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「国管理の4河川で氾濫 球磨川、過去最高水位の1.4倍」という朝日新聞の記事

2020年7月10日
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「国管理の4河川で氾濫 球磨川、過去最高水位の1.4倍」という朝日新聞の記事をお送りします。

今回の集中豪雨で河川水位が異常に上昇したことはわかりますが、この記事の球磨川の数字は疑問があります。

「人吉市中心部の球磨川の水位は、4日午前5時50分には、超えると堤防が危険な状態になる計画高水位(4・07メートル)に到達。午前9時50分に最高の7・25メートルに達した。」と書かれています。

しかし、そもそも国土交通省の人吉観測所の水位観測は午前7時30分までで、あとは観測停止になっていますので、午前9時50分の水位の数字はわかりません。

近い観測所の観測値から推定するとしても、すぐ上流の一武観測所、下流の渡観測所も同時刻に観測停止ですので、球磨川の人吉で合流する川辺川の柳瀬観測所の水位を見ると、午前7時30分が7.51mで、最高水位が9時10分の8.07mですから、7時30分からの上昇幅は0.56mです。

一方、人吉の午前7時30分の最終観測水位は5.07mですから、その後,柳瀬と同様に0.56m上昇したと仮定すると、5.63mです。この記事の7.25mより1.6mも低い値になります。

球磨川の堤防の余裕高は1.5mで、計画堤防高は計画高水位+1.5mですから、人吉の堤防高は概ね4.07+1.5=5.57mです。

したがって、この記事による最高水位は堤防高を約1.7mも超えたことになり、ありえない数字になっています。

また、この記事のタイトル「過去最高水位の1.4倍」もおかしな表現です。水位はどこを基準に取るかで変わる数字ですから、水位を倍数で評価すべきものではありません。

新聞記事で、ありえない高い水位の数字を示すことは看過できませんので、朝日新聞社に電話しておきました。

 

国管理の4河川で氾濫 球磨川、過去最高水位の1.4倍

(朝日新聞2020年7月9日 21時47分)

川辺川ダム議論再燃も 熊本県、球磨川治水で検証対象

2020年7月9日
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今回の球磨川の氾濫で、川辺川ダム是非の議論が再燃することになりそうです。その記事を掲載します。

国土交通省はこの際にと、川辺川ダム計画の再登場を目論んでいると思います。

今回の氾濫は、国の方針としては中止になったものの、まだ生き残っている川辺川ダム計画の存在が根底にあります。

川辺川ダム計画の存在が根底にあるから、現実的な治水対策である全面的な河床掘削の手段が選択されず、氾濫しやすい状態が放置されてきました。

 

川辺川ダム計画は民主党政権下の2009年に中止になったものの、川辺川ダムなしの球磨川水系河川整備計画は、ダムの代替案がないということで、いまだに策定されていません。

球磨川の重要な治水対策は河床を掘削して河道の流下能力を大幅に増やすことなのですが、2007年に策定された球磨川水系河川整備基本方針では河床を掘削すると、軟岩が露出するという理由をつけて、人吉地点の計画高水流量(河道の流下能力の設定値)が4000㎥/秒に据え置かれました。軟岩の露出については対応策があるにもかかわらず、当時は川辺川ダム建設の理由をつくるため、そのように恣意的な計画高水流量の設定が行われました。

河川整備計画は河川整備基本方針の範囲でつくられますので、河川整備計画では河道目標流量を4000㎥/秒以上にすることができません。

河道目標流量を4000㎥/秒に据え置くと、まとな河川整備計画をつくることができず、川辺川ダムなしの球磨川水系河川整備計画は策定されないまま、十数年経過してきました。

 

川辺川ダム無しの河川整備計画をつくるためには、この球磨川水系河川整備基本方針を見直して、計画高水流量4000㎥/秒を大幅に引き上げる必要があります。

河川整備基本方針は一度策定されると、改定されることはほとんどありませんが、その改定を求めないと、川辺川ダム計画が再登場してくることは必至ですので、改定を求める取り組みが必要です。

