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石木ダム訴訟 結審 7月9日判決 地権者から非難の声 長崎地裁 /長崎

2018年3月21日
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3月20日、石木ダム事業認定取り消し訴訟が結審しました。テレビ長崎とNHKのニュース、4紙の記事を掲載します。
判決は7月9日(月)15時です。

判決が住民側の勝訴となり、地元の方がダム問題から解放されることを願ってやみません。

石木ダム 事業認定取り消し訴訟が結審
(テレビ長崎2018年3月20日 18:29) http://www.ktn.co.jp/news/20180320174097/

東彼・川棚町の石木ダム建設をめぐり、予定地の住民たちが、国に対して、土地の強
制収用を可能にした事業認定を取り消すよう求めている裁判が、20日、結審しまし
た。
国に石木ダムの事業認定の取り消しを求めているのは、ダム建設予定地で暮らす13
世帯の住民などです。

石木ダムは、佐世保市の水不足対策と、川棚川の氾濫対策を目的に、県や佐世保市が
川棚町で関連工事を進めています。
裁判で、国側は「石木ダムは、洪水調節効果と、流水の正常な機能の維持のため必要
で有効」と、主張してきました。

これに対し住民らは、国の事業認定の根拠となった佐世保市の水需要予測について、
具体的な裏づけをとらずに、勝手に推計した机上の計算だと訴えました。
地権者 岩下和雄さん「本当に必要ないダムを、なんで私たちが犠牲になってまで、
ダムを作らなければならないのかと思っている」

馬奈木明雄弁護士「(政策)判断をする際に、前提となる資料を好き勝手に数字を選
んでいいということではない。合理性ということを、まともに日本語として解釈した
ら、到底この事業を認めることはできないと確信しております」
判決は、7月9日に言い渡されます。

石木ダム訴訟 7月に判決へ
(NHK 2018年03月20日 17時58分) https://www3.nhk.or.jp/lnews/nagasaki/20180320/5030000175.html

長崎県と佐世保市が川棚町に建設を進めている石木ダムについて、建設に反対する地
権者などが国に事業認定の取り消しを求めている裁判は20日、審理がすべて終わり
ました。
判決は、ことし7月9日に言い渡される予定です。

石木ダムは、県と佐世保市が水道水の確保や洪水対策を目的に285億円をかけて川
棚町に建設を進めているダムで、3年前、反対する地権者など100人あまりが、
「ふるさとが奪われる」などと国に事業認定の取り消しを求める訴えを長崎地方裁判
所に起こしました。

20日の裁判で、地権者側と国側の双方が最終的な意見をまとめた書面を提出しまし
た。
この中で、地権者側は「ダムの必要性の根拠とされる水需要の予測は、結論ありきの
もので、治水対策も形式的に数字合わせを行っただけだ」と指摘したうえで、「地権
者を強制的に排除してまで不要なダムを建設するなどあり得ないことだ」として、改
めて事業認定の取り消しを訴えました。

一方、国側は「水需要の予測は、佐世保市の特性などを考慮して適正な手法で合理的
に行われ、治水計画も流域の地形や災害の特性から適正に行われている。石木ダム
は、必要かつ有効なものであって、得られる公共の利益は極めて大きい」と主張しま
した。

裁判は20日ですべての審理が終わり、判決は、ことし7月9日に言い渡される予定
です。

石木ダム事業取り消し訴訟 結審、7月9日判決 長崎地裁
(長崎新聞 2018/3/21 10:06 ) https://this.kiji.is/348996519187989601

県と佐世保市が東彼川棚町に計画する石木ダム建設事業の反対地権者109人が国に事業認定取り消しを求めた行政訴訟の口頭弁論が20日、長崎地裁(武田瑞佳裁判長)であり、原告側は「(予定地に残る)13世帯を強制的に排除してまで不要なダムを建設することはありえない」とあらためて主張し、結審した。判決は7月9日。
原告側の住民と代理人弁護士の計5人が意見陳述した。岩下和雄さん(70)は「県や市がダムを必要とするなら、話し合いを拒否するのではなく、私たちと真摯(しんし)に向き合い、同意が得られるよう努力すべき」と指摘。「いつまでダム問題に翻弄(ほんろう)され、苦しみ続けなければいけないのでしょうか。一日も早く問題から解放されたい」と声を詰まらせながら語った。
岩本宏之さん(73)も「この問題を私たちの世代で終わらせ、次の世代が安心して暮らすことができる機会をください」と訴えた。
同事業は、2013年9月に国が事業認定を告示。それに基づき15年8月、県が地権者の農地の一部を強制収用した。これを受け反対派は同年11月、事業認定の取り消しを求め提訴していた。

