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豪雨による河川氾濫をどう防ぐのか 鶴見川を“暴れ川”から変えた「流域思考」に学ぶ

2020年8月19日
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神奈川県の鶴見川で実施されてきた流域治水(総合治水)についての記事を掲載します。

鶴見川の総合治水対策は上・中流での遊水地や雨水調整地の設置、源流域の広大な森林地帯の緑の保全などです。

鶴見川の取り組みはよく知られていることですが、あらためてその手法を学ぶ必要があると思います。

(鶴見川流域水マスタープラン (国土交通省京浜河川事務所)https://www.ktr.mlit.go.jp/keihin/keihin_index049.html )

 

 豪雨による河川氾濫をどう防ぐのか 鶴見川を“暴れ川”から変えた「流域思考」に学ぶ

(FNNプライムオンライン 2020/8/19(水) 11:42配信)https://news.yahoo.co.jp/articles/7339a38796af93a99ae58f3ef2649724afaab39b?page=1

【画像】2019年台風19号による洪水を日産スタジアムの遊水地が湛水して下流を守った

近年日本列島では、数十年に一度といわれる大雨が多発し、河川の氾濫、土砂崩れなどの水害が相次いでいる。これから台風シーズンを迎えて、さらなる水害のおそれがある中、治水対策の見直しは急務である。

「流域思考」による治水に成功した鶴見川

治水のありかたが見直される中、いま脚光を浴びているのが「流域治水」という言葉だ。 先月、国土交通省は、河川や下水道の管理者らによる治水に加え、国、自治体、企業、市民などあらゆる関係者が、河川流域全体で治水を進める「流域治水」への転換を提言した。 日本でいちはやく河川流域全体での治水を実践してきたのが、東京都と神奈川県を流れる鶴見川である。かつて「暴れ川」と呼ばれた鶴見川を、筆者は源流から河口までフィールドワークした。

かつて約2万戸が浸水した“暴れ川”流域

鶴見川流域では1958年の狩野川台風による氾濫で約2万戸が浸水、1966年の台風では約1万9千戸、1976年は約4千戸が浸水する被害が多発。鶴見川は当時、全国的に「暴れ川」として知られていた。 しかし1980年代以降、「流域思考」をもとにした総合治水対策が開始されてから、鶴見川では水害が劇的に減少。1982年以降、大規模氾濫は起きていない。2019年の台風19号時に、隣接する多摩川が氾濫の危機に見舞われたにもかかわらず、鶴見川が無事だったのはその一例だ。

源流から40キロ先の河口まで訪れる

鶴見川は東京都と神奈川県をまたがっているが、源流は東京都町田市にある。中・下流は川崎市と横浜市を流れ、東京湾にそそぐ。 筆者は鶴見川でどのような治水対策が行われているか取材するため、源流の町田市・上小山田にむかった。最源流にある標高160mほどの展望台からは、約40キロ先にある鶴見川河口の横浜火力発電所が見えた。 鶴見川の総合治水対策が、建設省(現・国土交通省)によって実施に移されたのは1980年。建設省は各自治体に連携を促し、水害に悩まされていた下流の河川整備のみならず、上・中流での遊水地や雨水調整地の設置、そして源流域の広大な森林地帯の緑の保全を呼びかけた。 現在、源流域でも市街化は進んでいるが1000ha規模の保水の森は保全されており、雨の際には100万m3規模の雨水を保水して、中・下流の氾濫を防ぐ一役を担っているという。

住宅地に点在する雨水調整用の人工池

源流域から数キロ下流の町田市上小山田、小山田桜台地域にひろがる住宅地には、貯水量1万m3を超える大型の雨水調整用の人工池が5カ所ある。同様な機能を発揮する調整地は、流域全域で5000カ所近くもあり、全体で300万m3の雨水を湛水する機能をもつ。調整地の中には、平時はテニスコートや公園として使われているものもあり、地域住民でさえそこに防災機能があるのを知らないこともある。 調整地とは別に、上流、中・下流には、河川区域の一部に洪水をためおく遊水地が数カ所ある。その代表的なものが、横浜市の日産スタジアムの設置場所ともなっている多目的遊水地だ。スタジアムを囲む84haの広大な河川区域は、平時はテニスコートなど住民のリクリエーションの場だが、いったん大雨が降れば隣接する鶴見川の増水を流入させる地として、390万m3の水を湛える能力をもつ。

