水源連:Japan River Keeper Alliance

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流水型川辺川ダムの環境アセスの現状と今後について

2022年7月11日
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流水型川辺川ダムの環境アセスの現状と今後についてまとめてみました。本稿では「清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域郡市民の会」の緒方紀郎さんがMLに送付された資料も使いました。

 

川辺川ダムの経過

川辺川ダム計画は潮谷義子・熊本県前知事が中止に向けて長年取り組んできたダム計画で、中止が県民の願いとなっていました。それを受けて、2008 年9月、蒲島郁夫・現知事がやむなく、県議会で建設反対を表明したものであり、ダム中止は蒲島氏の本意ではありませんでした。

蒲島氏は、2020年球磨川水害のあと、12年前の白紙撤回から方針転換し、2020年11月に新たな流水型のダム建設を国に求めると表明しました。

川辺川ダム計画は2009年に中止とされたものの、特定多目的ダム法に基づく廃止手続きは取られておらず、法的には生き残っていて、国交省はダム事業復活の機会をずっと伺ってきました。2020年球磨川水害がその復活の機会となってしまいましたが、当時、仮に川辺川ダムがあっても、亡くなった方の大半はその命を救うことができなかったことが明らかにされています。

 

流水型川辺川ダムの環境アセス

流水型川辺川ダム事業は元々の川辺川計画が環境アセス法の施行(1999年)の前からあるということで、環境アセス法の対象になっていませんが、蒲島知事の要望により(蒲島氏のポーズでもありますが)、環境アセス法に準じた手順で、流水型川辺川ダムの環境アセスを事業者(国土交通省)が行うことになりました。

その手順は、事業者が示した「球磨川・新たな流水型ダム 環境影響評価の進め方について」のとおりです。

環境配慮レポート、環境影響評価方法レポート、環境影響評価レポート(案)、環境影響評価レポートという順序でアセスを行っていくということです。

このアセスの手順は、環境アセス法による計画段階配慮アセス、環境影響評価方法書、環境影響評価準備書、環境影響評価評価書の手続きにそれぞれ対応していることになっています。

 

環境配慮レポート(環境アセス法による計画段階の環境配慮アセスに相当)

最初の環境配慮レポートの手続きはすでに始まり、縦覧期間は4月28日で終了し、意見書提出期間も5月13日で終了しました。

最初の環境配慮レポートは http://www.qsr.mlit.go.jp/kawabe/kankyou_torikumi/hairyo_report.html に掲載されています。

計画段階配慮アセスが法アセスに2013年に導入されて、最も重要なポイントとなるのが、対象事業以外の案も含む複数案を比較評価することです。

すなわち、川辺川ダムに関しては、治水効果と環境面の影響についてダム以外の治水対策案と詳しく比較評価することです。

しかし、今回の環境配慮レポートでは複数案の比較評価が行われていません。

そこで、「流域郡市民の会」は6月8日に「法アセスの実施を求める意見書」を提出し、熊本県と協議しました。県書と協議記録はそれぞれ、次の通りです。

2022.6.8法アセス実施を求める意見書(流域郡市民の会)

「流水型川辺川ダムは法アセスを実施すること等を求める意見書」提出後の協議記録(流域郡市民の会)

なぜ複数案の検討を行わなかったのかという問いに対して、県は法アセスでも複数案の検討は義務づけられていないと答えています。

 

環境省の後ろ向きの姿勢

そこで、水源連の方で、環境省の環境影響評価課に問い合わせたところ、下記の通り、「主務大臣が定めるべき指針等に関する基本的事項」で、「複数案を設定しない場合は、その理由を明らかにするものとする」となっているから、法アセスでも複数案は義務付けられていないとのことでした。

愕然とする答えでした。計画段階配慮アセスが骨抜きにされてしまっているように思いました。

「環境影響評価法の規定による主務大臣が定めるべき指針等に関する基本的事項

第一 計画段階配慮事項等選定指針に関する基本的事項  一 一般的事項

(3) 計画段階配慮事項の検討に当たっては、第一種事業に係る位置・規模又は建造物等の構造・配置に関する適切な複数案(以下「位置等に関する複数案」という。)を設定することを基本とし、位置等に関する複数案を設定しない場合は、その理由を明らかにするものとする。」

河川等の環境を開発から守っていこうという気概が見られない、環境省の後ろ向きの姿勢でした。

思い返せば、水源連は3年前にもこのことを問題視していました。「形骸化した公共事業の戦略的環境アセス(計画段階の環境配慮アセス)」https://suigenren.jp/news/2019/03/29/11504/

