国会議員連盟「公共事業チェックとグリーンインフラを進める会」,九州2ダム事業視察
1:概要
2024年3月23日から25日にわたって、国会議員連盟「公共事業チェックとグリーンインフラを進める会」が、下記日程で石木ダム事業地・川辺川ダム影響予定区域を視察しました。「不要」「人権侵害」「自然破壊」と批判する市民が多いこれら2ダム問題の本質を認識することを目的としていました。この視察には市民枠が設けられ、水源連から5名、水郷水都から1名が全行程同行しました。市民枠で同行した水源連の遠藤保男が、報告いたします。報告が遅れに遅れたことをお詫びいたします。
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- 嘉田 由紀子 参議院議員(全行程)
- 山田 勝彦衆院議員(3/23石木のみ)
- 野田 国義 参議院議員(3/23石木のみ)
- 山崎 誠 衆議院議員(3/24~3/25)
- 今本 博健(京都大学名誉教授、河川工学)(全行程)
- 細谷 和海(近畿大学名誉教授、魚類学・保全生物学)(全行程)
- 宮本 博司(元国交省職員、3/23石木のみ)
- その他、水源開発問題全国連絡会メンバー5名、水郷水都1名(全行程)
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行程:
- 3/23 午前 長崎空港から石木ダム予定地訪問午後 集会「清流をまもる 未来をまもる~石木ダム 本当に必要?~」(川棚町公会堂)
夕刻 こうばる公民会で、こうばる居住13世帯皆さん・支援者・視察団で懇親会
- 3/24 午前 八代・人吉経由で五木村へ移動
午後 五木村水没予定地~奇跡の吊り橋~ダム予定地~相良村柳瀬~球磨川合流点~人吉市山田川
19:30 くま川ハウスで市民グループと勉強会
- 3/25 人吉市街地被災地~球磨村渡(千寿園跡)~球磨村神瀬(嵩上げ)~瀬戸石ダムと豪雨災害~荒瀬ダム撤去跡~道の駅坂本~坂本町「みちのけ」で昼食・勉強会
14時 国土交通省八代河川国道事務所訪問(事前送付した別紙質問項目について質疑)
15時半 終了解散
2:3月23日の川棚町公会堂での講演会
「清流をまもる 未来をまもる」集会
- 参照HP 「石木川まもり隊」の下記ページに丁寧且つ分かりやすく紹介されています。是非、ご参照ください。
- 集会の目的 集会チラシ
- 概要
- 主催は「清流をまもる 未来をまもる」集会実行委員会 共催は 国会議員連盟「公共事業チェックとグリーンインフラを進める会」。
- プログラム
休憩 『川原のうた』のビデオ
清流をまもる未来をまもる こうばるのうた(09:44)
https://youtu.be/q_qKWf1Wbvk
3:3月24日の川辺川五木村下流部と人吉市内の7/4豪雨災害被災状況視察と夜の勉強会
- 企画の目的 マスコミリリース
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7/4豪雨災害被災状況視察
- 当日はかなりの降雨があり、バスの外に出たのは要所に限りました。
3月24日10時半にJR八代駅からレンタルバスで先ずは川辺川ダム計画予定地の五木村を目指しました。車中では、2020年水禍視察に向けた資料が提供されました。
- そこから川辺川伝いに球磨川合流点から人吉市内の被災地を視察しました。夜は、球磨川ハウスでスライドを用いての勉強会、翌25日は球磨川沿いに被災地の状況を見分しつつ八代国道河川事務所で2020年7月4日水禍と川辺川ダム問題について質疑応答・意見交換を持ちました。
- 2020年球磨川流域豪雨災害現地調査資料
以下、要所要所の状況を収めた写真で説明いたします。
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川辺川ダム建設予定地点で黒木さんがノボリバタで歓迎
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2024年7月4日豪雨では川辺川の流れは、このつり橋の下を流れていた。この程度の流量では、600m下流に川辺川ダムがあっても、7月4日の水禍対策にはならなかったを示しています。
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川辺川再下流部の右岸の鮎養殖場 地下水が吹き上がっているので、養殖池はいつも新鮮