世界が驚いた日産スタジアムの治水

日産スタジアムの治水といえば思い出されるのが、2019年のラグビーワールドカップだ。日産スタジアムで行われた日本対スコットランド戦は、台風19号が試合前日に横浜を襲った際、これで試合実施は難しいだろうと誰もが思った。しかし、この遊水地が水害を見事に抑え無事試合が行われたことに、日本のファンや関係者のみならず世界中が驚いた。 この台風19号では、遊水地が94万トンの洪水を湛水して下流を守った。遊水地の湛水能力は390万トンであることを考えると、十分な余力を持っていたといえる。 しかし一方で、当時あるハプニングがあった。今回フィールドワークに同行して頂いた東京工業大学でメディア論を担当する柳瀬博一教授はこう語る。 「ある大手新聞社が試合前日に、『スタジアム周辺が“冠水”した』と写真付きでSNSで報じて“炎上”しました。なぜならこれは冠水ではなく、計画的な湛水だったからです。地域住民はもちろん遊水地だとわかっていましたし、外国メディアも取材して治水効果を伝えていましたね」 また、柳瀬氏は最近の「流域治水」報道について危惧する。 「日本のマスメディアには、治水について専門的な知識を持つ記者が少ないのが現状です。2020年7月の令和2年豪雨を受けて、“流域治水”という言葉が急に大手メディアで取り上げられましたが、“流域”という言葉がまるで万能薬のように一人歩きして、報じられていることに危うさを感じます」

大地は雨水で尾根と窪地の地形になる

では今後、全国の河川で、鶴見川のように河川流域全体で治水を行うのには、何が必要なのか? 鶴見川の総合治水対策にかかわり、1990年代より「流域思考」を提唱してきたのが、慶應義塾大学名誉教授の岸由二氏だ。自らも「鶴見川流域ネットワーキング」の代表理事を務め、鶴見川流域の治水・防災・環境保全活動に取り組む岸氏に、話を聞いた。 ――まず岸先生が提唱されている「流域思考」とは、どういった考え方なのでしょうか? 岸氏: 鈴木さんは鶴見川の源流から河口までフィールドワークして、何を感じましたか?大地の表面は雨水でくぼんで、尾根に囲まれた窪地という共通な地形を持っているでしょう。これが流域です。流域思考とは、まずは大地を流域単位で考えて、物事をとらえていきましょうということです。 ――確かに河川に沿って移動すると、普段見慣れた町や丘陵が水系の流域であることを実感しました。流域思考をもとにした治水は、国土交通省や自治体が進めてきた従来の治水と何が違うのでしょうか? 岸氏: 従来の治水は、河川法、下水道法を根拠として、基本は国や自治体が行政区分に基づいて進めるもので、流域の都合、流域全体の合理的・総合的な治水対策ではなかったのです。

大規模水害の恐ろしさは忘れられない

――岸先生は幼少期、鶴見川下流の川辺の町で過ごされたのですね。 岸氏: 1950年代の子ども時代から1980年代半ばまで横浜市鶴見区で過ごしました。1958年の狩野川台風による戦後最大の氾濫から、1966年、1982年の大氾濫まで水害を経験しました。大規模水害の恐ろしさは経験したものでないと分かりません。 町全体が水没し、自宅も床上浸水にみまわれた水害を思い出すと、いまでも鳥肌が立ちます。貧しい下町は家屋のほとんどが平屋であり、水没は家財の喪失、命の危機でした。ふるさとの川、鶴見川の流域で、治水・減災・環境保全の市民活動を始めたのは、そんな体験があるからです。 ――鶴見川を源流から河口まで見ましたが、各自治体の連携無しに治水を行うことはできなかったと感じました。 岸氏: 鶴見川流域は戦後の都市開発があまりに早く、1970年代半ばには、すでに河川法、下水道法だけに頼る通常の治水方式ではどうにもならず、流域自治体の都市計画そのものの調整が必要になりました。 たとえば大規模な緑地の保全や調整池の設置は、河川法や下水道法では実行できず、自治体によるまちづくりの工夫と連携が必須だったのです。とはいえ、行政区域を超える課題について、自治体が連携するのは困難を極めます。 予算措置のある河川整備計画であっても、国、自治体が1つにまとまるのは難しいのに、ましてや予算措置の無い緑地や雨水調整地の確保を行うのは本当に至難の仕事でした。