 

流水型川辺川ダムの環境アセスは進行中

流水型川辺川ダムに関しては上記の通り、環境アセス法に準じてのアセス手続きが現在、進行中です。現在の環境配慮レポートに続いて、今後、環境影響評価方法レポート、環境影響評価レポート(案)、環境影響評価レポートという順序で、環境アセス法に準じた手続きが行われていきます。

この手続きは流水型川辺川ダムに関して環境アセスも行ったというポーズを示すだけという面がありますが、私たちはこれからもその動きを注視し、意見を述べていく必要があります。

北海道・沙流川の平取ダムが運用開始 二風谷ダムは堆砂が凄まじく進行

国土交通省が北海道の沙流川(さるがわ)支流の額平川(ぬかびらがわ)に建設していた平取(びらとり)ダムが完成し、7月1日から運用が開始されました。

官報  平取ダム建設完了の告示20220701

沙流川には河口より約21キロメートの位置に二風谷(にぶたに)ダムが1998年に造られました。両ダムの位置は下図の通りです。総貯水容量は二風谷ダム3150万㎥、平取ダム4580万㎥です。

(沙流川総合開発事業  https://www.hkd.mlit.go.jp/mr/sarugawa_damu/tn6s9g0000000zll.html

二風谷ダムはアイヌ民族を司法の場で初めて先住民族と認めた札幌地裁判決の対象となったところです。

(「二風谷ダム判決25年 先住権回復足踏み」https://suigenren.jp/news/2022/03/28/16032/

沙流川におけるダム建設の重要な問題は、土砂供給量が非常に大きい河川であるので、ダムが速いスピードで流入土砂で埋まっていくことです。

二風谷ダムの当初計画では堆砂容量は550万㎥でしたが、堆砂の速度が速いので、2008年度の基本計画変更で1430万㎥にしました。(二風谷ダム定期報告書 2010.3)

しかし、総貯水容量3150万㎥に対して、2020年度末の堆砂量がすでに1280万㎥にもなっています(国土交通省の数字)。

そして、現地の状況を見ると、この数字以上の凄まじい状況になっています。

「流域の自然を考えるネットワーク」http://protectingecology.org/report/8441の報告に、下記の写真の通り、二風谷ダムは堤体の直近まで土砂で埋まっている状態が示されています。
撮影:2018年7月4日

ダム建設によって川をこのような惨状にしてしまってよいのかと思わざるを得ません。

平取ダムも同様に土砂堆積がかなりのスピードで進行していくことは必至です。

沙流川は土砂の流出が極めて大きいので、ダムを造ってはならない河川であるのに、ダムがまた造られてしまったのです。

平取ダムの土砂対策は下図の通りです。融雪期(4~5月中旬)は水を貯めることなく、水や土砂をそのまま流下する方式をとるというものです。

しかし、この方式は机上で考えたことであって、実際に計画通りに行くとはとても思われません。

黒部川の宇奈月ダムのように、排砂による生態系に与えるダメージも心配しなければなりません。

沙流川は平取ダムの完成により、深刻な問題を新たに抱えるようになりました。

 

平取ダムの運用

参議院議員選挙に向けて、8政党へのダム問題に関するアンケート調査報告

2022年6月30日
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参議院議員選挙に向けた8政党へのアンケート調査

ダムは、水道用水の確保・水害の防止・土砂災害の防止等の目的のため、高度経済成長以後、巨費を投じて建設されてきました。現在、日本の河川には約2500基のダムが存在します(砂防ダムを除く)。2010年度以降に行われたいわゆるダム検証では、対象とされた84ダム計画のうち、「無駄なダム」と指摘されていた問題ダム事業のほとんどが継続となりました。検証により、中止になったダムはほんの少しありましたが、それらの中止ダムは事業者の都合、もしくは反対運動の高まり等により、中止の方向が出ていたものでした。
近年、ダムをめぐる社会状況は大きく変化しています。人口減少、水需要の長期的減少傾向、気候危機による水災害の大規模化・広域化で、新規のダム事業に巨費を投じ続けることは持続可能な社会の実現に逆行する状況となりました。欧米では、河川環境の回復や財政負担の軽減のため、ダムが撤去される時代となっています。一方、日本の河川から撤去されたのは熊本県の荒瀬ダムのみです。
これからの日本において、ダムに関する政策をどのように転換するか・しないかは、日本社会のあり方、日本で暮らす私たちが受ける「国民の生命、財産を守る行政」のあり方を決定するものです。
7月10日投開票日とされた参議院議員選挙に候補者を擁立する各政党に対して、ダムに関する政策を伺い、同選挙での投票の判断材料とさせていただくことを目的に、 共産党・ 国民民主党・ 公明党・自由民主党・ 社民党 ・日本維新の会 ・立憲民主党・ れいわ新撰組の8政党へダムに関する政策を伺うアンケート調査を行いました。6月24日を回答期限と設定させていただきました。

