川辺川ダムの情報
球磨川治水検証、豪雨被災者参加を 川辺川ダム反対派、熊本県に要請
川辺川ダムに反対する三つの市民団体は昨日(9月23日)、熊本県が球磨川治水の方針を示す前に、多様な視点からの検証と、被災者も参加できる意見交換会の開催を求める要請書を県に提出しました。その記事とニュースをお送りします。
要請書は熊本県知事検証委宛て「民意を問う」意見書20200923の通りです。
球磨川治水検証、豪雨被災者参加を 川辺川ダム反対派、熊本県に要請
(熊本日日新聞2020/9/24(木) 10:25配信)https://news.yahoo.co.jp/articles/3a834f49ec0d0d38aec4d42037a64fa807a64721
(写真)多様な視点からの豪雨の検証などを求める要請書を県に提出する市民団体の代表ら=23日、県庁
川辺川ダムに反対する三つの市民団体は23日、7月の豪雨災害を受けて、熊本県が球磨川治水の方針を示す前に、多様な視点からの検証と、被災者も参加できる意見交換会の開催を求める蒲島郁夫知事ら宛ての要請書を県に提出した。
「子守唄の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会」(熊本市)、「清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会」(人吉市)、「美しい球磨川を守る市民の会」(八代市)の3団体。
3団体は、国と県、流域12市町村長が進める現在の検証では「被災者が置いてけぼりになっている」と主張。また、川辺川ダムが「治水に最も有効」とする国土交通省主体の検証では「中立性、公平性が保たれない」として、異なる視点の専門家や市民グループの検証参加を求めた。
知事が球磨川治水について「民意を問う」と表明した点は評価する一方、「方針がまとまってから民意を問うのでは遅い」として、被災者らが参加できる意見交換会や説明会の開催を求めている。
県民の会の中島康代表(80)は「国に頼らず、県主体の検証と方針決定を」と迫った。
国、県などの豪雨検証委は次回会合を10月上旬開催で調整している。(太路秀紀)
九州豪雨 球磨川の治水検証に住民の声を 市民団体が委員会に要望書 /熊本
(毎日新聞熊本版2020年9月24日)https://mainichi.jp/articles/20200924/ddl/k43/040/297000c
川辺川ダム建設に反対する熊本県の市民団体「子守唄(うた)の里・五木を育む清流川辺川を守る県民の会」(中島康代表)など3団体が23日、7月の九州豪雨で甚大な被害をもたらした球磨川の治水対策を考える国と県の検証委員会に対し、専門家や住民の意見も取り入れて検証するよう求める要望書を提出した。
要望書では、ダム建設を推進してきた国土交通省主体の検証では中立性、公平性が保たれないと指摘。蒲島郁夫知事や検証委に対し、多角的に専門家や住民の意見を交えて検証するよう要請。流域住民向けの説明会や意見交換会の開催も求めた。応対した県担当者は「要望は知事に伝える」と述べた。【城島勇人】
球磨川治水対策 市民団体「民意を問うよう」要請(熊本)
(テレビ熊本2020年9月23日 水曜 午後0:31)https://www.fnn.jp/articles/-/87732
7月の豪雨で氾濫した球磨川の治水対策について『川辺川を守る県民の会』など3団体は23日、熊本県に対してダム建設ありきの国以外の民意を問うよう要請しました。球磨川の治水をめぐっては過去に白紙撤回した川辺川ダムの想定も含めて国や県・流域市町村で作る委員会が検証を進めています。要請では「ダムと連続堤防を中心として川を制御する従来型の国交省の治水対策は通用しない時代になっている」として国交省とは異なる視点を持つ専門家や住民グループの意見を加えること。また、住民が参加可能な説明会などを開催することや十分な情報公開などを求めています。
ダム、最善策でない 知事の「選択肢」発言疑問 元人吉市長・田中信孝氏
2008年9月、当時の田中信孝・人吉市長が川辺川ダム計画の白紙撤回を表明し、蒲島郁夫知事の白紙撤回表明、前原誠司国土交通大臣の中止表明につながりました。
