水源連:Japan River Keeper Alliance

水源開発問題全国連絡会は、ダム建設などと闘う全国の仲間たちのネットワークです

ホーム > ニュース > 川辺川ダムの情報

ニュース

川辺川ダムの情報

球磨川水系の整備基本方針見直し 国交省小委、想定流量引き上げへ

2021年7月9日
カテゴリー:

7月8日、国土交通省で社会資本整備審議会小委員会が開かれました。昨年7月、球磨川の大洪水があったので、球磨川水系河川整備基本方針の洪水時の想定流量(基本高水のピーク流量)を引き上げる審議を行うための会議です。今回は第1回です。

その記事とニュースを掲載します。

この小委員会は公開で開かれます。下段に示す通り、国土交通省のHPにその案内が出ていました。

思えば、この球磨川水系の小委員会はかつて2006年4月から2007年2月まで10回開かれました。10回も開催されるのは異例のことでした(ほかの水系は1~数回)。これは当時の潮谷義子・熊本県知事が毎回出席し、安易に川辺川ダムを前提とする治水計画を策定することに異論を示したからです。

私たちは熊本の方との共同作業で毎回、意見書を提出して傍聴し、潮谷知事を支援し続けました。

今から15年前のことになりました。

 

球磨川水系の整備基本方針見直し 国交省小委、想定流量引き上げへ

(熊本日日新聞  2021年07月09日 07:00) https://kumanichi.com/articles/306097

(写真)球磨川の河川整備基本方針を議論する国の検討小委員会にオンラインで参加する蒲島郁夫知事(中央)=8日、県庁

国土交通省の社会資本整備審議会小委員会は8日、昨年7月の熊本豪雨で氾濫し、甚大な被害をもたらした球磨川水系の河川整備基本方針の見直しに着手した。気候変動による降水量増加も踏まえて洪水時の想定流量(基本高水のピーク流量)を改め、支流の川辺川の流水型ダム計画を含む流域の治水対策に反映させる。

現行の基本方針では基準地点の人吉におけるピーク流量を毎秒7千トンと想定してきたが、昨年の豪雨では、これを上回る推定毎秒約7900トンを記録した。これを受け、今後の治水対策の前提となる基本高水ピーク流量をどの程度引き上げるかが焦点となる。

小委員会は河川工学や環境保全の専門家をはじめ、蒲島郁夫知事も加えた13人で構成。初会合はオンライン開催で、国交省が球磨川の地形的特徴や豪雨による被害、これまでの治水対策を説明した。基本高水の議論は次回以降に持ち越した。

委員からは「温暖化の影響で、7月豪雨の総雨量は(従来計画の)おおよそ2割程度アップしている」「非常に大きな雨が実際に降った場所だけに計画雨量の設定が難しい」などと指摘する声が上がった。

終了後、蒲島知事は報道陣に対し「7月豪雨に耐えられる安全を確保することが大事だ。『緑の流域治水』の実現に向けて本格的な審議がスタートしたのは大きな一歩だ」と述べた。

国交省は、全国の1級水系で河川整備基本方針の見直し作業を始めており、球磨川は、三重県などを流れる新宮川、宮崎県などを流れる五ケ瀬川に続いて3例目となる。(嶋田昇平、内田祐之)

 

最大流量、気候変動を考慮 球磨川水系整備方針 国交省が見直し着手

(西日本新聞2021/7/9 6:00 )https://www.nishinippon.co.jp/item/n/767702/

国土交通省の社会資本整備審議会検討小委員会は8日、初会合をオンライン方式で開き、昨年7月の熊本豪雨で氾濫した球磨川水系(熊本県)の河川整備基本方針の見直しに向けた検討に着手した。気候変動の影響で降雨量が増えることや、ソフトとハード両面から防災対策を図る「流域治水」の視点を加えた新方針を策定することを決めた。

球磨川水系の河川整備基本方針は2007年に策定された。整備目標として想定する洪水時の最大流量「基本高水」は熊本県・人吉地点で毎秒7千トンだが、昨年の豪雨では毎秒7900トンとこれを上回り、見直しが急務となっている。

現方針は過去の降雨に基づき策定したが、初会合では新方針として気候変動を考慮することで合意した。「気温が2度上昇した場合、降雨量は1・1倍になる」との予測モデルで流量を見直す。昨年の豪雨時の流量も踏まえ、次回会合で基本高水をどの程度引き上げるかを協議する。

