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鬼怒川と雄物川のダムと堤防に関する国会質疑

2018年6月14日
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去る5月17日に大河原雅子衆議院議員が衆議院決算行政監視委員会で、鬼怒川と雄物川のダムと堤防に関する質問を行いました。
議事録が公開されましたので、その質疑の部分を掲載します。
2015年9月の鬼怒川水害はダム建設ばかりに力を入れ、下流部の河川改修をなおざりにしてきた河川行政の誤りが引き起こしたものであり、同様なことが秋田県の雄物川で繰り返されていることがこの質疑で明らかになっています。是非、お読みください。
雄物川の最上流部で建設中の成瀬ダムは集水面積が雄物川の流域面積のわずか1.4%しかないことにも驚かされます。

第196回国会 決算行政監視委員会 第2号
平成三十年五月十七日(木曜日)   http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/196/0058/19605170058002a.html

   午後一時一分開議
出席委員・・・・・・・・・  大河原雅子君
国土交通大臣政務官    秋本 真利君
政府参考人  (国土交通省水管理・国土保全局長)  山田 邦博君

○荒井委員長 次に、大河原雅子さん。
○大河原委員 立憲民主党の大河原雅子でございます。
決算行政監視委員会、初めて質問させていただきます。
決算の報告書などを見ておりましても、私の目が行きますのは、どうしても河川とかそういった問題になります。
実は、小さいときに横浜で水害に遭ったことがありまして、そのときの体験が非常に、近くの鶴見川が堤防が切れて氾濫をしたというところで、夜になってから救援の舟が、家の畳を上げたところにボートが入ってくる、それに乗せてもらって助けられたということがあります。
非常にそうした小さいときの体験はなかなか消えないものでございまして、水というのは本当に怖いものだなと。近くにある川については親しみを覚えますが、一度、その川が牙をむくといいますか、大きな抗しがたい力になってくるという、本当にひどい被害に遭われた方がこの日本じゅうにたくさんおられるということを思いまして、質問をさせていただきます。
二〇一五年九月、台風十八号の影響で鬼怒川の堤防が決壊いたしました。甚大な被害が発生したわけです。
鬼怒川の堤防といっても、現場は常総市ですから、すぐ近くということで、しかも平野、こんなところで水害が起こるのかと私も本当にびっくりしたわけですけれども、決壊で鬼怒川からあふれた洪水が次々と家々を襲っていくすさまじい光景がテレビでも放映され、そして堤防決壊がもたらす被害の恐ろしさというものを多くの方たちが息をのむ思いでごらんになったんじゃないかと思います。私も現地に行かせていただきましたけれども、この鬼怒川、近くに流れている鬼怒川はそんなに牙をむくような川には見えなかったんですけれども。
実は、鬼怒川の上流には、国土交通省が建設した四つの大規模ダムがあります。五十里ダム、川俣ダム、川治ダム、湯西川ダムです。
二〇一二年ですから、つい最近という感じがするんですけれども、湯西川ダムが完成したばかりであって、そして、私は、洪水は確かに怖いけれども、水を大事にするという意味で、川に幾つものダムをつくるということについても疑問を持ってきました。この湯西川ダム、ダムの上流に更にまたダムをつくるという、屋上屋を架すようなダム建設だという印象を持っております。
この四つのダムの治水量というのは実に一億二千五百三十万立米ということで、しかも、鬼怒川のこの四つのダムの集水面積は全流域の三分の一を占めている。ダムで洪水調節がきちんとできれば、ほとんどの洪水は、氾濫を防止することができると言われている河川なんですね。そこで洪水が起こった。洪水のために堤防が決壊して、すさまじい被害をもたらしたわけです。ダムでは洪水の氾濫を抑止できないということが明らかにもなったんじゃないかと思うんです。
このことに関して質問をしていきたいと思います。
湯西川ダムのございます鬼怒川では、今回の水害の前年、二〇一四年度までに、河川改修にどのぐらいの予算が使われてきたんでしょうか。二〇一四年度までの十年間の予算額をお示しいただき、そしてまた、同じ期間に湯西川ダム建設事業に投じた予算額をお示しください。
○山田政府参考人 お答えをいたします。
治水事業の実施に当たりましては、頻度は少ないけれども壊滅的な被害となるような水害ですとか、あるいは被害は少ないんですけれども毎年のように被害が出るような水害といったように、予測が難しい自然現象に対しましてさまざまな事態への備えを進めていく必要がございます。