2022参院選 政党アンケートお願い 提出版 PDF 743kb

 2022年6月29日現在の回答集約結果を掲載します。皆様の投票行動の参考にご活用ください。未着分については、到着次第、集約結果に反映させて掲載いたします。

 2022_参議院選政党アンケート回答集約_20220629-2 PDF 135kb

2022_参議院選政党アンケート回答集約_20220629  以下図表版

全国のダムの堆砂データ(2020年度末)

2022年6月22日
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国土交通省が保管する「全国のダム堆砂状況〔2020年度末)のデータ」を入手しました。

全国のダム堆砂状況について(2020年度末時点) をご覧ください。

全国の1,212基のダムの堆砂データです。

国のダム、都道府県のダム、市町村のダム、電力会社等民間ダムの堆砂データが網羅されています。

このデータの入手には阿部知子衆議院議員事務所のご協力をいただきました。

 

この堆砂データを見ると、堆砂が凄まじく進んでいるダムが少なからずあることがわかります。

例えば、日本軽金属の雨畑ダム(山梨県・富士川支流の雨畑川、1967年竣工)です。

雨畑ダムは総貯水容量1365万㎥、堆砂容量600万㎥に対して、2020年度末の堆砂量が1267万㎥に達しており、ダムの貯水池全体が土砂でほぼ埋まっています。

 

また、二風谷ダム(北海道・沙流川、1997年度竣工、国土交通省)は総貯水容量3150万㎥、堆砂容量1430万㎥に対して、2020年度末の堆砂量がすでに1280万㎥になっています。

 

佐久間ダム(愛知県・天竜川、1956年度竣工、電源開発)は総貯水容量32685万㎥、堆砂容量6621㎥に対して、2020年度末の堆砂量が14016万㎥にもなっています。

佐久間ダムは堆積土砂を排出するための天竜川ダム再編事業が20年前に計画されましたがhttps://www.cbr.mlit.go.jp/hamamatsu/dam/saihen/

2016年10月の新聞記事 https://www.cbr.mlit.go.jp/hamamatsu/dam/saihen/pdf/20161024-1_2.pdf

を見ると、事業が難航しているようです。

 

身近なダムの堆砂状況を本データでチェックしていただければと思います。

水害訴訟(鬼怒川、小田川(真備町)、野村ダム)2022年6月19日現在の状況

2022年6月19日
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水害の行政責任を問う裁判が各地で進められています。その情報をまとめて掲載します。

 

○ 鬼怒川水害訴訟(茨城県)

2015年9月の関東・東北豪雨では鬼怒川下流部で堤防が決壊し、無堤地区で大規模な溢水があって、その氾濫が茨城県常総市の鬼怒川左岸側のほぼ全域におよび、凄まじい被害をもたらしました。

堤防決壊箇所も大規模溢水箇所もその危険性が極めて高いことを国土交通省は認識していながら、放置してきており、国土交通省の責任はきわめて重大です。そこで、国家賠償法により、被災者22世帯の方が国に対して損害賠償を求める裁判を2018年に起こしました。今年2月に結審し、7月22日に判決日を迎えることになりました。

当初から本裁判に関わってきたものの印象として、この裁判は弁護士の皆様の頑張りで、住民側が勝つ要素が十分にある裁判であると思っています。

本裁判の経過、訴訟資料、報道記事は鬼怒川裁判のHP https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000053#case_tab

に掲載されています。

裁判所へ国民の声を届けることも必要です、

「7月22日(金) に判決日を迎える鬼怒川水害訴訟 水戸地裁へ要請はがきを!」https://suigenren.jp/news/2022/05/29/16273/

をお読みの上、本訴訟へのバックアップをお願いします。

 

○ 真備水害訴訟(岡山県)

2018年7月の西日本豪雨では岡山県倉敷市真備町で51名の方が亡くなりました。高梁川支流・小田川とその支川の氾濫によるものでした。

その経緯は、「高梁川支流・小田川(岡山県真備町)の氾濫防止事業を半世紀も先送りした国土交通省」 https://suigenren.jp/news/2022/04/25/16311/

