丹生ダムの情報
荒川下流の橋梁問題は、私たちが2015年からその動向を見守り続けてきたテーマです。その経過を振り返ります。
荒川下流の橋梁問題の経過
◇荒川下流橋梁問題への関わりの始まり
私たちが荒川下流の橋梁問題に関心を持ったのは朝日新聞の記事「荒川堤防4カ所高さ不足 橋障害改良できず 周辺より1.8~3.7㍍低く」(2015年9月19日)がきっかけでした。
JR東北線荒川橋、都道西新井橋、京成本線荒川橋、国道6号四ツ木橋は高さが大幅に不足していて、大洪水が来れば、そこから洪水があふれて大氾濫を引き起こす危 険性がある問題を訴えた記事でした。
荒川下流部に住む人からすれば、深刻な問題です。
国土交通省の資料(荒川下流河川維持管理計画)を見ても、下図の通り、四つの橋梁の高さ不足は明瞭でした。
◇荒川水系河川整備計画の策定と変更
2016年3月に荒川水系河川整備計画が策定され、京成本線荒川橋梁は約364億円をかけて2018年度から架け替え工事を始めることになりました。
しか し、残りの三橋梁は架け替えが行われず、暫定対策(橋梁部周辺対策)のみでした。
https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000643105.pdf 41~42ページ、
荒川水系河川整備計画は2020年9月に変更されました。
京成本線荒川橋梁の架け替え工事の記述はそのままでしたが、残りの三橋梁は暫定対策(橋梁部周辺対策)の対象からも外されました。
https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000785994.pdf 50ページ
◇京成本線荒川橋梁架替工事の大幅変更 (事業費が倍増され、完成予定が15年先へ)
その後、2021年12月に関東地方整備局の委員会が開かれ、京成本線荒川橋梁の架け替え工事の内容が抜本的に変わりました。
令和3年度 第1回 フォローアップ委員会(令 和3年12月1日)
https://www.ktr.mlit.go.jp/river/shihon/river_shihon00000129.html
再評価 資料➃-1 https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000817462.pdf
橋梁の高さが低く、洪水の安全な流下の阻害となっている京成本線荒川橋梁を約15m上流に架替えるというもので、事業費は364億円から 730億円へ倍増となり、完成予定が令和6年度から令和19年度(2037年度)へと、大幅に延長されることになりました。
京成本線荒川橋梁架替工事は用地買収が始まっていたので、数年のうちに完成すると思っていたのに、事業計画の大幅変更が唐突に行われ、完成が十五年先になりました。
以上が荒川下流橋梁問題の現在までの経過です。
国土交通省が好きなようにやっているという印象が否めません。
◇私たちは国に対して何を求めるか
私たちは下記の二つを国に求めていかねばと考えています。
1.京成本線荒川橋梁架替工事のスピードアップ
2.対策が何ら行われない残りの3橋梁(JR東北線荒川橋、都道西新井橋、国道6号四ツ木橋)の対策工事
淀川水系の丹生(にう)ダムが検証案のとおり、中止になるという記事を掲載します。
全国のダム検証の結果はほとんど事業推進の記事ばかりですので、中止の記事を読むとほっとします。
丹生ダムはかつては高時川ダムという名称でした。今から30年以上前のことですが、当時のダム問題等の全国組織「河川湖沼と海を守る全国会議」としてダム予定地を訪れたことがあります。
その後、ダム予定地の住民が移転しましたが、2000年代になってから、利水予定者である大阪府、京都府等が撤退を表明し、淀川水系流域委員会が中止すべきであるとの意見書を出しました。
今回のダム検証で、治水目的は河道整備の方が有利ということで、丹生ダムは中止することになりました。
同じ淀川水系でも大戸川ダムは治水専用の穴あきダムとして推進の結論を得ようとしていますが、これは事業者の違いも影響しているのではないかと思います。
