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札幌市水道の水需要予測の問題 ダム事業推進の一翼を担う厚労省水道課

札幌市水道の水需要予測の問題についてその後の経過を報告します(嶋津暉之)。

当別ダム中止後に架空予測をやめた札幌市水道」(1.44MB)もご覧ください。

厚生労働省水道課が、各水道事業者の行う過大な水需要予測、架空予測を追認して、補助金を交付し、各地のダム事業推進の一翼を担っていることは周知のとおりです。
厚労省は、国土交通省と一体のダム推進の行政機関であると言っても過言ではありません。

(札幌市水道の架空予測と総務省の指摘)
グラフ(札幌市水道の実績と予測 (97KB))は札幌市水道の一日最大給水量の実績と予測を比較したものです。旧予測は2007年度に当別ダム関係の事業再評価として行ったもので、実績が60~67万㎥/日の間で推移してきているのに、予測はどんどん増加して2025年度には現保有水源83.5万㎥/日〔〔注〕)を超え、当別ダム無しでは水源が不足することになっていました。
当別ダムの水源を札幌市に送水するのは2025年度の予定ですので、それに合わせるように実績と乖離した水需要予測を行っていました。
この事業再評価の予測に対して、総務省の行政評価局からクレームが付きました。あまりにひどい架空予測なので、目にとまったのかもしれません。
総務省は、一人当たり家庭用水(原単位)の予測を取り上げ、札幌市は、増加傾向にあった時期を含む過去30年間のデータを使うのではなく、増加傾向が止まった後の最近10年間のデータを使って予測を行うべきだと指摘しました。

(厚労省の説明)
これに対して、厚労省が札幌市の予測を擁護する説明を行いました。過去10年間のデータでは増加するとは言えないので、定性的な話(世帯の細分化が進むと一人当たりが増えるとか、節水型機器の普及は限界に近づいているという怪しげな話)を持ち出して、
総務省を説得し、総務省の政策評価分科会(2009年5月)を乗り切ってしまいました。
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/hyouka/dokuritu_n/gijiroku/15566.html
説明資料http://www.soumu.go.jp/main_content/000023563.pdf

しかし、このように不合理な架空予測が罷り通ってよいはずがありません。
2010年になって、「当別ダム周辺の環境を考える市民連絡会」と「北海道自然保護協会」が厚労省に公開質問書を出し、(当時の大河原雅子参議院議員の計らいで)厚労省と総務省の担当者と面談して、予測のおかしさを追及しました。

厚労省の説明の誤りは 厚労省水道課長への公開質問書201006 (2078KB) をご覧ください。

(札幌市の予測の大幅な下方修正)
その後、当別ダムが2012年度に完成すると、札幌市はこの架空予測をやめるようになり、グラフ(札幌市水道の実績と予測)の新予測のとおり、将来の1日最大給水量は漸減し、2035年度には61.8万㎥/日まで低下するとしました。この予測値は今年3月策定の「札幌市水道ビジョン」に盛り込まれました。
となると、2009年に厚労省が政策評価分科会で行った説明を札幌市が否定したことになります。一方で、総務省の指摘が正しかったことを意味します。

(厚労省の弁明)
この問題を現在、「北海道自然保護協会」の佐々木克之副会長が追及しています。
去る7月14日には畠山和也衆議院議員が厚労省と総務省の担当者のヒアリングを行い、佐々木さんと私が同席しました。

ヒアリングに先立ちに両省に対して、厚労省への要望書20150610 (1545KB) と 総務省への要望書20150610 (221KB) を提出しました。

厚労省の弁明は、「当時の厚労省の説明は正しかったと考えている。札幌市水道ビジョンは再評価とは異なり、厚労省として指導する立場ではないので、関知しない」という極めて無責任なものでした。
総務省は過去の再評価が合理的か否かを突き詰める立場ではないと、逃げ口上でした。

国の役人はこんなものですが、このままでよいはずがありません。今後、さらに追及していきたいと考えています。
札幌市だけの話ではありません。厚労省の架空予測追認が不要なダム建設をつくり出す大きな要因になっています。
当日、「石木ダムでは佐世保市の架空予測で13戸の住民の家が強制収用されようとしている。架空予測追認の責任を自覚せよ」と思わず、厚労省の担当者に対してつい声を荒立ててしまいました。(佐世保市水道の実績と予測  (112KB))

