明記。アユ、サケ、ヤマトシジミなど水産資源8種への悪影響を防ぐため、設備を本格運用するまでは漁協側との意見交換の場を設けるよう求めた。
意見交換の場は非公開とし、年1回、原則7月に開くことを提案。本格運用の時期には触れていないが、漁協側の意見を聞いた上で国が判断することを想定しているとみられる。
また和解案は、本格運用までは取水を制限するなどして事業を行うことなどを求めた。稚アユの取水口吸い込みを防ぐため、毎年10~1月の夜間取水停止を提案。国に少量の試験送水(霞ケ浦から那珂川への逆送水)を行って、水質などの定期的なモニタリング調査をするよう示した。
高裁は和解案の意図について「漁業被害が生じない仕組みをつくることが重要」と述べたという。

霞ケ浦導水訴訟で和解案 東京高裁 国が水質調査へ

(茨城新聞 2018年3月31日(土))http://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=15224233057885

霞ケ浦導水事業で那珂川と涸沼周辺の生態系が破壊され漁業権が侵害されるとして、流域の4漁協と栃木県の漁連が国に那珂川取水口(水戸市)の建設差し止めを求めた訴訟の和解協議が30日、東京高裁であり、都築政則裁判長が和解案を示した。漁協側弁護団によると、事業の本格運用まで国と漁協側の意見交換の場を設けることなどを柱としている。受け入れるかどうか、双方に4月25日までの回答を求めた、
和解案では、アユなどの漁業に大きな影響を与えないよう、国が定期的に水質をモニタリング調査し、取水の時期や時間を制限して事業を試験的に実施、本格運用までの間、漁協側と意見交換する協議会を設けるとしている。
協議会の開催は毎年7月に加え、申し入れに応じて招集することも可能とするほか、有識者でつくる専門委員会を置くことができるとしている。
漁協側弁護団によると、この日、都築裁判長は「国側から最大限の譲歩を得られたと思っている」と強調したという。漁協側には「仮に敗訴となったら何も残らない。組合が(国を)監視し、(那珂川や涸沼を)守っていくことが大事だ」と和解を促した、
次回期日は4月27日。同25日までに和解案に回答するよう双方に求めた。
協議の後、谷萩陽一弁護団長は「相当程度こちらの目的を達し得るもの」と評価した。国土交通省関東地方整備局は「和解協議中であり、具体的にコメントすることは差し控えたい」とした。
控訴審で漁協側は、ふ化したばかりのアユの吸い込み防止策で、国が示す10、11月の夜間取水停止では不十分と主張。霞ヶ浦から那珂川への「逆送水」で、涸沼のシジミにかぴ臭が移る恐れがあると訴えた、国は「12月に取水制限すれば足りる」と反論。かび臭物質は海水などで希釈されると主張してきた。
事業は霞ヶ浦の水質浄化や首都圏への水の安定供給が目的で、1984年に着工。2010年に中断したが、事業検証の結果、14年に継続が決まった。

 

和解協議 ヤマ場に あす、漁協と国に正式案

下野新聞 2018年3月29日

和解案素案の主なポイント
・夜間取水停止期間の具体的提示
・逆送水の悪影響を監視する水質などのモニタリング
・取水口運用に関する国と地元との協議会設置

霞ヶ浦導水を問う

漁業被害防止策どこまで

栃木・茨城両県の漁連・漁協5団体が国に霞ヶ浦導水事業の那珂川取水口建設差し止めを求めた住民訴訟控訴審の和解協議がヤマ場を迎えている。東京高裁は30日の次回協議で正式な和解案を示す見通しで、既に4月下旬に次々回の期日を設定し和解成立も視野に入れているとみられる。漁協側か水戸地裁に訴えを起こして約9年。漁協側が懸念する漁業被害の防止策を巡り、高裁の和解案で漁協側、国側が歩み寄れるのか、注目される。 (手塚京治)