石木ダム訴訟 結審 7月9日判決 地権者から非難の声 長崎地裁 /長崎
(毎日新聞長崎版 2018年3月21日) https://mainichi.jp/articles/20180321/ddl/k42/040/286000c

県と佐世保市が川棚町に計画する石木ダム事業で、反対地権者ら109人が国を相手取って事業認定の取り消しを求めた訴訟の口頭弁論が20日、長崎地裁(武田瑞佳裁判長)であり、双方が最終準備書面を提出して結審した。
判決は7月9日。
地権者側は準備書面で「治水、利水面共にダムが必要ないことは明らかで、水没予定地に住む13世帯の人権を著しく侵害している」と改めて主張。
国側は「ダムは利水及び治水の観点からみて、必要かつ有効で、事業で得られる利益は大きく、失われる利益より優越している。事業認定は適法で、請求は棄却されるべきだ」と主張した。
また、地権者の一人、岩下和雄さん(70)らが意見陳述し「ダム計画が持ち上がって50年あまり、人生の大半をダム問題に翻弄(ほんろう)されてきた。一日も早くダム問題から解放されたい」と訴えた。【浅野孝仁】

 

石木ダム訴訟結審 7月9日判決
(読売新聞長崎版 2018年3月21日)
県と佐世保市が川棚町に計画する石木ダム建設事業を巡り、反対する地権者らが国に事業認定の取り消しを求めた訴訟の口頭弁論が20日、長崎地裁(武田瑞佳裁判長)であり、結審した。
判決は7月9日。
この目は地権者ら5人が意見陳述を行い、地権者の岩下和雄さん(70)は「人生の大半をダム問題に翻弄されてきた。私たちの生活を奪い、故郷を犠牲にしてまで石木ダムは必要なのか」
と声を震わせながら訴えた。

 

設楽ダムの住民監査請求

2018年3月17日
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豊川水系・設楽ダムのダム使用権返上を愛知県に求める住民監査請求が3月14日に行
われました。
設楽ダムについて第二次の住民訴訟を行うための住民監査請求です。
第一次の住民訴訟は住民側の敗訴でしたが、第一次と重複しない内容で、新たに住民
訴訟を行うというものです。
各水系とも水需要が減少の一途を辿り、新規ダムによる水源開発の必要性がなくなっ
てきていることは動かしがたい事実になっています。
この住民監査請求は水余りがますます進行する状況を踏まえて、愛知県に設楽ダムか
らの撤退を再度求めるものです。
他のダム問題にも参考になりますので、「設楽ダムの建設中止を求める会」の市野和
夫さんのメールを転送します。

市野和夫さん(設楽ダムの建設中止を求める会)からのメール

3月14日に愛知県の監査委員に対して住民監査請求をしました。請求人は447名で、
3月末をめどに、
まだ増える予定です。請求が却下されれば訴訟を提起するべく、原告団の準備が進め
られています。
弁護団は在間団長を含めて8名です。

「愛知県の水道」統計2015/H27年(豊川水系フルプラン目標年)の東三河の上水
道給水実績のデータが
昨年3月16日付で愛知県のホームページに公表されました。実績値とフルプランの需
要想定との比較により、
設楽ダムに水道用水の水源を求める必要がないことが証明され、その後、ほぼ1年経
過してもダム使用権の
返上の動きがないことから、愛知県に対して設楽ダムに設定している水道用水のダム
使用権を返上すること
を求めました。
(特定多目的ダム・設楽ダムでは、都市用水のうち、水道用水のみが法律上の根拠と
なっているので、
水道用水使用権が取り下げられれば、設楽ダム基本計画が白紙に戻ります。)
また、この日(2017年3月16日)を起点にして、それ以降の費用負担の取り
消しを求めました。

