水源連:Japan River Keeper Alliance

水源開発問題全国連絡会は、ダム建設などと闘う全国の仲間たちのネットワークです

ホーム > ニュース > 報道

ニュース

報道

熊本)川辺川利水事業終了へ 着手から30年以上

2018年1月26日
カテゴリー:

既報のとおり、川辺川ダムを前提とした川辺川利水事業が廃止になりました。
2003年に灌漑事業の同意率3分の2が虚偽であるとする福岡高裁の判決が出て、川辺川利水事業は白紙になりましたが、それから約15年経ってようやく廃止です。
一方、川辺川ダム事業の方は2009年に政府の方針として中止になりましたが、ダム基本計画はいまだに廃止されていません。
川辺川ダムなしの球磨川水系河川整備計画がまだ策定されていないからです。
ダムなしの河川整備計画を策定するための「球磨川治水対策協議会・ダムによらない治水を検討する場」は昨年1~2月に意見募集を行った後、活動がストップしています。www.qsr.mlit.go.jp/yatusiro/river/damuyora/index.html
国土交通省が設定した河川整備計画策定の枠組みが川辺川ダムを必要とするようなものになっているので、いつまで経っても、ダムなしの整備計画がつくられません。
その枠組みを根本から見直すことが必要です。

熊本)川辺川利水事業終了へ 着手から30年以上

(朝日新聞熊本版2018年1月26日)

<田んぼダム>大雨を貯めて下流の洪水軽減 宮城県が試験研究へ 効果や課題探る

2018年1月26日
カテゴリー:

宮城県でも田んぼダムを進めるという記事を掲載します。

安価で有効な治水対策ですので、もっともっと普及してほしいと思います。
なお、田んぼダムの効果については農林水産省の資料がありますので、お読みください。農林水産省の資料 20160311

 

<田んぼダム>大雨を貯めて下流の洪水軽減 宮城県が試験研究へ 効果や課題探る
• (河北新報2018年1月24日)http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201801/20180124_11019.html
(写真)新潟県で導入されている「軽量落水升」(手前)などの説明を受ける参加者
2015年の宮城豪雨(関東・東北豪雨)をはじめ県内で豪雨被害が多発傾向にあることから、県は新年度、降った雨を一時的に田んぼにため、下流部の洪水被害の軽減を図る「田んぼダム」の試験研究に栗原市などで着手する。

田んぼダムは、豪雨時に排水路に戸板を設置するなどして田んぼの排水量を減らし、河川流量の急増を緩和する仕組み。東北では山形、秋田両県で一部導入されている。
試験では、県古川農業試験場(大崎市)が新潟県内で導入されている板材を挟んで使うポリエチレン製の「軽量落水升」を落水口に設置する手法などの効果を確かめ、稲作への影響も調べる。遠隔操作のシステムも検証し、農家の負担やコスト面についてデータを収集する。
県は15日、大崎市の県大崎合同庁舎で田んぼダムの研修会を開催。自治体や土地改良区の関係者ら約110人を前に、関東・東北豪雨で被害があった栃木県小山市周辺での田んぼダムの導入効果予測などについて宇都宮大の田村孝浩准教授(農村計画)が報告した。
田村准教授は、導入で豪雨による水没面積が大幅に減るとのシミュレーション結果を提示。費用が遊水池やダム建設などに比べて大幅に抑えられる一方、被害が予測される地域より上流部の農家の協力が不可欠なため「受益者と負担者が別で、だれがどう費用負担するかという問題もある」と指摘した。
新年度、県は栗原市内で試験を行うほか、田んぼダムの効果があるとされる流域面積の20%以上を試験地にできる地域を募る。県古川農試の担当者は「まずは新潟県などの方法が県内で合うのか、効果や農家の負担などについて検証していく」と話す。

川辺川利水事業 農林水産省、終了へ 地権者3分の2以上同意 /熊本

2018年1月21日
カテゴリー:

川辺川ダムを前提としていた川辺川利水事業の廃止がようやく決まりました。1月12日の官報で廃止の公告が出ました。熊日と毎日の記事をお送りします。
2003年にかんがい事業の同意率3分の2が虚偽であるとする福岡高裁の判決が出て、川辺川利水事業は白紙になりました。このことが川辺川ダムを中止に導く大きな要因になりました。
それから15年経ちました。しかし、廃止までずいぶんと長い年数がかかるものですね。私(嶋津)も当時は60歳でしたが、今は70歳代半ばになってしまいました。
川辺川利水事業の関係農家も同じで、高齢化が進んでいるのではないでしょうか。
役所は役人が変わって仕事を続けるけれども、農家の方は対応していくのが大変だと思います。

国営川辺川土地改良事業計画の変更及び国営川辺川土地改良事業の廃止の公告

官報2018年1月12日 http://kanpou.npb.go.jp/20180112/20180112h07180/20180112h071800013f.html

農水省、川辺川利水の変更計画決定 同意取得3分の2以上に
(熊本日日新聞2018年01月13日) https://news.goo.ne.jp/article/kumanichi/region/kumanichi-304527.html

対象農地の縮小と事業の一部廃止に向け、農水省が計画変更作業を続けていた国営川辺川総合土地改良事業(利水事業)は、対象農家からの同意取得が法的に必要な3分の2以上に達したとして、斎藤健農相が変更計画を決定し、12日公表した。当初は、川辺川ダム(2009年に政府が建設中止表明)から人吉球磨の農地3590ヘクタールに送水する大型事業だったが、計画発表から30年以上が経過する中、農水省は工事を終えている農地造成と区画整理での収束を目指す。
同意取得は九州農政局が昨年4月に着手。ダムから送水するかんがい事業の廃止、農地造成、区画整理それぞれについて対象農家に求めた。
集計によると、かんがい事業(3110ヘクタール)は5380人のうち4161人、区画整理(46ヘクタール)は2108人中1534人、農地造成(189ヘクタール)は312人中228人がそれぞれ同意した。
同局川辺川農業水利事業所(人吉市)は「ほとんどの農家から賛同を得ることができた。一方で同意しなかった中には行政に対する不信や、送水がなくなった不満を理由にする人が少数いた」としている。
九州農政局は変更計画について、15日から2月9日まで関係6市町村の役場などで公告と計画書を縦覧。引き続き2月10〜26日に対象農家へ審査請求を募り、請求がなければ同27日に変更計画が確定する。同局は同意取得に際し、本年度中の変更計画の確定を目指すとしていた。(西島宏美)

川辺川利水事業 農林水産省、終了へ 地権者3分の2以上同意 /熊本
(毎日新聞2018年01月13日)https://mainichi.jp/articles/20180118/ddl/k43/040/231000c

農林水産省は、国営川辺川総合土地改良事業のうち、政府が2009年に建設中止を表明した川辺川ダムから人吉球磨地域6市町村の農地3110ヘクタールに水を引くかんがい事業を廃止し、農地造成と区画整理事業も既に工事を終えた各189ヘクタールと46ヘクタールに縮小する変更計画を決定した。対象地権者から法的に必要な3分の2以上の同意を得たという。当初480ヘクタールを予定していた造成農地と合わせ計3590ヘクタールに送水する予定だった大型公共事業は、着手から30年以上を経て正式に終了する。
土地改良事業は1983年、球磨川右岸の農地560ヘクタールの区画整理と造成、かんがいの3事業をセットに着手した。しかし94年に事業規模を縮小する計画変更をした際、かんがいと区画整理の同意率が3分の2に達していなかったとする福岡高裁判決が2003年に確定。事業は白紙に戻り、川辺川ダム建設中止の大きな要因となった。
九州農政局川辺川農業水利事業所によると、今回の同意取得は昨年4月に着手し、かんがいは対象地権者5380人の77・3%、区画整理が同2108人の72・7%、造成が同312人の73・0%の同意を得た。未同意者のほとんどが相続の未登記や行方不明などで連絡が取れない地権者だという。
同省は2月9日まで関係6市町村の役場で廃止と変更計画の公告・縦覧をし、同10~26日に審査請求を募る。請求がなければ同27日に変更計画が確定。既設の造成農地に地下水で給水し、事業を終了させる。【福岡賢正】