東京高裁、成立視野か

「話し合いによる解決が双方の利益になると考えている」と、東京高裁が和解勧告したのは1月16日。漁協側は2015年7月の一審水戸地裁判決で敗訴しており、「名を捨て実を取る」として事業容認と引き換えに漁業被害の防止策を国に認めさせるため和解協議に応じた。非公開の協議はこれまで計6回行われた。
高裁は今月27日の前回協議前に和解案の素案を提示。稚アユの取水口吸い込みを防ぐ夜間取水停止期間について、国側が主張する10~11月だけでなく、具体的な期間を示し延長を提案したという。
漁協側は独自調査を基に、当初は4月までの停止を求めた。国は難色を示す一方、停止期間見直しの余地も示唆していたといい、高裁がそれらをどう解釈するかが一つのポイントだ。
高裁の素案は、水産資源のカビ臭被害を懸念する漁協側が条件付けを求めた霞ヶ浦から那珂川への逆送水について、国に那珂川流域の水質などのモニタリングを求めた。送水の判断が制約されるのを嫌う国に配慮し、那珂川へ原因物質が流入するのを監視する仕組み作りを求めた格好だ。
カビ臭被害は、漁協側でも特に大涸沼漁業協同組合(茨城県茨城町)が懸念している。那珂川下流域の涸沼はシジミ漁が盛んで、関係者は事業による風評被害を警戒している。
一方、漁協側が求めてきた国と地元による取水口運用に関する協議会設置は、双方で争いがないという。
高裁の正式な和解案は、素案に対する双方の意見聴取などが反映されるとみられる。訴訟に参加する各漁協が納得する対策が盛り込まれるのか。国側が許容できる内容か。大詰めの和解案は30日に提示される。

和解案次回提示へ 東京高裁

下野新聞 2018年3月28日

霞ヶ浦導水を問う

栃木・茨城両県の漁連・漁協5団体が国に霞ヶ浦導水事業の那珂川取水口建設差し止めを求めた住民訴訟控訴審の6回目の和解協議が27日、東京高裁(都築政則裁判長)で行われた。漁協側弁護団によると、漁協側は事前に高裁が示していた和解案の素案に対し一部修正を求めた。今回の協議を踏まえ、高裁は30日の次回協議で正式な和解案を示す見通し。
弁護団によると、素案は漁協側へは23日に郵送で届いた。稚アユの取水口吸い込みを防ぐ夜間取水停止期間について、国側が主張する10、11月にとどまらず具体的な期間を挙げて延長することや、水産資源へのカビ臭被害を懸念し漁協側が条件付けを求めていた霞ケ浦から那珂川への逆送水の在り方について、国が水質などをモニタリングすることを提案しているという。
弁護団は各漁協の代表者らの意見を踏まえ、27日は一部文言の修正を高裁に求めた。素案は国側にも事前に示されているが、国側から修正を求める意見はなかったとみられるという。
弁護団代表の谷萩陽一(やはぎよういち)弁護士は協議後、正式な和解案が提示されれば「各漁協は総代会や役員会を開くなどして対応を協議することになる」と話した。

メコン川開発 中国、ダム建設加速で影響力拡大  下流域の首脳会議、連携強化確認  

2018年4月7日
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メコン川のダム建設問題についての記事を掲載します。
2014年の「ホーチミン宣言」で強調した「ダム建設などによる川の生態系への影響を最小化」といった文言が今回の共同宣言では消えたとのことです。ダム建設が進んでいくことが心配されます。

メコン川開発 中国、ダム建設加速で影響力拡大
下流域の首脳会議、連携強化確認
(日本経済新聞 電子版2018/4/6 14:44)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29081730W8A400C1FF2000/

【シエムレアプ(カンボジア北西部)=小野由香子】東南アジア最長の河川であるメコン川の下流域4カ国は5日、首脳会議を開き、上流の中国との水利用に関する情報共有など協力強化を盛り込んだ「シエムレアプ宣言」を採択した。前回会議で表明した下流域での水力発電ダム建設による生態系破壊の懸念についてはトーンダウン。ダムの多くには中国企業が関与しており、同国主導のインフラ整備が進みそうだ。