第一回目の住民監査請求(一次訴訟)と重複する内容は認められないので、監査請
求の内容は、以上の
点に絞っています。

本体建設に入る前に、フルプランの目標年が過ぎて、ダム事業の根拠がないことが
明白になったわけです。
大村知事は、本体建設に入る前に中部地整と協議する意向を以前に表明しているの
で、本体建設を断る
正統な理由ができたものと思います。

監査請求の手続き後に記者発表を行いました。以下の三新聞が報じました。

 

■設楽ダム住民監査請求
設楽町で国が設置を進める設楽ダムについて、県による費用負担は違法などとし
て、建設反対の住民らが14日、公金支出差し止めなどを県に求める住民監査請求を
行った。反対派住民らは「昨年新たに出てきたデータから、県はダム事業から撤退す
べきだ」と主張。県監査委員が勧告しない場合、住民訴訟も検討するという。反対派
住民らは2007年、公金支出差し止め訴訟を起こしたが、14年に最高裁で敗訴が確定し
た。
(読売新聞 愛知 2018.3.15)

■設楽ダム建設 住民が監査請求 反対派440人

国が設楽町で建設している「設楽ダム」に反対する住民約440人は14日、昨年公表された上水道の給水実績が想定を下回り、ダムの必要性が失われたとして、国へのダム使用の申請を取り下げるよう大村秀章知事に求め住民監査請求をした。
住民らは過去に、知事などを相手に建設負担金の支出差し止めを求め提訴したが、2014年に敗訴が確定した。「ダムがなくても水が足りることが新たに裏付けられた」として監査結果を踏まえ、再び提訴を検討する。
住民によると、県は15年度に1日の最大需要が34万トンになると想定した。ダム建設で安定供給を図るとしたが、昨年3月に公表された15年度分の統計で給水実績は27万トンにとどまったという。

(毎日新聞 愛知 2018.3.16)https://mainichi.jp/articles/20180316/ddl/k23/040/114000c

 

ウナギに関して危惧するいくつかのこと(山本喜浩(東京鮎毛バリ釣り研究会会員))

2018年3月16日
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シラスウナギの歴史的不漁が深刻な問題になっています。ウナギやアユ等の生態について造詣の深い山本喜浩さんから論考「ウナギに関して危惧するいくつかのこと」をご寄稿いただきましたので、掲載します。ニホンウナギ、ヨーロッパウナギ、アメリカウナギも含めてウナギに関して一般に知られていない重要な事実が書かれていますので、是非、お読みください。

ウナギに関して危惧するいくつかのこと

             山本喜浩(東京鮎毛バリ釣り研究会会員)

~生態系の端っこにぶらさがっていました~
ウナギが不漁とメディアが騒いでいます。今頃になって乱獲のツケが回っただの、河川環境の悪化だの、鬼の首を捕ったがごときのもの云いです。ぼくは永いことアユとウナギにお付き合いを願ってきましたので、なにをいまさらと腹立たしいのは、みなさまと同じです。

 お付き合いとは、アユは子供の頃からの遊び仲間でした。お隣のお兄ちゃんと千曲川(長野県下、上山田温泉地の下流)でのアユのドブ釣り(毛鉤釣り)に夕暮れ時に出かけます。
ぼくが6歳、魚籠(びく)持ちです。お兄ちゃんに遅れまいと早足で7月の暮れなずむ土手道を付いていきます。当時も今もアユは漁協のお宝で、入漁券収入の招きネコです。その頃は日釣り券(入漁料の一日券)などなく年券でした。今のお金で3千円はしたでしょうか。
お兄ちゃんはこの3千円をけちって密漁です。近所のお兄ちゃんの3m下流に釣り座を構えます。人気のスポットに釣り人がずらりと並び、懐中電灯の明かりがちらほら灯りはじめ、すっかり闇が川面を包む頃がアユの入れ食いタイム。漁協の監視員にとっても入れ食いタイムです。年券を持っていない釣り人にはプラス千円のペナルティがついて4千円。この千円が監視員の懐にはいりますから、見回りにいやでも力が入ります。
カンテラ下げた監視員のお爺さんは上流からやってきます。「鑑札、見せてもらいます」と背中から釣り人に声を掛けます。釣り人は鑑札(年券)をちらりと見せます。ちらりです。入れ食いで忙しいからです。
近所のお兄ちゃんにも「鑑札を・・」の声が掛かります。近所のお兄ちゃんはチラリと鑑札を見せてから、背中の監視員を振り返り、「どうだい、上のほうではデッカイのが釣れているかい?」と声をかけ、監視員が指さされた上流に視線を移した瞬間に鑑札を水面に落とします。心臓が破裂しそうにドキドキしているぼくの目の前を木札の鑑札が流れ、ぼくのお兄ちゃんのサッと木札を拾う手が視界を横切りました。

