水源連:Japan River Keeper Alliance

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事務局からのお知らせ

国土交通省の国土審議会 水資源開発分科会 (3月6日)の議事録

2018年5月2日
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今年3月6日に国土交通省の国土審議会水資源開発分科会が開かれました。その議事録が2月遅れで国土交通省のHPに掲載されましたので、参考までにお知らせします。

国土交通省 国土審議会 水資源開発分科会 平成30年3月6日

議事録  http://www.mlit.go.jp/common/001233295.pdf

配布資料 http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/water02_sg_000078.html

利根川・荒川・豊川・木曽川・淀川・吉野川・筑後川の7指定水系については水資源開発促進法により、水需給の面でダム等の水源開発事業が必要であることを示す水資源開発基本計画(フルプラン)が策定されています。利水面でのダム等水源開発事業の上位計画になります。

これらの指定水系では、八ッ場ダム、思川開発、霞ケ浦導水事業、設楽ダム、川上ダム、天ヶ瀬ダム再開発、小石原川ダムといった水資源開発事業が進められ、木曽川水系連絡導水路が計画されています。

しかし、水需要が減少の一途をたどり、水余りが一層進行していく時代において水需給計画で新規のダム等水源開発事業を位置づけることが困難になってきました。

そこで、国土交通省、水資源機構はこれらの事業を何としても推進するため、「リスク管理型の水の安定供給」が必要であるなどの新たな理由をつけて、これらの事業をフルプランに位置付けることを考えました

今回の水資源開発分科会はこのフルプランの延命策を審議するものでした。

この議事録を読むと、国土交通省が水需給計画ではなく、「リスク管理型の水の安定供給」を前面に出して、フルプランを改定していこうとしていることが分かります。

ほとんどが国土交通省寄りの委員である委員会では注目すべき発言があまりありませんが、「それでも水需給計画が必要ではないのか」という意見が見られます。

しかし、水余りに顕著になってきている状況において水需給計画で現在事業中・計画中の水源開発事業を位置づけるのは難しく、本来は役目が終わったフルプランを廃止すべきです。

なお、各指定水系の現行フルプランの水需給計画は2015年度までであって(吉野川は2010年度まで)、とっくに期限切れになっています。

法律に基づいて計画を策定し、その計画に沿って事業を進めるのが行政の責務であるにもかかわらず、国土交通省が法律を軽視した行為を公然と行い、フルプランを長期間、期限切れのままにし、上位計画の裏付けなしで八ッ場ダム等の事業を推進しているのは由々しき問題です。

