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「新たな『ダム洪水対策』の課題」(時論公論)

2020年6月11日
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政府の方針として出された「ダムの事前放流」についてNHK持論公論による解説を掲載します。
分かりやすい解説であると思います。


「新たな『ダム洪水対策』の課題」(時論公論)

(NHK 解説アーカイブス2020年06月05日 (金)) http://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/430407.html
松本 浩司 解説委員

大雨への警戒が必要な時期を迎えましたが、今月から全国のダムの運用が大きく変わり、これまで洪水対策に使われていなかった水道用や発電用などのダムも防災の役割を担うことになりました。毎年続く豪雨災害を受けたもので、洪水のリスクを下げることが期待される一方、課題も少なくありません。

▼ダム運用はどう変わるのか
▼効果はあるのか
▼水不足と防災態勢など課題について考えていきます。

【大きく変わるダム運用】

ダムには水道水用や農業、工業用水用、発電用、治水用、それに複数の用途を兼ねた多目的ダムとさまざまな種類があります。その数は全国で1500近くになりますが、治水、つまり洪水対策に使われているものは実は4割にとどまっています。

政府は台風19号など洪水被害が相次いだことから、残り6割のダムも洪水対策に活用することめざし、まず重要な河川である一級水系にある955のダムのうち治水目的以外の620のダムと協定を結び、今月から新たに洪水対策にも使うことになりました。

その運用方法です。台風などで大雨が予想されたとき3日前から「事前の放流」を始めてダムの水位を普段より下げておきます。そして大雨が降った時に上流から流れ込む大量の水をためて放流する水の量を減らし、下流の川の増水を抑え氾濫を起こりにくくしようというものです。

【どのくらい防災効果があるのか】
どれくらいの防災効果が期待できるのでしょうか。

国土交通省は、多目的ダムでの増加分もあわせ、大雨に備えて確保できるダムの空き容量がこれまでの2倍近くになるとしています。
また下げることのできる川の水位について、すでに防災運用を始めている発電専用ダムの例をあげています。

紀伊半島の熊野川にある風屋(かぜや)ダムと池原(いけはら)ダムでは、昨年の台風10号のとき事前に放流をして容量の3割を空けて備えました。ここでは川を掘り下げる対策もとっていて、国土交通省はそれらによって下流の川の水位を、何もしなかった場合にくらべて1.3メートル下げる効果があり、ぎりぎりのところで住宅の浸水を防いだと説明しています。
このように増水のピークを下げるほか、氾濫が起きてしまった場合も発生を遅らせ、避難する時間を稼ぐことができるといいます。

【課題① 水不足のリスク】
一方、課題も小さくありません。
まず、水不足にならないように運用できるかです。

事前放流をするかどうかの判断は気象庁によるダム上流の降雨予測に基づきます。ダムごとに基準が決められていて、それを超える大雨が予測されたら3日前から放流を始めます。しかし実際に雨が降らずに「空振り」になった場合、水不足につながる恐れがあります。ダムを管理している自治体や農業団体、電力会社はこれをたいへん心配しています。
<VTR>
多摩川の上流にある小河内ダムです。東京都が管理する水道水用のダムですが今月から洪水対策にも活用されることになりました。
多摩川の下流では去年の台風19号のとき市街地や超高層マンション街が浸水する大きな被害が出ました。多摩川上流には洪水対策用のダムがひとつもないことから水道水用の小河内ダムに洪水対策機能を持たせることに防災関係者は強い期待を寄せています。
その一方で都民の貴重な水源のひとつだけに、事前放流したものの予測が外れたときに水不足にならないか心配する声があがっています。