そのような考えのもとで、予算制約もある中で、堤防の整備や補強、河道の掘削といったようなものと、それからダムや遊水地の整備など、さまざまな治水手段を各河川の特性や流域の状況に応じて講じてきているところでございます。
鬼怒川の直轄河川改修事業は、昭和元年より、用地買収等の制約がある中、堤防などの整備を順次進めており、御質問のございました平成十七年度から平成二十六年度までの十年間に鬼怒川の河川改修事業に投じた予算は約百三十二億円となっております。
また、湯西川ダム建設事業は、昭和六十年に建設事業に着手をいたしまして、平成十七年度から平成二十六年度までは、用地買収もピークを越えまして、ダム本体の実施中であったため、効果を早急に発現するよう予算を重点投資している段階でございましたが、この十年間に湯西川ダム建設事業に投じた予算は、利水者の負担額も含めて約一千五十六億円となってございます。
○大河原委員 そうすると、この十年間、鬼怒川の河川改修の予算額は湯西川ダムの予算額の何分の一なんですか。
○山田政府参考人 お答えいたします。
平成十七年度から平成二十六年度までの十年間、順次整備を進める河川改修費と、ダム本体実施中の利水者の負担額も含めたダム建設費でございますが、これを比較いたしますと、河川改修費は約八分の一ということになります。
○大河原委員 これ、洪水に遭った方たちが聞いたら驚かれますよね。ダムをつくる予算の八分の一しか河川改修に使われていなかったわけですね、この期間。
鬼怒川というのは、河川改修の予算が少なくて、堤防の整備が極めておくれていた。そして、水害後、鬼怒川緊急対策プロジェクトということで慌てて、慌ててというか、この緊急プロジェクトを打っているわけです。六百億円使っているということですけれども、これも、二〇二〇年までの計画で、改修工事が急ピッチで行われております。私もこの場所に行ってプロジェクトの様子も昨年見ましたけれども、遅過ぎたと言わざるを得ない洪水対策です。
水害前の鬼怒川の堤防整備率、鬼怒川全体、それから栃木県側、茨城県側、分けて御説明をいただきたいと思います。そして、新聞報道によりますと、この茨城県側の堤防整備率というのはわずか一七%ですけれども、これは事実でしょうか。
○山田政府参考人 お答えをいたします。
鬼怒川につきましては、以前より、下流部の茨城県区間では、連続堤防の整備による流下能力の向上、それから、流れの速い上流部の栃木県区間では、護岸整備によります河岸の強化、そしてダム整備による流量の低減などを行うことによりまして、河川全体にわたって安全度を向上させてまいりました。
このような中、昭和四十八年に、茨城県内区間の重要性等を踏まえまして、以前より更に大きな洪水を安全に流下させるために治水計画を変更したことから、茨城県区間では、計画上の堤防の断面を大きくする必要が生じたところでございます。その結果といたしまして、栃木県区間の完成堤防の整備率がほぼ変わらない一方で、茨城県区間の完成堤防としての整備率が約四二%から約九%と、数字の上では小さくなりました。したがって、それまでの堤防整備の状況に関しましては、茨城県区間が上流の栃木県区間と比較して著しくおくれていたわけではございません。
ただ、その後、限られた予算の中ではございますが、鬼怒川の河川改修を進めて、特にここ十五年程度の間は、茨城県区間の堤防整備に重点的に予算を投入いたしまして、流下能力が大きく不足する箇所を優先して下流から整備を進め、平成二十七年三月末時点で、鬼怒川全体の完成堤防の整備率は約四三%、うち、栃木県区間で約六二%、茨城県区間で約一七%となっているところでございます。
○大河原委員 一七%なんですね。各県、こんなに整備率に差があるということを、恐らく地域住民の方たちが御存じないことがあると私は思います。
そして、先ほどの水害被害に遭った家々の地域、茨城県なども非常に人口がふえてきているということがあるんじゃないでしょうか。河川整備に長く時間がかかればかかるほど、そこの地域に住んでいる方たちの危険な状況というのは増していく、そういうことだと思うんです。
次に伺いたいのは、秋田県の雄物川のことです。
秋田県の一級河川、雄物川の上流には、成瀬ダムの建設が進められています。
ここも、私、行かせていただきました。御存じの方、あるかと思いますが、「釣りキチ三平」という漫画がありますが、本当に美しい川がこの成瀬川なんですね。こんなところにダムをつくるのかなと思うような場所です。普通、ダムというのは、切り立ったV字のところをぱっとせきとめてダムができるイメージなんですけれども、そうじゃないんですよね。
この成瀬ダムの問題にも疑問を感じてまいりましたけれども、今年度、このダムは本体の堤体工事が始まるというふうにされております。成瀬ダムは雄物川の最上流に建設されるもので、洪水調節を行っても雄物川の氾濫防止に役立つとは思えません。
成瀬ダムの集水面積と雄物川の流域面積をお示しください。そして、それはどのぐらいの割合になるのかも含めてお答えください。
○山田政府参考人 お答えをいたします。
