水源連:Japan River Keeper Alliance

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国土強靱化の名で巨費 「世界の阿蘇」壊すダム 熊本・立野ダム(2013年9月4日)

2013年9月4日
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アベノミクスで何が 現場に見る   国土強靱化の名で巨費 「世界の阿蘇」壊すダム 熊本・立野ダム
(しんぶん赤旗2013年9月4日) http://www.jcp.or.jp/akahata/aik13/2013-09-04/2013090404_02_0.html

「アベノミクス」の名で大型公共事業をばらまく安倍自公政権の下、「阿蘇くじゅう国立公園」内で立野ダム(熊本県大津町、南阿蘇村)の建設が強引に進められようとしています。
洪水対策を理由にしていますが、市民からは「ダムよりも河川改修を」「世界の阿蘇に巨大ダムはいらない」との声があがっています。 (内野健太郎)
(写真)下流方向から見た立野ダム建設予定地=熊本県南阿蘇村
(写真)ダム建設反対の署名に応じる人たち=熊本市下通商店街
「『いまさらダムかい』の疑問が建設反対署名を集めていると寄せられます。ダムによる治水が時代遅れになる中のダム建設なんて逆行しています」
労組・民主団体でつくる「いのちとくらしを守るネットワークくまもと」の上田たかこ共同代表が語ります。
河川の改修怠る
立野ダムは、ダム建設ラッシュの一段落した1983年に事業を開始したものの、30年間、本体工事が着手されないままでした。「コンクリートから人へ」を掲げた2009年の民主党政権発足時に事業見直しとなりましたが、野田民主党政権の末期に「ダム継続」を決定、
「国土強靭(きょうじん)化」をうたう安倍自公政権は今年度、28億円の予算を計上し、14年度は37億9000万円を概算要求しています。
立野ダム計画は、火山活動でできた世界有数の大きなくぼ地(カルデラ)である阿蘇外輪山の切れ目の峡谷に巨大なコンクリート建造物を建設しようというものです。
「世界遺産登録や地球科学の重要な地域として世界ジオパーク認定をめざす熊本県にとってもイメージダウンは必至」と上田さん。建設予定地周辺は国立公園の特別保護地区。
完成後に水をためる「試験湛水(たんすい)」で国指定天然記念物「阿蘇北向谷原始林」の一部は枯死すると専門家が警告しています。観光資源となっているトロッコ列車の走る橋も水没予定地です。
環境への配慮もない“時代遅れ”のダム建設が動きだしたのは、阿蘇カルデラから熊本市内へと流れる白川が昨年7月の九州北部豪雨で氾濫したことでした。
「白川改修・立野ダム建設促進期成会」(会長=幸山政史・熊本市長)などが「スピード感を持って治水対策を」と国交省に迫ったのです。
日本共産党の松岡徹県議は「氾濫の原因は国・県が河川改修を怠ったことによるもの」と指摘します。「10年前につくっていた白川河川整備計画に沿って河川改修をしておれば防げた。
これまで立野ダム計画には421億円がつぎ込まれた。ダム計画が河川改修を遅らせ、災害を引き起こした」
「立野ダムで治水はできない」と語るのは、市民団体「立野ダムによらない自然と生活を守る会」の中島康代表です。「阿蘇カルデラの切れ目は最も地盤の弱いところ。建設予定地一帯は断層が集中し、溶岩が冷却した割れ目(柱状節理)だらけです。
工事では地盤の強度を高めるためセメントミルクを大規模に注入するとしていますが、それだけ岩盤が軟弱ということです。地滑りなどの危険がつきまといます」と語ります。
中島さんは続けます。「熊本市の洪水流量のうち立野ダムで洪水調整するのはわずか8%。ダム以外の代替案で十分対応可能です。
例えば、水田の保全。田んぼに水がため込めるように15センチあぜを高くすれば、立野ダムの有効貯水量と同じ容量ができます。河川改修、遊水地の整備、荒れた人工林の間伐などをこそ提案します」
中止求めて署名
「いのちネット」や「自然と生活を守る会」は、署名運動を展開。熊本県に国交省に中止を働きかけるよう要請しています。県負担だけでも県民1人当たり1万5000円にのぼるからです。
熊本県労連の楳本光男議長は、「ダム建設は費用が当初見込みよりどんどん膨らむ。当初想定の総事業費に匹敵する425億円がすでに使われ、総事業費は2倍の917億円を見込むようになった」と指摘。
「ダム建設は大手ゼネコンがもうかるだけで地域経済の活性化にならない」と「アベノミクス」を批判します。
日本共産党熊本県委員会は、立野ダム計画を中止し、河川改修や遊水地計画などを遅くとも5年以内に完了するよう提案してきました。
仁比聡平参院議員とともに国交省交渉も計画、参院選で躍進した力で「立野ダムはいらない」「アユが上り下りする豊かで安心安全の白川に」と全力をあげています。