首脳会議はタイ、ラオス、カンボジア、ベトナムの下流域4カ国で構成するメコン川委員会(MRC)が4年に1度開催する。上・中流域国の中国とミャンマーはオブザーバーとして参加。3回目だった今回はカンボジア北西部シエムレアプで開いた。
共同宣言では「持続可能で平等な水資源の利用」を確認したが、2014年の「ホーチミン宣言」で強調した「ダム建設などによる川の生態系への影響を最小化」といった文言が消えた。前回会議では下流域で本流初のダムを計画中だったラオスをけん制したカンボジアのフン・セン首相も今回は「環境破壊」といった言葉は使わなかった。
経済発展に伴い電力需要が増える東南アジアにとってメコン川の水力開発は有望な電力源だ。一方、漁業への影響を懸念する地元の反発が強く、環境への配慮から欧米も積極的に資金援助をせず、開発は進まなかった。その流れが中国資本の流入で変わりつつある。
メコン川下流域の本流では現在11件のダム構想がある。すでにラオスでタイなどの出資で建設中の2件に加え、カンボジアの「サンボル」とラオスの「パクベン」の建設がそれぞれ中国出資で動き出そうとしている。カンボジアでは本流からわずか25キロの支流にある「セサン2」も中国企業との合弁で建設中だ。
中国にとって東南アジアは広域経済圏構想「一帯一路」の一部で、経済協力を名目に影響力を拡大している。インドシナ半島を縦断するメコン川の水力発電の開発もその一環だ。
15年には下流域4カ国に中国、ミャンマーを加えた6カ国の新たな枠組み「瀾滄江―メコン川協力(LMC)」の発足を主導。16年の第1回首脳会議では流域開発に100億ドル(約1.1兆円)超の融資枠を設けると約束した。今回のMRC首脳会議はLMCとの連携も確認した。
首脳会議に先立ち、MRCは建設・計画中のダムの環境調査を発表した。現状の計画が進めば、40年にはメコン川の土砂堆積は97%、生息する魚は40%それぞれ減るという。だが、首脳会議では、メコン川の最下流に位置し、南シナ海の領有権問題で中国と距離を置くベトナムのみが同調査に言及。共同宣言にも「調査結果は今後政策決定する際に検討する」と記すにとどまった。

諫早干拓問題の最近の記事

2018年4月7日
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諫早干拓問題について最近の記事を掲載します。
先行きが厳しい状況になってきました。

諫早干拓、基金案による漁業再生へ 3県足並みそろえ沿岸漁協トップ会談
(産経新聞2018年4月7日)http://www.sankei.com/region/news/180407/rgn1804070006-n1.html

国営諫早湾干拓事業(長崎県)をめぐり、福岡、熊本、佐賀3県の有明海沿岸漁協・漁連のトップが、7日に会談することが分かった。開門しない代わりに漁業振興基金を創設する福岡高裁の和解案受け入れで、意見一致を目指す。開門派の反対で和解協議が決裂したとしても、基金案による有明海の漁業再生に向け、足並みをそろえる。 (村上智博)

福岡高裁(西井和徒裁判長)は3月5日、開門を強制しないように国が開門派漁業者側に求めた請求異議訴訟で、和解を勧告した。開門に代わり、国が創設する100億円の基金などで、漁業振興を図る内容だった。西井裁判長は「混迷した状況を打開する唯一の現実的な方策」とした。
諫早問題では、長引く混迷にうんざりする漁業者側に、現実的な解決法として基金案を受け入れるムードが出てきた。
特に福岡、熊本の両県漁連は、基金案の早期実現を求める。タイラギなど高級二枚貝の漁業再生には、一刻の猶予もならないという危機感からだ。
福岡有明海漁連の西田晴征会長は「漁業再生は、今やらないと手遅れになる。いつまで裁判をするのかという思いがある」と語った。
福岡、熊本両県漁連は、水面下で佐賀側との接触を重ねた。
佐賀県有明海漁協の徳永重昭組合長はこれまで、開門派漁業者の側に立ってきた。だが、ここにきて基金案容認へ舵(かじ)を切った。
3月14日には、同漁協所属の15支所の総意として、勧告に沿って和解協議を続けるよう求めることを申し合わせた。
徳永氏は同19日に「(基金案を)受け入れざるを得ない」と表明した。佐賀県の山口祥義知事も基金案に理解を示した。
ただ、佐賀県有明海漁協や佐賀県は、今回の訴訟当事者ではない。
開門派弁護団の馬奈木昭雄団長は、3月20日の佐賀県議会で「基金案をのんでも、有明海は再生しない」「今後は開門を求める(干拓地の)営農者も増える。裁判は積極的に起こしたい」などと語った。
福岡高裁の和解勧告に対し、国は今月4日、勧告を受け入れる回答書を提出した。
一方、開門派の漁業者側は3月19日、勧告を拒否すると回答した。
今月10日に和解協議があるが、決裂する可能性が大きい。その場合、7月30日に判決が言い渡される。福岡高裁は「開門を強制しない」という国の請求を認める判決になることを示唆している。