をお読みください。

真備水害弁護団のHPもあります。http://mabisuigai.starfree.jp/index.html

そのHPに原告側の意見書「真備水害における河川管理者の責任について」(令和 3 年 9 月 20 日 中村文彦)が掲載されています。

https://drive.google.com/file/d/1I4PY7rfYn6EyDg70v8wXgsD_1VKGuof5/view

「かかる真備水害は想定外の大洪水ではなく、事前に予期できたものであり、適切な河川改修が実施されていれば、未然に防ぐことができた。また、住民から要望のあった樹木伐採を適正に行っていれば、大きく被害軽減が可能であった。」という主旨で書かれていて、小田川の付け替え、河川改修、樹木伐採を遅らせてきたことの責任を厳しく問うています

中村氏は近畿地方整備局水災害予報センター長であった人で、原告側の立場で意見書を出されたことに感銘を受けました。

なお、小田川氾濫の根源となった小田川付け替え事業の先送り問題ですが、現在、その工事が進行中です。

小田川合流点付替え事業進捗状況 – mlit.go.jp  https://www.cgr.mlit.go.jp/takaoda/shinchoku/tsukekae.html 」

を見ると、2018年の水害後に付け替え工事が開始され、2023年度完成予定で、進められつつあります。来年度には工事が終わる予定ですが、あまりにも遅すぎます。

もっと早く着手していれば、2018年7月の西日本豪雨の小田川氾濫を回避することができました。

 

○ 野村ダム緊急放流による水害訴訟(愛媛県)

西日本豪雨では愛媛県・肱川の野村ダムと鹿野川ダムが緊急放流を行い、深刻な洪水被害を引き起こしました。

野村ダムの下流では、ダムの放流により、5人が死亡し、約650戸が浸水しました。鹿野川ダムの下流でもダムの放流により、3人が死亡し、約4600戸が浸水しました。

2018年7月の西日本豪雨による肱川の氾濫で浸水被害が拡大して犠牲者が出たのは野村ダム等の操作や西予市の避難指示の遅れが原因として、遺族や被災者ら13人が国と西予市に損害賠償を求める裁判を起こしています。

前にもお知らせしましたが、

この原告団がインターネットで裁判費用を募るクラウドファンディング(CF)を行っています。

このクラウドファンディングについては「野村ダム緊急放流による水害訴訟」https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000061#case_tab をご覧ください。皆様の支援をお願いします。

原告の方々にとって全国からの声が何よりも励みになりますので、皆様の声を届けてください。

この裁判の重要な争点となっているのは、野村ダム、鹿野川ダムの操作規則が1996年にそれまでの大規模洪水を対象にしたものから、中小規模洪水を対象にしたものに改定されたことです。

(訴状https://www.call4.jp/file/pdf/202010/5309d01694e6e2cae0ed62a962af532d.pdf  9~10ページ)

中小規模の洪水を対象とするように変えたのは、ダム下流域は堤防未整備区間が多いので、ダムの調節で中小洪水の氾濫を抑えようと、国土交通省が考えたからです。ダム優先の河川行政で河道整備が後回しになり、その弥縫策として採用されたのがダム放流ルールの改定でした。(「肱川のダム放流「中小規模の洪水対応」適切だったか」 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33702510S8A800C1000000/  日経xTECH 2018年8月2日 )

しかし、大規模洪水が来た2018年西日本豪雨ではそのことが大きく災いしてしまいした。

改定前の大規模洪水対象の操作規則(旧ルール)ならば、氾濫を小さくすることができたのに、中小規模洪水対象の操作規則であったため、氾濫被害を極めて深刻なものにしてしまいました。

国土交通省のデータを使って、野村ダムについて嶋津が数年前に試算した結果を下図に示します。

旧ルールであったならば、(1000㎥/秒以上で氾濫したとすると)ダム直下の氾濫の始まりが6時30分頃から8時頃へと、約1時間半も遅くなり、氾濫水の総量は1/3程度になり、氾濫ピーク流量は1800㎥/秒から1400㎥/秒程度へと、400㎥/秒程度小さくなっていました。

旧ルールでも氾濫があったとしても、旧ルールであったならば、氾濫の被害が大幅に軽減されていました。人の命も救えたように思います。

しかし、国土交通省はダム優先の河川行政が深刻な洪水被害を引き起こしたことへの反省が全くなく、相変わらず、肱川でダム優先の河川行政を続けています。

既報の通り、この問題を明らかにする住民側の集会が7月16日に愛媛県大洲市で開かれます。シンポ「今なら止められる! 山鳥坂ダム建設と野村ダム改造」 https://yamba-net.org/57838/ をご覧ください。

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