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1m近く溢れた水で御溝が見えなくなり、この指先地点で高齢者が御溝に落ちて命を落としました。
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万江川から導水された御溝用水路と御溝引き入れ口 2024年7月4日の豪雨時には水深1m近く溢れました。
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万江川中流部の小溝用水取り入れ水門。7月4日の降雨でこの水門は水没しなかったが・・・・・
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水門のすぐ下流はかなり低くなっていて、ここから万江川の水が溢れて流れ込み、人吉市内の御溝が大氾濫。多くの人が命を落とす原因の一つになった。
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霞の下が球磨川本流。人吉盆地の隣、渡で球磨川に合流する小川の合流点。小川の流れが球磨川に入りやすいように導流堤がつくられている。7月4日はこの導流堤が小川の豪流流下を妨げ、小川が大氾濫。すぐ上流に位置していた老人ホ-ム「千寿園」では14人が命を落としています。
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渡駅近くのJR肥薩線の軌道は根こそぎ移動していた。同線の復旧の目途は厳しい。
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肥薩線白石駅近くの電柱に貼られている実績浸水深3.8m その位置はこの電柱天辺近くの表示 えらいことです。
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肥薩線鎌瀬駅近くの、半分が崩壊・流失した第一橋梁。 肥薩線に架かる3つの橋梁の内、下流の2つが全半壊しました。さらに上流のくまがわ鉄道の通称第4橋梁は川辺川合流点の直下流に位置し、上流からの樹木等が橋脚間に詰まってダム化、同橋梁軌道敷より低い地域一帯がダム湖化しました。水圧に耐えかねた第4橋梁が崩壊すると、その上流に滞留していた膨大な流水が第4橋梁崩壊現場から一挙に流出、下流の人吉市内を急襲して、大規模水害となりました。
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八代河川国道事務所での川辺川ダム計画についてのヒアリング
2020年球磨川流域視察団 八代事務所話合い用資料
話合いで取り上げた論点の簡単な解説です。
公共事業チェック議連と国交省八代河川国道事務所話合い メモ
話合いに向けて事前に提出した質問(赤字)と、口頭回答+意見交換の速記録です。
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2020年7月4日の豪雨水禍の実態を調査している「清流球磨川・川辺川を未来に手渡す流域群市民の会」みなさんからスライドを使って説明を受けました。川辺川ダム計画は豪雨水禍の実態を無視した暴挙であること、気候変動に伴う雨の降り方には、ダム依存の河川法では全く対応できないことが知らされました。
4:まとめ
1975年に公定計画とされてから50年経過している石木ダムは、「その必要性は計画決定直後から喪失しています。長崎県は「地元の了解なしではダムは造らない」と覚書きを交わした上で予備調査を開始した1972年からこれまで、覚書を反故にして工事を強行し続け、土地収用法を適用して地元住民の地権をすべてはく奪しています。住民13世帯皆さんは地権をはく奪されたことに抗して、毎日ダム建設工事現場に座り込み、「石木ダム・覚書 県」https://suigenren.jp/wp-content/uploads/2024/06/83ea662d062895a7fac88be7fe866d64.pdfを遵守して工事を中断して,必要性についてゼロからの話合い」を長崎県に要請する生活を続けています。長崎県は「今後の生活に関すること以外は話し合わない」と行政代執行のスキを狙っています。このような事態の本質を知るべく勉強会がこの視察で持たれました。本年は石木ダム事業計画の再評価が行われるので、地元関係者の皆さんは、この勉強会で暴かれた真実を基本に据えて、まともな再評価を実施させるべく活動を行っています。
