報道
熊本県白川・立野ダムの試験湛水、11月以降実施方針 国交省
残念な情報ですが、熊本県民がダム建設反対運動を進めていた熊本県の白川の立野(たての)ダムの工事が進み、試験湛水の時期を11月以降とする方針となりました。その記事、ニュースと関連情報をお送りします。
立野ダムは流水型ダムとして造られつつありますが、立野ダム工事事務所の立野ダム本体工事進捗状況の写真(下記【参考1】)をみると、流水型ダムといっても、「自然に優しい」という話はまゆつばものであることがよくわかります。
立野ダムは見直しの対象でしたが、2012年12月に継続が決まりました(下記【参考2】を参照)。その後、事業費が増額され、1270億円になりました(下記【参考3】を参照)。
立野ダムの諸元は下記【参考4】の通りです。
この立野ダムに対して、熊本県民の反対運動が展開されましたが(下記【参考5】を参照)、まことに残念ながら、2023年度完成の予定となりました。
立野ダム試験湛水、11月以降実施方針 国交省
(熊本日日新聞 2023年2月9日 10:23)https://kumanichi.com/articles/942343
国土交通省が立野ダムの試験湛水計画について説明した「立野ダム試験湛水検討委員会」の初会合=8日、熊本市中央区
国土交通省九州地方整備局は8日、2023年度の完成に向けて建設中の国営立野ダム(南阿蘇村、大津町)に関し、試験湛水[たんすい]の時期を11月以降とする方針を明らかにした。同日、熊本市中央区のホテルであった「立野ダム試験湛水検討委員会」の初会合で示した。
試験湛水は、最高水位まで水をため、ダム本体や基礎地盤、貯水池周辺の安全性などを確認するダム建設の最終工程。立野ダムは通常時は水をためない「穴あきダム」のため、穴をふさいで水位を上げ、最高水位に達した後に放流する。
試験湛水で国の天然記念物「阿蘇北向谷原始林」の一部が冠水するとの予測があり、整備局は水位の下降速度をできるだけ上げて、原始林への影響を減らす考えを説明した。11月1日にため始めれば水位を元に下げるまでの日数が最長で20日程度となるシミュレーションも示し、試験湛水が可能な期間の中では最も短くなるとした。
検討委はダム工学や河川工学、生物の専門家6人で構成し、国の計画に助言する。8日は京都大防災研究所水資源環境研究センターの角哲也教授を委員長に選出。角氏は「阿蘇、白川の特性を吟味して試験湛水に臨みたい」と述べた。(臼杵大介)
立野ダム試験湛水検討委員会が初会合 国が計画案示す【熊本】
(テレビ熊本2023年2月8日 水曜 午後9:00)https://www.fnn.jp/articles/-/483405
白川上流に現在、建設中の国が直轄する初の流水型ダムである立野ダムについて運用開始を前に試験的に水を貯める『試験湛水』の検討委員会の初会合が8日、熊本市で開かれました。
建設中の立野ダムは、ことし4月にはダム本体の設置が完了する予定です。
運用開始を前に試験的に水を貯める、いわゆる『試験湛水』は貯水時のダムや周辺の安全性などを調べるために行われますが、一方、水位が上がることで群生する植物などへの影響が懸念されます。
検討委員会で国土交通省は環境への影響を配慮し、「可能な限り『試験湛水』の期間を短縮したい」と話し、過去20年間のシミュレーションによる計画案を示しました。
案では11月1日から実施した場合、湛水日数は平均14日で最長でも20日と期間も短く、ばらつきも少ないとし、群生する植物も8割から9割の成育が維持されるとしています。
委員からは「植物への影響はしっかりと調査しデータを取ってほしい」「国交省が示した樹木への影響のデータは根拠が弱い。今後のためにもデータの収集が必要」などの意見が挙がりました。
今回の意見を踏まえて再度協議し、11月ごろには『試験湛水』を行う予定です。
【参考1】立野ダム工事事務所 国土交通省 九州地方整備局 http://www.qsr.mlit.go.jp/tateno/site_files/file/dam/2302_dasetu_sinntyokujyokyo.pdf