諫早湾干拓、見えぬ解決の道筋 和解決裂へ 高裁の協議勧告、4日に期限

(日本経済新聞 電子版2018/4/2 20:30)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO28886970S8A400C1ACYZ00/

国営諫早湾干拓事業(長崎県)を巡り、潮受け堤防排水門を開門せず、国の漁業振興基金による解決を図る案を示した福岡高裁の和解勧告が4日、当事者の回答期限を迎える。漁業者側は拒否する意向を既に示しており、和解は決裂する見通しだ。対立解消のメドが立たない中、漁業者、営農者双方で内部の足並みの乱れも表面化し始めており、事態は混迷の度合いを一段と深めつつある。

「事業は膠着した状況となっている」「関係者に深刻な対立をもたらしている」。福岡高裁が3月5日に出した和解勧告には、現状を憂慮する厳しい言葉が並んだ。
勧告は、営農者に大きな影響を与えることなどを理由に「開門が紛争解決に有効とは認められない」と指摘。開門はせず、国が創設する100億円規模の漁業振興基金で解決を図る方向性を提示し、これが「唯一の現実的方策だ」として関係者に和解協議のテーブルにつくよう求めた。
だが、基金案による和解協議は長崎地裁でも昨年決裂したばかり。漁業者側は長年にわたってあくまで開門を求め続けており、今回も「到底受け入れることはできない」(馬奈木昭雄弁護団長)として、3月19日には拒否する内容の書面を高裁に提出した。
回答期限の4月4日を過ぎれば、高裁は「和解は決裂した」と判断し、国が開門を強制しないよう求めた請求異議訴訟についての判決を7月30日に言い渡す見通し。その場合は漁業者側に不利な内容になることが見込まれており、国が開門しない代わりに漁業者側に支払い続けている1日90万円の制裁金が止まる可能性もある。

(写真)諫早湾干拓事業の潮受け堤防排水門(長崎県諫早市)
もっとも、制裁金の支払いが止まったとしても、開門命令と開門差し止め命令という矛盾した司法判断が並立する従来の「ねじれ」の状態に変わりはない。漁業者側弁護士によると、開門を巡る訴訟はほかにも複数件が係争中といい、統一的な司法判断が見込める状態ではない。
原告の漁業者とともに開門を求めてきた佐賀県や同県の漁協は最近、「国の基金案受け入れが現実的選択肢」との姿勢を強めている。山口祥義知事は3月28日、斎藤健農相との会談で基金案の受け入れを伝達。原告らと足並みが乱れる事態になっている。
ただ、ある漁協幹部は「和解が決裂すれば、国の有明海再生事業が縮小されるのではとの不安があった」と苦しい胸の内を明かし「開門要求の旗を完全に降ろしたわけではない」とも話す。原告側は「開門を求め続ける漁業者を孤立させるような姑息(こそく)なやり方は許せない」と、国への不信感を一段と募らせている。
さらに事態を混迷させかねないのが、この4月で営農開始10年を迎えた営農者側でも足並みの乱れが表面化したことだ。
干拓農地では昨年4月時点で40の経営体が入植していたが、このうち2つの農業生産法人が、農産物の野鳥による食害被害を受けたなどとして、農地を所有する長崎県や国などを相手取り、損害賠償や開門を求めて長崎地裁に提訴したのだ。
「開門を求める営農者」というこれまでにない立場の当事者の登場に、開門派の漁業者側も連携を模索。この訴訟に利害関係者として補助参加を申し立てる方針という。様々な立場の関係者が複雑に入り交じり、全体像を見通しにくいほどの状況に陥っている。

 

