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貯水量は浜名湖の2倍、見えぬ使い道 岐阜・徳山ダム

2018年10月23日
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徳山ダムが完成して10年、その開発水は全く使われていません。徳山ダムの開発水を無理矢理使うため、揖斐川から長良川と木曽川に送水する木曽川水系連絡導水路事業が計画されていますが、水余りが進む状況で必要であるはずがなく、
事業の検証も行われない状態になっています。
この問題を取り上げた朝日新聞の記事を掲載します。

貯水量は浜名湖の2倍、見えぬ使い道 岐阜・徳山ダム

編集委員・伊藤智章
(朝日新聞2018年10月18日1

14人死亡の鬼怒川氾濫、国は危険性を認識しつつ放置…住民の対策要求を何度も無視

2018年10月23日
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8月7日に提訴した鬼怒川水害訴訟についての詳しい記事を掲載します。
第1回口頭弁論は水戸地裁下妻支部で11月28日(水)(15時45分~)に開かれます。


14人死亡の鬼怒川氾濫、国は危険性を認識しつつ放置…住民の対策要求を何度も無視

(Business Journal / 2018年9月30日 16時0分)https://news.infoseek.co.jp/article/businessjournal_479061/?p=1

鬼怒川で発生した2015年9月の水害。関東・東北豪雨により、茨城県を流れる鬼怒川が氾濫し、流域の5つの市が洪水に飲み込まれた。住民は孤立し、約4300人が救助されたが、災害関連死と認定された12人を含む14人が死亡。多くの住宅が全壊や大規模半壊などの被害を受けた。
この水害は単なる自然災害ではなかった。住民は洪水が起きる危険性を、発生前から国に指摘していたのだ。しかし、現在も国が非を認めないため、常総市の住民ら30人は8月7日、国に約3億3500万円の損害賠償を求めて提訴した。
今年7月の西日本豪雨、昨年7月の九州北部豪雨など、全国で水害の被害が相次ぐなかで、住民は「水害被害にあった多くの人たちのためにも、国のデタラメな河川行政の転換を求める」と憤る。現地で原告の住民に話を聞いた。

●凄まじい被害は「国による人災」
8月7日、水戸地方裁判所の下妻支部には、提訴に訪れた住民と弁護団、それに報道陣と、多くの人が詰めかけていた。提訴を終えて、建物から出てきた弁護団の只野靖事務局長は、報道陣の取材にこう答えた。
「3年前、水害が起きた当初から、国の対応に瑕疵があると考えてきました。国の責任が大きいこの水害は人災です。その思いを強くしています」
3年前の15年9月10日午前6時頃、関東・東北豪雨により、常総市の若宮戸地区で最初に洪水が発生した。鬼怒川の水量はその後も増え、午後0時過ぎには上三坂地区の堤防が決壊。最終的に決壊は200メートルにわたった。
激しく流れる洪水は建物、田畑などを次々と浸水し、常総市の中心部である水海道地区にも及んだ。常総市の面積の約3分の1にあたる、約40平方キロメートルが浸水してしまった。市内では住宅の全壊が53棟、大規模半壊と半壊が約5000棟。災害関連死と認められた12人を含む14人が亡くなる甚大な被害を出した。
この水害が、なぜ人災なのか。原告のひとりで、最初に洪水が発生した若宮戸地区で農業生産法人を営む高橋敏明さん(64)は、静かな口調ながら、怒りを込めて話した。
「若宮戸地区には自然の堤防となっている砂丘林があるだけで、本来国がつくるべき堤防がありませんでした。しかも、ソーラー発電の業者が、砂丘林を掘削して、無堤防状態になっていました。にもかかわらず、国は十分な対応を取りませんでした。そこから洪水が流れ出たのです」