なお。今回の球磨川氾濫について国土交通省の観測データを現在、嶋津の方で検討しています。或る程度まとまりましたら、後日お送りしますが、

未曽有の豪雨により、球磨川のピーク流量は人吉地点で5000㎥/秒以上、下流の横石地点で10000㎥/秒以上の流量になったと推測されます。

また、川辺川ダム予定地上流でもかなりの雨が降り、もしダムがあったら、緊急放流を行う事態もあったのではないかと思われます。

なお、球磨川水系河川整備基本方針が策定された後の2007年11月に水源連は意見書「球磨川水系河川整備基本方針における基本高水流量と計画高水流量の問題点(主に人吉地点について)」基本高水流量と計画高水流量の問題点 球磨川を国土交通省に提出しました。

その中で上記の恣意的な計画高水流量の設定の問題を球磨川水系河川整備基本方針における計画高水流量の虚構 2007年

の通り、指摘しましたので、お読みいただければと思います。

 

川辺川ダム議論再燃も 熊本県、球磨川治水で検証対象

(熊本日日新聞2020/7/8 15:00) https://www.47news.jp/localnews/4991834.html

 

©  熊本県南豪雨災害を受け、県が今後進める球磨川の治水対策の検証対象に、当時の民主党政権が建設を中止した川辺川ダムによる治水効果を含めることが7日、関係者への取材で分かった。特定多目的ダム法に基づく計画の廃止手続きは取られておらず、検証結果次第では、ダム建設計画の議論が再燃する可能性がある。

検証では、今回の豪雨に対する市房ダムなど既存ダムの治水能力に加え、川辺川ダムの有無による影響を調査するとみられる。国や流域市町村との検証を目指しているが、救援活動を優先するため、開始時期は未定。

蒲島知事は豪雨災害を受けた5、6日の会見で「ダムによらない治水を極限まで検討したい」とする一方、「今回の災害対応を国や流域市町村と検証し、どういう治水対策をやっていくべきか、新しいダムのあり方についても考える」とも述べていた。

川辺川ダム建設計画を巡っては、蒲島郁夫知事が2008年9月に流域首長の意向などを踏まえ、「計画を白紙撤回し、ダムによらない治水対策を追求すべきだ」として建設反対を打ち出した。

その後、国と県、流域市町村が治水代替策を検討。19年に代替策の整備10案がまとまったものの、事業費は2800億~1兆2千億円と巨額で、工期も45~200年と長く、最終的な整備方針は決まっていなかった。(野方信助)

 

川辺川ダム建設計画 1966年、建設省(現国土交通省)が球磨川流域の洪水防止を目的に、支流の川辺川(相良村)に建設を決定。その後、用途を農業利水と発電にも広げ、総貯水量1億3300万トンの多目的ダム計画になった。住民の賛否が割れる中、2007年に利水事業の休止が確定。蒲島郁夫知事の白紙撤回に続き、前原誠司国交相が09年に建設中止を表明したが、特定多目的ダム法に基づく計画は存続している。

最上小国川ダムの控訴審、返還請求を棄却 仙台高裁 /山形

2020年7月1日
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山形県の最上小国川ダムの工事費支出差し止めを求めた住民訴訟の控訴審の判決が昨日(6月30日)、ありました。
まことに残念ですが、住民側の敗訴となりましした。その記事とニュースを掲載します。
控訴審はたった2回の裁判しか開かれませんでした。ひどい裁判でした。
最上小国川ダムには根本的な問題があるのに、仙台高裁は拒絶反応を示しました。
最上小国川ダムは、清流を守るためにダム建設に反対する漁協組合長を自死に追い詰めたダム事業です。
「流水型ダム」(通常は水を貯めない穴あきダム)ですが、ダムの水を放流するための常用洪水吐きの吞み口は高さ 1.6m、幅 1.7mの二門であり、大きな洪水の時には流木や土砂などで詰まって、洪水調節機能が失われてしまう危険性もあります。
最上小国川ダムの問題点は、https://suigenren.jp/news/2019/10/02/12398/ )をお読みください。


