強権的な姿勢は改めよ 石木ダム計画 (長崎新聞の論説とコラム)
長崎県収用委員会が反対地権者13世帯の宅地を含む未買収地を明け渡すように地権者に求める裁決を出したことについて長崎新聞が論説とコラムで長崎県の強権的姿勢を厳しく批判しています。
論説 強権的な姿勢は改めよ 石木ダム計画
(長崎新聞2019年5月24日)
県と佐世保市が東彼川棚町で計画する石木ダムの建設予定地のうち、反対地権者13世帯の宅地を含む未買収地について、県収用委員会は地権者に土地を明け渡すように求める裁決を出した。これで建設に必要な全ての用地を強制収用することが可能になったが、地権者の反発は根強い。
中村法道知事は2月の会見で、2022年度のダム完成目標を念頭に「地権者の協力が得られれば、本体工事にも着手しなければならない時期と述べていた。しかし、そうした環境は依然として整っていない。県は強権的に事業を進める姿勢を改め、ダム計画に理解を得る努力を尽くさなければならない。
県は未買収地約12万6千平方㍍について、14~16年に土地収用法に基づき、明け渡し 裁決を県収用委に申請。そのうち農地約5500平方㍍は15年8月までに収用されたが、地権者は耕作を続けて事実上占有している。
今回裁決された約12万平方㍍では、ダム本体や貯水池の建設が予定されている。13世帯が現住する宅地や公民館などの共有地を含むだけに、地権者の抵抗は必至だ。
今秋の明け渡し期限後は、家屋などを取り壊して立ち退かせる行政代執行も可能になる。ただ、手続きを経たとしても、個人の、しかも13世帯もの財産を公権力が強制的に取り上げることの是非は厳しく問われなければならない。
実力行使に訴えて住民を排除するような展開は誰も望んでいない。1982年5月の強制測量では、県警機動隊が出動する事態となった。住民との対立を決定的にした県政の「負の歴史」を繰り返してはならない。
石本ダムは、75年の国の事業採択から40年以上が経過した。佐世保市への水道水供給と川棚川下流域の水害対策を目的としているが、人口減少による水需要の低下など事業環境は変化している。
反対地権者らが国に事業認定取り消しを求めた訴訟で、長崎地裁は昨年7月、ダムの 「公益性」を認める判決を出した。しかし、原告側は控訴し、福岡高裁で係争中だ。県と佐世保市に工事差し止めを求める訴訟も起こされている。
先の統一地方選の川棚町議選では、反対地権者がトップ当選した。ダムの必要性や、事業の進め方に疑問を抱いている人が少なからずいることを浮き彫りにした形ではなかっただろうか。
昨年2月の知事選を前に長崎新聞社が実施した有権者アンケートでは、石木ダムを「必要」と答えた人より「不要」とした人が多く、4割以上は「分からない」と回答していた。長年の県政の懸案であるこの事業が県民にどれだけ理解され、支持されているのか、県はいま一度見つめ直してほしい。 (小出久)
コラム「水や空」
(長崎新聞2019年5月24日)
脅すような態度を示すことを「すごむ」と言い、すごんで発する口上を「すご文句」と言う。脅すような意味はないのに、すご文句に思える言葉がある。「実力行使」がその例だろう。「実際の行動に出る」くらいの意味なのに、人を圧するような語感を含む
▲「実力行使」の4文字をかざすのと同じだろう。石本ダムの建設予定地のうち買収されていない土地について、明け渡すよう地権者に求める裁決を県収用委員会が出した。土地には反対地権者13世帯の宅地が含まれる
▲これで県は、ダム建設に必要な全ての用地を強制的に収用する、つまり取り上げることも可能になった。反対地権者は「脅しには屈しない」と反発を強めている
▲石木ダム事業で、県は37年前に強制測量という実力行使に出た。当時の新聞には、機動隊員140人が抵抗する住民を「ごぼう抜きして排除した」とある。これを境に反対運動は頑強になった
▲地権者が立ち退かず、それでもダムを造るとすれば、県は家屋を撤去し、住民を排除する という実力行使にまたも踏み切るしか手がない。そうなって「ぎりぎりの判断」をやむを得ない」といくら言っても、非難の声はやむまい
▲すご文句を発し、実力行使に突き進んだ後、行政の側に残るのは何だろう。「悔恨」の一語しか思い浮かばない。(徹)
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