●国は危険を2度にわたって放置
写真は、現在の若宮戸地区。ソーラーパネルが並ぶ場所の付近だけ、200メートルほど砂丘林が切れているのが確認できる。ここが最初に水が溢れた場所だ。いまは水害後の工事で堤防がつくられているが、被害が出た時には、砂丘は低く削られていた。
鬼怒川は一級河川なので、国土交通省の管理下にある。砂丘が削られた2014年3月以降、住民が国に対策を求めると、国は「その場所は河川区域ではなく、私有地なので手が出せない」という態度だった。
しかし、あまりにも危険な状態なので、住民が引き続き対応を求めると、14年7月、国の担当者は1個の高さが約80センチの土嚢を2段積んだ。取られた対策はそれだけだった。
それからわずか1年あまり。住民の予想通り、豪雨の早い段階で、砂丘林が削られた場所から川の水が溢れ出た。洪水はあっという間に住宅や田畑を飲み込んだ。砂丘林が削られていなければ、あふれた水量はもっと少なく、これほどの被害は出なかった可能性が高いのだ。
それだけではない。国は長い時間をかけて「鬼怒川直轄河川改修事業」を進めている。11年度の事業評価の際には、当面7年で堤防を整備をする区間と、おおむね20年から30年をかけて整備をする区間が定められている。
若宮戸地区の砂丘林の高さは、事業で整備の基準にしている「計画高水位」よりも1メートル低い。しかし、整備計画の区間には入っていなかった。原告を支援する水源開発問題全国連絡会の嶋津暉之共同代表や弁護団が、国が提出した資料を分析すると、国は03年度に若宮戸地区で堤防をつくる詳細な設計をしていながら、その報告書がお蔵入りしていたことがわかった。
つまり、国は若宮戸地区の砂丘林が低いことを認識していながら、意図的に堤防を整備せずに放置していたことになる。さらにその砂丘林が削られても、十分な対策を講じなかった。住民は2度にわたって国に放置されてしまったのだ。
●誰かが立ち上がらなければ
若宮戸地区の高橋敏明さんは、砂丘林が削られた場所からおよそ800メートルほど離れた場所で、観葉植物や、花卉の栽培を行なっていた。鬼怒川の氾濫により、1500坪もあった花卉栽培の温室などの施設は破壊されてしまった。
「45年間、丹精を込めて植物を育ててきましたが、水害によって壊滅的といいますか、跡形もなくなりました。経営も危機的な状況に陥りました。皆さんに協力いたただいて、今は水害前の7割くらいまで再建できています」
高橋さんは、法人と個人の両方で原告になっている。責任があるのは明らかなのに、非を認めない国の態度が今でも許せなかった。しかし、それだけではない。多くの被災者が国の落ち度を訴えてきたが、生活の再建に追われて、裁判まで起こそうという人は時間がたつとともに減ってきた。誰かが立ち上がらなければ、国の態度が変わることはない。そう思い、裁判を決心した。
「私たちの声を無視して、危険を放置した国に責任がないというのは、信じられません。私たちが立ち上がることによって、あきらめかけていた人たちも、また一緒に国を訴えようと、動きだすのではないかと思っています」
実際に、今回提訴した法人と個人の30人以外にも、原告団に加わろうという動きが出ている。近く追加提訴が行われる見通しだ。

●泣き寝入りしている人のためにも
今年7月に発生した西日本豪雨により、各地で大規模な河川の氾濫が発生し、これまでに220人が犠牲になった。
鬼怒川氾濫と同じように、危険がわかっていながら、洪水対策がとられていなかった場所といえば、岡山県倉敷市真備町の小田川が挙げられる。小田川は過去にも繰り返し氾濫し、河川改修も計画されていたが、実施されないまま今回の水害が発生し、51人が亡くなった。
水害をめぐる訴訟では、1984年1月に出た大東水害訴訟最高裁判決によって、その後住民側が行政を訴えてもほとんど勝訴できない状況となった。大東水害とは、72年7月に大阪府大東市で大雨で寝屋川が氾濫した水害。その判決で示されたのは、河川の管理と、改修中の河川の管理について瑕疵が認められるのは、「河川管理の一般水準及び社会通念に照らして、格別不合理なものと認められる」場合だけというものだった。
鬼怒川水害でも、国は非を認めていない。しかし、常総市に行って見てみれば、これだけ長い流域で、周囲に多くの住民が暮らす一級河川を、自然の堤防に頼って国がまともに管理していないことに驚かされる。鬼怒川は利根川の最大の支流で、関東平野を流れる重要な河川のひとつである。社会通念に照らして、放置してきた国に責任がないとは、到底思えない。
弁護団の只野靖事務局長は、水害訴訟の流れを変えるのも今回の裁判の意義のひとつだと、力を込めて語った。
「水害で被災した方で、裁判で行政の責任を問いたくても、できなかった方が何万人もいると思います。全国で水害が多発しているなかで、鬼怒川と同じメカニズムで被災した方もいるかもしれません。想定外の雨が降ったのだから仕方がない、という国の姿勢で済ませていたら、大きな被害が出る状況はいつまでたっても変わらないでしょう。水害の被害にあった多くの方のためにも、裁判で河川行政の転換を求めていきたいと思います」
行政による人災を、自然災害で済ませていいはずがない。鬼怒川氾濫をめぐる訴訟では、国の河川行政そのものが問われている。
(文=田中圭太郎/ジャーナリスト)