基本高水は、国や熊本県が球磨川支流の川辺川で検討している流水型ダムの容量や規模を定める際の前提となる。国は基本方針を固めた後、流水型ダムを位置づける「河川整備計画」の策定に取り掛かる。 (鶴加寿子)

 

温暖化も考慮」球磨川の治水方針見直しへ協議開始

(熊本朝日放送2021/7/8(木) 19:07配信)https://news.yahoo.co.jp/articles/05478171af69d14659dd9785ed124b62c0950a00

温暖化の影響を考慮すべきとの意見も出されました。今後の大雨で球磨川はどの程度流量が増えると想定すべきか治水方針の見直しをめぐる協議が始まりました。

8日は河川工学の専門家などが出席し球磨川治水の根拠となる洪水時の想定流量見直しについて話し合いました。これまでの基準ではピーク流量を人吉地点で毎秒7000トンとしていましたが、熊本豪雨では毎秒7900トンと想定値を超えました。

会議では平均気温が2度上昇すると降雨量が1.1倍に増える試算が示され、委員からは「熊本豪雨でも総雨量の15%~20%が温暖化による影響を受けている」「新たな目標値も気候変動の影響を加味したものに見直す必要がある」などと意見があがりました。 次回の開催は未定ですが今後、国が新たなピーク流量を示す方針です。

また、8日は流域市町村長らが流水型ダムの早期建設を求める要望書を県に提出しました。蒲島知事は「流水型のダムは環境に極限まで配慮する必要がある。できるだけ早期に整備が進むように国に全面的に協力を求めていく」としています。

 

国土交通省のHP 社会資本整備審議会河川分科会河川整備基本方針検討小委員会(第112回)

https://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo03_hh_001077.htm

国土交通省は、7月8日に社会資本整備審議会河川分科会河川整備基本方針検討小委員会(第112回)をWEB開催します。

今回は、球磨川水系の河川整備基本方針について、気候変動を踏まえた新たな計画へと見直すため、1回目の審議を行います。

〇昨年7月の豪雨によって、現行の河川整備基本方針(以下、基本方針)に定める目標流量を上回る洪水流量を記録した球磨川水系(熊本県、宮崎県及び鹿児島県)について、気候変動を踏まえた新たな基本方針への見直しに向けて、1回目の審議を行います。

【会議について】

1.日 時: 令和3年7月8日(木)14:30~16:30

2.場 所: 中央合同庁舎3号館 1階 水管理・国土保全局A会議室(千代田区霞ヶ関2-1-3)

および 各委員所属場所等

3.委 員: 別紙のとおり

4.議 題: 球磨川水系の河川整備基本方針の変更について 等

5.その他:

・会議はWEB会議方式にて、公開で行います。

九州豪雨1年 球磨川の治水対策、前途多難 ダム「10年かかる」

2021年7月8日
カテゴリー:

2020年7月の熊本豪雨から1年、球磨川の治水対策が前途多難になっています。その記事を掲載します。

10年もかかるという流水型ダム(川辺川ダム)はやめて、ダム無しの治水対策の推進に全力を傾けるべきです。

 九州豪雨1年 球磨川の治水対策、前途多難 ダム「10年かかる」

(毎日新聞 2021/7/6 17:00)https://mainichi.jp/articles/20210706/k00/00m/040/165000c

浸水した自宅脇で建設中の温室前に立つ大柿章治さん。周辺は遊水地の候補地だが「自分たちにも生活がある」と語る=熊本県人吉市で2021年6月9日午後4時26分、西貴晴撮影

2020年7月の九州豪雨で氾濫した熊本県の球磨川流域では50人が犠牲になった。国と県は豪雨後、遊水地や田んぼダムなど複数の対策を組み合わせ、流域全体で水害を軽減する「流域治水」への転換を打ち出したが、実現には住民らの協力が欠かせない。復活が決まった支流の川辺川でのダム建設には環境への懸念の声も上がる。「暴れ川」として恐れられ、氾濫を繰り返してきた球磨川の治水対策は待ったなしだが、前途は多難だ。【平川昌範、西貴晴】

 遊水地候補地「今のままでは中ぶらりん」

「5年先、10年先のことを言われてもこっちにも毎日の生活がある」。豪雨後に遊水地の候補地となった人吉市中神町の大柿地区に住む大柿章治さん(75)は困惑を隠せない。

