水源連:Japan River Keeper Alliance

水源開発問題全国連絡会は、ダム建設などと闘う全国の仲間たちのネットワークです

ホーム > ニュース

ニュース

水源連の最新ニュース

既設ダムの定期検査(富士川水系の雨畑ダム)

2019年9月11日
カテゴリー:

既設ダムは国土交通省が定期検査が行っています。
検査は、3 年に 1 回以上の頻度で実施することを基本としています。

ダム定期検査の手引きはhttps://www.mlit.go.jp/river/shishin_guideline/dam/07.
pdf
のとおりです。

総合判定として、
A 直ちに改善の措置が必要である。
B 一部問題はあるが、全体的な問題はない。
C 全体的に問題はない。

の判定が行われるのですが、その判定をするだけというのが実態のようです。

今回、関東地方整備局への情報公開請求で、日本軽金属・雨畑ダムの定期検査結果を
入手しましたので、参考までにお送りします。
雨畑ダム定期検査結果2019年5月の通りです。

雨畑ダムは総貯水容量の93~95%が土砂で埋まっており、末期的な状況にあります。

この凄まじい堆砂によってダム上流域に氾濫地帯がつくられ、一方で、早川・富士川
の濁りが進行しています。

ところが、雨畑ダムの定期検査結果を見ると、下記の指摘・判定があるだけで、抜本
的な改善をいつまでに実施することを求めるというものではありません。
指摘を受けて改善措置を直ちに取らなくても、ペナルティはないようなので、毎回、
指摘を受けてもそのまま、ずるずる来ていて、今年になって初めて問題が顕在化した
ようです。
何とも、頼りにならない既設ダムの定期検査です。

雨畑ダムの定期検査結果(2019年5月30日)
○指摘事項(a判定の場合)
貯水池の堆砂の状態:a
堆砂により上流部の河床が上昇しており、洪水被害が発生していることから、前回
に引き続きa判定とする。抜本的な解決に向け、堆砂対策の計画をとりまとめ、計画
的に取組をすすめること。
また、変形(変位)等の計測結果に異常は見られなかったものの、堆砂量が堆砂容量
を超過しているため、安定計算等によりダム堤体への影響や放流設備の機能について
検討すること。

総合判定
A :ダムの安全性及び機能への影響が認められ、直ちに措置を講じる必要がある。
(a判定とした検査箇所がある。)

収用明渡裁決の取消を求める審査請求書と収用明渡裁決の執行停止を求める審査請求書 の修正版

2019年9月5日
カテゴリー:

修正版を掲載します。

8月10日に国土交通省に提出した「収用明渡裁決の取消を求める審査請求書 補充版」と「収用明渡裁決の執行停止を求める審査請求書」ですが、誤植・不適切な表現・説明不足等がありましたので、それらの修正版を紙面で国土交通大臣に提出します。

それら修正版とそれぞれの正誤表の電子データを、下に掲載しましたので、ご覧ください。

修正版と正誤表

収用明渡裁決の取り消しを求める審査請求書 修正版  20190905
収用明渡裁決取消しを求める審査請求書正誤表     20190905

執行停止申立書(収用明渡裁決取消を求める審査請求)修正版 20190904  20190905
執行停止申立書正誤表      20190905

 

 

 

雨畑ダム堆砂「全撤去は困難」 日軽金、検討会開催

2019年9月4日
カテゴリー:

駿河湾のサクラエビ不漁とダム上流域の氾濫地帯形成で問題視されている日本軽金属・雨畑ダムの堆砂問題について国など関係機関による検討会が9月3日、開かれました。その記事とニュースを掲載します。

雨畑ダム堆砂「全撤去は困難」 日軽金、検討会開催
(静岡新聞2019/9/4 07:16) https://www.at-s.com/sp/news/article/politics/shizuoka/677081.html

(写真)「雨畑地区土砂対策検討会」の初会合の冒頭、国や地元自治体関係者に対し雨畑ダムの堆砂状況について陳謝する日本軽金属蒲原製造所の敷根功所長(中央)=3日午後、山梨県庁