成瀬ダムは、秋田県雄勝郡東成瀬村に建設されます多目的ダムでございまして、ダム検証におきまして、ダムを含む案とダムを含まない案との比較、評価等を行って、ダム事業の継続が妥当と判断をして、実施しているダムでございます。
成瀬ダムは、治水効果といたしまして、ダム直下で約九割の流量を減少させるだけではなく、基準地点であります椿川におきましても流量を低減するなど、全川にわたり効果を発揮するものでございます。
成瀬ダムの集水面積は六十八平方キロメートルであり、雄物川の流域面積の四千七百十平方キロメートルに対し、その比率は一・四%でございますけれども、玉川ダムなどの他のダムや河川改修の効果と相まって治水安全度の向上に大きく寄与するものと考えており、特に、平成二十九年七月の洪水に対しては、雄物川上流に建設済みの玉川ダム等の効果によりまして、ダムがなければ約六十戸の浸水が見込まれる被害を解消したほか、下流部の水位を低減させるなど、被害軽減に大きく寄与しており、ダムによる治水効果は大きいものと考えているところでございます。
○大河原委員 集水面積を比べると、流域の一・四%ですね。
今、効果はあるんだというふうにおっしゃいましたけれども、ここにダムを建てる、つくるという意味では、その周辺のすばらしい自然を壊してダムに沈めるというところもありますので、そこも私は極めて問題だと思ってきました。
この雄物川も河川改修が極めておくれているというふうに聞いています。雄物川で、河川改修にどの程度の予算が使われてきたのか、最近十年間の予算額をお示しいただき、そして同時に、同じように、成瀬ダム建設事業の予算額と比べてみたいと思います。どのぐらいの割合になっているでしょうか。
○山田政府参考人 お答えをいたします。
雄物川の整備に当たりましても、鬼怒川と同様に、予算制約がある中で、堤防の整備や補強、河道の掘削といったものと、ダムの整備など、さまざまな治水手段を河川の特性や流域の状況に応じて講じてきているところでございます。
雄物川の河川改修の予算額は、平成二十年度から平成二十九年度までの十年間で、約四百三十六億円でございます。同期間における成瀬ダム建設事業の予算額は、利水者の負担も含めまして約二百九十六億円でございまして、雄物川の河川改修費は、利水者の負担額を含めた成瀬ダム建設事業費の一四七%となってございます。
○大河原委員 雄物川では、昨年になりますね、二〇一七年の七月下旬と八月の下旬に大きな氾濫がありました。これは、雄物川の中下流域において流下能力が極めて低い状況があって、それが長年放置されてきたことによるものだと思います。
これも、起こるべくして起こってしまったんじゃないか、そういう氾濫であるというふうに思うわけですが、雄物川の中流部及び下流部における昨年時点での堤防整備率、これはどうなっていたでしょうか。
そしてまた、河川整備計画をつくるときの計画高水流量に対して流下能力が確保されている区間、この割合は中流、下流部についてどのようになっているのか、これについても伺いたいと思います。
○山田政府参考人 お答えをいたします。
雄物川の整備につきましては、その延長が長いこともございまして、沿川に秋田市を始め横手市や湯沢市などの市街地を抱える区間があります。これらの人口や資産状況等を考慮し、順次進める必要があるということ、二つ目に、上下流の流下能力のバランスを考慮する必要があるということ、三つ目に、堤防用地を取得する際に制約があるということ、これらの条件のもとで、なるべく効率的に改修が進むよう、例えば輪中堤などの手法をとりながら進めてきたところでございます。
雄物川の中流部及び下流部の完成堤防の整備率についてでございますが、平成二十八年三月末時点におきまして、河口から椿川地点までの下流部区間約十三キロメートルでは約八九%、椿川地点から皆瀬川合流点までの中流部区間約八十三キロメートルでは約五一%となっております。
次に、雄物川の中流部及び下流部における計画高水流量に対して達成することとなっている流下能力が確保されている区間の割合でございますけれども、平成二十八年三月末時点におきまして、河口から椿川地点までの下流部区間約十三キロメートルでは約七七%、椿川地点から皆瀬川合流点までの中流部区間約八十三キロでは約六〇%となっているところでございます。
○大河原委員 脆弱な部分に水が来たときのことというのはもう想像にかたくないわけで、河川整備計画をつくる段階でも、私は、もうダムの効用というのは限度が見えてきてしまっていると。洪水調節というところは本当に、長年、ダム偏重で日本の河川行政が行われてきたというふうに思います。
どうでしょうか、ダムの限界というのをどのようにお考えでしょうか。
○山田政府参考人 お答えをいたします。
先ほど申しましたように、治水事業の実施に当たりましては、堤防と河道の掘削とダムや遊水地の整備というさまざまな治水手段をそれぞれの河川の特性や流域の状況に応じて講じていかなければいけないというふうに考えているところでございます。
