報道
浸水危険地での建築に許可制 「流域治水」関連法成立
流域治水関連法が今日〔4月28日〕、参院本会議で可決、成立しました。下記の記事の通りです。
この流水治水関連法が実際にどこまで有効に機能する法律になるのかはまだわかりません。
信濃毎日新聞の社説が指摘しているように、流域治水の推進において重視されるべきは計画策定への流域住民の参画であり、流域住民の合意です。
浸水防止区域を創設、住宅移転を促す 関連法成立
(日本経済新聞2021年4月28日 17:00)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA274BS0X20C21A4000000/
(写真)2019年の台風19号で千曲川の堤防が決壊して大規模浸水した長野市の市街地
大規模な水災にハード・ソフト一体で備えるための流域治水関連法が28日の参院本会議で可決、成立した。浸水の危険が高い地区を対象にした浸水被害防止区域を創設し、住宅や高齢者施設などの開発を制限する。安全な地区への移転も促し、災害に遭っても被害を軽減できるようにする。
河川法など9つの改正法が年内に施行する。気候変動の影響などで豪雨や洪水による被害が大きくなっていることを受け、堤防などのハード整備だけでなく、まちづくりや住民移転などを組み合わせて被害を軽減する「流域治水」を進める。
ソフト面では、都道府県が数十年に1度の豪雨を想定した浸水被害防止区域を新たに指定できるようにする。住宅や高齢者施設などの建築を許可制とし、安全基準を満たさない開発を抑える。集団移転を促す対象にも加え、安全な地区に居住者を誘導する。
氾濫が増える中小河川対策も強化し、管理する自治体に浸水想定区域の指定を義務づける。これまでは水害の危険があるのに住民に周知されていないケースがあった。
ハード対策では堤防などに加え、河川流域で雨水をためる土地や貯留施設などの整備を加速する。こうした施設の固定資産税を軽減したり、補助金を活用したりする。
「流域治水」関連法が成立 河川沿いを「貯留機能保全区域」に
(毎日新聞2021/4/28(水) 20:21)https://news.yahoo.co.jp/articles/a2b0bf10eee04da5943a01168268da38ba48ad04
自治体や企業、住民が協働して河川の流域全体で治水の実効性を高める流域治水関連法が28日、参院本会議で可決、成立した。浸水被害の危険がある地区の開発規制や避難対策が柱。今年11月までに順次施行する。
気候変動で降雨量が増加し、従来の堤防やダムで対応しきれない水害が多発していることから、河川法など関係する法律9本を一括で改正して抜本的な対策を講じる。河川の氾濫をできるだけ防ぎ、被害を最小限に抑えるなどの方策を充実させる。豪雨で氾濫するリスクが高い河川流域で貯水機能を持つ場所を整備し、住宅や福祉施設の建築を許可制とするなどの対策を進める。
貯水対策では、農地など河川沿いの低地を「貯留機能保全区域」に指定。盛り土などの開発行為は事前の届け出を義務づける。氾濫が起きやすい河川の周辺地域に住宅や高齢者福祉施設などを建てる際は許可制とし、都道府県などが居室に浸水深以上の高さがあるかや洪水で倒壊しない強度かを確認する。
高齢者福祉施設で適切な避難計画が策定され、訓練が行われているかを市区町村が確認し、施設管理者に助言、勧告することができる。民間ビルの地下に貯水施設を整備した場合に固定資産税を減免する規定も設けた。現在は大規模河川について市区町村が作成しているハザードマップを中小河川にも拡大する。国土交通省は2025年度までに1万7000の河川で作成することを目指す。【岩崎邦宏】
浸水危険地での建築に許可制 「流域治水」関連法成立
(中日新聞2021年4月28日 16時00分) https://www.chunichi.co.jp/article/244877
まち全体で水害を防ぐ「流域治水」関連法が二十八日、参院本会議で可決、成立した。浸水被害の危険が著しく高いエリアは許可なく住宅建築などができないようにする。ハザードマップ(避難地図)を大きな川だけでなく中小河川でも作成し、リスクを事前に周知。雨水を一時的にためる川沿いの低地を保全する仕組みも設ける。一部を除き十月末までに施行する。
