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八ッ場ダムの情報

「八ツ場ダム問題と全国のダム問題」の報告

2月4日に「八ツ場あしたの会」の総会があり、嶋津の方から「八ツ場ダム問題と全国のダム問題」を報告しました。

報告の要点を下記に記しますので、長文ですが、お読みいただきたいと存じます。

当日使ったスライドは八ツ場ダム問題と全国のダム問題20230204 -4をご覧ください。

スライドとの対応をスライド番号№で示しましたので、詳しい内容はスライドを見ていただきたいと思います。

今回の報告「八ツ場ダム問題と全国のダム問題」は次の5点で構成されています。

Ⅰ これからの八ツ場ダムで危惧されること

Ⅱ 利根川の治水対策として、八ツ場ダムは意味があるのか。むしろ、有害な存在になるのではないか。

Ⅲ 水道等の需要が一層縮小していく時代において八ツ場ダムは利水面でも無用の存在である。

Ⅳ ダム問題の経過

Ⅴ 国交省の「流域治水の推進」(2021年度から)のまやかし

 

八ツ場ダム問題と全国のダム問題

Ⅰ これからの八ツ場ダムで危惧されること(スライド№2~5)

1 吾妻渓谷の変貌(スライド№3)

2 八ツ場ダム湖の浮遊性藻類の増殖による水質悪化(スライド№3)

3 夏期には貯水位が大きく下がり、観光地としての魅力が乏しくなる八ツ場ダム湖(スライド№4)

写真1 国交省のフォトモンタージュ(打越代替地から見た八ツ場ダム湖)

写真2 2022年7月の八ツ場ダム貯水池の横壁地区の岸壁(湖岸の岩肌が28m以上も剥き出し)

4 八ツ場ダムは堆砂が急速に進行し、長野原町中心部で氾濫の危険性をつくり出す。(スライド№5)

5 ダム湖周辺での地すべり発生の危険性(スライド№5)

 

Ⅱ 利根川の治水対策として、八ツ場ダムは意味があるのか。むしろ、有害な存在になるのではないか。(スライド№6~19)

1 八ツ場ダムの緊急放流の危険性(スライド№7~8)

2019年10月の台風19号で、八ツ場ダムが本格運用されていれば、緊急放流を行う事態になっていました。

2 ダムの緊急放流の恐さ(スライド№9~13)

ダムは計画を超えた洪水に対しては洪水調節機能を喪失し、流入洪水をそのまま放流します(緊急放流)。

ダム下流の河道はダムの洪水調節効果を前提とした流下能力しか確保しない計画になっているので、ダムが洪水調節機能を失えば、氾濫の危険性が高まります。

しかも、ダムは洪水調節機能を失うと、放流量を急激に増やすため、ダム下流の住民に対して避難する時間をも奪ってしまいます。

3 ダムの効果が小さかった2015年9月の鬼怒川水害(スライド№14~18)

4 治水対策としての八ツ場ダムの問題点(スライド№19)

ダムの治水効果は下流へ行くほど、減衰していくので、八ツ場ダムの治水効果は利根川の中下流部ではかなり減衰すると考えられ、八ツ場ダムは利根川の治水対策としてほとんど意味を持ちません。

地球温暖化に伴って短時間強雨の頻度が増す中、八ツ場ダムに近い距離にあるダム下流の吾妻川では、むしろ、八ツ場ダムの緊急放流による氾濫を恐れなければなりません。

 

Ⅲ 水道等の水需要が一層縮小していく時代において八ツ場ダムは利水面でも無用の存在である。(スライド№20~25)

1 八ツ場ダムの利水予定者と参画量(スライド№21)

2 水道用水の需要は縮小の一途(スライド№22~23)

全国の水道の水需要は2000年代になってからは確実な減少傾向となり、その傾向は今後も続いていきます。(減少要因:人口減、節水機器の普及、漏水の減少等)

3 群馬県の例「前橋市等の自己水源(地下水)の削減と水道料金の値上げ」(スライド№24)