【参考2】立野ダム本体工事可能に 国交相、事業継続決定(熊本日日新聞2012年12月07日)http://kumanichi.com/news/local/main/20121207002.shtml
羽田雄一郎国土交通相は6日、民主政権のダム事業見直し対象になっていた立野ダム建設事業(南阿蘇村、大津町)について、事業主体の同省九州地方整備局(九地整)が「ダム案が最も有利」とした検証結果を妥当として、事業の継続を決定した。
同ダム建設を容認した国交相の最終判断を受け、同事業は、約2年間凍結されていた本体工事の着手が可能になる。
同ダムをめぐっては、九地整が河道掘削や遊水地など治水策の代替5案をコスト、安全度などで評価・比較し、「ダム案が最も有利」とする検討結果をことし9月に提示。
外部の事業評価監視委員会も、流域7市町村の意向や「ダム案に異存はない」とした蒲島郁夫知事の意見を踏まえ、九地整の「継続」方針を了承していた。
国交相は、国の有識者会議の意見も参考にした上で、「総合評価でダム案が優位であり、事業継続は妥当。検証手続きも国の基準に沿って適切だった」と結論づけた。
同ダム事業には、環境への影響などから見直しを求める意見も強く、九地整が「ダム案が有利」とする検討結果を示した地元公聴会でも、市民団体などから反対、疑問の声が相次いだ。
立野ダムは白川に建設する洪水調整専用の穴あきダムで、1983年に事業着手。総事業費917億円で、残事業は491億円。(渡辺哲也)
【参考3】事業費の増額 2022年6月
【参考4】立野ダムの諸元
【参考5】立野ダム容認に抗議文 https://suigenren.jp/news/2012/12/19/3541/
2012年12月18日、「立野ダムによらない自然と生活を守る会」が国交省の「立野ダム事業継続発表」に対して、国交省と熊本県・熊本市へ抗議文を提出しました。
抗議文など国交省記者クラブに配付した資料「国交省記者会配布書類」をご覧ください。 https://suigenren.jp/wp-content/uploads/2012/12/b6e65638486be16d4c77baa07ef444911.pdf
「白川流域の安全を守るために立野ダムより 河川改修を進めましょう」
「世界の阿蘇に立野ダムはいりません!」
中止になったダムの建設再開を求める動き
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中止になったダムの建設再開を求める動きが出てきています。天竜川水系の戸草ダム、利根川水系の戸倉ダムです。
それらの記事を掲載します。戸倉ダムの記事は2021年11月の記事です。
戸草ダム、戸倉ダムの諸元を下記に記しておきます。
その動きのバックにゼネコンや建設官僚がいると思います。
国交省は当時の反対運動を担った人たちの高齢化を見定め、土建業を中心にした人たちを核にダム建設を進めようとしています。いつの時代でも自分たちの利益に繋がる公共事業を誘致しようと必死です。
国交省がダムなどの公共事業を復活させようと考える理由は、最近の河川環境の自然保護団体の弱体化を見抜いているように見えます。どんなところに国家予算を使うべきかを弱い立場の国民が真剣に考えなければとんでもない社会になると思います。
戸草ダム建設再開を 三峰川期成同盟会が要望
(長野日報2023年2月1日 6時00分)http://www.nagano-np.co.jp/articles/104871
(写真)阿部知事に要望書を手渡した伊那市の白鳥市長
天竜川の治水対策実現を目的に上下伊那地域の市町村でつくる三峰川総合開発事業促進期成同盟会(会長・白鳥孝伊那市長)は1月31日、阿部守一知事に、戸草ダム建設再開を含めた河川整備メニューの見直しを早期に行うよう国に求めてほしいと要望した。要望活動は冒頭を除き非公開。白鳥市長によると、知事からは「流域の市町村と思いは同じ」との趣旨の発言があり、同盟会と共に国へ働きかける姿勢と受け止めたという。