河川改修やダム建設についても、それぞれ予算や用地取得上の制約がある中で計画的に進めているところでございますけれども、引き続き、河川改修とダム建設の双方の適切な役割分担のもと、着実に治水事業を進めていくことが重要であると考えているところでございます。
○大河原委員 近年、雨の降り方も大分変わってきているわけですね。
ダムというのは、ダムの上流に雨が降れば効果はあります。でも、下流に降った場合は役に立ちません。そして、どうでしょうか、地域住民の方々の安心を高めていく安全度というのは。ダムができるまでは、その流域の方たちの安全は守られないわけですね、全然。
だから、この整備率が、もちろん、高くなればなるほど、堤防が強化されるとか、河川整備がされるというのは一番求められていることですけれども、極論すれば、たとえ九十何%の整備率であっても、その整備がされていないところが襲われたとき、むしろ、その整備されていないところに水が越水していく、そういう水の性質、特質というものをやはり一番捉えなきゃいけない事業だと思うんです。ダム偏重というふうに批判もされますし、どうでしょうか、この限界というものを、変える気はないでしょうか。
例えば、今年度のダム全体の予算、それから河川改修の予算はどうなっているのか、お答えいただけますか。
○秋本大臣政務官 委員御指摘の鬼怒川や雄物川を始めまして、近年頻発している水害に対応するためには、引き続き、河川改修やダム建設等の治水事業を推進することが重要であると認識しております。
全国の全体予算を見ますと、これまで、ダム建設よりも河川改修に予算を大きく配分してきているところがございまして、ダム偏重の予算配分とはなっておりません。
お尋ねの金額で申しますと、平成三十年度は、河川改修費は全国で約二千百億円、ダム建設は一千八百億円でございます。
また、過去八年間さかのぼってみまして、平成二十二年から二十九年、民主党政権から自民党政権まで見ましても、河川改修費は三千百億円、ダム建設費はその約半分の千六百億円でございます。また、これは中身を見ましても、河川改修につきましては、直轄と都道府県の激特などだけで三千百億円でございまして、ダム建設費は、都道府県までの補助金全てを入れても千六百億円ということでございます。
堤防整備等の河川改修は、整備効果を順次発現するなどの長所がございまして、喫緊の河川改修については優先的に実施をしているものの、下流から実施しなければならないことなど、事業進捗に一定の制限がかかる場合もございます。
一方で、ダムは、一時的に予算の集中投資が必要とはなりますけれども、下流の河川改修を待つことなく上流で貯水を始めることによりまして、長い期間にわたって効果を発揮することができる、効果の大きな施設であると認識しており、ダム建設に当たっては、ダム検証を含めた事業評価を適切に行った上で進めてきております。
河川改修とダム建設につきましては、適切な役割分担のもとで整備を実施しているところでございますけれども、今後とも、河川ごとの特性を踏まえながら、河川改修とダム建設双方の適切な役割分担のもと、着実に治水対策を進めてまいるつもりでございますので、ダム偏重という指摘は当たらないものというふうに考えております。
○大河原委員 私は、ダムを全部否定しているわけじゃないんですよ。王道はやはり河川整備だ。堤防を強化し、そして弱いところをなくしていく。なぜなら、その地域の人の命が直結しているからなんです。
ダム事業は、小さく産んで大きく育てる、長く時間がかかるから、トータルでは物すごいお金がかかっています。ですから、単純にことしの予算は少ないとか言えないんですよ。
何より、何のために。命を守るための河川整備をしなきゃならないわけで、国土交通省、会計検査院の決算検査報告六百六十六ページにもありますけれども、河川整備計画によって堤防整備をすることになっている区間に、一部未整備の箇所あるいは改築が必要な橋梁、そういうものが残存していて、整備済みの堤防の効果を、既にそこは整備されている場所でさえ、目標とされているそうした効果が十分に発揮できない、こんなことまで言われているわけなんです。
この背景になっている金額も、国土交通省の予算って本当に、何億円単位というのが本当に庶民の感覚を離れて、何だ、四百億円かみたいな形で言われるときがあるんですけれども、もっときちんとしたコストと効果を考えて、私たちは、ダムが壊れないようにするんじゃなくて、堤防が壊れないことはもちろんですが、命を守れるようにする、その視点からぜひこの予算を見直していただきたいというふうに思います。
鬼怒川の緊急対策プロジェクトはまだまだ二〇二〇年まで続きますけれども、つまり、二〇二〇年まで、これまで放置してきたところ、本当に私たち、国会にかかわる、そして行政にかかわっている国土交通省も心して、人の命を守るということをしっかりと御自覚をいただきたいというふうに思います。
終わります。

