石木ダムの情報
各都市で進行する水道用水の減少、佐世保市が架空予測を続ける真の理由
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最近、某所で石木ダムが利水治水の両面で必要性が失われているという報告をする機会がありました。(嶋津暉之)
「減り続ける佐世保市水道の給水量 石木ダムは利水治水の両面で必要性が希薄」
https://suigenren.jp/news/2022/04/15/15995/
利水の面では下記の佐世保市のグラフを示し、水需要(一日最大給水量)の実績が減少の一途をたどるようになってきているのに、佐世保市が実績とかけ離れた架空予測を行って石木ダムの水源が必要だとしているおかしな実態について報告しました。
この報告について二つの質問がありました。
(1) 水道用水の需要が減ってきているのはなぜか。佐世保市のみに見られる現象なのか。
(2) 佐世保市が水需要の実績とかけ離れた架空の水需要予測をなぜ続けるのか。
それぞれについて下記の通り、説明しました。
(1)について(水道用水の近年の給水量の減少傾向は、日本の各地で見られる現象であって一極集中が進む東京都の水道も例外ではない。)
水道用水の需要の減少傾向は近年、日本の各都市で見られる現象です。漏水防止対策の推進、節水機器の普及、節水意識の浸透などによって水道用水の需要が明確な減少傾向を示すようになりました。
日本で一極集中が進む東京都の水道用水も例外ではありません。東京都は今年はコロナ禍により、人口が少し減りましたが、昨年までは人口が増加の一途を辿ってきました。
その東京都について下記の東京都のグラフを示し、近年は確実に水需要が減ってきています。1992年度には600万㎥/日を超えていましたが、その後はどんどん減って2020年度は461万㎥/日まで下がりました。この間の減少率は25%にもなっています。
なお、この東京都は下記のグラフの通り、利根川・荒川水系のダム等の水源開発事業に貪欲に参画してきたため、大量の余剰水源を抱えています。2020年度の八ツ場ダムの完成で東京都は現在、270万㎥/日以上という極めて大きな余剰水源を保有しています。使いもしない大量の余剰水源は何の意味もないのですが、関東地方でもこのように全く無駄な水源開発事業が続けられてきています。
このように水道用水の需要の減少傾向は日本の各地で見られる確実な現象になってきているのですから、その事実を踏まえて予測を行うのが当たり前のことであるにもかかわらず、佐世保市は、実績を無視した架空予測を続けているのです。
(2)について(ダムができれば、架空予測は用無し(札幌市と神奈川県営水道の例))
佐世保市が水需要の実績を無視した架空予測を続ける理由は、石木ダム事業にあります。
このことに関して二つの実例を示します。
札幌市の例
当別ダム(貯水容量745万㎥)は北海道が建設したダムで、2012年度に完成しました。
札幌市水道がこの当別ダム事業に参画しました。当別ダムが完成するまでは札幌市水道は給水量がどんどん増えるので、下記のグラフの通り、当別ダムの水源が必要だとしていました。
ところが、同グラフの通り、当別ダム完成後の札幌市水道の予測は大きく変わりました。新予測は給水量が漸減していくというもので、2035年度の一日最大給水量は従前の87万㎥/日から62万㎥/日へと、25万㎥/日もの大幅な方修正を行いました。
札幌市水道は当別ダムの完成により、架空予測を続ける理由がなくなったので、臆面もなく、実績重視の予測に切り替えたのです。
神奈川県営水道の例
神奈川県営水道は国土交通省の宮ケ瀬ダム事業に参画しました。宮ケ瀬ダム(貯水容量19300万㎥)は2000年度に完成しました。
宮ケ瀬ダムが完成するまでは神奈川県営水道は下記のグラフの通り、水需要がどんどん伸びるから、宮ケ瀬ダムの水源が必要だとしていました。ところが、宮ケ瀬ダムが完成すると、がらりと変わりました。水需要は今後は減っていく予測になったのです。
宮ケ瀬ダムの水源が必要ということを言う必要性がなくなったので、神奈川県営水道の水需要予測は、同グラフの通り、実績重視の予測に変ったのです。
この二つの例を見れば、佐世保市が水需要の実績を無視した架空予測を続ける理由は、石木ダム事業にあることは明白です。