要望書では、三峰川合流点から本川上流の流下能力向上と諏訪湖の放流量増加、三峰川での洪水調節が一体となった治水対策により天竜川流域全体の安全度が向上すると主張。総合的な治水対策につながる戸草ダムの建設、ゼロカーボンに向けた水力発電などの利水の検討、諏訪地域を含めた流域全体の連携調整を望んだ。
白鳥市長によると、知事からは「戸草ダムを含めより効率的・効果的な治水対策が検討され、河川整備計画の変更を経て政策が進むよう流域全体の市町村と共に努力していきたい」とのコメントがあったといい、白鳥市長は「(これまでの要望活動の中でも)大きな一歩」「知事がそういう思いでいてくれることは心強い」と述べた。
国交省では現在、天竜川水系の整備計画について見直しを検討中。同盟会ではこの計画に戸草ダムを位置付けたい意向で、2月6日に国土交通省中部地方整備局(名古屋市)、7日に国交省本省(東京都)への訪問を計画している。
戸草ダムは多目的ダムとして伊那市長谷の美和ダム上流部に計画され、1988年に国が事業着手したが、2000年に当時の田中康夫知事がダム事業の見直しを発表し、県は工業用水の取水や発電の利水事業から撤退。建設計画が止まっている。
県に戸草ダム建設再開を要望 三峰川開発期成同盟会
(中日新聞(2023年2月1日 05時05分) https://www.chunichi.co.jp/article/628136
上伊那・飯田下伊那地域の天竜川流域の市町村でつくる「三峰川(みぶがわ)総合開発事業促進期成同盟会」は三十一日、国が計画したものの県が利水事業の構想を撤回したことなどから二〇一二年に建設中止が決まった多目的ダム「戸草ダム」(伊那市)について、建設再開を視野に入れた河川整備計画づくりを国に求めることなどを県に要望した。
有識者でつくる「天竜川水系流域委員会」は昨年三月、国が〇九年につくった天竜川水系河川整備計画を点検し、気候変動の影響で増す降雨量を考慮した目標流量や、それに応じた河川整備メニューの見直しを提言。国は同十一月、河川整備計画の上位計画にあたる「天竜川水系河川整備基本方針」の改定を先行して進める方針を示した。
期成同盟会は、戸草ダムの建設再開を含む河川整備メニューの早期見直しを国の関係機関に求めるよう県に要請することを決めた。水力発電などの利水事業の検討も改めて求めることにした。
この日、期成同盟会長の白鳥孝伊那市長、副会長の伊藤祐三駒ケ根市長、白鳥政徳箕輪町長らが県庁を訪問。阿部守一知事に要望書を提出した。
提出後、白鳥市長らと阿部知事は非公開で懇談。終了後に取材に応じた白鳥市長によると、阿部知事は「具体的な治水対策については戸草ダム(の建設)も含めてより効率的、効果的な対策が検討され、河川整備計画の変更をへて政策が進むよう、天竜川の流域全体の市町村とともに努力していきたい」と応じた。白鳥市長は「大きな一歩」と歓迎した。
(大久保謙司)
梅澤志洋片品村長インタビュー 戸倉ダム建設計画再開へ
(群馬建設新聞2021/11/18)https://www.nikoukei.co.jp/news/detail/447914
片品村長選挙が10月19日告示され、無投票で2期目の再選を果たした梅澤志洋村長。「より一層の責任を感じる」と気持ちを引き締めるとともに、感謝と謙虚の気持ちが大切だと語る。2期目は新型コロナ感染症対策を念頭に置きつつ、さまざまなシステムや公共施設のランニングコストを見直し、未来に向けた財政基盤を作り上げたいと意気込む。戸倉ダム建設計画再開への動きも見せる中、今後の見通しや運営について聞いた。
-2期目を迎えた抱負は
梅澤 無投票での再選となり、より一層の責任を感じている。従来のさまざまなシステムを見直し村の特徴に合わせ、残すものは残し必要なものは刷新するという考えで、2022年度を迎えるまでに検討を行う。
また、ランニングコストを抑えながら公共施設を運営し、未来に向け安定した財政の基盤を築き上げたいと考えている。効率よく資金を動かしていき、将来に向けた貯蓄を作っていきたい。
-最重要課題は
梅澤 新型コロナ感染症対策の収束が最も重要。村民の安全・安心を守るためにも、感染症の収束に向けて全力を注ぐ。次に経済、特に観光や農林業振興をより強く進めていく。観光に関しては、これからを見据え民間の力を借りながら進めていく。