国、自治体と住民の連携が治水に必要

――鶴見川はなぜそれができたのでしょうか? 岸氏: それは、国、自治体の危機感と、流域の住民・市民活動による連携に向けた様々な努力があったことに尽きると思います。鶴見川の総合治水は、国交省、神奈川県、東京都、町田市、川崎市、横浜市が関わっていて、それぞれがビジョンを共有することで、河川法、下水道法だけでは実行できない、緑地保全や調整地確保などの流域対策を可能にしたのです。 ――鶴見川は総合治水以降、氾濫を起こしていませんね。 岸氏: 総合治水スタート後、まだ遊水池が機能していなかった1982年に大水害がありましたが、それ以降大きな氾濫はありません。40年の総合治水で安全度は高まり、下流域は50年に1度の豪雨でも、ぎりぎり氾濫を起こさない程度の安全度を確保したかと思われます。 しかし、近年各地で発生している想定外の豪雨や、線状降水帯のような降り方では、まだまだ大氾濫する危険は高いのです。現在の河川整備の基本方針における計画降水は、150年に1度の規模であることを考えると、安全達成には程遠いのが現状です。

「流域」を学ぶ小学校の理科がスタート

――では鶴見川は今後、150年に1度の豪雨に対応するため、どのような治水対策をするべきですか? 岸氏: 下流ではすでに浚渫(川床を掘ること)も限界に近い。護岸の強靭化や地下放水路の工夫など課題が多いのですが、今後は上・中流区間のまちづくりと連携し、大規模な遊水地や調整池の検討が必要となりますね。また温暖化豪雨時代が到来し、巨大台風による東京湾からの高潮の襲来、さらに温暖化の海面上昇が重なれば、従来の枠組みを超えた、都市計画レベルでの抜本的な減災・防災対策も求められています。 ――こうした総合治水の動きは、今後全国で広がる可能性はあるのでしょうか? 岸氏: 残念ながら全国109の一級水系で、過去40年間、鶴見川型の総合治水が広がることはありませんでした。国や複数の自治体の連携というのは、いうは易いのですが、進めるのは難しいのです。 とはいえ、この6月に改訂された水循環基本計画は、全国すべての地域で、河川法、下水道法だけに頼らない流域治水を呼び掛けています。名称は異なりますが、実は国交省の提唱する流域治水は、鶴見川で実践されてきた総合治水そのものといってもいい。40年の総合治水の知恵から、全国の河川が学べる知恵はたくさんあると思っております。 ――横浜の日産スタジアムの“冠水”報道のように、治水システムについてメディアの知識不足だけでなく、国民全体の理解も進んでいないように感じます。 岸氏: 流域という概念は、日本の市民社会、法制、教育において、ほとんど普及していないのが現状です。希望があるとすれば、2020年4月から小学校4年の理科で、「雨水の行方と地面の様子」が学習課題としてスタートします。世界的にみても水・土砂災害が多発している日本列島において、その災害の枠組みを知る「流域」という概念を子どもたちが学ぶことは、ささやかながら突破口が開かれた思いです。 ――ありがとうございました。

“暴れ川”であった鶴見川を治めた先人の知恵を学ぶことが、水害の多い日本列島に生きる我々にとって最も必要ではないだろうか。 【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】

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