 そうだった、あの頃はまだ、生態系の端っこにお兄ちゃんもぼくもぶら下がっていた・・いたのだなと、今になって思います。
ヒトが地球上の生態系の頂点から転がり落ちるというか、はじき出され、またはみずから飛び出して、妙な動物に変わってしまったのは19世紀末から20世紀初頭にかけてでしょうか。近代化の波は循環型の社会から大量生産、大量消費社会へと移行。
自然の中にごく普通に存在していたヒトは生態系の外へはみ出し、「自然を守ろう」などと妙なことを言い始めます。自然がヒトの外側に立ち現れたからです。

 木札のおかげで、3千円分のアユを密漁したお兄ちゃんとぼくの千曲川には、天然アユが黒い帯となって上ってきました。当然のことながら放流アユなどという奇妙なアユはいませんでした。サケやマスも上ってきました。サケやマスを遮る堰もすくなく、まだ手付かずの生態系が残っていたのです。
アユを釣りあげるという行為が辛うじて生態系の端っこにぶら下がっているかごときの錯覚を覚えさせます。釣り人が川に立ち込み陶然とするのはこの生態系に立ち返えったかのような疑似体験の幻覚です。
明治の文豪にして釣り人の幸田露伴がこのことを軽妙な筆致で描いています。
メルビルが1851年に書き下ろした「白鯨」のエイハブ船長は、地球上の生態系のど真ん中で巨大な自然の象徴と死闘を演じていました。
そしてヘミングウエーの老人は、すでに海の生態系に戻れなくなった20世紀漁師のシンボルでしょう。

~ウナギ 旅路のはてについて~
さてウナギです。ウナギとの本格的な付き合いは15年前、仕事で2年間ほどウナギを追いかけることになりました。アユのような牧歌的な話ではありません。ウナギの密漁組織の一端を明るみに出そうというテレビのドキュメンタリー番組の目論みでした。
その話のまえに、ちょっと現在のシラスウナギの不漁の謎解きに挑みましょう・・しょうと云ってもぼくはウナギの研究者ではありませんから、正直、見当はずれな推論の展開とあいなるやもしれません。
でも、好意的にお読みください。これは証拠データがないために、研究者が喉まで声がせりあがってきた思いを、ぼくが代弁していると思ってください。

 ウナギ(ニホンウナギ)の産卵場所はみさまご存知の通り、マリアナ諸島の西方、マリアナ海嶺(海底山脈)の上。北緯14度、東経142度の辺りです。
産卵は新月の2~3日前。水深は150~200m。闇夜に細い三日月がかすかに霞みます。なぜ新月なのか? 生まれた赤ちゃんが他魚に捕食されないように闇夜を選ぶのだろうと想像されています。また、ほぼ1億年前に深海魚から進化したウナギですから、光の差し込まない闇夜を選ぶのだろうとも推論されています。
出自が深海魚です。産卵のために利根川の河口を旅立ったウナギは昼間1000mもの深海に潜り、夜は100mまで浮かび黒潮に流されて、一端は黒潮の消滅点までくだります。そこからユーターンして2700㌔超の道のりをクネクネとマリアナ海域を目指します。なんでそんな遠方までわざわざ産卵に行くのよ、と声を掛けたくなりますが、とにかく、産卵場所だけは出自の思いでから抜けだせない ようです。いずれ進化してもっとラクチンな産卵場に移動するのかもしれません。
さて北緯14度、東経142度、新月の2~3日前、水深150~200mでしたね。実は、