農家など約50世帯が暮らしていた大柿地区は近くを流れる球磨川の氾濫でほぼ全域が水没。大柿さんの家も2階の天井近くまで水につかり親戚宅などに避難したが、豪雨から2カ月後に修理を終えて戻った。現在は、豪雨前に手がけていたマンゴーなどの栽培を再開するため、自宅脇で温室も再建中だ。

だが仮に遊水地になれば、せっかく再建してもいつまで暮らせるか分からない。遊水地は洪水時に川の水をあえて流し込んで一時的にため、下流の被害を軽減する仕組みだ。普段は農地として利用してもらい、被害が出れば補償する「地役権補償方式」と、用地を買収して深く掘り洪水時に水をためるためだけに使う「掘り込み方式」があるが、いずれにしても住民は移転を強いられる可能性がある。

国土交通省は遅くとも29年度までに流域で600万トン分の遊水地を整備する方針で、候補地の一つの大柿地区では2月に地元説明会を開いた。ただ、具体的な進め方や整備時期は示されておらず、地区には方針が決まるまで自宅の再建に着手できないという住民もいる。大柿さんは「今のままでは中ぶらりんだ。今後どうなるのか早くはっきりしてほしい」と訴える。

穀倉地帯でもある球磨川流域では、大雨時に水田に水を一時的にためる「田んぼダム」も有力な治水策の一つだ。今ある水田をそのまま活用できるメリットがあり、県は今年度から流域の270ヘクタールの水田で実証実験を始めた。実験に協力する湯前(ゆのまえ)町の那須博幸さん(52)は「下流で親戚が被災したこともあり貢献したい」と語る。一方で手がけている米の有機栽培への影響も心配だと明かした。

ダムや堤防などの従来のハード対策だけでなく、場合によっては住民にも負担を強いながら流域全体で水害を減らす、こうした取り組みは「流域治水」と呼ばれる。豪雨被害が頻発する中、国が20年7月に打ち出し、今年3月までに全国109の1級河川などで「流域治水プロジェクト」が策定された。球磨川では復活が決まったダムを軸に遊水地や田んぼダムの整備、河川掘削、川幅を広げる引堤(ひきてい)、既存の市房ダムの再開発などが盛り込まれた。

国は豪雨後、仮に川辺川ダムがあれば、被害の大きかった人吉地区の浸水面積を約6割減少させられたものの、氾濫自体は避けられなかったとの推計を公表した。そうした中、流域治水が絵に描いた餅とならないようにするにはどうすればよいのか。熊本県立大の島谷幸宏特別教授(河川工学)は「地域の将来像を住民自身がどう描こうと考えているのかも重要だ。国は治水案を一方的に説明するのではなく、住民の意向を丁寧に吸い上げてほしい。大きな被害があった球磨川でうまくいけばモデルケースになるはずだ」と話す。

 環境アセスに時間、見えぬ着工

球磨川流域で進める遊水地や田んぼダムの整備が実現したとしても、ためられる水はそれぞれ数百万トン規模にとどまる。中止前の計画で1億600万トンの容量がある川辺川のダムが、国や熊本県が目指す治水対策の中核であることに変わりはないが、豪雨から1年がたった今も着工時期は見通せず、完成までには紆余(うよ)曲折も予想される。

蒲島郁夫知事が08年に川辺川ダム計画の白紙撤回を表明し、翌年、旧民主党政権が中止を決定する前に、予定地では用地取得や家屋移転、道路の付け替えがほぼ終わっていた。そのため、従来計画のままならば比較的早く着工できたが、蒲島知事は豪雨後、建設を容認する一方で、普段から水をためる従来計画の「貯水型」の多目的ダムより環境への影響が小さいとされる「流水型」での建設を国に要望。流水型ダムは、普段はそのまま水が流れ大雨時だけ水をためる構造で、国は一から設計をやり直すことになった。

環境影響評価(アセスメント)のための時間も必要になった。従来計画のダムは、大型公共事業にアセスの実施を義務づける1999年の環境影響評価法の施行前に道路の付け替えなどの工事が始まったため、ダムの形状を変えたとしても法律上はアセスが不要だった。だが、環境保全を重視する知事はアセス実施も要望。赤羽一嘉国交相が5月、知事の求めに応じてアセスを実施すると発表した。