大戸川ダムは国交省が事業者であり、治水専用ダムになっても、国交省が事業を続けることができますが、
一方、丹生ダムは水資源機構が事業者であり、水資源開発の目的がなければ、水資源機構が事業者であることはできません。
利水予定者が撤退した現状において、もし継続するとすれば、直轄ダムとしてダム計画をもとから作り直さなければなりません。そのことも丹生ダム中止の要因になっていると思います。
その点で、同じ淀川水系で事業が推進されようとしている川上ダムも、事業者が水資源機構です。川上ダムも利水予定者の奈良県、西宮市が撤退しましたが、三重県伊賀市のみが残りました。
もし、伊賀市も撤退すれば、水資源開発の目的がなくなり、水資源機構は川上ダムを建設することができなくなります。伊賀市の参画が水資源機構にとっての命綱になっているのです。
しかし、伊賀市は川上ダムの水源なしで将来とも何も困ることはありません。
滋賀・丹生ダム「中止妥当」 近畿整備局、方針原案に明記
(京都新聞2016年05月18日 23時20分) http://www.kyoto-np.co.jp/shiga/article/20160518000180
滋賀県長浜市余呉町の高時川上流で計画されている丹生ダムについて、事業主体の近畿地方整備局と水資源機構が今年3月、検証手続きの中で正式に「中止」を盛り込んだ対応方針の原案をまとめ、滋賀県も了承と回答したことが18日、分かった。
同整備局は、これまで治水対策などで「ダムは有利ではない」としていたが、原案で初めて「中止が妥当」と明記した。今後、同整備局が対応方針案をまとめ、最終的には国土交通省が中止を決定する。
中止後の河川整備は県が進めるが、原案では姉川と高時川での掘削や堤防のかさ上げが妥当との方向性を示し、渇水で川の流れが途切れる「瀬切れ」対策では魚類の一時避難場所を確保するとした。中止後の地域振興策は「関係機関とともに実施する」と記した。
同整備局に対して、県は長浜市の意見を聞いて4月28日に原案了承の回答を提出した。同時に4項目の要望書を出し、県が進める河川改修に対する国の財政支援を求め、道路整備をはじめとする地域振興策では国による事業の実施を要請した。
丹生ダム検証では2014年1月、同整備局などが事実上の中止方針を示していた。中止後の対応に関する地元と整備局、県、市の協議が長期化していたが、今年1月に住民でつくる対策委員会が地域振興策などを意見書にまとめたことを受け、対応方針の原案が固まった。
淀川水系の丹生ダム、大戸川ダムについての記事を掲載します。
丹生ダムは事実上中止になりましたが、大戸川ダムは先行きがどうなるのか、分かりません。
この記事で、国交省のダム検証作業で、「今年4月までに約8割の検証が終わり、46事業の継続と21事業の中止が決定した」と書かれていますが、中止ダム21の大半は事業者の推進意欲が乏しいために中止になったのであって、ダム検証の結果といえるものではありません。
(写真)滋賀県幹部に本年度の事業を説明する近畿地方整備局の森局長(左)=大津市・県庁
滋賀県内で国などが計画している丹生ダム(長浜市)と大戸川ダム(大津市)の必要性を検証する事業が長期化している。丹生ダムは事実上中止の方針が出て1年以上経過したが、地域振興策をめぐり地元と県、国の協議が長引いて正式な対応方針が決まっていない。大戸川ダムは検証の会議そのものが4年以上開かれていない。それぞれの地元から困惑や不満の声が出ている。
29日、大津市の県庁で近畿地方整備局が2015年度に県内で進める事業を説明する会議があった。森昌文局長は取材に「丹生ダムは地元との協議会の議論を進化させ、大戸川ダムはどう手順を踏むか関係自治体と考えている段階」と述べ、三日月大造知事は「ダム検証の過程を円滑に進めようと話した。県も主体的にかかわりたい」と話した。
国が「無駄な公共事業を中止する」として10年から始めた検証対象のダムは83事業。今年4月までに約8割の検証が終わり、46事業の継続と21事業の中止が決定した。正式な対応方針が決まっていない丹生、大戸川両ダムを含め残り16事業が検証中となっている。