人吉市は川辺川ダムの最大の受益地とされていたところですので、人吉市長の白紙撤回表明は大きな影響を与えました。
当時の市長であった田中信孝氏のインタビュー記事を掲載します。
田中氏の見解「ダムよりも河道拡幅や河床掘削、堤防強化の方が安上がりだし、清流が残せる」に耳を傾けるべきです。
ダム、最善策でない 知事の「選択肢」発言疑問 元人吉市長・田中信孝氏<再興 あなたに聞きたい>
(熊本日日新聞2020年9月23日 09:59) https://kumanichi.com/feature/kawatotomoni/1617841/
(写真)◇たなか・のぶたか 2007年、人吉市長に初当選。08年9月、川辺川ダムについて「計画そのものを白紙撤回すべき」と表明し、蒲島郁夫知事の白紙撤回、前原誠司国土交通相(当時)の中止表明につながった。市長を2期8年務めた。熊本大大学院で防災をテーマに研究し、19年に修了した。葬祭会社社長。同市在住。73歳。
7月の豪雨を受け、再び川辺川ダム建設の議論が浮上した。2008年に白紙撤回を表明した蒲島郁夫知事はダム建設を「選択肢の一つ」と発言。被災した球磨川流域の再興を目指す過程で避けて通れないテーマだ。最大受益地である人吉市の市長として反対姿勢を打ち出した田中信孝氏は知事の発言を「評価できない」と批判。「ダムの功罪を検証し、しっかり民意を捉えるべきだ」とくぎを刺す。(聞き手・臼杵大介)
-今回の災害をどう受け止めていますか。
「地球温暖化による豪雨災害が各地で頻発しており、環境変化がもたらした災害の一つと捉えている。気候変動によって大水害が起きるだろうというのは白紙撤回を表明した時も述べた。そうした中で今回、線状降水帯が人吉球磨を襲った」
-なぜ、白紙撤回に至ったのですか。
「半年間、いろんな人の意見を聞き、文献を読んだ。重要視したのは住民の意識がどこにあるか。生の声を聞く公聴会を開き、来られなかった人には文書で意見を述べる機会を設けた。公聴会も文書もダム反対だった」
-国土交通省は、川辺川ダムがあれば人吉地点の流量を約4割カットできたと推計しています。
「ダムを造れば流量は軽減できるが、限定的な地域、予測した雨量にしか対応できない。ダムがあったとしても今回、氾濫は防げなかった。大雨を降らす今の気象現象で、ダムがベストということはあり得ない」
「ダムは緊急放流という危険な欠点がある。西日本豪雨では愛媛県・肱川[ひじかわ]がダムの緊急放流の後にあふれ、死者が出た。今回を超える豪雨に襲われた時、ダムがあれば緊急放流せざるを得ず、より多大な被害が出るはずだ。河道拡幅や河床掘削、堤防強化であれば、人は亡くならない。この違いは大きい」
-未曽有の水害にどう対応すればいいのでしょうか。
「降水量が限界を超えると、ダムも、河道拡幅も、河床掘削も、堤防強化も役に立たないことがある。人間は天災を防ぐ手だてを持っていない。天災から逃れる方法は最終的に事前の避難しかなく、人命を守るために一番大切なのはそのシステムだ。前日の夕方までに避難を促すのが首長の重要な行動だが、今回、これがなかった」
「山の斜面のずれやゆがみ、川の水位などを監視するシステムを構築し、科学的データを根拠に避難させる防災センターの設置が急務だ」
-豪雨を受け、蒲島知事はダムも選択肢の一つと発言しました。
「ダムよりも河道拡幅や河床掘削、堤防強化の方が安上がりだし、清流が残せる。知事は球磨川を『地域の宝』と発言しておきながら、なぜ川を濁らすようなことをするのか。大いに疑問だ」
「私が白紙撤回を表明して一番安堵[あんど]したのは、住民の対立、分断が止められたこと。ダム復活の議論になると、再び住民が賛成、反対に分かれ、対立が始まる。私はそれを一番恐れている」
◇ ◇
7月の豪雨災害から間もなく3カ月。被災地では、街や暮らしの再生に向けた動きが始まっている。「再興 あなたに聞きたい」では、復興の動きが本格化する中、被災地の真の現状や、これからの課題について、地元の人たちやそれぞれの分野の専門家らにインタビューする。
連載記事【検証再び 球磨川治水㊤、㊥、㊦】
球磨川の治水について熊本日日新聞の連載記事の㊤、㊥、㊦を掲載します。
