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【現場から、7月豪雨】球磨川を3D再現 見えてきた全国の課題  1/1000ハザードマップとの違い

2020年8月10日
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8月10日の昼のTBSで、球磨川の氾濫を3DCGで再現した結果を放映していました。

放映の内容は下記のURLで見ることができます。

この番組で重要な指摘であると思ったのは、今回の豪雨の浸水範囲は1000年に1回の大雨を想定したハザードマップと重なるが、最大浸水深が浅いと指摘していたことです。

山あいにつくられた土地なので、浸水範囲は1000年に1回のハザードマップと重なるけれども、洪水の規模はそれより小さいということです。

この番組では今回の洪水は100年に1回程度の頻度で降る大雨の量を超えていたとみられるとしていましたが、

これから球磨川の治水対策を考える上で、今回の洪水がどの程度の規模の洪水であったかは重要な問題だと思います。

  

【現場から、7月豪雨】球磨川を3D再現 見えてきた全国の課題

(TBSNEWS2020/8/10(月) 14:32配信)https://news.yahoo.co.jp/articles/7c0d084544ec0db80033cf1e531049e3fe7f5ddf

シリーズ「現場から、7月豪雨」です。被害の大きかった熊本県球磨川の周辺を3DCGで再現しました。そこから見えてきたのは、球磨川周辺に限らない日本全国が抱える課題でした。

先月の大雨で氾濫した球磨川。被害が大きかった熊本県八代市周辺の、氾濫の様子を再現した3DCGです。上から見れば浸水の範囲が、横から見れば、どの程度の水位かが視覚的につかめます。

日本三大急流の一つ、球磨川の堤防の決壊と氾濫は13か所にも及びました。国土地理院は当時、さまざまな地点からおよそ250枚もの空中写真を撮影。それをTBSのCG制作チームが、標高のデータなどを加味しながら合成、CG化しました。

河川工学が専門で、現地調査も行った東京大学の池内幸司教授は・・・  「ここから山が急になってますよね。住めるのここしかないんですよね。川沿いの地域は洪水のときには厳しい」(東京大学大学院 池内幸司教授)

八代市坂本町。川沿いの低地に広がる住宅の多くが浸水。池内教授は3DCGから次のような分析ができると話します。

「洪水発生前に、ハザードマップとして示されていた浸水想定区域内に収まっている」(東京大学大学院 池内幸司教授)

3DCGを上から見てみると、茶色い水に覆われた浸水地域が、ハザードマップでピンク色に塗られた浸水想定範囲とほぼ重なります。また、今回の浸水の深さは予想されていた最大の深さと比べると、浅いといいます。今回は100年に1回程度の頻度で降る大雨の量を超えていたとみられますが、ハザードマップは想定できる最大の雨、1000年に1回ほどの頻度で降る大雨を目安に作られているからだそうです。

ハザードマップでは地域の防災拠点である八代市役所坂本支所も浸水域にあり、今回も浸水。池内教授は・・・

「山間の地域はとにかく(建築できる)平野が狭い。そういう地域は全国で少なくない。限られた安全な土地に何を置くのかが重要になってくる。これ多分、小学校、中学校だと思うんですが、こういった場所はありますよね。ここは、非浸水地域になっていると思います。避難できるように高台に小学校などを置いているので、立地をよく考えている」(東京大学大学院 池内幸司教授)

平地が少ないことや利便性などから、役所が浸水想定区域にある自治体は少なくないといいます。76人の命が奪われた7月豪雨。池内教授は、国土交通省が公開している「重ねるハザードマップ」と「わがまちハザードマップ」を事前に確認し、浸水しにくい地域を把握しておくことが大切だと話します。

「これは球磨川に限ったことではなく、日本全国で起きる可能性がある。東京、大阪、名古屋でも、非常に低地に多くの人口・資産が密集している。決められた避難場所だけではなく、どこに逃げたらいいのかを、浸水しない区域を探しておくのが重要」(東京大学大学院 池内幸司教授) (10日11:36)

球磨川堤防決壊、要因は「川に戻る水の勢い」九地整が見解 → 場所によっては耐越水堤防工法の工夫が必要

2020年8月9日
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8月7日(金)に国土交通省九州地方整備局で堤防調査委員会が開かれました。http://www.qsr.mlit.go.jp/press_release/r2/20080503.html