-国土強靱化について
梅澤 19年に大きな被害をもたらした台風19号において、同年10月から試験湛水を開始していた八ッ場ダムが治水面で大きな話題となった。また、熊本県で建設凍結されていた川辺川ダムが、集中豪雨の被害により計画容認に変更されるなど、ダムに対する考え方も変化が出てきている。当初は利水対策として計画されていた戸倉ダムだが、今後は治水に向けた取り組みとして考える必要がある。そのため、国土強靱化や防災を兼ねて戸倉ダムの建設事業再開を実現したい。
-戸倉ダム建設計画の再開に向けて
梅澤 戸倉ダムは八ッ場ダムの90%程度の貯水量が見込まれている。また、計画当時の総工費として1230億円が掲げられており、すでに関係工事などで24%に当たる約299億円を投資している。加えて、ダム予定地の大部分を現在の水資源機構が所有しているため、新たな土地買収が少ないなど計画再開に向けたメリットも多い。そして、議会、役場、戸倉の地元住民から反対する意見は全く聞こえない。
計画再開に向け慎重な意見も出ているが、片品方面の利水・治水を見ると利根川合流までの間、薗原ダム以外に大きなダムがない。いろいろな災害が想定される昨今において、下流域となる首都圏の安全を確保するため、戸倉ダムが必要だといっても過言ではない。
9月27日には議会から「戸倉ダム建設の調査・研究について」の提言を受けており、今後は戸倉ダム建設実現に向けて国や県に話を進めていく。
-村営住宅解体が行われるが
梅澤 須賀川地内にある村営住宅は、21年度内に1棟を除いて解体を行うことが決定している。合わせて、新たな村営住宅建設に向けた土地購入を見通している。
活性化の一つである移住促進については、2拠点生活から始めてもらえればと考えている。最初から意気込んで村に移住するよりも、関係人口を増やしていくことが大切。今後は、空き家を村でリフォームして貸し出すといったことや、土地も村で斡旋できるようにしていきたい。
-交通網について
梅澤 国道120号の年間通行と国道401号の福島県への開通は、20年以上に渡り要望し続けており、今後も訴えていきたいと考えている。また、村道や林道の整備はもちろんのこと、熟している森林整備についても手を付けていかなければならない。
一方で、現在計画されている利根町から片品村に繋がる(仮)立沢バイパスには期待をしたいところ。椎坂トンネルができて、沼田市からのアクセスが格段に向上したように、(仮)立沢バイパスが開通すれば大きな効果が期待できるだろう。
ウィキペディア
戸草ダム
河川 天竜川水系三峰川(みぶがわ)
位置:長野県伊那市
ダム型式 重力式コンクリートダム
堤高 140.0 m
堤頂長 300.0 m
堤体積 1,330.000 m³
流域面積 137.9 km²
湛水面積 140.0 ha
総貯水容量 61,000,000 m³
有効貯水容量 41,000,000 m³
利用目的 洪水調節・不特定利水・
工業用水・発電
事業主体 国土交通省中部地方整備局
電気事業者 長野県企業局
着手 1984年/中止
ダム便覧
戸倉ダム
河川 利根川水系片品川
位置:群馬県利根郡片品村
目的/型式 洪水調節・農地防災;不特定用水・河川維持用水;上水道用水/重力式コンクリート
堤高/堤頂長/堤体積 158m/530m/320千m3
流域面積/湛水面積 72K㎡/200ha
総貯水容量/有効貯水容量 92000千m3/87000千m3
ダム事業者 水資源開発公団
着手 1982年/中止
川辺川ダム「川は死んでしまう」反対派住民が決起集会 (1月22日)
2020年7月上旬の熊本豪雨で、球磨川が大氾濫し、凄まじい被害をもたらしました。
球磨川流域の死者50人の9割は球磨村と人吉市の住民で、支流の氾濫によるものでした。
球磨村と人吉市の犠牲のほとんどは、球磨川の支川(小川、山田川等)の氾濫が球磨川本川の氾濫よりかなり早く進行したことによるものでしたから、当時、川辺川ダムがあって本川の水位上昇を仮に小さくできたとしても犠牲者の命を救うことはできませんでした。