川辺川ダム必要論、急拡大 自民「当然」野党は警戒 熊本県議会【検証再び 球磨川治水㊤】
(熊本日日新聞2020/9/19 09:25) https://this.kiji.is/679872507206091873?c=92619697908483575
(写真)県議会代表質問で球磨川の治水対策について答弁する蒲島郁夫知事=18日、県議会棟
「川辺川ダムが一つの有力候補として再び浮上してきたのは至極当然だ」-。18日の9月熊本県議会代表質問。自民党県連幹事長の松田三郎氏(球磨郡区)は7月豪雨の甚大な被害を引き合いにダム建設の必要性を強くにじませた。
2008年9月の蒲島郁夫知事による白紙撤回表明を受け、民主党政権が09年に中止を宣言した川辺川ダム計画。国土交通省は特定多目的ダム法に基づく廃止手続きは取らず、計画は連綿と生き続けた。そして今回、球磨川流域で60人が犠牲となった被害を機に、支流川辺川の「ダムの是非」が県政最大の課題として再燃した。
県議会最大会派の自民党内には、「必要論」が急速に広がる。「ダム以外に現実的な治水対策はない」と複数の県議。自民は08年以降、4度の知事選で一貫して蒲島氏を全面支援してきた。ただ、着々と蜜月関係を築く中で、川辺川ダム問題は喉元に刺さった“とげ”だった。
近年は声高に主張してこなかったものの、自民県議団の見解は変わらず「ダムは必要」。過去の県議会では、所属県議が「流域住民の生命財産をどう考えているのか」と知事に詰め寄る場面も度々あった。
「知事に、まずは『中立』の立ち位置まで来てもらいたい」と語っていた松田氏。この日の代表質問では「気象状況や大災害を境に12年間で民意は大きく変わった。(ダムに反対した)人吉市長と相良村長も顔触れが代わった」と強調。知事が、流域の民意を主な撤回理由とした過去の判断に縛られないよう、“地ならし”をしてみせた。
一方、自民と共に蒲島県政を支え、知事の白紙撤回表明を尊重してきた公明党県議団の城下広作氏(熊本市1区)は「検証委の結果を踏まえて冷静に判断する。ダムによって洪水被害が抑えられることが明らかであれば、反対しない」と話す。
自民や流域首長らから日増しに強まる「必要論」に、県議会の野党系会派は警戒感を隠さない。この日代表質問に登壇した第2会派・くまもと民主連合代表の鎌田聡氏(熊本市2区)は「検証委ではダムによらない治水対策10案の効果も明らかにすべきだ。ダムに慎重な立場の専門家も含めて多様な視点で検証する必要がある」と検証委の在り方自体を見直すよう知事に迫った。
共産党の山本伸裕氏(熊本市1区)も「ダムには緊急放流などのリスクもある。拙速な議論は避けるべきだ」との立場だ。
代表質問の答弁で蒲島知事は川辺川ダムも含めた「あらゆる選択肢を排除せずに検討する」と重ねて表明した上でこう続けた。「将来にわたって球磨川流域の安全安心を確保することが、天命だと覚悟を持って取り組む」(内田裕之、野方信助)
◇
球磨川の治水対策について蒲島知事は、7月豪雨の検証を経て年内に方向性を示す方針だ。止まったはずのダム計画は再び動き出すのか。県政界や流域関係者の思惑を探る。
川辺川ダム、空白の時間 市町村の利害対立 議論膠着【検証再び 球磨川治水㊥】
(熊本日日新聞 2020年9月21日 12:42)https://kumanichi.com/feature/kawabegawa/1614121/
(写真)2009年1月に開かれた「ダムによらない治水を検討する場」の第1回会合。球磨川の治水協議は、流域市町村の思いが複雑に絡み、難航を極めた=県庁
「10年余におよぶ『ダムによらない治水』の検討の場は、結論さえも見いだせない空白の時間であったと考える」
8月20日、球磨川流域12市町村でつくる「川辺川ダム建設促進協議会」は、7月の豪雨災害で氾濫した球磨川治水に関する決議を取りまとめた。
ダム建設を含めた検証を速やかに実施し、抜本的な治水対策を求める狙いだが、蒲島郁夫知事が2008年にダム計画の白紙撤回を表明して以降、国と熊本県、流域市町村で続けられた治水協議への痛烈な批判も盛り込まれていた。