同整備局と水資源機構が丹生ダムについてコスト面から「有利ではない」として中止の方向性を示したのは昨年1月。同年8月には中止後を見据えて国が地域振興策など5項目の対策を地元住民でつくる丹生ダム対策委員会に提示したが、長浜市や県も交えた協議は、妥結のめどが立っていない。
対策委は住民意見を集約し、要望事項を絞り込む作業を続けている。確実に実現を図るため、同整備局と話し合いを重ねてから正式に提案する考えで、丹生善喜委員長は「国には責任と誠意を持って向き合ってもらいたい」と強調する。
一方、水没予定地の集落の移転が終了した後に計画がストップした大戸川ダムは、11年1月に同整備局と関係自治体による検証会議の幹事会が1回あっただけで、再開の時期は決まっていない。
森局長は「ボールはこちらが持っていると理解している。関係自治体の思いが一致するよう時間をかけている」と説明する。ダム建設を継続しても、中止して河川改修を強化する場合でも下流自治体の治水対策や財政運営に影響を及ぼすため、県幹部は「京都府など各府県が違う考えでは会議を再開できない」とみる。
ただ、流域では13年の台風18号で大戸川が氾濫し、治水対策を求める声は切実だ。早期のダム建設を求める大戸川ダム対策協議会は昨秋、検証会議の再開を同整備局に要望した。元持吉治会長は「そのときは『年内にも』との話だった。ストップしている期間が長すぎる。協議会として他府県の知事に要望に行くなど、今までにない活動を考えたい」といら立ちを募らせている。
淀川水系の丹生ダム計画が中止になる見通しになりました。
思えば、長い道のりでした。このダム計画が浮上したのは1972年、淀川水系フルプランに組み込まれたのは1982年です。その頃、私(嶋津)は「河川・湖沼と海を守る全国会議」の一員として現地に行ったことがあります。当時のダム名は高時川ダムでした。
そして、1992年にダム計画が決定し、96年に水没予定地40世帯の移転が完了しました。大半は同じ余呉町の集団移転地に移転しました。
2000年代に入ってから、利水予定者の大阪府・京都府・阪神水道企業団が水需要の低迷で撤退を表明して、淀川水系流域委員会が中止が妥当の意見を出し、さらに脱ダム派の嘉田由紀子滋賀県知事が登場するなどの経過があって、ようやく中止に至りました。
情報収集と情勢分析、行政への働きかけに取り組んだ「関西のダムと水道を考える会」( 野村東洋夫さん)の粘り強い活動もありました。
丹生ダム建設中止へ 近畿地方整備局がコスト検証(京都新聞 2014年01月16日 22時40分) http://www.kyoto-np.co.jp/politics/article/20140116000156
近畿地方整備局と水資源機構は16日、長浜市の高時川上流で計画している丹生(にう)ダム建設事業に関して、治水や渇水対策の目的別にコストなどを分析した結果、「ダムは有利ではない」との最終的な検証結果をまとめた。
同日、滋賀県や長浜市など関係自治体を集めた会議でも確認した。丹生ダム建設は計画から半世紀近くを経て、中止される見通しとなった。
整備局などは「治水」「流水機能維持」「異常渇水時の水の補給」の三つの目的別に、ダムを含む複数の対策案を検証した。戦後最大の洪水を基準とする治水では、ダムを建設せず、姉川と高時川の河道掘削や川幅の拡幅などを進める案が80~140億円で、ダム建設の246~339億円よりコスト面で優位だった。
川の流れが途切れる「瀬切れ」を防ぐ流水機能維持でもダム案はコスト面などで有利とならなかった。一方、異常渇水対策ではダムが有利となり、目的別に評価が分かれた。
最終的な評価では、下流の京都府、大阪府などが異常渇水対策を不要としている状況を踏まえ、「ダムを含む案は有利ではない」と結論を出した。
同日、大阪市内で開かれた会合で府県や市に説明があった。ダムだけに頼らない治水を重視してきた嘉田由紀子滋賀県知事は「国の判断で中止するなら、国直轄で治水対策を実施してほしい」と要請。早期建設を求めてきた藤井勇治長浜市長は「誠に無念」と述べた上で、「誠心誠意、地元が納得するよう対応し、国が河川改修に責任を持ってほしい」強調した。京都、大阪、兵庫各府県などは評価を了承した。