2008年に「球磨川は地域の宝」として「川辺川ダム建設事業計画の白紙撤回」を国に求めた熊本県知事蒲島郁夫氏は、2020年7月4日の球磨川未曽有の大規模水禍の直後に、「環境にやさしい流水型川辺川ダム建設」を国に求めました。しかし、7月4日の水禍はこれまでとは全く異なった雨の降り方に起因していることが流域住民の調査で明白にされました。川辺川ダム予定地から遠く離れた球磨川の西部側に停滞した線状降水帯からの豪雨が、球磨川の各支流から豪流となって流出したことで、7月4日の大規模水禍に至りました。2008年からこれまで、「ダムに依存しない球磨川水系の治水」を図ってきたはずでしたが、実は国と県は、川辺川ダムを大前提とした河道整備に固執するばかりで、流域の山々の状況などの整備をほったらかしにしていたのです。それを踏まえることなく、「ダム群による流量調節を基本に据えた球磨川水系河川整備基本方針」を定め、直ちに「流水型川辺川ダムを中心に据えた球磨川水系河道整備計画」を策定しました。しかも、この整備計画では「2024年7月4日の雨量は統計的に異常値」として切り捨て、「従来計画降水量の1割増しに対応」としたため、今後十分に予想される2020年7月4日型の豪雨には対応できません。それは国と県が認めています。そればかりか、そのような川辺川ダムを前提とした宅地嵩上げ、軌道整備がなされるので、2020年7月4日型の豪雨再来時にはまた同様な水禍に見舞われてしまいます。流水型と言っても、大洪水時にはダム堤上流には大規模な堆砂が生じ、放流口が河道と同じ高さにあるため、雨が降るごとに堆積物が直接流出ことになるのですから、下流への白濁水流出が長く続きます。自然に優しいどころか下流の河川を白濁流で殺してしまうことは明らかです。このような致命的な問題を抱えた球磨川水系治水対策の実態を見分できました。水禍の実態を調査された皆さんが、「ダムから球磨川を守ろう。今の河川法では、雨の降り方が大幅に変わってきていることに対応できない」と指摘していることが理解できました。
九州2ダム問題の視察で明らかになったことを政治に活かす、河川政策を見直す。私たちの課題と思います。
1:集会概要
予告
高度成長期の重厚長大な土建型の開発が限界を迎えるなか、インフラの老朽化対策は一向に進まず、辺野古新基地建設やダム建設、リニアなど不要不急の大型事業は相変わらずに続いています。政官財利権と結びつく構造は不変であり、特に最近は、人権侵害も顧みず問答無用な独裁政治で強行する姿勢が顕著になっています。
公共事業改革市民会議では、人権無視で強行する事業の暴走をストップさせ、「公共事業」を本来あるべき姿に変えていくため、院内大集会を企画しました。
ZOOM配信も致します。下のチラシ右下のQRコードを読み取ってお入りください。
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報告
集会参加者は130名(会場:80名、ZOOM50名)でした。
日本環境会議理事長の寺西俊一先生のご講演、各地の報告を行い、ご参加頂いた4名の国会議員からのメッセージなどと合わせて総括し、集会宣言という形で採択しました。
本集会では、不要不急の公共事業が今なお続き、人権侵害を顧みずに強行される事態に対して、強い警笛を鳴らしました。コモンの復権が急務であることを確認し、「公共事業チェック議員の会」再始動への強い期待を確認しました。
2:水源連関係からの2つの報告(予告と報告)
水源連関係事業は、石木ダム問題と川辺川ダム問題の2つが、各々10分間枠で報告されます。
長崎県が「地元の了解なしではダムは造らない」と覚書きを交わした上で予備調査を開始した1972年からこれまでの51年、地元住民を苦しめ続けている石木ダム。土地収用法を適用した長崎県・佐世保市によって、13世帯約50人が地権を奪われ、明渡しを拒否して生活を継続、「覚書を守れ、(石木ダムの必要性についてゼロからの)話合いに応じよ」と現地工事現場での抗議・要請行動に明け暮れています。
9/28の集会で現地から駆けつけて報告するつもりでしたが、起業者による工事強行が厳しさを増し、現場を離れることが出来ない状況になっているため、現地からのZOOM参加となります。