霞ケ浦導水訴訟 東京高裁が和解勧告、漁協側は応じる構え

2018年1月21日
カテゴリー:

茨城・栃木両県の那珂川関係の8漁業協同組合が霞ケ浦導水事業の差止めを求めた裁判の控訴審が大詰めを迎えています。
1月16日の第8回口頭弁論では、下記および添付の記事の下野新聞20180117霞ヶ浦導水裁判(145KB)のとおり、東京高裁が和解勧告を出しました。
当初、高裁が示した和解案は漁業被害の問題をそれなりに考慮したものであったようですので、漁協側は和解に応じる構えです。
成り行きを注目しています。
なお、霞ヶ浦導水事業の問題は https://suigenren.jp/news/2017/11/15/9754/ をご覧ください。

霞ケ浦導水訴訟 東京高裁が和解勧告、漁協側は応じる構え

(下野新聞2018年1月17日 朝刊)http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/local/news/20180117/2938095

アユなど那珂川水系の水産資源に悪影響を及ぼす恐れがあるとして、栃木、茨城両県の漁連・漁協5団体が国に霞ケ浦導水事業の那珂川取水口建設差し止めを求めた訴訟の控訴審第8回口頭弁論が16日、東京高裁で開かれた。
都築政則(つづきまさのり)裁判長は「話し合いによる解決が双方の利益になると考えている」などとして和解勧告した。
漁協側は和解協議に向けて、たたき台となる和解案を2月上旬にも高裁に提示する構え。
都築裁判長は弁論で「双方の主張が出そろい、審理は終盤と認識している」とした上で「話し合いによる解決が双方の利益になると考え、それぞれの代理人に(和解を)打診してきた」と述べた。
弁論後、漁協側と国側から、それぞれ非公開で意見聴取した。
漁協側弁護団によると、高裁から昨年7月ごろ、初めて和解を打診された。
当初は和解の条件として(1)取水口の運用に関する漁協側と国側の定期的な意見交換(2)稚アユの取水口迷入を防ぐ取水制限時期の協議、決定(3)霞ケ浦から那珂川への逆送水は必要かつやむを得ない場合にとどめる-という案を口頭で示されたという。
高裁と原告、被告の協議の結果、国側が和解案を示す可能性は低いとの感触があり、漁協側から案を示すことにした。
高裁は本年度内の和解が念頭にあるとみられるといい、漁協側の丸山幸司(まるやまこうじ)弁護士は「将来的に漁業権侵害にならないための歯止めをきちんとかけられるなら、(和解で)実利を取れる可能性があると考えている」と話した。

一方、国土交通省関東地方整備局は「和解勧告を踏まえ今後適切に対応していく」とコメントした。
事業は霞ケ浦と那珂川、利根川を地下導水路で結び、水を行き来させる計画で1984年に着工。漁協側は事業による漁業権侵害を訴え2009年に提訴したが、15年7月の一審水戸裁判決は「侵害の具体的危険があるとまでは言えない」として国側が勝訴。漁協側が控訴していた。

安全再考 九州北部豪雨半年

2018年1月4日
カテゴリー:

昨年の九州北部豪雨を取り上げた毎日新聞西部版の連載記事(上、中、下)を掲載します。

この連載記事で談話が紹介されている大学(名誉)教授の3人について若干のコメントをしておきます。

(連載上)群馬大大学院の清水義彦教授は国土交通省本省と関東地方整備局の河川関連の委員会にほとんど名前を連ねる常連で、ダムおよびスーパー堤防の推進論者です。委員会にばかり出席しているので、本業の群馬大学の仕事は大丈夫なのかと思ってしまう人物です。

(連載中)広島大の中根周歩(かねゆき)名誉教授は2000年代前半に行われた川辺川ダム住民討論集会で住民側に立って森林の伐採や人工林の放置が洪水流量の増大をもたらしているという見解を示しました。

一方、(連載中)東京大学の太田猛彦名誉教授は国土交通省の側に立って、川辺川ダム住民討論集会で中根氏と真逆の見解を示しました。森林環境学、 森林水文学を専門とするはずの太田氏が森林の役割を否定したのです。森林学者としての誇りはないのかと思いました。