池内幸司整備局長は「意見は重く受け止める。ダムに代わる治水対策を直接実施するのは難しいが、改修事業などはできるだけの支援をする」と述べ、中止の方向で対応方針案をまとめる考えを示した。
国土交通省が進めるダム検証事業では、これまでに83事業中20事業が中止を決めている。12年に中止となった県営北川ダム(高島市)も含まれている。
<滋賀・丹生ダム>計画から半世紀 国交渉が建設撤回案
(毎日新聞 1月16日(木)20時57分配信) http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140116-00000103-mai-soci
滋賀県長浜市の高時(たかとき)川に計画された「丹生(にう)ダム」建設の再検討を進めていた国土交通省近畿地方整備局は16日、河川改修などの代案がダム建設よりもコストや効果の面で有利とする総合評価案を関係府県の知事らに提示した。
反対意見はなく、半世紀近くを経てダム計画は事実上中止される見通しとなった。
水没予定地の住民約40世帯は移転済み。国が検証対象とした全国83ダムで、移転完了後の中止となれば極めて異例。今後は有識者会議などを経て、国交省として方針を決める。
大阪市内であった会合で、治水▽高時川の流水確保▽下流府県の異常渇水時の緊急水補給の3目的ごとに、ダムを建設しない場合の代案を検討するとともに、計画を縮小したダムや穴開きダムの各案を比較。
治水では河川掘削と堤防かさ上げなどの案が有利とし、異常渇水対策は大阪府などから緊急性が低いとの意見が出ており「ダム建設を含む案は有利ではない」と結論づけた。
丹生ダムは1968年、治水や下流府県の利水を担う多目的ダムとして国が予備調査を開始。本体工事は未着工だが、用地取得や道路整備などで約560億円が投入された。民主党政権時代の2009年末に検証対象となった。【千葉紀和、石川勝義】
住民移転後では初
滋賀県長浜市の1級河川・高時川に計画されていた丹生(にう)ダムについて、国土交通省近畿地方整備局と独立行政法人・水資源機構は16日、ダム建設を中止する方針を決めた。
国が建設継続の是非を再検証している全国の31ダムのうち、住民の立ち退き移転後に中止となるのは初めて。
国は2009年秋から再検証を進めており、中止が決まるのは5例目。この日、大阪市内で、同整備局の池内幸司局長が嘉田由紀子・滋賀県知事らに説明。
嘉田知事は中止を了承し、「長浜市ではダムで人生を翻弄された人も少なくない。県としてしっかり河川整備に取り組んでいくが、国も積極的な支援をしてほしい」と述べた。
丹生ダムは、高時川の治水と利水の能力を高めるため、旧建設省が1968年に多目的ダムとして予備調査に着手。94年に水資源開発公団(現・水資源機構)が事業を引き継ぎ、96年までに40世帯が立ち退いた。
しかし、2000年以降、琵琶湖下流の京阪神地域で水需要が低下し、国が09年、同ダムに利水機能を担わせないことを決定。さらに、今後必要な費用を試算し、治水ダムの246億~339億円に対して、河川整備なら80億円程度で済むなどとして、「ダムは有利でない」と結論づけた。
丹生ダムは本体工事にまだ入っていないが、これまでに調査や用地取得、周辺工事などで、国のほか、滋賀、大阪、京都、兵庫の各府県などが計567億円を費やした。
丹生ダム建設中止へ 滋賀・長浜市長ら「誠心誠意説明を」(産経新聞滋賀版2014.1.17 03:05) http://sankei.jp.msn.com/region/news/140117/shg14011703050002-n1.htm
■河川改修は県事業で
建設中止の可能性が強まった長浜市余呉町の丹生ダム。中止が決まれば、その代わりに高時川などの河川改修が必要となるが、大阪市内で16日に開かれた国交省近畿地方整備局の会合では、姉川、高時川の改修について国事業ではなく県事業として行うよう求められた。