3月6日の国土審議会水資源開発分科会の議事録より

【岡積水資源計画課長】
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最初のページは、先ほど説明した、昨年5月に頂きました答申の概要です。この答申を
具体的に計画に落とし込んでいくという作業をこれからやっていかなければいけないので、
事務局の中で考え、具体的に、答申で頂いた内容を現在のフルプランの枠組みに沿って落
とし込んでいくという作業に入るに当たって、どういった視点でどういった情報をもとに
どういった作業をした上で落とし込んでいくかということを、具体的な中身で書いていま
す。個々の中身に当たって、個別の水系ごとにこれから本格的に議論には入りますけれど
も、まず分科会の委員の皆様方に答申の方向性として適切であるかどうか、こういった点
はより掘り下げていくべきじゃないか、そういった視点で御意見を頂ければという趣旨で
す。
最初に、水供給を巡るリスクに対応するための計画という答申の項目に沿って書き込ん
でいます。
これを実現するためには、各水系で想定されるリスク・影響の把握が最初に必要ではな
いかと考えています。ここで想定されるリスクはどんなものがあるか、それから、どの程
度の影響があるかということを、まず全体をしっかり把握する必要があるということで、
各水系ごとに検討するに当たって、大規模地震としてどういうものが想定されるか。南海
トラフ地震とか首都圏直下地震とか、そういった情報を可能な範囲で集めて、それでどれ
ぐらいの影響が出るか。
さらに、 「施設老朽化による大規模事故」がどういうものが想定されるか。水に関係する
インフラはいろいろな施設がありますが、それについても可能な限り把握をして、現在ど
れだけの漏水率があるか、それから、経年的な変化がどれぐらいあるか、これらを把握し
た上で、老朽化による事故発生の状況と照らし合わせながら、老朽化による影響がどうい
うものがあるか。
それから、 「危機的な渇水」ということで、最近、渇水の発生状況はどうであるか。それ
から、取水・給水制限、被害の規模等の状況もしっかり把握した上で、さらには今後の気
候変動のリスクもどういうものが想定されるかというのを、現在の科学の状況のもとで想
定される情報を可能な限り集めるということを、まず行う必要があるということを考えて
います。
その次の「各水系における水供給の影響が大きいリスクに対して最低限必要な水を確保
するため取り組むべき施策」ということです。既存施設の徹底活用、ハード・ソフト施策
の連携による全体システムの機能確保、水の安全度を確保するための施策の展開。これは
後半のところでより具体的に書いていますので、こういった視点のチェックが必要であろ
うということで書いています。
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さらに、答申に沿ってより具体的な中身を話しますと、 「水供給の安全度を総合的に確保
するための計画」として、 「需要主導型の水資源開発からの転換」ということです。これは
答申の中に書いていますけれども、次期計画の目標の検討という中では、水系全体で見れ
ば水需給バランスがおおむね確保されつつある現状を踏まえて、定量的な供給目標は設定
しないという、これは答申の中身をそのまま踏襲するという方向性です。それから、 「地域
の実情に即した安定的な水利用」ということです。ここで、社会情勢等の把握がしっかり
と必要ということで、暫定取水の状況はどうであるか、人口動態、産業構造、地域開発の
動向。それから、自治体・水道事業体の計画。これは特に、各自治体、それから、水道事
業体等の情報をしっかり収集した上で、どういった考えで計画を立てられているかという
ことを把握していきたいと思います。
それから、 「水供給の安全度を確保するための施策の展開に関する検討」ということです。
まず「需要面からの施策」はどうなっているか。節水型社会の構築という言葉を書いてい
ますが、実際に各自治体とコミュニケーションをとっていく中で、どういう計画を持って
いるか、条例、現在の実施状況はどうかということも把握していく。さらには、水利用の
合理化、水の転用の実施状況、今後の見通しをしっかり把握していくということをやって
いきたいということです。
それから、 「供給面からの施策」ということです。水資源開発施設の建設については、で
き上がったものがどれだけあって、さらに、現在進捗しているものはどういうものがある
か、いつごろまでに建設の見通しが立つかということもしっかり把握していくということ
と、それから、既存施設の徹底活用による水の有効利用ということで、各種どういった徹
底活用の方法があるかということを検討していくということです。
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【沖分科会長】 大分時間過ぎておりますが、多分本日ここで議論したもので7水系6
部会で具体的な議論、委員方それぞれの部会に入っていただいてご議論して、また最後に
この分科会で審議するということになりますので、皆さん意識の共有というのは非常に大
事だと思いますが、ほかよろしいでしょうか。
私も一言申し上げさせていただくとすれば、旧来価値という言葉がございました。需給
バランス、これは、今日の参考資料4の中ほどについております水資源開発促進法、昭和
36年にできた法律で、やはりこれの第5条に水の用途別の需要の見通し及び供給の目標
と書いてあるわけです。それをやるのが水資源開発基本計画を立てる、フルプランを立て
るということで、書かざるを得ないということだと思うのです。ここで言っているリスク
管理というのは大事だというのはわかるのですが、なかなかこの中では読みにくいという
ことがあるなというふうに思います。

国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口』

2018年4月19日
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国立社会保障・人口問題研究所が今年3月30日に『日本の地域別将来推計人口』(平成30(2018)年推計)を発表しました。

http://www.ipss.go.jp/pp-shicyoson/j/shicyoson18/2gaiyo_hyo/gaiyo.asp

2015年までの国勢調査の結果に基づき、2020~2045年の人口を推計したものです。

推計結果は 都道府県別市町村別人口推計2020~45 社会保障人口問題研究所 をご覧ください。

その中で、利根川流域6都県の人口を見ると、下表のとおりです。一極集中が進む東京都は2045年の人口は2015年とほぼ同じですが、他の5県は確実に減っていきます。
埼玉県、千葉県は2045年の人口が2015年の90%以下まで減ります。
茨城県、栃木県、群馬県は2045年の人口が2015年の80%以下まで減ります。
このように人口が確実にかなり減っていく時代に、八ッ場ダムや思川開発、霞ヶ浦導水事業といった水源開発事業が必要であるはずがありません。