4 石木ダム建設の主目的「佐世保市水道の水源確保」の虚構(スライド№25)

 

Ⅳ ダム問題の経過(スライド№26~45)

1 ダムの建設基数の経過(スライド№27)

2 ダム事業見直しの経過(スライド№28~33)

○1996年からダム事業が徐々に中止

○田中康夫・長野県知事の脱ダム宣言

○淀川水系流域委員会の提言(2005年1月)

3 2009年9月からのダム見直しの結(スライド№34~39)

2009年9月に発足した民主党政権は早速、ダム見直しを明言したものの、私たちの期待を裏切る結果になりました。

4 八ツ場ダムの検証結果 事業継続  2011年12月 (スライド№40~41)

八ツ場ダム事業推進の真の目的は約6500億円という超巨額の公費を投入することにあった。

5 ダムの検証状況 (2018年10月1日現在)(スライド№42~44)

中止ダムのほとんどはダム事業者の意向によって中止になったのであって、適切な検証が行われた結果によるものではありませんでした。

6 中止になったダムの建設再開を求める動き(スライド№45)

 

Ⅴ 国交省の「流域治水の推進」(2021年度から)のまやかし(スライド№46~54)

1 国交省の「流域治水の推進」のまやかし(スライド№47)

流域治水には治水対策としてありうるものがほとんど盛り込まれています。治水ダムの建設・再生、遊水地整備もしっかり入っており、「流域の推進」が従前のダム事業推進の隠れ蓑にもなっています。球磨川がその典型例です。

2 球磨川流域治水プロジェクト(スライド№48~49)

本プロジェクトは流水型ダム(川辺川ダム)の整備、市房ダム再開発、遊水池整備などに、約4336億円という凄まじい超巨額の公費を球磨川に投じていくことになっています。

また、川辺川ダムはすでに約2200億円の事業費が使われていますので、現段階の川辺川ダムの総事業費は約4900億円にもなる見通しです。

このように、球磨川では2020年7月大水害への対応が必要ということで、球磨川流域治水プロジェクトの名のもとに、凄まじい規模の公費が投じられようとしています。

3 流水型川辺川ダムへの疑問(1)2020年7月球磨川豪雨の再来に対応できない川辺川ダム(スライド№50~51)

川辺川ダムがあっても、2020年7月球磨川水害の死者を救うことができませんでした。球磨川流域の死者50人の9割は球磨村と人吉市の住民で、支流の氾濫によるものでしたから、川辺川ダムがあっても命を守ることができませんでした。

4 流水型川辺川ダムへの疑問(2)自然に優しくない流水型川辺川ダム(スライド№52~54)

「自然にやさしい」を名目にして、川辺川ダムは流水型ダム(穴あきダム)で計画されています。既設の流水型ダム5基の実態を見ると、「自然にやさしい」という話はダム推進のためのうたい文句にすぎず、川の自然に多大な影響を与える存在になっています。

 

5 国の流域治水関連法と流域治水プロジェクト(スライド№55)

国交省は2021年5月に「流域治水関連法」をつくり、全国の河川で「流域治水プロジェクト」を進めつつあります。このプロジェクトは施策がとにかく盛沢山で、ダム建設、遊水池整備、霞堤の保全、堤防整備、雨水貯留施設の整備など、治水に関して考えられるものは何でも入っているというもので、実際にどこまで実現性があり、有効に機能するものであるかは分かりません。それは、基本的には従前の河川・ダム事業を「流域治水プロジェクト」の名のもとに続け、河川予算を獲得していくものであって、そこには「脱ダム」の精神が見られません。

その典型例が「球磨川流域治水プロジェクト」です。このプロジェクトは流水型川辺川ダムの建設等に球磨川に超巨額の公費を投入することを目的にしています。そのプロジェクトで流域の人々の安全が確保されるかというと、実際はそうではなく、更に球磨川の自然も大きな影響を受けるものになっています。

 

 