石木ダムの水源が佐世保市に必要であるとするために架空予測を続けているのです。石木ダム事業がなければ、佐世保市もまともな予測に変わるに違いありません。
減り続ける佐世保市水道の給水量 石木ダムは利水治水の両面で必要性が希薄
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3月で2021年度が終わりましたので、佐世保市水道の2021年度の一日最大給水量がどうであったかを知るため、佐世保市に対して2021年度の毎日の給水量について情報公開請求を行いました。
昨日、そのデータが届きましたので、2021年度までの一日最大給水量の動向のグラフを早速描いてみました。
減り続ける佐世保市水道の給水量(利水面で石木ダムは不要に)
佐世保市水道の一日最大給水量の動向は下図の通りです。2021年度の一日最大給水量は69,901㎥/日で一段と小さくなりました(一日最大日は2021年12月31日)。
2000年度前後の一日最大給水量は10万㎥/日程度ありましたが、その後はほぼ減少の一途を辿るようになり、今は7万㎥/日程度になりました。
佐世保市の水需要予測では2020年度以降は一日最大給水量が10万㎥/日を超え、10.7万㎥/日程度になるから、石木ダムの水源約4万㎥/日が必要だということになっています。
しかし、一日最大給水量の実績は下図の通り、減り続け、現在は7万㎥/日程度になりました。予測値との差は3万㎥/日以上に拡大しています。
なお、佐世保市の水道水源は許可水利権の他に慣行水利権も加えると、10万㎥/日程度あります。
このグラフを見れば、石木ダムの新規水源が佐世保市にとって必要であるはずがありません。利水面で石木ダムは無用のものになってきているのです。
治水面でも石木ダムは必要性が希薄
一方、石木ダムは治水面での必要性も希薄なダムです。1/100洪水に対応するために石木ダムが必要とされています。
下図の通り、石木ダムより下流の川棚川の流域面積は7.14㎢で、全流域面積81.44㎢の8.8%です。
そのうちの大半を占めるのは下図の通り、川棚町市街地の公共下水道計画区域と、川棚大橋下流の最下流域です。
前者は内水はん濫による1/1O降雨の計画対象区域ですから、雨量規模が1/10を上回れば、内水はん濫で溢れる危険性が高まります。
後者は港湾管理者の管理区間であるということで、低い堤防がそのまま放置されており、堤防整備の計画も示されていません。
したがって、1/100洪水に対応するために石木ダムが必要とされていますが、公共下水道計画区域と、川棚大橋下流の最下流域はもっと小さい規模の洪水で溢れる危険性が高いのです。
川棚川下流域の治水対策として必要とされていることは「内水氾濫の危険性の高い公共下水道計画区域について内水氾濫対策を充実すること」と、「川棚大橋下流の港湾管理者管理区間の低い堤防を嵩上げすること」です。
このように石木ダムよりはるかに重要な治水対策があるのに、長崎県はもっぱら石木ダム事業の推進に力を注いでいるのです。
必要性が希薄な石木ダムの建設中止を!
以上の通り、石木ダムは利水面でも治水面でも必要性が希薄なダムです。
ダム予定地に住む13世帯約50人の人たちの生活が守るために、必要性が希薄な石木ダムの建設を中止させましょう。
長崎・石木ダム予定地で工事ストップ求める「人間の鎖」
11月25日は全国から支援者ら約230人が石木ダム建設予定地に集まり、「人間の鎖」を行い反対を行動で示しました。その記事とニュースを掲載します。
頼もしい人たちですね。
長崎・石木ダム予定地で工事ストップ求める「人間の鎖」
(朝日新聞2021/11/25(木) 21:00)
「石木ダムは必要ない」反対集会で人間の鎖【長崎県川棚町】
(テレビ長崎2021年11月25日 木曜 午後7:20)https://www.fnn.jp/articles/-/276009
(映像あり)
東彼杵郡川棚町で建設が進む石木ダムを巡り、建設に反対する住民や支援者などが建設予定地で、ダム建設反対を訴える集会を開きました。
集会には、地元住民や支援団体など長崎県の内外から200人以上が参加しました。
長崎県は2021年9月からダムの本体工事を進めていて、11月からは県道の付け替え道路工事の新たな工区の整備にも着手しています。
