各地ダムの情報
ダム偏重政策が招いた「肱川大水害」。今こそダム建設継続より肱川の河道改修に全力を投じよ
「ダム偏重政策が招いた「肱川大水害」。今こそダム建設継続より肱川の河道改修に全力を投じよ」というタイトルの論考を掲載します。
まさしく、このタイトルの通りだと思います。
ダム偏重政策が招いた「肱川大水害」。今こそダム建設継続より肱川の河道改修に全力を投じよ
(HARBOR BUSINESS Online 2019年4月5日 8時32分) https://news.infoseek.co.jp/article/harborbusinessonline_20190405_00189521/
(写真)手つかずの国道197号線崩壊箇所 仮設道路側に崩壊が進んでいる 2019/3/21 撮影 牧田
◆肱川大水害、逃げる国交省と愛媛県
昨年末の第八回以来、著者の転居や日韓軍事的インシデントシリーズの執筆によって連載が止まっていましたが、肱川大水害シリーズを再開します。なお、本記事も配信先によっては画像やレファレンスリンクが表示されない場合がありますので、その際はHBOLのサイトでご覧ください。
昨年7月7日、肱川水系では、野村ダムより下流約80キロメートル全流域で幹線道路路面から2~5mの浸水の大洪水となり、数多くの集落が壊滅的打撃を受けました。年が明けて1月22日には、野村小学校体育館にて“「野村ダム・鹿野川ダムの操作に関わる情報提供等に関する検証等の場」とりまとめ等の説明会“が野村小学校で開催され、激しい市民の怒りの発露の場となり、予定の21時を大きく過ぎて22時台にまで時間が延びましたが、これによって国交省と愛媛県は逃げ切りを図っているようです。
この連載で指摘しました様に肱川水系は、過去70年の治水事業が徹底したダム偏重であり、野村ダムから下流域80kmでは、無堤地区、暫定堤防、暫暫定堤防といった、事実上の無治水地区が流域の大部分を占めており、治水がなされていたのは、鹿野川ダム湖と大洲市西大洲のごく一部(数キロメートル程度)という一級河川とは考えられない極めて異常な河川事業の集大成であったといえます。
行政が問題を「ダム操作」に限定して逃げ切りを図っていますが、これは、ダム管理事務所の職員を矢面に立たせて県と国交省は逃げを図る工作に過ぎません。
◆必要な説明から逃げ、安全性だけ流布した結果の産物
ダムは、治水、利水などの用途、重力式、アーチ式、アースダムなどの形式を問わず、一部の流水ダム(穴あきダム)や砂防ダムを除き、堤体を越水すればダムは制御機能が失われるだけでなくダム崩壊を極めて高い確率で起こします。全面ダム崩壊を起こせばダム津波によって下流域は壊滅しますし、部分崩壊でも鉄砲水で下流域には甚大な打撃をもたらしますので、洪水がダムの限界を超える場合には、ダムは「但し書き操作」(異常洪水時防災操作のこと。特例操作や緊急放流とも呼ばれる)を行い、そこにダムが存在しないのと等価の洪水を一挙に引き起こします。とくに肱川水系のようなタンデム配置のダムの場合、上流側のダムが崩壊すれば下流側のダムも連鎖崩壊してカスケードダム津波を起こしますので、ダム操作者は、有無を言わさず但し書き操作を行わねばなりません。下流域の避難を考慮するにしてもその時間調整は、精々十数分程度でしょう。
これは、玄倉川水難事件や、飛騨川バス転落事故でも見られたことで、限界を超えたダムは、人為的に但し書き操作を遅らせることはほぼ不可能です。BWR(沸騰水型原子炉)と全く同じくダムにはこの点での受動安全性が欠けており、原子炉は破裂する前にベントによって内圧を下げますし、ダムは限界に達すれば但し書き操作によって一挙に流下流量をダムがない状態と同じにします。
原子炉では、シビアアクシデントの制圧に失敗した場合、市民が逃げようと逃げざろうと限界に達すればベントをして放射能入りの蒸気を外界へ大量に放出せねば原子炉が破裂して破滅的な放射能漏洩を起こします。後者が福島第一2号炉で起きたことです。不幸中の幸いにも、合衆国の設計が優秀だったためにチェルノブイル核災害ほどには至りませんでしたが、福島核災害を世界最悪級の核災害にしたといえます。
ダムの場合は、市民が逃げようと逃げざろうと、限界を超える前に但し書き操作に入り、調節機能を放棄しますが、それによって生ずる洪水は、ダム崩壊によるダム津波を下回ります。肱川水系では、これが生じた訳です。
ダム防災と原子力防災は、その構造が極めて酷似していますので、対比して考えると双方の理解が進みます。
ダムが限界を超え、ダム崩壊を起こさぬようダムを守ることが下流域の市民の命を守ることであって、それが、但し書き操作を行う倫理的基盤となっています。
これが、ダムを守る=下流域の市民を守る=但し書き操作は市民を守るために行ったという論理です。
このような説明が事前になされていれば、自治体や市民は長い年数をかけて対応することも出来ましょうが、日常的にダムがあれば安全安心という作為的なPA活動=ヒノマルダムPA*が行われた結果、自治体、市民ともにダム安全神話に幻惑され、ダム下流で洪水が起きるなど夢想だにしていなかった事実があります。
<*PA=Public Acceptance=パブリックアクセプタンス:社会的受容 原子力発電所、ダム、高速道路や、新ワクチンなどその事業が社会(多くは地域社会)に大きな影響を与える場合、事前に社会的合意を得ること。民主社会において重要な手続きである。