八ッ場ダム近くの山木館、5月から一時閉館 コロナで利用客減少

2022年3月31日
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八ツ場ダムの建設に伴い、2013年に八ツ場ダム近くの高台に移転した川原湯温泉の老舗旅館「山木館」が閉館します。その記事を掲載します。

一時閉館とはなっていますが、再開はむずかしいかもしれません。

川原湯温泉協会のHP http://www.kawarayu.jp/

をみると、旅館として現在、営業しているのは、山木館、丸木屋、やまた旅館、ゆうあい旅館、山水、やまきぼしの6軒だけです。それぞれ非常に厳しい経営状況にあるようです。

川原湯温泉街にかつては20軒強の旅館がありました。

国土交通省と群馬県は八ツ場ダムの建設によって川原湯温泉の旅館街を発展させるという話で、ダム建設への温泉街の同意を取り付けました。

しかし、移転後の実態は上述の通りで、川原湯温泉街の経営は非常に厳しい状況にあります。

新聞は今回の閉館の原因をコロナ禍としていますが、コロナ禍だけが問題だけではなく、八ツ場ダム工事による移転そのものが利用客激減の基本的な要因になっているはずです。

かつての川原湯温泉街を現状のような状況まで追い込んだ、国土交通省と群馬県の責任を問うべきだと思います。

マスコミはこの基本的な問題も取り上げてほしいと思います。

 

八ッ場ダム近くの山木館、5月から一時閉館 コロナで利用客少

(毎日新聞2022/3/31(木) 19:20)https://news.yahoo.co.jp/articles/b7d0474c372505cdb4f8817b2588b3143ba8851d

一時閉館する川原湯温泉の老舗旅館「山木館」=群馬県長野原町で2022年3月31日午後2時15分、庄司哲也撮影

 

完成から31日で2年となった八ッ場(やんば)ダム(群馬県長野原町)のそばにある川原湯温泉で、1661年創業の老舗旅館「山木館」が5月21日を最後に一時閉館することを明らかにした。ダム建設に伴う高台移転は乗り越えたものの、新型コロナウイルスの感染拡大により利用客が大幅に減少していた。同館は従業員を整理解雇した上で家族経営での再開を模索する。

同館はダム建設に伴い2013年にダム湖を見下ろす高台に移転。木造2階建て全8室で、1泊2食付きで1人2万~3万円の高級路線で営業してきた。

15代目の樋田勇人さんによると、コロナ禍により宿泊客が安定せず、特に今年1月からの「第6波」以降は、10日連続で休業することもあった。樋田さんは「1組だけのために営業することもあり、営業すると赤字が生じていた」と明かす。

観光資源と見込んでいた八ッ場ダムは完成したものの、完成式典などが延期され、移転した同温泉をPRする機会も奪われた。そもそも、全国的に知名度が高い草津温泉が車でわずか25分の距離にあり、宿泊客が流れて集客も思うようには進まなかったという。

県内も適用対象となった第6波によるまん延防止等重点措置が3月21日で解除となり、4月から県独自の宿泊支援事業「愛郷ぐんまプロジェクト」第4弾もスタート。国の観光需要喚起策「GoToトラベル」が再開される可能性もあるが、樋田さんは「旅館経営は繁忙期で稼いで閑散期をカバーするが、コロナ禍で今後の経営が見通せない」という。

このため、同館は一時閉館後に5人の正社員を整理解雇し、経営を見直す。樋田さんは「宿の存続の道を探るため一時閉めたい。時期は言えないが、家族経営のような形で再開したい」と説明する。

長野原町産業課によると、同温泉はかつて20軒ほどあった宿泊施設がダム建設により現在は6軒に減少した。同課は「川原湯温泉で最も歴史がある宿だけに、山木館の一時閉館の観光面での影響は大きい」と話す。【庄司哲也】

八ッ場ダム運用開始 利水も治水も必要性なくなった危険な水がめ

2020年5月13日
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ジャーナリストの岡田幹治さん(元・朝日新聞論説委員)が週刊金曜日4月10日号に書かれた八ツ場ダム問題の論考がネットで配信されましので、掲載します。