重機の音が聞こえる中、参加者は「石木ダムは必要ない」「県知事は住民と対話を」などと思いを述べたあと、体をリボンでつなぐ人間の鎖で建設反対への意思を表しました。
ダム建設予定地の住民 炭谷 猛 さん 「今の状況では石木ダムは必要がないということを分かっている人が多いからこそ、こうして来られている。これからさらに(規模が)大きくなってくると思う」
参加者は、地元住民などが座り込みをしている場所も訪れ「木が切り倒され、以前とは全く違う」と現地の変化に驚きの声を上げていました。
長崎県 石木ダム反対住民・市民らが「人間の鎖」で抗議
(長崎放送2021/11/25(木) 18:44) https://news.yahoo.co.jp/articles/e552ff5f5fe537e6fbf9d2a72dcdcb3f5adb76eb
長崎県川棚町に計画されている石木ダムをめぐり、建設に反対する住民や市民ら200人あまりが25日、現地で水没予定地を「人間の鎖」で囲み工事の中止や計画の見直しを訴えました。 市民らおよそ230人が参加して人間の鎖を作り、住民との話し合いをしないまま今年9月に本体工事をはじめるなどダム建設を進める長崎県に抗議しました。 25日は4人の国会議員も参加。川棚町が選挙区で先の衆院選で当選した山田勝彦議員もダム見直しを訴えました。
山田議員「石木ダムの公共性については、もはや再検証が必要な時ではないか。地権者の皆さんの人権を第一に守るべき」 ダム反対住民の炭谷 猛さん「行政のやり方がおかしい。今の状況で石木ダムが必要ないんだということをみんながわかっている人が多いからこそこうして来られたし、今からでもどんどん大きくなっていくものと思います」 集会のあと参加者はダムに関連した道路工事現場で1000日以上抗議の座り込みを続けている地元住民らを激励しました。
石木ダム予定地で抗議集会 衆院議員ら230人超参加
(西日本新聞2021/11/26 11:30) https://www.nishinippon.co.jp/item/n/837431/
ピンク色のテープを持つ「ニンゲンの鎖」でダム建設に抗議する参加者たち
石木ダム建設に反対する地元住民らでつくる「100人座り込み実行委員会」(炭谷猛委員長)は25日、川棚町川原地区の建設予定地で抗議集会「石木ダムを止めよう 100人あつまれ!川原の里へ」を開いた。住民や支援者、立憲民主党の衆院議員や共産党の県議など230人以上が参加した。
集会では、参加者が1人ずつマイクを持ち演説する「リレートーク」や、参加者が一列に並んでピンクのテープを手につくる「ニンゲンの鎖」を実施。参加者全員で、「石木川の清流を子どもたちに手渡したい」「川原の暮らしを守ります」などと「まもりびと宣言」を読み上げた。
炭谷委員長は「多くの人に集まってもらえてありがたい限り。これからの闘いの第一歩。今後はもっと500人、千人と人を集め、建設中止を訴えたい」と話した。 (才木希)
「石木ダムは要らない」 反対派が“人間の鎖 ”で抗議 川棚・川原地区
(長崎新聞2021/11/26(金) 11:00)https://news.yahoo.co.jp/articles/ddc773cc699daf0132a3a1d8e3b215664070084b
「人間の鎖」をつくって石木ダム建設に抗議する集会参加者=川棚町岩屋郷
長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダムの水没予定地・川原(こうばる)地区で25日、建設反対を訴える集会「100人あつまれ!川原の里へ」があり、地元住民や支援者、国会議員ら計約230人が抗議の声を上げた。
住民や支援者らでつくる実行委が主催。他県のダム反対運動に取り組む人らも集まった。
石木ダムを巡っては2年前、川原地区住民の宅地を含む全ての用地が土地収用法に基づく明け渡し期限を過ぎたが、現在も13世帯が生活し、家屋撤去を含む行政代執行が可能な状況。県側は今年9月から本体工事に着手した。集会参加者は工事現場に向かって並び立ち、リボンで手をつないだ「人間の鎖」をつくり「ダムは要らない」とシュプレヒコールを上げた。