鬼怒川水害訴訟を支援しよう

2018年9月26日
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2015年9月の関東・東北豪雨では鬼怒川下流部で堤防が決壊し、無堤地区で大規模な溢水があって、その氾濫が茨城県常総市の鬼怒川左岸側のほぼ全域におよび、凄まじい被害をもたらしました。

鬼怒川水害は決して自然災害として片づけられるものではありません。ダム建設に河川予算を注ぎ込み、河道整備を疎かにする国土交通省の誤った河川行政がもたらした水害であるといっても過言ではありません。

鬼怒川下流部では流下能力が著しく低く、氾濫の危険性があるところが長年放置されてきたことにより,(利根川への合流点から)21㎞付近の上三坂地区で堤防決壊、25㎞付近の若宮戸地区で大規模な溢水が引き起こされました。

上三坂も若宮戸も氾濫の危険性が極めて高いところであることを国は認識していながら、放置してきており、国の責任は重大です。

そこで、国家賠償法により、被災者22世帯の方が国に対して損害賠償を求める裁判を起こしました。本年8月7日に水戸地方裁判所下妻支部に提訴しました。弁護士11人が本裁判を担っています。

この裁判を力強いものにし、勝訴の判決を得るためには、支援の輪を大きく広げていくことが必要です。
そこで、裁判を物心両面で支えていくため、「鬼怒川水害裁判を支える会」が結成されました。「鬼怒川水害裁判を支える会」をお読みいただき、皆様も是非、本会に加入して、国の河川行政の誤りを正す取り組みを支援してくださるよう、お願いいたします。

鬼怒川水害の原因と責任については 「鬼怒川水害は国の責任」をお読みください。

水資源 水巡る対立、世界で激化 国の争い00年以降357件

2018年9月25日
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世界各地で水資源を巡る争いが頻発しているという毎日新聞の記事を掲載します。