しかし、2022年8月策定の球磨川水系河川整備計画では小川は河川改修の対象外であり、山田川は0~0.5㎞についての改修が簡単に記されているだけです。川辺川ダムで本川の水位を下げれば、支川の水位も下がるという考えによるものですが、その考えは2020年7月水害の実態とかけ離れています。
そして、「自然にやさしい」を名目にして、川辺川ダムは流水型ダム(穴あきダム)で計画されていますが、既設の流水型ダム(5基)の実態を見ると、「自然にやさしい」という話はダム推進のためのうたい文句にすぎず、川の自然に多大な影響を与える存在になっており、流水型川辺川ダムが川辺川、球磨川の自然に大きなダメージを与えることは必至です。
球磨川流域治水プロジェクトにより、球磨川ではこれから流水型川辺川ダムを中心に約3636億円以上いう凄まじい超巨額の公費が投じられていくことになっています。
流域住民・熊本県民の声に耳を傾けることなく、国土交通省と熊本県は2022年8月に流水型川辺川ダムを中心に据えた河川整備計画を策定し、ダム建設に向けた手続きを進め、球磨川で超巨額の公共事業を推進しようとしています。
そこで、流域住民は2023年の初頭、球磨川豪雨災害の真実を多くの人に伝え、行政の嘘を許さず、熊本県民や全国の様々な問題に取り組む人たちと手を携えて、ダムを中止に追い込むための新年決起集会を開催しました。
その集会案内と集会の記事を掲載します。
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計画決定から39年の川辺川利水事業、完了へ 「同意取得に違法性」、ダム水源案頓挫 対象3590→198ヘクタールに大幅縮小
川辺川ダムは2022年8月に流水型ダムとして事業を強引に推進することになりましたが、2008年には川辺川ダム中止の判断が示されました。
その判断の重要な要因となったのは、2007年の川辺川利水事業の休止です。同事業に対して「国はダムの水を押しつけるため無理やり農家の同意を集めた」と農家が提訴し、2003年、同意取得に違法性があったとする福岡高裁判決が確定し、事業はつまずきました。
その後、川辺川利水事業は規模を大幅に縮小して(対象3590→198ヘクタールに大幅縮小)、川辺川からの取水を断念し、井戸やファームポンド(貯水槽)の整備で対応することにして続けられてきました。
この川辺川利水事業の完工式が2023年1月21日に開かれました。それらの記事を掲載します。
迷走続けた大型公共事業、翻弄された地元農家 計画決定から39年の川辺川利水事業、完了へ 「同意取得に違法性」、ダム水源案頓挫 対象3590→198ヘクタールに大幅縮小
(熊本日日新聞 2023年1月21日 12:29) https://kumanichi.com/articles/921539
(写真)人吉市上原田地区の農地でホウレンソウを収穫する尾﨑正光さん。川辺川利水事業が大幅縮小して収束することを残念がる=18日、同市
(写真)川辺川利水事業で人吉市上原田地区に整備されたファームポンド=20日、同市
人吉球磨の農地に農業用水を送る計画で始まった国営川辺川総合土地改良事業(利水事業)の関連工事が3月で完了する。計画決定から39年。対象面積3590ヘクタールだった大型事業は旧川辺川ダムを水源とするか否かで迷走した末、198ヘクタールに大幅縮小して収束を迎えた。待ち望んだ水を喜ぶ農家がいる一方、「事業が縮小せず早く実現していれば、地域の農業はもっと発展したはず」とため息をつく関係者もいる。
「ようやく安定した水が手当てされ、安心して営農できる」。あさぎり町須恵の農地でナシやカキを作る男性(62)は、利水事業で水が確保されたことに安堵[あんど]の表情を浮かべる。
九州農政局川辺川農業水利事業所(人吉市)によると、対象農地は人吉球磨6市町村で造成、区画整理した34団地・計198ヘクタール。川辺川からは送水せず、地下水をくみ上げる井戸とファームポンド(貯水槽)を各14カ所に整備し、総事業費は約252億円の見込み。