09年1月に始まった協議の場は「ダムによらない治水対策を極限まで追求する」(蒲島知事)スタンスを取った。しかし、流域の首長にはダムへの賛否が交錯。協議を主導する県と国は、具体的な治水安全度の目標を定められないまま、ダムに代わる現実的な対策を積み上げる手法を余儀なくされた。
当時、県川辺川ダム総合対策課のメンバーだった水谷孝司・県球磨川流域復興局長は「ダムで多くの水量をカットする大前提が変わり、技術的な代替策を流域に示すのは容易ではなかった」と振り返る。
一定の結論がまとまったのは6年後の15年2月。「ただちに実施する対策」として八代市萩原地区の堤防強化や人吉市での築堤など11項目を掲げたが、全てを実現しても球磨川の治水安全度は全国の国管理河川の中で低い水準にとどまった。
仕切り直しを目指して3者が15年3月に設立した「球磨川治水対策協議会」は、治水安全度の目標を「1965年大水害レベルに対応」と設定。国と県は昨年11月、ようやく「引き堤」「河道掘削」「堤防かさ上げ」「遊水地の設置」「市房ダムの再開発」「放水路」を組み合わせた10案を抜本策として提示した。
しかし、今度は流域市町村間の利害対立という大きな壁が立ちはだかった。引き堤には「市中心部の大規模移転を伴い、地域の理解を得がたい」(人吉市)との声が上がり、遊水地は相良村やあさぎり町などが「優良農地が失われる」と懸念した。上流からトンネルで水を流す放水路についても「下流域の水位が高くなる」(八代市)との指摘も。議論は膠着[こうちゃく]状態に陥った。
県幹部は「(12年の)阿蘇の大水害で被災水田を調整池にした経験もあり、ある程度は理解が得られると思っていた。見立てが甘かった」と漏らす。概算事業費2800億~1兆2千億円、工期は45~200年とする試算も、流域には「非現実的な案」(森本完一錦町長)と映った。
国土交通省は、10月上旬にも開かれる「球磨川豪雨検証委員会」の次回会合で、川辺川ダムがあった場合の浸水軽減効果などの試算を示す。そのテーブルに着く流域首長12人は促進協と全く同じ顔触れだ。
建設予定地の相良村長として08年にダム反対を表明した徳田正臣・前村長は疑問を投げ掛ける。「検証前から既に『ダム建設』の言葉が飛び交っている。この12年間結論が出なかったのは、多くの関係者の頭からダムの意識が抜けなかったからではないか。この状況で中立的な検証を期待できるのだろうか」(内田裕之、小山智史)
球磨川治水 熊本豪雨受け、揺れる知事発言 民意の行方 再び鍵握る【検証再び 球磨川治水㊦】
(熊本日日新聞 2020年9月21日 14:00) https://kumanichi.com/feature/kawabegawa/1614078/
(写真)川辺川ダムを含めた抜本的な治水対策を蒲島郁夫知事に要望する川辺川ダム建設促進協議会の森本完一会長(右から2人目)ら流域市町村の首長たち=県庁
「私が知事の間は計画の復活はない。改めてダムによらない治水を極限まで追求する」(7月5日)
「どういう治水対策をやっていくべきか。新しいダムの在り方についても考える」(同6日)
「川辺川ダムも選択肢の一つ。ダムの洪水調整機能を排除せずに検討していく」(8月26日)
死者65人、行方不明者2人という大きな犠牲を払った7月の豪雨災害。被害が明らかになるにつれ、蒲島郁夫知事の発言は揺れ動いた。
2008年、川辺川ダム計画の白紙撤回を表明した蒲島知事。災害発生直後は、この方針を維持する姿勢を強調したものの、翌6日には、治水対策にダムも含まれるとも取れる発言に軌道修正した。その後、「ダムも選択肢」という方向に方針転換。その発言の裏には何があったのか。
県幹部の1人は「目に焼き付いた壮絶な光景があるのではないか」とみる。7月中旬、蒲島知事が視察で訪れた八代市坂本町の光景は、流木が住宅に突き刺さり、県道の橋が流失した惨状。知事は「ひどい被害だね…」と絶句していたという。
ダムの有用性を示すデータもこの間、明らかになった。8月25日に開かれた国土交通省と県、球磨川流域12市町村でつくる検証委員会の初会合。国はこの日、人吉市で最大8千トンに上るとする流量推計を公表。川辺川ダムがあれば、最大流量を約4割減らせたとする試算を初めて示し、ダム効果を顕示した。