八ッ場ダム運用開始 利水も治水も必要性なくなった危険な水がめ
岡田幹治
(週刊金曜日オンライン2020年5月12日7:49PM)http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/2020/05/12/antena-709/

(写真)貯水が進む八ッ場ダム。撮影した4月4日は貯水率35%だった。(提供/八ッ場あしたの会)
民主党政権時代に「中止」か「計画通り建設」か、で揉めた八ッ場ダム(群馬県長野原町)が完成し、4月1日に運用を始めた。新型コロナウイルス感染拡大の影響で完成式典などは延期され、ひっそりとした船出だった。
利根川水系の吾妻川に建設されたこのダムの主な目的は、首都圏への水道用水の供給(利水)と洪水防止(治水)の二つだ。だが「いずれも必要性は失われている」と嶋津暉之・水源開発問題全国連絡会共同代表は言う。
利水について国土交通省関東地方整備局は3月10日「八ッ場ダム始動!?東京2020オリンピック・パラリンピックに向け、水資源確保のため、貯留を開始!」と発表。夏の渇水期にはこのダムの水が必要であるかのように装った。
だが東京都の水需要(一日最大配水量)は節水機器の普及などにより1992年度の617万立方メートルからほぼ一貫して減少。昨年度は460万立方メートルだった。一方で都は694万立方メートルの水源を持ち(実績を踏まえた評価量)、200万立方メートル以上余裕がある。八ッ場ダムがなくとも十分まかなえるのだ。
今後、人口減少で水需要はさらに減り、水余りがもっと顕著になると予想される。
もう一つの治水について赤羽一嘉国土交通相は昨年10月の台風19号豪雨後、現地を視察し「八ッ場ダムが利根川の大変危機的な状態を救ってくれた」と語ったが、これは事態を正確に伝えていない。
関東地方整備局は昨年11月公表の「台風19号における利根川の上流ダムの治水効果(速報)」で、利根川の上流と中流の境目にある観測地点(群馬県伊勢崎市八斗島)で、八ッ場ダムを含む7基のダム群はダム群がない場合に比べ水位を約1メートル下げたと推定されると発表した。
しかし同局は7ダム個別の治水効果は検証していないとしており、八ッ場ダムの効果は不明だ。
発表は中下流域での治水効果には触れていないが、利根川中流の観測地点(埼玉県久喜市栗橋)における当時の流量をみると、最高水位が9・67メートルに達し(基準面からの高さ)、一時は氾濫危険水位の8・9メートルを超えたことがわかる。
ただ、堤防はこの地点では氾濫危険水位より約3メートル高く造られており、八ッ場ダムがなくても氾濫の危険性はなかった。
洪水防止に有効なのは、ダム建設ではなく、堤防の強化や河床の浚渫といった河道整備なのだ。

【緊急放流、地滑りの危険性も】
台風19号豪雨は八ッ場ダムの危険性も明らかにした。
八ッ場ダムはこのとき7500万立方メートルを貯水したが、これは本来の貯水能力を1000万立方メートルも上回る貯水量だった。同ダムの利用可能な容量は利水用が2500万立方メートル、治水用が6500万立方メートルだが、当時は試験貯水中で、利水用に大量の空きがあり、治水用容量を大きく超える貯水ができ、流入する雨水とほぼ同量の水をダムから放流する「緊急放流」を避けることができた。
だが、本格運用が始まり利水用の貯水が満杯に近い状態の時、台風19号級の大雨が降れば、緊急放流を実施せざるを得なくなる可能性が強い。ダムのすぐ下流は急に増水し、大変なことになるだろう。
運用開始後に危惧されるのは、緊急放流の危険性だけではない。たとえば、吾妻川が運んでくる土砂がダム湖の上流端に貯まって河床が上昇し、付近の長野原町中心部で氾濫がおきる可能性がある。また、ダム湖の水位は季節によって変動を繰り返すが、それが周辺の地層に影響を与えて地滑りを発生させる危険性も指摘されている。周辺には地質が脆弱なところが少なくないだけに心配だ。
構想浮上から68年、約6500億円という日本のダムでは最大の事業費をつぎ込み、地元住民の生活の犠牲という代償を払って八ッ場ダムは完成した。そびえ立つ巨大なコンクリートの塊は、ダム優先の河川行政のシンボルのように見える。
(岡田幹治・ジャーナリスト、2020年4月10日号)