〔注〕 札幌市水道の現在の保有水源は本来は96.5万㎥/日ありますが、札幌市は豊平川水道水源水質保全事業を起して、現保有水源を14.7万㎥/日減らしてしまいました。
この事業は、ヒ素を含む湧き水等の影響を減らすため、豊平川上流の水の一部をバイパス管で浄水場下流に導く事業で、費用は183億円にもなります。
ヒ素はさほど問題ではなく、浄水場での除去効率を向上させれば済む話なのですが、札幌市は当別ダムへの参加の理由につくるため、保有水源の一部をきり捨て、同時に183億円という大きな事業を起こしました。

 

 

霞ケ浦、漁協の差し止め請求棄却 導水訴訟で水戸地裁

2015年7月18日
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7月17日、水戸地裁で那珂川流域の漁協が霞ケ浦導水事業の工事差し止めを求めた裁判の判決がありました。まことに残念ながら、原告側の全面敗訴でした。その記事と論説を掲載します。
この裁判では、被告(国交省)側の専門家証人が反対尋問で、原告側の主張を認めてしまうほど、国交省の主張はいい加減なもlのでしたが、判決には反映されませんでした。
この判決文は国交省に勝たせるように、原告側に求める実証責任のハードルを無茶苦茶高くしており、最初から原告敗訴の結論ありきのひどい不当判決でした。

茨城新聞がこの判決の問題と限界に触れた論説を書いています。

全面敗訴の判決を下した裁判官は後ろめたさがあったからだと思いますが、判決文の終わりに「導水事業は運用次第では漁業権を侵害する具体的危険の可能性がある」という文言を加えています。

霞ケ浦導水差止請求事件 判決文の一部 20150717(121KB)をご覧ください。

判決文の全体は

霞ケ浦導水裁判の判決文20150717(22MB)をご覧ください。

論説  霞ケ浦導水事業判決 具体的成果、事業者に責任
(茨城新聞 2015年7月18日) )http://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=14371456324508霞ケ浦導水事業の工事差し止めを那珂川、涸沼流域の4漁協と栃木県の漁連が求めた訴訟の判決が17日あり、水戸地裁(日下部克通裁判長)は「漁業権侵害の具体的な危険があるとまではいえない」として漁協側の訴えを棄却した。

霞ケ浦導水事業は、総額約1900億円を投じる本県に残された“最後のビッグプロジェクト”といわれる。同日の判決は導水事業の公共性・公益性については国側の言い分を全面的に認めたが、既に事業化から30年超。延々と終わりの見えないまま続く建設工事と、完成後の具体的効果も見えにくいことから、県民の間にも導水事業を疑問視する声は少なくない。関係者は導水事業を一刻も早く、より低コストで完遂し、具体的な成果を県民に示す責任があると言えよう。
公共事業差し止めのハードルはもともと低くない。司法は差し止めの要件として、事業によって生じる被害の具体的な立証を請求側に求めるためだ。
水戸地裁も同日の判決で、差し止めの適否を判断する基準として「(霞ケ浦導水事業の運用開始による)漁獲量の有意な減少、漁獲品質の具体的な悪化の客観的危険があるかどうか」を挙げている。漁獲量は通常でもさまざまな要因で一定ではない。ましてや漁協側が差し止めの理由の一つに挙げた「那珂川取水口にアユの稚魚が迷い込む」恐れについて、稚魚が導水完成後の将来どの程度迷い込むかを具体的に立証することなど、ほぼ不可能に近いだろう。
漁協側が差し止めを求める最大理由に挙げた導水事業の効果や公共性についても、判決は「霞ケ浦の水質は導水の希釈効果によって浄化が期待できる」と国側の主張を全面的に認めた。
差し止めを求めた漁業者らには極めて酷な判決とはなったが、司法はもともと被害を事後的に救済する機能を担う。判決は、公共事業の事前差し止めを司法に求める限界も示したともいえる。
ただ、水戸地裁は判決理由の最後に「導水事業は運用次第では漁業権を侵害する具体的危険の可能性がある」として、事業開始後は国に対し漁業者らに十分な説明を尽くし、その意見を真摯(しんし)に受け止めるよう求めた。また、漁獲量の減少が見られた場合には調査体制を確立し、運用を随時見直すなど不断の努力をするよう求めた。
かなり踏み込んだ付言とも言え、導水事業の関係者は是非とも裁判所の率直な提言を受け止め、漁業者の声に最大限の配慮をしてほしい。
霞ケ浦導水事業の着工はバブル期入り口の1984年。霞ケ浦の水質浄化や首都圏の都市用水確保が狙いだったが、計画はこれまでに4回変更され、この約30年のうちに人口減少など社会環境は様変わりした。一時は無駄な公共事業批判の矢面になり、事実、民主党政権時代には工事が凍結された。
橋本昌知事は先月の県議会で、世界湖沼会議を95年に続き再び霞ケ浦に誘致する考えを表明した。誘致が正式に決まれば、霞ケ浦や河川の水質への県民の関心は再び高まるだろう。
判決は結果的に国側の主張を全面的に認めたが、事業の行方や成果を疑問視する声は県民の中にも少なくない。事業者は一刻も早く具体的な成果を示す責任がある。導水事業に最後に審判を下すのは生活者・納税者である県民だ。