石木ダム事業に参画している佐世保市は2045年の人口が2015年の80%以下まで減ります。どう見ても、石木ダムは佐世保市にとって無用の長物です。

 

子吉川水系鳥海ダム建設事業に係る環境影響評価書に対する環境大臣意見の提出について(無力な環境アセス制度)

2018年4月11日
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国土交通省東北地方整備局が秋田県由利本荘市に建設を計画している鳥海ダムについて環境大臣が環境アセス法に基づく意見を出しましたので、参考までにお伝えします。下記のとおりです。

ないよりはましという程度の意見であって、これを見ても、環境アセス法というのはダム建設事業に対して本当に無力なだと思ってしまいます。

鳥海ダムは新規のダムなので、環境アセス法による手続きが取られてきました。しかし、環境アセスの手続きの過程で、住民が関われるのは、下記のとおり、方法書の手続きと準備書の手続きでパブコメの意見を出すだけです。事業者と議論する場は全くありません。そして、パブコメで出した意見が反映されることはほぼなく、通過儀礼のパブコメでしかありません。

欧米では実施されている戦略的環境アセスを導入するため、環境影響評価法が2011年4月に改正されましたが(2013年4月から施行)、ダムは実質的に対象外になりました。戦略的環境アセスは「計画段階配慮」という表現になりましたが、環境の観点から代替案との比較を行いながら、環境への影響が少ない事業となるよう検討を行い、その結果を公表することを義務づけたものです。これが正しく実施されれば、ダム以外の代替案が採用される可能性が十分にあります。
ところが、環境省は国土交通省の言い分を取り入れ、すでに河川整備計画が策定されている場合は、それを戦略的環境アセスの結果を見なすとことにしましたので、鳥海ダムはこのアセスをパスしてしまいました。
環境面の視点が乏しい河川整備計画を戦略的環境アセスとみなすのは無茶苦茶です。

このように環境アセスの制度が整備されてきても、ダム事業の抑制には何も寄与もしないのです。なんとも情けない話です。環境アセスはその膨大な調査資料をつくるために環境調査会社を儲けさせるものでしかないように思います。

新たなダムが必要な時代ではないのですが、東北地方整備局は成瀬ダムに続く大型ダムとして、鳥海ダムの建設を強引に進めようとしています。

平成30年4月5日 http://www.env.go.jp/press/105361.html

子吉川水系鳥海ダム建設事業に係る環境影響評価書に対する環境大臣意見の提出について

環境省は、5日、秋田県で計画されている「子吉川水系鳥海ダム建設事業環境影響評価書」(国土交通省東北地方整備局)に対する環境大臣意見を国土交通大臣に提出した。
本事業は、秋田県由利本荘市鳥海町百宅地先において、子吉川下流地域における洪水調節、流水の正常な機能の維持及び水道用水の供給を行うために多目的ダムを設置するものである。
環境大臣意見では、(1)クマタカ等の希少猛禽類への重大な影響を回避するため、営巣期における工事は基本的に避けるとともに、工事が与えるクマタカの生息及び繁殖への影響を可能な限り低減すること、(2)貯水予定区域の一部は、鳥海国定公園の第一種特別地域と重複しているため、当該地域の改変については、関係機関と十分に協議・調整を行いつつ、風致景観への影響を回避又は極力低減すること等を求めている。
1.背景
環境影響評価法は、湛水面積100ha以上のダムの新築を対象事業としており、環境大臣は、環境影響評価書※について、国土交通大臣等からの照会に対して意見を述べることができる。
今後、国土交通大臣から事業者である国土交通省東北地方整備局に対して、環境大臣意見を勘案した意見が述べられ、事業者は意見を勘案し、必要に応じて評価書の再検討及び補正を行うこととなる。
※環境影響評価書:環境影響評価の結果について記載した準備書に対する意見等を踏まえて、必要に応じてその内容を修正した文書。
2.事業の概要
・事業者     国土交通省東北地方整備局
・計画位置    秋田県由利本荘市鳥海町百宅地先(湛水面積約310ha)
・形式      台形CSGダム
・目的      子吉川下流地域における洪水調節、流水の正常な機能の維持及び水道用水の供給
3.環境大臣意見
別紙のとおり。