川辺川は全国で最も水質が良好な川とされる。また、予定地周辺では絶滅が危ぶまれるタカ科の鳥「クマタカ」が確認されているほか、ダムにより水没する恐れがある五木村の洞窟には希少なコウモリや昆虫が生息。6月16日にオンラインで開かれたアセスの委員会初会合では、動物や植物など各分野の専門家から環境への影響を懸念する声も上がった。今後、従来計画が中止になった大きな理由でもある環境問題が再燃する可能性はある。

国交省の担当者は「現時点でダムの完成時期は示せない」と話すが、設計やアセスで着工まででも数年はかかるとみられ、流域自治体の間では「完成まで10年はかかる」との見通しが一般的になりつつある。

熊本豪雨1年 流水型ダム、環境評価へ 規模、構造これから

2021年7月8日
カテゴリー:

川辺川ダム計画が新たな流水型ダムとして復活しようとしています。その記事を掲載します。

新しいダム計画なのですから、環境影響評価法に基づいて環境アセスを行わなければならないはずですが、環境省は国土交通省からの照会に対して「貴見のとおり」として環境影響評価法に基づく環境アセスをしなくてよいとしました。

この記事で、国交省が法アセスと同等の調査を実施するから問題なしとしていますが、単なる調査と法アセスの調査は根本から違います。法アセスの場合は調査の結果によっては事業が進まなくなる可能性があります。

現在、環境省環境影響評価課の担当者に対して安易な回答を出した理由を記した起案文書を明らかにすることを求めています。

 

熊本豪雨1年 流水型ダム、環境評価へ 規模、構造これから

(熊本日日新聞2021/7/5(月) 15:19) https://news.yahoo.co.jp/articles/e86685efe4ccfca9273b0ac5a009c220ae972adf

(写真:熊本日日新聞)

空前の被害をもたらした大洪水によって、熊本県南の球磨川流域では治水対策とインフラ復旧が大きな課題になっている。中止となった川辺川のダム計画が新たな流水型ダムとして“復活”し、ダム以外の対策も総動員する「流域治水」の取り組みがスタート。不通となった鉄路は、くま川鉄道が11月にも部分再開するのに対し、JR肥薩線は復旧の可否も不透明なままで、再建への歩みは対照的だ。  国や県が流域治水の要と位置付ける支流・川辺川への流水型ダム建設は、ダム事業が周辺環境に与える影響を調べる「法と同等」の環境影響評価(アセスメント)が始まった。治水専用として流水型ダムを河川法上に位置付ける法手続きも始まる。ただ規模や構造はこれからで、完成時期の見通しも示されていない。  「(従来計画の)貯留型よりも流水型ダムの方がアセスは難しい。質的に他のモデルとなるようなものにしてほしい」  6月16日に開かれた環境アセスに意見する初の専門家会合後、九州大名誉教授の楠田哲也委員長は国土交通省にこう注文した。流水型は時間によって水位が大きく変化するためで、法と同等をうたいながら「『法アセスではないから質が低い』では通用しない」(楠田委員長)からだ。アセスは当面、従来計画と同じ場所や規模を想定して進められる。

蒲島郁夫知事が従来の方針を転換し、流水型ダムの建設を国交省に要請したのは2020年11月。流域住民にダムへの賛否両論がある中、環境面への配慮の担保となるアセスは、蒲島知事が掲げる「命と環境の両立」の生命線とも言える。  赤羽一嘉国交相は5月21日、法と同等の調査を実施すると表明。国交省幹部は「法アセスと呼ばないだけで事実上、同じ事をする」と強調する。一方、ダム反対派は法に基づかない調査の効力を疑問視しており、アセスを巡る両者の溝は深い。  国交省は環境アセスを進めるのと並行して近く、球磨川の河川整備基本方針の見直しにも着手する。現在の治水の長期目標は、人吉地点のピーク流量で毎秒7千トン。7月豪雨時の試算流量の毎秒約7900トンを下回っており、治水目標のピーク流量をどの程度上げるか注目される。  その後、球磨川では未策定の河川整備計画作りへと移り、同計画の中にダムや遊水地など具体的な洪水調節施設の場所や能力を明記する。国交省の試算では、昨年7月豪雨と同様の雨が降った場合、ダムなしでは浸水被害が発生するという。

一方、既存のダムを生かした対策も検討されている。球磨川本流の上流にある市房ダムはかさ上げや放流設備の改造による治水能力アップを検討。本・支流にある六つの利水ダムでは、大雨の前に水位を下げる事前放流で流量カットを狙う。(太路秀紀)

球磨川の市房ダム「やばい…280m超える」寸前で回避された緊急放流、緊迫の所長メモが歴史公文書に

2021年7月4日
カテゴリー:

昨年7月の熊本県の球磨川豪雨では、熊本県営市房ダムが緊急放流寸前のところまでいきました。その様子を記録した管理所長のメモの内容を伝える記事を掲載します。

昨年度から、ダムの事前放流の制度が始まり、市房ダムも事前放流で治水容量を増やすことになっていましたが、急激な降雨で事前放流はできませんでした。

ダムの事前放流の制度がどこまで有効なのかと思ってしまいます。

 

「やばい280m超える」寸前で回避された緊急放流、緊迫の所長メモが歴史公文書に

(読売新聞2021/06/29 08:59)https://www.yomiuri.co.jp/national/20210629-OYT1T50092/

昨年7月4日の九州豪雨で緊急放流が寸前で回避された熊本県営市房ダム(水上村)について、塚本貴光・管理所長(50)が記していた当時のメモが残されていることが分かった。予測を超える雨量で水位が増す中、放流をぎりぎりで実施せずにすんだ緊迫した様子などを伝えている。県は今春、メモを永久保存に向けて「歴史公文書」に指定した。(丸山一樹)

市房ダムは、九州豪雨で氾濫した球磨川の上流にあり、総貯水量は4020万トン。治水ダムで、発電などにも活用されている。

(写真)紙4枚に書かれた当時の状況が分かるメモ=田中勝美撮影

メモは塚本所長が、雨の状況が変わっていくなか、事務所のパソコンを確認しながらダムの水位などを書き留めていった。事前にダムの容量を確保する「予備放流」の実施を決めることになった3日昼頃から、緊急放流を中止した4日昼頃までの記載。メモ紙4枚にペンで書かれ、水位上昇が始まった4日未明以降、殴り書きされている。

<やばい 280m超える>

7月4日午前4時頃、塚本所長が見つめたパソコンの画面には、ダムに流れ込む流量が同9時までの3時間で想定される最大値(毎秒1300トン)を50トン上回るとの予測がコンピューターで算出されていた。緊急放流を実施する水位の目安(280・7メートル)に迫ることを意味していたのだ。

3日昼の段階では、流量のピークを毎秒約700トンと見込んでいたが、線状降水帯が停滞し、大幅に予測を上回った。

特別警報が発表されたのは午前4時50分。バケツをひっくり返したような雨の状況を<雨の降り方が異常>とつづった。

治水ダムは雨水を一時的にため、下流側の増水を抑えるのが役割。ダムから水があふれると、大洪水につながりかねないため、水位が限界に近づくと緊急放流が必要だ。ただ緊急放流は下流に大規模な浸水被害を引き起こす危険があり、細心の注意が求められる。

水位上昇が続き、所長らが緊急放流を行わざるを得ないと判断したのは午前6時頃だった。県河川課に連絡し、<防災操作の手続き→河川課 部長 決裁>とメモ。30分後には、県が同8時半から緊急放流を行うことを発表した。

<2h後、8時30分開始 早めの避難行動へ!>という記述も。

だが、その後の予測で同7時頃には、ダムでためられる最高水位となる「洪水時最高水位」(283メートル)を超えないことが判明。<流入量大幅減 283m超えない>と書き留めた。

(写真)「緊急放流を回避したい一心だった」。当時の状況を語る市房ダムの塚本所長(25日、熊本県水上村で)

同7時半頃に放流が1時間後に延期された。8時頃には雨脚が弱まり流量が減ると算出。8時45分頃に放流は見合わせとなり、10時半頃に中止が決まった。水位のピークは280・6メートルで緊急放流の目安まで10センチ。塚本所長は取材に「流域住民に不安を与えないため回避したい一心だった。本庁と協議し、ぎりぎりまで見極めた」と振り返った。

緊迫状況を記録、次世代の教訓に

熊本県は豪雨後、塚本所長が書き留めていたメモの存在を把握。緊迫した状況がわかり、歴史的に価値がある貴重な資料だと考え、4月1日付で「歴史公文書」に指定した。

歴史公文書は災害などの教訓を生かそうと、知事が重要と判断した文書を指定する県の独自制度。所長メモは保存期間が30年で、その後、永久保存される仕組みとなっている。

歴史公文書にはこれまでハンセン病や水俣病、熊本地震などのテーマが指定されていた。九州豪雨などが加わり16テーマとなったが、個人のメモが指定されるのは珍しいという。県は「時間ごとの状況や県の意思決定を図った瞬間などが記録されていて重要。今後の災害対応に生かすことができる」と説明している。