淀川水系・丹生ダム、中止の可能性も(2013年9月3日の「検討の場」幹事会)

2013年9月4日
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9月3日に淀川水系・丹生ダム「検討の場」幹事会が開かれました。その幹事会に関する記事を二つお送りします。この幹事会の様子を見ると、丹生ダムが中止になる可能性がでてきたように思います。

すなわち、丹生ダムの三つの目的のうち、「治水」は河道掘削案がコスト面で圧倒的に有利、「流水確保対策」も非ダム案が有利という検討結果が示されました。

そして、「異常渇水対策」はダム案が有利という検討結果なのですが、大阪府等の下流府県が「異常渇水対策」が不要との見解を示しました。

 なお、この会議の配付資料が近畿地方整備局のHPに掲載されましたので、関心のある方はご覧ください。http://www.kkr.mlit.go.jp/river/kensyou/siryou130903.html

治水 河川整備を評価 丹生ダム 近畿地方整備局「最も低コスト」
(京都新聞 2013年09月03日 22時50分) http://www.kyoto-np.co.jp/politics/article/20130903000158

(写真)丹生ダム建設事業の目的別の対策案を評価した「検討の場」幹事会(大阪市中央区)
近畿地方整備局と水資源機構は3日、長浜市の高時川上流で計画している丹生ダム建設事業の「検討の場」の幹事会を大阪市内で開き、治水目的ではダムではなく河川整備をする案が最も低コストとする評価結果を、滋賀県や長浜市などの関係自治体に提示した。
最大の焦点となっていた治水対策でダム建設の優位性が低下したことは、今後の検討作業に大きな影響を与えそうだ。
同整備局は、治水、異常渇水時の水補給、流水機能維持の三つの目的別に、ダムを含む複数の対策案のコストや利点、課題などを提示した。
このうち、戦後最大の洪水被害を基準とする治水対策では、示した7案のうち、姉川と高時川の河道掘削を中心とする3案のコストが各80億円で、ダムを建設する2案(246億円、339億円)を大幅に下回った。ダム中止に伴う費用は計上していない。
異常渇水対策は、ダム建設2案が563億円と601億円で、野洲川ダムなど他のダムのかさ上げ案(1050億円)、地下水取水案(610億円)などに比べ有利とした。
ただ、異常渇水対策をダム建設目的に盛り込む場合に負担金が発生する大阪府、京都府、兵庫県は「緊急性、必要性は低い」として異常渇水対策を目的から外すよう求めた。
また高時川で頻発している「瀬切れ」を防ぐ流水確保対策は、琵琶湖から余呉湖経由で高時川上流に水を送る案が260億円で最低コストだった。県は「地元の受け入れやコスト面で実現性があるのか疑問」と指摘した。
次回幹事会は未定。長浜市などから早急に実効性のある結論を出すよう要請を受けた同整備局は「関係者の意見を聞きながらできるだけ早く検証作業を進めたい」(河川部)とした。
<丹生ダム> 長浜市の高時川と姉川の洪水調整などを目的に1972年に琵琶湖総合開発計画に盛り込まれた。88年事業着手。95年に工事用道路に着工した。家屋移転と民有地買収は完了済み。本体は未着工。
京都府などの下流団体は利水目的から撤退している。2009年12月、国が再検証対象に位置付けた。

滋賀・丹生ダム:「異常渇水対策では必要ない」 大阪府が見解
(毎日新聞大阪朝刊 2013年09月04日) 
http://mainichi.jp/area/news/20130904ddn002010018000c.html

