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最も基本となる治水対策「河道整備」

2022年12月18日
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手持ち資料と最新データを使って、「最も基本となる治水対策「河道整備」」をスライド形式の報告でまとめました。

その報告を水源連のHPにアップしました。

最も基本となる治水対策「河道整備」2

その主な内容を下記に記しますので、長文ですが、お読みいただきたいと存じます。

スライドとの対応をスライド番号№で示しましたので、詳しい内容はスライドを見ていただきたいと思います。

今回の報告「最も基本となる治水対策「河道整備」は次の三つで構成されています。

Ⅰ 破堤・溢水の危険性のある箇所を早急に改善

Ⅱ 計画河床高を確保するための河床掘削の実施

Ⅲ 越流による破堤の危険性がある箇所へ耐越水堤防の導入

洪水を流域全体で受け止めて氾濫を防ぐ「流域治水」の導入も必要ですが、何よりも優先すべきは「河道整備」です。国が2021年度から始めた「流域治水」は施策が盛沢山で、どこまで有効なものなのか、分からないものです。そして、時にはダム建設をカモフラージュするための隠れ蓑にもなり、また、住民に移転を迫る遊水地の建設を推進するものにもなっています。この現在の国の「流域治水」の問題点は別稿で述べることにします。

 

Ⅰ ダム偏重の河川行政が引き起こした鬼怒川水害、鬼怒川下流ではダムの治水効果が減衰していた(スライド№4~13)

(1)2015年9月の鬼怒川下流の大氾濫(スライド№4~6)

破堤・溢水の危険性のある箇所が長年放置されてきている河川が少なくありません。その端的な例が2015年9月の「関東・東北豪雨」で大氾濫した利根川水系の鬼怒川下流部です。この洪水では鬼怒川の左岸25㎞付近で大規模な溢水があり、左岸21㎞地点で堤防が決壊しました。鬼怒川下流部の左岸25㎞付近、左岸21㎞付近は左岸、右岸を通じて、現況堤防高が周辺より一段と低く、大規模溢水や堤防決壊の危険性が最も高い場所であり、2015年9月水害では溢水、破堤が現実のものとなりました。

(2)鬼怒川水害訴訟(スライド№7~10) 

2018年8月7日、国を被告として、住民らが「鬼怒川水害」国家賠償請求訴訟を提訴しました。

2022年7月22日、茨城県常総市の鬼怒川水害訴訟において国の責任を認める判決が水戸地裁でありました。水害裁判で国に賠償を命じる判決は極めて異例で、画期的でしたが、判決が認めた国の瑕疵は若宮戸の溢水だけであって、上三坂の堤防決壊については国の瑕疵を認めておらず、合点がいかない判決でした。原告の一部と国は2022年8月4日、国の責任を一部認めた水戸地裁判決を不服として東京高裁に控訴しました。

2015年9月の大水害後、44㎞地点まで鬼怒川の大改修が行われました(。鬼怒川中下流部が安全な河道に変わったことは喜ばしいことですが、今回の緊急対策プロジェクトの事業費約780億円のほんの一部を使って、最も危ない上三坂と若宮戸の改修が早期に実施されていれば、2015年9月水害の被災者が塗炭の苦しみを受けることがなかったのにと思われてなりません。

(3)鬼怒川下流部の現状 (「鬼怒川緊急対策プロジェクト」2015年12月~2021年5月)(スライド№11~12) 

2015年9月の大水害後、44㎞地点まで鬼怒川の大改修が行われました。鬼怒川中下流部が安全な河道に変わったことは喜ばしいことですが、今回の緊急対策プロジェクトの事業費約780億円のほんの一部を使って、最も危ない上三坂と若宮戸の改修が早期に実施されていれば、2015年9月水害の被災者が塗炭の苦しみを受けることがなかったのにと思われてなりません。

(4)全国の河川で破堤・溢水の危険性の高い箇所の改善措置が急務(スライド№13)

鬼怒川下流部のように破堤・溢水の危険性のある箇所が長年放置されてきている河川が少なくないと思います。

全国の河川の堤防の状態をきちんと調査して、破堤・溢水の危険性の高い箇所をピックアップして、改善措置を講じることが急務です。

 

Ⅱ 計画河床高を確保するための河床掘削の実施(スライド№14~26)

(1)治水計画に表示されなくなった計画河床高(スライド№14~18)

計画河床高とは、各治水計画において確保すべき各地点の河床高であって、河床掘削によって達成する目標の河床高です。ところが、現在策定されている各水系の河川整備基本方針にも河川整備計画にも計画河床高までの掘削が図示されなくなっています。