(参考)環境影響評価に係る手続
【方法書の手続】
・縦覧         平成27年2月25日~平成28年3月26日(住民意見27件※)
・秋田県知事意見提出  平成28年3月1日
【準備書の手続】
・縦覧         平成29年3月17日~平成29年4月17日(住民意見7件※)
・秋田県知事意見提出  平成29年10月25日
【評価書の手続】
・平成30年2月21日   国土交通大臣から環境大臣に意見照会
・平成30年4月5日   環境大臣から国土交通大臣に意見提出
※環境の保全の見地からの意見の件数
添付資料
• (別紙)「子吉川水系鳥海ダム建設事業環境影響評価書」に対する環境大臣意見 [PDF 19 KB]
http://www.env.go.jp/press/files/jp/108907.pdf

2018(平成30)年度の各ダムの予算額

2018年4月3日
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2018(平成30)年度の各ダムの予算額がきまりました。

相変わらず、ダム事業に巨額の予算が付いています。
直轄ダムと水資源機構ダムの2018年度予算は、国交省のホームページ
http://www.mlit.go.jp/river/basic_info/yosan/gaiyou/yosan/h28/h28damyosan.pdf

の予算案と同じです。

補助ダムの2018年度予算は、事業実施箇所(当初配分)
http://www.mlit.go.jp/page/kanbo05_hy_001526.html

の中に示されています。
例えば、石木ダムについては長崎県を開くと、最初に道路局の予算、次に国土保全・水管理局の予算が書かれていて、
石木ダムの事業費が7.63億円となっています。

石木ダムの最近5年間の予算の推移は次のとおりです。
2014年度 14.90億円  2015年度  9.20 億円  2016年度 1.20億円  2017年度 5.88億円 2018年度 7.63 億円

各ダムの2009~2018年度の予算の推移を整理しました。参考までにご覧ください。

直轄ダム水機構ダムの予算額の推移 2009~2018年度

補助ダムの予算額の推移 2009~2018年度

2018年度の直轄ダム・水資源機構ダムの予算額の計は1,837億円、補助ダムの予算額の計は507億円、合計2,343億円です。

 

ウナギに関して危惧するいくつかのこと(山本喜浩(東京鮎毛バリ釣り研究会会員))

2018年3月16日
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シラスウナギの歴史的不漁が深刻な問題になっています。ウナギやアユ等の生態について造詣の深い山本喜浩さんから論考「ウナギに関して危惧するいくつかのこと」をご寄稿いただきましたので、掲載します。ニホンウナギ、ヨーロッパウナギ、アメリカウナギも含めてウナギに関して一般に知られていない重要な事実が書かれていますので、是非、お読みください。

ウナギに関して危惧するいくつかのこと

             山本喜浩(東京鮎毛バリ釣り研究会会員)

~生態系の端っこにぶらさがっていました~
ウナギが不漁とメディアが騒いでいます。今頃になって乱獲のツケが回っただの、河川環境の悪化だの、鬼の首を捕ったがごときのもの云いです。ぼくは永いことアユとウナギにお付き合いを願ってきましたので、なにをいまさらと腹立たしいのは、みなさまと同じです。