しかし日本においては、PAと称して、詭弁、ごまかし、嘘、便宜供与、恫喝など、「嘘と札束と棍棒」によって市民を分断し、服従させる手法がまかり通っている。これは本来のPAを換骨奪胎した日本独自の異常なものである。筆者はこれらを(親方)ヒノマル◎◎PAとして本来のPAと区別している>
このダム安全神話を流布し、ヒノマルダムPAによって市民、流域自治体を欺してきた責任は100%、河川管理者と治水事業管掌者すなわち愛媛県と国土交通省にあります。また、ヒノマルダムPAに長年加担してきた学識者=田舎御用名士にも最大級の重責があります。
「野村ダム・鹿野川ダムの操作に関わる情報提供等に関する検証等の場」においても、”住民が高い自覚(意識?)を持って避難しなければならない”という意味合いの暴言が飛び出し、住民の怒りの火に油を注ぐことになりました。検証会では「情報の受け手、住民が、情報を生かせていない」*として、被害を住民と流域自治体に責任転嫁するものとなっています。
<*野村ダム・鹿野川ダムの操作に関わる情報提供等に関する検証等の場(とりまとめ)抜粋(他多数資料に同じ表現がある)>
現場を矢面に立たせて裏で住民に責任転嫁、分断する手法は、福島核災害において大規模に行われている手法であってヒノマルPAの濫用とともに常套手段と言って良いでしょう。
◆ダム偏重河川事業が招いた事実上の無治水状態
これまで八回の連載で肱川流域103kmの状況をお知らせしてきましたが、肱川大水害は、ダム操作という表層的なものが原因ではなく、鹿野川ダム計画来70年間に及ぶダム偏重河川事業により、肱川が、見てくれだけのガラクタ治水による無治水河川(精々欠陥治水河川)であったことが真の原因であり、この見てくれだけの無治水河川を放置し、相変わらずのダム利権にたかり続けることによる行政災害が肱川大水害であるといえます。
すべては予想出来、防止出来たことであって、肱川大水害と福島核災害は極めて酷似した行政災害といえます。
肱川大水害の後に結成された「野村の未来を守る会」による公開質問状への回答も、徹底して現場を矢面に立たせ、過去七〇年の無治水河川肱川を放置してきた本丸は徹底して隠れるというものになっています。
実は、野村ダムは洪水時の調整放流量を最大毎秒1000トンで設計されており、ダム直下の野村町内、野村大橋まではそのように河川整備されています。仮に肱川が過去70年の治水事業によって全流域でダムの最大調整放流量(野村ダム毎秒1000トン)に対応して整備されていれば、ダムは時間稼ぎに成功し、人的被害は生じなかった可能性があるという指摘がなされています*。
<*京都大学名誉教授 今本博健博士による。“ダム計画・操作 疑問視 大洲で講演 水害要因 識者指摘” 2018/12/2 愛媛新聞
この指摘は、他からもなされており、肱川大水害は決して不可避ではなかったと考えて良いでしょう。実際には、鹿野川、野村両ダムの放水によって大洲市で水害が頻発するため、1996年にダム操作の見直しがなされ、野村ダムの放水量は毎秒300トンに下げられました。これにより、豪雨災害の時に野村ダム湖が満水になる可能性が飛躍的に高まり、ダムの治水効果である時間稼ぎが大きく損なわれたといえます。
この原因は、過去八回の連載で写真によってご紹介したとおり、堤防があっても切れている、堤防があっても低いところが必ずある、堤防がない無治水地区が非常に多いという事実上の無治水河川であったことといえます。また、河道への砂礫の堆積も激しく、前掲の今本博士の指摘の通り、誰が見ても異様な激しく河道堆積した河川であることも特徴です。河道掘削は、河川の流下量を維持する最も低コスト且つ効果的な手法ですが、2004年の肱川水系河川整備計画*では、「河道の掘削は行わない」と随所に明記してあり、基本的治水事業を行わないとする固い決意を示しています**。
<*肱川水系河川整備計画【 中下流圏域 】平成16年5月国土交通省四国地方整備局 愛 媛 県>
<**河道掘削は、生態系に大きな影響があるために環境保全上は慎重である必要がある。事実、河川整備計画では、河道掘削をしない理由を事実上、生態系の保全であるかのように表現している。また、肱川は支流が非常に多く、土砂堆積の激しい河川でもあり、河道掘削の効率が良いとは言いがたい。しかし、愛媛県内の河川に共通するが、中流下流域の河道への砂礫の堆積は特異的に目立つ。また、河川敷の樹木伐採にも消極的と言うほかない。河川事業の行政資源を他へ傾斜配分しているものと思われる>
肱川の特長は、野村、鹿野川という二つのタンデム配置のダムに河川行政資源を重点的に傾斜配分し、更に山鳥坂ダム新設事業に傾斜配分する。結果として堤防整備などの基本的治水・河川事業は70年間疎かにされ続けてきたことにあります。
結果として、野村、鹿野川両ダムは手足を縛られた(野村ダムでは放水量を3割にとどめられた)状態であったためにその治水能力を発揮出来ず、本来防げたはずの大水害を発生させたと考えられます。
論より証拠、まずは前回以降の肱川流域の変化をご紹介します。
◆写真で見る現況。大洲市矢落川合流点から野村地区まで
これまでの東大洲氾濫の原因であった矢落川合流点左岸堤防は、無堤から暫暫定、暫定を経て、堤体の高さが本来あるべき高さに近づいていいます。しかしいまだに堤高が足りず、更に右岸は手がつけられていません。右岸は高台が手前にあるために氾濫しても写真右の建物だけが犠牲になるという考えのようです。しかしいまだに矢落川河口は、予讃線の鉄橋により大きく狭窄しており、大規模洪水では橋梁部で氾濫、橋梁も崩壊し、写真奥の県道も破壊される可能性があります。また、河道が著しく埋まっています。