気候変動でダムや堤防の能力を超える大雨が降るようになり、大規模な浸水被害が多発。河川法など九本の関係法律を一括で改正、開発規制や避難対策などを総動員、被害を最小限に抑えるまちづくりを目指す。
建築許可制とするのは、川幅が狭いなど氾濫が起きやすい河川の周辺。都道府県知事が区域指定し、住宅や病院、高齢者・障害者向け施設は、居室の高さや強度を確認した上で許可する。最近の豪雨は住宅で多くの死者が出ており、浸水や倒壊のリスクを減らす。
川沿いの水田などに雨水をためれば河川への流入量を減らせるため、指定エリアの開発行為は届け出制にする。民間ビルの地下に雨水貯留施設を設ける場合、費用を補助したり、税制面で優遇したりする。
〈社説〉流域治水法成立 住民の理解が欠かせない
(信濃毎日新聞2021/04/30 09:12) https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021043000156
ダムや堤防だけではなく、まち全体で水害を防ぐことを目的にした「流域治水」関連法が参院本会議で可決、成立した。
被害が起きやすい地域の住宅や病院などの建設を許可制にするほか、川沿いの低地を保全する仕組みをつくる。高齢者施設の避難体制も自治体がチェックしていく。
県内に大きな被害をもたらした2019年10月の台風19号災害など、気候変動でダムや堤防の能力を超える大雨が降るケースが目に見えて増加している。
既存の治水対策は限界にきている。上下流に関係なく、流域全体で川への流出量を抑制することが欠かせない。洪水に備え、被害を最小限にする方策も必要である。
流域治水の必要性は、数十年前から指摘されていた。それなのに、国や自治体は被害が顕在化するまでダムや堤防に頼った治水を続け、真剣に取り組んでこなかった。被害拡大に伴い、ようやく実現した政策の大転換である。
ただし、流域治水を進めるには課題が少なくない。
県内では田中康夫元知事の「脱ダム」宣言後に、ダムが計画されていた流域ごとに、自治体や住民が対策を議論した経緯がある。それでも前に進まなかった。
長野市の浅川流域では、必要とされた遊水地が確保できず、雨水を各家庭でためる貯留タンクの設置の補助制度も利用がなかなか伸びなかった。住民理解を得るのが簡単ではないからだ。
今回の関連法では、氾濫しやすい河川の周辺地域を知事が指定し、住宅などの新築時に居室の高さや強度をチェックする。浸水被害軽減に役立つ低地の水田などは開発を届け出制にする。対象地区では、住民の負担が増え、経済行為も自由にできなくなる。
台風19号災害を受け、国や県が遊水地整備を進めている千曲川流域では、優良な農地を失うことに抵抗感を示す地権者が少なくないという。地権者が100人以上となる計画地もあり、多くは今後の見通しが立っていない。
必要なことは、流域の住民や事業者、自治体が一体となって治水に取り組む環境をつくることだ。従来政策の限界を説明し、住民の財産と命を守るために何が必要なのか、自治体は丁寧に説明し、住民合意を得なければならない。
住民負担を資金面や税制面で軽減する対策も考えていく必要がある。遊水地の整備では、地権者が納得できる補償や代替地の確保も欠かせない。
稚アユの放流ピーク 球磨川 川辺川ダムの環境アセスはどうなるのか
球磨川での稚アユ放流がピークだという記事を掲載します。その下の記事は3週間前の記事ですが、「川をさかのぼる稚アユを捕まえて上流で放流する「稚アユすくい」が最盛期を迎えている」という記事です。
将来、もし川辺川ダムがつくられれば、球磨川におけるアユの生息はどうなるのでしょうか。
川辺川ダムはアユの生息など、球磨川の自然に大きな影響が与えるのですから、少なくとも、環境アセス法による川辺川ダムの環境影響評価を何年もかけて行わなければならないはずです。
今朝、熊本県球磨川流域復興局の担当者に電話して、川辺川ダムの環境アセスの手続きはどのような見通しなのかを聞きましたが、あいまいな返事でした。