国が計画見直しの対象にしている淀川水系の丹生(にう)ダム(滋賀県長浜市)について、大阪府は3日、大阪市内で開かれた検討会で「異常渇水対策としては必要ない」との見解を示した。
京都府と兵庫県も「異常渇水対策としての緊急性は低い」などと同調した。ダムは国や3府県などが建設費を負担。目的は治水対策、流水維持、異常渇水対策の三つとされており、国によるダム事業継続の判断に影響を与えそうだ。
検討会には、3府県など関係自治体と国土交通省、水資源機構の担当者が出席。
大阪府は、ダム建設の前提とされた渇水時の琵琶湖の水位低下は節水などで抑制できるとの試算を基に、「丹生ダムで容量を確保する必要はなく、計画的な渇水調整や節水対策などで対応できる」とした。
一方、国交省などは三つの目的別に、ダム建設と河川改修や宅地かさ上げなど代替案のコストを比較した試算を初めて公表。異常渇水対策では「ダム建設が有利」とした。
丹生ダムは琵琶湖に注ぐ高時川上流に治水・利水の多目的ダムとして1972年に計画された。96年までに水没地域の家屋移転が完了。用地取得などに約550億円が投入された。【千葉紀和】

 

「ヤマメ、サクラマスたちの川を守ろう! 北海道・サンルダムをとめるために」報告(動画つき)

2013年8月23日
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「ヤマメ、サクラマスたちの川を守ろう! 北海道・サンルダムをとめるために」を開催しました。

7月6日、東京・水道橋のYMCAアジア青少年センターにて、北海道・サンルダムについての学習会を開きました。「サクラマス守り隊」の代表で北海道大学名誉教授の小野有五(おの・ゆうご)さんに、現地の自然環境やダム計画についてのお話を伺いました。

サンルダム建設が計画されているサンル川は、北海道北部を流れる天塩川(てしおがわ)の支流・名寄川(なよろがわ)のそのまた支流です。小さな川ですが、サクラマスが海から200kmも遡上してくることができる、日本で唯一の川です。

しかし、サンルダムがつくられてしまうと、サクラマスの遡上が妨げられてしまうほか、海へ下らずに川に残って育つサクラマスのオス(全オスの約半数)の生育環境が悪化してしまうそうです。

サンル川は、絶滅危惧種のカワシンジュ貝の生息地でもあります。カワシンジュ貝は80年から100年も生きるという長寿の貝ですが、幼い貝はサクラマスの子であるヤマメのえらにくっついて育つので、ヤマメの少なくなった川では若いカワシンジュ貝が育たず、ヤマメの豊富なサンル川が貴重な生息地となっています。

そんな貴重な自然の残るサンル川に国が計画しているサンルダムですが、必要性に疑問がある、と小野さんは指摘します。例えば、ダムの目的のひとつである水害防止についてみると、水害防止に関する国の説明は、市民から疑問を指摘される度につぎつぎに変わる、信頼性の欠けたものです。小野さんは、流域の写真を示しながら、現在、流域で発生している水害は、堤防を整備したり、川幅を広げる工事をすることで防止できるので、ダムをつくらなければ防げない、と説明されました。このように、小野さんたちは、ダムの代替案を示して、国にサンルダムの中止を求めているのです。

現在、サンルダムの関連工事がすすめられています。北海道では、いくつかの市民団体がサンルダム反対を求めてきていますが、小野さんたちは、「サクラマス守り隊」を立ち上げ、道内だけでなく全国に広く支援をよびかけてダム中止をめざしています。サンルダムの地元・下川町(しもかわちょう)で地域おこしをめざす人たちとも連携して、サンル川や森などの貴重な自然をいかした地域経済をつくっていこうという動きがはじまっています。

「サクラマス守り隊」では川の生き物やダム建設に関する情報発信のほか、現地ツアーなども企画しています。詳しくはフェイスブックページhttps://www.facebook.com/#!/SakuraGuard?fref=ts をご覧下さい。

 

小野先生が当日使われたスライド(無声動画)
0706サンル 小野先生 MP4 15.2MB

また、今秋にサンルダム予定地見学会を企画します。企画が決り次第、掲載致します。

八ッ場ダム工期延長の基本計画変更案発表に関する声明(八ッ場あしたの会 2013年8月12日)