最上のダム費用、返還請求を棄却 仙台高裁 /山形

(毎日新聞山形版2020年7月1日)https://mainichi.jp/articles/20200701/ddl/k06/040/045000c

アユ釣りで有名な最上町の清流・最上小国川に県が建設したダムを巡り、反対派の住民らが、2012年度に支出した費用の一部約5490万円を吉村美栄子知事に返還請求することなどを県に求めた訴訟の控訴審判決で、仙台高裁は30日、訴えを退けた1審山形地裁判決を支持し、住民側の控訴を棄却した。住民側は上告する方針。
ダムは下流域の治水のため増水時だけ貯水する「穴あきダム」。原告側は「河道改修の方が効果的だ。ダムに土砂が堆積(たいせき)しアユなどの生態系に悪影響を及ぼす」と主張した。しかし山本剛史裁判長は「自然環境の保全をどの程度考慮すべきかは河川管理者の裁量に委ねられる。ダム建設への費用支出に問題はなかった」と退けた。
県によると、ダムの総事業費は約88億円で、20年3月に工事が完了し、4月に運用を開始した。

 

最上町の赤倉温泉上流に県が整備し、ことし4月に運用が始まった「最上小国川ダム」を巡り、反対住民らが工事費の支出差し止めを求めた控訴審で、仙台高等裁判所は30日、住民側の訴えを棄却した。
(日テレNEWS24 2020.6.30 20:19) https://www.news24.jp/nnn/news88710250.html

この訴訟は「最上小国川ダム」の建諏こ反対する住民団体が2012年、県知事を相手取り、流木型の穴あきダムでは水害を防げないなどと、工事への公金支出は不当として提訴したもの。
去年7月の一審判決で山形地裁は、ダム建設に治水の観点から違法性はないとして訴えを退け、原告側は判決を不服とし、控訴していた。
判決公判で仙台高裁の山本剛史裁判長は「最上小国川の治水対策として吉村知事がダムの建設を選択したことは合理的な裁量の範囲内で、違法性はない」として原告側の訴えを棄郡した。
最上小国川ダム住民訴訟原告団の高桑順一原告団長は「どこが悪いのかを検討してほしいが重要な部分で県側の主張を鵜呑みにしている印象」と語る。
原告側は「今回の判決には、新たな事実誤認もあり納得できない」として上告を決めた。
被告の吉村知事は「今後も県民の安全安心を確保し、最上小国川流域の治水対策の充実を図っていく」とコメントしている。
「最上小国川ダム」はことし3月に工事が完了し、4月下旬からすでに運月が始まっている。

石木ダム問題の番組「ダム予定地に生まれて」

2020年6月21日
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6月20日(土)17:30~のTBS『報道特集』で、石木ダム問題の番組「ダム予定地に生まれて」が放映されました。
九州で既に放映されたドキュメンタリー「ダム予定地に生まれて」を短縮したものです。
その番組案内には次のように書かれていました。https://www.nbc-nagasaki.co.jp/tv-topics/200527/
「去年、石木ダム建設に反対する地元住民13世帯の家や田畑が強制収用されました。
事業が計画されたのは半世紀前。水没予定地に暮らす住民達は先祖代々の土地を手放せないと立ち退きを拒んできました。
事業を推進する長崎県との対立で日常のほとんどが抗議活動に染まっています。
強制収用された今も13世帯およそ50人が暮らす川棚町川原地区の半世紀を描く。長すぎる公共事業がもたらすものとは。」
この番組を見て、利水治水の両面で必要性がない石木ダムの建設のため、13世帯50人の生活を奪おうとする長崎県に対してあらためて強い憤りを覚えました。
次の上段の図は石木ダムの水源が必要だという佐世保市の水需要の実績と市予測を比較したものです。実績がほぼ減少の一途を辿ってきているのに、市は実績と乖離した架空予測を続けて石木ダムの水源が必要だと強弁しています。
次の下段の図は川棚川流域における石木ダムの位置を示したものです。川棚川の最下流で合流する支川「石木川」につくられる石木ダムで対応できるのは川棚川流域の4~5%に過ぎず、石木ダムは治水対策として意味を持ちません。
川棚川の治水対策として行うべきことは河道整備や内水はん濫対策であって、石木ダムの建設ではありません。
このように愚かな石木ダム事業は何としても中止させなければなりません。