 お付き合いとは、アユは子供の頃からの遊び仲間でした。お隣のお兄ちゃんと千曲川(長野県下、上山田温泉地の下流)でのアユのドブ釣り(毛鉤釣り)に夕暮れ時に出かけます。
ぼくが6歳、魚籠(びく)持ちです。お兄ちゃんに遅れまいと早足で7月の暮れなずむ土手道を付いていきます。当時も今もアユは漁協のお宝で、入漁券収入の招きネコです。その頃は日釣り券(入漁料の一日券)などなく年券でした。今のお金で3千円はしたでしょうか。
お兄ちゃんはこの3千円をけちって密漁です。近所のお兄ちゃんの3m下流に釣り座を構えます。人気のスポットに釣り人がずらりと並び、懐中電灯の明かりがちらほら灯りはじめ、すっかり闇が川面を包む頃がアユの入れ食いタイム。漁協の監視員にとっても入れ食いタイムです。年券を持っていない釣り人にはプラス千円のペナルティがついて4千円。この千円が監視員の懐にはいりますから、見回りにいやでも力が入ります。
カンテラ下げた監視員のお爺さんは上流からやってきます。「鑑札、見せてもらいます」と背中から釣り人に声を掛けます。釣り人は鑑札(年券)をちらりと見せます。ちらりです。入れ食いで忙しいからです。
近所のお兄ちゃんにも「鑑札を・・」の声が掛かります。近所のお兄ちゃんはチラリと鑑札を見せてから、背中の監視員を振り返り、「どうだい、上のほうではデッカイのが釣れているかい?」と声をかけ、監視員が指さされた上流に視線を移した瞬間に鑑札を水面に落とします。心臓が破裂しそうにドキドキしているぼくの目の前を木札の鑑札が流れ、ぼくのお兄ちゃんのサッと木札を拾う手が視界を横切りました。

 そうだった、あの頃はまだ、生態系の端っこにお兄ちゃんもぼくもぶら下がっていた・・いたのだなと、今になって思います。
ヒトが地球上の生態系の頂点から転がり落ちるというか、はじき出され、またはみずから飛び出して、妙な動物に変わってしまったのは19世紀末から20世紀初頭にかけてでしょうか。近代化の波は循環型の社会から大量生産、大量消費社会へと移行。
自然の中にごく普通に存在していたヒトは生態系の外へはみ出し、「自然を守ろう」などと妙なことを言い始めます。自然がヒトの外側に立ち現れたからです。

 木札のおかげで、3千円分のアユを密漁したお兄ちゃんとぼくの千曲川には、天然アユが黒い帯となって上ってきました。当然のことながら放流アユなどという奇妙なアユはいませんでした。サケやマスも上ってきました。サケやマスを遮る堰もすくなく、まだ手付かずの生態系が残っていたのです。
アユを釣りあげるという行為が辛うじて生態系の端っこにぶら下がっているかごときの錯覚を覚えさせます。釣り人が川に立ち込み陶然とするのはこの生態系に立ち返えったかのような疑似体験の幻覚です。
明治の文豪にして釣り人の幸田露伴がこのことを軽妙な筆致で描いています。
メルビルが1851年に書き下ろした「白鯨」のエイハブ船長は、地球上の生態系のど真ん中で巨大な自然の象徴と死闘を演じていました。
そしてヘミングウエーの老人は、すでに海の生態系に戻れなくなった20世紀漁師のシンボルでしょう。

~ウナギ 旅路のはてについて~
さてウナギです。ウナギとの本格的な付き合いは15年前、仕事で2年間ほどウナギを追いかけることになりました。アユのような牧歌的な話ではありません。ウナギの密漁組織の一端を明るみに出そうというテレビのドキュメンタリー番組の目論みでした。
その話のまえに、ちょっと現在のシラスウナギの不漁の謎解きに挑みましょう・・しょうと云ってもぼくはウナギの研究者ではありませんから、正直、見当はずれな推論の展開とあいなるやもしれません。
でも、好意的にお読みください。これは証拠データがないために、研究者が喉まで声がせりあがってきた思いを、ぼくが代弁していると思ってください。