7月上旬の熊本豪雨では下記の図1の通り、球磨川の各所で氾濫がありました。そのうち、堤防が決壊したのは2箇所でした。

この決壊は川側からの越流ではなく、氾濫水が川に戻るときの勢いで決壊したという報告がこの堤防調査委員会がされました。そのことを伝える記事を掲載します。

通常は川から周辺地に越流するときに川裏側の法面(のりめん)が削られて、決壊に至るのですが、球磨川の決壊箇所2か所はそうではなく、逆方向の流れによる決壊でした。

これは想定外のことであるように思います。

2000年に旧・建設省が耐越水堤防の普及を図ろうと、全国の関係機関に通知した河川堤防設計指針(第3稿)は下記の図2のとおり、川裏側の法面(のりめん)のみを強化するものでした。

この耐越水堤防工法では今回の球磨川の堤防決壊のケースには対応できないことになります。

一方、昨年10月の台風19号で決壊した千曲川長野市穗保地区は国交省になってはじめて、耐越水堤防工法が導入されましたが、その工法は下記の図3の通り、川裏側だけではなく、川表側の法面も強化するものになっています。

このように今後、耐越水堤防工法を全国で普及させていく際には、場所によっては川裏のり面だけではなく、川表のり面も強化することが必要だと考えられます。

 

 球磨川堤防決壊、要因は「川に戻る水の勢い」 九地整が見解

(西日本新聞020/8/8 6:00) https://www.nishinippon.co.jp/item/n/633772/

(写真)球磨川が氾濫し、多くの民家などが被害を受けた熊本県人吉市(7月4日撮影)

 

国土交通省九州地方整備局は7日、熊本県南部を襲った7月の豪雨で同県人吉市の球磨川の堤防が決壊した原因について、「堤防を越えた水が川に戻るときの勢いでのり面が崩壊した」との見方を明らかにした。

福岡市で開かれた専門家による調査委員会の会合で示した。

同局によると、決壊は2カ所で発生。人吉市中神町馬場の右岸の幅約30メートルと、約1・4キロ下流に位置する同市中神町大柿の左岸の幅約10メートルで、現場付近の川はS字状にくねっている。

7月13日の現地調査で、農地から漂流したハウス施設の残骸が決壊箇所の近くにたまっていたり、下流方向に草が倒れたりしていたことが判明。

九地整は痕跡などから、氾濫した水が川からあふれた後、低地に流れ、再び川に「越流」して決壊を招いたと推察。

陸地が山や高台に囲まれ、氾濫した水が逃げ場を失ったことも影響したとみる。

今後もデータによる裏付けを行うほか、川の水が堤防の土の中に染み込み、強度が弱くなってのり面が滑る「浸透」といった他の要因も絡んでいないか調査や分析を進める。 (大坪拓也)

 

図1

図2図3 千曲川長野市穗保地区の堤防復旧工事 2020年5月

「川辺川ダム問題」球磨川の人吉における危機管理型水位計の異常な観測値(熊本豪雨)

2020年8月7日
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7月上旬の熊本豪雨で、球磨川が大氾濫し、凄まじい被害をもたらしました。

この豪雨を受けて、菅義偉官房長官までがテレビ番組で川辺川ダムについて「今回のこうした被害に遭われると、そういう問題を課題に載せなければ、まずい思いがある」と述べており(朝日新聞7月21日)、

中止されたはずの川辺川ダム計画が再登場してくることが強く懸念されます。川辺川ダム抜きの球磨川水系河川整備計画は10数年経過していまだに策定されておらず、川辺川ダムそのものに毎年度、4億円程度の予算が付いてきています。

球磨川の治水計画を考える上で最も重要なことは今回の球磨川洪水がどの程度の規模の洪水であったかです。未曽有の洪水でしたが、問題はその洪水規模です。

本洪水では、人吉地点の常時水位観測所の観測は7月4日の午前7時30分までで、その後は欠測になってしまいました。球磨川の観測所で水位をずっと測れたのは下流部の萩原、横石、支川・川辺川の四浦、柳瀬だけです。

人吉地点については数年前から危機管理型水位計が取り付けられていますが、その観測値の精度に問題があります。

下記の図1は人吉の危機管理型水位計と常時水位観測所の観測値の時間変化を図示したものです。前者は国会議員事務所を通じて国交省から入手したデータで、後者は国交省の水文水質データベースからダウンロードしたものです。