水資源 水巡る対立、世界で激化 国の争い00年以降357件

(毎日新聞2018年9月21日 東京朝)刊)https://mainichi.jp/articles/20180921/ddm/007/030/027000c

(写真)メコン川とトンレサップ川の合流地点。メコン川では上・中流のダム建設計画が流域国間の争いの種となっている=カンボジア・プノンペンで、須賀川理撮影

メコン川
世界各地で水資源を巡る争いが頻発している。アジア、アフリカなどの人口急増に伴う水の大量使用、ダム建設による河川流量の減少などの環境変化、地球温暖化による干ばつなどが大きな要因だ。一方で、水資源の保全を目指す新たな取り組みも始まっている。「水」を巡る現状を報告する。
ダム増加、下流域反発 アジア
「20世紀は(各国が)石油を巡って争う世紀だったが、21世紀は水で争うことになる」。1995年、当時世界銀行の副総裁だったイスマイル・セラゲルディン氏はこう予測した。あれから23年。大規模な紛争こそ起こっていないが、水を巡る人々の対立は激しさを増している。
90年に約53億人だった人口は現在、約75億人。2050年には約97億人に達すると予想される。人口増加は水の使用量増加に直結する。経済協力開発機構(OECD)は、00~50年の間に製造業の工業用水は5倍、発電に使う水は2・4倍に増加すると予測、50年には世界人口の40%以上が深刻な水不足に見舞われると警告している。
inRead invented by Teads
米シンクタンク「パシフィック・インスティテュート」によると、水を巡る各国の争いは00年以降で357件に上る。地域別では、サハラ砂漠以南のアフリカ93件▽中東90件▽南アジア60件--など。人口が増加し、干ばつの影響を受けやすい中東、アフリカ、アジアでのトラブルが増加している。
メコン川で続々建設
例えば、東南アジアで大きな問題となっているのが、中国からミャンマー、ラオス、カンボジア、ベトナムを通って南シナ海に注ぐメコン川での「ダム建設」を巡る争いだ。
メコン川は流域に住む約7000万人の生活を支える「要」だ。上流に位置する中国は人口増加によるエネルギー需要などを満たすため、複数のダムを設置。さらに20以上のダムの建設計画がある。中国は「ダム建設による下流域への影響はほとんどない」との立場だが、下流域の国々は河川流量の減少、生態系の破壊、漁獲量の減少などが起こり、農業や漁業に影響を与えているとして、中国に強く抗議している。
一方で、中流域にあるラオスもダム建設を計画する。水力発電を行い、タイに電気を売るためだ。これには下流域のベトナムが抗議しているが、ラオスは河川を自国資源の一つとして位置づけ、譲る様子はない。流域国は「メコン川委員会」という仲裁機関を作っているが、委員会に法的な権限がない上に、中国は加盟しておらず、対立が収まる気配はない。
中央アジアでは、キルギスとタジキスタンがシルダリヤ川などの上流にダム建設を計画し、下流のウズベキスタンがキルギスに天然ガスの供給停止で対抗するなど対立が表面化した。
気候変動の影響も
インドでは、気候変動で南部カベリ川の流量が減少。16年9月には流域のカルナタカ州とタミルナド州の住民が対立して暴動が発生。警察の発砲によって2人が死亡し、500人が逮捕される事態となった。
イスラム過激派のテロに悩まされている東アフリカのソマリアでは、干ばつによる食料不足が混乱に輪をかけ、さらなる不安定化につながっている。
水問題に詳しい米オレゴン州立大学のエリック・スプロール研究員は今後、複数国にまたがる国際河川について、アジアでは807、南米では354のダム建設が予定されており、「水を巡る対立」がさらに増加する可能性があると指摘。「各国(または各地域)は事前に、水資源の利用を規定した条約などを結ぶ必要がある」と指摘する。【ウィーン三木幸治】
干ばつ、内戦で深刻化 中東
水資源を巡る問題が特に深刻化しているのが中東だ。砂漠地帯では水不足が住民生活に大きな影響を与えるため、各国の政権にとって無視できない内政課題であり、時には外交問題にも発展する。
たとえばイラク。南部バスラやアマラでは今年7月以降、停電や断水が頻発する政府の公共サービスに抗議するデモが続く。現地ジャーナリストによると、デモ参加者は「水が欲しい」などと訴えているという。干ばつの影響で耕地面積が減り、南部では水のある土地を求めて離村する農家も続出している。
イラクでは14年から台頭した過激派組織「イスラム国」(IS)との戦闘が昨年にほぼ終結し、荒廃した国土の復興にようやく乗り出した。だが今年5月の国会の総選挙後、各勢力の連立交渉が難航。新政権は4カ月以上も発足せず、公共サービスは停滞し、南部では汚染された水道水を飲んだ住民が多数入院しているという。

(写真)シリア内戦でアサド政権と反体制派が奪い合った山岳地帯の水道施設=シリア南部アインフィージャで
戦闘で施設破壊
「水を巡る争い」で忘れられないのが、内戦が続くシリアを取材した時だ。
反体制派の武装勢力は13年、首都ダマスカス西郊の水源の町アインフィージャにある水道施設を制圧した。だがアサド政権軍はこの町を徹底的に空爆し、17年1月に奪還した。
記者は17年12月、山岳地帯に位置するこの町に入った際、言葉を失った。黒焦げのまま放置された廃虚の家々がどこまでも続く。銃を構えた監視役の政権軍兵士からは「廃虚は撮るな」と写真撮影を止められた。「水のため」に敵の拠点を破壊し尽くした痕跡を、政権側は外国人記者に見せたくなかったのだろう。
取材が許可されたのは、山のふもとにある水道施設のみ。地下水をくみ上げるパイプはほぼ復旧していたが、がれきが放置されている場所も多く、戦闘の激しさを物語っていた。取材後、ある兵士が「戦争は水を制する者が勝つ」と話すのを聞いた。