 ウナギ(ニホンウナギ)の産卵場所はみさまご存知の通り、マリアナ諸島の西方、マリアナ海嶺(海底山脈)の上。北緯14度、東経142度の辺りです。
産卵は新月の2~3日前。水深は150~200m。闇夜に細い三日月がかすかに霞みます。なぜ新月なのか? 生まれた赤ちゃんが他魚に捕食されないように闇夜を選ぶのだろうと想像されています。また、ほぼ1億年前に深海魚から進化したウナギですから、光の差し込まない闇夜を選ぶのだろうとも推論されています。
出自が深海魚です。産卵のために利根川の河口を旅立ったウナギは昼間1000mもの深海に潜り、夜は100mまで浮かび黒潮に流されて、一端は黒潮の消滅点までくだります。そこからユーターンして2700㌔超の道のりをクネクネとマリアナ海域を目指します。なんでそんな遠方までわざわざ産卵に行くのよ、と声を掛けたくなりますが、とにかく、産卵場所だけは出自の思いでから抜けだせない ようです。いずれ進化してもっとラクチンな産卵場に移動するのかもしれません。
さて北緯14度、東経142度、新月の2~3日前、水深150~200mでしたね。実は、

 産卵場所にはもう一つ条件があります。塩分濃度の低い海域と塩分濃度の高い海域との東西にのびる境目、塩分フロント【注1】と呼ばれる場所が必要です。そのフロントの塩分濃度の低い海域(南側の赤道より)で産卵します。なぜウナギが塩分フロント近辺を選んで産卵するのか? 分かりません。分かりませんとは研究者にも分からないという意味です。
この塩分フロントはいつも北緯14度の同じ海域にできるわけではありません。エルニーニョが発生するとフロントが南に移動【注2】しやすいことが分かっていますが、エルニーニョに関係なく塩分フロントは移動します。この塩分フロントの移動にともなって産卵場所も移動するということが、大変に重要です。
ここまで書くと、ぼくが言いたいことがほぼ察しがついたことでしょう。そうです。産卵場所が北緯14度より南にずれると大変なことになります。
海流は風によって起きる風成循環(表層流)と塩分濃度の違いで起きる熱塩循環(深層海流)がありますが、卵から孵化したアユの仔魚は北東貿易風によって起きる北赤道海流に乗って西に流れます。
西に流れた北赤道海流は黒潮に飲み込まれ、昼は300m夜間100mほどの水面下を流れ極東に向かいます。そうです。これもまたみなさま御存じの通り、黒潮に飲まれない南側は反時計回りに反流して、ミンダナオ海流にと分かれます。

ニホンウナギの産卵場所が、もし南に1度(110㌔)ずれて北緯13度、東経142度であったならば、仔魚はミンダナオ海流に向かい、死滅回流を旅することになってしまいます。

(*上図の産卵場所の赤●が南にずれると死滅回流に。図は東京大学・大気海洋研究所より)

・・なってしまいます。と書きましたが、ぼくは死滅海流に向かってしまったのだ! と思います。 今回のシラスウナギ大不漁は、他の要因では説明が難しくなるからです。
過去の不漁で何度か海流原因説が囁かれました。5年前の2013年もシラスウナギが不漁。この年はエルニーニョが発生、これが原因だろうと言われていました。
2017年はどうでしょう。エルニーニョは発生していません。ラニーニャの年でした。しかし、何らかの海洋変異の影響で塩分フロントが南に大きく移動、大半の仔魚が死滅回流に向かってしまったのではないでしょうか。
ウナギの絶対量が多くて産卵場所も広く、産卵期も長く続いた時には、塩分フロント移動の影響で大不漁ということはあまり起きなかったはずです。絶対数の減少はちょっとした海洋変異で絶滅危惧にみまわれます。
もしも産卵期が遅れていただけで、これから続々とシラスウナギが接岸してくれるなら、こんな推論はただの杞憂だったと、笑い話で終わります。そうなってほしいものですが・・

【注1】 塩分フロント: 北太平洋の中緯度域は表面水温が高いため、海水の蒸発が盛んで塩分濃度が高くなります。蒸発した水分は積乱雲を形成、その積乱雲が低緯度域に流れて降雨となり、低緯度域の塩分濃度を低くします。濃度の境目「塩分フロント」の位置は北緯11~16度付近を変動しています。