流域市町村の“民意”も大きく変わった。蒲島知事がダム計画を白紙撤回した当時は、建設地の相良村長や治水の最大受益地の人吉市長が反対を表明。蒲島知事は計画の白紙撤回を表明した県議会で、「民意がダムによらない治水を追求し、今ある球磨川を守ることを選択しようとしている」と強調した。
しかし、ダム反対を明確に打ち出した首長は表舞台を去り、ダム建設を容認する川辺川ダム建設促進協議会には8月、相良村が復帰。表向きには、流域12市町村の足並みがそろう形となった。
促進協は、すでにダム建設を含めた抜本的な治水対策を求める決議を採択し、要望書と共に県に突きつけた。促進協の竹崎一成芦北町長は「ダムありきではない」と前置きした上で「宅地を5~6メートルかさ上げした地域も水が来た。強度をさらに高めた治水策が必要だ」と知事に迫った。要望書を受け取った蒲島知事は「促進協の総意として重く受け止める」と応じざるを得なかった。
ただ、前のめり気味のダム建設論議に違和感を示す首長もいる。建設予定地を抱える相良村の吉松啓一村長は、堤防や遊水地整備が進まない中、ダム建設の議論が再浮上することに「時期尚早」と首をかしげる。「ダム建設に関しては村民の中にもさまざまな思いがあることを分かってほしい」と複雑な心境ものぞかせた。
県が目指す治水対策の方針決定は11月。一方で、ダム計画に反対してきた市民グループは「住民不在の検証が進められている」として、県に抗議文を提出した。識者も含め、ダム建設を巡る多様な意見が、県に寄せられているという。
「民意は変わる可能性もある」という蒲島知事。その民意をどのような手段でくみ取るのか。ダム建設計画の白紙撤回から12年。再び民意の行方が鍵を握る。(高宗亮輔、小山智史、野方信助)
川辺川ダム議論再燃に不快感 元本体建設予定地の熊本・相良村長「まずは現実的対策を」
川辺川ダム計画のダム本体の建設予定地だった熊本県相良村の吉松啓一村長のインタビュー記事を掲載します。
「ダムがあれば効果があった、なかったという議論の前に、まず現実的なことをしてほしい。堤防のかさ上げや住宅のかさ上げ、遊水池の整備もしていないのにその先の議論はできない」という村長の話はその通りだと思います。
堤防のかさ上げや住宅のかさ上げ、河床の掘削など、行うべき治水対策をきちんと実施してこなかったから、7月の豪雨で氾濫被害が大きく拡大したのだと思います。
川辺川ダム議論再燃に不快感 元本体建設予定地の熊本・相良村長「まずは現実的対策を」
毎日新聞2020年9月3日 20時21分) https://mainichi.jp/articles/20200903/k00/00m/040/200000c
(写真)「ダム議論の前にできることをやって」と訴える熊本県相良村の吉松啓一村長=熊本県相良村の村役場で2020年9月2日午前10時56分、平川昌範撮影
九州豪雨で氾濫した球磨川の治水対策について、支流の川辺川ダム計画でダム本体の建設予定地だった熊本県相良村の吉松啓一村長(66)が2日、毎日新聞のインタビューに応じた。蒲島郁夫知事が2008年に計画の「白紙撤回」を表明した背景には、相良村の当時の徳田正臣村長らが建設に反対していたことがあった。20年3月に就任した吉松村長は、村が要望してきた堤防のかさ上げなどの対策が進まないままダム議論が再燃していることに不快感を示し、「まずは現実的対策を」と訴えた。【聞き手・平川昌範】
――村の被害状況は。
◆川辺川と球磨川本流との合流地点周辺で、特に大きな被害が出た。球磨川の水位が高くなり、川辺川の水が流れていかずにあふれる「バックウオーター」が起きたと見ている。堤防を越流し、水田や家屋、小学校も水につかった。多くのボランティアに来てもらい、非常に助かった。
――復旧について課題は。
◆(村の要望で実施されてきた)河川の掘削はだいぶ効果があったが、(県に)希望しても、できるのは一部だ。堤防のかさ上げは実施されていない。(地区を堤防で囲む)輪中堤(わじゅうてい)も議論されたが実現していない。下流では(川幅を広げる)引き堤や住居のかさ上げが進められているが、相良村では実施されておらず、遊水池もできていない。
――今回の災害を受け、蒲島知事が「川辺川ダムも選択肢の一つ」と発言した。