鉄道橋かさ上げ、架け替えには多大の予算と時間を要しますが、河川治水事業の基本であって、過去70年の治水事業で解決しているべきものです。高知市国分川にも同じ問題があり、98高知大水害で氾濫を拡大させましたが、その後10年ほどで解消しています。本来、「こうかはばつぐん」であるために優先順位の高い事業です。
大洲市街、旧城下町の肱川左岸には一カ所パイピング(浸透水の挙動により生じる地盤や構造物が破壊されること)により堤防が決壊する可能性のあった場所がありますが、現場の家屋を取り壊し、修復作業が進められています。
写真の田園地帯は4m以上の浸水で、街道奥の古い集落も大きな浸水被害を受けました。無堤、暫定堤防の堤防整備が進められていますが、道路のかさ上げが着手されておらず、現状では治水機能が大きく制限されます(洪水時には水防扉または土嚢が必要)。
河床への砂礫の堆積が非常に目立ちます。
東大洲と並んで激しい被害を受けた柚木(ゆのき)地区、如法寺地区は、柚木地区では堤防が低く、如法寺地区は堤防が非常に低い無堤地区といって良い状態です。
ともに復旧は遅れており、目立った治水事業は行われていません。沈下橋左に見える砂礫の堆積は、かつてはなかったもので、長年の河道堆積の放置が現在も続いています。
過去の水害の教訓から整備された水防壁を乗り越えた水で浸水したとのことです。とりわけ低地に立地しているという訳ではありません。
◆70年間、いったい何をしてきたのか?
菅田地区は、自然堤防に護岸をした程度の大規模無堤地区ですが、国交省直轄でなく、県管理区間のためか現時点でいまだに治水設備はありません。激しい被害の痕跡を残す左岸側の旧集落では復旧が着手されていますが、一見被災の目立たない右岸側の新集落では住民の転出が目立ち始めたとのことです。
この菅田地区は、江戸時代の治水設備がいまだに残っており、地史的にはとても興味のあるところですが、河川整備という点ではお粗末極まりないと言うほかありません。70年間何をしてきたのでしょうか。
肱川右岸の菅田町阿部付近は、唯一、近代的堤防が完成しているように見える場所ですが、写真のように肱川名物の堤防切り欠きが存在し、治水機能が全くありませんでした。この地区も国道197号線より下は全没、国道より上は悪くても床下浸水となったそうです。
このことは、中破したお堂の浸水痕からも確認出来ます。
植生に付着する水害ゴミなどと対比したところ、この肱川名物、切れている堤防でなければ、この地区は水没しなかったものと思われます。切れていてありがたいのは、安いピザやチーズくらいだと思います。まさに「こうかはない」です。
崩落した大成橋対岸から大川集落を見ますと、大川郵便局こそ営業再開していますが、肝心の集落から家がなくなっていました。現状は、「櫛の歯が抜けた」でなく「わずかな櫛の歯」という状態です。崩落した大成橋は、輪切りにされて刺身のように並べられています。折損した橋脚は撤去されていました。
他に治水事業は認められませんでした。
この一帯は、かつての水害を教訓に堤防の出入りのための切り欠き部に簡易の樋門をつけたのですが、肱川大水害では「こうかはない」のでした。
町並みは根こそぎ破壊されており、今後が深く憂慮されます。
鹿野川地区までの途中、国道197号線大規模崩壊箇所を通りましたが、肱川流域80kmの大水害のために復興資源が足りないためか、仮道路取り付け後は手つかずでした。
道路の崩壊が進んでおり、今後が危ぶまれます。
鹿野川地区(旧肱川町)では、市街地である商業街区が取り壊されており、まるで津波の跡のようでした。この地区は、江戸時代前より数百年続く肱川流域でも有数の行政、商業の要ですが、大水害により壊滅の様相があります。
住民だけの力で復興できるかは未知数でしょう。
この地区は、計画中の山鳥坂ダムによる放水の影響も大きく、鹿野川ダムと山鳥坂ダムの放水手順によっては昨年の水害を上回る甚大な被害を受ける可能性もあります。ダムの制御は極めて難しくなるものと思われます。
下流域の治水対策を完全に行った上でも鹿野川ダムとの連携操作手順を整備しない限り「こうかはいまひとつ」でしょう。
◆全損で機能を失った発電所は廃止も検討せよ
鹿野川大橋から鹿野川ダムの間には下石丸地区と肱川発電所(10MWe)があります。ともに甚大な洪水被害を受けましたが、被災後と状況は余り変わっていません。下石丸地区は、流失した公園周辺の復旧に着手したようです。
肱川発電所の取り付け道路は、直下が大きく崩壊していますが、他地区に優先して立派な擁壁が作られつつあります。この部分が崩壊するとダム取り付け道路とともに国道197号線も崩落しますので、優先順位が高いのでしょうか。
肱川発電所は全損の被災で、発電所として機能していません*。
<*“肱川発電所 23年1月に復旧予定 公営企業管理者 新建屋を建築|愛媛新聞2018/12/11”>
鹿野川ダムの治水ダムとしての機能を抑制しているのは肱川発電所の水利権ですので、下流域にこれだけの激甚な行政災害を起こした以上、肱川発電所は廃止し、水利権をなくした上で、鹿野川ダムを治水専用ダムにするため流水ダム(穴あきダム)にしてしまうのも検討してはどうでしょうか。野村ダム下流全域での河道掘削を河川整備計画に明文化してまで拒否し、住民の生命と財産を犠牲とするほどに生態系保護にこだわるのなら、鹿野川ダムの流水ダム化が最も「こうかはばつぐん」と愚考します。ダム湖跡の自然は時間をかけて収斂します。
従前の欠陥治水事業のサンクコストについてはケチくさいことを言わずに放棄しましょう。施設は肱川治水事業失敗の記録として保存、公開すれば良いです。長い目で見れば、費用負担は軽減されるでしょう。
