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全国42のダムで土砂が許容量を超え堆積 国が対策支援へ

2019年12月18日
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道府県が管理する治水を目的としたダムのおよそ1割にあたる全国42のダムで、土砂が許容量を超えて堆積しているので、その堆砂除去のため、国が財政支援(費用の7割)を行うことになりました。
そのニュースを掲載します。
ここでいう許容量は100年分の計画堆砂量のことで、ダムの底部に堆砂容量として確保されています。しかし、実際の堆砂の多くはダム貯水池の浅い方から進んでいきます。
ダムというものはこのように維持管理にも金がかかるものです。

全国42のダムで土砂が許容量を超え堆積 国が対策支援へ
(NHK 2019年12月18日 18時02分)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191218/k10012219591000.html?utm_int=news_contents_news-main_003

道府県が管理する治水を目的としたダムのおよそ1割にあたる全国42のダムで、土砂が許容量を超えて堆積し、洪水を防ぐ機能が低下しているおそれがあることが国の調査でわかりました。このため総務省は、自治体が土砂を取り除く事業に新たに財政支援を行う方針を固めました。

●全国42のダムの一覧を記事の後半に掲載しています。
治水を目的とするダムには、河川などから流れ込む土砂の堆積に許容量が設定されていますが、国土交通省が、全国に431ある道府県が管理するダムを調べたところ、平成29年度末の時点でおよそ1割にあたる42のダムで、許容量を超える土砂が積もっていることがわかりました。

近年、記録的な大雨による被害が相次いでいる中、これらのダムは、洪水を防ぐ機能が低下しているおそれがあることから、国は、自治体に対し、土砂を取り除くなど対策を進めるよう求めていますが、財政的な負担が重く、十分に進んでいません。

このため、総務省は、来年度から、土砂を取り除く事業を行った自治体に対し、その費用の7割を補助する方針を固めました。補助は、治水目的のダムに加えて、河川や砂防ダムなどでの事業も対象にするということです。
総務省は、「ダムが、きちんと想定通りの治水機能を果たせるよう整備しておくことは大事な防災対策の1つだ。各自治体で早急に対策を進めてもらいたい」と話しています。

土砂が堆積するダムの実態は

許容量を超える土砂が堆積しているダムの1つで、千葉県市原市にある高滝ダムは、平成2年に完成し、大雨などの際に洪水を防ぐために水をせき止める治水機能と、水道用の水をためておく利水機能を持ちます。
総貯水容量は1430万立法メートル。流れ込む土砂の許容量は180万立方メートルと設定されていますが、平成30年度末の時点で許容量の1.5倍を超える286万立方メートルの土砂の堆積が確認されています。
ダムを管理する千葉県では、平成4年から土砂を取り除く工事を進めていて、冬のこの時期は、ダムの水位を下げ、土砂が見える状態にして、重機を使っての作業がおこなわれています。
工事は、毎年、年間2億円をかけて3万立方メートルの土砂を取り除いていますが、流れ込む土砂の量のほうが多く、堆積量は現在も増え続けています。

ことし10月の台風21号に伴う大雨では、水位が急上昇して、一時「緊急放流」の実施を検討して、下流域の住民に対して、注意を呼びかけたということです。
その後、雨の勢いが弱まり、緊急放流は行われませんでしたが、ダムの水位は、貯水可能な最高水位40メートル30センチに対して、39メートル13センチにまで迫ったということです。
高滝ダム管理事務所の畠山正夫所長は、「現段階で、土砂の堆積によって、治水機能に大きな影響が出ているとは考えていないが、現在のペースの対策工事では、ゆくゆくは機能の低下を招きかねない。今後、工事の規模を拡大する方向で検討している」と話していました。