安全再考
九州北部豪雨半年/上 進まぬ中小河川整備 国予算減、計画策定も困難
(毎日新聞2017年12月26日 西部朝刊)https://mainichi.jp/articles/20171226/ddp/001/040/002000c

今年7月に福岡、大分両県を記録的な大雨が襲った九州北部豪雨は、大量の土砂と大木が中小河川に流れ込み、被害が拡大した。

福岡県朝倉市杷木林田を流れる赤谷川は当時、氾濫し、川の流れが変わってしまった。「家屋は流され、田畑や果樹園が土砂で埋まった。子供のころからの光景は一変した」。地元の元区長、林清一さん(70)は半年前を振り返る。地区では3人が犠牲となった。

国は1997年の改正河川法で、河川管理者に地元住民らの意見を聞き、災害時の被害軽減策などを盛り込んだ河川整備計画を策定するよう求めている。しかし、国は計画策定を期限を定めた義務とはしておらず、赤谷川など氾濫した県管理の15河川で、県は計画を策定していなかった。

昨年8月に岩手県岩泉町で高齢者グループホームの入所者9人が死亡するなどした台風10号豪雨でも、被害を検証した国の審議会が「計画が作成されている河川が少ない」と中小河川の計画策定が全国的に遅れていることを指摘していた。

法改正から20年となる今年1月時点で、都道府県管理の2級河川全国2713水系のうち、策定済みは479水系で全体の2割に満たないことが国土交通省のまとめで判明。国管理の1級河川は109水系のうち103水系が策定済みで、中小河川への対応の遅れが数字となって表れた。

ただ、自治体も頭を抱えている。計画を作れば、20~30年後の整備目標に向けた改修工事が続き、予算の確保を伴う。中小河川が多い北海道の担当者は「早く策定したいが、予算が限られている」と漏らす。

赤谷川のような1級河川の支流も含めて中小河川は全国に約2万河川あるが、都道府県への交付金を含めた国の治水関係予算は、河川法を改正した97年度の1兆3698億円をピークに、2017年度は7956億円まで減少。自治体の厳しい懐事情を物語る。

「安全が確保されなければ住むことはできない」と林さんは訴え、川幅を約2倍に広げる赤谷川の改良復旧を求めている。県河川課の担当者は「豪雨被害を踏まえた整備計画を早急に作成したい」としている。

群馬大大学院の清水義彦教授(河川工学)は「連続堤防を整備することは基本だが、どうしても時間や予算がかかる。集落を囲むような輪中堤防の設置や避難のための施設整備がソフト対策と一体となって機能する。メリハリをつけた整備計画が大切だ」と話す。

◇    ◇

福岡、大分両県で39人が犠牲となり、今も2人が行方不明の九州北部豪雨は、来月5日で発生から半年となる。いまだ被害の爪痕が生々しい被災地から災害への備えを改めて考える。

安全再考
九州北部豪雨半年/中 放置森林、対策急務 砂防ダム越える流木、土砂
(毎日新聞2017年12月27日 西部朝)刊https://mainichi.jp/articles/20171227/ddp/041/040/017000c

福岡県朝倉市の山あいにある砂防ダムが、おびただしい量の流木をせき止めていた。豪雨から1カ月がたとうとする7月末、同市菱野の区会長、妹川正隆さん(68)は、その光景に息をのんだ。ダム下の妹川さんの集落87世帯は一部で浸水被害はあったが、犠牲者は出なかった。

「もしダムがなかったら……」。想像するだけで今も身震いする。

九州北部豪雨では、山間部で多数の土砂崩れが発生した。国土交通省は、現地調査で砂防ダムが流木や土砂をせき止めている事例を確認。流木被害を防ぐために全国で砂防ダムの整備を進める方針を打ち出し、対策に乗り出している。

しかし、過去の豪雨災害を上回る短時間に集中した記録的な大雨は、新たな課題も突き付けた。

砂防ダムだけでは防げなかった流木が川伝いに集落を襲っていた。同市黒川の疣目(いぼめ)川上流では、砂防ダムが土砂や流木を捉えたが、下流の集落では崩れた家屋や土砂に埋まった車が今も残されている。被災地を調査した九州大大学院の水野秀明准教授(砂防学)は「砂防ダムは一定の効果を発揮したものの、予想外の斜面が崩れ、想定を上回る量の流木と土砂が発生した地域もある」とみる。