石木ダムの費用便益比計算  川棚川の洪水調節のB/Cはわずか0.10

2020年6月7日
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ダム等の公共事業は事業の是非について定期的に再評価を行うことが義務付けられており、その再評価の重要な項目の一つが費用対効果(費用便益比)の数字です。
費用便益比が1を超えれば事業継続となり、1を下回れば見直しの対象となります。
ほとんどの事業では事業者は便益を過大に計算して、費用便益比が1を超えるように操作します。
石木ダムについても洪水調節と不特定利水(渇水時の補給)の目的については長崎県、水道用水開発の目的については佐世保市が再評価を行い、費用便益比を計算しています。
長崎県は洪水調節と不特定利水の目的について昨年9月に再評価を行いました。前回は2015年でした。
今回、昨年9月30日の長崎県公共事業再評価監視委員会で示された石木ダムの費用対効果分析の計算資料を入手しました。石木ダム費用対効果分析資料201909の通りです。
昨年7月17日に石木ダム工事差し止め訴訟の証人尋問が長崎地方裁判所佐世保支部で行われ、石木ダム事業を科学的に検証すれば、治水面で不要であることを嶋津が証言しました。
その中で、石木ダムは費用便益比計算の恣意的な設定を改めれば、費用便益比が1を大きく下回ることを示しました。
詳しくは、https://suigenren.jp/wp-content/uploads/2019/07/435871c5c7f259bef4ac7f2e9ce6f279.pdf をお読みください。
証言で示した2015年の再評価の数字は次の通りでした。

2015年の再評価
石木ダム全体の費用便益比(B/C)1.25
洪水調節ダム便益          0.42
川棚川(河口~石木川合流点)      0.12
石木川                 0.30
不特定便益            0.79
残存価値             0.05

2019年の再評価もほぼ同じでした。石木ダム費用対効果分析資料201909の最終ページの合計欄の数字と6ページの表から次の値が求められます。

2019年の再評価
石木ダム全体の費用便益比(B/C)1.21
洪水調節ダム便益          0.40
川棚川(河口~石木川合流点)           0.10
石木川                 0.30
不特定便益            0.77
残存価値             0.04

ダム建設の主たる目的は川棚川の洪水調節であるはずなのに、その便益に関しては費用便益比(B/C)がわずか0.10しかありません。
石木ダム全体のB/Cが1を超えているのは、前回と同様、不特定利水の便益がダム完成前に発生するという実際にはありえない設定をしたことによって、現在価値化後の便益が大きくなっているからです。
現在価値化とは費用便益比計算独特のもので、社会的割引率(貨幣価値の変動率を示す指標)を 4%として、将来発生する金額を低く、過去に発生した金額を高く評価するものです。
不特定利水の便益がダム完成後に発生するというまともな設定をすれば、石木ダム全体のB/Cが1を大きく下回り、石木ダムは見直しの対象になります。

以上の通り、長崎県が行った費用便益比計算でも、石木ダムは主目的の川棚川洪水調節の費用便益比がわずか0.10しかありません。
長崎県が地元住民の土地・家屋が奪おうとしている石木ダムはその程度の事業なのです。
こんな無意味な事業は何としても中止させなければなりません。

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