 産卵場所にはもう一つ条件があります。塩分濃度の低い海域と塩分濃度の高い海域との東西にのびる境目、塩分フロント【注1】と呼ばれる場所が必要です。そのフロントの塩分濃度の低い海域(南側の赤道より)で産卵します。なぜウナギが塩分フロント近辺を選んで産卵するのか? 分かりません。分かりませんとは研究者にも分からないという意味です。
この塩分フロントはいつも北緯14度の同じ海域にできるわけではありません。エルニーニョが発生するとフロントが南に移動【注2】しやすいことが分かっていますが、エルニーニョに関係なく塩分フロントは移動します。この塩分フロントの移動にともなって産卵場所も移動するということが、大変に重要です。
ここまで書くと、ぼくが言いたいことがほぼ察しがついたことでしょう。そうです。産卵場所が北緯14度より南にずれると大変なことになります。
海流は風によって起きる風成循環(表層流)と塩分濃度の違いで起きる熱塩循環(深層海流)がありますが、卵から孵化したアユの仔魚は北東貿易風によって起きる北赤道海流に乗って西に流れます。
西に流れた北赤道海流は黒潮に飲み込まれ、昼は300m夜間100mほどの水面下を流れ極東に向かいます。そうです。これもまたみなさま御存じの通り、黒潮に飲まれない南側は反時計回りに反流して、ミンダナオ海流にと分かれます。

ニホンウナギの産卵場所が、もし南に1度(110㌔)ずれて北緯13度、東経142度であったならば、仔魚はミンダナオ海流に向かい、死滅回流を旅することになってしまいます。

(*上図の産卵場所の赤●が南にずれると死滅回流に。図は東京大学・大気海洋研究所より)

・・なってしまいます。と書きましたが、ぼくは死滅海流に向かってしまったのだ! と思います。 今回のシラスウナギ大不漁は、他の要因では説明が難しくなるからです。
過去の不漁で何度か海流原因説が囁かれました。5年前の2013年もシラスウナギが不漁。この年はエルニーニョが発生、これが原因だろうと言われていました。
2017年はどうでしょう。エルニーニョは発生していません。ラニーニャの年でした。しかし、何らかの海洋変異の影響で塩分フロントが南に大きく移動、大半の仔魚が死滅回流に向かってしまったのではないでしょうか。
ウナギの絶対量が多くて産卵場所も広く、産卵期も長く続いた時には、塩分フロント移動の影響で大不漁ということはあまり起きなかったはずです。絶対数の減少はちょっとした海洋変異で絶滅危惧にみまわれます。
もしも産卵期が遅れていただけで、これから続々とシラスウナギが接岸してくれるなら、こんな推論はただの杞憂だったと、笑い話で終わります。そうなってほしいものですが・・

【注1】 塩分フロント: 北太平洋の中緯度域は表面水温が高いため、海水の蒸発が盛んで塩分濃度が高くなります。蒸発した水分は積乱雲を形成、その積乱雲が低緯度域に流れて降雨となり、低緯度域の塩分濃度を低くします。濃度の境目「塩分フロント」の位置は北緯11~16度付近を変動しています。

【注2】南に移動する:エルニーニョが発生すると降雨の源となる積乱雲が東へ
と移動するために塩分フロントは南側に移動します。

~不漁がまきおこす不都合なこと~
原因がなんであれ、シラスウナギの不漁は密漁に拍車をかけます。4年前にドンブリ一杯100万円だったものが今年は300万円以上するのではないでしょうか。世界中のシラスウナギの値段は日本の価格に連動して高騰します。
そうです。世界中の零細漁民が密漁に走ります。
新聞各紙はこの夏の土用の丑の日は大丈夫だが、来年(2019年)の夏はウナギが食べられないかもしれないと報じていますが、そんなことはありません。来年も再来年も夏になるとスーパーや牛丼店にウナギがニョロ~っと登場します。怖しいことですが、世界中の密漁ウナギが日本に集められるからです。

(原図は米のウナギ研究者Willem Kepper氏作成のグラフより)

上の図を見て、1980年頃からヨーロッパとアメリカの河川環境が日本と同様に悪化したと思いますか? 違いますよね。 日本に輸出、また密輸するためにウナギが乱獲された結果です。1980年代日本人は多い時には世界の80%のウナギを食べ、現在まで世界のほぼ70%のウナギを食べ続けてきたと言われています。
その結果2009年にヨーロッパウナギは絶滅危惧種に。2014年に日本ウナギが絶滅危惧種に国際自然保護連合(IUCN)から指定されました。
この図にはアジアの熱帯ウナギの資源量がグラフ化されていません。なぜでしょう? 答えは簡単明瞭、なんのデータもないからです。