嘉田由紀子知事や地元・長浜市の藤井勇治市長は「住民の理解を得られるよう誠心誠意説明を尽くしてほしい」と国に求めた。
近畿地方整備局は「ダム建設は有利ではない」とする総合評価に合わせ、河川改修は県が直轄事業で行うべきだとした。
藤井市長や嘉田知事は、国による事業実施を求めたが、同整備局は「現行制度上、国が進めるのは難しい」との見解を示し、国が一定程度支援を行うものの、県が主体となる方向となった。
会合で、藤井市長は「国や下流の求めで、水没予定地の住民は集落から撤退した」と指摘。「移転後の中止という事態は、これを最初で最後にしてほしい。地元には誠心誠意、説明を尽くすべきだ」と述べた。
嘉田知事は「下流のみなさんにも水源地に思いを寄せてほしい」と呼びかけ、終了後、「建設予定地はダム計画があったため治水対策が進まなかった。国の支援を受けながら河川改修の計画をつくりたい」と語った。
総合評価に対し、住民から憤りの声が上がった。地元住民でつくる丹生ダム対策委員会の丹生善喜委員長(66)は「ダム計画によって愛する地元が荒れた。ダムは本来命を守るものなのに、政治の材料にされているようで国に強い不信感を感じた」と話した。
同整備局は今後、学識経験者や住民に評価に対する聞き取りなどを行い、今回の評価と合わせて本省に報告。その後本省が正式に決定するが、時期の見通しは立っていないという。
滋賀・長浜の「丹生ダム」中止へ 住民移転後は初 国交省が方向性示す(産経新聞2014.1.16 21:11) http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/140116/waf14011621140038-n1.htm
滋賀県長浜市に計画され、国が事業の再検討を進めている多目的ダム「丹(に)生(う)ダム」をめぐり、国土交通省近畿地方整備局は16日、ダム建設を中止すべきだとする方向性を示した。
治水などの目的では、河川改修などと比べて有利でないと判断したため。今後、国交省が正式に方針を決める。すでに住民の集団移転を終えており、国のダム事業で移転完了後の中止決定は初のケースとなる。
同整備局がこの日、地元や下流域など関係自治体の首長らを集めて大阪市内で会合を開き、丹生ダム建設の総合評価を示した。
治水対策や流水機能の維持、渇水対策などの目的別に、ダム建設と河川改修などの手段について安全度やコストの面を考慮した有効性を検討した結果、河川改修が有効な手段とした。
渇水対策についてはダム建設が望ましいとしたが、現在の水需要を踏まえると優先順位が低いと判断。総合評価で「ダム建設は有利でない」と結論づけた。
丹生ダムは、完成すれば国内屈指の多目的ダムとして計画。総事業費は約1100億円。昭和43年に予備調査が始まり、平成8年には水没予定地の家屋40世帯の移転が完了。
しかし、人口減などによる水需要の低迷で下流自治体などが利水事業から撤退した。その後、事業再検討の対象になり、18年には嘉田由紀子知事がダム事業の凍結・見直しを掲げて当選。23年から国が関係自治体との間で検討を進めてきた。
滋賀・丹生ダムの建設中止へ 国が方針(日本経済新聞 2014/1/16 22:19 ) http://www.nikkei.com/article/DGXNASDF1600G_W4A110C1EE8000/
近畿地方整備局と水資源機構は16日、同機構が計画していた丹生(にう)ダム(滋賀県長浜市)について関係自治体と会合を開き、建設を事実上中止する方針を伝えた。3年をかけて治水や利水の面でダムと代替案を比べてきたが、必要性やコストの点でダムが劣ると判断した。
国が事業の必要性を検証していたダムは全国に83カ所あり、20カ所が中止を決定済み。ただし丹生ダムのように建設予定地の住民が移転を終えたダムで中止の方針を決めた例は少ないとみられる。今後、国土交通省が住民の意見聴取などを経て方針を正式に決める。
丹生ダムは1968年に建設省(現国土交通省)が予備調査を始め、96年までに住民の移住が完了した。だが淀川下流の水需要が減って利水の目的が変わり、09年に計画が凍結されていた。
