あまり知られていないが、石木ダム建設予定地には共有地が2ヶ所存在する。
半世紀にわたりダム建設に反対し、ふるさとを守り続けている川原住民を支えたいと思う人たちが、1つは2009年に、もう1つは2013年に住民の方の山林の一部を共同で所有することにした。
その共有地権者の中の84名が長崎県知事と佐世保市長へ要請書を提出した。代表の遠藤保男氏が横浜から来県し、6月6日に県庁、7日に佐世保市役所を訪れ、担当者に手渡した。その要請書はこちら。
石木ダム事業起業者への要請:長崎県へ
石木ダム事業起業者への要請:佐世保市へ
その趣旨は「覚書の遵守」、つまり「石木ダムの必要性について川原住民との話し合い」を実行するようにということ。
8日の朝日新聞の記事がこの要請の目的をしっかり伝えているので、一部抜粋させていただくと、
覚書は1972年7月、県が石木ダムの予備調査を始める前に住民側と結んだ。「建設の必要性が生じたときは、協議の上、書面による同意を受けた後着手するものとする」と明記。久保勘一知事(当時)と、住民の代表3人が署名押印した。ただ、県は3年後の75年、事業に着手。2021年9月に本体工事を始めた。
6日に県庁を訪れた共有地権者らが県に指摘したのが、この覚書の「不履行」だった。
「石木ダム建設絶対反対同盟を支援する会」の遠藤保男代表は「同意していないのに収用地での工事が強行されている」と指摘。地権者の松本美智恵さんは「県と地元の対立の原点がこの覚書の反故だ」と語った。
覚書は、住民らがダム関連工事の差し止めを求めた訴訟で論点の一つになったことがある。21年の二審・福岡高裁判決は、覚書があるにもかかわらず、地元の理解が得られていないと指摘。「今後も理解を得るよう努力することが求められる」と見解を示し、県に合意形成の必要性を説いた。
事業主体の県はどう考えているのか。県土木部の担当者は取材に対し「覚書は今も有効で、履行している」と述べ、覚書に違反する手続きはとっていないとの認識を示した。長年、説明会の開催や戸別訪問などで事業への理解と協力を得る努力を続けてきたとしている。
「覚書は今も有効で、履行している」?!
なんと不可解な回答だろう。
「覚書を履行している」のが本当なら、住民がダム建設に同意した文書が存在するはずで、それを提示して欲しい。
それが存在しないならダム建設は諦めているはず。しかし、現実は同意文書もなく、ダム建設は進めている。
どうして「履行している」などと言えるのだろう?
一方、「覚書は今も有効」とのこと。よかった!
では、これからも覚書について、私たちはしっかり県に問い続け、履行を求め続けよう。(*’▽’*)
マスコミ各社のオンライン記事はこちら。
NBC長崎放送:石木ダム建設反対の市民団体 知事との話し合いを要請
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/nbc/530101?display=1
KTNテレビ長崎:石木ダム建設は必要ない」市民団体が話し合いの場を要請
https://www.ktn.co.jp/news/detail.php?id=20230607008
朝日新聞:石木ダム「地元の了解なしにつくらない」半世紀前の「覚書」はいま https://digital.asahi.com/articles/ASR6774P6R67TOLB00C.html?iref=pc_photo_gallery_bottom
毎日新聞:「知事と話し合う場を」石木ダム反対、市民団体が要請書 https://mainichi.jp/articles/20230607/ddl/k42/040/379000c
オマケの写真と呟き。ここは水道局庁舎内。要請のための会場確保を待っているところ。
1週間前に代表本人から要請書を提出に行くので会場を確保しておいて欲しいと電話で依頼していたにもかかわらず、会議室はみな埋まっていて確保できなかったとのことで、その会議が終わるまで約1時間も待たされた。
遠来の代表はじめ参加者の多くが70代前後の高齢者ばかり。宮島市長は就任会見で、「対話を重視した市政をつくりたい」と語っていたはずだが???