7月4日の0時における危機管理型水位計の観測値を常時水位観測所の観測値に合わせて表示すると、その後は前者と後者の差が次第に大きくなり、7時半時点で、前者が後者を0.7~0.8m上回っています。その後、危機管理型水位計の観測値が急上昇し、常時水位観測所は観測を停止しています。危機管理型水位計のピーク時の9時50分に両者の差がどれくらいに拡大していたかはわかりませんが、この図の傾向から見て1.5m以上の差になっていたと考えられます。

この危機管理型水位計の観測値が過大になっていることについて、九州地方整備局に電話したところ(河川部河川計画課)、担当官はこれは疑問のある数字であって見直す必要があり、1m以上下がる可能性があることを認めました。

危機管理型水位計の観測値の精度に問題があったようなので、今後検討するということでした。

球磨川水系の水位観測所で7月4日7時30分より後の観測ができたのは、球磨川下流の横石と萩原、川辺川の四浦と柳瀬ですが、下記の図2のとおり、横石と萩原は7時30分以降はほとんど横ばいで、水位の上昇があっても小さいです。

川辺川の四浦と柳瀬は8時を過ぎると、横這い又は低下の傾向になっています。

人吉の危機管理型水位計の観測水位のみが下記の図1の通り、8時以降、急上昇しています。

7月4日朝の状況については矢上雅義衆議院議員(熊本4区)がツィートで人吉市の水の手橋(人吉観測所の近く)を撮った録画を流されています。7月4日8時40分の映像を見ると、川の水位は水の手橋の路面を少し下回るレベルになっています。

 https://twitter.com/masa_yagami/status/1279198183218769920?s=21

【水の出橋 8時40分】
この橋の路面は下記の写真のとおり、堤防高とほぼ同じ高さです。

【水の出橋(人吉市の資料)】

しかし、下記の図1を見ると、8時40分時点の危機管理型水位計の観測水位は堤防高を大きく超えており、1.5m以上高くなっています。

この後、この付近の水位は9時50分頃にピークになるのですが、近辺の観測値から見て、1時間程度でここの水位が堤防高を2m超えるところまで一挙に上昇したとは考えられません。

本洪水は堤防を超える未曽有の洪水でしたが、上の映像を見ると、図1の危機管理型水位計の観測水位が示すレベルまで、洪水位は上昇していません。人吉の危機管理型水位計の観測水

位がかなり過大であることは明らかです。

危機管理型水位計の観測値を使うと、本洪水は人吉で8000㎥/秒以上の規模の洪水になりますが、この規模の洪水になると、1/80の球磨川水系河川整備基本方針で2600㎥/秒の削減ができるとされている川辺川ダムが治水計画で必要なものになってしまいます。

川辺川ダムだけでは対応できない洪水規模であったとしても、少なくとも川辺川ダムは必要だという話になりかねません。もっとも、人吉で8000㎥/秒以上もの規模の洪水が発生した場合は、川辺川ダムがあったとしても、ダムが満杯になって緊急放流を行わなければならない可能性が高く、川辺川ダムによって球磨川が救われるという話には必ずしもなりません。

このように、この規模の洪水になると、川辺川ダム抜きの治水計画の策定は困難であって、人吉の危機管理型水位計の著しく過大な観測値を使ってはなりません。

2000年代、川辺川ダム反対運動は大きく盛り上がりました。2001年12月から始まった川辺川ダム住民討論集会での国交省との徹底討論、2006年4月~2007年3月の球磨川水系河川整備基本方針策定審議会での潮谷義子前知事への支援活動における中心テーマは、国交省が示す基本高水流量(長期的な目標の洪水想定流量)が過大ではないかということでした。すなわち、国交省は基本高水流量を大きくして川辺川ダムによる洪水調節が必要だという考えに固執しました。基本方針は策定されてしまいましたが、この運動の盛り上がりにより、川辺川ダムの計画は2009年に凍結になりました。

このような川辺川ダムに関する過去の長い闘いを振り返って、これから川辺川ダム計画復活の動きに対して闘っていかなければなりません。

 

 

 

球磨川の治水対策、11年間「放置」の謎 ダムあれば九州豪雨の被害防げた?