霞ケ浦導水訴訟で水戸地裁 漁協の差し止め請求棄却
(東京新聞茨城版2015年7月18日)http://www.tokyo-np.co.jp/article/ibaraki/20150718/CK2015071802000149.html?ref=rank

県内の霞ケ浦と那珂川、利根川を地下トンネルで結び水を行き来させる霞ケ浦導水事業をめぐり、那珂川流域の県内の四漁協と栃木県の漁連が「漁業権を侵害する」として国に取水口建設工事の差し止めを求めた訴訟の判決で、水戸地裁は十七日、請求を棄却した。
日下部克通裁判長は判決理由で「漁業権が侵害される具体的危険があるとまではいえない。被害の未然の防止措置が一応講じられ、事業には公共性がある」とした。原告側は控訴する方針。
事業は霞ケ浦の水質浄化や首都圏への水の安定供給が目的で一九八四年に着工。二〇一〇年に中断したが、民主党政権の指示で実施された事業検証の結果、国は昨年八月に継続を決めた。地下トンネル二本は、利根導水路(長さ約二・六キロ)が既に完成、那珂導水路(同約四十三キロ)は三十キロ近くが未完成となっている。
原告は〇九年三月に提訴。那珂川の取水口からアユの稚魚が吸い込まれるほか、水質や流量の変化で水産資源に深刻な被害が出ると訴えていた。
公共性について判決は「霞ケ浦と那珂川、利根川の化学物質の濃度差により希釈効果が期待でき、都市用水の確保のため必要」と認定した。一方で「事業の運用次第で漁業権が侵害される可能性がある。漁業環境への影響が最小限に抑制されるよう努力をすることが切に望まれる」と国に促した。
<霞ケ浦導水事業> 全国で2番目に広い湖沼・霞ケ浦と、渇水期が異なる那珂川、利根川を地下トンネルで結び、水を行き来させる国直轄の公共事業。霞ケ浦の水質浄化と茨城、埼玉、千葉、東京の1都3県への水の安定供給を目的に計画され、1984年に着工。当初は93年度の完成予定だったが用地取得が遅れ、地下トンネル2本のうち利根導水路(長さ約2・6キロ)は完成したものの那珂導水路(同約43キロ)は30キロ近くが未完成となっている。事業費約1900億円のうち約8割を使っている。

漁協の差し止め請求棄却 水浄化など公共性を認定 那珂川取水口差し止め訴訟
(下野新聞 2015年7月18日 朝刊)http://www.shimotsuke.co.jp/news/tochigi/local/news/20150718/2024531