皆様には現地報告から、この厳しい状況を実感され、起業者側への抗議・要請をなされるよう、期待いたします。
要請先:皆様への呼びかけ・お願い
石木ダム問題については、下記pdf版とホームページをご覧ください。
「2020年の球磨川流域豪雨災害から河川法の根本的問題を問う」より
川辺川ダムがあれば : 作り話でしか正当化できない川辺川ダム建設
マスコミは豪雨災害発生の翌日から「川辺川ダムがあれば」の大宣伝を始めた。そして国と県は検証と称して、川辺川ダム建設に必要な事象づくりに取り組んだ。これが治水の専門家集団のやることかと思うような作り話をヘドロだらけで復旧に取り組んでいる住民に向けて繰り返し垂れ流した。その典型が「川辺川ダムがあれば人吉市街地の氾濫は6 割カット出来た」とか、「流水型ダムで命も清流も守れる」とか、「川辺川ダムで本流の水位をさげれば支流の氾濫は防ぐことが出来た」という作り話である。
9月28日の集会では、2020年7月球磨川大氾濫を「待ってました!」とばかりに「川辺川ダム必要」を連呼し続けている熊本県と国土交通省のゴマカシを徹底的に暴き、現在のダム治水では気候変動に伴う線状降水帯停滞に伴う集中豪雨には対応できない、と警鐘を鳴らします。
川辺川ダム問題については、下記pdf版とホームページをご覧ください。
3:集会全容(報告)
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配布資料
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基調講演・報告で投射した資料
(石木ダム・川辺川ダムは上に別掲)
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集会ビデオ
あまり知られていないが、石木ダム建設予定地には共有地が2ヶ所存在する。
半世紀にわたりダム建設に反対し、ふるさとを守り続けている川原住民を支えたいと思う人たちが、1つは2009年に、もう1つは2013年に住民の方の山林の一部を共同で所有することにした。
その共有地権者の中の84名が長崎県知事と佐世保市長へ要請書を提出した。
代表の遠藤保男氏が横浜から来県し、6月6日に県庁、7日に佐世保市役所を訪れ、担当者に手渡した。
その要請書はこちら。
石木ダム事業起業者への要請:長崎県へ
石木ダム事業起業者への要請:佐世保市へ
その趣旨は「覚書の遵守」、つまり「石木ダムの必要性について川原住民との話し合い」を実行するようにということ。
8日の朝日新聞の記事がこの要請の目的をしっかり伝えているので、一部抜粋させていただくと、
覚書は1972年7月、県が石木ダムの予備調査を始める前に住民側と結んだ。「建設の必要性が生じたときは、協議の上、書面による同意を受けた後着手するものとする」と明記。久保勘一知事(当時)と、住民の代表3人が署名押印した。ただ、県は3年後の75年、事業に着手。2021年9月に本体工事を始めた。
6日に県庁を訪れた共有地権者らが県に指摘したのが、この覚書の「不履行」だった。
「石木ダム建設絶対反対同盟を支援する会」の遠藤保男代表は「同意していないのに収用地での工事が強行されている」と指摘。地権者の松本美智恵さんは「県と地元の対立の原点がこの覚書の反故だ」と語った。
覚書は、住民らがダム関連工事の差し止めを求めた訴訟で論点の一つになったことがある。21年の二審・福岡高裁判決は、覚書があるにもかかわらず、地元の理解が得られていないと指摘。「今後も理解を得るよう努力することが求められる」と見解を示し、県に合意形成の必要性を説いた。
事業主体の県はどう考えているのか。県土木部の担当者は取材に対し「覚書は今も有効で、履行している」と述べ、覚書に違反する手続きはとっていないとの認識を示した。長年、説明会の開催や戸別訪問などで事業への理解と協力を得る努力を続けてきたとしている。
「覚書は今も有効で、履行している」?!
なんと不可解な回答だろう。
「覚書を履行している」のが本当なら、住民がダム建設に同意した文書が存在するはずで、それを提示して欲しい。
それが存在しないならダム建設は諦めているはず。しかし、現実は同意文書もなく、ダム建設は進めている。
どうして「履行している」などと言えるのだろう?
一方、「覚書は今も有効」とのこと。よかった!