当初計画は農水省が1984年に決定。国交省が建設する川辺川ダムから幹線水路で広く送水する計画だった。後に減反など農業情勢の変化を背景に計画変更した際、「国はダムの水を押しつけるため無理やり農家の同意を集めた」と農家が提訴。2003年、同意取得に違法性があったとする福岡高裁判決が確定し、事業はつまずいた。
国は面積を狭めて計画を作り直すため、県や市町村、農家団体との「事前協議」を重ねたが、ダムを水源とするかどうかで難航し、07年度に事業を休止。その後、ダムに依存せず川辺川から取水する案も、地元で合意に至らなかった。国は18年、農業用水を送る計画を廃止し、既に造成などを終えた農地にだけ代替水源を整備する計画に大幅縮小した。
水を待ち続けた農家は翻弄[ほんろう]され、高齢化した。人吉市上原田地区では02年にいち早く貯水槽が整備され、モデル事業として貯めた井戸水を一部エリアに給水してきたが、地区の大半は事業縮小で対象から外れた。
「時間がかかりすぎた。農業をやめた者もいる。早く水が来ていれば希望を持って続けられたはず」。同地区でホウレンソウなど野菜を手がける尾﨑正光さん(82)は歯がみする。自身の農地も一部を除いて対象から外れ、代わりに県営事業での送水を待つという。
かつて6市町村でつくる事業組合(解散)の組合長を務めた内山慶治山江村長も表情は晴れない。「ダム建設反対の動きも絡み、事業が進まなかったことは残念。川辺川から送水できていれば、一帯の農業は大きく変わっていただろう」
事業休止でいったん閉じた川辺川農業水利事業所は15年に再開され、事業完了へ作業を進めてきた。「整備した給水設備が地域の農業振興に寄与すると期待している」と担当者。同事業所は3月末で撤退する。(中村勝洋)
計画決定から39年、国営川辺川利水事業が完工式 熊本県あさぎり町
(熊本日日新聞 2023年1月21日 12:32)https://kumanichi.com/articles/922711
(写真)国営川辺川総合土地改良事業の完工式であいさつする宮﨑敏行九州農政局長=21日、あさぎり町
人吉球磨6市町村の農地に農業用水を手当てする国営川辺川総合土地改良事業(利水事業)の完工式が21日、あさぎり町の商工コミュニティセンター・ポッポー館であった。当初3590ヘクタールだった対象面積は198ヘクタールに大幅縮小され、事業は3月に完了する。
式には農水省や6市町村の関係者ら約100人が出席。宮﨑敏行・九州農政局長が「地域の農業がさらに発展し、豊かな農村社会が形成されることを祈念する」とあいさつし、事業経過が報告された。
農水省は1984年の当初計画で旧川辺川ダムからの送水を見込んでいたが、計画変更手続きを巡り農家が起こした訴訟で敗訴。その後、新たな計画策定も難航し、地元で合意に至らなかった。18年、農地に送水するかんがい事業は廃止。対象面積を198ヘクタールに大幅縮小し、井戸やファームポンド(貯水槽)を整備した。総事業費は約252億円の見込み。(中村勝洋)
川辺川利水完了 地元複雑…完工式 着手から40年、大幅縮小「当初計画の10分の1満たず」
(読売新聞2023/01/22 08:13) https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20230122-OYTNT50007/
熊本県南部の6市町村に農業用水を供給する国の川辺川利水事業が今年度末で完了する。水源となるはずだった川辺川ダムの建設が中断し、利水事業はダム計画と切り離されて大幅に縮小された。事業開始から約40年がたち、総事業費は250億円を超える見通し。地元では21日、完工式があり、出席者は複雑な思いを巡らせた。(内村大作)
「(規模は)当初計画の10分の1に満たない。うれしさは3割で、7割は残念な思い」。同県あさぎり町で開かれた式で謝辞を述べた森本完一・錦町長は終了後の取材に、そう悔しさをにじませた。
利水事業は、農林水産省が1983年に着手した。人吉市、錦町、あさぎり町、多良木町、相良村、山江村が対象。当初の計画では、川辺川ダムを水源として農業用の水路網を整備する用排水事業や農地造成などで3590ヘクタールに水を送る予定だった。