8月6日、八ッ場ダム事業の計画変更が国土交通省関東地方整備局より提示されたことについて、「八ッ場あしたの会」は下記の声明文を同局局長および関係1都5県知事に送付しました。  (「八ッ場あしたの会」のホームページhttp://yamba-net.org/ より)

2013年8月12日

八ッ場あしたの会 代表世話人 野田知佑ほか

八ッ場ダム工期延長の基本計画変更案発表に関する声明

国土交通省関東地方整備局は去る8月6日、八ッ場ダム建設事業の工期を2015年度から2019年度へと、4年間延長する基本計画変更案を発表した。今後、各都県議会の議決に基づいて6都県知事が計画変更に同意すれば、2019年度完成に向けて来年度から本体工事が公式に進められることになる。

本体着工の前に立ち止まって冷静な目でダム建設の見直しを!
しかし、八ッ場ダム建設事業は多くの基本的問題点、矛盾を抱えており、このままダム完成に向けて推進することは将来において大きな禍根を残すことになる。

● 希少な動植物の宝庫、縄文時代にまで遡る膨大な歴史遺産、泉質の優れた川原湯温泉の旧源泉を沈めることは、取り返しのつかない損失となるのではないか?
● 名勝「吾妻渓谷」をはじめとするかけがえのない自然景観はダム完成後には今の様相が失われてしまうのではないか?
● ダム完成後には多くの住民が居住するダム湖周辺で地すべりなどの災害が惹起されるのではないか?
● 過疎化が急速に進行しつつあるダム予定地において、ダム完成後にダム湖観光で本当の地域振興をはかることができるのか?
● 首都圏においても水需要が一層縮小し、人口減少が顕著になっていく時代において、八ッ場ダムが完成しても無用の長物になることが目に見えているのではないか?
● 利根川流域住民の安全を守るために、治水効果が希薄な八ッ場ダムの予算をもっと有効な治水対策に振り向けるべきではないのか?
● 八ッ場ダムは堆砂速度が計画よりかなり早く、土砂堆積により、ダムの機能が次第に低下していくのではないか?

など、様々な問題点を覆い隠したまま、関東地方整備局は反対の声を無視して、ダム完成に向けて邁進しているが、果たして八ッ場ダムを建設することでどのような将来が到来するのか、立ち止まって冷静な目で科学的にダム建設の是非をあらためて考えるべきである。

八ッ場ダムの工期延長の真因は付替鉄道の工事の大幅な遅れ
八ッ場ダムの工期が2015年度から2019年度へと4年延長することについて、関東地方整備局は民主党政権によるダム検証を理由としているが、ダム検証の間も、ダム本体以外の関連工事は従前どおり進められてきた。現在のJR吾妻線はダム本体工事予定地を走っているから、本格的なダム本体工事を始める前に付替鉄道を完成させ、現鉄道を廃止しておかなければならず、当初の工程表では付替鉄道は2010年度完成の予定であった。ところが、付替鉄道の工事が遅れに遅れて、まだ未完成である。そのため、ダム検証があろうがなかろうが、八ッ場ダムの工期は大幅に延長せざるを得なかったのであり、関東地方整備局は責任回避のため、工期の遅れを民主党政権のせいにしている。

2019年度にダムは本当に完成するのか?
今回の基本計画変更案は工期4年延長であるが、本当に2019年度に八ッ場ダムが完成するのか、まだまだ不透明である。今年度は本体関連工事を行うことになっているが、その関連工事3件の中には記者発表上は「作業ヤード造成」となっているものの、実際はダム本体工事そのものであるダム本体左岸掘削工事(約10万㎥の掘削)も含まれている。これは、来年度から本体工事を始めるのでは工期が足りないという関東地方整備局の焦りを示すものであり、2019年度完成には難しい面があることを示唆している。
仮にダム本体工事が2019年度に完了したとしても、その後の試験湛水で地すべりが起きれば、ダム完成は大きく遅れることになる。奈良県の大滝ダム(国土交通省)では試験湛水により、地すべりが発生して38戸が移転を余儀なくされ、その後、延々と地すべり対策が行われて、工期は約10年延長された。また、埼玉県の滝沢ダム(水資源機構)は試験湛水後に地すべりが次々と起きて、その対策工事のため、工期が約5年延長された。貯水池周辺の地質がきわめて脆弱な八ッ場ダムでは、事前の地すべり対策では足りず、試験湛水中に深刻な地すべりが発生して、大滝ダムや滝沢ダムのように、工期が大幅に延び、ダム完成時期が2020年代中頃から後半になる可能性が十分にある。

