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ダムの治水効果の幻想

2022年12月16日
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手持ち資料と最新データを使って、「ダムの治水効果の幻想」をスライド形式の報告でまとめました。

その報告を水源連のHPにアップしました。ダムの治水効果の幻想 2022年12月

その主な内容を下記に記しますので、長文ですが、お読みいただきたいと存じます。

スライドとの対応をスライド番号№で示しましたので、詳しい内容はスライドを見ていただきたいと思います。

今回の報告「ダムの治水効果の幻想」は次の三つで構成されています。

Ⅰ ダム偏重の河川行政が引き起こした鬼怒川水害、鬼怒川下流ではダムの治水効果は減衰していた

Ⅱ 2019年10月の台風19号で八ツ場ダムが利根川の氾濫を防いだという話は本当か?

Ⅲ ダム緊急放流の下流への影響は? 2022年9月の市房ダム(球磨川)緊急放流の下流への影響を検証する

 

Ⅰ ダム偏重の河川行政が引き起こした鬼怒川水害、鬼怒川下流ではダムの治水効果が減衰していた(スライド№2~23)

(1)2015年9月の鬼怒川下流の大氾濫(スライド№2)

2015年9月の「関東・東北豪雨」で鬼怒川下流部が大氾濫し、茨城県常総市などで多くの住宅等が全壊や大規模半壊などの被害を受けました。災害関連死と認定された12人を含む14人が死亡しました。

(2)鬼怒川ではダム優先の河川事業が行われてきた(スライド№3~5) 

鬼怒川では上流部に治水目的がある大型ダムが4基もあり、鬼怒川上流では屋上屋を架すように大型ダムが建設されてきました。最新の湯西川ダムは2012年に完成したばかりです。

4ダムの治水容量は八ツ場ダムの治水容量6,500万㎥の約2倍もあり、2015年の洪水ではルール通りの洪水調節が行われました。しかも、鬼怒川では4ダムの集水面積が全流域面積の1/3を占めています。

しかし、鬼怒川下流では堤防が決壊し、大規模な溢水がありました。ダムでは流域住民の安全を守ることができませんでした。

(3)国交省の報告書の数字を使って、2015年9月洪水における鬼怒川下流部でのダムの治水効果を検証する(スライド№6~10)

国交省の計算値を使って検証すると、上流4ダムの洪水調節は下流部では洪水ピーク流量4,180㎥/秒を4,000㎥/秒へ、約180㎥/秒、すなわち、5%弱引き下げただけでした。

一方、ダム地点の洪水ピークの削減量は2,000㎥/秒以上ありました。

このように、上流4ダムによる削減効果は下流では1/10以下へ低減していました。

(4)ダムによる洪水ピークの削減量が下流で激減する理由(スライド№11~13)

ダムによる洪水ピークの削減量が下流で激減する理由は次の二つが考えられます。

  1.  ダム地点の洪水ピークと下流部の洪水ピークの時間的なずれ

② 勾配がゆるい河道では河道での貯留効果が働いてピークの突出が小さくなり、ダム地点のピークカット量の効果も小さくなる

(5)2015年9月洪水では鬼怒川水系4ダムの一つ、川治ダムで緊急放流の危険性もあった(スライド№14~15)

2015年9月洪水では鬼怒川水系4ダムの一つ、川治ダムで緊急放流の危険性があって、日光市藤原地区の約140戸が一時避難しました。

(6)鬼怒川ではダム偏重の河川行政が行われ、河川改修がなおざりにされてきた(スライド№16)

近年では湯西川ダムに巨額の河川予算(1,840億円)が投入される一方で、河川改修の予算は毎年度10億円程度にとどめられてきました。

(7)鬼怒川氾濫は25㎞付近の大規模溢水と21㎞地点の決壊で起きた(スライド№17~20)

鬼怒川下流部の氾濫は若宮戸での大規模溢水(25.35km地点と24.75km地点)、上三坂の決壊(21km地点)で引き起こされました。

(8)鬼怒川水害訴訟(スライド№21~23)

2018年8月7日、国を被告として、住民らが「鬼怒川水害」国家賠償請求訴訟を提訴しました。

2022年7月22日、茨城県常総市の鬼怒川水害訴訟において国の責任を認める判決が水戸地裁でありました。水害裁判で国に賠償を命じる判決は極めて異例で、画期的でした。

しかし、上三坂の堤防決壊については国の瑕疵を認めておらず、このことについては全く合点がいかない判決でした。

原告の一部と国は2022年8月4日、国の責任を一部認めた水戸地裁判決を不服として東京高裁に控訴しました。東京高裁に舞台を移して、裁判での新たな闘いが始まりました。

 

 201910月の台風19号で八ツ場ダムが 利根川の氾濫を防いだという話は本当か?(スライド№24~33)

2019年10月の台風19号で試験湛水中の八ツ場ダムが利根川の氾濫を防いだという話が一部報道されましたが、それは事実でしょうか?