2020年8月5日
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球磨川の治水対策について毎日新聞の詳しい記事を掲載します。

記事で紹介されている京大・角教授の川辺川ダムがあったならばの計算結果は、角氏らのブログ「2020年7月球磨川水害速報」

http://ecohyd.dpri.kyoto-u.ac.jp/content/files/DisasterSurvey/2020/report_KumaRiverFloods2020_v3.pdf に掲載されています。

この計算は球磨川の人吉地点の水位を危機管理型水位計で測定した結果から推測した流量7600㎥/秒を前提にしたものです。

しかし、危機管理型水位計の最高水位はすでに述べたように(「川辺川ダム問題」球磨川の人吉における危機管理型水位計の異常な観測値(熊本豪雨)https://suigenren.jp/news/2020/07/22/13451/

実際の水位より1.5m程度高いと考えられますので、その前提を見直せば、角氏の計算結果も変わってきます。

逆に言えば、危機管理型水位計の疑問のある観測水位を前提にすれば、川辺川ダムがあった方がという話になりかねませんので、この観測値をただす必要があります。

この記事で紹介されている「国土交通省が示した球磨川水系の主な治水対策」の表は川辺川ダムの代替案ですが、いずれも現実性が全くないことに愕然とします。

国交省は、現実性のない代替案を示して、川辺川ダム計画の復活を画策してきたのです。

 

 球磨川の治水対策、11年間「放置」の謎 ダムあれば九州豪雨の被害防げた?

(毎日新聞2020年8月4日 16時26分) https://mainichi.jp/articles/20200804/k00/00m/040/108000c

(写真)川辺川ダム建設予定地だった場所には使われなかったコンクリート構造物が残っている。右下を流れるのは川辺川=熊本県相良村で2020年7月22日午前11時25分、平川昌範撮影

4日で発生から1カ月となった九州豪雨。最も被害の大きかった熊本県では、1級河川・球磨(くま)川の氾濫により多くの命が奪われた。支流の川辺川に予定されていたダム建設が旧民主党政権時代の2009年に中止された後、流域の治水論議は停滞していた。過去に何度も氾濫し「暴れ川」の異名を持つ球磨川の治水対策が11年もの間事実上放置されたのはなぜなのか。また、ダムがあれば被害は防げたのだろうか。【平川昌範】

「誰も責任取らず議論継続」 利害対立で混乱

「現実的な代替案がないままダム計画が白紙になった。いつかまた水害が起きると感じながら、誰も責任を取りたくないまま議論が続いた」。川辺川ダム予定地で、集落ごと移転した熊本県五木村の前村長、和田拓也さん(73)は自省も込めて振り返る。ダム計画が中止になった09年以降、国、県、球磨川流域の12市町村はダムによらない治水のあり方を協議し、和田さんも19年10月に退任するまで首長の一人として参加していた。

国は19年11月までに開かれた30回にわたる会議の中で▽河川拡幅▽川を深くする河道掘削▽上流から下流に直通する放水路の新設▽堤防のかさ上げ▽遊水地の設置――など10通りの治水案を示した。これに対し、河川拡幅案には川沿いに市街地を抱える人吉市が「市中心部の大規模移転は理解を得られない」、放水路案には下流の八代市が「下流域の水位が高くなる」、遊水地案には複数の自治体が「優良農地が失われる」など、流域自治体がそれぞれの立場で反対を表明し利害対立が浮き彫りになった。

さらに、安くても約2800億円、最高で約1兆2000億円にも上る費用や、最長200年に及ぶ工期を巡っても意見がまとまらず、足踏み状態が続く。当面の治水対策として、国と県合わせて毎年15億~30億円余りの予算で可能な範囲の宅地のかさ上げや河道掘削などを続けているが、抜本策が見いだせないまま今回の豪雨に襲われた。

 「計画は自民党政権時代に破綻していた」

そもそも川辺川ダムが建設できなかったのはなぜか。ダムは1963~65年に球磨川で相次いだ大規模洪水対策として、66年に国営の治水ダムとして計画された。その後、かんがいを目的とした利水や、発電も加わり多目的ダムとなったが、減反政策で農地が減った受益者の農家からも反対の声が上がり、07年には国も発電事業者も利水計画から撤退。流域自治体の首長も相次いで反対に転じ、08年に蒲島郁夫知事が計画の白紙撤回を表明、翌年誕生した旧民主党政権が中止を決めた。