石木ダム水没予定地(長崎)の日常 山田監督「住民の思い伝えたい」

2018年6月10日
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石木ダム予定地の川原(こうばる)地区に暮らす住民を追ったドキュメンタリー映画「ほたるの川のまもりびと」が各地で上映されてきています。その上映についての記事を掲載します。
東京では渋谷のユーロスペースhttp://www.eurospace.co.jp/ (03-3461-0211)で7月7日(土)から上映されます(上映時間はまだ決まっていないとのことです)。

 

佐賀)ダム予定地描いた映画上映 反対集落、笑顔の日常
(朝日新聞佐賀版2018年6月10日)

ドキュメンタリー映画
石木ダム水没予定地(長崎)の日常 山田監督「住民の思い伝えたい」 /熊本
(毎日新聞熊本版2018年6月9日)https://mainichi.jp/articles/20180609/ddl/k43/040/455000c

鹿児島(9~15日)、熊本(23~29日)で上映へ
長崎県と同県佐世保市が進める石木ダム事業(同県川棚町)に反対する水没予定地の住民13世帯の日常を撮ったドキュメンタリー映画「ほたるの川のまもりびと」が鹿児島、熊本両県で上映される。メガホンを執った山田英治監督(49)=東京都=は「豊かな自然に囲まれた里山の春夏秋冬を通して、美しい古里を守ろうとする住民の思いを知ってほしい」と呼びかける。【田中韻】
石木ダム事業は長崎県が1972年に予備調査を始め、82年に機動隊を動員して強制測量したことから地権者との対立が深刻化した。現在は水没予定地の川原(こうばる)地区に13世帯が住む。
山田監督は今春まで大手広告代理店のCMプランナーを務め、過去には原発をPRする東京電力のキャンペーン広告なども手がけた。
しかし、2011年の東日本大震災や東電福島第1原発の事故に衝撃を受け、社会問題に取り組むNPO法人「Better than today(ベター・ザン・トゥデイ)」を設立した。
知人の紹介で川原を訪れたのは15年春。その年の秋から1年かけて川原に通い、13世帯約50人の暮らしや子供たちの成長、花鳥風月などを撮影した。
当初はダム建設に反対する住民らを「過激で怖い人たちかも」と身構えていたという山田監督。しかし、会ってみると誰もが温和で朗らかで、たちまち魅了された。「この人たちの暮らしを知ってほしい」。東京に帰る機中で一気に映画の企画書を仕上げた。
撮影中、老いた住民が「人生のほとんどがダム反対運動だった。いつまで続けなくてはいけないのか」と漏らした一言が胸に刺さった。ダム計画のために地域は分断され、多くの住民が古里を去らなければならなかった。
山田監督は今春、広告代理店を退職。これからのクリエーター人生を通じて社会問題を啓発していきたいという。「川原の人たちは不条理に古里を奪われようとしている。そのことを伝えるのは自分の役目です」
上映は鹿児島市のガーデンズシネマ(099・222・8746)で9~15日、熊本市中央区のDenkikan(096・352・2121)で23日~29日。
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■ことば
石木ダム
洪水対策や長崎県佐世保市への水道用水供給が目的。総貯水量約548万トン。水没予定地には13世帯が住んでおり、農地や宅地など約15万平方メートルが未買収。建設差し止め訴訟で地権者側は「ダムは治水・利水面ともに必要ない」と主張している。県は土地を強制収用するため、県収用委員会に裁決申請し審理中。

 

「ほたるの川のまもりびと」 長崎・石木ダム水没予定地の住民ドキュメンタリー 来月「東田シネマ」で上映 /福岡
(毎日新聞北九州版 2018年6月8日)https://mainichi.jp/articles/20180608/ddl/k40/200/340000c

里山や人柄の良さ発信
長崎県と佐世保市が同県川棚町に計画する石木ダムで、水没予定の川原(こうばる)地区に暮らす住民を追ったドキュメンタリー映画「ほたるの川のまもりびと」(2017年)が7月27~29日、八幡東区東田の北九州市環境ミュージアムで上映される。山田英治監督(49)が北九州入りし、作品に込めた思いを語った。【長谷川容子】
山田監督は博報堂の元CMプランナー。東日本大震災を機に、企業より社会の課題解決に目が向き始め、50年近く議論になっている石木ダム事業のことを知ったという。「現地に足を運ぶと、家の中にホタルが飛び込んでくる豊かな自然環境と大家族のような社会があった。未来のヒントになる地域が失われるのは不条理だと思った」。会社員との二足のわらじで、休みのたびに現地へ足を運び、1年かけて撮影。製作費はインターネットを通じて資金を募るクラウドファンディングで集めた。
カメラは地区の13世帯の生活を淡々と映し出す。「ダム問題を糾弾する視点で描く方法もあるが、ぼくは里山の良さやそこにある暮らしのすてきさ、住民の人柄を前面に出す方が共感を得られるのではないかと思った」と山田監督。バリケード前の座り込みなど、暮らしを守るための闘いもあるが、人々の明るい表情が印象的だ。「お母さんたちは『つらいよ』と言いながらも、みな元気でエネルギッシュ。前向きに楽しくやらないと続かないと奮い立たせているんだと思う」と語る。
3月末に退職し、株式会社「社会の広告社」を設立した。「僕の発想の軸足は今も広告戦略にある。世の中が目を背けがちな社会的な課題を、より軽やかな楽しい方法で誰もが語れるよう問題提起していきたい」と話す。
上映は、館内のドームシアターを利用する「東田シネマ」の月例会で、各日(1)午前10時半(2)午後1時(3)同3時半(4)同6時--の4回。連携する北九州市立大の「北方シネマ」でも8月10日午後6時半に上映する。
〔北九州版〕