駿河湾サクラエビの不漁を受け静岡、山梨両県が濁りの実態調査を進める雨畑ダム(山梨県早川町)で堆砂が深刻化し、水害が頻発している問題で、ダムを管理する日本軽金属は3日、対策を協議する検討会の初会合を山梨県庁で開いた。同社は会議後、土砂の全部撤去の案は困難と説明。「どの程度の土砂を出さなければならないのかを国などの意見を聞き決めたい」と述べ、問題の長期化を示唆した。
国は8月の行政指導で堆砂問題の「抜本的解決」を求めている。出席した国土交通省の担当者は「日軽金には可及的速やかな計画書の提出を求めたい」と注文した。
会合は非公開。同社蒲原製造所(静岡市清水区)の幹部と国交省、山梨県、早川町の関係者ら20人程度が出席した。冒頭、同製造所の敷根功所長=執行役員=が「昨年より早川町では浸水被害を発生させてしまい、誠に申し訳ない」と陳謝した。
終了後、取材に応じた同社関係者によると、会議では山梨県の指導で8月から実施している、ダム上流の雨畑川の河道の掘削や土のうの積み上げなどの応急措置について最初に説明。その後、約1300万立方メートルに上る堆砂の抜本的解決について話し合ったが、具体的方法や数値目標にまで議論は及ばなかったという。
敷根所長は「(出席者からは)『どこまで覚悟があるのか』ということも含め質問があった」と述べた。

■抜本的対策「決めかねる」 日軽金執行役員一問一答
雨畑ダムの堆砂率は約93・4%(2016年度)で、全国の中規模以上のダム約500カ所の中で最悪の状況だ。
堆砂は富士川水系の濁りの一因になっているとみられている。
3日に山梨県庁で開かれた雨畑地区土砂対策検討会後、日本軽金属蒲原製造所長の敷根功執行役員は国や同県などから抜本的な対策を求められていることに対し、「決めかねる」とした。

敷根氏との一問一答は次の通り。
―国から求められた「抜本的解決」の内容は。
「撤去量については現実的な対策案を作らなければならない。全部撤去となると恐らく現実的な案を出せないと思う。どの程度の土砂を出さなければならないのかを国などの意見を聞き決めたい」
―いつまでに出すのか。
「(国の行政指導の内容は)結構ハードルの高い内容。関係機関との調整もあり、今の時点で策定のスケジュールは言えない。基本的には日軽金が責任を持って中身を策定するということになる」
―初会合では国や山梨県からどんな意見が出たのか。
「われわれがどれくらい(土砂を)取ればいいのかということについて、正直決めかねるところもある。それに対して『どこまで覚悟があるのか』ということも含めていろいろな意見は出た」
―具体的には。
「『抜本的な対策』というところで言うと、われわれが認識している『抜本的』とのすり合わせ。どこまでを目標にするか、というところ。まだ何も決まっていないので言えないが『今後目標を決めていかなければならない』という意見も出た」


およそ9割が土砂で埋まり浸水被害も 土砂堆積のダム 初の対策検討会

(テレビ山梨 2019/9/3(火) 19:51配信) https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190903-00000001-utyv-l19

山梨県早川町の雨畑ダムに大量の土砂が堆積し、上流地域で水害が起きている問題で対策検討会が発足しました。
ダムを管理する会社が中心となり、国や県などを交え抜本的な解決を目指します。
早川町の雨畑ダムは、およそ9割が土砂で埋まり上流の雨畑川で河床が上昇。
周辺では大雨の際、浸水被害があり国は8月13日、対策の計画をまとめ報告するよう求めました。
これを受けてダムを管理する日本軽金属は9月3日、抜本的な解決に向けて国と山梨県、それに地元、早川町を交えた対策検討会を設けました。
話し合いは、冒頭を除いて非公開で行われましたが、日本軽金属によりますと堆積した土砂をどの程度まで減らすか、具体的な目標を設定して進めていくことなどを決めたということです。
日本軽金属ではこの検討会の意見を参考に責任持って対策計画を策定するとしています。
なお、雨畑ダムは国の定期検査において2014年から4回連続で「直ちに改善が必要」とされていましたが、これまで抜本的な対策が図られていませんでした。