ダム建設予定地だった相良(さがら)村の村長として06年に反対を表明した立憲民主党の矢上雅義衆院議員(59)は「多目的ダムの計画は自民党政権時代に破綻していた。蒲島知事は破産宣告しただけだ」と語る。

今回の豪雨で亡くなった熊本県内の死者65人のうち8割は球磨川の氾濫による犠牲者だった。全県で約9000棟に上った住宅の損壊や浸水被害も球磨川とその支流沿いに集中。既に「ダム必要論」が一部で出ているが、国策に翻弄(ほんろう)されてきた五木村の和田さんは「感情論ではなく具体的データに基づく議論を」と訴える。

蒲島知事は3日、毎日新聞の取材に「球磨川の治水についてはダムも含め、国、県、流域市町村が連携して検証し考えていかねばならない。安全安心と同時に球磨川の自然の恩恵を享受できる『流域治水』の形で検討したい」と述べた。

 

識者「ダムあれば避難時間確保できた可能性」

京都大防災研究所の角哲也教授(水工水理学)は気象庁の解析雨量と地形・地質を基に豪雨当日(7月4日)の球磨川のピーク流量を独自に推計。市街地が広範囲に浸水した人吉市の被害について「川辺川ダムがあっても氾濫は防げなかったが、市街地への氾濫水量を減らし、氾濫が始まる時間も遅らせることができた」と結論づけた。

 角教授らの推計では、今回の豪雨で川辺川から球磨川に流れ込んだ水量は最大で毎秒3200トン。仮に川辺川ダムがあった場合、少なくとも2000トンをカットして1200トン以下に減らせる。その結果、人吉市中心部を流れる球磨川の流量も7600トンから5600トン以下まで減らせたとみる。

川の流量が減ることで、氾濫が始まる時間は約2時間遅くなって住民が避難する時間をより長く確保できたうえ、市街地に氾濫した水量も推計で2300万トンから400万トン以下に抑えられた可能性が高いという。角教授は「水没地の住民移転などが済んだ川辺川ダムは、完成までのコストが比較的低い。河川環境に配慮する技術も進んでおり、治水策の選択肢に加えるべきだ」と提言する。

ダムによる治水効果を巡っては、東日本に上陸し大きな被害をもたらした2019年10月の台風19号で利根川が氾濫しなかったのは、八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)があったからだという声が自民党などから出ている。旧民主党政権は川辺川ダムと共に八ッ場ダム建設も中止したがその後撤回し、建設が再開した。ただ、台風19号の上陸時は完成前の安全確認のため水をためる作業が始まったばかりで有効貯水容量が多く「完成後ならば緊急放流して下流に被害が出た可能性もある」との反論もある。

 

「ダムに頼らない治水議論」望む声も

川辺川ダム建設に反対してきた新潟大の大熊孝名誉教授(河川工学)も、ダムで人吉の氾濫水量を減らせた可能性は認めるが「何千億円もかけ『氾濫水量を減らせた』だけでは許されない」と指摘。下流から先に雨量が増えた今回のようなケースでは、ダムがあっても人吉より下流では効果はなかったとして「ダムは雨の降り方に左右される不安定な治水施設で、緊急放流の可能性もある。ダムに頼らない治水を徹底して議論すべきだ」と訴える。

九州大の矢野真一郎教授(河川工学)は「万能の治水策はないがダムも一つのオプションではある。流域で10年以上議論して決められなかったことを短期間で決めるのは難しいだろう。住民の意向が一番重要だが、避難や復旧がある程度落ち着いた段階で冷静に検討されるべきだ」と語った。

 田中信孝・前人吉市長「ダムのデメリット検証を」

(写真)人吉市の前市長、田中信孝さん=熊本県人吉市で2020年7月21日午後6時54分、平川昌範撮影

球磨川流域の住民には幼いころから泳いで育った川への愛着と清流への誇りがある。水害時はタンスやちゃぶ台を2階に上げるなど、川との付き合いもできていた。しかし、川辺川ダム計画を巡って長年対立し、住民が分断された。ダムによる最大の受益地の市長として治水をもう一度考えようと、2008年9月に計画への反対を表明した。

今回の豪雨で経営する葬儀会社も身長を大きく超える高さまで浸水した。盆ちょうちんや霊きゅう車なども水につかった。市長時代にダムに頼らない治水を国などと協議する場に参加したが、各首長の思惑や言い分があり、まとまらなかった。葬儀会社としても今回の犠牲者を送り出すことになり、痛恨の極みだ。