<*出典リンク>
野村町に入ると荷刺(にさし)交差点の食堂兼商店兼住居は解体されていました。水没の被害を受けたうえに周辺集落が壊滅し大洲市への街道も山体崩壊で閉塞しましたので、当面の事業継続を諦めたものと思われます。気の毒です。
荷刺交差点から野村市街地までの肱川左岸の道路は、水害で完全に破壊されています。復旧事業はおこなわれますが、相当な時間が予想されます。
野村市街地に入ると、家屋商店が取り壊され、櫛の歯が抜けた様相を示しています。野村保育所も解体されています。対岸の三嶋地区は下流の大川地区と同じく多くの家がなくなっていました。
今回、取材時間の都合で撮影出来ませんでしたが、野村では河道掘削工事が行われていました。今まで頑として拒否してきたのはどういうことでしょうか。70年間何をやってきたのかたいへんに不思議です。
◆「ダム建設のためのダム事業」山鳥坂ダム
最後に、肱川支流河辺川の山鳥坂ダム建設予定地の紹介をします。現在、建設予定地の地質調査をしていますが、ダム本体には全く未着手です。但し、ダム準備工事の準備工事は山上で行っており、ダム建設に伴う県道の付け替えが進んでいます。常套手段の既成事実化で、八ッ場ダムなどでも行われてきたものです。
山鳥坂ダムは、当初、松山市への分水のために計画された利水ダムでしたが、分水の費用対効果が極めて低いと評価され、1998年に自公保与党三党によって事業廃止が勧告されましたが、愛媛県の強硬な巻き返しで継続され、2013年に安倍政権によって治水専用ダムとして事業続行されています。
山鳥坂ダムは、典型的な長期化・曰く付きダムです。また、周辺事業の既成事実化によってダム建設を強行するダム建設のためのダム事業の典型事例といえます。
山鳥坂ダムについて利水ダムとしてはその正当性が1998年の時点で否定されており、水利権の調整にも失敗したために利水ダムとしての実現性はありません。
治水ダムとしては、肱川が事実上の無治水河川、未完成治水河川であるために事業効果はありません。むしろ河辺川、肱川合流点でのダム災害を誘発する可能性があり、鹿野川ダムの治水機能を阻害する可能性もあります。
治水事業としてダム建設を行うならば、肱川にはその前にやることが山積しており、新ダム建設に行政資源を割く余裕はありません。
私は、治水・利水事業としてのダム建設を否定しませんが、70年間、ダム建設のためにダムを造ってきた結果が無治水河川肱川、欠陥治水河川肱川であって、その結果が肱川大水害という行政災害といえます。70年間、順番を完全に間違えてきたのです。
行政を監視し、ただすのが地方議会ですが、過去70年間、その責を放棄してきた結果が今の欠陥河川肱川であり、肱川大水害といえましょう。
行政の第一の仕事は、市民の命を守り、次いで財産を守ることです。議会はその監視者です。肱川の河川計画では、治水の8割から9割を河道整備が、1割から2割をダムが担います。ダムの役割は時間稼ぎです。現状の欠陥河川肱川は、河川の流下量が無治水地区の多数残存によって70年間本質的には変わらず、ダムは出来ても効果は大きく阻害されます。まさに宝の持ち腐れです。ダムの機能を発揮させれば無治水箇所から中〜大規模水害を起こし、また多数の市民が犠牲になります。
今は、肱川全区間の河道改修に全力を投じるときでしょう。山鳥坂ダムは、その後で十分ですし、そうでなければ意味がありません。最悪の場合、殺人ダムと化します。
今が選択の時と愚考します。
本稿、今後は項目毎に続きます。
『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』第3シリーズ水害編-8
<取材・文・撮影/牧田寛 Twitter ID:@BB45_Colorado photo by Nuclear Regulatory Commission via flickr (CC BY 2.0)>
まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
形骸化した公共事業の戦略的環境アセス(計画段階の環境配慮アセス)
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戦略的環境アセスメント(Strategic Environmental Assessment(SEA))は、事業に先立つ早い段階で著しい環境影響を把握し、 複数案の環境的側面の比較評価及び環境配慮事項の整理を行い、計画の検討に反映させることにより、事業の実施による重大な環境影響の回避又は低減を図るものです。
欧米では大分前から導入されていて、日本では2007年度に「戦略的環境アセスメント導入ガイドライン」が策定され、その後、法制化するため、環境影響評価法が改正されて(2013年度から施行)、環境アセスの最初に計画段階で環境を配慮する「配慮書手続」が導入されました。
しかし、公共事業に関する戦略的環境アセスの実態はまことに憂うべき状態にあります。
ダムについて例をあげれば、秋田県由利本荘市に建設予定の総貯水容量4680万㎥の大型ダム「鳥海ダム」です。2024年度完成予定の成瀬ダム(秋田県東成瀬村)に次ぐ大型ダムとして東北地方整備局が建設を計画しているダムです。完成は2030年度より先のことで、ダムの必要性は希薄だと思います。この鳥海ダムは計画段階環境配慮の手続きをパスすることがまかり通りました。
「公共事業チェック議員の会」と市民団体による国会公共事業調査会(仮称)準備会が3月28日(木)に衆議院第一議員会館内で開かれ、そこで、この問題について嶋津が簡単な報告を行いました。下記のとおりです。