アユなど那珂川水系の水産資源に悪影響を及ぼす恐れがあるとして、栃木、茨城両県の漁連・漁協5団体が国に霞ケ浦導水事業の那珂川取水口建設差し止めを求めた訴訟の判決公判が17日、水戸地裁で開かれ、日下部(くさかべ)克通(かつゆき)裁判長は、漁協側の請求を棄却した。漁業権侵害の訴えについて「具体的危険があるとまでは言えない」などとして退けた上で、国側が主張した事業の公益性を認めた。漁協側は控訴する方針。

取水口建設が不可欠である事業が漁業権を侵害するか、公益性のある事業かどうか、主に二つが争点だった。
アユの漁業権について漁協側は、稚魚が取水口に吸い込まれ、減少するなどと訴えていた。しかし、判決は「認めるに足りる証拠がない」と指摘。アユの減少について「具体的危険があるとまでは言えない」と判断した。
事業の公益性をめぐっては(1)霞ケ浦などの水質浄化(2)那珂川と利根川の渇水対策(3)都市部の水道・工業用水確保-という導水事業の目的が妥当かどうかが争われた。判決は国側の主張を全面的に認め、「公共性がある」とした。
漁協側は「不可能な立証を強いる判決だ」として控訴する方針。
事業は霞ケ浦と両河川を地下導水路で結び、水を行き来させる計画で着工は1984年。民主党政権下で一時中断されたが、国土交通省は昨年8月、継続を決定した。霞ケ浦と那珂川を結ぶ那珂導水路の進捗(しんちょく)は3割にとどまるが、既に総事業費約1900億円の約8割を執行している。

霞ケ浦導水事業 漁協の差し止め請求棄却 水戸地裁「公益性ある」
(産経新聞 2015.7.18)http://www.sankei.com/region/news/150718/rgn1507180017-n1.html

霞ケ浦と那珂川、利根川を地下トンネルで結び、水を往来させる霞ケ浦導水事業で、「工事により漁業権が侵害される」として、茨城と栃木の那珂川流域の8漁協が那珂川取水口の建設差し止めを求めた訴訟の判決公判が17日開かれ、水戸地裁(日下部克通裁判長)は原告の請求を棄却した。原告側は控訴する方針。
訴訟では漁協側が那珂川の取水口からアユの稚魚が吸い込まれるほか、水質や流量が変化したり、霞ケ浦からの外来種が侵入したりして水産資源が深刻な被害を受けると主張。
これに対し国側は、取水口に魚の迷い込みを防ぐ網を設置するほか、生まれたばかりのアユの吸い込みは、遡上(そじょう)が多い時間帯に取水しないことでほぼ防げると反論していた。
判決理由で日下部裁判長は「アユの資源量が減少する具体的危険があるとまでは認められない」と述べた。
工事の公益性をどう判断するかも注目された今回の裁判。日下部裁判長は「霞ケ浦の水質保全対策の一つとして必要であり、公益性がある」としたほか、「新規都市用水など水利権確保上必要であり公益性がある」などと国側の主張をほぼ全面的に認めた。
その上で「今後の運用次第では共同漁業権が侵害される危険が発生する可能性もある」と指摘。漁業環境への影響が最小限に抑制されるよう努力することを国側に求めた。
判決を受け、橋本昌知事は「基本的に国の主張が認められたと聞いている。国に(工事の)早期再開を働きかけたい」と述べる一方、「漁協側に丁寧な説明をして理解を得ながら進めていくことが一番肝心だ」と語った。
霞ケ浦導水事業 国の直轄事業で、霞ケ浦の水質浄化や首都圏への水の安定供給などが目的。昭和59年に工事に着工し進捗(しんちょく)率は事業費(1900億円)ベースで約8割。地下トンネル2本のうち利根導水路(約2・6キロ)は完成したが、那珂導水路(約43キロ)は約7割が未完成。民主党政権下で事業は一時凍結されたが、昨年8月、事業継続が決まった。

霞ケ浦導水事業:漁協の請求棄却…水戸地裁判決
(毎日新聞 2015年07月17日 19時47分)http://mainichi.jp/select/news/20150718k0000m040044000c.html