雨畑ダム堆砂、3日に検討会 日軽金、国などに参加求める

(静岡新聞 2019/9/3(火) 7:30) https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190903-00000008-at_s-l22

 駿河湾サクラエビの不漁を受け静岡、山梨両県が濁りの実態調査を進める雨畑ダム(山梨県早川町)の堆砂率が9割を超え、周辺で水害が頻発している問題で、ダムを管理する日本軽金属(東京都)は2日、国など関係機関と対策について話し合う検討会を設置、初会合を3日に山梨県庁で開くと発表した。
ダムを監督する国土交通省の担当者は取材に対し「日軽金側は堆砂問題の責任を認めている」と明らかにした。

国交省は8月、日軽金に問題の抜本解決を求める行政指導をしていて、検討会設置はそれを受けた対応の一環。
由比港漁協(静岡市清水区)の関係者がダムを視察するなど、ダムを起点とする同社の水力発電用導水管を経て駿河湾に強い濁りが注いでいる問題を危惧する向きが広がっている。

検討会の名称は「雨畑地区土砂対策検討会」で、国や山梨県などに参加を求めた。
同社蒲原製造所(同)は設置の理由について「2014年より4回実施されている(国の)検査結果が連続して(3段階のうち最も深刻なレベルの)A判定を受けているため」と説明。国交省によると、「A判定」は「直ちに改善措置が必要」な段階とされる。

ダムのある早川水系の濁りの実態調査を静岡県と合同で行う山梨県幹部の一人は「膨大な堆積土砂の処理をどのように行うかを検討する過程で、水質などの環境も議論することになるのでは」と述べた。

国交省の担当者は「堆砂の処理方法など日軽金が国に対して問題の抜本的解決に向けた計画書を提出するに当たり、技術的な助言を求める場と解釈している」とした。
その上で「元来、周辺の土砂流入が極めて多い地域で、ダムをこの先どのように維持するかはひとえに日軽金サイドの経営判断となる」と解説した。

大井川とリニア どうなる「水の恵み」、流域の歴史・歩み・思い

2019年9月1日
カテゴリー:

リニア中央新幹線の南アルプストンネル工事に伴う大井川流量減少問題について、静岡新聞9月1日の記事を掲載します。
大井川は発電用水の大量取水で農家や漁協が長年悩まされ続けてきた川です。この記事はその過去の経過も振り返った力作です。
今から30年以上前のことですが、当時活動していた「河川・湖沼を守る全国会議」の一員として現地に行ったことがあります(嶋津)。
塩郷ダム(塩郷堰堤)の下流は河原砂漠になっていました。大井川は土砂の供給量が非常に大きい川で、中流部は砂礫の河川敷が大きく広がっていて、わずかな流量は砂礫の河床面より下を流れていました。
その後、地元住民らの「水返せ運動」により、1989年、一定量の水を戻すことを中部電力に認めさせました。それから30年経ち、水利権の更新時期になり、国と中電の協議が行われています。


大井川とリニア どうなる「水の恵み」、流域の歴史・歩み・思い

(静岡新聞2019/9/1 11:30)https://www.at-s.com/news/article/topics/shizuoka/674793.html

(写真)大井川最上流部に位置する田代ダム(手前)。数キロ先にリニアのトンネルが計画されている=8月中旬、静岡市葵区(静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」から)
(地図)大井川流域 主なダム、用水

大井川の水は守れるのか―。JR東海が建設するリニア中央新幹線の南アルプストンネル工事で、トンネル内に湧き出る水の扱いを巡って同社と静岡県の対立が続いている。県の求めに応じ湧水全量を大井川に戻すとした同社だったが、ここに来てトンネルを掘り進む一定期間、全量は戻せないと表明。流域住民に困惑が広がった。流域は昔から水不足に苦しみ、国策として進められた水力発電所の開発にも翻弄(ほんろう)されてきた。その歴史を振り返り「水の恵み」について考えた。

