水源連:Japan River Keeper Alliance

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八ッ場ダムの代替地安全対策等が後退したことに関する公開質問書

2019年3月16日
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八ッ場あしたの会が国土交通省関東地方整備局に対して、八ッ場ダムの代替地等の安全性に関して公開質問書を提出しました。
八ッ場あしたの会のメールを掲載します。

 

本日(3月15日)、八ッ場あしたの会では、国土交通省関東地方整備局長宛てに
「八ッ場ダムの代替地安全対策および地すべり対策が大きく後退したことに関する公開質問書」を
送付しました。

公開質問書の全文と資料、資料の目次を以下のページに掲載しました
https://yamba-net.org/46335/

国交省八ッ場ダム工事事務所の広報では、
八ッ場ダムのコンクリート打設は、昨年12月~今年2月まで続けて打設率9割と発表されています。

試験湛水の時期が迫っていると思われますが、
湛水に備えた代替地の安全対策と地すべり対策の工事は、
今もダム湖予定地周辺の各所で続けられています。

本体工事現場に隣接する川原湯温泉の代替地(安全対策工事現場)の写真も
ホームページに掲載しましたので、ご覧になってみてください。

八ッ場あしたの会 https://yamba-net.org/

平成史 平成の大渇水 平成6年  再来しても水需要の減少で断水にはならない

2019年3月15日
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1994年(平成6年)の大渇水を取り上げた記事を掲載します。
1994年渇水は西日本では近年で最大の渇水でした。一部の都市では長時間の断水が行われました。
しかし、その後、水道の水需要がかなり減ってきていますので、そのような大渇水が再来しても、当時のような厳しい状況にはなりません。
参考までに、全国の水道の水需要の変化を下図に示します。全国の水道の一日最大給水量は現在は当時よりも20%も小さくなっています。
ほとんどは一人当たり一日最大給水量の減少によるもので、下図のとおり、一人当たり給水量は23%も小さくなりました。
今後は給水人口も確実に減っていきますので、水需要の規模はますます小さくなっていきます。
1994年の渇水は西日本では確かに大渇水でしたが、今後、そのような大渇水が到来しても、水需要の規模が小さくなっているので、断水になることはなく、給水制限不要かまたは減圧給水で対応できるレベルであると考えられます。
新たなダムを考える必要はまったくありません。

平成史 生活② 平成の大渇水 平成6年
(ウェザーニュース2019年3月14日 11時25分) http://news.livedoor.com/article/detail/16157930/

局地的な渇水はときおりありますが、平成6年(1994年)から翌年にかけて西日本で起きた渇水は、その規模も期間もきわめて異例なもので、平成の大渇水と呼べるものでした。
カラ梅雨と夏の高温で始まった渇水
平成6(1994)年の夏は異常に早い梅雨明けから始まりました。連日、勢力の強い太平洋高気圧に覆われ、東京や大阪など広範囲でそれまでの最高気温記録を上回るなど、前年の冷夏・多雨から一転、晴れて猛烈な暑さが続きました。この年は、暖冬で雪が少なく、春から梅雨期にかけても少雨だったことが、夏の水不足に拍車をかけたといえます。

福岡市の断水期間は295日
福岡県内のダム貯水率は4月段階ではほぼ100%でしたが、梅雨時期の降水量が平年の約半分にとどまり、7月1日の梅雨明け後は連日猛暑が続きました。ダム貯水率は急激に減少し、7月20日には50%を割り込み、福岡市では8月4日に夜間断水が始まりました。9月に入って雨が降るようになりましたが貯水率は上がらず断水は長期化。翌年3月3日には貯水率が15%と最低値となりましたが、4月以降ようやくまとまった雨が降り、福岡市では6月1日、295日ぶりに断水が解除されました。
工場では海上輸送で水を確保
四国では最大の水がめである早明浦(さめうら)ダムの貯水量が梅雨明け以前から下がり始め、同ダムに依存していた高松市は7月11日から夜間断水、7月15日以降は16時から21時までの5時間給水になりました。その早明浦ダムは8月19日に貯水率は0%と完全に干上がってしまいました。中国地方も各地で給水制限や夜間断水が行われ、岡山県の水島地区にある製鉄所や化学工場では減産を余儀なくされました。旭化成水島工場では宮崎県や山口県などから海上輸送によって水を確保しました。