川辺川ダムが流水型ダムになるならば、ダムの根拠法が特定多目的ダム法から河川法になって、新しく計画されるダムになり、環境アセス法施行後のダム事業となるのだから、環境アセス法の対象となることは必至であると説明しましたが、国がきめることだからというあいまいな返事でした。
昨年11月に蒲島郁夫・熊本県知事は環境アセス法に基づく川辺川ダムの環境アセスの実施を求めると明言したにもかかわらず、4月7日の衆議院国土交通委員会で国土交通省の水管理・国土保全局長は川辺川ダムは環境アセス法の対象外だと答弁しています。
蒲島知事はなぜ、黙っているのでしょうか。
稚アユの放流ピーク 球磨川
(西日本新聞2021/4/25 11:30 )https://www.nishinippon.co.jp/item/n/729162/
球磨川に放流される稚アユ
6月のアユ漁解禁を前に、アユ釣りの名所で知られる球磨川で稚アユの放流がピークを迎えている。球磨川漁協は23日、熊本県人吉市内の川岸から約3万2千匹を放流。稚アユは川の中へ勢いよく泳ぎだしていった。
アユの遡上(そじょう)を助けるため、漁協は下流で捕まえた稚アユや、天然アユから採卵して施設で育てたものを上流約30地点で放流している。この日は熊本市の施設で育てた稚アユを用意。タンク内からホースで一斉に放流した。
漁協によると、今年の放流予定数は約250万匹。昨年7月の豪雨の影響で産卵数の減少が心配されたが、成育は順調だという。 (中村太郎)
【動画】豪雨ニモ負ケズ、球磨川にアユ戻る
(西日本新聞2021/4/3 18:28) https://www.nishinippon.co.jp/item/n/717913/
球磨川堰の魚道で跳ねる稚アユ=熊本県八代市(撮影・佐藤雄太朗)
熊本県八代市の球磨川堰(ぜき)で、川をさかのぼる稚アユを捕まえて上流で放流する「稚アユすくい」が最盛期を迎えている。同堰では、ダムなどがアユの遡上(そじょう)を妨げるため、球磨川漁業協同組合が毎年春に捕獲し、人吉市など約30カ所で放流する。前年の捕獲量は19万匹だったが、今年は3月末までに80万匹と大幅に増えた。昨年の熊本豪雨で球磨川堰上流にあるダムが開放され、多くのアユが下流域に向かったことなどが原因の一つとみられる。
堀川泰注組合長(73)は「アユは球磨川の象徴。豪雨の影響で今年はだめかもと言われていたが、想像以上に戻ってきたのでうれしい」。作業は4月末ごろまで続く。(佐藤雄太朗)
国交省中間報告案「科学的正確性欠く」 静岡県が意見書送付【大井川とリニア】
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静岡県は昨日(4月23日)、リニア中央新幹線工事に伴う大井川の流量減少問題を議論する国土交通省専門家会議で示された中間報告案は「科学的・工学的に正確性を欠いている」とする意見書を同省鉄道局に送付しました。その記事を3点掲載します。
この意見書は静岡県のHPに掲載されています。
静岡県のHP
リニア中央新幹線建設工事に伴う環境への影響に関する対応 http://www.pref.shizuoka.jp/kankyou/ka-020.html
リニア中央新幹線静岡工区有識者会議 http://www.pref.shizuoka.jp/kankyou/ka-020/rinia/kokkousyouyuusikisyakaigi.html
有識者会議の運営に係る動き
2021年4月23日
「第11回リニア中央新幹線静岡工区有識者会議」において提示された中間報告(案)について、県の意見を国土交通省へ提出 http://www.pref.shizuoka.jp/kankyou/ka-020/rinia/documents/20210423iken.pdf
「リニア中央新幹線建設工事に伴う環境への影響に関する対応」のサイト http://www.pref.shizuoka.jp/kankyou/ka-020.html はいろいろな情報が入っていますので、是非、ご覧ください。
国交省中間報告案「科学的正確性欠く」 静岡県が意見書送付【大井川とリニア】
(静岡新聞20201年4月24日) https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/892427.html?lbl=542
