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2008年7月23日 熊本県知事 蒲島郁夫様(ほか)川辺川ダム「有識者会議」への意見書

2008年7月23日
熊本県知事 蒲島郁夫様
川辺川ダム有識者会議 座長 金本良嗣様

連絡先 〒860-0073熊本市島崎4-5-13 中島康
電話:090-2505-3880、096-324-5762

川辺川ダム「有識者会議」への意見書

  1. 住民が許容できない水害について
    7月13日の第5回有識者会議で、「住民はどこまで水害のリスクを許容できるのか」「ダムに反対する人は、今の河道で十分に水を流せるというが、想定を超えた雨の場合、ダムなしでどう対応するのか」との意見が出されました。
    ダムに頼った治水では、想定以上の洪水がくるとダム湖は満水になり、ダム湖に流入した水をそのまま放流(非常放流)するしかありません。それまで洪水をため込み放流をおさえた分、放流量は急に増え、下流では川の水位が急激に上昇し、非常に危険です。またダムに頼り、河道の整備を怠るこれまでのやり方では、下流では洪水が大量にあふれます。
    一方、ダムに頼らない総合治水では、河道や堤防をよく整備し、その地域にあった様々な治水対策をとるために、想定以上の洪水の場合、ダムに頼った治水よりも小さな被害ですみます。
    想定を超えた洪水の場合の、ダム放流による水害が許容できないからこそ、ほとんどの水害被災者が川辺川ダム建設を望んでいないのです。
    国交省は「平成18年に川内川で実際に降った雨が球磨川に降った場合、人吉でのピーク流量は7800㎥/秒と推定される」と説明します。このことは、川内川と同等の雨が球磨川流域に降ったら、川辺川ダムは役に立たないことを意味しています。
    今後の異常気象を考えたら、ダムで対応できない降雨があることは否定できません。川内川の事例は、ダムでは対応できない洪水が起こりうることを表している事例なのです。
  2. ブラウン氏と蒲島知事の見解について
    7月12日の現地調査では、熊本県職員により「人吉地区は毎年計画高水ぎりぎりまで増水し、大変危険な場所である」というような説明がなされました。
    しかし、人吉市街地の球磨川は、一般的に平野部に見られる天井川とは違って、万一越流しても計画高水位(HWL)と堤内が同じ程度の高さのところが多い「掘り込み河道」となっており、破堤する可能性はほとんどないと考えられます。また、国土交通省は人吉では5年に1回、破堤して甚大な被害が発生するとしていますが、これまでにそのような事実はありません。だからこそ、住民は長年球磨川沿いに住んできたのです。
    昭和35年に球磨川の水害防止のためと鳴り物入りで市房ダムが完成し、これで洪水被害から解放されると流域住民は期待しましたが、それは完全に裏切られ、38、39、40年に3年連続で水害に見舞われるなど、むしろそれまで以上に洪水を心配しなければならなくなりました。しかも市房ダムは46年と57年には計画通りの洪水調節ができず、非常事態としてただし書き操作を行っており、その際、「ダム決壊の恐れがある」とアナウンスされた流域住民は恐怖のどん底に突き落とされています。一方、40年の水害以後に流域で進められた河川の拡幅や堤防の整備などの治水対策は着実に効果を発揮し、堤防などの河川整備が終わった部分では、近年全く洪水被害に見舞われることがなくなりました。だからこそ、住民はダムによる治水対策は望んでいないのです。
    ところが、有識者会議の現地調査に参加したオランダ人アドバイザー、ディック・デ・ブラウン氏は、「人吉市の人々が流域に住み続けたいと考えるならばダムは必要。従来計画の場所、規模のダムが最適だ」と述べ、わずか1回の現地調査にもかかわらず川辺川ダム建設を肯定する見解を示しました。また、知事は「専門分野から見た純粋な意見だろう。ダム建設の是非を総合的に判断する材料の一つにしたい」と呼応して答えています。
    球磨川流域で、近年の記録的な豪雨で浸水被害にあわれた方々に聞き取り調査した結果を見ても、ダム以外の治水対策を求めている方が67戸で、治水対策に川辺川ダム建設を望まれる方は、わずか2戸でした。このことからも、ブラウン氏や知事の見解が水害被害の実態や住民の意識と全くかけ離れていることは明らかです。
  3. 河川整備計画について
    1. 有識者会議では、川辺川ダム建設の是非を議論していますが、球磨川の河川整備計画はいまだ策定されておらず、河川整備計画でダムを選択肢のひとつとするのかどうか、するとすればその規模や形状はどうするのかの素案は示されていません。したがって有識者会議では川辺川ダムの旧計画を基にして検討をされています。基本高水については国交省と住民側の数値に差がありますので、双方の主張する主な数値を比較して洪水対策を表にしました。
      国土交通省の1/80 住民側の1/80
      人吉地点 基本高水流量:毎秒7000トン
      計画河道流量:毎秒4000トン
      基本高水流量:毎秒5500トン
      計画河道流量:毎秒5400トン
      計画河床高までの河床掘削と、未整備の堤防の整備
      中流域 宅地等水防災対策事業や築堤による河川改修 宅地等水防災対策事業や築堤による河川改修、荒瀬ダムの撤去、瀬戸石ダムの堆砂対策
      八代地点 萩原の深掘れ対策など 現行計画どおりに現況堤防の強化工事
      洪水調節流量 人吉地点ではダムにより毎秒3000トンをカット(川辺川ダム2600トン、市房ダム400トン) 最大洪水流量への対応は可能。
      人工林を間伐など本来の手入れをすることで保水力が増大する。