しかし、かつて策定されていた各水系の直轄河川改修計画書では計画河床高の値が明記され、工事実施基本計画では計画河床高までの掘削が図示されていました。

計画河床高が治水計画に書かれなくなったのは今から20年くらい前のことで、その真の理由は、ダム事業推進に障害となるものを排除することにあったのではないかと推測されます。

(2)球磨川の現在の河床高は計画河床高よりかなり高い(スライド№19~20)

球磨川の2016年度平均河床高を見ると、計画河床高より1.5~2m程度高くなっているところが多いので、球磨川は計画河床高までの河床掘削が行われていれば、2020年7月洪水の最高水位が1.5~2m程度低くなっていた可能性が高いと考えられます。

(3)2020年7月球磨川水害の死者のほとんどは支川の氾濫によるもの(スライド№21~24)

2020年7月洪水の球磨川流域の死者50人の9割は球磨村と人吉市の住民で、そのほとんどは小川や山田川などの氾濫によるものでした。

球磨村や人吉市で支川が本川より先に氾濫して多数の死者が出たのは、球磨川およびその支川の河床高が高いまま放置されてきたからではないかと考えられ、球磨川と支川の河床掘削が本来の計画通りに実施していれば、2020年7月洪水の氾濫をかなり抑止できたのではないでしょうか。

(4)2022年策定の球磨川水系河川整備計画では2020年7月の球磨川洪水の再来に対応できるのか?(スライド№25)

流水型川辺川ダムの建設を中心とする治水計画では2020年7月の球磨川洪水の再来に対応できません。

国交省や熊本県は流水型川辺川ダムで本川の水位を下げれば、本川からのバックウォーター現象による支川の水位上昇を抑止できると説明していますが、2020年7月の球磨川水害はこのバックウォーター現象で支川が氾濫したのではありません。

小川や小田川などの支川について河床掘削などの対策をきちんと講じないと、2020年7月の球磨川水害の再来に対応できないにもかかわらず、2022年8月策定の球磨川水系河川整備計画は支川の治水対策がおろそかにされています。小川については何の改修もしないことになっています。

(5)総務省の緊急浚渫推進事業費の創設(スライド№26)

都道府県管理の地方河川について河川やダムの土砂浚渫費を総務省が支援する仕組みが2020年度に創設されました。

5年間の制度で浚渫費の70%を地方交付税で措置するもので、2020年度900億円、5年間で4900億円の予定です。

地方河川だけなく、国の河川についても同様な制度を設け、しかも、5年間ではない永続的な制度とし、全国の河川の河床掘削をどんどん推進すべきです。

 

Ⅲ 越流による破堤の危険性がある箇所へ耐越水堤防の導入(スライド№27~28)

別稿「耐越水堤防の経過と現状(封印が解かれつつある耐越水堤防工法)」で述べたように、耐越水堤防は比較的安価な費用で堤防を強化し、洪水時の越水による破堤を防ぐ工法です。

国交省は2000年代になって川辺川ダム等のダム事業推進の障壁になると考え、耐越水堤防の普及にストップをかけ、耐越水堤防工法は長らく実施されませんでした。

その後、耐越水堤防工法は20年間近く封印されてきましたが、2019年10月の台風19号水害で破堤した千曲川の穂保(ほやす)(長野市)などで耐越水堤防工法が導入され、封印が解かれつつあります。

現在の河川は、堤防の高さが確保されたとしても、河道掘削等の遅延により、計画規模以下の洪水であっても容易に計画高水位を上回り、さらには越水する可能性を否定することはできない状況となっています。

堤防決壊の7~8割以上は越水による破堤ですので、越水しても簡単に破堤しない堤防に強化することが急務です。

私たちは国交省等の河川管理者に各河川での耐越水堤防工法の早期実施を働きかけていく必要があります。

 

Ⅳ 「最も基本となる治水対策「河道整備」 小括(スライド№29)

(1)  鬼怒川鬼怒川下流部のように破堤・溢水の危険性のある箇所が長年放置されてきている河川が少なくないと思います。

全国の河川の堤防の状態をきちんと調査して、破堤・溢水の危険性の高い箇所をピックアップして、改善措置を講じることが急務です。

(2)計画河床高とは、各治水計画において確保すべき各地点の河床高であって、河床掘削によって達成する目標の河床高ですが、現在策定されている各水系の治水計画では計画河床高が明記されず、河床掘削がおろそかにされています。2020年7月の球磨川水害は河床掘削がきちんと実施されなかったことが水害激化の大きな要因になりました。各河川で本来の計画河床高を目指した河床掘削を推進することが重要です。

(3)堤防決壊の7~8割以上は越水による破堤ですので、越水しても簡単に破堤しない堤防に強化することが急務です。越水に対して一定の安全性を有する堤防に変える耐越水堤防工法を実施する必要があります。国交省等の河川管理者に各河川での耐越水堤防工法の早期実施を働きかけていく必要があります。

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