 ■生活、産業にフル活用 少量減でも募る懸念
8月25日、静岡新聞社ヘリ「ジェリコ1号」で大井川を上流から下流へとたどった。見えてきたのは、限られた水を生活や産業にフル活用する流域の営みだ。全長168キロの大井川は本県最北端の間ノ岳(3190メートル)を起点とする。トンネルはその10キロほど下流で源流部の地下を貫通する。手つかずの自然が残る山肌を流れる何本もの青白い沢筋。上空から見ても水量は豊かで、多様な生態系を支えている様子がうかがえる。
全国有数の急流河川は高低差を利用した「水力発電に最適」(電力関係者)で、明治時代から開発が進んだ。トンネル計画区間のすぐ下流にある田代ダムは1928年に運転が始まった、大井川に現存する最も古いダムだ。たまった水の一部は発電用に導水路を通じて富士川に流れ出る。
さらに南下すると畑薙第一、第二、井川ダムが見えてきた。昭和30年代に完成し、電力を供給して戦後の高度経済成長を支えた。ただ、堆積する土砂が増え、渇水時に水量を調整するダムの能力低下が懸念される。井川ダムより下流は発電の効率化で導水管により水を送るため、河原を流れる水の量が少なくなる。流域のダム14カ所と水力発電所20カ所は、経済成長へと突っ走った「国策」の歴史を象徴している。
ヘリは下流域に到達した。左岸は水がしみ込みやすい「ザル田」と呼ばれる土壌の地域。牧之原台地が広がる右岸は水不足に悩まされ続け、江戸時代などに造られたため池が400カ所以上もある。発電に使われた水は中部電力川口発電所(島田市)の取水口を起点に志太榛原や小笠地域の家庭、田畑、工場で再び利用される。
(写真)河原で砂利の堆積状況など大井川の変化を説明する「大井川を再生する会」のメンバー=8月上旬、川根本町
(写真)日本道路公団が茶園への引水のため設けたポンプ施設。実際に茶園に水を届けることなく老朽化した=8月下旬、掛川市倉真

別の日、掛川市のトマト農家笠原弘孝さん(46)を取材した。大井川の流量減少問題について聞くと「水が数日間供給されないだけでトマトは駄目になる。水源の水が減るのは大きな不安だ」と語った。用水は工業にも活用され、スズキ相良工場(牧之原市)をはじめ、自動車部品や化学製品などの工場に安価な水を届ける。東遠工業用水道企業団の大石良治事務局長は「大井川のおかげで水源の乏しい地域に企業を誘致できるようになった。恵みの水だ」と強調した。

 ■渇水頻発 節水が長期化 気候変動で調整難しく
大井川は近年、渇水が頻発し、水利用者に求められる節水が長期化する傾向がみられる。直近では昨年12月から今年5月にかけ147日間に及んだ。複数の利水関係者は「気候変動で降水量に偏りが出ていて、水量の調整が難しくなっている」と背景を指摘する。
1994年は節水率が50%に達し、牧之原台地の茶が枯れ、もえぎ色の茶葉が赤く染まった。利水関係者は、リニアのトンネル工事で流量が減り、降水量減少など条件が重なれば同じ事態が起こりかねないと気をもむ。
工場は年間を通じて水を使うため、節水は企業の生産活動をも左右しかねない。渇水が深刻化すれば志太榛原、小笠地域の62万人の上水道にも影響が及ぶ。

 ■「水返せ」の思い今も 「本来の機能失った」
「昔は毎日のように川で泳いでいた。当時に比べて数メートルは河床が上がっている」
奥大井観光の拠点としてにぎわう川根本町の大井川鉄道千頭駅付近。蛇行する大井川の流れと対岸に堆積した砂利を眺めながら、大井川を再生する会の殿岡邦吉さん(70)がつぶやいた。少年時代に岩から飛び込んだという淵は消え、支流から流れ込む土砂の堆積も進む。「今の大井川は本来の川の機能を失ってしまった」
明治時代から水力発電所が次々と建設され、表流水がやせ細っていった大井川。上流からの水は導水管に消え、発電を繰り返しながら最下流部の中部電力川口発電所(島田市)へと届けられる。塩郷堰(えん)堤が完成すると下流部は「河原砂漠」と化し、一方の上流部は土砂の堆積や水害が問題化。旧川根3町(本川根、中川根、川根)では1980年代後半、官民による「水返せ運動」が熱を帯び、デモ行進や河川敷での決起集会につながった。再生する会の会員の多くは、運動を後押しした青年組織「モアラブ川根」の元メンバーだ。