最近、全国で渇水が起きたのは4年前ですが、このときの小河内ダムの貯水量を示したグラフです。6月に入って雨が降らずに急激に減少しましたが、その後回復して持ちこたえ、給水制限は行われませんでした。
仮に、新たな運用基準で求められる量の事前放流を6月に行ない、予測が外れ雨が降らなかったらどうなるのでしょうか。貯水量の曲線は大きく下がります。
これを平成最悪の渇水だった平成6年と比較します。この年は2か月近く給水制限が行われ市民生活に大きな影響が出ましたが、ほぼ同じ水準になります。これは極端な想定ですが、
東京都の担当者は「予測の精度がわからない」として不安を抱いています。
国は水不足になった場合、自治体などが対策にかかる費用を補償するとしていますが、市民生活や農業などに大きな影響がでることは避けられません。
スーパーコンピュータやAIも使い降雨予測の技術は急速に進歩していますが、ダムの集水域ごとの雨量を正確に予測するには高い技術が必要で、その精度が運用の大きなポイントになります。

【課題② 防災態勢の整備】
もうひとつの課題は防災態勢です。
新たな運用で増水や氾濫を遅らせることになりますが、下流の住民から見ると雨がおさまってから川が増水するなど警戒が必要なタイミングが変わることになります。
また下流で急激な増水が起こるリスクも指摘されています。

ダムの構造は千差万別ですが、中小規模の防災用でないダムは複雑な放流操作はできません。運用も、これまでは高い水位のまま大雨を迎え、すぐに満杯になって上流からの水をそのまま流していたところが少なくありません。つまりダムがない状態に近く、下流は大雨が降るとすぐに増水していました。

しかし今後、事前に水位を下げ、流入した雨水を貯えるようになると、その間は下流の水位が低く抑えられますが、ダムが満杯になって大雨が続くと一気に大量の水が流れ下ることになります。それまで抑えられていただけに急激に増水することになるのです。
このように今までは特段の操作をしていなかったところで水量のコントロールが行われるようになるわけで「情報」がとても重要になってきます。
ダムを管理する都道府県や電力会社、土地改良区などと川の管理者、流域の市町村がこれまで以上に連携することが求められます。「あとどのくらいでダムが満杯になるのか」、「いつどのくらい放流するのか」などの情報をリアルタイムで共有し、住民への避難情報を的確に出せるように防災体制を強化する必要があります。

【まとめ】
この取り組みは気候変動による豪雨の増加が指摘されるなか、今ある社会インフラであるダムをいわば「総動員」して被害を少しでも小さくしようというもので、狙いは評価できると思います。

ただ、新たに大きな費用はかかりませんが、ダムを運用する現場は新たな負担と責任を引き受けることになります。また降雨予測の精度や、事前放流で川ごとにどのくらい水位を下げることができるのかが示されておらず、効果が見えにくくなっています。実際に運用を進める中で検証を重ね、効果を高めていく必要があります。
一方、私たち住民の側も、ダムと人の操作によってリスクが下がり守られていること、そしてその効果には限界があることも十分理解したうえで、大雨の際の避難など身を守る方法を考えておくことが大切だと思います。

(松本 浩司 解説委員)

1級水系ダム、水害対策貯水容量を倍増 事前放流の損失補填制度新設で

2020年6月9日
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政府が6月4日、「ダムの洪水調節機能強化に向けた関係省庁検討会議」で示した「全国の1級水系河川のダムで、利水目的でためた水を事前に放流し、洪水調節容量を増やす」方針を各紙を取り上げています。
京都新聞の社説と毎日新聞の記事を掲載します。
事前放流によって利水者に損失が出た場合の補償は、
事前放流ガイドライン(国土交通省 水管理・国土保全局 )https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kisondam_kouzuichousetsu/dai3/siryou2.pdf に次のように書かれています、
「損失補償
協議の上、必要な費用を堰堤維持費又は水資源開発事業交付金により負担するものである。
① 発電
事前放流に使用した利水容量が従前と同等に回復しないことに起因して生じる電力の減少に対する火力発電所の焚き増し等の代替発電費用の増額分とする。なお、火力発電所の焚き増し等による費用とは、減少した発電量に発電事業者の火力発電所の焚き増し等の発電単価を乗じた費用とする。事前放流による増電がある場合は、これを考慮する。
② 水道
事前放流により利水容量が従前と同等に回復しない場合で、取水制限の新たな発生や、その期間の延伸及び取水制限率の増加に伴い発生する利水事業者の広報等活動費用及び給水車出動等対策費用の増額分とする。」