では、これからも覚書について、私たちはしっかり県に問い続け、履行を求め続けよう。(*’▽’*)
マスコミ各社のオンライン記事はこちら。
NBC長崎放送:石木ダム建設反対の市民団体 知事との話し合いを要請
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/nbc/530101?display=1
KTNテレビ長崎:石木ダム建設は必要ない」市民団体が話し合いの場を要請
https://www.ktn.co.jp/news/detail.php?id=20230607008
朝日新聞:石木ダム「地元の了解なしにつくらない」半世紀前の「覚書」はいま https://digital.asahi.com/articles/ASR6774P6R67TOLB00C.html?iref=pc_photo_gallery_bottom
毎日新聞:「知事と話し合う場を」石木ダム反対、市民団体が要請書 https://mainichi.jp/articles/20230607/ddl/k42/040/379000c
オマケの写真と呟き。
ここは水道局庁舎内。要請のための会場確保を待っているところ。
1週間前に代表本人から要請書を提出に行くので会場を確保しておいて欲しいと電話で依頼していたにもかかわらず、会議室はみな埋まっていて確保できなかったとのことで、その会議が終わるまで約1時間も待たされた。
遠来の代表はじめ参加者の多くが70代前後の高齢者ばかり。宮島市長は就任会見で、「対話を重視した市政をつくりたい」と語っていたはずだが???
投稿者
前川光司 北海道大学名誉教授・元天塩川流域委員
出羽 寛 旭川大学名誉教授・元天塩川流域委員
本文
北海道天塩川水系の支流サンル川のサンルダム建設計画は、天塩川流域委員会で治水対策と自然環境保全対策を巡る20回(2003年〜2006年)にわたる議論をが続けられた。
私たちは天塩川流域委員会に参加、ダムによらない治水対策の可能性とサクラマスやカワシンジュガイ等のサンル川の自然の保全について主張し続けた。
しかし、流域委員会は2006年12月に治水対策に基本的問題を残したまま流域委員会の多数意見としてダム建設を容認、2013年に本体基礎工事が始まり、2018年にサンルダムは完成、試験湛水を経て、2019年から本格運用が始まった。
流域委員会終了後の2007年に北海道開発局旭川建設部は「天塩川魚類生息環境に関する専門家会議(以下専門家会議)」を設置し現在まで続いている。この委員会は、天塩川のサクラマス、カワシンジュガイ等水生生物の保全対策およびサンルダムに設置された高さ40m、長さ400mの階段式魚道と7kmのバイパス水路がサクラマスの遡上、スモルト(サクラマス幼魚)の降下に十分に機能するかどうかについて継続して調査、検討が現在までが行われてきた。
私たちはダムの本格運用が始まった2009年以来、旭川開発建設部と専門家会議に対して、サクラマス、カワシンジュガイ資源の保全と魚道の機能について質問状の提出と回答のやりとりを行ってきた。
以下の文章はこの間の経過について、北海道新聞夕刊文化欄に3回に分けて(2022年12月10日、12月17日、12月24日)に寄稿した「サンルダムとサ クラマス」の原稿です。新聞記事とは一部違い、写真も多く使っています。
出羽 寛 記
「サンルダムとサクラマス」
(上)建設の経過
近年、洪水氾濫が多発し、市民生活に大きな被害をもたらしている。その対策として造られた大型ダムは洪水氾濫に一定の効果を持っているが、川の生き物、特に川と海を行き来する魚類に大きなダメージを与える。こうしたことからダムを見直そうという動きも進んでいる。
例えば米国では、市民や研究者の意見を取り入れて、2006年から2014年まで、年ごとに数を増やしながら1000を超えるダムが撤去された(A・クィーン著「太平洋サケ・マスの生態と行動(二版)」2018年)。一方、日本ではダム建設が白紙撤回されていた熊本県・球磨川支流の川辺川で、再びダム建設(穴あき)の方向で見直すという。2020年の大きな水害があったことを踏まえての見直しであるにしても、専門家や住民の意見を取り入れた慎重な議論が必要ではないか。
北海道でも、再論議が必要だと私たちが考えるダムの一つが、上川管内下川町の山峡に位置するサンルダムである。