静岡県は23日、リニア中央新幹線工事に伴う大井川の流量減少問題を議論する国土交通省専門家会議で示された中間報告案に関し「科学的・工学的に正確性を欠いている」などとする意見書を同省鉄道局に送付した。次回の会議で本格的に議論される中間報告案に、意見書の内容を反映するよう求めている。
意見書は、①大井川の水利用の実態を踏まえていない②掘削時に起きる現象を重視していない③一定条件の予測で影響を断定している―の3項目。
これまでの会議では地質構造などのデータ不足が委員から指摘された。JR東海が作成した資料には、地質構造などがJRの想定と異なる場合に中下流域の水が減る可能性があると記されている。ところが、中間報告案は「(JRの想定では)下流側では河川流量は維持される結果となった」と断定する一方、中下流域の減水可能性を明記していない。
県は意見書で、中間報告案の別項目に「トンネル湧水量や突発湧水等が不確実性を伴う」との記載があると反論。不確実性を考慮した上で、どのような現象が起きるのかを記すよう求めた。
また「利水関係者が互譲互助の精神で何とか水利用を調整している実態を理解したものとなっていない」とも指摘し、過去20年間に22回の取水制限を行ったことを盛り込んだ。
ただ、専門家会議の議論については「想定されるリスクについて対話できるようになってきている」と評価する文言も入れた。
リニアの行方 有識者会議 中間報告案 知事選争点に浮上 副知事「記述に問題多い」 /静岡
(毎日新聞静岡版 2021/4/24) https://mainichi.jp/articles/20210424/ddl/k22/020/151000c
未着工のリニア中央新幹線南アルプストンネル静岡工区を巡り、国土交通省の有識者会議(座長、福岡捷二・中央大研究開発機構教授)で公表された中間報告案が注目されている。リニア問題が知事選(6月3日告示・20日投開票)の争点に浮上する可能性があるからだ。有識者会議の初会合から27日で1年。中間報告は大井川の水に関する議論を総括したものになり、県とJR東海の今後の話し合いに大きな影響を与える。【山田英之】
4選を目指して立候補を表明した現職の川勝平太氏(72)は、静岡工区の着工を認めていない。大井川の水や南アルプスの自然環境を守る姿勢を鮮明にしている。自民党県連は対立候補として、リニアを所管する国交省の副大臣を務める参院議員、岩井茂樹氏(52)の擁立を目指す。自営業の石原義裕氏(64)も出馬する意向だ。
川勝氏はリニア整備そのものに反対していない。国交省もリニアの早期実現と、水や自然環境への影響回避・軽減を両立させる方針だ。考え方にあまり違いはないように見えるが、水と環境の保全を重視するか、早期開通を重視するかで着工時期が大きく変わる。
4月17日にあった第11回有識者会議で、福岡座長は中間報告案の修正を事務局の国交省に指示した後、「私たちがどういう立場でJRを指導、助言してきたか原案を示して、次回はそれを中心に議論したい」と言って会議を締めくくった。
終了後、知事選との関係を問われた国交省の江口秀二・大臣官房技術審議官は「我々は科学的・工学的な観点から議論する。政治の話は別世界。選挙とは別次元でやる」と答えた。
中間報告案は有識者会議が条件付きで「リニアのトンネル工事をしても大井川の水への影響は小さい」という結論に傾いているように読める表現になっている。掘削でトンネル内に湧き出る水の県内への全量戻しが実現しない点についても、静岡工区内で同時期に発生する他の湧水(ゆうすい)を大井川に戻せば、「湧水が県外流出した場合も、椹島(さわらじま)地区(静岡市北部)付近より下流側の河川流量は維持される」と断定する。
これに対して、難波喬司副知事は記者会見で「中間報告案はかなり驚いた内容になっている。記述に問題が多々ある。我々の指摘が全く受け止められていない。科学的な詰めは相当されたが、合意に達する内容かは別評価だ」と述べ、県の考え方と中間報告案の内容に溝があることを明確にした。
県、疑問点示し国へ文書
未着工のリニア中央新幹線南アルプストンネル静岡工区を巡り、県は23日、有識者会議で公表された中間報告案の疑問点を示した文書を事務局の国土交通省に提出した。
