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【サクラエビショック、その後】アユもいなくなった中流域、濁る「母なる川」 異変はなぜ

2020年5月24日
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国内で唯一、静岡県で専門の漁が行われている「駿河湾産サクラエビ」が2018年、未曾有の不漁に直面しました。静岡新聞がその原因を追う記事を書き続けてきました。
その経過をまとめた同紙の記事を掲載します。

【サクラエビショック、その後】アユもいなくなった中流域、濁る「母なる川」 異変はなぜ
(静岡新聞2020/5/24(日) 10:04配信) https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200524-00010000-at_s-l22&p=1

2018年春、かつてない不漁に陥った「駿河湾産サクラエビ」。国内では駿河湾でしか専門の漁が行われていない静岡県の名物だが、近年は台湾産の台頭にも悩まされ、廃業を選ばざるを得なかった地元加工業者もいる。不漁との関係がささやかれるのが、主な産卵場の湾奥に注ぎ込む陸域からの強い濁水だ。自然由来もある一方、企業活動由来の濁りも問題視される。流域では市民運動など住民がサクラエビ不漁をきっかけに海と川、森、人間の関係を問い直す動きにも広がっている。

■もともと濁りやすい川
「あはんとは思ひわたれど富士川の終(つい)に澄まずは影も見えじを」―
三十六歌仙の一人として知られる凡河内躬恒(おうしこうちのみつね)は、平安時代に駿河の国の歌枕とされた富士川の濁りに掛け、「会おうと思っているのだけれど、富士川が澄まないので影も見えない」と嘆いてみせた。当時からすでに「澄むことはない川」とのイメージは定着していたようだ。
サクラエビ研究の元祖とされる生物学者中沢毅一(1883~1940年)も「駿河湾産櫻蝦(さくらえび)の研究」の中ですでに「富士川の水が特殊の濁りをなす」と述べ、サクラエビの成長にとって富士川が「母なる川」であることを力説している。
富士川流域には、本州を横断する大断層「糸魚川-静岡構造線」があるため従来地質はもろいとされ、濁りの原因の一つになっているとされる。

(写真)ほとんどが土砂で埋まる日軽金雨畑ダム=山梨県早川町

■2011年から続く“異変”
ただ、近年の陸域からの濁りはかつてと異なる、との指摘がサクラエビやシラス漁師から出ている。注目が集まるのは、大手アルミメ-カ-日本軽金属蒲原製造所(静岡市清水区)の工場放水路から主産卵場の湾奥に注ぐ濁水。アルミ製錬(14年3月に撤退)のため国策企業として誕生した同社は、ほとんどが土砂で埋まる雨畑ダム(山梨県早川町)も管理する。
水の濁度調査グラフ
ダム上流の水害を受け、国から行政指導を受けた同社は4月下旬、国に5年間で700万立方メートル(東京ドーム5杯分)を搬出する計画を提出した。
このダム下流から延びる導水管は途中複数の同社自家用水力発電所を経て放水路につながる。静岡県によれば、11年度から急激に濁りが強くなり、その後回復が遅れているという。

(写真)近年濁りが強いまま駿河湾に注ぐ日軽金蒲原製造所放水路の発電用水
同県桜えび漁業組合幹部は「台風で川から茶色に濁った水が駿河湾に注がれると、エビが取れると言われてきた。現在の灰色の濁りは海洋環境にとって良い影響はないのでは」と話す。
(写真)富士川水系で長年続いていた凝集剤入り汚泥の大量不法投棄の瞬間

■いまも原因は不明
11年は台風15号が同県などに大きな被害をもたらした年だ。濁水について「ダム上流の山体崩壊も原因では」との指摘がある。
ただ、昨年、日軽金が一部出資する採石業者ニッケイ工業が雨畑ダムすぐ下流の雨畑川で、産業廃棄物の汚泥(ヘドロ)を長年大量に不法投棄していたことが発覚。同社は中部横断道工事で使われたコンクリくずも違法に受け入れ、8割に当たる約4700トンが下流に流出、回収不能となっていることが判明した。山梨県は一時刑事告発も検討した。

(写真)静岡・山梨両県が行った富士川水系濁り合同調査結果の会見(2020年2月、静岡県庁
昨年5~7月の静岡・山梨両県合同による濁りの実態調査を受け、ことし2月に両県が行った会見では、最近の濁りの発生源は雨畑ダムのある早川水系(山梨県早川町)にあることで一致したものの、特定には至らなかった。
日軽金の杉山和義常務は昨年暮れ「(サクラエビ不漁との関係は)正直分からない」とし、由比港漁協(静岡市清水区)が濁りが海の生態系に及ぼす影響を調べるよう求めたことに「必要があれば協力する」と述べるにとどめた。

■マイクロプラと同じ
「放水路の濁りは明らかに『水産用水基準』を上回っている」との指摘がある。基準は日本水産資源保護協会が定める水産資源保護のため維持が望ましい水質基準で、法的基準ではないが、浮遊物質量(SS)の場合「人為的に加えられる懸濁物質は1リットル当たり2ミリグラム以下」とする。
静岡県が19年1~2月に実施した調査では、放水路内のSSは1リットル当たり11・7~427ミリグラム。
濁りの研究で16年日仏海洋学会賞を受賞した東京海洋大の荒川久幸教授(57)=海洋光環境学=によれば、粘土鉱物粒子を使ったアサリの受精卵の実験で1リットル当たり約200ミリグラムの粒子が混ざるとふ化率は20%以下に低下した。幼生の成長阻害も引き起こした。
荒川教授は「受精卵はガス交換を阻害され、幼生は餌と一緒に粒子を取り込みエネルギーにできなかったのでは。濁りの問題は海洋マイクロプラスチック問題と通底する」と指摘する。荒川教授ら研究者10人は手弁当でサクラエビの不漁問題のための研究会を静岡市で結成している。

富士川水系の濁り問題を巡る現状イメージ

■立ち上がる市民
一般住民も立ち上がる動きが出ている。
かつて「尺アユの川」とされた富士川中流ではアユがほとんど見られなくなった。静岡・山梨両県の住民約50人は今春市民団体「富士川ネット」を発足させ、環境を知る指標生物ともなる底生生物(水生昆虫類)の種類や量の調査に着手したが雨畑川では少ない印象という。

富士川ネットは、ニッケイ工業が本来産廃の汚泥に3種類の凝集剤を混ぜ河川内に投棄していたことを特に問題視。ダンプで運搬しやすくするためだったとみられ、すぐ上流の雨畑ダムの出水のたびに下流に流されていたことが明らかになっていることから、「石と石の隙間に汚泥由来の粘着性の微粒子が固着し、出水の度に濁りの原因になっている」と指摘する。
代表幹事の青木茂さん(65)=山梨県富士川町=は「サクラエビが訴えた富士川水系の濁り問題はこの流域全体で考えていかなくてはならない問題。山梨と静岡の両県民が手を携えたい」と述べた。

◆連載「サクラエビショック、その後」
この記事は静岡新聞とYahoo!ニュースによる連携企画記事です。国内で唯一、静岡県で専門の漁が行われている「駿河湾産サクラエビ」が2018年、未曾有の不漁に直面しました。消滅の危機にあえぐ地場の名産品がわたしたちに問いかけるものとは。不漁が表面化してから2年が過ぎた今を、地元から伝えます。

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