運動は国も動かし、発電ダムの水利権更新に合わせた河川維持流量の確保が求められるように。中電との厳しい交渉の末、水利権の更新年だった89年、塩郷堰堤から毎秒3トン(冬場以外は同5トン)の放流が決定。運動の舞台は源流部に位置する田代ダムに移り、2006年の水利権更新に合わせて山梨県側の富士川水系に流れ出ていた水の一部を取り戻した。
全国にも影響を与えた運動から30年が経過したが、再生する会は「大井川の環境は決して良くなっていない」と危機感を抱く。19年の水利権更新を前に活動を再開し、当面は、水の濁りと土砂堆積▽塩郷ダムの利用▽魚道の改善-などをテーマに研究を続ける方針だ。
久野孝史会長(69)は電源開発という「国策」に翻弄(ほんろう)されたかつての水問題と、リニア中央新幹線工事に伴う流量減少問題を重ねつつ、「水問題は今始まったことではない。下流域での利用状況を含め、改めて大井川の環境を考えるべき」と強調する。
流量に加えて水質の変化を懸念するのは新大井川漁協の鈴木捷博組合長(76)だ。「ダム建設当時は皆、水がなくなることや濁水への危機感がなかったはず」と自戒を込める。「(リニア工事に)慎重に対応してほしいと思うのが当然。アユやウナギの遡上(そじょう)も見られなくなった川を、少しでも昔の姿に戻してあげたい」と願う。

■土砂堆積、流下能力低下
急峻(きゅうしゅん)な地形や多雨により土砂の供給が活発な大井川では、ダムの堆砂が進行し、利水能力の低下や河床の上昇などへの対応が課題となっている。
国土交通省中部地方整備局と流域自治体、電力会社などでつくる協議会が策定中の「大井川流砂系総合土砂管理計画」の素案によると、流砂系内のダム15基(塩郷堰堤を含む)のうち3カ所は満砂に近く、そのほかのダムでも、半数で堆砂率が50%超。長尾川合流点付近(川根本町)から上流約20キロ区間では、河床高が計画河床高と比較して1~2メートル程度高く(2015年時点)、「流下能力が著しく低い区間」とされた。
同区間を含む県管理区間では民間による砂利採取を進めるが、09年以降は骨材需要減などで進まず、目標値を下回る。上流部は特に進んでいないのが現状だ。

 ■大井川の「水返せ運動」の歴史
1960年 塩郷堰堤が完成、川口発電所への送水開始。下流で水枯れ、上流では堆砂などが問題となる
85年 川根3町による陳情や要望が活発化
88年 塩郷堰堤からの放流を求め、河川敷での住民集会やデモ行進を実施
89年 水利権更新、通年放流量毎秒3トンを義務付け(県、中電の覚書で冬場以外は同5トンを放流)
97年 河川法改正。河川環境の整備・保護の観点が加わる
2000年 大井川流域8町(当時)の首長らが「大井川の清流を守る研究協議会」を結成
03年 国や県、流域市町と電力会社による「大井川水利流量調整協議会」が設立
05年 田代ダムからの河川維持流量を毎秒0.43~1.49トンとすることで合意