どうすれば流木被害を抑えられるのか。今回の豪雨では、地中3メートル以上の根が届かない深さで山腹崩壊が起き、森林が整備された場所でも崩れたと林野庁は指摘する。しかし、広島大の中根周歩(かねゆき)名誉教授(森林環境学)は「森林を手入れして根の抵抗力を高めれば、表層崩壊は防ぐことができ、流木量を減らすことはできる」と述べ、放置森林が増えてしまえば、被害はさらに拡大すると警鐘を鳴らす。

ただ、放置森林の拡大は深刻だ。1980年は約14万6300人いた林業従事者が、2015年には4万7600人とほぼ10万人減少。林野庁の今年4月の調査では、全市区町村の約8割が民有林の森林整備が行き届いていないと回答した。

国は広島市などで先行例がある、放置人工林を公的に管理する「森林バンク」制度や、森林管理の財源にあてる森林環境税を創設する方針を固めた。制度や税の活用も含めて多角的な流木対策が求められる。

東京大学の太田猛彦名誉教授(砂防学)は「行政だけでなく、地域住民や林業者などさまざまな立場の意見を取り入れ、総合的な対策を講じることが必要だ」と指摘している。

安全再考
九州北部豪雨半年/下 困難な避難情報判断 地域自ら防災計画を
(毎日新聞2017年12月28日 西部朝刊)https://mainichi.jp/articles/20171228/ddp/041/040/025000c

九州北部豪雨では41人が死亡・行方不明となり、福岡県朝倉市では一部住民から避難指示の遅れを指摘する声も上がった。しかし、近年は局所的な豪雨が相次ぎ、避難情報を出す判断が難しくなっている。

「そこにあった家の浸水を防ごうとしたんですが、濁流がすごくて」。朝倉市杷木志波の平榎地区の区長、日野和広さん(58)は、がれきが残る集落で指をさした。その家は流された。日野さんらは当時、避難指示の前に危険を察知していた。

浸水被害の連絡を受けたのは7月5日午後0時半ごろだった。5年前も浸水した家だったが、到着すると大量の濁流が流れ、前回との違いを直感した。避難指示が出る1時間以上前の午後4時ごろ、一緒にいた約10人と高台に避難。他の住民にも声を掛け、地区の約100人全員が無事だった。日野さんは「自分たちの感覚で避難した」と振り返る。

災害時にどのタイミングで避難するか。内閣府が2010年に調べたデータがある。全国1916人に聞いたところ「避難勧告などにかかわらず自分で判断する」と回答したのは2割。横浜市の15年の調査でも自主的に避難するとの回答は2割弱にとどまった。京都大の矢守克也教授(防災心理学)は「本当に危ない時だけ行政や気象庁から警告が出るという期待はできない。避難を独自に判断する『マイスイッチ』が必要だ」と指摘する。

独自に取り組む地域がある。「度会(わたらい)橋の水位が、むらさきの線(避難判断水位)を超えました」。三重県伊勢市の中島学区で10月22日夜、住民約160人にメールが届いた。台風21号に伴う大雨に見舞われ、住民団体が情報を発信。地域でなじみ深い橋の橋脚の色を生かし、危険度を表現する。14年に京都大防災研究所が支援して始まった取り組みだ。

岐阜県高山市では、24時間雨量が200ミリを超えると、市立栃尾小学校に設置されたモニターに「危険です」と赤い表示が出る仕組みがある。松井健治教頭は「避難への意識が高まった」と話す。

こうした地域の取り組みはまだ少ない。兵庫県立大の阪本真由美准教授(防災教育)は「防災は行政の役割だと考えている人が多いが、もともとは地域の人が義務として取り組んでいたものだ。各地域は自分たちの問題として防災計画を作るべきだ」と指摘する。

◇   ◇

この連載は山下俊輔、川上珠実、遠山和宏、中村敦茂が担当しました。

↑ このページの先頭へ戻る