(写真)琵琶湖の水位が観測史上最低の123cm

兵庫県の揖保川(いぼがわ)上流にある引原ダムの貯水量は7月19日に52%ありましたが、8月14日には8%まで落ち込み、ダムを水源とする姫路市は8月22日から夜間断水を実施。9月10日には引原ダムが干上がり、デッドウォーター(取水口より下の水)の利用が始められました。琵琶湖の水位は6月頃から急激に低下し、9月15日には観測史上最低の-123㎝を記録。このため琵琶湖を水源とする京都市や大阪市では減圧による給水が実施されました。
関東地方は断水を免れた
愛知県内でも13市町村で夜間断水が実施され、水を大量に使用する工場では減産せざるを得ませんでした。関東地方でも水不足が心配され、利根川水系の取水制限が行われましたが、一部の地域を除いて断水となることはありませんでした。平成6年の渇水は今世紀最大の渇水とされています。近年、多雨の年と少雨の年の差が大きくなっていて、特に1960年代半ばからその傾向が顕著になっています。降雨の二極化に伴い、短時間に大雨をもたらす洪水対策とともに、異常渇水時に安定給水を確保することが今後の大きな課題になりそうです。
2019年4月30日で「平成」が終わります。ウェザーニュースでは、平成30年間に起こった気象や災害などを、過去の資料などをもとに連日振り返っていきます。

 

石木ダム、連日の裁判 3.11(事業認定取消控訴審) 3.12(工事差止請求1審) 

2019年3月14日
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2019年3月11日午後2時から福岡高等裁判所にて石木ダム事業認定取消訴訟第2回控訴審が、翌3月12日午後4時半からは長崎地方裁判所佐世保支部で石木ダム事業工事差止訴訟第10回口頭弁論が開かれました。。

石木ダム事業認定取消訴訟第2回控訴審

川棚町内発の大型チャーターバスと長崎市内発のチャーターマイクロバスに乗り合わせた皆さん、福岡市内の支援者など大勢の支援者が傍聴に参加し、法廷は満員状態になりました。
審理の内容とその位置づけを確認する午後1時半からの門前集会、午後2時からの審理傍聴、終了後の福岡市立城南市民センターでの報告集会、充実した一日になりました。

昨年12月19日の第1回控訴審で被控訴人側から提出された「控訴人控訴趣意書への答弁書」に対しての、私たち控訴人側からの反論を4通提出しました。
利水面からの反論は、①これまで取り上げてきた利水全般、新たな問題として、②佐世保市が2012年度以降は5年ごとの再評価をしていない問題、⓷石木ダム事業費負担金と石木ダム関連水道事業費によって佐世保地区水道の料金値上げが必然であることの検証に必要なデーターと手法の提供要請 以上4通です。その骨子を高橋謙一弁護士が口頭説明しました。
治水面からの反論は、これまで取り上げてきた治水問題への被控訴人側答弁書の内容が当方の控訴理由書への答えになっていないことを指摘し、さらなる釈明を求める内容です。その骨子を平山博一弁護士が口頭説明しました。

双方が提出した書面

控訴人側

j3利水要旨 高橋弁護士 口頭説明
j4治水要旨 平山弁護士  口頭説明
控訴審J3(利水)
控訴審J4(治水)
控訴審J5(再評価)
控訴審J6(水道料金)

被控訴人側

被控訴人J1利水
被控訴人J2治水

次回は7月3日(水)午後2時からです。

控訴人側 今回被控訴人側から提出された準備書面1と2、今後提出される下記書面を踏まえての反論を6月26日までに提出することになりました。
被控訴人側 5月31日までに今回控訴人側が提出した準備書面3~6に対する認否反論、および、求釈明対応を提出することになりました。
7月3日の第3回控訴審では、上記双方から提出された書面に基づいた審理になります。