(写真)古代から人々の営みとともにあったナイル川=エジプト南部ルクソールで、いずれも篠田航一撮影
ナイル川でも「紛争」

ナイル川
実際の戦闘に発展しなくても、水問題が「外交紛争」を引き起こすケースもある。たとえばエジプトだ。近年はナイル川上流に位置するエチオピアとの対立を深めている。

(写真)国際原子力機関(IAEA)で地下水の年代測定を担う松本拓也分析官。研究室には、自ら設計した分析装置が設置されていた
背景にあるのは、10年からエチオピアが建設を始めた巨大ダムの存在だ。仮にダムが完成し、ダム湖に水がたまれば、下流に向かう水量は減少する。17年6月、エジプトのシシ大統領はウガンダで開かれたナイル川流域国による国際会議で「わが国は人口も増え、水不足が始まっている。流域国は水資源維持のため協力すべきだ」と訴えたが、エチオピア側は「下流への影響はない」と反論し、協議は続いている。
追い打ちをかけるのが人口爆発だ。70年に約3500万人だったエジプトは現在約9500万人に激増。このため、地元メディアによると、70年に1972立方メートルだった1人あたりの年間水消費量は、13年には663立方メートルまで減った。国連が「絶対的な水不足」のラインとする500立方メートルも近付いている。中東はまさに、水資源を巡る争いの「最前線」になっている。【カイロ篠田航一】
地下水の年代調べ活用 IAEA分析官・松本拓也氏、装置設計から解析まで担当
核施設の査察などで知られる国際原子力機関(IAEA、本部ウィーン)に、世界の水資源を有効活用するため、水に含まれる同位体を使って地下水の全貌を調査している部門がある。ここに異色の日本人研究者がいる。岡山大准教授からIAEAに転身した松本拓也分析官(49)だ。
松本さんが取り組むのは、放射性同位体を使った地下水の年代測定だ。地表に降った雨水は、地下に染み込んで地下水となるが、地表降下後に経過した時間によって同位体の量や構成が異なる。例えば水素の同位体であるトリチウムは12年で半減し、ヘリウムの同位体を作る。そのため、地下水に含まれるヘリウムの数を調べれば、その水が何年前の雨水なのか知ることができる。
日本は降水量が多く、地形が急勾配であるために、比較的若い年代の地下水が多い。富士山麓(さんろく)の地下水は数十年前の雨水であることがわかっている。これはこの地域の地下水が数十年という短期間で入れ替わり、持続的に水資源として活用できることを示している。一方、アフリカなど水資源が不足している地域では、数万年という「年齢」の地下水に依存している場合が多い。古い地下水は石油同様、1回限りの資源であるため、持続的な活用については厳密な管理が必要だ。
だが地下水にごく微量しか含まれない同位体を分析するのは、途上国の当局や機関にとっては困難。そこでIAEAが途上国の調査に協力を始めた。元々、大気中での核実験が水資源にどう影響するかを調べており、ノウハウを持っていたのだ。
2010年からIAEAで働き始めた松本さんは、まず比較的若い年代の地下水の調査を欧州や中東など10以上の加盟国とともに実施。現地で地下水サンプルを採取する手法などを確立するとともに、年間300を超える試料の分析を可能にするための装置を完成させた。
IAEAは昨年まで、干ばつに苦しむアフリカのサハラ砂漠南部で、五つの地下水系を調査した。各国はこの調査を基に今後、どのように水資源を確保し、地下水を持続的に利用していくか計画を立てる。
また中国では人口増の影響で、大量の地下水を取水しており、地下水保全戦略の一環として地下水の年代測定に力を入れる。松本さんは最近、中国の研究者との共同調査で100万年を超える年代の地下水の存在を明らかにして注目された。
松本さんは分析装置の設計・作製から、同位体のデータ分析、科学的解釈までを行える世界でも数少ない研究者の一人。「大学では真理を追究する仕事をしてきたが、IAEAの仕事は世界に貢献しているという実感がある。自分の役割は今ここにある、と思っています」と話す。【ウィーン三木幸治】

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