水質浄化を目的に、茨城県の霞ケ浦と那珂川、利根川を地下トンネルで結ぶ国の霞ケ浦導水事業を巡り、取水口が建設される那珂川の流域8漁協が漁業権侵害を訴え工事差し止めを求めた訴訟の判決で、水戸地裁は17日、請求を棄却した。漁協側は控訴する方針。
漁協側は「取水口にアユなどの魚が吸い込まれ漁獲量が減る」などと主張していたが、日下部克通(かつゆき)裁判長は判決理由で「資源量が減少する具体的危険があるとまで認められない」と述べた。【松本尚也】

県は強硬姿勢をやめよ 石木ダム計画 長崎新聞社説

2015年7月11日
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7月10日の長崎新聞の社説を掲載します。
石木ダム問題についてまさしく正論を述べた社説です。

地元新聞が長崎県に対して「強硬姿勢をやめよ」という見解を突き付けた意味はきわめて大きいと思います。

県は強硬姿勢をやめよ 石木ダム計画

長崎新聞社説 2015年7月10日

県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業で県は8日、反対地権者13世帯が現住する家屋などを含む土地(約12万平方㍍)の裁決申請などを実施。
これで未買収地すべてが強制収用に向けた手続きに入ったが、県はこの強硬姿勢をやめるべきだ。
1982年5月、県は土地収用法に基づく測量を計画地で実施したが、反対住民の抵抗に遭い、県警機動隊を出動させた。
現場では、道路に座り込んだ住民が実力で排除される事態に。以降、反対住民は態度を硬化させ、このダム計画が数十年も迷走する端緒となった。
県は、反対住民の理解を得ようと説得を続けたが、有効な対話は成り立たないまま、今日に至る。途中、公共事業削減の嵐が吹き、ダム不要論も台頭したが、この計画は生き残った。
今も公共事業に対する国民の視線は厳しい。
国民生活に資する基盤整備は今後も必要だが、無駄な出費は厳しくチェックされなけれぱならないし、過剰な環境破壊や政官業による不正が疑われる事業も当然許されない。
そのうえで、個々の必要性に対する国民の理解と支持がなければ、事業が持ちこたえることはできない。
事業主体は、慎重に丁寧に穏当に手順を進める必要がある。法に従って粛々と進めるだけでは不十分だ。
石木ダム計画は、その悪い見本のような経過をたどっている。
まして今後、強制収用という手法で、自分の家で生活を営んでいる住民たちを無理やり引きはがしてまで作業をするなど、現代の日本においてまともな光景ではない。
県は立ち止まってほしい。そして、出直してほしい。
佐世保市はどれぐらい水が足りていないのか、人口減少局面で水需要は将来どれぐらい増大するのか、本当に他の解決策はないのか、治水効果はどう発揮されるのか、反対住民と有効な対話ができないまま何十年も過ぎた責任はいずれにあるのかー。
40年の時間とコストをかけて完了しない公共事業が、それでも必要であることの説得力のある説明をし直したほうがいい。
「もう十分説明してきた」という答えが返ってくるのかもしれない。だが現実はどうか。

「石木ダムとは必要なのか」と疑問に思っている県民がいかに多いことか。県民にこれほど理解されない不幸な県事業をほかに知らない。
県は強硬手段をとる構えをやめるべきだ。手法の誤りは将来に禍根を残す。利害関係者との対話に失敗する代償の大きさは、国営諌早湾干拓事業を見れば分かる。
形は完成しても泥沼の裁判闘争が続き、対立がどこまでも終わらない悲劇の典型だ。
このダム計画でも、そうなることが分かっていて、手順だけを進めるのは合理的でない。(森永玲)

長崎)裁決申請、地権者反発 石木ダム用地巡り再び

2015年7月9日
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長崎県が石木ダム予定地で4世帯の家屋を含む土地の強制収用を可能とする裁決申請をしました。その記事とニュースを掲載します。