報告集会

  • 佐世保水道の5年ごとの再評価は2017年度にあたっているが、「2012年度再評価は『本体工事等の着工前評価』であったから、10年間は必要ない」として拒否している。どんなに拒否しようとも10年後は2022年度で石木ダムは絶対に完成していないから再評価は避けられない。2022年度の再評価では「水需要が伸びる見込みがなく、石木ダム不要」を勝ち取れる。その時まで本体工事に着工させない闘いを組もう。
  • 政権は「行政判断は司法判断より上}としている。これが間違いの元。裁判所は政権の意向を先取りしてはんけつを下している。まさに政府の湯湯払い役をしている。
  • 行政訴訟では行政の裁量権を盾にした判決が続く。原発訴訟では社会通念(まだ原発は必要とする)を盾にした原告敗訴判決が続いている。ダム不要も社会通念にならないと訴訟では勝てない。
  • 社会通念とするには、「ダム事業を強行した水道事業体は財政難に陥り、水道料金を値上げている」事実をしっかり集めて、多くの人に知らせらせよう。
  • 川辺川ダム中止は、潮谷義子熊本県知事が国に主催させた「川辺川ダムを考える熊本県民集会」で合意形成を図ったことによる。
  • 「ほたるの川のまもりびと」を法廷で上映し、”起業者、水没予定地住民・支援者、裁判官 みんなが一緒に、スクリーンに映る世界の共有”を必ず実現させたい。

などが話されました。
実際に、「ほたるの川のまもりびと」の法廷内上映については、製作者側の皆さんから同意をいただいております。
起業者の皆さん、裁判官の皆さんが知ることができなかったであろう世界を是非とも知らせたい!
必ず法廷内上映か実現させたいですね。!!

石木ダム事業工事差止訴訟第10回口頭弁論

私たち原告側が証人申請している、利水問題では佐世保市水道局長である谷本薫治氏、治水問題では水源連共同代表の嶋津暉之氏 両名の採用について審理されました。しかし、被告側がこの日もまた反対を続け、裁判所は下記の判断を下しました。原告の本人陳述に関しては、人数・所要時間が残っています.
なお、事前に持たれた進行協議では、4月以降新たな裁判体(裁判長・陪席裁判官の構成)となることを裁判所が告げました。そのため、証人尋問に関する決定は新たな裁判体に委ねるとしたことから、新たな裁判体との進行協議が4月22日11時から、と決定されました。

⑴ 期日関係
4月22日11時~ 進行協議期日
6月 4日14時~ 弁論期日
⑵ 宿題
ア 4月22日までに谷本尋問に関する意見書,及び,尋問スケジュール
イ 5月末までに水道料金に関する主張(控訴審提出分)
ウ 尋問予定当事者の選定,及び,起業地住民の陳述書を提出する(期限は尋問の2週間から1か月前)。
⇒ 尋問候補日①7月17日終日,候補日②9月18日終日

双方が提出した書面

原告側

J14(佐世保市再評価問題)

被告側

佐世保市意見書 利水
長崎県準備書面(6)治水

マスコミ報道

3月11日の事業認定取消訴訟第2回控訴審と翌12日の工事差止訴訟第10回口頭弁論について、長崎新聞が報じていますので、転載します。

20190311-12 新聞報道

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛媛・鹿野川ダムで新放流設備が完成 西日本豪雨で氾濫の肱川上流 しかし、緊急放流は避けられなかった

2019年3月14日
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昨年7月の西日本豪雨で野村ダムとともに、ダムからの緊急放流により、肱川の大氾濫を引き起こした鹿野川ダムの新放流設備がほぼ完成し、昨日、試験放流が行われました。その記事とニュースを掲載します。
新放流設備のトンネル洪水吐は、現在の放流ゲートより23メートル低い位置に設置され、毎秒600トンの放流能力があり、洪水調節容量はこれまでの1650万トンから2390万トンに増加します。
しかし、昨年の西日本豪雨の前にこの改造が終わっていれば、緊急放流を避けることができたかというと、決してそうではありません。
昨年7月の鹿野川ダムの貯水量の変化をみると、下図のとおり、鹿野川ダムは事前放流を行って(発電用の放流管(最大毎秒28トン)を使用)、貯水量を豪雨直前は749.8万トンに落としていました。有効貯水容量が2980万トンですから、差し引き2230万トンの空き容量が確保されていました。改造後の2390万トンと大差がありません。したがって、改造後であっても、昨年の緊急放流は避けられませんでした。
さらに問題とすべきことは肱川ではこの鹿野川ダム改造に487億円の公費が投じられ、また、山鳥坂ダムの建設が優先され、その結果、肱川の無堤防地区の河川改修がなおざりにされてきたことです。
肱川ではダム優先の治水行政が昨年7月の大氾濫を引き起こしたのです。

愛媛・鹿野川ダムで新放流設備が完成 西日本豪雨で氾濫の肱川上流
(毎日新聞2019年3月12日 19時50分) https://mainichi.jp/articles/20190312/k00/00m/040/218000c