洪水リスク 世紀末4倍 温暖化で雨量増 対策急ぐ 国交省試算

2018年6月7日
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堤防やダムが現在のままなら、温暖化で河川洪水確率が4倍になって「甚大な被害の恐れ」があるので、河川整備計画の見直しが必要だという記事を掲載します。
国土交通省は「気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会」を設けて、今年4,5月に会議を開いています(一般には非公開)。http://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/chisui_kentoukai/index.html

この検討会の資料を使った記事のようですが、検討会の資料には十勝川についての計算結果は出ていますが、記事にある荒川や利根川の計算結果はでていません。
国土交通省の担当(河川計画調整室)に聞いたところ、荒川や利根川の計算結果の出どころは分からないという話でした???
荒川や利根川も国土交通省が計算したはずなのに、それがないというのは不可解です。
温暖化を理由にしてダムをもっとつくれという話になることを警戒します。

 

洪水リスク 世紀末4倍 温暖化で雨量増 対策急ぐ 国交省試算
(読売新聞夕刊 2018年06月01日)http://www.yomiuri.co.jp/eco/20180601-OYT1T50049.html

地球温暖化で降雨量が増えることにより、1級河川で洪水が起きる確率がどの程度上がるのかを国土交通省が試算したところ、今世紀末には平均で4倍になるとの結果が出た。
堤防やダムが現在のままなら甚大な被害が出る恐れがあるとして、同省は全国の河川整備計画を見直す検討を始めた。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の推定では、温室効果ガスがこのまま排出され続けると、今世紀末には地球全体の平均気温が産業革命前より4度上昇するとされる。この場合、洪水が起きる可能性も高まるとみて、国交省は、国が管理する全国109水系の1級河川について、初めて試算を行った。
試算によると、気温が4度上昇すれば、降雨量が1・3倍、河川の流量は1・4倍になり、大洪水が起きる確率は平均で現在の4倍に跳ね上がる。東京、埼玉を流れる荒川の場合、流域全体で72時間降雨量が516㍉になると「200年にI度」の大洪水が起きると想定して現在、対策を進めている。対策を強化しなければ今世紀末には、同レペルの洪水が「50年に1度」発生することになる。
試算を受け、国交省は4月、土木災害の専門家などによる有識者会議を設置し、河川整備計画の見直しについて検討を始めた。
現状の計画で対策を進めると、降雨量の増加に合わせて追加対策が必要になる。早急に試算を踏まえた計画に見直すことで、堤防整備やダムのかさ上げ、川底の掘削にかかるコストの削減が期待できるという。
また、「浸水想定区域」が拡大する可能性もあり、自治体は避難場所などをまとめた「洪水ハザードマップ」の見直しを迫られることも考えられる。国交省の担当者は「今後の検討課題になる」としている。
海外では、地球温暖化による降雨量の増加を見裾え、河川整備計画の変更に着手している国もある。ドイツ南西部を流れるエシツ川では、大雨時の河川の水位が将来的には現在よりO・3㍍上昇するとの想定で、堤防の高さを1・2㍍かさ上げする工事を進めている。イギリスでも、河川周辺に病院や介護施設などを整備する場合、気候変動を踏まえた「水害リスク」を考慮することを求めている。
有識者会議の座長を務める小池俊雄東大名誉教授(河川工学)は「昨年の九州北部豪雨災害など、洪水災害は激甚化してきており、温暖化が影響している可能性が高い。今後はさらに、日本の至る所で洪水が起きる恐れが高まるため、ヨーロッパのように河川整備計画を見直す時期に来ている」と指摘する。

河川整備計画 洪水が起きないようにするため、河川ごとに流量などの安全目標を定め、ダムや堤防を整備する事業計画。国や都道府県など河川管理者が策定する。現在は国が管理する109水系のうち、荒川や淀川など105水系で策定されている。

「海外社会資本事業への我が国事業者の参入の促進に関する法律」が成立 (独)水資源機構も海外へ進出

2018年6月7日
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独立行政法人が日本企業の海外展開を支援できるようにする「インフラ輸出」促進法が本通常国会で可決され、成立しました。
法律の名称は「海外社会資本事業への我が国事業者の参入の促進に関する法律」です。
法案の内容は、http://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g19605032.htm をご覧ください。
これで、独立行政法人・水資源機構も海外で日本のゼネコンによるダム事業を支援することになります。