しかし、対象面積を縮小する計画変更の有効性を巡り、一部農家が起こした訴訟で、2003年に国側が敗訴し、事業は事実上の休止に追い込まれた。その後、農水省はダムを活用した利水事業から離脱。ダム以外の水源を模索したが地元の合意が得られず、18年に計画を大幅に縮小した。新たな計画では対象面積が198ヘクタールに絞られた。対象農家も約4000人から約330人まで減少。完成した農地に水を供給するのはダムではなく、掘削した14か所の井戸となった。総事業費は252億円という。
あさぎり町で梨を栽培する五嶋政一さん(74)は暫定の井戸では水量が足りず、農家同士で水を譲り合ってきた。この日、受益農家でつくる土地改良区の副理事長として式に出席した後、「梨をつくるための必要な水量はようやく確保できた。けじめはついたが、ダムの水が来ると聞いてから何十年もかかった」と複雑な心境を語った。
利水に揺れた40年の歴史に幕 川辺川総合土地改良事業が完工式 あさぎり /熊本
(毎日新聞熊本版 2023/1/22)https://mainichi.jp/articles/20230122/ddl/k43/040/230000c
(写真)地元国会議員や知事らも参加した事業の完工式
熊本県南部の人吉球磨地方に農業用水を供給する「国営川辺川総合土地改良事業」の完工式が21日、同県あさぎり町であった。1983年に事業に着手したが、反対派農家が起こした訴訟で2003年に国が敗訴。建設予定だった川辺川ダムからの取水を断念し、井戸など代替水源施設の整備を続けてきた。農業利水の在り方を巡って揺れた事業は40年の歴史に幕を閉じた。
完工式は、あさぎり町商工コミュニティセンターであり、蒲島郁夫知事や地元国会議員、市町村関係者ら約100人が出席した。宮崎敏行・九州農政局長は式辞で「整備された農地と施設が適切に利用され、豊かな農村社会が形成されるよう祈ります」と述べた。
40年に及ぶ事業の中で節目となったのが、国の計画に地元農家864人がノーを突きつけた川辺川利水訴訟だった。原告農家の主張を認めた2003年の福岡高裁判決をきっかけに、計画はいったん白紙へ。原告団長の茂吉(もよし)隆典さん(78)=熊本県相良村=に聞いた。
「水は必要だ。でもダムの水はいらない」というのが私たちの訴えだった。さらに農家をだまして、亡くなった人の計画同意の印鑑まで集める国のやり方に反発したのが出発点だった。水源井戸の確保など水が必要な農家に国が最後まで対応した点は評価したい。ただ、事業に伴う高額な農家負担や後継者難などを考えれば、当初の事業実施は難しかったと思う。
2022年9月の台風14号では九州地方と中国地方の9ダムで緊急放流
今年(2022年)9月18~20日の台風14号では九州地方と中国地方の9ダムで緊急放流が行われました。
1 緊急放流を行ったダム
事前にダムの水位を下げる事前放流を行ったダムは国土交通省のHPに載っているのですが
(「台風第14号による被害状況等について(第11報)」https://www.mlit.go.jp/common/001514738.pdf 事前放流を実施 128ダム(うち、利水ダム77))、
氾濫を起こす危険性がある緊急放流を行ったダムについてはその情報が国土交通省本省のHPには掲載されていません。
そこで、国交省の河川環境課流水管理室に聞きました。
次の9ダムでした。
九州地方
○ 市房ダム(球磨川水系、熊本県)
○ 松尾ダム(小丸川水系、宮崎県)
○ 渡川(どかわ)ダム(小丸川水系、宮崎県)
○ 綾北ダム(大淀川水系、宮崎県)
○ 立花ダム(一ツ瀬川水系、宮崎県)
○ 祝子(ほうり)ダム(五ヶ瀬川水系、宮崎県)
○ 北川ダム(五ヶ瀬川水系、大分県)
中国地方
○ 向道ダム(錦川水系、山口・広島県)
○ 小瀬川ダム(小瀬川水系、山口・広島県)
九州地方の7ダムの緊急放流は九州地方整備局のHP https://www.qsr.mlit.go.jp/site_files/file/bousai2209220201%281%29.pdf に掲載されましたが、中国地方整備局のHPには見当たりませんでした。
ダムの恐ろしさは計画規模を超える洪水が来ると、調節機能を失ってしまって緊急放流を行うことです。