 15年前(2003年)に、追いかけたのはウナギの密漁シンジケートでした。 密漁と書くと、決まってソニー・ロリンズの大ヒット曲「Airegin」【注3】の出だしのメロディーが耳奥を駆けあがります。
最初に白状しておきます。密漁組織の実像をカメラの前で喋ってくれる人間を捕まえられずに、ただのウナギ漁の番組を2本作って終わりました。しかしその取材で分かったことは、アジアのウナギシンジケートの拠点は香港にあり、主にヨーロッパとアジアの密漁シラスウナギを香港に集め、多くは中国大陸に送られ中国で蓄養されていました。残りは日本に流れてきたようです。
この時、シンジケートを牛耳っていたのはナイジェリア・マフィア【注4】でした。ナイジェリア人は日本、台湾、中国に配下を置き、配下のナイジェリア人はその国の女性を妻にして国籍を取得。きちんとした商社を設け。立派なビジネスマンの顔を持っています。
日本在住のナイジェリア人に関しては、2008年に出版された岩波新書「アフリカレポート壊れる国、生きる人々」【注6】にきちんと描かれています。
2003年頃、実はウナギよりもアワビ、ツバメの巣、ナマコの密漁が中心でした。これらはすべて中国人の胃袋に流れ込んでいました。

【注3】「Airegin」: ソニー・ロリンズの祖祖父がナイジェリア出身だったことから、曲想がうまれた曲です。Aireginを逆から読んでください。Nigeriaになります。曲の出だしがいきなりサビから始まるようなモダンジャズの名曲。聴けばみなさんご存知のはずです。

【注4】ナイジェリア・マフィア: 第2次大戦終結に伴い、インドやビルマから帰還した兵士が大麻の種子を持ち帰り、大麻栽培が盛んになります。その後、ナイジェリアは中南米からのコカイン、ヘロインをヨーロッパとアメリカへ密輸する国際的な麻薬取引の中継地の役割を担い。ナイジェリア・アマフィアが誕生しました。現在、香港を牛耳っているかどうかは不明です。しかし、これだけ世界のウナギ資源が枯渇すると世界のウナギ密漁シンジケートはすべて繋がっていることでしょう。

【注5】松本仁一著、「アフリカレポート壊れる国、生きる人々」岩波新書:にはウナギの密漁は書かれていません。確か南アフリカからのアワビの密輸ルートなどを暴いていたと思います。それと日本人と結婚して家庭を持ち、シンジケートを支える独特のナイジェリア人マフィア社会を活写しています。

 2003年当時、日本に入ってきたウナギはニホンウナギ(台湾や中国産)、ヨーロッパウナギ、アメリカウナギ、そしてアジアの熱帯ウナギの4種でした。
この中でもっとも多かったのはヨーロッパウナギです。スーパーの棚にパック詰めされたウナギのかば焼きが大量に出回り始めた時代でもあります。
1990年代に日本人が食べていたウナギの半分はヨーロッパウナギでした。2009年にワシントン条約付属書Ⅱに指定されましたが、それでも日本にヨーロッパウナギは入ってきます。ワシントン条約付属書Ⅱはパンダやゴリラほど厳格な輸出入規制を受けません。管理当局の許可書があれば輸出が認められます。偽造された許可書が添えられて密漁ウナギが流れこみ続けたのです。
2010年、EU加盟12ヶ国はウナギの輸出を全面禁止しました。それでもEU非加盟国を経由した密漁ウナギが香港経由で入り続けています。
現在、ヨーロッパウナギは1980年時の資源量のたった5%ほどまで激減しました。ほぼ95%を私たちが食べてしまったのです。
アメリカウナギがヨーロッパウナギの衰退を補うごとく入ってきます。アメリカ人はウナギを食べません。ウナギに無関心【注5】。しかしシラスウナギが沿岸の白いダイヤだと知って、もっぱら日本人の胃袋の愉悦のために乱獲され続けています。
現在日本産のシラスウナギの6割は密漁されたもので、日本に輸入されていシラスウナギのほぼ7割が密漁ウナギであると、中央大学法学部ウナギ保全研究ユニット・Kaifu Lab【注6】に記載されています。
とにかく、わたしたちはモンスター級のイールイーターなのです。