土砂が許容量超え 全国42のダム一覧

平成29年度末時点で、ダム底に許容量を超える土砂の堆積が確認されたのは、次の42のダムです。

下記の番号は、地図上の番号と対応しています。
(ご覧の環境によっては地図が表示されない場合もあります)
岩手県
(1)来内川の遠野ダム
福島県
(2)鮫川の高柴ダム
群馬県
(3)道平川の道平川ダム
(4)霧積川の霧積ダム
(5)塩沢川の塩沢ダム
千葉県
(6)養老川の高滝ダム
(7)小櫃川の亀山ダム
新潟県
(8)鯖石川の鯖石川ダム
(9)笠堀川の笠堀ダム
(10)三面川の三面ダム
(11)刈谷田川の刈谷田川ダム
長野県
(12)裾花川の奥裾花ダム
(13)裾花ダム
(14)松川の松川ダム
(15)湯川の湯川ダム
滋賀県
(16)石田川の石田川ダム
奈良県
(17)布留川の天理ダム
岡山県
(18)旭川の湯原ダム
山口県
(19)厚東川の厚東川ダム
(20)御庄川の御庄川ダム
(21)富田川の川上ダム
香川県
(22)綾川の長柄ダム
(23)栴檀川の門入ダム
(24)湊川の五名ダム
(25)殿川の殿川ダム
(26)前田川の五郷ダム
(27)田万川の田万ダム
(28)津田川の大川ダム
(29)内場川の内場ダム
愛媛県
(30)加茂川の黒瀬ダム
(31)足谷川の鹿森ダム
(32)蒼社川の玉川ダム
高知県
(33)鏡川の鏡ダム
(34)物部川の永瀬ダム
福岡県
(35)那珂川の南畑ダム
宮崎県
(36)渡川の渡川ダム
(37)三財川の立花ダム
(38)綾北川の綾北ダム
(39)本庄川の綾南ダム
(40)小丸川の松尾ダム
(41)岩瀬川の岩瀬ダム
(42)祝子川の祝子ダム

【小松泰信・地方の眼力】埋没しない、させない、諦めな(石木ダム問題)

2019年12月12日
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数日前に、ABCテレビ・テレビ朝日系列で、ドキュメンタリー番組「はるなの故郷(ふるさと)~ダムの里に生まれて~」が放映されました。

(テレビ朝日の放映時間は12月8日(日)午前4時30分~5時。放送局によって放映日、放映時間が異なりました。)

「はるなの故郷(ふるさと)~ダムの里に生まれて~」制作:長崎文化放送
https://www.tv-asahi.co.jp/telementary/

石木ダムの問題を伝える番組でした。
小松泰信・長野県農協地域開発機構研究所長がこの番組を見て書かれたコラムを掲載します。
石木ダムの問題をこのように全面的に受け止めて石木ダム事業の愚かさを語る方がおられることを心強く思います。


【小松泰信・(一社)長野県農協地域開発機構研究所長】

2019.12.11 【小松泰信・地方の眼力】埋没しない、させない、諦めない
(農業協同組合新聞 2019年12月12日) https://www.jacom.or.jp/column/2019/12/191211-39879.php

12月10日、政府は、反社会的勢力の定義について「その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであり、限定的・統一的な定義は困難だ」とする答弁書を閣議決定した。驚きはしない、絶望的な気持ちを押し殺し、ただただ軽蔑するのみ。そもそも、反社政権に自分自身を定義することはできない相談。彼らの本音は、「安倍族とそれに尻尾を振る組織や人以外」が反社勢力ということだろう。自分らに不都合な用語を、速やかに勝手に解釈し閣議決定する。これが本当の「反社」神経。

◆涙の訴え、駄馬の耳に念仏
「テレメンタリー」は、ABCテレビ・テレビ朝日系列の全国24社が競作するドキュメンタリー番組。12月8日早朝に放送されたのは、長崎文化放送が制作した「はるなの故郷~ダムの里に生まれて~」。ダムとはこれまでも取り上げてきた長崎県川棚町に建設されようとしている石木ダムのこと。はるなとは、ダム建設に反対する松本家の長女晏奈(はるな)さん(17)。故郷と家を奪われる不安の中、ひたむきに青春を送る彼女に焦点を当て、公共事業と個人の権利のはざまで揺れる人々の思いに迫る、グッとくる内容であった。
9月19日、反対する人たちと一緒に長崎県庁を訪れた彼女は、「都会では味わうことができないことが川原(こうばる)では日常的に行われています」「思い出がたくさん詰まった川原の自然や風景が大好きです。ふるさと川原が奪われるのは絶対にいやです。帰る場所がなくなってしまうなんて考えたくもありません」と、涙ながらに訴えた。そして、「人口が減っているのに水が足りないというのは私には理解できません。きちんと説明すべきです。不要なダムのために私たちの家や土地を奪うのはおかしいと思います。私たちを含む、川原すべてのものを奪わないでください。私たちの思いをどうか受け取ってください」と、中村法道長崎県知事に読み上げた文書を手渡した。
この訴えから1時間後、中村氏は「これまで用地の提供等で協力いただいた多くの方もいらっしゃるわけですので、それぞれの方々の思いを大切にしながら、事業全体を進めていく必要がある。このことをあらためて感じたところです」と、報道陣に語る。典型的な、駄馬の耳に念仏。