台風19号の堤防決壊は防げた?実績ある対策を「封印」した国交省の大罪

2019年12月3日
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ジャーナリストの岡田幹治さんが書かれた台風19号水害に関する論考を掲載します。今後の河川行政のあり方を問う重要な論考です。

 

台風19号の堤防決壊は防げた?実績ある対策を「封印」した国交省の大罪

(ジャーナリスト 岡田幹治)

(ダイヤモンド・オンライン2019/12/0312/3(火) 6:01配信) https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191203-00222215-diamond-bus_all&p=1

(写真)台風19号で決壊した千曲川の堤防

平成以降で最大級の被害をもたらした台風19号災害の特徴は、多数の河川で堤防が決壊したことだ。決壊は7県で71河川140カ所に達し、氾濫した濁流が人や街をのみ込んだ。

なぜ堤防は決壊したのか。

台風が猛烈な強さだったため大量の雨を広範囲に降らせたことが最大の原因だが、国土交通省の河川政策の誤りを指摘する声も出ている。

比較的安価な堤防の決壊防止方法が開発され、一部の河川で施工され、実績も上げているのに、ダム建設などの邪魔になるといった理由で「封印」したというのだ。

● 安価な「耐越水堤防」 建設を2年でストップ

10月12日に静岡県に上陸し、東日本を縦断した台風19号は、死者・行方不明者101人、住宅浸水(床上・床下)約4万3200戸(=消防庁発表、12月2日現在)という大きな被害をもたらした。
被災地では今も、多くの人たちが生活となりわいの基盤を失ったままだ。

堤防決壊の原因で最も多いのは、大雨で川の流量が増え、堤防を越えてあふれる「越水」によるものだ。

土で出来ている堤防は水に浸食されやすいため、堤防の川側の斜面(表のり)はブロックなどで覆っている。しかし、陸側の斜面(裏のり)には何の対策も施されていないので、あふれ出た水が裏のりを洗掘して崩し、堤防の崩壊(破堤)につながる。

この弱点をなくすため、建設省(国交省の前身)の土木研究所が開発したのが、「耐越水堤防」だ。

従来の堤防に手を加え、越水しても堤防は陸側から浸食されにくいように、「裏のり」を遮蔽シートやブロックなどで覆って強化し、「堤防の最上部(天端〈てんば〉)」と「裏のりの最下部(のり尻)」も洗掘されないようにするものだ。

「アーマー・レビー(よろいをまとった堤防)」「フロンティア(最先端)堤防」などと呼ばれるこの堤防強化工法は、1988~98年に、加古川(兵庫県加古川市、7.2キロメートル)や那珂川(茨城県水戸市・ひたちなか市・那珂市、9.0キロメートル)など9河川で施工された。

堤防を強化するには、堤防のかさ上げという方法もあるが、裏のりの幅を広げる必要があり、用地買収などに費用も時間もかかる。それに対し、耐越水堤防は比較的安価にすぐに実施できるのが利点だった。

建設省は全国的な普及をめざし、2000年3月、設計方法を記した「河川堤防設計指針」(第3稿)を策定し、全国の地方建設局や都道府県に通達した。

ところが、わずか2年後の2002年7月、この設計指針は廃止される。

これで耐越水堤防は国が認めない工法となり、普及は止まった。

● ダムやスーパー堤防建設の 根拠がなくなるのを恐れた?