開門棚上げ現実対応 確定判決〝無効化〟公算で
諫早和解協議県と漁協容認

(佐賀新聞2018/4/2 10:30)www.saga-s.co.jp/articles/-/199912

国営諫早湾干拓事業(長崎県)を巡り、開門調査を求めている佐賀県と県有明海漁協は開門しない前提での訴訟の和解協議を容認することを表明した。開門を求める声が根強い中での判断の背景には、開門のよりどころの確定判決が“無効化”する公算になった状況がある。有明海再生の道筋はいまだ見えない中、確定判決を履行しない国を不問にする司法の決着が現実味を増している。
「紙に書いてあることがすべて」。3月中旬、漁協がまとめた「有明海再生に向けた考え方」の趣旨について報道陣に問われた徳永重昭組合長は、そう繰り返した。文書は、福岡高裁が国の主張に沿って開門しないことを前提とする和解勧告を示したのを受け、訴訟当事者の開門を求める漁業者と国に和解協議を進めるよう求めている。
▼方針支持
有明海再生事業の継続や潮受け堤防内の調整池の小まめな排水、堤防の排水ポンプ増設の3項目も、従来の漁協要望事項として明示した。一方、「開門調査を含む有明海の環境変化の原因究明が必要」との主張を堅持することも付記している。県も「現実的な対応」として漁協の方針を支持し、山口祥義知事が3月28日、農水省を訪れて斎藤健農相に直接報告した。
開門関連訴訟で、和解協議に入った福岡高裁の訴訟はとりわけ重要視されていた。確定判決に基づく開門を強制しないよう国が求めていて、認められれば確定判決の効力が事実上失われるからだ。高裁は勧告で、開門せずに国が示す基金案によって解決を図る方向性を示した。開門派の漁業者側には和解協議が決裂しても国に有利な判決になることを示唆し、司法の「非開門」の流れが決定的になった。
▼徹底抗戦
基金案は100億円規模で漁業振興を目的とし、国が和解協議前に漁協に対して受け入れを求めていた。漁協は回答を見送る一方で基金案と別に有明海再生事業の継続など3項目を要望した。国は高裁へ提出した文書でそれらの要望を示し、「和解協議が進展すれば検討する」「引き続き有明海再生が重要な政策課題であるとの認識に立つ」と前向きな意向を示した。
高裁も国に呼応する形で「(漁協は)現状を踏まえて苦渋の決断や検討に至ったと思われ、その要望は尊重されるべき」との見解を和解勧告に加えた。漁協が「開門」と「非開門」の矛盾するような考え方をあえて示したのには、和解協議が漁業者側の拒否で決裂する見通しの中、訴訟にかかわらず要望に応えるよう訴える狙いがうかがえる。
国は福岡高裁の和解勧告に関して4日までに回答する。「和解に至れるようあらゆる努力を行っていく」としているが、協議決裂によって基金案や漁協の要望を議論する場がなくなって立ち消えになる可能性があり、漁業者の反発も予想される。当事者の漁業者側弁護団は既に訴訟で上告する意向を示すなど徹底抗戦の構えを見せており、問題の行方は依然として混沌(こんとん)としている。
国の訴訟進行に関する上申書の一部要旨(2月23日付)
排水ポンプの増設は現時点では費用負担の在り方などに課題があるが、和解に向けた協議が進展すれば検討する。小まめな排水の実施はこれまでと同様に努力していく。有明海再生事業の継続は、毎年度の予算編成過程で取り組みの成果を踏まえ検討するが、引き続き有明海の再生が重要な政策課題であるとの認識に立って検討する。
福岡高裁の和解勧告の一部要旨(3月5日付)
佐賀県の漁業団体は執行部において一定の要望をすることで基金案受け入れの可否を検討している状況にあり、佐賀県も漁業者に寄り添う姿勢と見受けられる。本来は開門を求めるところ、現状を踏まえて苦渋の決断をし、または検討するに至ったと思われ、その要望は尊重されるべき。

岡、熊本、佐賀3県の有明海沿いの漁協は、7日の会合で、今後は足並みをそろえて、有明海再生事業の実施を訴えるよう申し合わせる。
高裁による判決後も見据え、歩調を合わせ、基金案実現を目指す。