◆石木ダムは科学的に見れば本当にいらないダム
長崎県があげてきた建設の目的は、「100年に一度の洪水対策」と「佐世保市の水確保」。しかし、専門家はそれを否定する。
今本博健氏(京都大学名誉教授、河川工学)は、「私はダムの全否定者ではありません。もともと土木の出身ですからダムのアレルギーもない。ただ、ダムができると環境が悪くなることがあるので、できるだけダムは最後の選択肢にしたい」と話す。2013年には全国の大学教授らに呼び掛け、125人で県や佐世保市に「石木ダムは不要」という申し入れをしている。
「ダムに費やすお金があれば河川改修はずいぶんできる。逆に、ダム計画のおかげで河川改修はなおざりにされている。川棚川(本流)の下流の方では結構改修が進んでいる。長崎県が言う以上に、(川棚の)河川は大丈夫。実は」と語り、人口の減少や節水機器の普及により佐世保市の水需要は予測を下回ることも指摘する。
よって、「治水にはいらない。利水には全然いらない。石木ダムは科学的に見れば本当にいらないダム」と断言する。

◆埋没費用に埋没するな
専門家がここまでその必要性を否定するのに、建設を進めようとするのはなぜか。その答えのヒントは、中村知事の「これまで用地の提供等で協力いただいた多くの方もいらっしゃるわけで」と、言うところにある。ダムを建設しないと、これまで投入した資金や労力、あるいは地元住民に強いてきた犠牲、そして半世紀にも及ぶ年月等々が無駄になる。それらを無駄にしないために、とにかく完成させる。そのためには、新たな資金や労力、そして犠牲はやむを得ない、ということである。
経済学では、「事業や行為に投下した資金・労力のうち、事業や行為の撤退・縮小・中止をしても戻って来ない資金や労力のこと」を「埋没費用(sunk cost)」と言う。ダム建設のように、初期投資が大きく他に転用ができない事業ほど埋没費用は大きくなる。だから、やめる決断ができない。ダムに限らず「止まらない大規模公共事業」の一因はこの費用にある。
「これだけ費用をかけた。8割の住民に地元を離れてもらった。あと2割が出て行ってくれたら……」と考えて、不要なダム建設に向かうのは、埋没費用を増加させるだけではなく、何物にも代えがたい自然と、そこを故郷として平穏に生活している人々の幸せな生活までをもダム底に埋没させるという、取り返しのつかない大罪を犯すこと。
埋没費用に埋没しない、埋没させないためには、回収不能な費用であることを潔く認め、勇気をもって撤退することである。
辺野古基地建設も原発も同じ構造。事業をすこしずつでも進めるのは、既成事実を積み重ね、当該費用を大きくし、反対しづらい世論を形成していくためである。このことを見抜き、世論操作には乗らぬこと。深傷を負うだけである。
なぜ、こんなことができるのか? それは、税金だから。何のためにやるのか? 政治家と役人のメンツを守るために。
このような状況は石木ダムに限ったことではない。全国でこれまでにも起こったこと、そしてこれからも起こること。我々にできることは、埋没費用に埋没させられぬよう、事業等の是非を見抜く眼力と、だめなものにはだめと言い続ける胆力を鍛えること。
反対住民らが、国に事業認定取り消しを求めた訴訟において、11月29日に福岡高裁は、「事業による公共の利益は原告らの失われる利益を優越している」と、理解しがたい判断により住民側の請求を棄却した。しかし、住民側は10日、判決を不服として上告した。決して、諦めてはいない。