水道の場合は利水事業者の広報等活動費用及び給水車出動等対策費用の増額分ですから、それほどの金額にならないように思いますが、発電の場合は代替発電費用の増額分ですから、どの程度の金額になるのでしょうか。
机上の取りきめで事前放流の話が進んでいますが、実際にどのようなことになるのか、わかりません。


社説:ダム事前放流 運用広げて大被害を防げ

〔京都新聞2020/06/08 16:00) https://news.yahoo.co.jp/articles/7248b6117489e5aeced6be0ee557d95e6cc852c6

大雨のシーズンが近づいている。近年相次いでいる甚大な水害を防ぐには、取り得る対策を総動員する必要があろう。
全国各地で急がれているのが、大雨が降る前にダムを放流し、ためられる水量を増やして洪水への対処能力を高める取り組みだ。
政府は治水強化策として進めている。ダムの事前放流を行う手続きについて、全国109の1級河川水系のうちダムのある全99水系で地元自治体や利水団体と合意し、今月初めまでに協定を結んだという。
ダムの役割には、雨をためて洪水を防ぐ治水と、農工業や発電、水道用の利水がある。これまで利水用のダムはほとんど治水目的の放流を想定していなかった。
今回の協定により、利水ダム620カ所と治水・利水両用の多目的ダム335カ所で事前放流できるようになる。
新たに水害対策に充てられる貯水容量は45億立方メートル分の確保が見込まれる。現状から全体で倍増するというから大きな前進といっていいだろう。京滋を流れる淀川水系でも貯水容量が最大78%増、由良川水系は28%増になるという。
事前放流を拡大するのは、頻発化する大規模水害への対処が「待ったなし」だからだ。
2018年7月の西日本豪雨では、愛媛県のダムで緊急放流後に下流が氾濫し、犠牲者が出た。再発防止に向けた国土交通省の有識者検討会が提言したのが、事前の水位調整である。
事前放流は、下流域の浸水リスク軽減に加え、満杯による「緊急放流」を避けて住民の避難時間を確保する効果もある。
昨年10月の台風19号では各地で河川氾濫が相次いだ。茨城県など4県と国は、治水機能を持つダム6カ所で満杯近くになった水を緊急放流した。いずれも事前放流していなかった。
直前の昨年8月末時点で事前放流実施の要領を作成していた利水、多目的ダムは全国でわずか58カ所。管理者が水位が回復せずに農業用水などが不足するのを心配し、ためらった例が多かったようだ。
このため政府は、省庁横断の検討会議を設置し、既存ダム活用を拡大する方針を確認。今回、各ダムで利水団体などと結んだ協定では、事前放流で用水が不足した場合、別の河川から融通するとし、金銭面でも補償もするとしたのが地元協力につながったといえよう。
新たなダム建設や堤防強化などは膨大な費用と時間を要する。従来の縦割り行政を見直し、今回のように国交省以外が所管する利水ダム活用を広げることは、現実的かつ即効性が期待できる新たな治水対策として有意義だろう。
ただ、施設改修しなければ事前放流できないダムも少なくない。国は今月中に放流設備の改良など対策の工程表を水系ごとにまとめるという。災害は待ってくれない。一日も早く機能するよう整備してほしい。
貯水状況や放流の情報発信とともに、住民避難の方法も再確認しておきたい。


1級水系ダム、水害対策貯水容量を倍増 事前放流の損失補填制度新設で

(毎日新聞2020/6/4(木) 21:43配信)https://news.yahoo.co.jp/articles/ef25e0491a4e350b3ee34b1b22e4f4c3267139a5