事業費再増額の5度目の基本計画変更が行われることは必至
今回の基本計画変更案は工期延長と洪水調節ルールの変更のみであり、2011年のダム検証で示されていた地すべり対策等による183億円の増額は含まれなかった。関東地方整備局は事業費についてはコスト縮減で対応するというような曖昧な説明をしているが、実際は事業費増額に対して関係都県が拒絶反応を示していることから、その計画変更を先送りしただけである。
現在の総事業費4600億円に対して、2013年度までの執行予定額は3827億円であるから、まだ先延ばしすることができると判断し、先送りしたと考えられる。本体工事費を含む残事業費からコスト縮減で183億円を生み出せるわけがなく、実際には次に述べるように更なる増額要因もあるから、遅かれ早かれ、事業費増額の基本計画変更が浮上してくることは必至である。今までも、基本計画の変更は工期延長、事業費増額。工期延長と、小出しに行われてきており、今回もその場しのぎのやり方が踏襲されているのである。

いずれは事業費の増額は500~600億円以上  実際には関東地方整備局が表に出していない三つの大きな増額要因がある。

① 代替地の整備費用の大半の負担:80~100億円
住民の移転代替地の整備費用は、現在は事業費の枠外で、2011年度までで約97億円が投じられている。代替地は未だに造成工事中であるから、この整備費用がさらに膨らむのは確実である。八ッ場ダム事業では谷の大規模な埋め立てや山の斜面への造成など、地形条件の悪い中で代替地を無理をしてつくっているので、整備費用がきわめて高額になっている。代替地の分譲収益はせいぜい20億円程度であるから、分譲収益で整備費用を賄うことはできず、代替地整備費用の大半80~100億円は事業費に上乗せされると予想される。

② 東電への減電補償:160~200億円以上
八ッ場ダムの完成後はダムに水を貯めるため、吾妻川にある水路式の東京電力㈱水力発電所への送水量が減ってその発電量が大幅に減少するので、東京電力への減電補償が必要である。関東地方整備局は八ッ場ダム検証報告(2011年)の中で、減電量はわずかであるとしたが、それは恣意的な計算によるものであり、関東地方整備局が使ったデータを入手して減電補償額を計算すると、160~200億円以上になる。

③ 試験湛水中に地すべりが発生した場合の対策工事費:少なくとも100億円規模
前述の大滝ダムや滝沢ダムではダム本体完成後の試験湛水で深刻な地すべりが発生して対策工事が延々と行われ、地すべり対策工事費がそれぞれ約308億円、約145億円にもなっている(内閣参質171第186号の政府答弁書)。同様に、貯水池予定地周辺の地質がきわめて脆弱な八ッ場ダムでは、試験湛水によって深刻な地すべりが発生して追加対策を余儀なくされ、少なくとも100億円規模の増額が必要となる可能性が十分にある。
八ッ場ダムはダム湖周辺が多くの住民の居住地であるという特殊条件を抱えたダムであり、ダムを造るのであれば安全対策を万全にする必要がある。

上記の①、②、③も考慮すると、八ッ場ダム建設事業費の増額はダム検証で示された約183億円にとどまらず、さらに340~400億円、合わせて500~600億円以上の増額が必要となることが予想される。

以上述べたとおり、八ッ場ダム事業は本体工事に向けて、工期延長の基本計画変更案が示されたが、その先行きは混沌としている。
ダムが実際にいつ完成するか、不透明なまま推移し、事業費増額の問題が重くのしかかってくることが予想される。
このような状況において私たちは、八ッ場ダムという巨大な負の遺産を子孫に残さぬよう、決してあきらめることなく、八ッ場ダム事業の抜本的な見直しを求め続けていく。同時に、吾妻渓谷などのかけがえのない自然と、貴重な遺跡の宝庫を生かしたフィールドミュージアム構想により、真の地域振興の道を切り開くことを訴えていきたい。

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