中間報告案の疑問点として、大井川の水は流域の住民生活や産業に欠かせない命の水であり、取水制限を繰り返して慢性的な水不足に悩まされている現状の記述がない▽(トンネル湧水(ゆうすい)を大井川に戻すために建設する導水路の出口がある静岡市北部の)椹島(さわらじま)地区付近の流量だけで、それより下流の流量を論じるのは科学的・工学的な正確性を欠く――などを挙げた。県は中間報告の取りまとめに慎重な検討を求めた。【山田英之】
リニア中間報告案に疑問点記す意見書 国交省に県
(朝日新聞2021年4月25日 11時00分
滋賀・大戸川ダム建設凍結解除へ 治水効果の検証課題
1淀川水系の大戸川ダムの凍結解除についての記事を二つ掲載します。
4月18日の記事で宮本博司さんが「大戸川ダムの治水効果は限定的だ」と指摘する。「整備局は計画高水位を1センチでも超えると危険というが、大阪市内でも堤防の上端までまだ3.2メートルの余裕がある。1080億円かけたダムで20センチの水位を下げることにどれだけ意味があるのか」と語っています。
その通りです。無意味なダムがまた推進されようしています。
そのように無意味なダムを推進しているのが4月19日の記事にある三日月大造・滋賀県知事です。このような人が2009年からの民主党政権でダム検証担当の国土交通省政務官でした。
滋賀・大戸川ダム建設凍結解除へ 治水効果の検証課題
(日本経済新聞2021年4月18日 4:00)https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF121600S1A410C2000000/?unlock=1
建設計画が2度にわたって凍結された大戸川(だいどがわ)ダム(大津市)が再び凍結解除に向けて動き出した。相次ぐ豪雨災害を受け、地元の滋賀県など大戸川を含む淀川水系の流域6府県すべてが容認に回った。下流の大阪や京都での氾濫を防ぐ役割も期待されるが、事業を進めるには治水効果の十分な検証が欠かせない。
「大戸川ダムの整備を行う」。国が示した112ページに及ぶ「淀川水系河川整備計画(変更原案)」には2009年の整備計画にはなかった文言とともに、大戸川ダムの概要などを記した図が加えられた。河川整備計画に総事業費1080億円にのぼるダム建設を明記する変更手続きが進む。
淀川水系は瀬田・宇治川、木津川、桂川の3本の大きな支流が京都府内で一度に合流し、大阪湾に注ぐ。国が多目的ダムとして大戸川ダムの建設を計画したのは1968年だが、2005年に水需要の減少で計画がストップした。07年に治水専用ダムに転換する原案が出された後、全国的に公共事業に対する厳しい見方が強まった。08年に大阪、京都、滋賀、三重の4府県知事が建設反対で合意すると、翌年にダム本体工事の2度目の凍結が決まった。
今回の凍結解除への転換点は滋賀県が18年に立ち上げた「今後の大戸川治水に関する勉強会」だ。三日月大造知事は「水害の頻発に加え、県議会から(ダム着工を求める)決議もあり、次の段階の対策を考えるべき時期だった」と振り返る。勉強会は想定を上回る豪雨に対して大戸川流域の被害軽減や琵琶湖の水位上昇の抑制に、ダムは有効と結論づけた。
三日月知事は民主党の衆院議員だった際、「コンクリートから人へ」と訴えた同党政権の国土交通副大臣として全国のダム事業の検証に関わった。「すべてのコンクリートがダメなのではなく、ダム事業を中止にする基準と手続きをつくることが使命だった。検証して必要なら進めるべきだ」と説明する。
近畿地方整備局は20年7月、大戸川ダムの治水効果の試算を示した。13年の台風18号と同等の豪雨があった場合、大戸川ダムがあれば大阪府枚方市の地点で淀川の水位を20センチ低下させる効果があり、洪水のリスクが下がると試算。一方で淀川が大阪市内で決壊すれば9兆円、京都市内なら3兆円の被害が見込まれるとした。これを受けて大阪府や京都府が建設容認に転じた。
ただ異論も根強い。かつての淀川河川事務所長で、国の第三者機関の淀川水系流域委員長も務めた宮本博司氏は「大戸川ダムの治水効果は限定的だ」と指摘する。「整備局は計画高水位を1センチでも超えると危険というが、大阪市内でも堤防の上端までまだ3.2メートルの余裕がある。1080億円かけたダムで20センチの水位を下げることにどれだけ意味があるのか」。堤防には上端まで浸水対策が施してあり、堤防は容易には決壊しないという意見だ。