国交省はなぜ態度を急変させたのか。

当時、川辺川ダム(熊本県)の建設をめぐって住民討論集会が開かれており、ダム反対派が「耐越水堤防にすれば、大雨が降っても堤防は決壊しないから、洪水を防ぐためのダム建設は不要になる」と主張していた。

このため、耐越水堤防はダム推進の邪魔になると判断したと考えられている。

それから約20年がたったが、かつて建設された耐越水堤防は成果をあげている。

石崎勝義(いしざきかつよし)・旧建設省土木研究所次長が昨年3月、加古川の耐越水堤防を視察して調べたところ、2004年の豪雨でもびくともしなかったという。(石崎勝義『堤防をめぐる不都合な真実』/『科学』2019年12月号)

今年の台風19号では、那珂川で堤防が3カ所で決壊したが、耐越水堤防に強化された箇所は決壊していない。
国交省も堤防強化の必要性を認めており、2015年には、氾濫が発生しても被害を軽くする「危機管理型ハード対策」を打ち出した。しかしその内容は、「アスファルト舗装などによる天端の保護」と「ブロックなどによるのり尻の補強」の二つで、肝心の「裏のりの補強」は含まれていない。

なぜ国交省は今も、耐越水堤防を拒み続けるのか。

長年にわたりダム問題を研究している嶋津暉之(しまづてるゆき)・水源開発問題全国連絡会共同代表は、スーパー堤防(高規格堤防)との関係を指摘する。

スーパー堤防は、堤防の裏のりの勾配をものすごく緩やかにし、裏のりの幅を堤防の高さの30倍に広げて、その上を住宅地や公園にする。国交省はこれを、越水に耐えるただ1つの工法だとして推進している。 耐越水堤防を認めると、スーパー堤防推進の根拠がなくなってしまうことを恐れているというのだ。

石崎氏によれば、耐越水工法は1メートル当たり30万~50万円で施工できる。1メートル50万円としても1キロメートルで5億円、1000キロメートルで5000億円だ。

江戸川の片側のわずか120メートルを整備するだけで40億円以上もかかるスーパー堤防(東京都江戸川区小岩1丁目地区の場合)に比べてケタ違いに安い。

河川事業とダム建設事業を合わせた治水のための年間予算は、約6400億円(国直轄事業と補助事業の合計、2018年度当初予算)もある。ダム建設費を大幅に削って耐越水化に充てれば、数年程度で全国の堤防を強化できる。

石崎氏は、完成から年月がたって沈下した堤防や、川幅が狭くなる場所、本流に支流が合流する地点など、特に危険な部分を急いで強化するだけでも大規模な水害はなくせるとし、地球温暖化が進行し、豪雨や台風が巨大化した今こそ、耐越水堤防を復活すべきだと主張している。

● ダムの洪水予防効果は限定的 中下流地域では不明

ところで、国交省が推進したダムは、水害被害を防止・低減しただろうか。

ダム関係の訴訟をいくつも手掛けた西島和(にしじまいずみ)・弁護士は、「ダムの治水効果は不確実で限定的。しかもダムは時に凶器になる」と話す。河川の上流部に建設されるダムは、集水域に降った雨水を貯水できるだけで、中下流域に降った雨には対応できない。また治水効果はダムから遠ざかるほど減少し、中下流域(平野部)での効果は限られる。

たとえば2015年9月の鬼怒川水害では、上流に国交省管理の大規模ダムが4つもあったにもかかわらず、下流の茨城県常総市で堤防が決壊し、堤防のない箇所からの溢水もあって甚大な被害を生んだ。

今年の台風19号については、国交省関東地方整備局が11月5日、利根川の上流の7つのダムの治水効果(速報)を発表した。

それによると、八ッ場ダム(やんばダム、群馬県長野原町)や下久保ダム(群馬県藤岡市・埼玉県神川町)など7ダム合計で1億4500万立方メートルを貯水した結果、上流と中流の境目にある観測地点(群馬県伊勢崎市八斗島〈やったじま〉)では、水位をダムがない場合に比べて約1メートル下げたと推定されるという。