政府は4日、ダムの洪水調節機能強化に向けた関係省庁検討会議で、国が管理する全国の1級水系の河川で、水道や発電など利水目的でためた水を事前に放流できるようにして、水害対策に使える貯水容量が約46億立方メートルから約91億立方メートルに倍増したことを明らかにした。事前放流は、予測と異なり貯水量が回復しなかった場合の事業者の損失が課題だったが、必要経費を国費で補塡(ほてん)する制度を新設するなどして対応した。
政府は昨年10月の台風19号で洪水被害が相次いだことを受け、同11月からダムの洪水調節機能強化の検討を始めた。菅義偉官房長官は会合で「拡大できた容量は(建設に)50年、5000億円以上をかけた(群馬県の)八ッ場ダム50個分に相当する」と成果を強調。「本格的な雨の時期を迎える中、国民の生命と財産を水害から守るために、国土交通省を中心に一元的な運用を開始してほしい」と指示した。
全国の1級水系で治水機能のあるダムは335基、上下水道や発電など利水目的のダムは620基ある。ただ、すべての貯水容量のうち治水目的に使えるのは約3割(約46億立方メートル)にとどまっていた。
国交省は、事前放流後に貯水量が回復しなかった場合に、代替発電費用や取水制限に伴う給水車の費用などを国が補塡することを定めたガイドラインを策定。同省や発電、水道事業者らが1級水系のうちダムのある全99水系で、利水ダムにたまった水や、治水機能のあるダムの利水目的の水を事前放流できるよう降雨量の基準などを定めた治水協定の締結に合意。貯水容量が約91億立方メートルに倍増する見通しとなった。
政府は2級水系のダムについても貯水容量を拡大させる方針。【佐野格】

事前放流へ統一運用/1級水系で治水協定締結/政府

2020年6月8日
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既報の通り、国土交通省が管理する1級水系で、大雨が予想される際にダムの利水容量についてあらかじめダムの水位を下げる事前放流の治水協定が締結されてきました。
この治水協定について建設通信新聞の記事を掲載します。
これは、首相官邸の「既存ダムの洪水調節機能強化に向けた検討会議」https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kisondam_kouzuichousetsu/index.html
の指示によるもので、この会議は菅義偉官房長官の肝いりで設置されたものです。
菅氏は下記の通り、BLOGOSで自ら、その成果を宣伝しています。

しかし、ダムの事前放流を行うと、ダムの洪水調節容量が約2倍になるという話は前にも述べましたが、かなり機械的に計算したものであって、実際に必ずそうなるということではありません。
また、ダム集水域の雨量を定量的に予測することは結構難しく、事前放流は空振りになることが多いです。
その場合は状況によっては利水者への補償が必要となることがあります。
この補償について補填の対象は一級水系の国の直轄区間にあるダムであって、一級水系の指定区間(都道府県管理区間)にあるダムは補填の対象になりません(国土交通省水管理・国土保全局河川環境課水利係に確認)。
また、この補償は直轄堰維持費と水資源開発事業交付金の予算項目から支出するとのことですが、今年度は緊急放流のための予算増額はされておらず、必要に応じて2021年度から予算措置をするという話です。
そして、繰り返しになりますが、事前放流さえすれば、ダムの緊急放流を回避できるというものではありません。
2018年7月の西日本豪雨において愛媛県・肱川の野村ダムと鹿野川ダムはそれなりの事前放流をしていましたが、それでも凄まじい緊急放流を行ってダム下流域の大氾濫を引き起こしました。

 

事前放流へ統一運用/1級水系で治水協定締結/政府
[建設通信新聞 2020-06-08 2面 ] https://www.kensetsunews.com/archives/460092