◆ダムがあれば効果があった、なかったという議論の前に、まず現実的なことをしてほしい。堤防のかさ上げや住宅のかさ上げ、遊水池の整備もしていないのにその先の議論はできない。今回の災害後も住民からは「堤防を上げていてくれれば」「河川掘削をしてくれていれば」といった声が寄せられている。川辺川の管理をしているのは国や県だ。(国と県、球磨川流域の12市町村による豪雨被害の)検証委員会では、こういった部分を検証してもらいたい。
――相良村は徳田前村長が08年に川辺川ダム反対を表明し、12市町村でつくる「川辺川ダム建設促進協議会」から一時脱退したが、今回の豪雨災害後に復帰した。促進協は8月、「県や国は川辺川ダム建設を含む抜本的な治水対策を講ずるべきだ」と決議した。
◆それは(12市町村)共同(での決議)だから。全体でどうだろうかという発案だ。住民から「促進協に入ってほしい」と言われ、状況を説明しなければいけない(ので復帰した)。やはりダム計画に(直接)関係のある自治体は慎重だ。
――過去2代の村長はダム計画に反対した。
◆それは個人(的な考え方から)でしょう。相良村は1963、64、65年に水害があり、「これじゃあだめだ」ということで、ダム推進を議会も議決し、村長も(建設の)要望書を出した。それがずっと続いている。蒲島知事や前村長が反対したのは政治的なものもあったんだろう。
――ダム計画では、隣の五木村だけでなく相良村でも60戸が移転を余儀なくされた。
◆移転して良かったのか、そのままが良かったのか、それぞれの考えがある。ダム計画が発表されてから約50年。長い。世代も、(生活)様式も、自然も変わっている。昔のものをどうこうではなくて、新しい起点で(今の)村民の意見を聞きながら村政を進めたい。
(ダム計画への賛否が)はっきりしている人もいるだろうが、それ以外の人が大半だ。だから(国や県には)村民が望むことをしてもらいたい。それをせずに、その先の(ダム建設の)ことを言えば、村民は違和感を感じる。(ダムで)翻弄(ほんろう)するよりも、現実にできる対策を急いでもらいたい。急がないと国や県への信用はもうなくなってしまう。
――復旧への国の支援はどうか。
◆足りていない。村では橋が流失し、農地(の被害)も大変だ。大きな水路が3カ所崩壊した。ただ、人的被害が出なかった。住民が協力して避難したのが私たちの誇りだ。浸水した高齢者施設も非番の人が対応し、利用者たちは体育館に避難した。村の職員たちが農業も復興に向けて進めている。早く住民が安定した生活ができるように頑張りたい。
川辺川ダム「今の民意、測るべきだ」 県の復旧・復興有識者会議
昨日(8月30日)、7月の豪雨災害からの復旧・復興のベースとなる考え方や方向性を議論する「くまもと復旧・復興有識者会議が熊本県庁で開かれました。
そこで、川辺川ダムについていくつかの意見がでました。
その記事を掲載します。
熊本県のHPに有識者会議と会議後取材の動画、有識者会議の資料が掲載されています。
【8月30日】令和2年7月豪雨に係る「くまもと復旧・復興有識者会議」https://www.pref.kumamoto.jp/kiji_35658.html
川辺川ダム「今の民意、測るべきだ」 県の復旧・復興有識者会議
(熊本日日新聞2020年8月31日 09:31 )https://kumanichi.com/feature/kawabegawa/1585447/
(写真)「くまもと復旧・復興有識者会議」の終了後に会見する蒲島郁夫知事(左)と五百旗頭真座長=30日、県庁
30日に県庁で開かれた県の「くまもと復旧・復興有識者会議」では、豪雨災害後に国と県が設けた委員会で検証が進む川辺川ダムについても「建設の是非を判断する場合は、今の流域住民の民意をしっかり測るべきだ」などの意見が出た。
川辺川ダム建設の是非を判断するため、蒲島郁夫知事が2008年に設置した有識者会議の座長を務めた金本良嗣・電力広域的運営推進機関理事長は「ダムの治水効果は大きいが、反対している人が挙げる環境面などの危惧にも理由がある。プラスマイナスを踏まえて判断してほしいという(有識者会議の)結論だった」と当時を振り返った。
その上で「ダムを造っても水害は起きるかもしれない。将来の不確実性を認識した上で関係者間の合意を作っていくべきだ」と指摘した。