独法を企業利益に動員 「インフラ輸出」促進法 山添氏が批判

(写真)質問する山添拓議員=5月24日、参院国交委
(しんぶん赤旗2018年6月5日)https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-06-05/2018060508_08_1.html
独立行政法人(独法)が日本企業の海外展開を支援できるようにする「インフラ輸出」促進法が5月25日の参院本会議で、日本共産党以外の各党の賛成で可決・成立しました。
同法は、日本企業による鉄道や水道などの国土交通分野のインフラ輸出を推進するため、独立行政法人に海外業務を追加するもの。政府は、民間企業だけでは困難なインフラ輸出を、専門技術やノウハウをもつ独法の支援で促進するとしています。
同月24日の参院国交委員会で、質疑と反対討論に立った日本共産党の山添拓議員は、公的機関である独法を特定企業の利益獲得に動員するのは、本来の独法の目的に反すると指摘。安倍晋三首相の肝いりで、日本政府が受注に向け8億円の調査費を投じている米国へのリニア高速鉄道の輸出を例に、「受注で利益を得るのはJR東海で、できなければ調査費は国民の負担になる。企業の利益のために国民にリスクを押し付けるものだ」と批判しました。
さらに、「独法は国内のインフラ整備を担ってきた国民の財産であり、道路や上下水道管など国内施設の老朽化対策こそ優先すべきだ」と主張。同法には国内では義務付けられている環境影響評価や住民参加の規定がなく「環境や人権、民主主義への配慮を欠いている」とも指摘しました。

横浜市も悩む「水道の老朽化問題」の行方は?

2018年6月7日
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横浜市では、水道管の更新がなかなか進まず、現在の進捗速度であると、全域の更新に80~90年かかるという論考記事を掲載します。
横浜市水道の経営が厳しいのは、2000年に完成した宮ケ瀬ダムとその関連水道施設の巨額負担があるからだと推測されます。
この問題については「横浜市 水道料金値上げを検討 原因は宮ヶ瀬ダム」https://yamba-net.org/41185/ をお読みください。

他の都市も同様だと思います。必要性がなくなったダム事業に参画している余裕はありません。「水道の老朽化問題」に真剣に取り組むべきです。

なお、下記の記事の終わりの方で、東京大学大学院工学系研究科の滝沢智教授が登場します。
滝沢氏は石木ダム予定地を強制収用するための事業認定で、佐世保市水道の架空水需要予測にお墨付きを与える意見書を出しました。
昨年12月、この事業認定取消訴訟の裁判で証人として出廷することが求められましたが、滝沢氏は出廷を拒否しました。

 

横浜市も悩む「水道の老朽化問題」の行方は?
水道インフラ民営化、熱い理想と冷たい現実
(東洋経済2018年06月04日)https://toyokeizai.net/articles/-/223419

(写真)横浜市では過去に埋設した水道管が次々に耐用期限を迎えるているが、更新工事が追いついていない(記者撮影)

一井 純 : 東洋経済 記者
5月中旬、横浜市の閑静な住宅街で、古い水道管の更新工事が行われていた。細い路地に重機が入り、アスファルトを剥がして地面を1メートルほど掘り返している。
現場監督は「1年の工期中に約1.4キロメートルの水道管を取り替えていく」と話す。
水道管の更新に80~90年?
水道管の法定耐用年数は40年。老朽化する水道管を放置すれば、漏水や断水、赤さびなどの原因となる。高度経済成長時代に水道が普及した横浜市では、水道管の総延長約9200キロメートルに対し、更新時期を迎えた水道管が約2400キロメートルに達している。
だが、水道管の更新はなかなか進まない。水道局の予算約850億円に対し、水道管の取り替え費用は約200億円に達するが、それでも更新できるのは「市内全体で年間110キロメートル」(横浜市水道局の木村正紀氏)にすぎない。単純計算で、全域の更新には80~90年かかる計算だ。
こうした状況を受けて、5月に横浜市が開催した「水道料金等在り方審議会」では、委員か事業の将来性を危ぶむ声が上がった。「今後、経営危機は加速度的に増していく」(委員)状況をふまえ、料金体系の抜本的な改定などが議論されたものの、活路は見いだせていない。
横浜市は維持更新費負担のため、この30年で2度の料金値上げに踏み切ったが、節水機器の普及などで料金収入の減少に歯止めがかからない。水道料金(約20立方メートルで2750円)の半分以上が維持更新費や設備投資の借入金の返済に消えているのが現状だ。
水道インフラの老朽化にあえぐのは横浜市だけではない。日本水道協会によれば、耐用年数を超えた水道管の割合は2015年に13.6%と、10年間で倍以上に増加した。他方で、全国の料金収入の合計は2015年時点で約2.6兆円と、10年間で2000億円以上も減少した。料金収入だけでは水の供給原価を賄えない自治体も多く、一般会計からの繰り入れで赤字を補塡している。