反対地権者の家屋、土地を暴力的に奪おうとする長崎県の動きにストップをかけるため、世論を大いに盛り上げていかなければなりません。

石木ダム 本体工事で裁決申請
(NHK 2015年07月08日 23時49分) http://www3.nhk.or.jp/lnews/nagasaki/5033176691.html?t=1436383914459
石木ダム
川棚町に計画されている石木ダムについて長崎県は8日、ダム本体の工事に必要な3万平方メートルあまりの土地や家屋を強制的に取得するための「裁決申請」を行うとともに、ダムに水没する地域のおよそ9万平方メートルについても「裁決申請」に向けた手続きを始めました。
県と佐世保市が川棚町に計画している石木ダムは建設に反対する一部の地権者との用地交渉が難航していて、県は土地収用法に基づいて強制的に土地を取得するための手続きを進めています。
先月には収用委員会が道路用地としておよそ5500平方メートルの田んぼや畑を10月30日までに明け渡すよう地権者に求める裁決をしたのに続き、長崎県は8日、ダムの本体工事に必要な3万平方メートルあまりの土地や家屋についても、強制的に取得するため収用委員会に「裁決申請」を行いました。
県は裁決の日から180日以内に土地や家屋を明け渡すよう求めていて、応じない場合には「行政代執行を行うことも選択肢としてある」としています。
またこれとは別にダムに水没するおよそ9万平方メートルの土地や家屋、公民館などについても裁決申請のための手続きを始めました。
石木ダムは、建設計画からおよそ40年が過ぎ、これまで買収した土地は81.1%にとどまっていましたが、これですべての土地を取得するための手続きが始まったことになります。
石木ダムの本体工事に向けても「裁決申請」に踏み切ったことについて、長崎県の中村知事は「全ての地権者の理解を得ることが出来ず残念だが、ダムは川棚町の治水対策や佐世保市の慢性的な水不足を解消するためには必要不可欠な事業だと考えている。完成に向けてしっかり取り組んでいかなければいけない」と述べました。
また石木ダムの完成予定が計画上、来年度に迫っていることについて、「現実的に時間が足りない状況になっている。ダム建設で水没する現在の道路に代わる道路用地への裁決が先月出たこともあり、建設計画の見直しに着手しなければいけない」と述べ、今年度中に建設計画を見直す考えを示しました。
裁決申請の対象となった家屋に住む地権者、川原房枝さん(74)は、「もっと地権者に『どうして反対なのか』と聞いて進めるべき話です。家を取り上げるつもりならそれでも結構ですが、私たちは計画が白紙撤回になるまで闘います。みんなが住んでいるところを取り上げてまでダムを造る時代ではない。県外の皆さんにも私たちの気持ちをわかってほしい」と話していました。

「なぜ議論拒むのか」 石木ダム、地権者ら怒り [長崎県]

(西日本新聞 2015年07月09日 00時11分)http://www.nishinippon.co.jp/nnp/nagasaki/article/180803