政府は、国土交通省が管理する1級水系で、大雨が予想される際の水害対策に発電用ダムや農業用ダムなどの利水ダムを活用し、あらかじめダムの水位を下げる事前放流の実施体制を整えた。国交省とダム管理者、関係利水者が治水協定を5月までに締結し、有効貯水容量に対して水害対策に利用できる容量の割合を従来の3割から6割に増やした。国交省が4月に策定した事前放流ガイドラインに沿って、多目的ダムと利水ダムの統一的な運用を今出水期に始める。
政府が4日に開いた「既存ダムの洪水調節機能強化に向けた検討会議」で、治水協定締結の進捗状況を確認した。菅義偉内閣官房長官は、国民の生命と財産を水害から守るため、国交省を中心とした関係省庁が治水協定に基づき、既存ダムの事前放流などを一元的に行う新たな運用を開始するよう指示した。また、降雨量とダムへの流入量をAI(人工知能)で予測する技術について、研究開発を進める国交省と気象庁に対して早期の実用化を求めた。
1級水系は、全109水系のうち99水系にダムが955カ所ある。その有効貯水容量は152億6300万m3で、このうち多目的ダムの洪水調節容量は3割に当たる45億8900万m3となっている。
利水ダムを水害対策に最大限活用するため、洪水調節可能容量(洪水調節に利用可能な利水容量)を設定する治水協定を99水系で結んだ。これにより、新たに45億4300万m3を水害対策に利用できるようになり、洪水調節容量と洪水調節可能容量を合わせた水害対策に利用できる容量は6割の91億3300万m3に倍増した。追加分の45億4300万m3は、3月に完成した八ッ場ダム50個分に相当する。
政府は、水害対策に利用できる容量のさらなる拡大に向け、ダムのゲート改良などハード・ソフト一体となった対策を講じる方針で、水系ごとの工程表を6月にまとめる。
都道府県が管理する2級水系でも治水協定の締結を支援し、利水ダムが事前放流を実施する体制を河川全体で整備する考え。国交省によると、2級水系でダムがある354水系のうち、福島県管理の鮫川水系は治水協定を締結済みで、75水系では治水協定締結に向けた協議が始まっている。

 

洪水対策:縦割り行政を排し、新たに八ツ場ダム50個分の洪水調整機能を確保
• 菅義偉
(BLOGOS2020年06月06日 20:25)https://blogos.com/article/462893/

今週「既存ダムの洪水調節機能強化に向けた検討会議」を開催し、梅雨や台風などの大雨に備えた洪水対策を取りまとめました。
10月の台風第19号をはじめとした一連の記録的な豪雨は、東北、関東甲信越を中心とした広範な地域において大きな被害をもたらしました。中上流域を中心に71河川の142カ所で堤防が決壊して、洪水が発生した地域の被害は甚大なものとなりました。
これを機に、昨年11月に私の指示で、水害対策としてもっと今あるダムを活用するための各省検討会議を官邸に作りました。
全国には1470のダムがありますが、このうち水害対策を担当する国交省が所管するダムは570で、そのほか経産省が所管する電力用のダムや農水省が所管する農業用水用のダムなど全国に約900ある「利水ダム」は、各省の縦割りの弊害で、水害対策にはほとんど使われていませんでした。
結果として、全国のダムの合計容量のうち、洪水時にダムに水を貯めて水害対策に使える部分は、全体の3割しかなかったのです。
まず全国約100の1級水系について、こうした縦割りを排し、電力や農業など管理者と調整を進めて治水協定を結び、今回の取りまとめとなりました。
全国のダムの容量のうち水害対策に使える部分が従来の2倍となる6割にまで拡大することができました。拡大できた容量は、建設に50年、5千億円以上をかけた八ツ場ダム50個分に相当します。
例えば、利根川水系では川俣ダムなどで水害対策に使える容量が八ツ場ダム3個分相当増え、相模川水系では城山ダムなどで八ツ場ダム1個分増えることになりました。今後はそれぞれの水系において、大雨が予想される際には、それぞれのダムの事前放流などについて国土交通省を中心に一元的な運用を行うことになります。
さらに全国にダムがある2級水系は約350ありますが、これらについても今後同様の調整を進めます。特に、近年水害が起きた水系や大きなダムがある水系などについては速やかに調整を進めていきます。
また、AIを活用して降雨量やダムへの流入量を精緻に予測し、ダムの放水量もAIを使って予測する研究開発を進めています。
今回の対策は、これまでの治水行政の大きな転換で、縦割りを排してこれまで使われていなかった機能を有効利用することで、巨額の予算を投じることなく洪水調整機能を大幅に増やすことができました。いのちと暮らしを守るために、さらなる能力向上に向けて引き続き取り組んでまいります。