1 戦略的環境アセスメント導入ガイドライン(環境省 2007年4月5日)
戦略的環境アセスは複数案について環境影響の程度を比較評価することにより行うもので、導入ガイドラインが策定されました。
戦略的環境アセスをお読みください。
2 環境影響評価法の改正:「配慮書手続」の導入(2013年4月1日施行)
戦略的環境アセスを法制化するため、環境影響評価法が改正されました。
事業の枠組みが決定する前の、事業計画の検討段階において環境配慮を行う「配慮書手続」が環境影響評価の手続の最初に導入されました。
環境アセス法の改正 配慮手続きの導入をお読みください。
3 国土交通省「公共事業の構想段階における計画策定プロセスガイドライン」(2008年4月)
公共事業に関する戦略的環境アセスが環境サイドで行われないよう、国土交通省が「公共事業の構想段階における計画策定プロセスガイドライン」を策定しました。
国交省 公共事業構想段階計画策定ガイドラインをお読みください。
このガイドラインの解説に次のように書かれています。
「本ガイドラインが示す計画策定プロセスは、事業実施より前の段階の構想段階の計画策定過程に おいて、環境を含め様々な観点から検討を実施し合理的な計画を策定することとなっており、いわゆる戦略的環境アセスメント(SEA)を含むものとなっている。」
4 国土交通省の告示(2013年3月29日官報 号外第67号)
国土交通省は、「配慮書手続」を導入する上記の環境影響評価法の改正に対応するため、次のように、公共事業者が作成した書類を環境影響評価法の配慮書に代わるものとする告示を行いました。
国土交通省告示第323号 公共事業の構想段階における計画策定プロセスガイドラインにより、作成された複数案の比較評価
国土交通省告示第324号 河川整備計画の目標を達成するための代替案との比較
国土交通省告示第325号 構想段階における市民参画型道路計画プロセスのガイドラインにより作成された複数の比較案の比較評価
をそれぞれ環境影響評価法の配慮書に代わる書類とする。
国土交通省の告示をお読みください。
5 鳥海ダム建設事業で計画段階環境配慮書とみなされた書類
東北地方整備局が作成した鳥海ダムの河川整備計画比較表(たった一枚の書類)が鳥海ダム建設事業の計画段階環境配慮書とみなされ、環境アセスの計画段階環境配慮の手続きをパスしました。
これは、「鳥海ダム+部分的河床掘削・築堤案」と「全川的な河床掘削・築堤案」の比較表であって、環境面の比較は数行だけです。
6 中部横断自動車道(長坂~八千穂)で計画段階環境配慮書とみなされた書類
関東地方整備局が作成した中部横断自動車道の検討書が計画段階環境配慮書とみなされ、環境アセスの計画段階環境配慮の手続きをパスしました。
これは、「中部横断自動車道の全線整備案」、「一部旧清里有料道路活用案」、「国道141号(一般道)改良案」の比較表であって、環境面の比較は数行だけです。
以上のように、環境影響評価法が改正されて「計画段階環境配慮の手続き(戦略的環境アセスメント)」が導入され、複数案の環境面での評価を行うことになったにもかかわらず、国土交通省関係の公共事業では事業者が簡単な比較表をつくるだけでよいことになり、「戦略的環境アセスメント」は完全に骨抜きにされてしまいました。
国土交通省の圧力に屈して、自らの主導権を発揮できない環境省はなんと非力な省なのでしょうか。
石木ダム、連日の裁判 3.11(事業認定取消控訴審) 3.12(工事差止請求1審)
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2019年3月11日午後2時から福岡高等裁判所にて石木ダム事業認定取消訴訟第2回控訴審が、翌3月12日午後4時半からは長崎地方裁判所佐世保支部で石木ダム事業工事差止訴訟第10回口頭弁論が開かれました。。
石木ダム事業認定取消訴訟第2回控訴審
川棚町内発の大型チャーターバスと長崎市内発のチャーターマイクロバスに乗り合わせた皆さん、福岡市内の支援者など大勢の支援者が傍聴に参加し、法廷は満員状態になりました。
審理の内容とその位置づけを確認する午後1時半からの門前集会、午後2時からの審理傍聴、終了後の福岡市立城南市民センターでの報告集会、充実した一日になりました。
昨年12月19日の第1回控訴審で被控訴人側から提出された「控訴人控訴趣意書への答弁書」に対しての、私たち控訴人側からの反論を4通提出しました。
利水面からの反論は、①これまで取り上げてきた利水全般、新たな問題として、②佐世保市が2012年度以降は5年ごとの再評価をしていない問題、⓷石木ダム事業費負担金と石木ダム関連水道事業費によって佐世保地区水道の料金値上げが必然であることの検証に必要なデーターと手法の提供要請 以上4通です。その骨子を高橋謙一弁護士が口頭説明しました。
治水面からの反論は、これまで取り上げてきた治水問題への被控訴人側答弁書の内容が当方の控訴理由書への答えになっていないことを指摘し、さらなる釈明を求める内容です。その骨子を平山博一弁護士が口頭説明しました。
双方が提出した書面
控訴人側
j3利水要旨 高橋弁護士 口頭説明
j4治水要旨 平山弁護士 口頭説明
控訴審J3(利水)
控訴審J4(治水)
控訴審J5(再評価)
控訴審J6(水道料金)
被控訴人側
次回は7月3日(水)午後2時からです。
控訴人側 今回被控訴人側から提出された準備書面1と2、今後提出される下記書面を踏まえての反論を6月26日までに提出することになりました。