そこで、上水道を所管する厚生労働省が打ち出しているのが、水道事業の運営権を民間に売却する「コンセッション方式」の導入だ。
水道事業は公共性が高いため、これまで自治体が経営の中心となり、民間企業はポンプ場の運営や検針、料金徴収といった一部の業務を受託するにとどまっていた。
一方、コンセッションでは民間企業が水道事業の企画から実施まで一貫して行う。民間のノウハウを使い、運営を効率化する狙いがある。
水道料金は地域ごとの差が大きい
実は、水道料金は地域によって10倍近い差がある。豊かな水源や水利権を抱えていたり、効率的な送配水ができる自治体は安価に水を提供できる一方、維持・更新費がかさんだり、 水利権を持たず広域企業団(複数の自治体が設立した公営企業)から水を購入している自治体は、料金が高くなる。

(注)口径13ミリメートル、10立方メートルあたりの水道料金 (出所)総務省「2016年度地方公営企業年鑑」より東洋経済作成
上水道は手続きが煩雑で、これまでにコンセッションの導入実績がない。厚労省は昨年、今年と手続きを緩和する水道法改正案を国会に提出。コンセッション導入の道を開こうとしている。
コンセッションはすでに仙台空港や愛知県の有料道路といった一部の公共施設で採用されている。前者は東京急行電鉄、後者は前田建設工業が中心となって運営。いずれも利用者数は堅調に推移し、公営時代よりも収益を上げている。
民間企業も水道事業のコンセッションに熱い視線を送る。水道インフラ最大手の水ing(スイング)は、2012年に広島県企業局との共同出資で「水みらい広島」を設立。県と民間の合弁会社として県内3地域で水道の供給を請け負い、収支は4年連続で黒字を達成した。
「自治体は設備の老朽化度合いやスペックにかかわらず、規定どおりの調達をするためコストがかかる。民間なら予算や調達で柔軟な対応ができる」(水ingの倉持秀夫・総合水事業本部長)。今後はコンセッションも視野に入れるという。
今年4月に浜松市の下水処理施設の運営を仏水道会社の大手ヴェオリアらと受託した中堅ゼネコンの東急建設も「土木工事で培った技術を水道の維持・更新に生かしたい」とコンセッションへの関心を示す。
コンセッション参入を計画しているある事業者はこう打ち明ける。「日本の漏水率(浄水場から給水管までの間で漏れた水の比率)は5%と世界屈指の低さで多額の維持費がかかっている。漏水率が10〜20%になっても、結果的に維持費が浮くなら事業として十分に成り立つはず」。民間運営ならば、水道料金の値上げもしやすくなる。


財政難の自治体から水道運営を切り離し、民間の創意工夫で現状の水道インフラを維持する──。関係者はバラ色のシナリオを描くが、現実は甘くない。
コンセッションによって空港や道路の運営が収益を上げられるのは、サービス向上により利用客数や客単価が増加したため。人口減少や節水の普及で料金収入が減る水道では品質を上げても収益が増える見込みは立たない。
水道事業に詳しい東京大学大学院工学系研究科の滝沢智教授は「水道事業は、サービスに見合った対価を支払える利用者のみを対象にできる空港や有料道路とは異なる」と指摘する。
海外では多くの地域で水道事業の民間開放が行われたものの、収支計画が狂い頓挫した例も少なくない。
たとえば、米アトランタ市では1999年に民間企業が水道事業の運営を開始したものの、施設の老朽化が想定以上に激しく維持費がかさんだ。初年度にいきなり赤字を計上し、人員削減と水質悪化という悪循環に陥り、2003年に水道事業は再び公営へと戻された経緯がある。
ある水道事業者は「コンセッションを導入しても、料金収入だけではとても維持費を負担できない。水道管の更新は引き続き自治体が行うなら、収支が成り立つ」と話す。
魔法の杖は存在しない
民営化に対する住民側の合意形成もハードルになる。水道法改正を見込んで、2016年に奈良市が、2017年に大阪市がそれぞれ上水道へのコンセッションの導入を提案。だが、議会側は料金値上げや水質低下を警戒し、奈良は反対多数で否決、大阪は廃案となった。
とはいえ、公営のままでも将来的に料金値上げやサービスの低下は避けられない。日本政策投資銀行は、水道事業の継続には2046年度までに約6割の自治体で値上げが必要で、その金額は全国平均で2014年度の1.6倍にも上ると試算している。

滝沢教授は「コンセッションという言葉に踊らされている。官か民かではなく、どこまでコストを許容するかの議論が必要だ」と警鐘を鳴らす。
民営になれば状況が好転するというのは、いささか楽観的に過ぎるだろう。民間の“創意工夫”は決して魔法の杖ではない。日本全国を網羅する安心・安全でおいしい水をどう守っていくか。いま一度考え直す時期に来ている。
当記事は「週刊東洋経済」6月9日号 <6月4日発売>の転載記事に一部加筆したものです…

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