実際、利根川の水位は八斗島地点では氾濫危険水位を超えなかった。

しかし、中下流域に対する上流ダム群の治水効果は不明だという。利根川中流の観測地点(埼玉県久喜市栗橋)では最高水位が9.67メートル(基準面からの高さ)に達し、一時は氾濫危険水位の8.9メートルを超えた。

ただ、堤防はこの地点では氾濫危険水位より約3メートル高く造られており、氾濫は免れた。氾濫を防いだのは上流のダムではなく、堤防だった。

● 流量調節機能を失う場合も 危険が大きい緊急放流

ダムによる治水では、満杯になると洪水調節の機能を失うというもう一つの欠点がある。

堤防を守るために、流入した水量と同量を放流する「緊急放流」が行われるのだ。だがこの場合、自然界では起こり得ない流量の急上昇が起き、避難が難しい。

たとえば昨年の西日本豪雨では、愛媛県の肱川(ひじかわ)で2つのダムの緊急放流が行われ、西予市と大洲市ですさまじい被害を出した。

今年の台風19号では関東と東北の6つのダムで緊急放流が行われ、幸い水害は起きなかったが、ダム下流の人たちは右往左往させられた。

利根川上流の7ダムでは、下久保ダムが緊急放流の可能性があると関東地方整備局が発表していた。結果的に回避されたが、ダムは一時、ほぼ満杯になっていた。
八ッ場ダムは7500万立方メートルを貯水したが、これは本来の貯水能力を1000万立方メートルも上回る貯水量だった。多目的ダムである同じダムは使用できる容量を、上水道と工業用水のための利水用2500万立方メートル、洪水防止のための治水用6500万立方メートルとしている。

今は本格稼働前に安全性を確認する試験貯水中なので、利水用の容量に大量の空きがあり、治水用の容量を大きく超える貯水ができた。

だが、もし本格運用が始まっており、利水用容量が満杯に近い状態のときに、台風19号級の大雨が降れば、緊急放流が実施される可能性が大きい。想像するだけで恐ろしい事態だ。

● 今後の河川政策に 19号の教訓を生かせ

台風19号災害からどんな教訓を学び、今後の河川政策にどう生かしていくか。嶋津氏は次のように指摘している。

まずダムに対する過大評価をやめることだ。

八ッ場ダムは約6500億円の巨費と地元住民の生活の犠牲という代償を払って建設され、計画から半世紀たって完成したが、いまや水余りの時代になって利水の意義はなくなり、治水の効果も限定的であることが明らかになった。

八ッ場ダムに投じられた約6500億円を耐越水工法などの堤防強化に充てていれば、台風19号による堤防決壊はかなり防げた可能性がある。そう考えると、残念でならない。

今後の治水対策は、今回の災害を公正に検証し、個別の対策については費用・時間・効果を総合的に検討して優先順位をつけて実施していくべきだ。

氾濫防止にすぐに役立つのは、河床の掘削を随時行って河道の維持に努めることと堤防の強化であり、それには耐越水堤防の復活が欠かせない。

(ジャーナリスト 岡田幹治)

利根川上流ダム群の治水効果の発表(関東地方整備局)

2019年11月10日
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関東地方整備局が11月5日に台風19号豪雨に対する利根川上流ダム群の治水効果の速報値を発表しました。
「台風第19号における利根川上流ダム群※の治水効果(速報) ~利根川本川(八斗島地点)の水位を約1メートル低下~」

http://www.ktr.mlit.go.jp/kisha/river_00000474.html
相模川についても次の発表をしました、「台風第19号における相模川上流2ダムの治水効果(速報)~相模川本川(神奈川県厚木地点)の水位を約1.1メートル低下~」http://www.ktr.mlit.go.jp/kisha/river_00000475.html
利根川上流ダム群の治水効果の発表についての記事とニュースを掲載します。