天塩川水系の中でも際立って自然が豊かなサンル川に建設されたこの多目的ダムは、完成して5年がたち、元の自然は様変わりした(写真)。水の中の枯死した河畔林は異様な姿になった。さらに回遊魚サクラマスの、サンルダム上流への遡上数が減っているようなのだ。私たちがもっとも危惧していたことだ。
サンルダムは1987年に計画され(天塩川水系工事実施基本計画)、88年に建設を前提とした調査に入った。生物の保全や生態学を専門とする私たち二人は、97年施行の改正河川法で設置が義務化された開発局の天塩川流域委員会(2003~06年)に参加した。この法律は洪水や利水対策のほか、旧河川法にはなかった生物と環境の保全や流域委員会などの住民参加が盛り込まれていた。何より洪水・利水対策と環境保全が「対等」に位置付けられたことで、一歩進んだ側面を持っていた、と思う。全国的にみれば、同じころ粘り強い議論の末に住民や専門家の意見が大幅に取り入れられた例も見られていた。
私たちは、主に二つの理由でサンル川でのダム建設は慎重であるべきだと問い続けた。①自然が残されているサンル川の場合、ダムではなく、堤防の整備や河道掘削等の河川改修と遊水池によって治水を考えるべきではないか、②サンル川にすむサクラマスやアメマスと、彼らに寄生する絶滅危惧種カワシンジュガイ類を守るのに、魚道で十分なのか。この2点であった。
サンル川の豊かな自然が守られてきたのは、天塩川の他の支流とは異なり、ダムをはじめとする河川工作物がほとんどないからだ。さらに、魚道に疑問を呈したのは、北海道で、大型ダムに作られた回遊魚遡上のための魚道が、どれも有効に働いていないことが分かっていたからであった。魚道は、場合によっては万全ではないのだ。
委員会では4年間にわたって計20回、粘り強い議論が行われた。それでも不十分だと私たちは主張し続けた。しかし、治水対策に基本的な問題を残したまま(注1)06年12月に流域委員会の多数意見として、条件をつけてダム建設を容認するに至った。その条件とは、魚道が本当に有効なのか、その目途が立つまではサクラマス親魚とスモルトがそれぞれ遡上と降下ができる流路(河道)を維持することであった。 その後、公共事業の見直しを目玉政策に掲げた民主党政権下でサンルダムも見直し対象になるなど紆余曲折を経て、13年にダム建設工事が始まった。
注1: 治水対策については、開発局の資料からダム建設以外の河川改修によって、天塩川流域の氾濫面積は昭和から平成になって大きく減少していた。このことをベースに、筆者の一人出羽は、堤防整備や河道掘削、遊水池によって流域委員会の治水対策の目的である洪水時の目標流量を安全に流す具体的な方策を提案した。今後も検証が必要。
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写真1 サンルダム 堤高46m、堤長350m、総貯水容量57,200,000㎡、洪水調節容量35,000,000㎡
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写真2 河畔林が水没、枯死、無惨な光景になった湛水域
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写真3 高さ約30m、126段のヘアピン状の階段式魚道
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写真4 バイパス水路(7kmの魚道)左側は湛水域、右は管理用道路
開発局はサクラマス、スモルトがム湖を通らず全て魚道で遡上、降下する計画をたてたがダム湖への迷入が生じている。
(中)魚道の有効性
開発局は流域委員会設置前から、サンル川上流部を含む天塩川上流部のサクラマス産卵床数(回帰数・遡上数が推定できる)とカワシンジュガイ類の分布調査を行っていた(注1)。委員会終了後も「天塩川魚類生息環境保全に関する専門家会議」を立ち上げ、調査を継続するとともに、ダム建設後は魚道を通過するサクラマスなどを、ビデオカメラを使って数えるなど、その有効性調査を進めている(注2)。
この調査では、サクラマスが魚道を利用して上流に移動し、産卵していることが確認された。このことから魚道が「機能」しているとして18年、ダム本体の試験湛水が始まった。