佐賀県有明海漁協が表明した有明海再生に関する考え方の文書

コンセッション方式や広域化で基盤強化、水道法改正案

2018年4月7日
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今国会に上程されている水道法改正案についての解説記事を掲載します。
注目すべきところは、2の広域連携の推進と4の官民連携の推進です。広域連携に関しては、都道府県が推進役の役割を果たすようになります。
官民連携に関しては水道施設の運営権(コンセッション)を民間事業者に設定できる仕組みが導入されます。この記事は次のように解説しています。
「現行制度でも、PFI法に基づいて、施設の所有権を地方公共団体が保持したまま、施設の運営権を民間事業者に設定することは可能だが、施設の運営権を民間事業者に設定するには、地方公共団体が水道事業の認可を返上したうえで、民間事業者が新たに認可を受けることが必要になっている。これに対して、地方公共団体から、不測のリスク発生時には地方公共団体が責任を負えるよう、水道事業の認可を残したまま、運営権の設定を可能にしてほしいとの要望が出ていた。そこで、改正後は、地方公共団体が水道事業者の位置付けを維持したまま、運営権方式を導入できるようにする。 」
この水道法改正に対してどう対応していくかが問われています。

第196回通常国会 PPPまちづくり関連の改正法案を読む(3)
コンセッション方式や広域化で基盤強化、水道法改正案

(新・公民連携最前線2018.4.6) http://www.nikkeibp.co.jp/atcl/tk/PPP/040200075/040300003/

平島 寛
水道事業は、人口減少に伴う水の需要の減少、水道施設の老朽化、深刻化する人材不足、必要な水道料金原価の見積もり不足の恐れなどの課題に直面している。
これらの課題を解決し、将来にわたって安全な水の安定供給を維持していくために、水道の基盤強化を図るのが水道法改正案の狙いだ。改正案の内容は、
1. 関係者の責務の明確化
2. 広域連携の推進
3. 適切な資産管理の推進
4. 官民連携の推進
5. 指定給水装置工事事業者制度の改善
の5つからなる。
1.関係者の責務の明確化および2.広域連携の推進に関しては、法律の目的における「水道の計画的な整備」を「水道の基盤の強化」に変更し、国、都道府県、市町村、水道事業者に対し、「水道の基盤の強化」に関する責務を規定する。
国は、広域連携の推進を含む基盤強化の基本方針を定めることとする。都道府県には、水道事業者間などの広域的な連携の推進役としての責務を規定する。都道府県は、水道基盤強化計画を定めることができ、水道事業者間などの広域的な連携の推進に関して協議を行うため、水道事業者などを構成員として、「広域的連携等推進協議会」を設置できるようにする。
国内1388の上水道事業のうち、給水人口5万人未満の小規模な事業者が952と多数存在(2014年度)しており、経営面でのスケールメリットを創出できる広域連携が必要となっていることから、都道府県には広域連携の推進役としての役割が期待されている。
3.適切な資産管理の推進に関しては、老朽化に起因する事故の防止や安全な水の安定供給のため、水道事業者などに点検を含む施設の維持管理や定期的な修繕の実施、台帳の整備を義務付ける。水道事業者は、長期的な観点から水道施設の計画的な更新に努めなければならない。そのために、水道施設の更新に要する費用を含む収支の見通しを作成・公表するように努める必要がある。
現行法では、施設の維持・修繕の基礎となる台帳整備の規定がなく、施設データの整備が不十分だったため、災害時に迅速な復旧作業に支障を生じる例も見受けられた。さらに、高度経済成長期に整備された水道施設の更新時期が到来しており、長期的視野に立った計画的な施設の更新(耐震化を含む)が必要になっている。一方、人口減少に伴って水道事業の経営状況は今後も厳しい見込みだが、十分な更新費用を見込んでいない水道事業者が多く、水需要の減少と老朽化の進行によって、将来急激な水道料金の引き上げを招く恐れがあり、適切な資産管理が必須になっている。資産台帳の整備は、広域連携や官民連携のための基礎資料としても必要不可欠である。
4.官民連携の推進では、地方公共団体が水道事業者として経営する原則は維持する一方、水道の基盤強化のために多様な官民連携の選択肢を広げるという観点から、水道施設の運営権(コンセッション)を民間事業者に設定できる仕組みを導入する。
地方公共団体はPFI法に基づく議会承認などの手続きを経るとともに、水道法に基づいて厚生労働大臣の許可を受けることによって、民間事業者に施設の運営権を設定できるようになる。
現行制度でも、PFI法に基づいて、施設の所有権を地方公共団体が保持したまま、施設の運営権を民間事業者に設定することは可能だが、施設の運営権を民間事業者に設定するには、地方公共団体が水道事業の認可を返上したうえで、民間事業者が新たに認可を受けることが必要になっている。これに対して、地方公共団体から、不測のリスク発生時には地方公共団体が責任を負えるよう、水道事業の認可を残したまま、運営権の設定を可能にしてほしいとの要望が出ていた。そこで、改正後は、地方公共団体が水道事業者の位置付けを維持したまま、運営権方式を導入できるようにする。
5.指定給水装置工事事業者制度(※)の改善については、工事事業者の資質の保持や実態との乖離の防止を図るため、給水装置工事事業者の指定に更新制(5年)を導入する。
※ 条例によって給水装置工事は指定給水装置工事事業者が施行することが規定され、各水道事業者は蛇口、トイレなどの給水装置工事を施行する者を指定できる。
1996年に全国一律の指定基準による現行制度が創設されたが、広く門戸が開かれたことで事業者数が大幅に増加。現行制度は新規の指定のみで、休廃止の実態が反映されづらく、無届け工事や不良工事が多発していることが背景にある。
(資料)水道管路の老朽化はますます進む(厚生労働省)