(写真)裁決申請について説明し工事現場に入ろうとする県職員に背を向け、抗議を続ける地権者や支援者たち

裁決申請について説明し工事現場に入ろうとする県職員に背を向け、抗議を続ける地権者や支援者たち
「議論を拒んで強行するのか」「本当に必要なら何度でも説明するべきではないか」-。県と佐世保市が計画する石木ダム事業をめぐり、県が4世帯の家屋を含む土地の強制収用を可能とする裁決申請をした8日、ダム予定地の付け替え道路工事現場で抗議活動をしている地権者や支援者の間には怒りが渦巻いた。
県が付け替え道路工事に着手した現場入り口には同日午前11時すぎ、県職員ら約10人が姿を見せ、今回の裁決申請について説明し、工事への協力を要請。
「この場所は法的に妨害が禁止されている」「こんなふうにしていてもお互いにいいことはない」などと理解を求めたが、住民や支援者たちは「工事強行より話し合いを」などと書いた横断幕を掲げ背を向け、無言で抗議を続けた。
道路工事の膠着(こうちゃく)状態が続くなかでの新たな裁決申請について、県石木ダム建設事務所の古川章所長は「ダムの必要性については(国の)判断が出ている。話し合いは平行線で溝を埋めるに至っていないが、総合的に判断して手続きを進めている」とした。
中村法道知事は同日の会見で、家屋の収用(行政代執行)に関し「そういった手法を排除するわけにはいかない」と強制的な手段も辞さない構えを見せた。
地権者の一人は「県がダムの必要性の議論をしないのは、私たちを納得させられる根拠がなくなっていることの表れだ」と反発。
今回の裁決申請の対象となった家屋に住む男性は「この地の自然を子どもたちに残すのか、無駄なダムと財政負担を残すのか。もう一度、市民も町民も一緒になって議論するべきではないか」と話した。
石木ダム:家屋も強制収用へ 県、3ヘクタールを裁決申請 /長崎
(毎日新聞長崎版 2015年07月09日)http://mainichi.jp/area/nagasaki/news/20150709ddlk42010308000c.html県と佐世保市が川棚町に計画する石木ダム建設で、県は8日、反対地権者4世帯の住宅を含む約3ヘクタールの強制収用に向け、県収用委員会に裁決申請したと発表した。石木ダム事業で家屋が裁決申請の対象になるのは初めてで、住民は反発を強めている。
県河川課によると、対象はダム本体の建設予定地で、現在は住宅地や農地として利用されている。県収用委は、審理で県や地権者らの意見を聞いた上で、土地の補償額や明け渡しの期日などを決める。県は同日、9世帯の住宅を含む約9ヘクタールについても、裁決申請に向けた手続きを開始した。
中村法道知事は8日の定例記者会見で、石木ダムの必要性を改めて強調し「地権者の理解を得て土地を譲ってもらうのが理想だが、現実にはなかなか難しい状況だ」と申請の理由を説明した。
朝長則男市長は「これまで約40年間の経緯、現在の地元の状況、工事工程など事業を取り巻くさまざまな状況を総合的に判断されたものと思う」とのコメントを発表した。
一方、対象用地の家屋で暮らす岩下秀男さん(67)は「必要のないダムのためにどうして家を強奪されなければならないのか。我々は自然豊かな古里で暮らしたいだけ。反対活動を継続し、この土地からてこでも動かない」と語気を強めた。
石木ダム事業は1975年に事業採択されたが、反対派住民と行政の対立で本体着工のめどが立たない状況が続いてきた。県収用委は先月、県の申請を受け、予定地内の農地約5500平方メートルについて10月末(一部を除く)までの明け渡しを求める裁決を出している。【小畑英介、梅田啓祐】
石木ダム 県が土地収用裁決申請
(読売新聞長崎版 2015年07月09日)http://www.yomiuri.co.jp/local/nagasaki/news/20150708-OYTNT50133.html県と佐世保市が川棚町に計画する石木ダム建設事業は、県が8日、反対地権者4世帯の家屋4棟を含む土地約3万平方メートルの収用に向けた裁決申請をしたことで、新たな局面に入った。県収用委員会による裁決後、地権者が明け渡しに応じなければ、家屋や土地の強制収用が可能になるが、地権者側は一歩も引かない構えを貫いている。
県河川課によると、申請内容は〈1〉土地所有権の移転は裁決から60日後〈2〉明け渡し期限は、家屋が同180日後、家屋以外は同60日後――など。補償額は約2億7000万円とした。
中村知事は記者会見で「地権者の理解を得て、円満な形で進めるのが理想」とする一方、ダム建設の必要性を強調し、「今後もしっかりと取り組んでいかなければならない」と述べた。行政代執行による強制収用の可能性については「現段階でその手法を排除するわけにはいかない」と含みを持たせた。
同市の朝長則男市長は裁決申請を受け、「事業の着実な進展につながると受け止めており、今後の状況を見守りながら、市の責務を果たしていく」とのコメントを発表した。
一方、反対地権者の1人で、今回の裁決申請の対象となった家屋で暮らす岩下秀男さん(67)は「ダムは利水、治水の両面で必要ない。反対運動を続け、何があろうとここに住み続ける。私だけでなく、地権者はみんな同じ気持ちだと思う」と語気を強めた。
地権者のリーダー格の岩下和雄さん(68)も「強制収用は許されず、内容を伴わないダム計画に反対していくことに変わりはない。ダムの必要性がなくなっていることは明白で、県はきちんと納得いく説明をするべきだ」と憤りをあらわにした。