◆反社政権と埋没するのはまっぴらごめんなすって
毎日新聞(12月11日付)によれば、麻生太郎副総理兼財務相は10日の記者会見で、安倍晋三首相が目指す憲法改正に関し、「自分でやるという覚悟を決めてやらないといけない。(総裁)任期中にできる当てがないなら、対策を考えるのが当たり前ではないか」と述べ、総裁4選を検討すべきだとの考えを示した。また、自民党の二階敏弘幹事長も10日、2021年9月末までの首相の総裁任期中の改憲について「任期中に成し遂げるべく努力をすることは当然だが、かなわない場合は、そのときの政治情勢や国会日程をにらんで対応することが大事だ」と述べ、4選の可能性に含みを残した。
麻生氏の会見を見たが、親分とでも呼んで欲しそうな、反社政権№2の顔つき目つき。こんな連中に憲法を触らせてはいけないが、お頭の4選の可能性は大。4選なくとも院政を敷くはず。なぜなら、権力を手放したとたんに、安倍族は司直の手にかかるから。もちろん、国民に司直を動かす力があればの話だが。
「地方の眼力」なめんなよ

石木ダム事業認定取り消し訴訟 住民が上告 長崎

2019年12月12日
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石木ダムの事業認定の取り消しを住民が国に求めた裁判で、住民側が最高裁に上告しました。
そのニュースと記事を掲載します。

石木ダム事業認定取り消し訴訟 住民が上告 長崎
(テレビ長崎2019年12月10日19:16) http://www.ktn.co.jp/news/20191210285135/

東彼杵郡川棚町での石木ダムの事業認定の取り消しを住民が国に求めた裁判で、福岡高裁の判決を不服として、住民側が最高裁に上告しました。
長崎県と佐世保市が川棚町に建設を予定している石木ダムをめぐっては、住民が国に事業認定の取り消しを求める裁判を起こしていますが、11月29日、福岡高裁は、利水と治水の面でのダムの必要性を認め、請求を棄却しました。
これを不服として、住民側が10日、最高裁に上告しました。
建設予定地には13世帯が暮らしていて、すでに家屋を含む土地の明け渡し期限は過ぎていますが、住民は応じていません。

石木ダム訴訟 原告側が上告
(NHK 2019年12月10日 12時49分) https://www3.nhk.or.jp/lnews/nagasaki/20191210/5030006225.html

川棚町で建設が進められている石木ダムについて、建設に反対する元地権者の住民などが国に事業認定の取り消しを求めた裁判で、住民側の訴えを退けた福岡高等裁判所の判決を不服として10日、原告側が最高裁判所に上告しました。
石木ダムは、長崎県と佐世保市が水道水の確保や洪水対策を目的に、285億円をかけて川棚町に建設を進めているダムで、反対する住民など100人余りが「ふるさとが奪われる」などとして、国に事業認定の取り消しを求める訴えを起こしています。
1審の長崎地方裁判所は「石木ダム事業は水道用水の確保や洪水調整のため必要がある」として訴えを退け、2審の福岡高等裁判所も「国の事業認定の判断に裁量を逸脱し、乱用した違法はない」などとして住民の訴えを退けました。
この判決を不服として10日、原告側が最高裁判所に上告しました。

石木ダム 認定取り消し訴訟 住民側が上告
(長崎新聞2019/12/11 09:49) https://www.oricon.co.jp/article/1020314/

長崎県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業を巡り、建設に反対する住民らが国に事業認定取り消しを求めた訴訟で、住民側が10日、請求を棄却した福岡高裁判決を不服として、最高裁に上告した。
訴訟で住民側は、同ダムの目的である佐世保市の利水や川棚川の治水は合理性を欠き、建設予定地に暮らす13世帯の土地を強制的に収用するだけの公益性はないと主張。
一審の長崎地裁は昨年7月、ダムの必要性を一定認め、事業認定は適法と結論付けた。福岡地裁も今年11月、原判決を支持した。
同日、代理人弁護士らと上告状などを提出した住民の岩下和雄さん(72)は「控訴審判決は、長崎地裁の判決をそのままなぞっただけ。最高裁でしっかり審理してもらわないといけない」と話した。

社説  石木ダム事業 必要性の説明が不十分だ

2019年12月4日
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石木ダム問題に関する西日本新聞の社説を掲載します。
真っ当な意見であると思います。

社説  石木ダム事業 必要性の説明が不十分だ
(西日本新聞2019/12/4 10:45) https://www.nishinippon.co.jp/item/n/565146/