この間、私たちは直接的あるいは間接的に魚道が十分機能を発揮機能するまでは、遡上、降下のための流路を開けておくべきだと言ってきた。サンル川の自然の保全と治水の両方を目指すダム建設で、魚道が機能しないうちに流路を閉じてダムを「完成」させれば、サンル川の自然にダメージを与える可能性があると考えたからだ。しかし、サクラマスが魚道を利用して上流に移動し、産卵していることが確認されたことから、開発局は、魚道が「機能」し「有効」であるとして、18年、ダム本体を完成させ湛水が始まった。
前川は1976年、サンル川の魚類相調査をしたことがある。下川町史編纂の資料つくりとして、上川管内下川町からの依頼であった。今思えば、ダム建設計画が関係していたのかもしれない。それはともかく、再びサンル川に入ったのは、約20年後。名寄市史資料を得るためであった。幸運にもサンル川は76年当時と変わらす、ヤマメ(サクラマスの子)が際立って多い川であった。
ほぼ手つかずのこの川で、絶滅危惧種カワシンジュガイが多いのも、サクラマスが多いことの反映だった。だから、サンル川の生態系や生物多様性はサクラマスを核として成り立っていると考えられる(注1)。こうして、サクラマス(アメマスも)資源を建設前の状態近くに保全することが、サクラマスそのものとサンル川流域の生物多様性の維持に必要だと、私たちは主張したのであった。
ダム建設を進める前提として、サクラマスやアメマスなどの魚類資源を守るために造った魚道が有効かどうかを評価することが不可欠であったことは前回述べたとおりだ。この魚道は今までに見たこともないほど巨大なのだ。ダム堤体を避け、落差約30mの急斜面をヘアピン状に造られた階段式魚道が走り、その上流に続く人工(バイパス)水路が7キロメートル先でサンル川上流につながっているのだ。バイパス水路との合流点にはスモルト(降海期の未成魚)をバイパス水路へ誘導し、ダム湖への迷入を防ぐ分水施設もある。
この魚道による開発局の調査によって、サクラマスは階段式魚道とバイパス水路を超えて産卵場所のある上流にまで達し、産卵したこと、さらにバイパス水路を使ってスモルトも降下したことが確かめられた。開発局はこれをもって、魚道が「機能」していると判断したと推察される。しかし、ダム直下まで上がってきたサクラマスが魚道を溯上できた割合、上流のスモルトがダムを降下できた割合を、調査・分析しなければ魚道が有効に機能したとは判断できないのではないか。
注1: サクラマス(ヤマメ)=写真=およびアメマスは、ともに遡河回遊魚。サクラマス(環境省準絶滅危惧種)は日本列島および極東地方に分布する。降海期の稚魚をスモルト(銀毛)と呼ぶ。海で1年過ごしたのち、春に川へ遡上する。生まれた川への回帰率は高いとされる(母川回帰)。オスのうち、成長の良い個体は降海せず、河川に残留し成熟する(ヤマメ)。サンル川に多数生息する環境省絶滅危惧種カワシンジュガイ2種(カワシンジュガイとコガタカワシンジュガイ)は、それぞれサクラマスとアメマスに寄生する。この魚が減少すれば、カワシンジュガイ類も減少する。
注2: 専門家会議の他にモニタリング委員会を置いて、ダムによる自然環境の変化などを調査(モニタリング=環境への影響調査全般、動植物への影響などの分析)をおこなっている。モニタリング部会の任期は5年、主に陸上生物が対象になっている。
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写真5 サクラマス親魚(左オス、右メス) 撮影 山田直佳さん
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写真5 幼魚(ヤマメ) 撮影 山田直佳さん
(下)今後の方向
私たちは、ダム建設開始前後から、サンル川の魚道の機能とその有効性とはサクラマスの上流域への遡上数をダム建設以前の数を維持することであると言い続けた。このことが、サンル川の豊かな自然を守るために第一義的に必要なことと考えるからだ。もし魚道(階段式魚道とバイパス水路)によるサクラマス親魚遡上に障害が起きれば、上流部の産卵数が加速度的に減少し、結果としてヤマメ、カワシンジュガイ類や他生物の生息に影響を与えてしまう。実際、サンル川の調査から、上流へのサクラマス遡上数が増えれば翌年には稚魚の数も増えるし、その逆も起こることが分かっている(「2021年度天塩川魚類生息環境に関する専門家会議年次報告」より)。さらにスモルトの降下障害が起きれば、翌年戻ってくる親魚の回帰数にも影響するかもしれない。けれども、受け取った8度の回答に、天塩川本流の他の魚道のない支流の改善策についての説明はあるが(注1)、サンル川の魚道の機能の有効性を判断するのに必要な、サクラマス遡上の成功や失敗の割合に対する言及はない。またスモルトが湛水湖へ迷入することもわかっているものの、バイパスを通過するスモルトの降下成功率など、具体的な調査・解析はない。