(写真)大量の水を二筋で放流するトンネル洪水吐(手前)。奥はダム堰堤(えんてい)上部から放水するクレストゲート=愛媛県大洲市肱川町山鳥坂の鹿野川ダムで2019年3月12日午前11時23分、中川祐一撮影
昨年7月の西日本豪雨で氾濫した肱川(ひじかわ)上流にある鹿野川ダム(愛媛県大洲市肱川町山鳥坂)で、新しい放流設備「トンネル洪水吐(ばき)」がほぼ完成し、12日に試験放流があった。豪雨では大規模放流後に氾濫が起きたが、従来より低い貯水位から放流することで約1.4倍の洪水調節容量を確保でき、治水能力向上が期待される。
トンネル洪水吐は、ダムの貯水池と下流の河川をトンネルでつないだ放流設備。ダム上部のゲートの23メートル下にトンネルを設けることで、従来よりも約5メートル低い貯水位から洪水調節が可能になる。洪水調節容量はこれまでの1650万トンから2390万トンと約1.4倍に増えるという。6月中旬の出水期までに操作規則を改定した上で運用を開始する予定で、国管理ダムでの運用は全国初になるという。
ダムを管理する国土交通省四国地方整備局山鳥坂ダム工事事務所の小長井彰祐所長は「洪水が来る前に(より多くの)放流が可能になり、ダムにためられる容量が増える。洪水被害が起こらないようにしたい」と話した。【中川祐一】

 

愛媛)洪水調節容量1.4倍 鹿野川ダム洪水吐試験放流
(朝日新聞愛媛版2019年3月13日鹿野川ダム トンネル洪水吐試験放流(愛媛県)

 

(南海放送2019/3/12(火) 17:47配信) https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190312-00000140-rnb-l38
(写真)鹿野川ダム トンネル洪水吐試験放流
豪雨などの際の洪水調節機能を高めるために大洲市の鹿野川ダムで、建設が進められている「トンネル洪水吐」の試験放流が行われました。
12日午前11時から行われた試験放流では、完成を控えたトンネル洪水吐から最大で毎秒38トンの放流が行われ、設備の動作確認や下流の水質確認などが行われました。
鹿野川ダムの洪水吐は、ダム湖と下流側を繋ぐ全長458メートル直径11.5メートルのトンネルで、現在の放流ゲートより23メートル低い位置に設置されています。
これによりこれまでより早い段階での洪水調節が可能になり、調節できる容量も現在の1650万トンから2390万トンに増加します。
山鳥坂ダム工事事務所の小長井彰祐所長は「洪水吐の運用で下流、そして上流の野村も含めて洪水被害ができるだけ、起こらないように、また軽減されるようにと切に願っている」と話しています。
洪水吐の設置に伴い鹿野川ダムは操作規則の変更を協議していて、6月中旬の運用開始を目指すということです。

鹿野川ダム試験放流、被害軽減めざす
(iza 2019.3.14 09:05 )http://www.iza.ne.jp/kiji/life/news/190314/lif19031409050013-n1.html

鹿野川ダム(愛媛県大洲市肱川町)の洪水調節容量を増やすための放流設備「トンネル洪水吐(ばき)」工事完成を前に12日、ゲートの動作確認を行う試験放流が地元住民らに公開された。同ダムは昨年7月の西日本豪雨時、緊急放流で基準放流量の6倍の放流を行い、下流域で大きな浸水被害が出た。
鹿野川ダムは治水・発電を目的に昭和34年に完成した。有効貯水量2980万トンのうち、洪水調節に割り当てられる容量は1650万トン。ダム本体の高い位置に放流ゲートが設置されているため、これまでは事前に貯水位を下げておくことができなかった。
洪水吐はゲートから23メートル下に設置。ダム上流の呑口で取水し、肱川右岸に掘られた475メートルのトンネルを抜けてダム下流の吐口から最大毎秒600トンを放流する。洪水が起きそうなときは事前放流を行う。完成後の洪水調節容量は従来の1・4倍にあたる2390万トンとなる。
この日は、試験として吐口から毎秒38トンの水が放流され、住民ら約300人が見学した。ダムを管理する国土交通省山鳥坂工事事務所の小長井彰祐所長は「洪水吐の運用で洪水被害が軽減されることを願う」と説明。放流による流水の濁りや水温など水質調査も行った。洪水吐の運用は6月中旬の予定で、これに伴うダム操作規則については「出水期までに改定したい」としている。
ダム下流域に住む大洲市徳森の片岡潤子さん(69)は西日本豪雨で床上2メートルの浸水被害を受けた。「あの時ほどの出水に(ダムが)耐えられるか、まだ半分は不安だが、期待したい」と話した。