■新東名で水枯れの教訓 茶業者「補償ルールを」
リニア中央新幹線建設に伴う大井川の流量減少問題では、流域の水資源に影響が出た場合の補償の在り方も焦点になっている。20年前、その教訓になりそうな事態が掛川市で起きていた。
新東名高速道建設中の1999年、掛川市の粟ケ岳トンネル工事中に出水が発生した。間もなく周辺の倉真地区で農業用水を採る沢が枯れ、東山地区では地下水を源とする簡易水道が断水した。
「切れたことのない沢が突然、2キロくらいの範囲で干上がった。驚いたし困ったよ」
粟ケ岳北麓で沢の水を使って茶園を営んでいた60代の男性は、当時のショックを振り返る。
着工前、日本道路公団(現中日本高速道路)の説明会が開かれたが「水枯れの可能性の話はなかった」と男性。断水後、地区の要望を受けた公団は、トンネル内の止水工事に加えて別の川から茶園へ約2キロの引水管路と中継ポンプを設ける補償的措置で応じた。
ただ、完成した管路は水が出ず、男性は不具合を訴えたが結局1度も使えなかったという。止水の効果も限定的で、男性は水を確保する負担と茶価安から生産を断念。金銭補償を求めて5年ほどたった昨年、中日本高速道路とようやく補償が成立した。
男性は「条件が提示され、交渉の余地はなかった。事前に補償のルールを決めていれば対応が違っていたはずだ」と悔やむ。
倉真地区では観光名所「松葉の滝」も一時水が絶えた。止水などで水量は3割ほど戻ったが、市や地区区長会は当初から完全回復を求めて要望を続けている。中日本高速道路は「経済的損害がないため対策はできない」との立場で、協議は長年、平行線のままだ。
地区役員の横地静雄さんは「滝はハイキングコースの目玉。何とか水量を戻したい。このまま協議打ち切りでは困る」と語気を強める。リニア中央新幹線の工事に対しても「補償の決めごとなしに工事をすべきでない」と粟ケ岳の苦い教訓が生かされるよう願う。
大井川水系の利水自治体は10市町。地中の水脈は複雑、広域に入り組んでいる。特に扇状地が広がる左岸は多くの工場や家庭が伏流水に依存しているだけに、南アルプストンネル工事に伴う水脈の変化がどのような影響を及ぼすか、影響と工事との因果関係は立証できるのか、有識者の間に懸念の声が目立つ。
松井三郎掛川市長は「水量、水質に影響が出た場合の補償の確約がなければ工事は認められない」と、地元の立場を強く訴えた。

■「丹那」も対応に苦慮
トンネル工事を巡る補償問題は全国各地で発生し、被害を受けた住民が対応に苦慮した事例は多い。県内では約100年前の東海道線丹那トンネル工事に伴う水枯れが有名だ。
函南町誌や鉄道省(現在の国土交通省やJR)の資料によると、トンネル真上の丹那盆地(函南町)はワサビを栽培できるほど水が豊富だったが、工事の進行とともに地下水脈が変化し、盆地内に水枯れが広がった。
飲料水に支障が生じるほどで、住民は鉄道省にたびたび救済を訴えたが、同省は当初、関東大震災の地下変動や降雨量減少のせいだとして本格調査に応じなかった。約10年で多額の補償を得たが、配分を巡って集落間で対立し、住民の襲撃事件にも発展した。同町の資料には「覆水盆に返らず」と記されている。

水のない川、干上がった田 山梨で起こった“異変” リニア工事で“水枯れ”は起こるか?

2019年9月1日
カテゴリー:

リニア中央新幹線の南アルプストンネル工事に伴う大井川流量減少問題についてテレビ静岡のニュース解説を掲載します。問題がよくわかる解説です。

水のない川、干上がった田 山梨で起こった“異変” リニア工事で“水枯れ”は起こるか?
(テレビ静岡 2019/8/31(土) 10:00配信) https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190831-00010000-sut-l22&p=1