「失うものは美しいもの」~パタゴニア辻井支社長が石木ダム反対訴え

2015年7月6日
カテゴリー:
7月4日、長崎県佐世保市で開かれたシンポジウム「石木ダムの真実」についてNet IB Newsの記事を掲載します。
「失うものは美しいもの」~パタゴニア辻井支社長が石木ダム反対訴え
(Net IB News 2015年07月06日 15:28)http://www.data-max.co.jp/270706_ymh_2/
長崎県と佐世保市が同県川棚町に計画している石木ダム建設を考えるシンポジウムが7月4日、同市のアルカスSASEBOで開かれ、アウトドア衣料メーカーのパタゴニア日本支社長の辻井隆行氏が特別講演した。
辻井氏は、ダム建設計画地の川原(こうばる)地区など現地に月1回以上足を運んで、地元住民と意見交換するなど、ダム反対を支援してきた。
パタゴニア日本支社は同ダム反対運動の全面支援を決定し、5月から佐世保市内で「ダムはほんとうに必要か皆で考えましょう」というラッピング広告したバスの運行を開始。同支社初の新聞全面広告「失うものは美しいもの」を出して、ダムが不要だと問いかけた。
講演する辻井隆行・パタゴニア日本支社長
(写真)講演する辻井隆行・パタゴニア日本支社長
7月4日、長崎県佐世保市で開かれたシンポジウム「石木ダムの真実」
(写真)7月4日、長崎県佐世保市で開かれたシンポジウム「石木ダムの真実」
辻井氏は、パタゴニアが長くビジネスをするうえで大切な仕組みとして、「環境に負荷の小さい素材」「人権に配慮した生産」にこだわっていると紹介。
こだわりのある製品をつくって販売する先のミッション(使命)として、「ビジネスを使って、環境問題そのものを解決したいと思っている」「それが石木ダムに関わらせていただいている根底にある思いです」と語った。
東京生まれ東京育ちの辻井氏は、ダム建設計画地の川原地区を訪れ、春の小川のような自然、日本のふるさとのような場所に接し、「これが日本の自然なんだ」と思ったという。
「何かに反対することは、何かに賛成すること」という米国の環境活動家の言葉を引用して、石木ダムに反対することは、石木川の本来の姿に賛成している、生息している138種のレッドデータブックに載っている生き物に賛成している、ここに暮らす素晴らしい方々の暮らしに賛成している、「市民による民主主義」に賛成している、と述べた。
最後に、「失うものは美しい」に込めた気持ちを、「何を失うのか、何を守ろうとしているのか。多くの人が参加でき話し合いができる場をつくって、全員にとって納得できるお金の使い方を市民が決める世論をこれから醸成していきたい」と結んだ。
合唱する川原地区の住民たち=7月4日、長崎県佐世保市
(写真)合唱する川原地区の住民たち=7月4日、長崎県佐世保市
川原地区には、13世帯約60人が住む。1971年に県が川棚町に予備調査を依頼して以来住民らは約40年間、ダム反対の看板を立て、監視塔や団結小屋を設置し、1982年の強制測量反対などダム反対の運動を続け、強制測量反対当時の小学生が結婚し親の世代になった。
ダム建設計画地に住む岩下すみ子さんが「美しい山、村を破壊する必要があるのか」と問いかけ、住民約20人が「川原のうた」を合唱し、「ただ生まれ育ったこの土地に住み続けたいだけなのです。ダムの中止が決まったら、看板を撤去してそこに花を植えたい」と訴えた。
シンポジウムは、ダム計画地の住民や市民団体「石木川まもり隊」らでつくる「石木ダムの真実を考える集会実行委員会」主催。
ブックレット『石木ダムの真実 ホタルの里を押し潰すダムは要らない!』出版を記念して、同ダムの公共性について、行政を交えた討論を呼びかけるために開いた。約350人が参加した。
同ブックレット執筆者の1人で、石木ダム対策弁護団の板井優弁護士が、同ダムの問題点と公共事業のあり方を講演した。
長崎県は、中村法道知事が話し合いに1回応じたものの、ダム水没予定地の道路に代わる付け替え道路工事の強行や本体工事に必要な用地の強制収用の準備を進めている。
【山本 弘之】

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