今後ダム必要論が出てくるのはやむを得ないが、ダムの限界やデメリットこそ十分に検証すべきだ。今回のようにかさ上げした宅地が浸水するほどの豪雨にはハード対策だけでは人命を守れない。人口減少が進む中、何を最も大切にして地域社会を築いていくのか議論しなければならない。

たなか・のぶたか

1947年、熊本県人吉市生まれ。2015年まで人吉市長を2期8年務めた。市長退任後は熊本大学大学院に入り、水害から住民の命をいかに守るかをテーマに修士論文を書いた。

 

熊本 球磨川の氾濫流 秒速3メートル以上 早期に高台に避難を

2020年8月4日
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7月上旬の熊本県・球磨川の氾濫では、秒速3メートル以上の氾濫流によって住宅が押し流されたというNHKのニュースをお伝えします。、

「建物の2階以上に逃げる垂直避難では命の危険がある場合があり、早い段階で安全な高台などへ移動しておくことが大切だ」と、専門家が指摘していますが、垂直避難だけではダメとなると、洪水時の避難計画を根本から見直す必要があります。

「スイスでは、浸水の深さだけではなく、氾濫流の流速を考慮して危険区域が設定され、危険度に応じて住宅や小学校などの建設を禁止したり、制限したりするといった対策がとられている」とのことです。

 熊本 球磨川の氾濫流 秒速3メートル以上 早期に高台に避難を

(NHK2020年8月3日 22時38分) https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200803/k10012549151000.html

13か所で氾濫した熊本県を流れる球磨川では、「氾濫流」と呼ばれる川からあふれた濁流が堤防からおよそ100メートル離れた場所でも速さが秒速3メートル以上に達し住宅を押し流したとみられることが、当時、撮影された動画の分析で分かりました。専門家は「建物の2階以上に逃げる垂直避難では命の危険がある場合があり、早い段階で安全な高台などへ移動しておくことが大切だ」と指摘しています。

熊本県の球磨川では、6か所あるすべての観測所で水位が過去最高となり、人吉市では2か所で堤防が決壊したほか、球磨村や八代市など合わせて11か所で水が堤防を越えたり、堤防のないところからあふれ出たりしました。

河川工学が専門の熊本大学大学院の大本照憲教授は、現地調査や当時の映像などから「氾濫流」と呼ばれる、川からあふれ出た水の流れを詳しく分析しました。

このうち、川幅が急激に狭くなる中流部の球磨村渡地区で撮影された動画を解析した結果、堤防からおよそ100メートル離れた国道上では流れが秒速3メートル以上、付近の水深は6.2メートルに達し、水の力が住宅を押し流すほどにまでなっていたことが分かりました。

また、川沿いの住宅や店舗が全壊するなどの被害が出た八代市坂本町の荒瀬地区では、川の両岸に残された痕跡からカーブの外側にあたる左岸の水位が、右岸より3メートルほど高い4.8メートルに達していたことも確認されました。

大本教授は、遠心力が働き勢いを増した氾濫流が併走する勾配の急な国道を一気に流れ下って集落を直撃し、建物を倒壊させた可能性が高いと分析しています。

調査では、氾濫流が発生した人吉盆地から、その下流にかけての広い範囲では地域一帯が川のようになり、大きな被害が出たとみられるということです。

大本教授は、球磨川に限らず、傾斜の急な山間部などでは大雨の際に氾濫流による住宅の倒壊や流出のおそれがあると指摘したうえで「建物の2階以上に逃げる垂直避難では命の危険がある場合があり、早い段階で安全な高台などへ移動しておくことが大切だ」と話しています。

 住民「津波のようだった」

球磨川では流域の広い範囲で氾濫流による大きな被害が出ました。

このうち、球磨村渡の茶屋地区では住民は避難して無事でしたが、28世帯のうち、少なくとも21世帯の住宅が流されるなどして全壊しました。

自宅を失った中神ゆみ子さん(70)は「川の流れはまるで津波のようだった。過去の水害で住宅が水につかったことはあったが、まさか目の前で自宅が流されるとは思わず、2階に逃げていたら助からなかった」と話していました。