利根川についての発表値は八斗島地点での上流ダム群の治水効果であって、八ッ場ダムをはじめ、各ダム個別の効果は示されていません。
記事によれば、「各ダム個別の治水効果は検証しておらず今後行うかも未定。仮に行う場合でも時間はかかるといい、今回の大雨による治水効果も現段階では「分かっていない」」ということですから、
八ッ場ダムだけの効果はわからないままになりそうです。
しかし、上流ダム群の治水効果は各ダム個別の効果を積み上げて計算されるはずですから、各ダム個別の効果は不明という関東地方整備局の説明は理解できません。
その点で、「八斗島地点の水位を約1メートル低下」という今回の発表にどの程度の根拠があるのか、大いに疑問です。ダムの効果を発表しておかないと、印象が悪いということで、とにかく発表したように思われます。

なお、当方が示した本豪雨における八ッ場ダムの治水効果の推定値は栗橋地点で17㎝の水位低下でした。

「利根川における八ッ場ダムの治水効果について 現時点のコメント」https://suigenren.jp/news/2019/10/14/12424/

八斗島地点と栗橋地点では約50㎞の距離があり、下流に行くほど、ダムの効果が小さくなっていきますので、今回の関東地方整備局の発表値とそのまま比較することは困難です。とりあえず、関東地方整備局の今回の発表の計算根拠資料を開示請求しましたので、その資料が得られたら、可能な範囲で検討してみたいと思います。

台風19号大雨 危険水位超え抑制 7ダムの治水効果を検証 /群馬
(毎日新聞群馬版2019年11月6日)https://mainichi.jp/articles/20191106/ddl/k10/040/116000c

国土交通省関東地方整備局は5日、台風19号による大雨に対する利根川上流ダム群の治水効果の速報値を発表した。大雨でこれらのダムには水が計約1億4500万立方メートル(1立方メートルは1トン)たまったという。その結果、観測基準点のある伊勢崎市八斗島地点での観測最高水位は、これらのダムがないと仮定した場合よりも約1メートル低い約4・1メートルにとどまり、氾濫危険水位4・8メートルを超えなかったとしている。
同ダム群は、矢木沢、奈良俣、藤原、相俣(以上はみなかみ町)、薗原(沼田市)の5ダムに加えて、本格稼働前に安全性を確認するために水をためる「試験湛水(たんすい)」を実施中の八ッ場ダム(長野原町)と藤岡市と埼玉県神川町にまたがる下久保ダム、草木ダム(みどり市)の計8ダムで構成され、今回の調査では草木ダムを除く7ダムの合計の治水効果を検証した。
八ッ場ダムには1億4500万立方メートルの半分以上を占める約7500万立方メートルの水がたまった。同整備局担当者によると、各ダム個別の治水効果は検証しておらず今後行うかも未定。仮に行う場合でも時間はかかるといい、今回の大雨による治水効果も現段階では「分かっていない」と話している。
八ッ場ダムについて赤羽一嘉国土交通相は、先月の参院予算委員会で「試験湛水を開始したばかりで水位が低かったため、予定の容量より多い約7500万立方メートルをためることができた」と説明。このことが下流の氾濫防止の大きな要因になったとの見方を示していた。【西銘研志郎】

台風19号 利根川 7ダム治水効果で水位1m低下
(群馬テレビ2019/11/7(木) 10:51配信) https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191107-00010000-gtv-l10

国土交通省関東地方整備局は、台風19号で八ッ場ダムなど利根川上流の7つのダムの治水効果により、利根川の水位がおよそ1メートル低下したと推定されると発表しました。
国土交通省関東地方整備局は、台風19号で、八ッ場ダムを含む利根川水系の7つのダムが1億4500万立方メートルの水を貯留したと発表しました。利根川の水位は伊勢崎市八斗島地点で最高水位4.1メートルを観測しましたが、関東地方整備局では、ダムが全てないと仮定した場合、およそ1メートル水位が上昇し5.1メートルとなり、氾濫危険水位の4.8メートルを超えていたと見ています。
流域ごとの貯留量はみなかみ町の八木沢、奈良俣など利根川本流域がおよそ3900万立方メートル、八ッ場ダムがおよそ7500万立方メートル、藤岡市の下久保ダムがおよそ3100万立方メートルでした。

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