【注2】南に移動する:エルニーニョが発生すると降雨の源となる積乱雲が東へ
と移動するために塩分フロントは南側に移動します。

~不漁がまきおこす不都合なこと~
原因がなんであれ、シラスウナギの不漁は密漁に拍車をかけます。4年前にドンブリ一杯100万円だったものが今年は300万円以上するのではないでしょうか。世界中のシラスウナギの値段は日本の価格に連動して高騰します。
そうです。世界中の零細漁民が密漁に走ります。
新聞各紙はこの夏の土用の丑の日は大丈夫だが、来年(2019年)の夏はウナギが食べられないかもしれないと報じていますが、そんなことはありません。来年も再来年も夏になるとスーパーや牛丼店にウナギがニョロ~っと登場します。怖しいことですが、世界中の密漁ウナギが日本に集められるからです。

(原図は米のウナギ研究者Willem Kepper氏作成のグラフより)

上の図を見て、1980年頃からヨーロッパとアメリカの河川環境が日本と同様に悪化したと思いますか? 違いますよね。 日本に輸出、また密輸するためにウナギが乱獲された結果です。1980年代日本人は多い時には世界の80%のウナギを食べ、現在まで世界のほぼ70%のウナギを食べ続けてきたと言われています。
その結果2009年にヨーロッパウナギは絶滅危惧種に。2014年に日本ウナギが絶滅危惧種に国際自然保護連合(IUCN)から指定されました。
この図にはアジアの熱帯ウナギの資源量がグラフ化されていません。なぜでしょう? 答えは簡単明瞭、なんのデータもないからです。

 15年前(2003年)に、追いかけたのはウナギの密漁シンジケートでした。 密漁と書くと、決まってソニー・ロリンズの大ヒット曲「Airegin」【注3】の出だしのメロディーが耳奥を駆けあがります。
最初に白状しておきます。密漁組織の実像をカメラの前で喋ってくれる人間を捕まえられずに、ただのウナギ漁の番組を2本作って終わりました。しかしその取材で分かったことは、アジアのウナギシンジケートの拠点は香港にあり、主にヨーロッパとアジアの密漁シラスウナギを香港に集め、多くは中国大陸に送られ中国で蓄養されていました。残りは日本に流れてきたようです。
この時、シンジケートを牛耳っていたのはナイジェリア・マフィア【注4】でした。ナイジェリア人は日本、台湾、中国に配下を置き、配下のナイジェリア人はその国の女性を妻にして国籍を取得。きちんとした商社を設け。立派なビジネスマンの顔を持っています。
日本在住のナイジェリア人に関しては、2008年に出版された岩波新書「アフリカレポート壊れる国、生きる人々」【注6】にきちんと描かれています。
2003年頃、実はウナギよりもアワビ、ツバメの巣、ナマコの密漁が中心でした。これらはすべて中国人の胃袋に流れ込んでいました。

【注3】「Airegin」: ソニー・ロリンズの祖祖父がナイジェリア出身だったことから、曲想がうまれた曲です。Aireginを逆から読んでください。Nigeriaになります。曲の出だしがいきなりサビから始まるようなモダンジャズの名曲。聴けばみなさんご存知のはずです。

【注4】ナイジェリア・マフィア: 第2次大戦終結に伴い、インドやビルマから帰還した兵士が大麻の種子を持ち帰り、大麻栽培が盛んになります。その後、ナイジェリアは中南米からのコカイン、ヘロインをヨーロッパとアメリカへ密輸する国際的な麻薬取引の中継地の役割を担い。ナイジェリア・アマフィアが誕生しました。現在、香港を牛耳っているかどうかは不明です。しかし、これだけ世界のウナギ資源が枯渇すると世界のウナギ密漁シンジケートはすべて繋がっていることでしょう。

【注5】松本仁一著、「アフリカレポート壊れる国、生きる人々」岩波新書:にはウナギの密漁は書かれていません。確か南アフリカからのアワビの密輸ルートなどを暴いていたと思います。それと日本人と結婚して家庭を持ち、シンジケートを支える独特のナイジェリア人マフィア社会を活写しています。

