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事務局からのお知らせ

利根川水系河川整備計画の策定に関する要請(8)(利根川・江戸川河川整備計画原案の基本的な問題点)(2013年3月18日)

2013年3月19日
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利根川流域市民委員会は3月18日の利根川・江戸川有識者会議に下記の要請書を提出しました。

2013年3月18日

利根川・江戸川有識者会議 委員 各位

利根川流域市民委員会
共同代表 佐野郷美(利根川江戸川流域ネットワーク)
嶋津暉之(水源開発問題全国連絡会)
浜田篤信(霞ヶ浦導水事業を考える県民会議)
連絡先 事務局(深澤洋子)


利根川水系河川整備計画の策定に関する要請(8)(利根川・江戸川河川整備計画原案の基本的な問題点)

利根川・江戸川有識者会議は本日第11回会議の後、引き続き開催されるのか、予断を許さない状況になっています。前々回の会議での泊宏河川部長の発言にもあったように今回または次回で打ち切りになる可能性が高くなっています。

打ち切りになれば、国土交通省関東地方整備局は、利根川・江戸川河川整備計画原案を微調整して計画案とし、そのあと、関係都県知事の意見を聞いて計画を近々のうちに策定しまうことが予想されます。利根川・江戸川有識者会議での議論、パブリックコメント、公聴会の意見聴取も、所詮、関東地方整備局は通過儀礼としか考えていないようです。

しかし、利根川の河川整備計画は利根川の今後30年間の河川整備の内容を定めるものですので、現在および将来の利根川流域住民の生命と財産を本当に守ることができ、且つ、利根川の自然環境にも十分に配慮した計画が策定されなければなりません。利根川流域住民にとってきわめて重要な意味を持つ計画を拙速に策定すれば、将来において大きな禍根を残すことになります。

利根川・江戸川有識者会議の委員の参考に資するため、利根川・江戸川河川整備計画原案の基本的な問題点を下記のとおり、まとめました。

委員の皆様におかれましては、下記の問題点をお読みいただき、利根川・江戸川河川整備計画原案について十分に議論する場の確保を関東地方整備局に求めるとともに、原案の是非を根底から検討されることを要請します。


1 八ッ場ダム本体関連工事を進めるための拙速策定でよいのか。 

関東地方整備局が利根川・江戸川河川整備計画の策定をなぜ急ごうとするのか、本来は利根川水系全体の河川整備計画を策定しなければならないのに、なぜ本川だけの整備計画だけをつくろうとするのか、なぜ有識者会議の議論を打ち切ろうとするのか、その理由は八ッ場ダム本体関連工事の早期着手にあります。

民主党政権下では2011年12月22日の藤村修官房長官の裁定により、八ッ場ダム本体工事の予算執行は利根川水系河川整備計画の策定が前提条件となりました。昨年12月の総選挙で自公政権に交代しましたが、八ッ場ダム建設計画の上位計画である利根川河川整備計画の位置づけなしで八ッ場ダムの本体工事に入ることは法的な正当性がなく、世論の反発を招きかねないとして、利根川・江戸川河川整備計画の策定を急いでいると推測されます。

しかし、現在および将来の利根川流域住民の生命と財産に関わるきわめて重要な意味と役割を持つ利根川河川整備計画が、八ッ場ダム本体関連工事の早期着手のために拙速に策定されることは本末転倒であるといわざるをえません。

八ッ場ダム建設基本計画ではダム完成予定年度は2015年度末となっていますが、工期の大幅な延長は必至となっています。昨年2月の国会で当時の前田武志国交大臣は、八ッ場ダムの完成は本体工事着手後約7年かかると答弁しており、今すぐに着手しても完成は2020年度になります。これは主に、関連事業である付替え鉄道(JR吾妻線)の工事の遅れによるものなのですが、一方で、治水・利水両面での八ッ場ダムの必要性が希薄になっていることが背景にあります。

このように八ッ場ダムは仮に推進しても完成は2020年度以降のことなのですから、八ッ場ダム本体工事の早期着手のために、利根川河川整備計画の策定を急ぐ理由はなく、八ッ場ダムの是非をあらためて議論すべきです。いわば、八ッ場ダム本体関連工事の早期着手を企図する国土交通省の面子のために、本川だけの利根川・江戸川河川整備計画が急いで作られようとしているのです。このような本末転倒の話が罷り通ってよいはずがありません。