東京大大学院の谷口将紀教授(政治学)は、蒲島知事が「流域住民の民意はダムによらない治水を追求することにある」として建設計画を白紙撤回した経緯に言及。「今回も、今の流域住民の価値観がどこにあるかという視点で判断すればいいのではないか。できれば住民投票や討論型世論調査などを行うべきだ」と提案した。
蒲島知事は終了後の記者会見で「民意の捉え方はさまざまある。会議で出された考え方も考慮しながら総合的に決めていく」と述べた。(内田裕之)
「くまもと復旧・復興有識者会議」蒲島知事、民意把握の道筋示さず
(西日本新聞2020/8/31 6:00) https://www.nishinippon.co.jp/item/n/640252/
(写真)豪雨災害からの復旧・復興について話し合った有識者会議
熊本県は30日、7月の豪雨災害からの復旧・復興のベースとなる考え方や方向性を議論する「くまもと復旧・復興有識者会議」(座長・五百旗頭(いおきべ)真兵庫県立大理事長)を開いた。建設が中止された川辺川ダムの是非論が再燃する中、蒲島郁夫知事は、政策決定に必要な「科学的根拠」は国や県、流域12市町村で構成する豪雨検証委員会で示されるとの考えを示す一方、合意形成の道筋については明言を避けた。
有識者会議では、テレビ会議方式を含め委員7人が参加。災害の様相の分析や治水へのアドバイス、政策決定の考え方について意見を述べた。川辺川ダムの是非に関する具体論はなかった。県が11月をめどに策定する「復旧・復興プラン」に反映させる。
議論のベースとして金本良嗣・電力広域的運営推進機関理事長は「ダムがあれば水害はまったく起こらないかというと、そうとは限らない。不確実性を踏まえて」と強調。谷口将紀・東京大大学院法学政治学研究科教授は「人吉球磨地域は非常に良く(水害に)備えておられたが、この備え以上のプラスアルファを議論すべきだ」と訴えた。
被災地を視察した上で、河田恵昭・関西大社会安全研究センター長は「人吉市街地は盆地の傾斜地。(越流した水が)川のように流れた。通常の浸水とは違う」と指摘。古城佳子・青山学院大教授は「2階以上の高さの逃げる場所が現地にない。人命を考えると議論する必要がある」と問題提起した。
坂東眞理子・昭和女子大総長は「民意はSDGs(持続可能な開発目標)に向かっている。この地球を持続できるような環境にするための『グリーン・ニューディール』を球磨川流域から発信していただきたい」と提案。蒲島氏は「きょうの議論で方向性が明確になった」と述べた。
一方、今後の政策決定の過程について蒲島氏は「政治は、民意に誠実に沿って忠実にやる部分と、民意を超えるリーダーシップが必要。民意を超えるリーダーシップを発揮するには科学的根拠が必要」と発言。科学的根拠については「今の検証委員会がこれに一番近い」と述べた。
だが「民意」の捉え方について問われると「各市町村長の意見が民意を代表しているという考え方もある」「民意の変化をしっかり捉えるには時系列で見なければならない」と二つの「考え方」を示した上で「(ダム建設の白紙撤回を表明した)2008年の民意と、今(の民意)は絶対違うと思う。さまざまなことを考えて決めていきたい」と述べるにとどめた。 (古川努)
九州豪雨 豪雨復旧・復興有識者会議、川辺川ダムにも言及 /熊本
(毎日新聞熊本版2020年8月31日) https://mainichi.jp/articles/20200831/ddl/k43/040/303000c
「くまもと復旧・復興有識者会議」が30日、熊本県庁で開かれ、九州豪雨からの復興方針などについて意見交換した。
アジア調査会長の五百旗頭(いおきべ)真座長ら有識者計7人が参加。同会議は2016年の熊本地震を契機に、復興の考え方や中長期的な方針を議論する場として始まったが、今回は7月の豪雨災害で甚大な被害を受けた球磨川流域の復興推進のために開催された。
会議では、08年に蒲島郁夫知事が計画を白紙撤回した川辺川ダムについても言及があり、谷口将紀(まさき)・東大大学院教授は「治水方針が定まらなければ町づくりの方針が立てられない」と指摘。その上で「08年に民意を受けて撤回を表明したのと同様に、20年の民意に従ったらいい」などと提言した。【清水晃平】