【注5】ウナギに無関心: 多くの州でウナギの輸出規制をしているが、密漁の取締にもあまり関心がない。アメリカウナギに関しては米のジャーナリスト・ジェイムス・ブロッセック著「ウナギと人間」(2016年築地書館)にアメリカのウナギ漁師が詳しくルポルタージュされています。

【注6】Kaihu Lab: ウナギの密漁に関して2015年現在の状態が記載されています。http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~kaifu/5igr.html

~危惧されるウナギとわたしたちのかかわり~
先の折れ線グラフにアジアの熱帯ウナギ【注7】の資源量が入っていませんでした。なんのデータもないからです。しかし現在アジアの熱帯ウナギがヨーロッパ、アメリカ,ニホンウナギの凋落とともに、その代替えウナギとして特にビガーラウナギ【注8】が注目され、渉猟され、乱獲されています。
乱獲のターゲットにされている国は主にフィリピンとインドネシア。その漁場は2万を超える大小の島々です。
インドネシアは150グラム以下のウナギ稚魚の輸出を禁止しています。いますが、1万3千を超える島々の密漁・密輸を捕捉するのは不可能です。今後アジアのあらゆる国のウナギが乱獲されていくでしょう。焼畑農業的な捕りつくしが危惧されます。

東南アジアの島々の零細漁民は持続可能な生態系のなかで漁をして暮らしています。密漁に走ることによって彼らは大量消費社会に巻き込まれます。地域の資源を食いつぶす行為は生態系からいやでもはみ出し、その労働は地域社会から疎外される孤独な行為になりはてるでしょう。
零細であることは貧しいことではありません。持続可能な漁を営むことは多様な自然との交流がある豊かな生活の営みです。

私たちが利根川水系のウナギの保全、増殖に傾注することはアジアのウナギを守り、アジアの零細漁民と連帯することに繋がります。日本のウナギ資源の枯渇がアジアのウナギ資源の収奪になってははかないことです。

【注7】熱帯ウナギ: ビガーラウナギ、ボルネオウナギ、セレベスウナギなど10種類ものウナギがいます。食品加工されたらニホンウナギと区別できません。いずれも産卵場所は不明。海洋開発研究機構が調査船を出して産卵場所を探していますが、これはウナギを食い尽くす日本人のエクスキューズ調査と言われても仕方がないでしょう。

【注8】ビガーラウナギ:グリンピース・ジャパンがインドネシアのビーガラ種の捕りたい放題の乱獲を告白。また、日本の大手商社と大手スーパーがインドネシアに養殖加工場を設け、インドネシア中のビーガラ種を集めていることを危惧しています。 グリンピース・ジャパンのHP「代替えウナギも赤信号・インドネシアからの報告」に詳細リポートが記載されています。http://www.greenpeace.org/japan/ja/campaign/ocean/seafood/SaveUnagi/report3/#report

2018・3・4記

荒川中流部に巨大な第二・第三調節池を造る事業

2018年3月15日
カテゴリー:

3月5日、国土交通省の社会資本整備審議会・河川分科会・事業評価小委員会が開かれました。

主たる議題は埼玉と東京を流れる荒川の中流部に荒川第二・第三調節池を造る事業の新規事業採択評価でした。

この委員会の配布資料が国土交通省のHPに掲載されました。
http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/r-jigyouhyouka/dai10kai/index.html

資料2 荒川直轄河川改修事業(荒川第二・三調節池) 新規事業採択時評価 説明資料
http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/shaseishin/kasenbunkakai/shouiinkai/r-jigyouhyouka/dai10kai/pdf/2-1.shiryou.pdf

2016年3月策定の荒川水系河川整備計画に荒川第二・第三・第四調節池を造る計画が盛り込まれました。彩湖がある既設の第一調節池の上流に治水専用の調節池を三つも造ろうというものです。