2 八ッ場ダムを位置づけるための治水目標流量の引き上げ

2006~2008年の利根川水系河川整備計画の策定作業で関東地方整備局が示した計画案のメニューでは本川の治水安全度1/50、治水目標流量約15,000㎥/秒(八斗島地点)でしたが、2012年度に策定作業が再開されてからは、関東地方整備局の計画案は本川の治水安全度1/70~1/80、治水目標流量17,000㎥/秒に引き上げられました。2006~2008年に示し、有機者会議や公聴会、パブコメで意見も聴いた計画案の枠組みを関東地方整備局が自ら勝手に変えてしまうのですから、行政としては常軌を逸した乱暴な進め方という他ありません。

2月14日会議の配布資料2「原案補足」2㌻に八斗島地点上流の洪水調節施設の効果量の表(8洪水の引き伸ばし計算結果)が示されています。その表は別紙1の表1に示すとおりで、既設ダム、八ッ場ダム、烏川内洪水調節施設、既存施設の機能増強(ダム再編事業)の洪水調節によって、治水目標流量17,000㎥/秒を概ね、河道目標流量14,000㎥/秒以下に下げるようになっています。八ッ場ダムなしでは、治水目標流量17,000㎥/秒に対応できないようになっています。

しかし、治水目標流量が2006~2008年当時の案のように15,000㎥/秒ならば、どうなるでしょうか。「原案補足」2㌻の表の数字に15,000/17,000を乗じて、比例計算で単純に治水目標流量15,000㎥/秒とした場合の八斗島地点上流洪水調節施設の効果量を試算した結果を別紙1の表2に示します。

ただし、この「原案補足」2㌻の表は、国交省が八ッ場ダムの効果量を従前の数字よりかなり大きくしたものです。国交省による従前の計算では八ッ場ダムの洪水ピーク削減量は基本高水流量22,000㎥/秒に対して600㎥/秒(31洪水の引き伸ばし計算結果の平均)で、削減率は2.7%でした。ところが、「原案補足」の表では八ッ場ダムの効果量は8洪水の平均で1,176㎥/秒で、目標流量17,000㎥/秒に対する削減率は6.9%になり、従前の削減率の2.6倍に跳ね上がっています。八ッ場ダムの効果が2.6倍になったのは、一つは八ッ場ダムの洪水調節ルールを八ッ場ダム基本計画に記載されている本来のルールとは違うものにしたこと、もう一つは洪水流出計算の新モデルが八ッ場ダムの効果が大きくなるようにつくられたことによるものです。

そのように、「原案補足」の表は八ッ場ダムの効果を引き上げる意図が入ったものですが、それでも、治水目標流量を15,000㎥/秒にすれば、別紙1の表2のとおり、既設ダムの効果だけで、河道目標流量14,000㎥/秒以下に下げることが可能となります。八ッ場ダムも烏川内洪水調節施設も既存施設の機能増強(ダム再編事業)も不要となります、

このことから見て、2006~2008年当時の治水目標流量約15,000㎥/秒から今回の原案の治水目標流量17,000㎥/秒への引き上げは、八ッ場ダム等を河川整備計画に位置づけるために行われたものであることは明らかです。

3 治水目標流量案17,000㎥/秒の科学的根拠の破綻

利根川・江戸川河川整備計画原案の治水目標流量17,000㎥/秒(八斗島地点)は、国交省が利根川洪水流出計算の新モデルを使って1/70~1/80の治水安全度に相当する流量を算出したものと説明されています。この計算の過程に使われた総合確率法は科学性が疑わしい方法なのですが、この問題はさておき、この新モデルで昭和22年カスリーン台風の再来計算流量は21,100㎥/秒(八斗島地点)であり、同台風の実績ピーク流量の公称値17,000㎥/秒と比べて、4,000㎥/秒以上も過大であることから、新モデルの妥当性が本有識者会議の議論で大きな争点となってきました。

この大きな乖離については八斗島地点上流で氾濫があったことでしか説明できず、その説明資料として国交省が示したカスリーン台風当時の氾濫推定図は洪水が台地や丘陵まで駆け上るというもので、現実と遊離したものでした。大熊孝委員は昭和40年代の東京大学大学院生時代に利根川周辺の現地で丹念に聞き取り調査を行った結果から、カスリーン台風当時の八斗島上流の氾濫は小さなものであり、1,000㎥/秒にも満たないと断じています。したがって、国交省による21,100㎥/秒という再現計算流量は非常に過大な値であることが明らかです。

さらに、2月21日の本有識者会議で新たに配布された資料3「治水調査会利根川小委員会・利根川委員会の議事録」(カスリーン台風直後の昭和22年11月から24年2月までの建設省内の委員会の議事録)とその委員会報告(建設省「利根川改修計画資料Ⅴ」)を読むと、カスリーン台風洪水の八斗島地点の実績流量とされている17,000㎥/秒は政治的に決められたものであり、実際の実績流量はそれより小さい数字で、15,000㎥/秒以下であったことを知ることができます。