一度動きだしたら、状況が変わっても止められない。大型公共事業を巡って散々指摘されてきた問題ではないだろうか。私有地の強制収用まで準備しているのなら、慎重な上にも慎重な判断を求めたい。
長崎県川棚町に県と佐世保市が計画する石木ダム建設(事業費約285億円)である。同市の利水と川棚川流域の治水を目的に1975年、国に事業採択されて44年になるが、本体に着工できていない。予定地の一部住民が反対し、立ち退きにも応じないことが最大の理由だ。
反対住民らは「水の需要予測が実態とかけ離れている」「治水も河川改修で対応可能だ」として、ダムは必要ないと主張している。
国の事業認定取り消しを求めた訴訟で、福岡高裁は先週末、一審長崎地裁に続き住民側の訴えを退けた。国や長崎県の判断に不合理はないとの理由だ。
住民側は上告する方針で、工事差し止めを求める別の訴訟も係争中である。知事の判断で予定地を強制収用する代執行が可能な状態だが、着工はまだまだ見通せないと言える。
反対がここまで強硬になった理由の一つに、県が82年、予定地の測量に県警機動隊を投入し住民を力ずくで排除した経緯がある。県はまず、信頼関係を損なった事実を重く受け止め、交渉の前提となる信頼回復に努めるべきだ。そうした意味で、県が交渉期間を確保するため工期を2025年度まで3年延長したことは評価できる。
その上で再検討すべきは、反対住民が問う「水の需要予測」「治水の代替策」についてだ。豪雨災害が相次ぐようになり水害対策は重要で、渇水の不安を解消することも大切である。ただ、人口減少や経済情勢の変化など44年前とは諸条件が大きく異なることもまた明らかだ。
国立社会保障・人口問題研究所によると佐世保市の人口推計は20年24万8千人、30年23万1千人で、10年の26万1千人から大きく減少する。水需要も比例すると考えるのが妥当だろう。
石木ダムを造って日量約4万トンの水を新たに確保する必要性が実際にあるのか。佐世保市は水需要予測を含む利水の事業再評価を、予定を早めて実施する方針という。透明性を確保し、丁寧な評価を望みたい。
治水面でも、県側は「100年に1度の規模の洪水に対応するためのダム」としてきたが、他の手段は本当にないのか。反対住民に限らず誰もが納得できる形で説明すべきだ。
石木ダム建設は強制収用に反対する国会議員らの組織も発足し、全国的関心も集めている。一度立ち止まる勇気も必要だ。

台風19号の堤防決壊は防げた?実績ある対策を「封印」した国交省の大罪

2019年12月3日
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ジャーナリストの岡田幹治さんが書かれた台風19号水害に関する論考を掲載します。今後の河川行政のあり方を問う重要な論考です。

 

台風19号の堤防決壊は防げた?実績ある対策を「封印」した国交省の大罪

(ジャーナリスト 岡田幹治)

(ダイヤモンド・オンライン2019/12/0312/3(火) 6:01配信) https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191203-00222215-diamond-bus_all&p=1

(写真)台風19号で決壊した千曲川の堤防

平成以降で最大級の被害をもたらした台風19号災害の特徴は、多数の河川で堤防が決壊したことだ。決壊は7県で71河川140カ所に達し、氾濫した濁流が人や街をのみ込んだ。

なぜ堤防は決壊したのか。

台風が猛烈な強さだったため大量の雨を広範囲に降らせたことが最大の原因だが、国土交通省の河川政策の誤りを指摘する声も出ている。

比較的安価な堤防の決壊防止方法が開発され、一部の河川で施工され、実績も上げているのに、ダム建設などの邪魔になるといった理由で「封印」したというのだ。

● 安価な「耐越水堤防」 建設を2年でストップ

10月12日に静岡県に上陸し、東日本を縦断した台風19号は、死者・行方不明者101人、住宅浸水(床上・床下)約4万3200戸(=消防庁発表、12月2日現在)という大きな被害をもたらした。
被災地では今も、多くの人たちが生活となりわいの基盤を失ったままだ。

堤防決壊の原因で最も多いのは、大雨で川の流量が増え、堤防を越えてあふれる「越水」によるものだ。

土で出来ている堤防は水に浸食されやすいため、堤防の川側の斜面(表のり)はブロックなどで覆っている。しかし、陸側の斜面(裏のり)には何の対策も施されていないので、あふれ出た水が裏のりを洗掘して崩し、堤防の崩壊(破堤)につながる。