山田勝彦、末次精一両衆院議員(立憲民主党、比例九州)も参加。元滋賀県知事の嘉田由紀子参院議員(無所属、滋賀選挙区)は「科学的なデータを積み上げ、石木ダムの不要性を訴えよう」と呼び掛けた。
実行委の代表を務めた川原地区住民で、川棚町議の炭谷猛氏は取材に「石木ダム事業への疑問や反対を訴える多くの民意があることを示せた。今後この声は大きくなっていくと思う。さらに人数を集め、運動を発展させたい」と話した。
石木ダム ピンクリボンで「人間の鎖」 反対集会、全国から250人 /長崎
(毎日新聞長崎版 2021/11/26) https://mainichi.jp/articles/20211126/ddl/k42/040/322000c
県と佐世保市が川棚町に建設を進める石木ダムに反対の意思を示す集会「石木ダムを止めよう 100人あつまれ!川原(こうばる)の里へ」が25日、ダムの水没予定地であり、全国から約250人が参加した。建設にまい進する県を批判し、財産権を奪われても建設反対を続ける水没予定地の住民にエールを送った。【綿貫洋】
「石木ダム建設に反対する川棚町民の会」などでつくる「100人座り込み実行委員会」の主催。八ッ場ダム(群馬県)に反対してきた市民グループや野党の国会議員らが駆けつけた。
参加者が交代でマイクを握るリレートークで、千葉県の女性は「川原に平穏な、当たり前の暮らしが戻るよう持続可能な社会を目指さなければならない」と指摘。元滋賀県知事の嘉田由紀子参院議員は、同県でダム建設を中止した事例を挙げ「科学的データを積み上げて石木ダムの不要性を訴えていく」と述べた。
石木ダム本体工事を進める重機の音が響く中、参加者全員がピンクのリボンでつながる人間の鎖を作り、「川原の里山を守る」ことなどを盛り込んだ「まもりびと宣言」を採択した。
実行委員長の炭谷猛・川棚町議は「参加者には工事の進捗(しんちょく)状況と住民の闘いを見てもらえた。さらに民意を結集して大きくしていきたい」と語った。
〔長崎版〕
コロナ禍も給水量「横ばい」 石木ダム反対団体「水足りる」 佐世保市水道局 業務用低下で減収
佐世保市水道の水需要が減り続けています。その記事を掲載します。
コロナ禍が水需要の減少に拍車をかけていますが、コロナが流行する前から佐世保市の水需要は確実な減少傾向になってきています。
コロナ禍も給水量「横ばい」 石木ダム反対団体「水足りる」 佐世保市水道局 業務用低下で減収
(長崎新聞021/11/22 10:00) https://www.oricon.co.jp/article/1702059/
佐世保市の給水量推移
長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業で、同市は新型コロナウイルスを含む感染症対策で水源確保が重視され、「事業の必要性は高まる」と主張する。だが、コロナ禍が年中続いた2020年度の給水量は、外出自粛で生活用が増えた一方、経済活動の低迷で業務営業用が減り、全体量は前年度と同水準だった。ダムに反対する市民団体「石木川まもり隊」は「コロナ禍でも水は足りる。ダムの必要性は高まらない」と指摘する。
給水量は毎年秋ごろ確定。市水道局によると、20年度の給水量は前年度比0.7%減の約2428万トンで、ほぼ横ばいだった。
ただ、給水先はコロナ禍を反映。ステイホームの呼び掛けで市民の生活用は同2.8%上がった一方、業務営業用は同9.4%、工場用は同4.8%それぞれ下がった。時短営業要請に応じた飲食業や観光業などで給水が減り、景気の悪化が数字に表れた。
佐世保市では昨年12月、主なダムの貯水率が75%を割った。同局は渇水に備えて市民に節水を求めるか検討したが、新型コロナの「第3波」の最中で、「うがいや手洗いなどの感染予防に逆行しないか」と懸念が出た。一定の雨が降るという予測もあり、結局、節水の呼び掛けは見送った。
朝長則男市長は2月に本年度の施政方針を発表。石木ダム事業による水源確保について、感染症対策を含む公衆衛生の役割を明示し、「事業の必要性は高まる」と言及。国や県への施策要望書にも同様の主張を盛り込んだ。これに対し、市民団体は「コロナを利用して事業を進めようとしている」と反発した。
給水量について、市民団体の松本美智恵代表は「水需要は増えておらず、コロナとダムは結び付けられない」と指摘。こうした見方に、同局は「水源不足は続いている。感染症対策で、ダムに求められる役割は変わらない」と反論する。