◆緊急放流 =「異常洪水時防災操作」と呼ばれる操作で、ダムへの流入量とほぼ同量の水を放流する。2018年の西日本豪雨では6府県の8ダムで行われ、愛媛県を流れる肱(ひじ)川の野村、鹿野川両ダムの下流域で大規模な浸水被害が起きた。市房ダムは過去に3度行われた。

球磨川治水、整備方針見直しへ 九地整、ダム建設手続き始まる

2021年6月4日
カテゴリー:

九州地方整備局が、球磨川の河川整備基本方針を見直し、未策定の河川整備計画を作る見解を示しました。その記事を掲載します。

1997年の河川法改正で、河川整備に関する計画は2段構えで策定されるようになりました。

河川整備の長期的な目標を定める河川整備基本方針と、今後20~30年間の河川整備の具体的な内容を定める河川整備計画です。前者が後者が上位計画であり、ダム計画を具体的に定めるのは後者の河川整備計画です。

河川整備基本方針はダム名は明記しませんが、2007年に策定された球磨川水系河川整備基本方針は、基本高水流量(1/80の想定洪水流量)を人吉地点で7000㎥/秒とし、そのうち、川辺川ダムと既設の市房ダムで3000㎥/秒を調節し(そのうち、約2600㎥/秒は川辺川ダム)、河道で対応する計画流量(計画高水流量)を残りの4000㎥/秒としました。

それに対して、川辺川ダム計画に反対する私たちは、基本高水流量7000㎥/秒が過大であり、一方、計画高水流量4000㎥/秒が過小であり、それらを見直せば、川辺川ダムは不要であると主張しました。

球磨川水系河川整備基本方針は策定されたものの、川辺川ダム計画に反対する地元の声は大きく、結局、その後、球磨川水系河川整備計画は未策定のまま、推移してきました。

 

下記の記事は九州地方整備局が2020年7月豪雨を受けて、球磨川水系河川整備基本方針を策定し直して、川辺川ダムを含む河川整備計画を策定する動きを伝えるものです。

球磨川流域における2020年7月豪雨の雨の降り方は球磨川治水計画の従来の考え方を大きく超えるものでした。何しろ、川辺川流域よりも、球磨川中下流部の支川(山田川、万江川、小川、…)の流域における雨の降り方が凄まじく、当時、川辺川ダムが仮にあっても、その効果は極めて限られていたと考えられるからです。

しかし、川辺川ダムの推進勢力は昨年7月豪雨を絶好のチャンスとして、球磨川の河川整備基本方針を見直して、川辺川ダム推進のための河川整備計画をつくろうと画策しています。

 

球磨川治水、整備方針見直しへ 九地整、ダム建設手続き始まる

(熊本日日新聞2021/6/3(木) 14:03)https://news.yahoo.co.jp/articles/c9d719099b2418cc5c412971f2c2817165dc9443

国土交通省九州地方整備局は2日の流域治水協議会で、球磨川の河川整備基本方針を見直し、未策定の河川整備計画を作る方針を説明した。これで、支流・川辺川への流水型ダム建設を法的に位置付ける手続きが始まることになる。  基本方針は、河川法に基づき、水系ごとに長期的な河川整備の目標を明記する。洪水対策の目標とする基本高水のピーク流量を設定。ダムなど洪水調節施設でカットする流量や、河道に流す量を盛り込む。

2007年に策定された現在の基本方針は、1953~2005年の降雨データを基に基本高水を設定。人吉地点は毎秒7千トンで、昨年7月豪雨の推定ピーク流量の毎秒約7900トンを下回っている。  2日の協議会後、同局は基本高水の引き上げに言及。基本高水を大きく設定すると洪水調節施設も高い能力が必要となり、中核となる流水型ダムの規模や貯水量も大きくなる可能性がある。

球磨川は、ダムに頼らない治水策の議論がまとまらず、全国に109ある1級水系の中で唯一、整備計画が策定されていない河川だ。国の社会資本整備審議会の意見を聞いて決める基本方針とは異なり、整備計画の策定時には必要に応じて住民意見を反映させることが求められている。

整備計画には、ダムや遊水地など具体的な洪水調節施設の場所や機能が明記される。住民意見をどのような方法で取り入れるのか。今後の進め方が注目される。(太路秀紀)

↑ このページの先頭へ戻る