      昨年5月11日、球磨川「河川整備基本方針」は、地元住民や前知事の疑問に応えることなく強行決定されました。国土交通省はその後の報告会で、住民の最大の関心事となっている川辺川ダム建設については「河川整備計画で位置づける」と言い続けてきました。
      したがって、知事が9月にダムに対する判断をすると言うのであれば、それは河川整備計画上のダムについて判断することになるはずです。しかし、国土交通省は未だに河川整備計画の素案さえ示さず、結果、川辺川ダムが必要なのか必要でないのか明らかにされないままの状況になっています。
      以上のことから、知事や有識者会議が9月という期限を切って、国土交通省から整備計画の案も示されないまま、住民の意思や河川法の手続きを無視してまで、「川辺川ダムを造る」ことに積極的な口実を与えるような「判断」をすることは、絶対に止めてください。

    2. 河川整備計画は、河川整備基本方針と同じ規模の洪水ではなく、現実に対応可能な規模の洪水を対象として策定されるものです。たとえば、人口がひどく密集している多摩川(東京・神奈川)でも河川整備基本方針は200年に1回の洪水が想定されていますが、河川整備計画は戦後最大の洪水を対象として策定されています。また、熊本県内の白川では、「近年発生した最大の洪水でおおむね20~30年に1回の確率で発生する規模」となっています。このことから球磨川においても河川整備計画は戦後最大の洪水を対象として策定されれば十分です。流域で最も人口の多い八代・人吉地区では、戦後最大の流量(1982年7月洪水)に対しても堤防を越水することはありませんでした。従って、球磨川でも戦後最大の洪水を対象とする河川整備計画を策定すれば、川辺川ダムは必要ありません。
      近年の豪雨で被災している未改修地区の大部分は中流域に集中しています。総戸数として数十戸程度です。これらの未改修地区は毎年のように浸水被害を受けているため家屋嵩上げ等の河川改修は急務となっています。
  4. 治水専用ダムについて
    7月13日の第5回有識者会議で、「治水専用ダムなら常に水を流すことができ、環境にも配慮できる」「環境と治水を両立させる新技術のダムのつくり方、技術の理論も出ている」という意見もありました。実際ここ数年、従来の多目的ダム計画を治水専用の穴あきダムに変更して推進しようとする動きが相次いでいます。この点については、元京都大学防災研究所長の今本博健氏の意見「穴あきダムは歴史的愚行に他ならない」(朝日新聞オピニオン2008.7.17)が詳しく、私たちの危惧するところと同じであることを表明するとともに、「穴あきダム」がダム推進の隠れ蓑にすぎないことを指摘しておきます。
  5. 治水の基本理念
    淀川水系流域委員会が提示したことは「治水効果がわずかで現実的な意味が薄いダム建設などは捨て置いて、想定を越える洪水が来ても人命を守ることができる治水対策を最優先で進めること」でした。これはまさに、治水の基本理念であり、球磨川水系においてもこの理念が適用されるべきです。
    想定規模を大きく上回る洪水が到来し、堤防を超える洪水流量になっても、堤防が決壊しなければ、人命が失われたり、壊滅的な被害を受けることはありません。その点で、計画高水位までの洪水への対応にとどまっている現在の河道整備のあり方を根本から改め、計画高水位以上の堤防部分を強化して耐越水堤防に変えていくことが必要です。