また、この議事録を見ると、上述の氾濫による流量減少は、昭和22~24年の委員会では一切議題になっていません。上流部の氾濫で八斗島の洪水ピーク流量が大きく減少したならば、実績流量の評価においてそのことが議論の重要なテーマになって当然だと思われるのですが、それについて議論が行われた形跡がありません。そのことは八斗島より上流部での氾濫は比較的小さなもので、取り上げる必要がない程度のものであったことを物語っています。

カスリーン台風の実績流量が実際には17,000㎥/秒ではなく、15,000㎥/秒以下なのですから、国交省の新モデルによる再来計算流量21,100㎥/秒との差は6,000㎥/秒以上となり、21,100㎥/秒の過大さが一層明白になってきました。

氾濫量を仮に大きめに見て1,000㎥/秒としても、再来計算流量は16,000㎥/秒以下になるべきです。

以上の事実を踏まれば、原案の治水安全度1/70~1/80に相当する流量の真値は17,000㎥/秒よりはるかに小さい数字になります。この真値を比例計算で推測すると、

17,000㎥/秒×(16,000㎥/秒÷21,100㎥/秒)=約12,900㎥/秒となります。

以上のとおり、カスリーン台風の正しい実績流量に合わせて洪水流出モデルを構築すれば、関東地方整備局の1/70~1/80を前提としても、その洪水ピーク流量は15,000㎥/秒を大きく下回る流量になるのですから、八ッ場ダム等の新規洪水調節の必要性は皆無となります。

4 巨額の河川予算を使い続けることが前提になっていて、実現性がない利根川・江戸川河川整備計画原案

本有識者会議の第9回会議で関東地方整備局は「河川整備計画原案の治水対策で想定している費用は約8,600億円である」と答えています。同様な数字が八ッ場ダム建設事業の検証の開示資料にも示されています。この時の総額はほぼ同じ8,394億円で、その内訳は別紙2のとおりです。

しかし、中身を見ると、事業費の過小見積もりが明らかな事業項目が少なくありません。例えば、首都圏氾濫区域堤防強化対策事業は1,687億円となっていますが、実際には同事業の開示資料では2,690億円となっています。また、高規格堤防(スーパー堤防)は82億円となっていますが、原案によるスーパー堤防の整備区間は22㎞もあり、1㎞あたり数百億円規模とされるスーパー堤防がこんなにわずかな事業費で済むはずがありません。八ッ場ダムも今後は地すべり対策などで事業費の大幅増額は必至です。

となると、原案通りの河川整備を実施しようとすれば、1兆何千億円の費用が必要なのであって、それも本川関係だけです。今回の原案の計画対象外となっている支川関係を含めると、2兆円を超えるかもしれません。

日本は過去につくりすぎた社会資本の老朽化により、その更新と維持管理に必要な投資が次第に増大して、新規の社会資本投資が先細りになる時代になっていくことは周知の事実です。そのことを踏まえれば、利根川の河川整備にそのように巨額の河川予算を投じることはもはや不可能です。

利根川・江戸川河川整備計画原案は事業費の面から見て実現性がなく、絵に描いた餅に過ぎないのです。

5 流域住民の安全を極力早く確保できる治水対策を厳選した河川整備計画を! 

巨額の河川予算を利根川に投じ続けることはもはや困難な時代になってきたので、利根川水系においても流域住民の安全を極力早く確保できる治水対策を厳選して、そこに河川予算を集中して投じるように河川行政を変えていかなければなりません。そうしなければ、利根川流域の住民は氾濫の危険性がある状態に放置されてしまうことになります。

利根川では堤防の高さはほとんどの区間で確保されていますので、堤防のかさ上げは今後のメインの治水対策ではありません。また、八ッ場ダムは治水効果がわずかで、喫緊の対策にはなりえません。

喫緊の治水対策は脆弱な堤防の強化とゲリラ豪雨による内水氾濫への対策です。さらに、想定を超える洪水への対策も考えなければなりません。これらの喫緊の治水対策に重点をおいた実現性がある利根川河川整備計画が策定されなければなりません。