被控訴人側 5月31日までに今回控訴人側が提出した準備書面3~6に対する認否反論、および、求釈明対応を提出することになりました。
7月3日の第3回控訴審では、上記双方から提出された書面に基づいた審理になります。
報告集会
- 佐世保水道の5年ごとの再評価は2017年度にあたっているが、「2012年度再評価は『本体工事等の着工前評価』であったから、10年間は必要ない」として拒否している。どんなに拒否しようとも10年後は2022年度で石木ダムは絶対に完成していないから再評価は避けられない。2022年度の再評価では「水需要が伸びる見込みがなく、石木ダム不要」を勝ち取れる。その時まで本体工事に着工させない闘いを組もう。
- 政権は「行政判断は司法判断より上}としている。これが間違いの元。裁判所は政権の意向を先取りしてはんけつを下している。まさに政府の湯湯払い役をしている。
- 行政訴訟では行政の裁量権を盾にした判決が続く。原発訴訟では社会通念(まだ原発は必要とする)を盾にした原告敗訴判決が続いている。ダム不要も社会通念にならないと訴訟では勝てない。
- 社会通念とするには、「ダム事業を強行した水道事業体は財政難に陥り、水道料金を値上げている」事実をしっかり集めて、多くの人に知らせらせよう。
- 川辺川ダム中止は、潮谷義子熊本県知事が国に主催させた「川辺川ダムを考える熊本県民集会」で合意形成を図ったことによる。
- 「ほたるの川のまもりびと」を法廷で上映し、”起業者、水没予定地住民・支援者、裁判官 みんなが一緒に、スクリーンに映る世界の共有”を必ず実現させたい。
などが話されました。
実際に、「ほたるの川のまもりびと」の法廷内上映については、製作者側の皆さんから同意をいただいております。
起業者の皆さん、裁判官の皆さんが知ることができなかったであろう世界を是非とも知らせたい!
必ず法廷内上映か実現させたいですね。!!
石木ダム事業工事差止訴訟第10回口頭弁論
私たち原告側が証人申請している、利水問題では佐世保市水道局長である谷本薫治氏、治水問題では水源連共同代表の嶋津暉之氏 両名の採用について審理されました。しかし、被告側がこの日もまた反対を続け、裁判所は下記の判断を下しました。原告の本人陳述に関しては、人数・所要時間が残っています.
なお、事前に持たれた進行協議では、4月以降新たな裁判体(裁判長・陪席裁判官の構成)となることを裁判所が告げました。そのため、証人尋問に関する決定は新たな裁判体に委ねるとしたことから、新たな裁判体との進行協議が4月22日11時から、と決定されました。
⑴ 期日関係
4月22日11時~ 進行協議期日
6月 4日14時~ 弁論期日
⑵ 宿題
ア 4月22日までに谷本尋問に関する意見書,及び,尋問スケジュール
イ 5月末までに水道料金に関する主張(控訴審提出分)
ウ 尋問予定当事者の選定,及び,起業地住民の陳述書を提出する(期限は尋問の2週間から1か月前)。
⇒ 尋問候補日①7月17日終日,候補日②9月18日終日
双方が提出した書面
原告側
被告側
マスコミ報道
3月11日の事業認定取消訴訟第2回控訴審と翌12日の工事差止訴訟第10回口頭弁論について、長崎新聞が報じていますので、転載します。
相模川に本州南限のサクラマス自然遡上を復活させることができるか
神奈川県の相模川で本州南限のサクラマスの自然遡上を復活させる取り組みを取り上げた記事を掲載します。
相模川は河口から5kmのところに寒川取水堰、12kmのところに相模大堰、さらにその上に磯部頭首工があります。いずれも魚道が付いていますが、サクラマスの遡上に有効かどうかはわかりません。
また、本川の更なる上流には城山ダム、相模ダム、支川の中津川には宮ケ瀬ダムがそびえています。
サクラマスの自然遡上を復活させる運動によって、川の堰やダムの問題が浮き彫りになっていくと予想されるので、重要な取り組みであると思います。
相模川に本州南限のサクラマス自然遡上を復活させることができるか
(ルアマガ 2019/3/4(月) 17:00配信) https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190304-00010000-tsuriplus-life&p=1
(写真)サクラマスが自然遡上できる環境を整えるには、多くの課題がある
サクラマスの太平洋側南限と言われる神奈川県・相模川。かつてこの川には、数多くのサクラマス(ヤマメの降海型)が遡上する姿が見られたというが、降海型の魚が生存するのに適さない河川環境であることなど様々な要因が重なり、今は見る影もない。
そんな相模川に、サクラマスを復活させようというプロジェクトが動き出している。相模川・中津川・小鮎川の三川合流地点にて行われたイベントの模様を、トラウトアングラーの木下進二朗さんにレポートしてもらった。
(写真)木下進二朗さん
■トラウトアングラー
木下進二朗(きのした・しんじろう)
静岡県中部や伊豆地方の川をホームとするトラウトアングラー。
ジャクソンのフィールドテスターを務める。
(写真)サクラマス。最大で70cmほどにも成長する。冷水域を好み、川で孵化して海で育ち、再び産まれた川に戻ってくる降海型の魚。ヤマメは河川に残留するサクラマスの陸封型
かつて多くサクラマスが遡上していた相模川
ここ数年「catch&clean」というフィールド清掃活動に参加させていただいているのだが、昨年神奈川県・中津川で行われたこの活動の中で耳寄りな情報をキャッチした。同県相模川水系に“サクラマスを復活させよう”というプロジェクトが進行中とのことである。ここで気になるのは“復活”という言葉だ。