2月4日に「八ツ場あしたの会」の総会があり、嶋津の方から「八ツ場ダム問題と全国のダム問題」を報告しました。
報告の要点を下記に記しますので、長文ですが、お読みいただきたいと存じます。
当日使ったスライドは八ツ場ダム問題と全国のダム問題20230204 -4をご覧ください。
スライドとの対応をスライド番号№で示しましたので、詳しい内容はスライドを見ていただきたいと思います。
今回の報告「八ツ場ダム問題と全国のダム問題」は次の5点で構成されています。
Ⅰ これからの八ツ場ダムで危惧されること
Ⅱ 利根川の治水対策として、八ツ場ダムは意味があるのか。むしろ、有害な存在になるのではないか。
Ⅲ 水道等の需要が一層縮小していく時代において八ツ場ダムは利水面でも無用の存在である。
Ⅳ ダム問題の経過
Ⅴ 国交省の「流域治水の推進」(2021年度から)のまやかし
八ツ場ダム問題と全国のダム問題
Ⅰ これからの八ツ場ダムで危惧されること(スライド№2~5)
1 吾妻渓谷の変貌(スライド№3)
2 八ツ場ダム湖の浮遊性藻類の増殖による水質悪化(スライド№3)
3 夏期には貯水位が大きく下がり、観光地としての魅力が乏しくなる八ツ場ダム湖(スライド№4)
写真1 国交省のフォトモンタージュ(打越代替地から見た八ツ場ダム湖)
写真2 2022年7月の八ツ場ダム貯水池の横壁地区の岸壁(湖岸の岩肌が28m以上も剥き出し)
4 八ツ場ダムは堆砂が急速に進行し、長野原町中心部で氾濫の危険性をつくり出す。(スライド№5)
5 ダム湖周辺での地すべり発生の危険性(スライド№5)
Ⅱ 利根川の治水対策として、八ツ場ダムは意味があるのか。むしろ、有害な存在になるのではないか。(スライド№6~19)
1 八ツ場ダムの緊急放流の危険性(スライド№7~8)
2019年10月の台風19号で、八ツ場ダムが本格運用されていれば、緊急放流を行う事態になっていました。
2 ダムの緊急放流の恐さ(スライド№9~13)
ダムは計画を超えた洪水に対しては洪水調節機能を喪失し、流入洪水をそのまま放流します(緊急放流)。
ダム下流の河道はダムの洪水調節効果を前提とした流下能力しか確保しない計画になっているので、ダムが洪水調節機能を失えば、氾濫の危険性が高まります。
しかも、ダムは洪水調節機能を失うと、放流量を急激に増やすため、ダム下流の住民に対して避難する時間をも奪ってしまいます。
3 ダムの効果が小さかった2015年9月の鬼怒川水害(スライド№14~18)
4 治水対策としての八ツ場ダムの問題点(スライド№19)
ダムの治水効果は下流へ行くほど、減衰していくので、八ツ場ダムの治水効果は利根川の中下流部ではかなり減衰すると考えられ、八ツ場ダムは利根川の治水対策としてほとんど意味を持ちません。
地球温暖化に伴って短時間強雨の頻度が増す中、八ツ場ダムに近い距離にあるダム下流の吾妻川では、むしろ、八ツ場ダムの緊急放流による氾濫を恐れなければなりません。
Ⅲ 水道等の水需要が一層縮小していく時代において八ツ場ダムは利水面でも無用の存在である。(スライド№20~25)
1 八ツ場ダムの利水予定者と参画量(スライド№21)
2 水道用水の需要は縮小の一途(スライド№22~23)
全国の水道の水需要は2000年代になってからは確実な減少傾向となり、その傾向は今後も続いていきます。(減少要因:人口減、節水機器の普及、漏水の減少等)
3 群馬県の例「前橋市等の自己水源(地下水)の削減と水道料金の値上げ」(スライド№24)
4 石木ダム建設の主目的「佐世保市水道の水源確保」の虚構(スライド№25)
Ⅳ ダム問題の経過(スライド№26~45)
1 ダムの建設基数の経過(スライド№27)