 2003年当時、日本に入ってきたウナギはニホンウナギ(台湾や中国産)、ヨーロッパウナギ、アメリカウナギ、そしてアジアの熱帯ウナギの4種でした。
この中でもっとも多かったのはヨーロッパウナギです。スーパーの棚にパック詰めされたウナギのかば焼きが大量に出回り始めた時代でもあります。
1990年代に日本人が食べていたウナギの半分はヨーロッパウナギでした。2009年にワシントン条約付属書Ⅱに指定されましたが、それでも日本にヨーロッパウナギは入ってきます。ワシントン条約付属書Ⅱはパンダやゴリラほど厳格な輸出入規制を受けません。管理当局の許可書があれば輸出が認められます。偽造された許可書が添えられて密漁ウナギが流れこみ続けたのです。
2010年、EU加盟12ヶ国はウナギの輸出を全面禁止しました。それでもEU非加盟国を経由した密漁ウナギが香港経由で入り続けています。
現在、ヨーロッパウナギは1980年時の資源量のたった5%ほどまで激減しました。ほぼ95%を私たちが食べてしまったのです。
アメリカウナギがヨーロッパウナギの衰退を補うごとく入ってきます。アメリカ人はウナギを食べません。ウナギに無関心【注5】。しかしシラスウナギが沿岸の白いダイヤだと知って、もっぱら日本人の胃袋の愉悦のために乱獲され続けています。
現在日本産のシラスウナギの6割は密漁されたもので、日本に輸入されていシラスウナギのほぼ7割が密漁ウナギであると、中央大学法学部ウナギ保全研究ユニット・Kaifu Lab【注6】に記載されています。
とにかく、わたしたちはモンスター級のイールイーターなのです。

【注5】ウナギに無関心: 多くの州でウナギの輸出規制をしているが、密漁の取締にもあまり関心がない。アメリカウナギに関しては米のジャーナリスト・ジェイムス・ブロッセック著「ウナギと人間」(2016年築地書館)にアメリカのウナギ漁師が詳しくルポルタージュされています。

【注6】Kaihu Lab: ウナギの密漁に関して2015年現在の状態が記載されています。http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~kaifu/5igr.html

~危惧されるウナギとわたしたちのかかわり~
先の折れ線グラフにアジアの熱帯ウナギ【注7】の資源量が入っていませんでした。なんのデータもないからです。しかし現在アジアの熱帯ウナギがヨーロッパ、アメリカ,ニホンウナギの凋落とともに、その代替えウナギとして特にビガーラウナギ【注8】が注目され、渉猟され、乱獲されています。
乱獲のターゲットにされている国は主にフィリピンとインドネシア。その漁場は2万を超える大小の島々です。
インドネシアは150グラム以下のウナギ稚魚の輸出を禁止しています。いますが、1万3千を超える島々の密漁・密輸を捕捉するのは不可能です。今後アジアのあらゆる国のウナギが乱獲されていくでしょう。焼畑農業的な捕りつくしが危惧されます。

東南アジアの島々の零細漁民は持続可能な生態系のなかで漁をして暮らしています。密漁に走ることによって彼らは大量消費社会に巻き込まれます。地域の資源を食いつぶす行為は生態系からいやでもはみ出し、その労働は地域社会から疎外される孤独な行為になりはてるでしょう。
零細であることは貧しいことではありません。持続可能な漁を営むことは多様な自然との交流がある豊かな生活の営みです。

私たちが利根川水系のウナギの保全、増殖に傾注することはアジアのウナギを守り、アジアの零細漁民と連帯することに繋がります。日本のウナギ資源の枯渇がアジアのウナギ資源の収奪になってははかないことです。

【注7】熱帯ウナギ: ビガーラウナギ、ボルネオウナギ、セレベスウナギなど10種類ものウナギがいます。食品加工されたらニホンウナギと区別できません。いずれも産卵場所は不明。海洋開発研究機構が調査船を出して産卵場所を探していますが、これはウナギを食い尽くす日本人のエクスキューズ調査と言われても仕方がないでしょう。

【注8】ビガーラウナギ:グリンピース・ジャパンがインドネシアのビーガラ種の捕りたい放題の乱獲を告白。また、日本の大手商社と大手スーパーがインドネシアに養殖加工場を設け、インドネシア中のビーガラ種を集めていることを危惧しています。 グリンピース・ジャパンのHP「代替えウナギも赤信号・インドネシアからの報告」に詳細リポートが記載されています。http://www.greenpeace.org/japan/ja/campaign/ocean/seafood/SaveUnagi/report3/#report

2018・3・4記

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