また、八代市坂本町で営んでいたあゆ料理のレストランが流された福嶋建治さんは「今まで経験のない水の量と増えかただった。川は波打っていて、上流からほかにも家が流れてきたりして流れの破壊力は恐ろしいと感じた」と話していました。

 水深と流速で氾濫の危険度を

川の氾濫によって住宅が倒壊したり流失したりする被害は、これまでにも繰り返されています。

平成27年9月の「関東・東北豪雨」では、茨城県で鬼怒川の堤防が決壊して近くの住宅が全壊したほか、去年10月の台風19号でも長野県で千曲川の堤防が決壊し、氾濫流により住宅が流失しました。

国土交通省によりますと、建物が倒壊するかどうかは、氾濫した水の速さと浸水の深さによって決まり、シミュレーションでは一般的な木造2階建て住宅の場合、水深が2メートル、流れが秒速4メートルを超えると家屋が倒壊したり流出したりするということで、水深が大きければ、流れが4メートルに達しなくても倒壊のおそれがあります。

熊本大学の大本照憲教授が、熊本県球磨村の渡地区で行った現地調査では、住宅地の浸水は6.2メートルに達し、動画の解析結果から氾濫した水の流れが秒速3メートルだったとみられ、住宅は押し流されやすい状況にあったことが確認されました。

大本教授は「一般に住宅地は堤防に加え、道路や家屋などがあるため抵抗が大きく流速が速くなりにくいが、今回は川と周辺が一体になっているような状態で、氾濫流の威力が増し、被害が深刻になったと思われる。水深だけでなく、流速も併せて川の氾濫の危険度を評価する必要がある」と指摘しています。

 ハザードマップに反映されず

氾濫流により住宅が押し流されるおそれがあるなど、危険性が高い川沿いの区域について、国土交通省は「家屋倒壊等氾濫想定区域」に指定し公表しています。

「家屋倒壊等氾濫想定区域」は、氾濫した水の流れの力が大きく、住宅が押し流されたりする危険性があったり、土地が浸食され流失するおそれがあったりするなど、特に危険性が高い場所について、国や都道府県が指定しています。

この区域では、自宅にとどまる垂直避難は危険なため、流域の自治体は避難場所や避難経路を検討し地域防災計画の修正をするほか、ハザードマップに反映させるよう求めています。

球磨川流域では、2017年に「家屋倒壊等氾濫想定区域」が指定されましたが、今回、多くの被害が出た人吉市と球磨村、それに八代市の3つの自治体では、いずれもハザードマップに記載されていませんでした。

理由について八代市は「浸水の範囲や深さや反映させていたが、家が流されるおそれがあるという認識がなく、氾濫流の想定区域を住民に周知できていなかった」としたほか、人吉市は「想定区域が広い範囲に及んでいて、浸水想定区域と別の情報を加えると、マップが分かりにくくなるおそれがある」と話しています。

また、球磨村の中渡徹防災管理官は「球磨村のような小さな自治体では、毎年、ハザードマップの更新に予算を要求できるほど財政も潤沢ではないし、マンパワー不足が顕著で反映には至らなかった。ただ、今後は今回の被害の教訓を踏まえ、作り直したい」と話していました。

一方、国土交通省八代河川国道事務所の山口広喜調査課長は「氾濫流の情報が反映できていなかったのは、私たちの情報提供や支援が十分ではなかったことも一因で反省する必要がある。次の災害に備え、氾濫流の想定区域を周知することで、少しでも地域住民の避難行動につなげて被害の軽減を図りたい」と話していました。

 スイスでは土地利用制限も

氾濫流の危険性をどのように住民に伝えればよいのか。

治水対策に詳しい九州大学の島谷幸宏教授によりますと、海外ではハザードマップに浸水の深さだけでなく氾濫流の流速を記して、危険性をより具体的に伝える取り組みが行われているということです。

島谷教授は「ヨーロッパの国々、例えばスイスでは自治体にハザードマップの作成と土地の利用計画に反映させることが義務づけられている。その際、浸水の深さだけではなく、氾濫流の流速を考慮して危険区域が設定され、危険度に応じて住宅や小学校などの建設を禁止したり、制限したりするといった対策がとられている」と話しています。

そのうえで、島谷教授は「今後、日本でも氾濫流の危険性があるところでは土地の利用や開発を制限することも検討していく必要がある。そのためにも国や自治体、それに地域の連携が重要になってくる」と指摘しています。

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