今回の新規事業採択評価はこのうちの荒川第二・第三調節池に関するものでした。
13年間かけて荒川中流部の非常に広い河川敷に長い堤防を築き、池内の掘削を行って洪水調節池をつくろうというものです。総事業費は約1,670億円となっています。

荒川上流では新規のダム事業が中止されており、それに代わる大型河川事業としてこの荒川調節池の事業が具体化してきたと考えられます。

しかし、荒川第二・三調節池はこのような巨額の公費を投じるだけの意味がある事業なのでしょうか。荒川には他に優先すべき治水対策があります。

荒川で最も心配されているのは、下流部の鉄道や道路の橋梁付近の堤防が周辺よりぐっと低くなっていて、大洪水時にはそこから市街地に荒川の洪水があふれてくることです。
荒川下流部は高い堤防が整備されていますが、過去に地盤沈下が進行しました。堤防は沈下に対応する嵩上げ工事が行われてきましたが、鉄道や道路の橋梁部分は別です。橋梁部分の堤防を嵩上げするためには、橋梁とともにそれにつながる鉄道や道路も高くする必要があり、巨額の費用がかかるので、後回しにされてきました。必要性が定かではない荒川第二・第三調節池の事業よりも、これらの橋梁の架け替え工事を急ぐべきではないでしょうか。

3月6日の国土交通省・水資源開発分科会 役割が終わったフルプランの延命策

2018年3月15日
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3月6日、国土交通省で国土審議会第18回水資源開発分科会が開かれました。その配布資料が国土交通省のHPに掲載されました。

第18回 水資源開発分科会 配付資料  www.mlit.go.jp/policy/shingikai/water02_sg_000078.html

00_議事次第・配付資料一覧
01_(資料1)分科会委員名簿
02_(資料2)変更の進め方について
03-1_(資料3-1)次期水資源開発基本計画策定に当たっての検討事項(一覧表)
03-2_(資料3-2)次期水資源開発基本計画策定に当たっての検討事項(説明用資料)
04-1_(資料4-1)水資源開発基本計画の一部変更(案)(新旧対照表)
04-2_(資料4-2)一部変更について

この水資源開発分科会は水資源開発基本計画(フルプラン)の延命策を審議するものでした。

フルプランは利根川・荒川・豊川・木曽川・淀川・吉野川・筑後川の7水系について水需給計画をつくり、ダム等の水源開発事業が利水面で必要であることを示すものです。利水面でのダム等水源開発事業の上位計画になります。

しかし、水需要が減少の一途をたどり、水余りが一層進行していく時代において水需給計画で新規のダム等水源開発事業を位置づけることが困難になってきました。

これらの指定水系では、八ッ場ダム、思川開発、霞ケ浦導水事業、設楽ダム、川上ダム、天ヶ瀬ダム再開発、小石原川ダムといった事業が進められ、木曽川水系連絡導水路が計画されています。

国土交通省、水資源機構はこれらの事業を何としても推進するため、「リスク管理型の水の安定供給」が必要であるなどの新たな理由をつけて、これらの事業をフルプランに位置付けることを考えました

今回の水資源開発分科会はこのフルプランの延命策を審議するものでした。

例えば、資料のうち、
03-1_(資料3-1)次期水資源開発基本計画策定に当たっての検討事項(一覧表) http://www.mlit.go.jp/common/001224391.pdf を見ると、次のように書いてあります。

水需給バランスの総合的な点検

不確定要素を考慮した需要量の見通し・供給可能量の検討
① 水需要予測
② 安定供給可能量の点検
▷ 10箇年第1位相当の渇水年の安定供給可能量
▷ 既往最大級渇水年の安定供給可能量

リスク管理の視点による評価
▷ 起こり得る渇水リスクを幅広に想定した評価
▷ 実際に発生した渇水を対象として水資源開発施設の効果検証

従来の水需給計画では新規の水源開発事業の必要性がなくなっても、万が一の大渇水等のリスクに備えるために、上記の水源開発事業が必要だとするために、各水系のフルプランを変更していくというものです。

水需要減少の時代においてフルプランはその役割が終わっているのですから、フルプランを廃止し、新規のダム等事業は利水面の必要性がなくなったことを明言すべきなのですが、国土交通省はフルプランの延命策を図っています。困ったものです。

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