この弱点をなくすため、建設省(国交省の前身)の土木研究所が開発したのが、「耐越水堤防」だ。

従来の堤防に手を加え、越水しても堤防は陸側から浸食されにくいように、「裏のり」を遮蔽シートやブロックなどで覆って強化し、「堤防の最上部(天端〈てんば〉)」と「裏のりの最下部(のり尻)」も洗掘されないようにするものだ。

「アーマー・レビー(よろいをまとった堤防)」「フロンティア(最先端)堤防」などと呼ばれるこの堤防強化工法は、1988~98年に、加古川(兵庫県加古川市、7.2キロメートル)や那珂川(茨城県水戸市・ひたちなか市・那珂市、9.0キロメートル)など9河川で施工された。

堤防を強化するには、堤防のかさ上げという方法もあるが、裏のりの幅を広げる必要があり、用地買収などに費用も時間もかかる。それに対し、耐越水堤防は比較的安価にすぐに実施できるのが利点だった。

建設省は全国的な普及をめざし、2000年3月、設計方法を記した「河川堤防設計指針」(第3稿)を策定し、全国の地方建設局や都道府県に通達した。

ところが、わずか2年後の2002年7月、この設計指針は廃止される。

これで耐越水堤防は国が認めない工法となり、普及は止まった。

● ダムやスーパー堤防建設の 根拠がなくなるのを恐れた?

国交省はなぜ態度を急変させたのか。

当時、川辺川ダム(熊本県)の建設をめぐって住民討論集会が開かれており、ダム反対派が「耐越水堤防にすれば、大雨が降っても堤防は決壊しないから、洪水を防ぐためのダム建設は不要になる」と主張していた。

このため、耐越水堤防はダム推進の邪魔になると判断したと考えられている。

それから約20年がたったが、かつて建設された耐越水堤防は成果をあげている。

石崎勝義(いしざきかつよし)・旧建設省土木研究所次長が昨年3月、加古川の耐越水堤防を視察して調べたところ、2004年の豪雨でもびくともしなかったという。(石崎勝義『堤防をめぐる不都合な真実』/『科学』2019年12月号)

今年の台風19号では、那珂川で堤防が3カ所で決壊したが、耐越水堤防に強化された箇所は決壊していない。
国交省も堤防強化の必要性を認めており、2015年には、氾濫が発生しても被害を軽くする「危機管理型ハード対策」を打ち出した。しかしその内容は、「アスファルト舗装などによる天端の保護」と「ブロックなどによるのり尻の補強」の二つで、肝心の「裏のりの補強」は含まれていない。

なぜ国交省は今も、耐越水堤防を拒み続けるのか。

長年にわたりダム問題を研究している嶋津暉之(しまづてるゆき)・水源開発問題全国連絡会共同代表は、スーパー堤防(高規格堤防)との関係を指摘する。

スーパー堤防は、堤防の裏のりの勾配をものすごく緩やかにし、裏のりの幅を堤防の高さの30倍に広げて、その上を住宅地や公園にする。国交省はこれを、越水に耐えるただ1つの工法だとして推進している。 耐越水堤防を認めると、スーパー堤防推進の根拠がなくなってしまうことを恐れているというのだ。

石崎氏によれば、耐越水工法は1メートル当たり30万~50万円で施工できる。1メートル50万円としても1キロメートルで5億円、1000キロメートルで5000億円だ。

江戸川の片側のわずか120メートルを整備するだけで40億円以上もかかるスーパー堤防(東京都江戸川区小岩1丁目地区の場合)に比べてケタ違いに安い。

河川事業とダム建設事業を合わせた治水のための年間予算は、約6400億円(国直轄事業と補助事業の合計、2018年度当初予算)もある。ダム建設費を大幅に削って耐越水化に充てれば、数年程度で全国の堤防を強化できる。

石崎氏は、完成から年月がたって沈下した堤防や、川幅が狭くなる場所、本流に支流が合流する地点など、特に危険な部分を急いで強化するだけでも大規模な水害はなくせるとし、地球温暖化が進行し、豪雨や台風が巨大化した今こそ、耐越水堤防を復活すべきだと主張している。