石木ダムの費用便益比計算  川棚川の洪水調節のB/Cはわずか0.10

2020年6月7日
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ダム等の公共事業は事業の是非について定期的に再評価を行うことが義務付けられており、その再評価の重要な項目の一つが費用対効果(費用便益比)の数字です。
費用便益比が1を超えれば事業継続となり、1を下回れば見直しの対象となります。
ほとんどの事業では事業者は便益を過大に計算して、費用便益比が1を超えるように操作します。
石木ダムについても洪水調節と不特定利水(渇水時の補給)の目的については長崎県、水道用水開発の目的については佐世保市が再評価を行い、費用便益比を計算しています。
長崎県は洪水調節と不特定利水の目的について昨年9月に再評価を行いました。前回は2015年でした。
今回、昨年9月30日の長崎県公共事業再評価監視委員会で示された石木ダムの費用対効果分析の計算資料を入手しました。石木ダム費用対効果分析資料201909の通りです。
昨年7月17日に石木ダム工事差し止め訴訟の証人尋問が長崎地方裁判所佐世保支部で行われ、石木ダム事業を科学的に検証すれば、治水面で不要であることを嶋津が証言しました。
その中で、石木ダムは費用便益比計算の恣意的な設定を改めれば、費用便益比が1を大きく下回ることを示しました。
詳しくは、http://suigenren.jp/wp-content/uploads/2019/07/435871c5c7f259bef4ac7f2e9ce6f279.pdf をお読みください。
証言で示した2015年の再評価の数字は次の通りでした。

2015年の再評価
石木ダム全体の費用便益比(B/C)1.25
洪水調節ダム便益          0.42
川棚川(河口~石木川合流点)      0.12
石木川                 0.30
不特定便益            0.79
残存価値             0.05

2019年の再評価もほぼ同じでした。石木ダム費用対効果分析資料201909の最終ページの合計欄の数字と6ページの表から次の値が求められます。

2019年の再評価
石木ダム全体の費用便益比(B/C)1.21
洪水調節ダム便益          0.40
川棚川(河口~石木川合流点)           0.10
石木川                 0.30
不特定便益            0.77
残存価値             0.04

ダム建設の主たる目的は川棚川の洪水調節であるはずなのに、その便益に関しては費用便益比(B/C)がわずか0.10しかありません。
石木ダム全体のB/Cが1を超えているのは、前回と同様、不特定利水の便益がダム完成前に発生するという実際にはありえない設定をしたことによって、現在価値化後の便益が大きくなっているからです。
現在価値化とは費用便益比計算独特のもので、社会的割引率(貨幣価値の変動率を示す指標)を 4%として、将来発生する金額を低く、過去に発生した金額を高く評価するものです。
不特定利水の便益がダム完成後に発生するというまともな設定をすれば、石木ダム全体のB/Cが1を大きく下回り、石木ダムは見直しの対象になります。

以上の通り、長崎県が行った費用便益比計算でも、石木ダムは主目的の川棚川洪水調節の費用便益比がわずか0.10しかありません。
長崎県が地元住民の土地・家屋が奪おうとしている石木ダムはその程度の事業なのです。
こんな無意味な事業は何としても中止させなければなりません。

利根川荒川水系水資源開発基本計画(フルプラン)の虚構

2020年6月6日
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6月26日に国土交通省の国土審議会水資源開発分科会利根川・荒川部会の書面会議が開催され、その配布資料が6月5日に国土交通省HPに掲載されました。
その資料を見ると、興味深いところがありますので、紹介します。