相模川に本州南限のサクラマス自然遡上を復活させることができるか

2019年3月5日
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神奈川県の相模川で本州南限のサクラマスの自然遡上を復活させる取り組みを取り上げた記事を掲載します。
相模川は河口から5kmのところに寒川取水堰、12kmのところに相模大堰、さらにその上に磯部頭首工があります。いずれも魚道が付いていますが、サクラマスの遡上に有効かどうかはわかりません。
また、本川の更なる上流には城山ダム、相模ダム、支川の中津川には宮ケ瀬ダムがそびえています。
サクラマスの自然遡上を復活させる運動によって、川の堰やダムの問題が浮き彫りになっていくと予想されるので、重要な取り組みであると思います。

相模川に本州南限のサクラマス自然遡上を復活させることができるか
(ルアマガ 2019/3/4(月) 17:00配信) https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190304-00010000-tsuriplus-life&p=1

(写真)サクラマスが自然遡上できる環境を整えるには、多くの課題がある
サクラマスの太平洋側南限と言われる神奈川県・相模川。かつてこの川には、数多くのサクラマス(ヤマメの降海型)が遡上する姿が見られたというが、降海型の魚が生存するのに適さない河川環境であることなど様々な要因が重なり、今は見る影もない。

そんな相模川に、サクラマスを復活させようというプロジェクトが動き出している。相模川・中津川・小鮎川の三川合流地点にて行われたイベントの模様を、トラウトアングラーの木下進二朗さんにレポートしてもらった。

(写真)木下進二朗さん
■トラウトアングラー
木下進二朗(きのした・しんじろう)

静岡県中部や伊豆地方の川をホームとするトラウトアングラー。
ジャクソンのフィールドテスターを務める。
(写真)サクラマス。最大で70cmほどにも成長する。冷水域を好み、川で孵化して海で育ち、再び産まれた川に戻ってくる降海型の魚。ヤマメは河川に残留するサクラマスの陸封型

かつて多くサクラマスが遡上していた相模川
ここ数年「catch&clean」というフィールド清掃活動に参加させていただいているのだが、昨年神奈川県・中津川で行われたこの活動の中で耳寄りな情報をキャッチした。同県相模川水系に“サクラマスを復活させよう”というプロジェクトが進行中とのことである。ここで気になるのは“復活”という言葉だ。

聞くところによると、かつて相模川には多くのサクラマスが遡上していたそうだ。遡上河川としては本州の南限と言われており、相模川に遡るマスはそういった意味でも非常に貴重な存在であることがすぐに理解できた。

今ではダムや取水堰堤が数多く建設され、その数は激減。釣りの対象にするのは難しくなってしまったそうだ。彼らのように、川と海を行き来する魚類の存在は河川環境を映し出すと云われるため、日常的に水道水や電気を使う僕達にとっては耳の痛いところでもある。

(写真)プロジェクトの発起人となったザンマイオリジナルハンドメイドルアーズの小平豊さん。「catch&clean」の活動に深く携わる人物

ゆかりある地で育ったヤマメを放流したい
さて、件のプロジェクトの発起人となったのは「ZANMAI ORIGINAL HAND MAID LURES」の小平豊さん。イベント開催までの道のりは険しかったと語ってくれた。

まず、皆さんご存知かもしれないが個人が勝手に川に魚を放流する事は、ゲリラ放流になってしまう。そのため、水系を管理している“漁協の承認”が必要になってくる。

さらに、放流をするからにはそのための魚。つまりサクラマスになるヤマメを調達しなければならない。それに伴い資金も必要なのは言うまでもない。

小平さん曰く、漁協へは何度も足を運び、理解を求めるために説明と協議を繰り返したそうだ。そして資金調達については、このプロジェクトに共感した「catch&clean」参加者や、地元ロコアングラーである木岡氏を始めとした有志が「丹沢の釣り人大反省会」と称したチャリティイベントを開催。