① 脆弱な堤防の強化

利根川及び江戸川の本川・支川では洪水の水位上昇時に破堤する危険性がある脆弱な堤防が各所にあり、浸透防止対策が必要な区間の割合は利根川本川62%、江戸川60%にも及んでいます。もし破堤すれば、甚大な被害をもたらすので、脆弱な堤防の強化工事を急いで進めなければなりません。脆弱な堤防では洪水時の水位上昇で堤内地への漏水が起き、破堤の危険が生じることがあります。2001年の台風10号では埼玉県加須市大越(おおごえ)で堤防の漏水事故がありました。6都県知事は2009年10月19日の共同声明で2001年のような堤防の漏水事故があるから、八ッ場ダムが必要だと主張しましたが、それは全く非科学的な意見です。堤防の漏水は堤防の強化でしか防ぐことができないのであって、八ッ場ダムで洪水位をわずかに下げても何の意味もありません。6都県知事たちの主張は、実情にあまりに無知で、利根川流域の住民の安全を真剣に考えない無責任なものと言わざるをえません。八ッ場ダムではなく、脆弱な堤防の強化こそが利根川治水の喫緊の課題なのです。

② ゲリラ豪雨による内水氾濫への対策

利根川流域における最近の氾濫はゲリラ豪雨が引き起こす内水氾濫(小河川の氾濫を含む)ばかりです。2011年9月のはじめにも群馬県南部で記録的な大雨があり、伊勢崎市等で大きな浸水被害がありましたが、これも内水氾濫でした。近年はこのようなゲリラ豪雨がしばしば起きるようになりましたので、雨水貯留・浸透施設の設置、排水機場の強化など、内水氾濫対策に重点をおいた整備事業を早急に進める必要があります。

③ 想定を超える洪水がきても壊滅的な被害を受けない対策

3.11東日本大震災を踏まえれば、利根川においても想定を超える洪水が襲った場合に壊滅的な被害を受けない治水対策にも取り組まなければなりません。それは治水計画の洪水目標流量を引き上げて、ダムなどの大きな河川構造施設を次々と整備することではありません。そのような施設整備は巨額の予算ときわめて長い年数を要するため、実現が不可能です。想定を超える洪水が来ても、壊滅的な被害を防止できる現実に実施可能な対策を進めていかなければなりません。それは、越流することがあっても直ちに決壊しない堤防(耐越水堤防)に変えていくことです。

ⅰ スーパー堤防の中止を!

耐越水堤防への改善は今後の治水対策の要ですが、それはスーパー堤防ではありません。スーパー堤防は1㎞の整備に数百億円規模の事業費を要するため、実際にはごく限られた区間の「点」的な整備しかできず、治水対策として何の役割も果たしません。税金を浪費するだけのスーパー堤防事業は直ちに中止すべきです。

ⅱ 首都圏氾濫区域堤防強化対策事業の見直しを!

堤防強化という名目で利根川・江戸川の右岸側堤防(約70㎞)を大きく拡幅する首都圏氾濫区域堤防強化対策事業が進められています。この事業は堤防の裾野を大きく拡げるため、1,200戸以上の家屋の移転が必要となるもので、完成まで非常に長い年月を要し、事業費も大きく膨れ上がることが予想されます。現計画の事業費でも約2,690億円、1㎞当たり40億円にもなります。治水対策は、最小の費用で最大の効果があり、長い年月を要しないものが選択されなければなりません。もっと安上りな堤防強化対策を選択すべきです。

ⅲ 安価なハイブリッド堤防技術を導入して耐越水堤防へ

耐越水堤防は巨額の費用をかけることなく、堤防を強化できる技術が選択されなければなりません。鋼矢板やソイルセメント連続地中壁を堤防中心部に設置するハイブリッド堤防が安価な技術で、1㎞当たり数億円規模で実施できるとされています。このような技術による堤防強化工事を進めれば、短い期間で利根川の堤防を抜本的に強化することができます。ハイブリッド堤防による堤防強化を利根川水系河川整備計画に明記すべきです。

6 自然の回復を目指した利根川河川整備計画を!

利根川では過去のダム建設や河川改修などの河川改変事業によって利根川の自然は大きなダメージを受けてきました。最近、絶滅危惧種に指定されたウナギを例にとれば、霞ケ浦・北浦を含む利根川水系のウナギの生産量は1960年代の終わりには1,000トンを超える漁獲量を示し、全国漁獲量の1/3を占めていましたが、2000年代には60トン前後まで低下し、最盛期の約1/20となり、まさに絶滅の危機の状態にあります(二平章(茨城大学地域総合研究所「ウナギ資源の減少と河口堰建設」(東京水産振興会平成23年度事業報告)より)。