聞くところによると、かつて相模川には多くのサクラマスが遡上していたそうだ。遡上河川としては本州の南限と言われており、相模川に遡るマスはそういった意味でも非常に貴重な存在であることがすぐに理解できた。
今ではダムや取水堰堤が数多く建設され、その数は激減。釣りの対象にするのは難しくなってしまったそうだ。彼らのように、川と海を行き来する魚類の存在は河川環境を映し出すと云われるため、日常的に水道水や電気を使う僕達にとっては耳の痛いところでもある。
(写真)プロジェクトの発起人となったザンマイオリジナルハンドメイドルアーズの小平豊さん。「catch&clean」の活動に深く携わる人物
ゆかりある地で育ったヤマメを放流したい
さて、件のプロジェクトの発起人となったのは「ZANMAI ORIGINAL HAND MAID LURES」の小平豊さん。イベント開催までの道のりは険しかったと語ってくれた。
まず、皆さんご存知かもしれないが個人が勝手に川に魚を放流する事は、ゲリラ放流になってしまう。そのため、水系を管理している“漁協の承認”が必要になってくる。
さらに、放流をするからにはそのための魚。つまりサクラマスになるヤマメを調達しなければならない。それに伴い資金も必要なのは言うまでもない。
小平さん曰く、漁協へは何度も足を運び、理解を求めるために説明と協議を繰り返したそうだ。そして資金調達については、このプロジェクトに共感した「catch&clean」参加者や、地元ロコアングラーである木岡氏を始めとした有志が「丹沢の釣り人大反省会」と称したチャリティイベントを開催。
神奈川県大和市にお店を構える「くらげ亭」さんに協力してもらい、イベント当日の飲食代を寄付していただくという、この上ないご厚意を承ったのだそうだ。
残念ながら僕は参加することが出来なかったのだが、SNSには未来の相模川を映すかのような明るく楽しそうな写真が数多く掲げられていた。
(写真)放流したのは相模川水系のヤマメ
できるだけ、元の環境に近いものを
放流会を開催するに際し、放流する魚にもこだわった。山梨県水産試験場より発眼卵を購入し、同県忍野村の宮下養魚場に飼育を依頼。
忍野は相模川水源のひとつでもあり、少しでもゆかりのある地で育ったヤマメであることが重要だった。卵から孵ったヤマメは降海型となるように育てられたそうだ。
ご存知のようにサクラマスになる個体は、自然界で発育が遅れ一度ライバル争いに敗れたものが海へと下る。あえて飼育中のエサの量を抑え発育を遅らせることで、本能的に海に下ろうとするのだそうだ。その目安は8月の時点で、10cm未満の個体だという。
他にも大小様々な課題があったようなのだが、裏側のお話はこのぐらいにしておこう。
(写真)この取り組みに関心のある84名もの人が集まった
釣り人が成果を公表し本州南限のブランドリバーへ
去る2018年11月25日(日)。84名もの参加者たちが、相模川・中津川・小鮎川の3つの川が合流する前の広場に集結した。
この場所が選ばれたのには理由があり、釣り人だけでなく多くの人が利用する広場であれば、カワウが近づき難いという狙いもあるそうだ。それに、河口から15~16km地点にあるこの場所は野生を取り戻した個体が半日程で汽水域にたどり着けるため、ヤマメたちにとっても好都合のようだ。
(写真)放流されたヤマメは次々と泳ぎだしていった
放流ヤマメを区別する
開始してから間もなく、バケツに移されたサクラマス候補生が参加者に配られた。用意されたのはおよそ3500尾のヤマメ。その内の100尾から油鰭をカットし、区別化を図った。さらにカットした鰭もDNA解析用サンプルとして保管。
昔から「可愛い子には旅をさせよ」というけれど、たった今バケツに受けたヤマメでさえも愛おしく思える。
近くで小平さんの声がしたので、この活動の発起人でもある氏に、唐突に今の心境を聞いてみた。
小平「あとは皆さんが成果(釣果)を見せてください。最終的に目指すのは“放流に頼らない自然回帰のサイクルを取り戻すこと”。それにはまだまだ課題は山積みで、釣り人・漁協・行政が連携することが必要なんです」
課題はあるかもしれないが、これだけたくさんの参加者が集まっているのだから、皆で真剣に取り組むことで、大きな一歩に繋がるはずだ。
(写真)神奈川県水産試験場専門研究員の勝呂尚之さん。当日は“ 野外講座 ”と題し「 丹沢のこと・相模川のこと 」について、講習会を開いていただいた
いま必要なのは、サクラマスの活動に関するデータを集めること
その後行われた、神奈川県水産試験場の勝呂尚之さんのお話しの中でも具体的に挙げられたのは、サクラマスが戻って来た際の産卵場所の調査と整備は大きな課題とあった。
対策のひとつとして、大規模堰堤やダムのように魚道を設けることが困難な場合において、迂回するための水路の設置がビジョンにあるようだ。
そのためには、小平さんの言う通り僕たち釣り人がまずは成果を公表し、サクラマスの希少性と注目度の高さ、それにおける経済効果をアピールしたいところである。
(写真)イベント終了後には豚汁が振る舞われた。できるだけゴミを出さないよう、参加者たちは自前の箸と器を持参。「catc&clean」らしい試みである
いつか本州南限の天然サクラマスが遡上する日が来ることも夢ではない
最後に、相模川のサクラマスを釣り上げることが出来た際は次のことを思い出して欲しい。放流当時は体長15cm(40g)程度だったこと。過去の調査から、東は房総半島沖・三浦半島沖。西は紀伊半島沖までを旅して来た可能性があること。