(1)八ツ場ダム治水効果の推測計算 利根川中流部の最高水位を17㎝下げただけ(スライド№24~32)

この洪水の八ツ場ダムの治水効果については国交省が計算結果を示していないので、国交省の過去の報告書のデータを使って本洪水への八ツ場ダムの効果を推測計算しました。

2019年10月から試験湛水が始まった八ツ場ダムでは、貯水量が10月12日9時から13日6時までに7,500万㎥も一挙に増加しました。そのことから、八ツ場ダムが大きな役割を果たした話が出回ったのですが、事実はどうでしょうか?

まず、2019年10月台風19号で、利根川中流部の最高水位は9.67mまで上昇し、計画高水位9.90mに近づきましたが、堤防高に対してまだ余裕があり、氾濫するような状況ではありませんでした。

国交省が2009年に行った詳細な計算結果によれば、栗橋の近傍地点(江戸川上流端)での八ツ場ダムの洪水最大流量の削減率は50年に1回から100年に1回の洪水規模では3%程度です。2019年10月台風19号洪水は50~100年の規模の洪水と考えられるので、この3%の削減率を使って、八ツ場ダムがない場合の本洪水の最高水位を計算します。

このデータから八ツ場ダムがない場合の本洪水の最高水位を推測計算すると、9.84mになります。

実績の9.67mより17㎝高くなりますが、堤防高との差は2m以上あり、八ツ場ダムがなくても、氾濫するような状況ではありませんでした。

このように、2019年10月の台風19号で八ツ場ダムが利根川の氾濫を防いだという話はフェイクニュースにすぎません。

利根川の水位が計画高水位の近くまで上昇した重要な要因として、適宜実施すべき河床掘削作業が十分に行われず、そのために利根川中流部の河床が上昇してきていることがあります。

(2)国交省による本洪水の八ツ場ダムの治水効果は未検証(スライド№33)

国交省は本洪水について7ダムの治水効果として八斗島地点で約1mの水位低下があったと発表しましたが、各ダムの効果は未検証としており、八ツ場ダムの効果も示していません。

 

Ⅲ ダム緊急放流の下流への影響は? 2022年9月の市房ダム(球磨川)の緊急放流を検証する(スライド№34~37)

上述の通り、鬼怒川水系4ダムと八ツ場ダムの例から見て、ダムの治水効果というものはダムの近くではあっても、下流に行くにつれて、次第に減衰し、ダムからの距離が大きくなると、かなり小さくなっています。

このことの裏返しの現象として、ダムの緊急放流の影響も下流に行くにつれて次第に小さくなっていくと考えられます。

(1)2022年9月中旬の台風14号における市房ダムの緊急放流(スライド№35)

2022年9月中旬の台風14号に伴う大雨により、球磨川の市房ダム(熊本県)で9月19日3時から緊急放流が2時間行われました。

(2)ダムの緊急放流の影響も下流に行くにつれて減衰(スライド№36~37)

この緊急放流の下流への影響がどうであったかを実績データで見ると、市房ダムより約9㎞下流の約24下流の一武(いちぶ)地点では市房ダム緊急放流による流量増加の傾向そのものが見られなくなっています。

下流でのダムの治水効果減衰の裏返しの現象として、ダムの緊急放流の影響も下流に行くにつれて次第に小さくなっていました。

 

Ⅳ 「ダムの治水効果の幻想」小括(スライド№38)

(1) 利根川水系鬼怒川では上流部に4基の大型ダムを建設するダム偏重の河川行政が進められてきました。2015年9月の鬼怒川水害では上流ダム群の治水効果は下流では大きく減衰しており、改修がなおざりにされてきた下流部で大氾濫が起きました。

(2) 2019年10月の台風19号で試験湛水中の八ツ場ダムが利根川の氾濫を防いだという話が一部報道されましたが、国交省の過去の報告書のデータを使って推計すると、利根川中流部に対する本洪水の八ツ場ダムの水位低減効果は小さなものでした。また、利根川中流部は当時、氾濫するような状況ではありませんでした。

(3) 2022年9月の市房ダム(球磨川)の緊急放流による下流への影響を国交省等のデータで検証すると、約24km下流の一武地点では市房ダム緊急放流に流量増加の傾向そのものは見られなくなっていました。ダムの治水効果減衰の裏返しの現象として、ダムの緊急放流の影響も下流に行くにつれて次第に小さくなると考えられます。

もちろん、ダムの緊急放流はダム下流の住民にとって恐ろしい現象ですので、その問題は別稿で述べることにします。

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