利根川・荒川・豊川・木曽川・淀川・吉野川・筑後川の7指定水系については水資源開発促進法により、水需給の面でダム等の水資源開発事業が必要であることを示す水資源開発基本計画(フルプラン)が策定されています。利水面でのダム等水資源開発事業の上位計画になります。これらの指定水系では、八ツ場ダム、思川開発、霞ケ浦導水事業、設楽ダム、川上ダム、天ヶ瀬ダム再開発、小石原川ダムといった水資源開発事業が進められてきていて、木曽川水系連絡導水路が計画されています。
しかし、水需要が減少の一途を辿り、水余りが一層進行していく時代において水需給計画で新規のダム等水資源開発事業を位置づけることが困難になってきました。
しかも、現在のフルプラン(利根川荒川は2008年策定)は2015年度が目標年度であって、とっくに期限切れになっています。
フルプランは水資源開発促進法の目的に書かれているように、「産業の開発又は発展及び都市人口の増加に伴い用水を必要とする地域に対する水の供給を確保するため」に策定されるものであり、水道用水・工業用水の需要が減少傾向に転じた時点で、その役割は終わっているのですから、水資源開発促進法とともに、7指定水系のフルプランは廃止すべきです。
しかし、国土交通省水資源部の組織を維持するため、目的を失ったフルプランの改定作業が行われつつあります。


~国土審議会水資源開発分科会利根川・荒川部会を書面開催~ https://www.mlit.go.jp/report/press/water02_hh_000123.html 

第11回国土審議会水資源開発分科会利根川・荒川部会】
利根川水系及び荒川水系における水資源開発基本計画の見直しについて審議(3回目)
日 時: 令和2年5月26日(火)
議 題: 現行「利根川水系及び荒川水系における水資源開発基本計画」の総括評価(案)について
第11回利根川・荒川部会 配布資料 https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/water02_sg_000104.html

今回の資料のうち、現行「利根川水系及び荒川水系における水資源開発基本計画」の総括評価(案) https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001347198.pdf を見ると、下記のグラフが示されています。主な数字を拾うと、次の通りです。
利根川・荒川水系の2015年度の数字
水道用水(簡易水道込み) 最大取水量 実績 114.25㎥/秒 予測 147.35㎥/秒 予測/実績 1.29倍
工業用水         最大取水量 実績 19.73㎥/秒 予測  28.19㎥/秒 予測/実績 1.43倍
水道用水+工業用水    最大取水量 実績 133.98㎥/秒 予測 175.54㎥/秒 予測/実績 1.31倍
供給可能量(2015年度)の計画値 179.74㎥/秒、2/20渇水年(20年に2回の渇水年)を想定すると、154.19㎥/秒、戦後最大年を想定すると、139.92㎥/秒
(2015年度時点で未完成の八ツ場ダム、思川開発、霞ヶ浦導水を除く)

これらの数字を見ると、フルプランの水需要予測がいかに過大で、架空のものであったかがよくわかります。
そして、水需要の実績133.98㎥/秒は国土交通省が示す計画値の供給可能量179.74㎥/秒を大きく下回り、2/20渇水年の供給可能量154.19㎥/秒もかなり下回っています。戦後最大年の供給可能量139.92㎥/秒をも少し下回っています。
前回のフルプランでは水源開発事業の計画値の供給可能量では水需要予測値がそれを下回り、新規事業の必要性を示せないため、2/20渇水年への対応が必要だという話を持ち出して、策定されました。

しかし、水需要の実績はこの2/20渇水年の供給可能量を上記の通り、下回っており、八ツ場ダム、思川開発、霞ヶ浦導水はフルプランの水需給においても不要のものであったことを物語っています。
そして、この2/20渇水年の供給可能量の数字そのものが科学的な根拠がない過小の数字であって、八ツ場ダム住民訴訟でこの問題を追及しました。

これから策定される利根川荒川等のフルプランは、2/20渇水年では説明が苦しくなったため、戦後最大渇水年への対応が必要だという話でつくられることになると思います。
組織延命のため、目的を失ったフルプランの延命策が図られているのです。

現行「利根川水系及び荒川水系における水資源開発基本計画」の総括評価(案) https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001347198.pdf
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