釣り人はついついサイズに目がいってしまいがちだけど、彼等が乗り越えた苦難を想像しリスペクトしてあげて欲しい。
そして、釣果があれば、関係機関(相模川漁連・catch&clean公式ブログ・ザンマイHP)に連絡をいただけると研究材料になるそうなので、ぜひともご協力願いたい。
ルアマガ+編集部
地滑り対策地半減 八ツ場ダムに警鐘 盛り土強度にも疑問 群馬 地質研究者ら会見
八ッ場ダムの本体工事が残念ながら、急ピッチで進んでいます。来年3月には完成する予定で、本体工事が終わったら、試験湛水が始まることになっています。
八ッ場ダム事業にはまだまだ多くの問題がありますが、その一つとして試験湛水やその後の本格運用で地すべりが引き起こされる危険性の問題があります。
八ッ場ダム貯水池周辺は地質が脆弱なところが多く、また、周辺に造成された移転代替地は民間の宅地造成では例がない超高盛土の造成が行われたため、試験湛水や本格運用による貯水位の変動で地すべりが起きる危険性があります。
その危険性が強く指摘されてきたので、2011年に行われた八ッ場ダム事業の検証で、国土交通省はようやく、地すべり対策を10カ所(対策済みの1カ所を除く)、代替地安全対策を5カ所で実施する方針を示しました。
ところが、最近になって国土交通省は費用節減のため、地すべり対策を5カ所に、代替地安全対策を3カ所に減らし、対策を実施するところも安上がりの工法に変えてしまいました。
地元の安全性が蔑ろにされているのです。そこで、八ッ場あしたの会は情報公開請求で国土交通省の地質報告書と対策検討報告書を入手し、対策箇所削減と対策工法変更の問題点について専門家グループに検討を依頼しました。
2月26日に専門家グループが群馬県庁記者クラブでその検討結果について記者会見を行いました。その記事を掲載します。
記者会見の様子は八ッ場あしたの会のHP https://yamba-net.org/46148/ 、
会見の配布資料は八ッ場あしたの会のHP https://yamba-net.org/46170/ をご覧ください。
地滑り対策地半減 八ツ場ダムに警鐘
盛り土強度にも疑問
群馬 地質研究者ら会見
(しんぶん赤旗 2019年2月27日)https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2019-02-27/2019022701_04_1.html
(写真)会見する伊藤さん(左から2人目)ら研究者と八ツ場あしたの会のメンバーら=26日、群馬県庁内
「いま、最低限の対策をとらないと重大な事態を引き起こしかねない」―。不要不急の大型公共事業と指摘されながら国土交通省が工事を推し進めてきた八ツ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)。今年中にダムに貯水して機能を確かめる「試験湛(たん)水」を行う予定です。それを前に地質の研究者らが26日、群馬県内で会見を開き、同ダムの不十分な地すべり対策に警鐘を鳴らしました。
会見をしたのは、伊藤谷生・千葉大学名誉教授ら地質などの専門家です。伊藤さんらは、同ダム建設の中止と建設予定地の地域再生を求めて活動する「八ツ場あしたの会」が情報公開で入手した国交省の資料を調査しました。
その結果、2011年の計画では、10カ所にするはずの地すべり対策が17年には5カ所に減らされていました。
また、同ダム水没予定地の住民は、ダム湖を見下ろす造成地に建設した代替地に移転しています。高い盛り土の上に造られたため、11年の時点では5カ所で鋼管杭(くい)やアンカーを打ち込んだ地すべり対策をする予定でした。
ところが、17年に2カ所ではなんら対策をしないことになりました。さらに残り3カ所も杭の打ち込みをやめ、「押さえ盛り土」などの安価な工法に変更されていました。
伊藤さんは「温泉地帯にダムを造るというのはあまりないのではないか。押さえ盛り土でセメントを使うが、酸性に弱い。水没することでセメントの劣化が懸念される」と指摘しました。
さらに、伊藤さんらは、盛り土の強度について国交省の報告書に「最初に結論ありきで、恣意(しい)的に数値が操作されている疑いがある」と指摘しました。
「あしたの会」は3月中に国交省関東地方整備局に公開質問状を提出する方針です。
八ツ場ダム工事事務所は「調査検討を行い、必要に応じて安全性を確保しています」と、本紙の取材に答えました。同ダムは、国と1都5県で5320億円の事業費となっています。
(写真)工事中の八ツ場ダム(国交省のHPから)
代替地や貯水池 「安全対策に問題」 八ッ場あしたの会
(上毛新聞2019年2月27日)
新年度完成予定の八ッ場ダム(長野原町)について、市民グループの八ッ場あしたの会は26日、県庁で記者会見し、
水没予定地の代替地や貯水池周辺で、地滑りなどが起きないようにする安全対策に問題があると指摘した。
ダムに水をためる前に対応を検討すべきだとしている。
国土交通省の地質調査や、対策工事に関する資料を情報公開請求で入手し、専門家の協力で検討した。
その結果、安全対策を決める際に用いるデータの評価などについて、不適切とみられる項目が見つかったという。
当初予定より安価な工法に変更されたとして「事業費を圧縮するためではないか」とみている。
国土交通省に近く公開質問書を送る。
国土交通省八ッ場ダム工事事務所は上毛新聞の取材に、同会の指摘内容を把握していないとしつつ「対策については適正に調査検討を行い、安全性を確保している」とした。