このように利根川の自然がおかれている悲しむべき現実を踏まえれば、利根川河川整備計画の策定においては自然を極力回復させることを企図すべきです。その点で、大いに参考になるのは、現在、策定作業が進められている円山川水系河川整備計画(近畿地方整備局)です。この河川整備計画原案では、自然の回復を目指して、①本川と支川・水路との間の落差を解消し、生物の移動可能範囲の拡大を図る、②水域から山裾までの河床形状をなだらかにして、山から河川の連続性を保全する、③川の営力による自然の復元力を活かしつつ、河川環境の整備を行い、過去に損なわれた湿地や環境遷移帯等の良好な河川環境の保全・再生を図ると書かれています。

私たちはこの原案に盛り込まれた素晴らしい理念に感動を覚えました。関東地方整備局においても円山川水系河川整備計画原案を見習って自然の回復を目指した利根川水系河川整備計画を策定すべきです。

7 利根川水系全体の河川整備計画を!

今回の原案は利根川・江戸川の本川のみを対象としています。しかし、利根川水系には渡良瀬川、鬼怒川、霞ケ浦など、大きな支川がいくつもあり、それらの支川も含めて、水系全体の河川整備計画を策定しなければなりません。支川と本川は相互に関係しており、特に支川の状況が本川に影響するので、本川だけの整備計画を先行して策定することは策定手順が根本から間違っています。

全国の一級河川の直轄区間では72水系で河川整備計画が策定されてきていますが、今回の利根川の原案のように、本川の河川整備計画を先行して策定した水系は皆無です。石狩川以外は水系全体の河川整備計画を策定しています。唯一の例外である石狩川では支川の河川整備計画を先に策定し、それを受けて本川の河川整備計画を策定しています。支川の状況が本川に影響することを考えれば、当然の順序です。利根川においても、本川を先行して策定することをやめて、他の一級水系と同様に、支川も含めて水系全体の河川整備計画の策定作業を進めることが必要です。 

8 事実に基づく利根川水系河川整備計画の策定を!

今回の利根川・江戸川河川整備計画原案の資料を見ると、事実に基づいていないものが少なくありません。

① 八ッ場ダムの治水効果

たとえば、八ッ場ダムに関しては2月14日会議の配布資料2「原案補足」2㌻に記載されている八ッ場ダムの治水効果はで述べたように過大な計算値が記されています。

八ッ場ダムの治水効果は決して大きなものではありません。八ッ場ダムは最近60年間で最大の洪水である1998年9月洪水においてその水位低下効果を観測流量から計算してみると、別紙3の図1のとおり、最大で見ても八斗島地点でわずか13cmしかありません。その時の最高水位は堤防天端から4mも下にあって、確保すべき余裕高2mを大きく上回っていましたから、その水位低下は治水対策上、何の意味もありませんでした。

さらに八ッ場ダムの治水効果は下流に行くほど、大きく減衰していくことが関東地方整備局の計算でも明らかになっています。これは、河道貯留効果といわれる現象によるものです。一つは支川が流入し、本川の流れと支川の流れが互いに押し合って減勢されること、もう一つは、川幅が広がって滞留することによって洪水の流れの勢いが弱まることによるものです。

このように実際の洪水では八斗島地点での八ッ場ダムの治水効果は小さく、下流に行けば、その効果は減衰していくのですから、八ッ場ダムは利根川の治水対策として無用のものです。

② 利根川下流部の流下能力

もう一つの例として、2月14日会議の配布資料2「原案補足」1㌻の「利根川の流下能力図」を見てみましょう。同図を見ると、利根川の佐原付近より下流の流下能力(計画高水位で評価)は6,000㎥/秒程度になっており、河道目標流量案8,500㎥/秒に対して大きく不足しています。このことから、原案では利根川下流部では大規模な河道掘削が必要だとしています。別紙2の事業費の内訳をみると、利根川下流部の河道掘削の費用は2,700億円にもなっています。
しかし、この流下能力の大きな不足は事実でしょうか。布川地点で最大7,559㎥/秒が流れた1998年9月洪水の痕跡水位を見ると、別紙3の図2に示すとおり、計画高水位を下回っています。特に河口堰より上流では計画高水位を0.5~1m下回っています。この痕跡水位から推測すると、計画高水位で評価した実際の流下能力は8,000㎥/秒かそれ以上あります。

このように、原案の資料は事実によらないデータが少なくありません。原案の資料の信憑性を洗い直して、利根川水系河川整備計画を原点から作り直していくことが必要です。

以上

追記 利根川流域市民委員会の賛同団体34団体の名簿は、2012年9月25日に提出した「利根川水系河川整備計画の策定に関する要請(1)(計画策定の基本的な事項について)」の末尾をご覧ください。

利根川有識者会議への要請書(8)別紙1~3
 

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