2 ダム事業見直しの経過(スライド№28~33)
○1996年からダム事業が徐々に中止
○田中康夫・長野県知事の脱ダム宣言
○淀川水系流域委員会の提言(2005年1月)
3 2009年9月からのダム見直しの結果(スライド№34~39)
2009年9月に発足した民主党政権は早速、ダム見直しを明言したものの、私たちの期待を裏切る結果になりました。
4 八ツ場ダムの検証結果 事業継続 2011年12月 (スライド№40~41)
八ツ場ダム事業推進の真の目的は約6500億円という超巨額の公費を投入することにあった。
5 ダムの検証状況 (2018年10月1日現在)(スライド№42~44)
中止ダムのほとんどはダム事業者の意向によって中止になったのであって、適切な検証が行われた結果によるものではありませんでした。
6 中止になったダムの建設再開を求める動き(スライド№45)
Ⅴ 国交省の「流域治水の推進」(2021年度から)のまやかし(スライド№46~54)
1 国交省の「流域治水の推進」のまやかし(スライド№47)
流域治水には治水対策としてありうるものがほとんど盛り込まれています。治水ダムの建設・再生、遊水地整備もしっかり入っており、「流域の推進」が従前のダム事業推進の隠れ蓑にもなっています。球磨川がその典型例です。
2 球磨川流域治水プロジェクト(スライド№48~49)
本プロジェクトは流水型ダム(川辺川ダム)の整備、市房ダム再開発、遊水池整備などに、約4336億円という凄まじい超巨額の公費を球磨川に投じていくことになっています。
また、川辺川ダムはすでに約2200億円の事業費が使われていますので、現段階の川辺川ダムの総事業費は約4900億円にもなる見通しです。
このように、球磨川では2020年7月大水害への対応が必要ということで、球磨川流域治水プロジェクトの名のもとに、凄まじい規模の公費が投じられようとしています。
3 流水型川辺川ダムへの疑問(1)2020年7月球磨川豪雨の再来に対応できない川辺川ダム(スライド№50~51)
川辺川ダムがあっても、2020年7月球磨川水害の死者を救うことができませんでした。球磨川流域の死者50人の9割は球磨村と人吉市の住民で、支流の氾濫によるものでしたから、川辺川ダムがあっても命を守ることができませんでした。
4 流水型川辺川ダムへの疑問(2)自然に優しくない流水型川辺川ダム(スライド№52~54)
「自然にやさしい」を名目にして、川辺川ダムは流水型ダム(穴あきダム)で計画されています。既設の流水型ダム5基の実態を見ると、「自然にやさしい」という話はダム推進のためのうたい文句にすぎず、川の自然に多大な影響を与える存在になっています。
5 国の流域治水関連法と流域治水プロジェクト(スライド№55)
国交省は2021年5月に「流域治水関連法」をつくり、全国の河川で「流域治水プロジェクト」を進めつつあります。このプロジェクトは施策がとにかく盛沢山で、ダム建設、遊水池整備、霞堤の保全、堤防整備、雨水貯留施設の整備など、治水に関して考えられるものは何でも入っているというもので、実際にどこまで実現性があり、有効に機能するものであるかは分かりません。それは、基本的には従前の河川・ダム事業を「流域治水プロジェクト」の名のもとに続け、河川予算を獲得していくものであって、そこには「脱ダム」の精神が見られません。
その典型例が「球磨川流域治水プロジェクト」です。このプロジェクトは流水型川辺川ダムの建設等に球磨川に超巨額の公費を投入することを目的にしています。そのプロジェクトで流域の人々の安全が確保されるかというと、実際はそうではなく、更に球磨川の自然も大きな影響を受けるものになっています。