下水道処理場で官民連携 浜松市が新手法導入、事業開始

2018年4月4日
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国内初となる下水道の長期運営権の譲渡となる浜松市の西遠流域下水道事業が今年度から始まりました。その記事を掲載します。
水処理世界最大手の仏ヴェオリアと日本の会社が設立した浜松ウォーターシンフォニー株式会社が20年間運営を行います。https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/g-sisetu/gesui/seien/pfi.html

運営権者は維持管理、改築更新工事、計画立案、浜松市は認可取得、モニタリングを行うことになっています。
ただし、民営化するのは、西遠流域下水道事業の処理場とポンプ場だけであって、下水管の部分は譲渡されていません。
なお、下記の記事では運営権者が料金徴収を行うと書かれていますが、料金徴収は市が委任を受けていますので、市がまとめて徴収して、運営権者に収入額の24%を渡します。

国内初の下水道の運営権譲渡ですが、浜松市の西遠流域下水道事業は特異な事例ではないかと思います。
西遠流域下水道は元々は静岡県の事業でしたが、2005年の市町村合併に伴い、対象流域が浜松市のみとなり、合併特例法の適用により2016年3月末に浜松市に移管されました。管理は移管前は静岡県下水道公社を通して民間会社に委託し、移管後は市が直接、民間会社に委託していました。したがって、もともと市が直営で運営したものではなく、運営方式を模索した結果、今回の民営化を選択したのであって、他の下水道や水道にそのまま当てはまるとは思われません。

なお、運営権譲渡の詳細は下記の運営権実施契約書に書かれています。
浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)運営事業 公共施設等運営権実施契約書
https://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/g-sisetu/gesui/seien/documents/jisshikeiyakusho_20171030.pdf

下水道処理場で官民連携 浜松市が新手法導入、事業開始
(静岡新聞2018/4/2 08:22)www.at-s.com/news/article/politics/shizuoka/474401.html

(写真)コンセッション方式導入を祝い、テープカットする関係者=1日午前、浜松市南区の西遠浄化センター

官民連携の新手法「コンセッション方式」を2018年度から導入した浜松市公共下水道終末処理場(西遠処理区)の事業開始式が1日、同市南区の西遠浄化センターで開かれた。下水道分野での同方式の導入は全国初で、市や運営企業などの関係者、地元住民ら約50人が参加し、事業開始を祝った。
同方式は自治体が公共施設の所有権を持ちながら、民間事業者が料金徴収して自由に施設運営する。民間運営は37年度までの20年間で、総事業費を約86億円削減できるという。市が運営権を与えるのは同センターと中継ポンプ場2カ所で、市内から排水される下水の5~6割を処理している。市は水道事業でも導入可能性を調査している。
式典で鈴木康友市長は「人口減少社会でのインフラ管理は自治体の課題であり、浜松で成功させて全国に広がることを期待したい」とあいさつした。施設を運営する浜松ウォーターシンフォニーの山崎敬文社長は「一瞬たりとも事業が途絶えることのないよう全力で運営に努める」と述べた。

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