(写真)南アルプスを流れる大井川

生き物や産業を支える命の川「大井川」

アマゴやアユなどそこに暮らす生き物を知ったり、流域の林業について学んだり、子供たちが様々な視点で理解を深めているのは大井川。

県が主催して開かれた大井川「川まつり」です。

県が大切さを知ってもらおうと、力を入れる大井川の水源は南アルプス。

そしてその真下に計画されるのは、JR東海によるリニア中央新幹線のトンネル工事です。

(写真)6月 工事現場を視察した知事

“ゴーサイン”出さない川勝知事

工事により、減ると試算される川の水の量は最大で毎秒2トン。県の求めに応じる形でJRは、トンネル内に湧き出る水すべてを川に戻すと約束しました。

しかし…
静岡県・川勝知事
「(Qトンネルの本体工事にゴーサイン出せる?)ゴーサインを出せる状況ではない」

県が求めているのは、「どう戻すのか?」や「水が枯れた場合にどうするのか?」などの具体策です。

県の求めに対して、最近になってJRも具体的な対策を示すなど進展も見られますが…

川勝知事
「『湧水を全部戻す』ということでしたから、ここをクリアしなければトンネルは掘れない」

まだまだ、妥協点を見つけるには時間がかかりそうです。
カラカラに乾いた用水路 山梨県御坂町

県が譲らない理由のひとつには、工事が始まっている他の県で起きた「水枯れ」があります。

山梨県笛吹市御坂町。ここはリニアの試験運転をする、山梨実験線の西の端に位置する場所です。周辺の山々を、リニアのトンネルが貫きます。

笛吹市の市議会議員を務める野沢今朝幸さんに、ある場所に案内してもらいました。

笛吹市・野沢今朝幸市議
「ここを水が絶えることなく流れていた。まったく今は流れなくなった」

(写真)カラカラに乾いた農業用の水路。

2008年、約1キロ離れた場所でリニアのトンネル工事が始まると、すぐに水が枯れたといいます。水路のすぐ上にある田んぼだったという場所に、その面影はありません。
工事後に枯れた川 途中からはJRが汲み上げた水が流れる

枯れた川にJRがパイプで水を戻していた

また、近くの川では…
池谷庸介記者
「こちらはリニアの沿線近くの川になります。ご覧のように水が流れていますが、見てみるとパイプから水が流れているのが分かります。そしてこの川の上流部分に目を向けると、何も水が流れていないことが分かります」
水が枯れた川。前日に夕立が降ったものの水は流れていません。
パイプの水はJRが補償として近くの地中から取水し、川に戻している水です。
工事が始まった当時、市には水枯れの通報が相次ぎました。
野沢市議
「これだけ広く影響があるなんて、とても考えられなかった」

(写真)モモ農家の藤巻進さん

トンネルから水が湧き出ると 飲料水は枯れた

御坂町で桃を栽培する藤巻進さんです。

藤巻さんの畑の周辺では、農業用の水に影響はなかったものの生活用の簡易水道が出なくなり、JRが補償して新たに水道を引きました。

モモ農家・藤巻進さん
「飲料水ですね。枯れたというのは一番大きい。JRが掘っていたらトンネルから水が湧き出た。それと同時に、簡易水道のタンクに水が入らなくなって枯れてしまった」

(写真)リニアのトンネルから排出される大量の水

水はどこに消えたのか…

リニアのトンネルに向かうと、排水溝から大量の水が流れ出ていました。

市議会議員の野沢さんは、山から消えた水がここに集まっていると話します。

野沢市議
「色々なところが枯れてしまって、ここ(トンネルの排水溝)に入ってくる。今まで溜まってた地下水、地層に溜まっていた水も流れてくるし、上に降った雨も染み込んでいると思う」

(写真)大井川 静岡県

他の地域でも同じ事は起こるのか?

一方で市によりますと、川の水が集まる中下流域にある笛吹川について、影響を指摘する声は上がっていません。

水枯れが大井川周辺でも起きるのかどうか、実際に掘ってみないと、JRにも県にもわかりません。

しかし、ほかの地域で実際に起きた水枯れを軽視すべきではありません。

(写真)山梨県を走るリニア実験線

JR東海の回答

JR東海は山梨県の水枯れについて、テレビ静岡の取材に以下のように回答しています。

【山梨県の水枯れについて】
「調査を行い公共工事の基準に基づいて適切に補償しております」
※なお戸数など、どのぐらいの規模で水枯れが起こっているか詳細は明らかにしていない。

【山梨県内ですすむ南アルプスのトンネル工事について】
「掘削に伴う周辺の河川や井戸・湧水の流量の減少は確認されていません」

【静岡県内で予定される南アルプスのトンネル工事について】
「山梨と同じく『先進ボーリング』と呼ばれる調査で、トンネルを掘る場所の
地質状況などを事前に十分に確認しながら掘り進めていきます」

↑ このページの先頭へ戻る