一方、コロナ禍は水道事業に打撃を与えた。これまで市水道局の収益は人口減少と同様の割合で、毎年度1%程度ずつ縮小。だが、海外観光客が減り始めた19年度は前年度比2.1%、20年度は同1.5%とそれぞれ減少率が拡大。20年度の収益は前年度比で約8400万円少なかった。
同市の水道料金は、節水を促すため、給水量が増えるにつれて単価が高くなるよう設定。コロナ禍で単価が高い業務営業用の給水が下落し、「減収の一因となっている」(同局)。
減収に対し、松本代表は「今後、水道料金の引き上げにつながらないか」と不安視。「今考えるべきは、巨額を投じるダム事業を止め、支出を抑えることだ」と訴える。
石木ダム完成見通せず 土地明け渡し期限から2年 県と住民なお隔たり
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石木ダム予定地の現状を伝える記事を掲載します。
石木ダム完成見通せず 土地明け渡し期限から2年 県と住民なお隔たり
(西日本新聞2021/11/20 11:30) https://www.nishinippon.co.jp/item/n/834665/
岩佐 遼介、泉 修平座り込み現場から工事作業を見つめる水没予定地の住民=19日
川棚町の石木ダム建設を巡り、県が水没予定地に暮らす13世帯の家屋を強制収用する行政代執行が可能になって19日で2年となった。県は9月の本体工事に続き、今月から県道付け替えのための橋の建設に着手したが、反対する住民と支援者による座り込みが続き、ダムの完成は一向に見通せない。
19日午後、建設予定地に座り込む住民と支援者は工事が進む現場をリラックスした様子で見守った。「ダム完成に欠かせない住民と向き合うことをせずに手近なところから工事を進めるとはどんな神経しとるんかね」。住民の炭谷猛さん(71)はつぶやいた。
県が新たに着手したのは、住民が座り込みを続ける県道付け替え工事の別の工区。完成後のダムを迂回して湖面をまたぐ県道の橋(約130メートル)の建設で、今月から木の伐採を開始。来年7月24日までに橋脚1本を設置したい考えだ。行政代執行について、県河川課は「他に取り得る方法がなくなった段階で検討を進める最後の手段。住民の理解を得るために、まだまだ話し合いの努力をしていかなければならないと考えている」としている。
ダムの完成は2025年度を予定しているが、「話し合い」を巡る県と住民の隔たりは大きい。住民が国の事業認定取り消しを求めた訴訟の原告敗訴が昨年10月の最高裁判決で確定したこともあり、県は「ダムの必要性を巡る議論は終わった」という立場。話し合いの議題には生活再建を中心に据える構えだ。
住民の岩本宏之さん(76)は「必要性に納得していないから反対している。説得に失敗したことを棚に上げて生活再建の話をさせろとは虫が良すぎる」と語気を強める。 (岩佐遼介、泉修平)
代替案を求める声も 受益地
家屋の行政代執行が可能になって19日で2年となった石木ダム事業。県と反対派住民のにらみ合いが続く中、受益地などでは賛否の議論を避ける空気も漂う。
「まさにアンタッチャブルですな」。川棚町内で総代を務める男性は事業を巡る空気感をそう形容する。
10年ほど前には、仲が良かった知人同士が賛否を巡ってけんかになり、疎遠になった。自身は事業に反対の立場だが、賛成する親族との関係悪化などを懸念し、賛否を口にすることはない。別の総代も「議論は対立を先鋭化させてしまう。得することはない」と及び腰だ。
町議会でもダムを議題として取り上げる議員は一握り。「石木ダム強制収用を許さない議員連盟」に参加したある地方議員は同僚議員から「おまえが動いても何も変わらない。政治生命に関わるぞ」と詰め寄られたという。県や佐世保市に事業の見直しや協議の場を設けるよう申し入れたが、進展はなかった。「停滞する事業について議論するのは当たり前だと思う。見て見ぬふりだから何も進まないのではないか」
県がダムの必要性として掲げる川棚川流域の治水と佐世保市の水源確保もたなざらしのままだ。ある佐世保市議は「石木ダムに固執するあまり、代替案をしっかりと検討してこなかった結果。問題を解決できないなら別の方法を検討してもいいはずではないか」と話す。 (岩佐遼介)