近畿整備局が3月末に予定した6府県での公聴会のうち、通常通り開かれたのは滋賀のみ。大阪と京都は新型コロナウイルスのためオンラインで開催。他の3県では公述人の応募がなく開かれなかった。コロナ禍が議論の制約となるなか、河川整備計画の変更に向けて着々と手続きが進む。
近年水害が相次ぎ、濁流がまちをのみ込む光景は大きな衝撃を与える。ただ多大な税金をつぎ込む公共事業を進める以上、慎重な議論が求められる。科学的な根拠を誰にでも分かるようにかみ砕いて、幅広く議論する姿勢まで押し流されてはいけない。
(大津支局長 木下修臣)
滋賀・三日月知事「大戸川ダム、琵琶湖などに治水効果」
(日本経済新聞2021年4月19日 4:00) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF144L70U1A410C2000000/?unlock=1
滋賀県の大戸川(だいどがわ)に治水ダムを整備する国の計画が凍結解除に向かって動き出した。転換点になったのは同県の「今後の大戸川治水に関する勉強会」が同ダムに一定の治水効果があると認めたことだった。三日月大造知事に検証の経緯やダムの必要性を聞いた。
――3年前に大戸川ダムを検証する県の勉強会を開いた理由は何ですか。
「全国各地で水害が頻発しており、治水対策の見直しは避けられない。2008年に滋賀や大阪、京都、三重の当時の知事が大戸川ダムの建設凍結で合意したとき、ダムよりも優先すべきだとした淀川流域の改修工事も進んできた。県議会からも(早期着工を求める)決議があり、次の段階の治水を考えるべき時機が来ていた」
――大戸川ダムが必要な理由は何ですか。
「勉強会では学識経験者を招き、13年の台風18号や西日本、九州北部などで起きた4つの豪雨を当てはめて検証した。大戸川流域では氾濫を抑制したり、遅らせて避難の時間を稼いだりする効果が確認できた。琵琶湖の水位上昇を抑える効果もある。大戸川ダムに水をためられれば、下流にある天ケ瀬ダム(京都府宇治市)の貯水量に余裕ができ、琵琶湖からの水を流しやすくなる。ダムの治水効果は小さくなく、ソフト対策と組み合わせていくべきだと結論づけた」
「琵琶湖の出口である瀬田川の洗堰(あらいぜき)を豪雨時に閉めることは、滋賀県民にとって相当なストレスだ。下流の洪水を防ぐためと言っても、琵琶湖に流れ込む多くの河川の水があちこちであふれる。17年の台風21号のときも(国が)洗堰を1時間半にわたって全閉操作し、琵琶湖の水位が基準水位から64センチも上がった。近江大橋から見ていて琵琶湖の形がいつもと違うと感じた」
――民主党政権で国土交通副大臣などを務めた際、ダム事業の見直しにどう関わりましたか。
「当時はマニフェストに八ツ場ダム(群馬県)や川辺川ダム(熊本県)を中止すると書いて国民の信任を得た。ただ100以上あるダム事業を中止するには理屈に基づく検証がいる。河道の掘削や堤防のかさ上げなど、ダム以外の方法を含めて複数案を比較した。時間や財政の視点も加えた。その結果、継続したものもあれば、中止も事業縮小もあった」
「『コンクリートから人へ』というキャッチフレーズは子ども手当や高校無償化の財源を捻出するために予算を振り向けるという意味だ。すべてのコンクリートがダメなのではなく、ダム事業を中止する基準と手続きをつくることが私の使命だった。私自身、民主党政権時から大戸川ダムに予断をもっていたわけではない。手続きに従って検証し、必要となれば進めるべきだ」
――河川整備計画にダム建設が明記されたとしても、調査・設計に4年、建設に8年かかる見通しです。
「大きな事業、特に大戸川ダムのように複雑な経緯を持つ事業は丁寧に手続きを進めるべきだ。だが、必要と言っている側からすると早く進めてほしい。豪雨は待ってくれない。遅れれば遅れるほど、災害リスクにさらされる期間は長くなる。駅伝のたすきと同じで、県政を任された期間に一歩でも前進する。ダムですべてが解決するわけではないが、必要なものはできるだけ早く備えておきたい」