ダム下流はダムの洪水調節を前提とした治水計画になっているので、氾濫の危険性が高まります。特にダム直下の住民は緊急放流で命の危険にさらされることになります。
2018年7月の西日本豪雨では愛媛県・肱川の野村ダムと鹿野川ダムが緊急放流を行い、深刻な洪水被害を引き起こしました。野村ダムの下流では、ダムの放流により、5人が死亡し、約650戸が浸水しました。鹿野川ダムの下流でもダムの放流により、3人が死亡し、約4600戸が浸水しました。
今年9月の台風14号では幸いなことに9ダムの緊急放流で人の命が奪われることはなかったようですが、ダム緊急放流の恐ろしさを伝えるニュースが流れました。
2 球磨川・市房ダムの緊急放流
国土交通省八代河川国道事務所が9月29日に次の発表を行い、NHKが下記の通り、報じました。
その要点は、9月の台風14号において市房ダムの緊急放流を1時間遅らせたことにより、市房ダムに最も近い多良木町の観測所では氾濫危険水位を38センチ上回るところ、氾濫危険水位を超えなかったということです。
球磨川流域住民のダムへの不信感に対応するため、市房ダムが効果を発揮したことを伝えることを目的にした発表のようです。
しかし、果たしてどうでしょうか。
下記のグラフは国交省と熊本県のデータを使って、多良木、人吉の当日の水位、および市房ダムの流入量・放流量の時間変化を見たものです。、
市房ダムより約9㎞下流の球磨川・多良木地点では、緊急放流の影響で5時頃に水位が少し上がっただけでした。
中流の人吉地点では、緊急放流の影響は明確ではなく、球磨川流域の降雨によって、水位がかなり上昇しました。
流域面積が小さい市房ダムの治水効果は元々小さなものであって、人吉あたりではほとんど期待できません。市房ダムはむしろ、緊急放流時のダム直下での氾濫が心配されるダムです。
ダムを前提としない河道整備をきちんと行うことに力を注ぐべきです。
令 和 4 年 9 月 2 9 日 八代河川国道事務所 熊本県
台風第14号洪水における市房ダムの効果について《速報値》 http://www.qsr.mlit.go.jp/yatusiro/site_files/file/news/r4/20220929kisya.pdf
球磨川上流の市房ダム 緊急放流遅らせ下流の水位上昇抑える
(NHK熊本放送局2022/09/29 09:52) https://www3.nhk.or.jp/lnews/k/kumamoto/20220929/5000017111.html
今月中旬に熊本県に接近した台風14号に伴う大雨を受け、球磨川の上流にある市房ダムで行われた「緊急放流」について、国などが分析したところ、県が当初の予定よりも1時間放流を遅らせたことで、氾濫危険水位を超えることなく下流の水位を抑えられたことがわかりました。
今月18日から19日にかけて熊本県に接近した台風14号の影響で、球磨川上流にある水上村の市房ダム周辺では、おととしの記録的な豪雨を上回る雨が降って大量の水がダムに流れ込み、27年ぶりに緊急放流が行われました。
緊急放流は、放流を段階的に増やし、最終的にはダムに流入する水と同じ程度の量を流す緊急的な操作で、たまった水を一気に流すわけではありませんが、下流の水位が増すため、雨量などに応じた調整が必要とされます。
県は当初、市房ダムの緊急放流について今月19日の午前2時から行う予定でしたが、下流の水位が上昇していたことなどから、1時間遅らせて午前3時に放流を始めました。
この判断について、国と県が分析したところ、市房ダムに最も近い多良木町の観測所では、緊急放流を当初の予定通りに実施していた場合、氾濫危険水位を38センチ上回る3メートル98センチまで水位が上昇したとみられるということです。
緊急放流を1時間遅らせた結果、観測所の水位は氾濫危険水位を超えず、水位の抑制につながったとみられるということです。
2022年9月18~19日の球磨川の観測水位と市房ダムの流入・放流量の時間変化 (国交省と熊本県のデータを使って作成)
流域面積 市房ダム158㎢ 多良木250㎢ 人吉1137㎢ (市房ダムは河口から約93㎞)