神奈川県大和市にお店を構える「くらげ亭」さんに協力してもらい、イベント当日の飲食代を寄付していただくという、この上ないご厚意を承ったのだそうだ。

残念ながら僕は参加することが出来なかったのだが、SNSには未来の相模川を映すかのような明るく楽しそうな写真が数多く掲げられていた。

(写真)放流したのは相模川水系のヤマメ

できるだけ、元の環境に近いものを
放流会を開催するに際し、放流する魚にもこだわった。山梨県水産試験場より発眼卵を購入し、同県忍野村の宮下養魚場に飼育を依頼。

忍野は相模川水源のひとつでもあり、少しでもゆかりのある地で育ったヤマメであることが重要だった。卵から孵ったヤマメは降海型となるように育てられたそうだ。

ご存知のようにサクラマスになる個体は、自然界で発育が遅れ一度ライバル争いに敗れたものが海へと下る。あえて飼育中のエサの量を抑え発育を遅らせることで、本能的に海に下ろうとするのだそうだ。その目安は8月の時点で、10cm未満の個体だという。

他にも大小様々な課題があったようなのだが、裏側のお話はこのぐらいにしておこう。
(写真)この取り組みに関心のある84名もの人が集まった

釣り人が成果を公表し本州南限のブランドリバーへ
去る2018年11月25日(日)。84名もの参加者たちが、相模川・中津川・小鮎川の3つの川が合流する前の広場に集結した。

この場所が選ばれたのには理由があり、釣り人だけでなく多くの人が利用する広場であれば、カワウが近づき難いという狙いもあるそうだ。それに、河口から15~16km地点にあるこの場所は野生を取り戻した個体が半日程で汽水域にたどり着けるため、ヤマメたちにとっても好都合のようだ。

(写真)放流されたヤマメは次々と泳ぎだしていった

放流ヤマメを区別する
開始してから間もなく、バケツに移されたサクラマス候補生が参加者に配られた。用意されたのはおよそ3500尾のヤマメ。その内の100尾から油鰭をカットし、区別化を図った。さらにカットした鰭もDNA解析用サンプルとして保管。

昔から「可愛い子には旅をさせよ」というけれど、たった今バケツに受けたヤマメでさえも愛おしく思える。

近くで小平さんの声がしたので、この活動の発起人でもある氏に、唐突に今の心境を聞いてみた。

小平「あとは皆さんが成果(釣果)を見せてください。最終的に目指すのは“放流に頼らない自然回帰のサイクルを取り戻すこと”。それにはまだまだ課題は山積みで、釣り人・漁協・行政が連携することが必要なんです」

課題はあるかもしれないが、これだけたくさんの参加者が集まっているのだから、皆で真剣に取り組むことで、大きな一歩に繋がるはずだ。
(写真)神奈川県水産試験場専門研究員の勝呂尚之さん。当日は“ 野外講座 ”と題し「 丹沢のこと・相模川のこと 」について、講習会を開いていただいた

いま必要なのは、サクラマスの活動に関するデータを集めること
その後行われた、神奈川県水産試験場の勝呂尚之さんのお話しの中でも具体的に挙げられたのは、サクラマスが戻って来た際の産卵場所の調査と整備は大きな課題とあった。

対策のひとつとして、大規模堰堤やダムのように魚道を設けることが困難な場合において、迂回するための水路の設置がビジョンにあるようだ。

そのためには、小平さんの言う通り僕たち釣り人がまずは成果を公表し、サクラマスの希少性と注目度の高さ、それにおける経済効果をアピールしたいところである。

(写真)イベント終了後には豚汁が振る舞われた。できるだけゴミを出さないよう、参加者たちは自前の箸と器を持参。「catc&clean」らしい試みである

いつか本州南限の天然サクラマスが遡上する日が来ることも夢ではない
最後に、相模川のサクラマスを釣り上げることが出来た際は次のことを思い出して欲しい。放流当時は体長15cm(40g)程度だったこと。過去の調査から、東は房総半島沖・三浦半島沖。西は紀伊半島沖までを旅して来た可能性があること。

釣り人はついついサイズに目がいってしまいがちだけど、彼等が乗り越えた苦難を想像しリスペクトしてあげて欲しい。

そして、釣果があれば、関係機関(相模川漁連・catch&clean公式ブログ・ザンマイHP)に連絡をいただけると研究材料になるそうなので、ぜひともご協力願いたい。

ルアマガ+編集部

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