滋賀県が9月県議会に提案する流域治水推進条例についての二つの記事
滋賀県の嘉田由紀子知事は、大雨で浸水が想定される危険区域に建築規制を課し、ダムに頼らない治水を目指す「流域治水推進条例」案を9月県議会に提案する方針を固めた。
国土交通省によると、建築規制を盛り込んだ治水条例は成立すれば全国で初めて。条例案には罰則も盛り込む。
ダムや堤防で水を押さえ込まず、一定程度の氾濫を織り込んで安全確保を図るのが特徴で、「治水のあり方を変える画期的条例」と専門家から評価の声が上がる一方、住民や土地所有者から反発も予想される。
【ゲリラ豪雨から身を守る】その場で被害イメージ/携帯で最新情報を確認
条例案は全42条で構成。過去の雨量や地形などに基づく計算から200年に1度の確率の大雨で3メートル以上の浸水が見込まれる場所を「危険区域」に指定する。
地盤のかさ上げか、近くに避難所がない場合は、住宅や福祉施設などの新築や増改築を許可しないことを柱に、河川に雨水が流れ込むのを抑制するなど複合的な対策を講じる。
地盤のかさ上げは区域ごとに、水没する想定水位より高い位置に部屋や屋上を設けるよう規定。ただし、木造建物については浮力で倒れる可能性があるとして水没部分は3メートル未満までに制限する。
違反者には20万円以下の罰金などを科すが、新築や増改築しない既存の建物については対象外とする。かさ上げなどで個人が負担する費用の一部を補助する制度も別に設ける。
危険区域は、県が開発した県全域の水害リスク予測地図を基に設定する。現在は、琵琶湖に注ぐ河川沿いを中心に8市町で計約20平方キロメートルを想定。県面積全体の0・5%に相当し、約1070戸の建物が対象となる。
嘉田知事は2006年から流域治水に取り組み、住民会議や学識者部会を経て、建築規制を盛り込んだ基本方針を策定。昨年3月に県議会で可決された。
ただ、今年5月に県が骨子案などを明らかにしたところ、河川整備を軽視しているなどの批判が県内市町長から相次ぎ、県議会でも規制内容や罰則に慎重な審議を求める声が根強い。9月議会で採決が先送りされる可能性もあり、条例成立は流動的だ。【千葉紀和】
(写真)滋賀県の嘉田由紀子知事
今本博健・京大名誉教授
◇「地価下がる」「本当に安全か」と反発も
完成に長い年月と費用がかかるダムに頼らない治水の重要性は、長年提唱されてきた。
近年相次ぐ局地的豪雨や公共事業削減の流れを受けて、自治体単位でも金沢市や兵庫県などが総合治水対策条例を策定したが、地域全体で雨水の河川への流出を抑制することなどが柱で、建築規制には踏み込んでいない。
「脱ダム」論者の今本博健・京大名誉教授(元防災研究所長)は滋賀県の条例案を「本気度が違う」と分析する。「ダムの効果は限定的で、しかも今生きている住民の命は守れない。
国も昭和50年代から総合治水を検討してきたが、政治的配慮から結局ダムありきだった。明治以来の治水の流れを変える契機になる」と評価する。
一方で、県内の大半の市町長は「河川整備が軽視される」などと骨子案の段階から強く反発。地元住民からも「地価が下がる」「本当に安全なのか」と不安がる声も聞こえる。
嘉田知事は取材に対し「各地域に応じて早く安く確実に人命を守るため、現実的な方法が流域治水だ。建築規制は住民を追い出すためでなく、安全に住んでもらうために欠かせない」と強調している。【千葉紀和】
◇流域治水推進条例案の主な内容
前文 氾濫原の危険性の認識を県民と共有。「川の中」の対策に加え、「川の外」での対策を組み合わせる
建築規制 200年に1回の降雨で3メートル以上の浸水が見込まれる区域内の新築や増改築は、想定水位以上の高さとなる居室や屋上を設けるか、近くに避難場所があれば知事が許可。対象は住宅や社会福祉施設など。
木造の場合は主要構造部の水没部分を3メートル未満にする
河川氾濫防止 河川拡幅や堤防設置などを効果的に組み合わせる
雨水貯留対策 森林や農地の所有者らは適正に保全し、雨水をためる機能を維持。1000平方メートル以上の公園や運動場の所有者らは雨水をためる施設の設置に努める
浸水への備え 宅地建物取引業者は、売買時などに浸水想定区域の情報提供に努める