(聞き手は大津支局長 木下修臣)
石木ダム 付け替え道路工事 「強行」と抗議文 市民団体が県に提出
石木ダムの付け替え道路工事の「強行」への抗議文を市民団体が長崎県に提出しました。その記事とニュースを掲載します。
石木ダム「工事強行に抗議」 市民団体
(朝日新聞2021年4月1日 10時00分)
石木ダム 付け替え道工事 「強行」と抗議文 市民団体が県に提出
(長崎新聞2021/4/1 12:12) https://this.kiji.is/750191782660833280?c=39546741839462401
石木ダム建設に反対する長崎市の市民団体「石木川の清流とホタルを守る市民の会」の西中須盈(みつる)代表世話人ら11人が31日、県庁を訪れ、県が県道付け替え道路工事を「強行」しているなどとして、中村法道知事宛の抗議文を提出した。
4月1日付で県河川課長に就く同課の松本憲明企画監らが対応した。同団体は昨年5月と12月、工事を中断し地元住民との公開討論会を開くよう求める質問状を提出。求めた文書回答がないなどとして抗議した。
メンバーらは「住民の平穏な生活を奪っている」「(石木ダムが計画された)50年前とは状況が変わっている。一度立ち止まるべき」などと主張。松本企画監は「意見は知事に伝えたい」と答えた。
石木ダム本体工事 2020年度内着工せず 中村知事は話し合い模索
(長崎新聞2021/4/1 13:00) https://this.kiji.is/750193629933125632?c=174761113988793844
付け替え道路工事現場で座り込みを続ける反対住民ら=31日、川棚町
長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業で、県は31日、2020年度に予定していた本体工事の年度内着工を見送った。ダム本体両端上部の斜面を掘削する工事で、昨年12月に本体工事として初の入札を実施。測量など準備を終えているが、反対住民との話し合いを模索する中で着工に至っていない。3月26日までとしていた工期は既に6月末まで延長している。
同事業では全用地の所有権が県市に移っている。水没予定地に暮らす13世帯の反対住民の家屋を強制撤去する行政代執行も可能だが、中村法道知事は「円満に土地を明け渡してもらうのが最善」として話し合いを模索。年度内着工について「住民は話し合いの前提として工事の中断を求めている。そういった状況などを総合的に考慮しながら判断していく」としていた。
県は話し合いに向けて検討しているが、めどはついていない。建設予定地では、工期を6月末まで延長した県道付け替え道路工事が続く。31日も反対住民らが抗議の座り込みをした。
県は座り込み場所の周辺約140メートルの区間を避けて工事を進めていたが、2月に入って動きが活発化。土のうや柵を設置して住民らの重機への接近を防ぎ、座り込み場所を両側から挟み込む形で徐々に盛り土作業を進めた。座り込み場所は10メートルほどに狭まっている。
夜遅くまで現場に待機する日もあり、住民らの顔には疲労の色もにじむ。岩本宏之さん(76)は「本体工事に入ろうが、付け替え道路を進めようが、私たちが住んでいる限りダムは完成しない。力と脅しでしか解決できない公共事業があっていいのか」と話した。
「住民との対話を事実上拒否している」石木ダム建設に反対する市民団体が長崎県知事宛てに抗議の声明文
長崎県と佐世保市が関連工事を進めている石木ダムについて、市民団体が抗議の声明文を知事に提出しました。
長崎県庁を訪れたのは、「石木川の清流とホタルを守る市民の会」です。
東彼・川棚町では、ダム建設に伴って水没する県道の付け替え道路の工事が進められています。
住民などの座り込みで工事は完了しておらず、長崎県は工期の延長を決めています。
市民団体は「住民との対話を事実上拒否し続け、工事を強行している」として、中村 知事に対する抗議の声明文を提出しました。
石木川の清流とホタルを守る市民の会 西中須 盈 代表世話人 「(長崎)県知事は石木ダム事業を見直す勇気をもってほしい」
応対した長崎県河川課の担当者は、「意見は知事に伝え、回答するかどうかも含め検討する」と答えるにとどめました。