● ダムの洪水予防効果は限定的 中下流地域では不明

ところで、国交省が推進したダムは、水害被害を防止・低減しただろうか。

ダム関係の訴訟をいくつも手掛けた西島和(にしじまいずみ)・弁護士は、「ダムの治水効果は不確実で限定的。しかもダムは時に凶器になる」と話す。河川の上流部に建設されるダムは、集水域に降った雨水を貯水できるだけで、中下流域に降った雨には対応できない。また治水効果はダムから遠ざかるほど減少し、中下流域(平野部)での効果は限られる。

たとえば2015年9月の鬼怒川水害では、上流に国交省管理の大規模ダムが4つもあったにもかかわらず、下流の茨城県常総市で堤防が決壊し、堤防のない箇所からの溢水もあって甚大な被害を生んだ。

今年の台風19号については、国交省関東地方整備局が11月5日、利根川の上流の7つのダムの治水効果(速報)を発表した。

それによると、八ッ場ダム(やんばダム、群馬県長野原町)や下久保ダム(群馬県藤岡市・埼玉県神川町)など7ダム合計で1億4500万立方メートルを貯水した結果、上流と中流の境目にある観測地点(群馬県伊勢崎市八斗島〈やったじま〉)では、水位をダムがない場合に比べて約1メートル下げたと推定されるという。

実際、利根川の水位は八斗島地点では氾濫危険水位を超えなかった。

しかし、中下流域に対する上流ダム群の治水効果は不明だという。利根川中流の観測地点(埼玉県久喜市栗橋)では最高水位が9.67メートル(基準面からの高さ)に達し、一時は氾濫危険水位の8.9メートルを超えた。

ただ、堤防はこの地点では氾濫危険水位より約3メートル高く造られており、氾濫は免れた。氾濫を防いだのは上流のダムではなく、堤防だった。

● 流量調節機能を失う場合も 危険が大きい緊急放流

ダムによる治水では、満杯になると洪水調節の機能を失うというもう一つの欠点がある。

堤防を守るために、流入した水量と同量を放流する「緊急放流」が行われるのだ。だがこの場合、自然界では起こり得ない流量の急上昇が起き、避難が難しい。

たとえば昨年の西日本豪雨では、愛媛県の肱川(ひじかわ)で2つのダムの緊急放流が行われ、西予市と大洲市ですさまじい被害を出した。

今年の台風19号では関東と東北の6つのダムで緊急放流が行われ、幸い水害は起きなかったが、ダム下流の人たちは右往左往させられた。

利根川上流の7ダムでは、下久保ダムが緊急放流の可能性があると関東地方整備局が発表していた。結果的に回避されたが、ダムは一時、ほぼ満杯になっていた。
八ッ場ダムは7500万立方メートルを貯水したが、これは本来の貯水能力を1000万立方メートルも上回る貯水量だった。多目的ダムである同じダムは使用できる容量を、上水道と工業用水のための利水用2500万立方メートル、洪水防止のための治水用6500万立方メートルとしている。

今は本格稼働前に安全性を確認する試験貯水中なので、利水用の容量に大量の空きがあり、治水用の容量を大きく超える貯水ができた。

だが、もし本格運用が始まっており、利水用容量が満杯に近い状態のときに、台風19号級の大雨が降れば、緊急放流が実施される可能性が大きい。想像するだけで恐ろしい事態だ。

● 今後の河川政策に 19号の教訓を生かせ

台風19号災害からどんな教訓を学び、今後の河川政策にどう生かしていくか。嶋津氏は次のように指摘している。

まずダムに対する過大評価をやめることだ。

八ッ場ダムは約6500億円の巨費と地元住民の生活の犠牲という代償を払って建設され、計画から半世紀たって完成したが、いまや水余りの時代になって利水の意義はなくなり、治水の効果も限定的であることが明らかになった。

八ッ場ダムに投じられた約6500億円を耐越水工法などの堤防強化に充てていれば、台風19号による堤防決壊はかなり防げた可能性がある。そう考えると、残念でならない。

今後の治水対策は、今回の災害を公正に検証し、個別の対策については費用・時間・効果を総合的に検討して優先順位をつけて実施していくべきだ。

氾濫防止にすぐに役立つのは、河床の掘削を随時行って河道の維持に努めることと堤防の強化であり、それには耐越水堤防の復活が欠かせない。

(ジャーナリスト 岡田幹治)

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