    一方、ダムに関しては想定規模以上の洪水がくれば、ダム下流部はむしろより危険な状態になります。その端的な例が2006年7月下旬に未曾有の豪雨が襲った川内川(鹿児島)の鶴田ダムです。当時、ダム上流域の総雨量は1000㎜近くに達しました。鶴田ダムの洪水調節計画は最大流入量4600m3/秒、最大放流量2400m3/秒ですが、降り続く雨のため、鶴田ダムは満水になり、計画最大放流量の1.5倍にもなる流量を放流しました。その結果、ダムによる洪水調節を前提とした流下能力しかなかったダム下流部では洪水が氾濫し、大変な被害が起きました。川辺川ダムでも想定規模以上の洪水がくれば同じような現象が起きることは必至で、ダムは想定外洪水に対して有効な手段ではなく、災害をつくり出す要因になります。
  6. 気候変動等による河川への影響ついて
    有識者会議では、「想定を超えた雨の場合、ダムなしでどう対応するのか」「気候や流量などの数値は将来変わる。ダムがない場合、大きな数値に耐えられるのか」「球磨川は80年に1回の洪水を基準にしているが、世界では2百年、千年が基準だ」など、あたかも、球磨川の安全度が他の河川に比べて異常に低いかのようなコメントが出されています。
    有識者会議が球磨川の長期計画や超過洪水対策を心配したり、気候変動による河川への影響を審議したりすることを否定するものではありません。しかしそれは、今回の有識者会議に付託された事柄でしょうか。
    超過洪水対策や、気候変動の河川への影響などについては、社会資本整備審議会などによって検討が進められていますが、現時点で施策として何かが決定しているわけではありません。また、そのことは球磨川だけの問題ではなく全国の河川の計画上の課題であり、人的被害の重大性から言えば、大都市圏の河川こそ率先して、影響を検証すべきです。検討は始まった段階であり、これらの長期的な課題について「球磨川」に限って今すぐ云々することに意味はなく、それは、単にダムの必要性を扇動する意見にしかなりません。
    長期計画を云々する前に当面の整備計画をどうするのか、どう達成するのかが有識者会議に求められていることです。

参考[白川河川整備計画] H14年7月策定

白川の将来計画では、昭和28年6月26日(1953.6.26)洪水と同程度の洪水を安全に流すことを目指して、基準地点である代継橋地点での流量3,400m3/sを洪水調節施設で400m3/s調節し、3,000m3/sの流量が安全に流下できる河道とすることとしています。3,400m3/sはおおむね150年に1回の確率で発生する洪水の規模ですが、現在同地点での流下能力が1,500m3/s程度であることから、将来計画に対応するには膨大な事業費と時間を要します。

そこで、将来計画に向けて段階的に整備を進めることとし、今後20~30年の整備目標としては近年発生した洪水である昭和55年8月30日(1980.8.30)洪水、平成2年7月2日(1990.7.2)洪水と同程度の洪水を安全に流すこととして、基準地点である代継橋地点での流量2,300m3/sを洪水調節施設で300m3/s 調節し、2,000m3/sの流量が安全に流下できる河道とすることとします。この洪水はおおむね20~30年に1回の確率で発生する規模です。なお、この整備目標が完成後、将来計画に向けてひきつづき整備を進めていきます。[別図-白川の計画高水流量及び今後20-30年の整備目標]

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