とりわけ気になるのは、2018年のダム建設直後、サンル川産卵床数は一度大きく増加した後、3年続けて減少し、直近の2021年には2007年以降の記録上、最少近くまで減少していることだ(グラフ)。ダムと魚道の影響(遡上と降下障害)が心配されるけれど、減少した原因を特定することは、今のところできない。
サンルダム魚道に遡上障害を示す間接的証拠がある。ダム提体直下の支流である一の沢川の産卵床数の割合が、ダムがなかった時と比べて増えていることである(表)。例えばピリカダム(後尻別川 桧山管内)で、サクラマスが階段式魚道とバイパス水路を上らず、その直下で産卵するサクラマスが多く見られたように、サンル川でも帰ってきたサクラマスが、魚道を上れないか、魚道の入り口を見つけられず、「仕方なく」一の沢川と提体下流で産卵した個体が増えたと考えるのが、今のところ最も合理的なようである。
魚道の遡上障害が強く疑われるにもかかわらす、詳しい調査・分析はなく、魚道は「機能」しており「有効}であるとされた。魚道の機能に不備があれば「順応的管理」のもとに対応するという。順応的管理とは、目標を設定し、計画がその目標を達成しているかをモニタリングにより検証しながら、その結果に合わせて、合意形成に基づいて柔軟に対応して行く手段である。
問題なのは、魚道に対して明確な目標がないことだ(注2)。目標がなければ有効性の科学的な検証や手法の改善など順応的な対応ができないだろう。せっかくの長期調査が台無しになってしまうし、ダムの遡上障害に対する検証がないのも、この目標がないことが原因の一つになっていると思う。サンルダム魚道は、その規模・予算を含めてたいへん意欲的ではあるけれども、まだ実験の途上であり、結論を導くのは早すぎると私たちは考える。
サンル川のサクラマス資源と生物多様性を保全するにはどうすればよいか。繰り返しになるが、サクラマス(ヤマメ)、カワシンジュガイの生息状況をダム建設以前の状態に維持することを目標に調査を継続し、科学的に分析しながら、その目標に向けて努力することが必要ではないか。「サンルダム完成」とはこの目標が達成したと考えられる時であろう。
今後、サンルダムの見直しが必要な場合や、自然豊かな北海道の川の、治水のあり方や方向について検討する際、魚道を含むサンルダム建設の経緯や問題点が役立つような事後評価が行われることを期待したい。そのためにもより広く研究者や地元住民の意見や希望を取り入れながら、このダムと魚道が検証されることが望まれる。私たち二人も、しばらくは注視したいと思う。
注1: 開発局はサンル川以外の天塩川の支流に造られた治山ダムに魚道の設置を進めており、設置後サクラマスの天塩川上流へのサクラマス遡上数は増加しつつある。今後の維持・管理が期待される。
注2: 開発局はダム(魚道)の環境への影響を「最小限」にすると言ってきた(平成20年度年次報告中間とりまとめ)。しかし、どこまでを最小とするかが不明であり、「最小」の影響で自然がどの程度守られるのかもわかっていない。
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グラフ サンル川の産卵床数の経年変化
2017年は9月の増水などにより過少に評価されている。ダム完成の18年に多かった理由の一つは日本海側サクラマス資源が増えてことが挙げられる(長谷川ら、水産学会誌、22年度)。その後3年間続けて減少しているが、「年次報告書」によるとサンル川以外の支流では増加傾向にあることから、減少要因としてダムや魚道による直接的、間接的影響が疑われる。
表 サンルダム上流・下流と一の沢川の産卵床数の割合
ダム設置後、一の沢川の産卵床数の割合が増加しており、魚道を上がれない、見つけられないといった俎上阻害が考えられる。